魔法少女リリカルなのはA's++

[188]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/02/02(金) 00:38:59 ID:wt9U2MMf
[189]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/02/02(金) 00:39:46 ID:wt9U2MMf
[190]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/02/02(金) 00:40:40 ID:wt9U2MMf
[191]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/02/02(金) 00:41:28 ID:wt9U2MMf
[192]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/02/02(金) 00:42:18 ID:wt9U2MMf
[193]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/02/02(金) 00:43:05 ID:wt9U2MMf
[194]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/02/02(金) 00:43:48 ID:wt9U2MMf
[195]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/02/02(金) 00:44:55 ID:wt9U2MMf

クロノは艦長室で一人データを眺めていた。ミッドチルダで数年前から頻発している強盗事件。
その逃げ足の速さから強盗集団の特定すら出来ていないため、彼らはUnidentified Criminal(未確認の犯罪者達)に分類されている。
しかし手口にはある程度の類似性があり、その犯罪組織が初めて起こしたと思われる事件は7年前までさかのぼる。
そこらの所得者には買えない様なかなり高価なマシンを裏ルートで購入し改造まで加えているようで、
その組織の資本は余程潤沢といえる。その割に尻尾を見せないところから組織自体はかなり小規模と予想された。
テーブルの上のコーヒーを口に入れる。最近無糖じゃなければ飲めなくなったのは大人になったということだろうか。
(それにしても…スクライア一族を利用した理由はなんだ?)
クロノは椅子に深く腰掛け腕を組んだ。ハッキング前に起こった事件。
回収した高速艇のデータが先ほど送られてきたが、最新機種に間違いない。
アースラにすら配備が予定されていないものだ。
スクライア一族の適応能力はミッドチルダでは定評があるのでマシン操作などお手の物だろうが、
それでも不慣れな人間に与えるには高価すぎる代物だ。
(そうなると、やはりユーノか…)
ユーノが作り出したハッキングプログラムのデータを見る。
艦内の各コンピュータの共有データベースを利用して人工知能まで昇華させるそのプログラムは確かに脅威だったが、
爪がだいぶ甘かった。初めに使用したコンピュータの利用状況は丸々残っていたし、最初にシステムにログインするための権限は
ユーノのものが使われていた。数日あればその穴を隠すこともできただろうに、ユーノはそれをしなかったのだ。
計画性の中に焦りがある。そうとしか思えなかった。
ユーノと接触したなのはにもう少し詳しい戦闘内容を聞いておかなければならない。
そう思ったクロノが内線で呼び出そうとしたとき、部屋のブザーが鳴った。
姿勢を正して部屋前のカメラ映像を映し出す。
カメラにはアップででかい瞳が映っていた。
「ぶっ!!な、何をやってるんだエイミィ!」
クロノが叫ぶとカメラを覗き込んでいたエイミィが離れてニパッと笑った。
「いやー、ちょこっと入れてくんないかなー?聞きたいことがあるんだけど」
