[28]396 ◆SIKU8mZxms <sage>2007/05/26(土) 14:54:12 ID:Yew30l6L
[29]396 ◆SIKU8mZxms <sage>2007/05/26(土) 14:54:58 ID:Yew30l6L
[30]396 ◆SIKU8mZxms <sage>2007/05/26(土) 14:56:53 ID:Yew30l6L
[31]396 ◆SIKU8mZxms <sage>2007/05/26(土) 14:57:56 ID:Yew30l6L
[32]396 ◆SIKU8mZxms <sage>2007/05/26(土) 14:58:51 ID:Yew30l6L
[33]396 ◆SIKU8mZxms <sage>2007/05/26(土) 14:59:40 ID:Yew30l6L
[34]396 ◆SIKU8mZxms <sage>2007/05/26(土) 15:02:06 ID:Yew30l6L


「大丈夫?ユーノ」
フェイトはユーノに優しい声で話しかけると、すぐさま厳しい顔つきでサイオンを見つめた。
サイオンは驚いたようにフェイトを見つめていたが、すぐに表情を戻し真っ直ぐこちらを見つめている。
もしかしたら念話で手下に指示を出しているのかもしれない。
ユーノはどうしてフェイトがここにいるのかわからず困惑しているようだ。
艦内に侵入したフェイトはその後倉庫に向かうサイオンを見つけ、周りにいた手下の一人のふいをついて拘束し成り代わっていたのだ。
クロノの当初の指示通り無茶はせずユーノの計画が実行されるのを見守るつもりだったが、
予想外にサイオンがユーノを殺そうとしたためやむを得ず前に出るはめになったのだ。
(緊急だったとは言え……これからどうする?)
フェイトは冷静に状況を見て自問した。
人質はまだ十数人もいる上、ユーノと2人では勝ち目は薄い。なによりエリオという不確定要素もある。
脱出するにも一瞬で転送の準備はできないし、人質を見殺しにもできない。クロノが来ることを信じて武装解除するか。
しかし、目の前でユーノを殺そうとした以上それは危険だ。
(最悪、ユーノと人質だけでも……)
フェイトに嫌な汗が流れバルディッシュを強く握ったとき、ふいにサイオンが口を開いた。
「さすが管理局の執務官は有能だな。それとも、司書長が無能だったか?」
口の端を上げて言うサイオンにフェイトは少しむっとしたが、安い挑発にはのらずに相手を観察した。
アースラとの通信で特徴は聞いていたが目の前にすると迫力のある男だ。
がっしりした体格に2メートル近くはあるだろう身長。黒い短髪に彫りの深い顔立ちでいかにもリーダーという風貌だ。
誰もが付き従いたくなるその印象は、カリスマという言葉が妥当だろう。
「ここにいるということは、ユーノ・スクライアから全てを聞いたか、それとも最初から疑っていたか…。
どちらにせよ、フェイト・T・ハラオウン。お前がここまでたどり着いたことは素直に誉めようじゃないか」
フェイトは黙ってサイオンを見据えた。サイオンは言葉のところどころに余裕を感じさせる。
周りの手下もそうだ。どの魔導師も落ち着き払っている。
管理局の執務官を前にしてもこの態度でいられる理由は、なんといっても人質というアドバンテージがあるからだろう。
はっきり言って手も足も出せないのが現状だ。ユーノはこの状況で常に交渉を重ねていたのだ。
なおかつ人質は身内となればその心情は想像を絶する。
『ユーノ、視線はそのままにして聞いて』
フェイトからの突然の念話にユーノは眉を少し動かした。

『今の状況、何とかできそう?』
『ユーノの背中、ベルトの後ろに発信機があるから不自然にならないように破壊して』
ユーノが言われたとおりにベルトの後ろを触ると、小さな硬いものに触れた。
(いつの間に…)
そう思いながらも少し力を入れただけでピキッという小さな音と共に発信機は壊すことができた。
『それはアースラにも信号を発信していたの。それが今途切れたということは…』
『クロノが来るってことか』
表情を変えずにユーノは言った。確かに今できることはこれくらいだろう。後はどう時間を稼ぐかだが…。
そう思っているとフェイトが少し強い口調で言った。
『あと、このことは隣の人には言わないで』
隣の人、それは今もユーノの隣でじっと状況を見つめているエリオのことだった。
フェイトはユーノの返事を待ったが、ユーノから念話は返ってこなかった。