自分よりも2歳年上とは思えないその振る舞いにクロノは溜息を吐きながら扉を開けた。
「んじゃ、おじゃまするよー」
軽快な足取りでエイミィが部屋へと入ってきた。
真っ直ぐにクロノの隣までくるとコンピュータを覗き込む。
「なにかわかった?」
座っているクロノの目の前にエイミィの顔、そして胸が飛び込んできたのでクロノは顔を赤らめて目を背けて言った。
「と、特に何も…。というか、君の方こそ僕に聞きたいことがあって来たんじゃないのか?」
「あ、そういえばそうだったわね」
あははと笑いながらエイミィは頭を掻いた。そのエイミィの様子にクロノは首を傾げた。
「えっとさ、やっぱりユーノ君は一族を守るためにアースラをハッキングしたんだよね…」
少し目線を落としてエイミィが言った。
家族を人質にとられる状況は想像を絶する。しかし、相談されなかったことにエイミィは寂しさを覚えていた。
「それだけではなさそうだがな」
クロノはなるべく感情を出さないように言った。正確な分析による状況判断を行うためだ。
「え?どうして?」
エイミィが椅子に手をかけて尋ねたのでぐるんと椅子が回り、クロノはエイミィの正面を向いた。
クロノは指を組んで椅子に深く腰掛けながら言った。
「考えてもみろ。AMF発生装置が破壊されたのはユーノがハッキングする数分前。じゃあ、なぜユーノ達は転移で逃げなかったんだ?」
AMF発生装置はアースラ内での攻撃魔法やイレギュラーな魔法を停止させる装置。
さらにAMF発生装置に付随する機能により、艦内の魔力行使は常に監視状態にある。
よってたとえイレギュラーな魔法と判断されなくても、転移先は特定される仕組みになっていた。
それを破壊したのだから、わざわざマシンを奪ってまで逃げる必要性はない。
「あ、確かに。でも、ってことは……」
エイミィも自分の頭を働かせる。頭の回転が速いエイミィにはすでに結論は出たようだが、それでもその答えに疑問があるようだ。
無理もない、とクロノも思ったので促すように続けた。
「偶然にしては出来すぎなマシントラブル。正反対方向に逃げる機体。考えられる理由は…」
クロノが指を立てて言った。
「陽動、もしくは誘導だ」
言った後にその両方の可能性もあるがな、とクロノは付け加えた。
「陽動ってのは私も思ったけど、その後のシステムには異常はなかったし、艦内はほとんど変わりは無かったわよ?
それに誘導ってのは…」
エイミィが首を傾げたのでクロノが助け舟を出した。
「本件での最終的なユーノの目的さ。結局、あいつが今回のハッキングでしたことはなんだ?」
「えーっと、捕虜の解放、AMF発生装置と通信装置の破壊、ハッキング、あとはなのはちゃんと戦ったこと…て、え?まさか、それ?」
指折り数えていたエイミィは目を見開いてクロノを見た。
クロノは頷いて続けた。
「あえて片方のマシンのスピードを落としたことでなのはは北東のマシンへと誘導された。
ユーノはフェイトではなく、なのはと戦う必要があったんだ。エリオ・スクライアもそうかもしれない。
つまり、ユーノとなのは、エリオとフェイトの接触こそが、捕虜解放の裏に隠された目的かもしれない、ということだ」
「戦う必要って…状況が目的なんて、そんなのあり?」
少し呆れ気味に言ったエイミィにクロノは頬杖をついて言った。
「そんなの、僕が知るかよ」
ふぅっと息を吐いたが、思考はやめずにクロノは続けた。
「ユーノは馬鹿じゃない。無駄なことはしない。AMF発生装置を壊した理由も必ずあるはずだ。
理由はまだわからないが、逃走を陽動に利用し、装置破壊への注意を逸らしている疑いもあるからな」
(交換に時間がかかる、というのも何か関係しているのか?)
自分で話しながらもひっかかることを思考に留める。
そこまで言い終えたクロノはコーヒーに口をつけた。熱さはまだ引いておらず、程よい刺激を舌に与えた。
その様子をじーっと見ているエイミィの視線に気付いてクロノは目線を上げて言った。
「な…どうした?」
女性に見つめられるのは、たとえ数年来の仲のエイミィとはいえ苦手だった。クロノの顔は自然と熱くなった。
「いやー、やっぱクロノ君ってすごいなーって思って」
そう言うとエイミィは腕を組んで唸るように続けた。
「頭下げたときはユーノ君を庇う一心なのかと思っちゃったよ…」
「うっ……」
カップに口をつけたままクロノは固まった。わかりやすい性格。それがクロノが多くの人(主に女性)にからかわれる要因だった。
「え、ホントは、それだけだった?」
エイミィは口元を猫のようにしてにんまりしながら顔を近づけてきた。クロノは鬱陶しげにそっぽを向いて言った。
「…違和感はあったんだ。本局に知らせれば人員は増えて僕の手が全てに回らなくなる。
それは避けたかった。そもそも、タイムコードもログもそのままなんだ。早期解決のための対処、で十分上には通るさ」
口では説得力のありそうなことを言っても、今のエイミィには暖簾に腕押し、馬の耳に念仏。
「なーんだ、そっかそっか。ちょっと安心したよ」
エイミィが後ろを向いて手を組みながら言った。
「安心って…」
「だって、ユーノ君が裏切っちゃったこと、やっぱりショックだったんでしょ?」
エイミィの言葉に素直にクロノはあの時の状況に思いを馳せた。
はっきり言ってかなり心配した。というか今でもしている。あのフェレットもどきはとことん人に心配をかけるのが得意らしい。
ジュエルシードの時だって、一族の人間がどれほどあいつに気をかけていたことか。
フェイトのことで忙しかったにもかかわらず対応に追われたのは確実にあいつのせいだ。
帰ってきたら一週間はフェレットで過ごさせよう、とクロノが考えているとエイミィが振り返って言った。
「だ・か・ら・さ、慰めに来てあげたんじゃない…」
「エ、エイミィ…?」
そう言いながらエイミィがクロノの頬に手を添えて顔を近づけてきた。
クロノは突然のその状況に戸惑い、完全に思考が停止した。
エイミィの顔が目の前にある。心拍数が異常値だ、とぼんやりと思った。
唇が触れた瞬間肩がこわばったが、その柔らかい感触に頭がいっぱいになり力が抜けた。
たぶん数秒にも満たないだろうその時間が、クロノには数分かのように感じた。
唇を離し背筋を伸ばしたエイミィが赤い顔で言った。
「ファーストキスは、ちょっと苦かったかな?」
そう言って恥ずかしさを誤魔化すようにクロノが飲んでいたコーヒーを手に取り口をつけた。
「なんか、これ飲むたびに思い出しちゃいそう」
そう呟いたエイミィにクロノは年上とか同僚とか、そういうことを全て忘れるほどエイミィに可愛らしさと愛しさを覚えた。
男の意地もあったのかもしれない。
「思い出す必要なんてないさ」
クロノは立ち上がってエイミィの両肩を掴む。カップが勢いで倒れた。
「ク、クロノ君?」
「また…すればいい…」
そしてエイミィに顔を近づけていく。エイミィもそれに従うように目を閉じつま先で立った。
黒い液体が机に広がり、波紋とともに二人を映す。
4年の月日で身長は逆転し、クロノの方がエイミィより頭一つ分も大きい。少年は、すでに大人になっていたのだ。
顔が近づき、再び唇が重なる……
そう思われた瞬間、
「クロノ君!!!とっておきの情報や!!」
艦長室になだれ込むようにはやてが扉から入ってきた。
その勢いに対応できずにクロノとエイミィは石のように固まった。
「あ……」
はやてが入ってきたままの体勢で静止し、リィンフォースが口を手で覆ったまま真っ赤になった。
ピシピシッという亀裂音が空間に響いた気がした。ある意味、石化の魔法ミストルティンが発動していた。
「お…お邪魔やった…でしょうか」
はやては少しずつあとづさったが、勢いのままに入ってきたため入り口までが遠い。
「い、痛たたっ!め、目にゴミがぁ!!」
「大丈夫か、エイミィ!!」
思い出したかのようにエイミィが目をごしごしこすり、クロノがその介抱を始めた。
「いや、流石にそれは古いて…」
二人の大根役者を前に、はやては静かに突っ込んだのだった。

                 *

夜空には満点の星空が輝き、衛星が恒星からの光を反射し木の葉の隙間から薄い光のカーテンを生み出す。
フェイトは息を潜めながら森の獣道を歩いていた。
フクロウのような鳥の鳴き声が森の中に響き、獣の遠吠えが遠くから聞こえてきた。
目の前のユーノは黙々と獣道を進んでいく。スクライア一族は発掘を生業としているだけに、その歩き方は慣れを感じさせる。
それでもフェイトは疲れを見せずにミラージュハイドを駆使しながらユーノの尾行を続けていた。
数時間前、アースラでなのはを探していたフェイトはとある部屋の前でユーノの魔力を感じ取り、その存在を確認した。
はやてとなにやら話していたようだが、その後すぐに転移したのですかさずフェイトもそれに続いたのだった。
はやても含めアースラクルーはみなクロノの待機命令を忠実に従っている。
フェイトだってユーノは信じている。だけど、信じることと受け入れることは違う。
信じるからこそ行動すべき場合もあるのだ。ユーノを待っているであろうなのはのためにも、その真相は早く暴かなければならない。
しかし、もう尾行を続けて何時間も立つ。流石にバレたかとも思ったが、フェイトの観察ではそれは感じられなかった。
いくつかの次元を転移で転々とし、移動を続けるのは追っ手を恐れる人間の常套手段だ。
執務官としての知識としてフェイトはそれを知っていた。
しばらく歩き続けたユーノは少し大きな木の前に立つと、なんと腰を下ろして眠り始めた。
(明日まで持ち越す気!?)
あまりにその適当な野宿の仕方にフェイトは驚いた。スクライア一族とはみんなこんな感じなのだろうか。
たしかに気温は高くも低くもない。天気は快晴だ。しかし、無防備極まりない。
(もうこの際、話だけでも聞こう)
業を煮やしたフェイトは静かにユーノに近づいた。
この場にいるのは二人だけ。今なら詳しくわけを話してくれるかもしれない、と思った。
ユーノの前に立つと、ミラージュハイドで透明ではあったが、光を遮ったことでユーノに影が伸びた。
ユーノは余程疲れているのか、ぐっすりと眠っていた。
魔法を解いてユーノを起こそう。そう思い声を出そうとした瞬間、体を何かが縛る。
「なっ!?」
藍色のバインドがフェイトにぐるぐると巻きついた。
そしてストラグルバインドはその魔法効果を打ち消す。
「え!?フェイト?」
たぬき寝入りをしていたユーノが驚いたようにフェイトを見た。
「あれ?予想とは違ったね、ユーノ」
気の影からエリオが顔を出した。
「二重尾行!?そんな!」
完全に不意をつかれたフェイトはバインドブレイクをしようとしたが、そのバインドはインテリジェントデバイスにより
かなり強固に精製されたもので解くことはできなかった。
「それにしても顔を合わせなくても待ち合わせってできるもんだね」
エリオが腕を組んで頷きながら言った。ユーノがいくつかの次元を転移する中で、ある場所ですでにエリオと待ち合わせしていたのだ。
ユーノはアースラからの尾行、もちろんアースラにいるかもしれない内通者の存在を恐れていた。
全てをはやてに伝えた今、バレていれば一族とともに自分も間違いなく消される。
そう思ったユーノは途中の次元からエリオに自分の後ろを歩いてもらうようにしていた。
もちろんトラップの初歩である二重尾行にはフェイトは十分注意を払っていた。
しかしエリオには空気中の魔力の“揺らぎ”を感じ取る力があった。
かなりの距離が離れていようとフォーチューンがそれを感知する。
普通の尾行は目視するしかないが、魔法が発達したこの世界では大抵の人間が尾行に魔法を使う。
エリオはすぐにユーノを尾行する者の存在に気付きしばらくは泳がせていたが、ユーノに近づいた瞬間捕まえたのだった。
「い…いやぁ、また会ったね…」
エリオは怯えながらもフェイトに話しかけた。
フェイトはエリオの顔を見て今日の戦いを思い出しむっとした。この少年に一日に二度もしてやられたのだ。

怒りが沸々と込み上げてくる。
「ユーノ!ユーノは何をするつもりなの!?」
そしてエリオを無視してユーノに問い詰めた。
ユーノはしばらく考えていた。簡単な説明ではどれほどフェイトを納得させられるかわからないが、
今この場でユーノがアースラで全てを伝えたことを詳しく話すわけにはいかない。
エリオには今日なのはと戦った後に自分がつけられる可能性がある、とだけ伝えていてアースラに寄ったことすら教えていない。
ユーノは懐から布を取り出すとフェイトの口元を覆いながら耳元で囁いた。
「アースラに帰れば、全てわかる」
その声を聞いたのを最後に、フェイトの意識は闇の中に落ちた。
それを確認したユーノはフェイトを木の根元に横たえ、乾燥した枝を何本か集めた。
そして集めた小枝にポシェットから取り出したオイルをかけ着火した。
「妙なる響き、光となれ、癒しの円のその内に、鋼の守りを与えたまえ」
そう言って印を組むと、木の下で眠っているフェイトが薄い半球に包まれた。
結界と炎があれば獣に襲われることはないだろう。最後にユーノは自分の羽織っていた外套をフェイトにかけた。
「起きたらどう思うだろうね、ユーノのこと」
エリオはフェイトを見下ろしながら言った。仲間を裏切りながらも決して歩みを止めないユーノは、
一人で全てを背負い込みなのかもしれない。何か、分け合える部分があるのかもしれない。
しかし、たとえフェイトに嫌われようとも、ユーノは止まるわけにはいかなかった。
「さあ、わからないよ」
結界から出てフェイトをちらりと見た。
「でも、願うことなら今だけでも、良い夢を見てほしいな」
そう言うとユーノとエリオは上空へと飛び出し、星空の中へと消えて行った。

次回へ続く

次回 第十八話 「現実の続き」

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目次:魔法少女リリカルなのはA's++
著者:396

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