「せっかくここまで来たのだから現状はきちんと把握してももらはねばならないな」
サイオンは話しながらゆっくりと歩き出し、さきほど使うはずだった転送用装置に腰をかけた。
「約一ヶ月前から、我々はユーノ・スクライアを使いアースラを奪う計画を立てていた。条件は人質の解放。
捕らえたスクライア一族はそこの牢にいるのが全部だ。すでに半数以上は解放している」
話を聞きながらもフェイトとユーノはこの好機に内心喜んだ。1秒でも時間がほしい時に相手がその時間を作ってくれているのだ。
「でも、あなたはユーノを殺そうとした」
相手に話させるためにフェイトは促した。
それを聞いたサイオンはククッと笑いながら続けた。
「ああ、そうだな。それはすまなかった」
人を殺そうとしておきながらすまなかったで片付けるサイオンにフェイトは頭に来たが黙って聞いた。
「だが転送魔法くらい我々にもできる。もはや用済みだったんだよ。…しかし、少々やりすぎだったかもしれないな」
腰掛けた転送装置から立ち上がり、サイオンはフェイト達を見下ろすようにして言った。
「詫びと言ってはなんだが、面白いものを見せてやろう」
そういうとサイオンはベルトに軽く触れた。
「ジェイルバード、セットアップ」
サイオンのベルトが光りその形を変えていく。
現われたのはまるで腰布のように垂れる5本の帯。およそデバイスとは思えないものだった。

その帯には模様のようにそれぞれ6つの小さな赤い球がはめられており、ユーノにはそれに見覚えがあった。
色はくすんでいたが、それはまさしく一族の首にはめられている首輪についた赤いレンズと同じものだった。
「ユーノ・スクライア。お前にはわかるだろう。そう、これこそがお前の仲間への戒め。この赤い球が起爆する首輪となるのだ」
よく見ると黒い帯には赤い球が外れた部分もある。全てに球が入るとして最大30機。
今一族に使われている13機が欠けているのだろう。するとぼろぼろと球が全て外れ、ふわふわとサイオンの周りを回り始めた。
「そしてこれらを管制するもの。それが…」
サイオンは一瞬目を閉じ、再びその目を開けた。
「「!?」」
フェイトとユーノは目を見開いて驚いた。
サイオンの右の瞳は先ほどの青い瞳とは異なり、真っ赤に輝いていたからだ。
「この瞳はれっきとしたインテリジェントデバイスだ。1人の看守と30人の囚人達。これが私のデバイス、ジェイルバードだ」
首輪を制御するデバイスの存在はユーノも予想していた。あわよくばそれを発見し破壊するつもりだったが、
まさか体に埋め込んでいたとは思わなかった。しかもあの様子だと通常の視界も持っているようだ。
完全に肉体とデバイスが一体化したバイオマテリアルのデバイス。はやてとは違う融合型デバイスの形だった。
「破壊したければ私の目をくりぬくことだな」
そこまでサイオンが言ってユーノはある違和感に気付いた。何故サイオンはここまで話すのだろうか。
確かに話したところで向こうが有利なことには変わりないが、弱みをわざわざ晒す必要も無い。
そこまで考えて、サイオンの位置とコンテナが目に入った。移動したサイオン。コンテナの直線状にいるのはフェイト。
よく耳を澄ませば艦の航行音とは違う駆動音がかすかにまぎれている。
時間を稼いでいたのは自分達だけではなかったのだ。確かあのコンテナに入っていたのは……。
(まずいっ!!)
そう思った時にはすでにユーノはフェイトの前に飛び出していた。その行動を見てサイオンはにやりと笑った。
(もう遅い)
次の瞬間、高音とともにコンテナから光が一直線に伸びた。
「え?」
フェイトが気付いたときには視界は真っ白に光っていた。
ユーノは飛び出したと同時に腰からダガーを抜きとり放り投げる。
ストレージデバイスであるダガーは強大なエネルギーに反応し自動的に3つに分かれ、内臓魔力による防御魔法を展開した。
ユーノが万が一のときにとプログラムを組んでおいた最終防衛機能だ。
しかしそれは一瞬にして貫かれ、3つの欠片は砕け散った。その時間、僅か0.5秒。しかしそれだけで十分だった。

ユーノは右手を突き出し自分が知っている中で最も強固な防御魔法を展開した。
すぐさまシールドにおそろしい衝撃が走り、一瞬にして周りは轟音に包まれた。
光の中、1秒にも満たない刹那であるにもかかわらず、ユーノにはまるで時間がゆっくり流れているかのように感じた。
高エネルギーによる熱量から皮膚が焼け付くように熱い。右手の手袋はすでに焼けて消失していた。
そしてシールドへの圧力から、指がひしゃげていくのが分かった。
「ぐっ!!」
ユーノは苦痛に顔をゆがめた。それでもユーノは魔法陣を崩さなかった。
頭の中には後ろにいる仲間のことでいっぱいだった。
仲間。友人。大切な人達。彼女達を支えることが、唯一自分ができること。
瞬間、ユーノは熱さも痛みも全て感じなくなった。自分の展開したシールドが迫ってくる。
腕は不自然に折れ曲がっていった。それでもシールドは崩れない。


―――――守りたい。


ユーノの頭にあるはそれだけだった。


まばゆい閃光が消えるとともに、コンテナから現われた巨大な砲身の排気口からは勢いよく煙が噴出した。
強烈な光に目を細めていたサイオンは、徐々に目を開く。
(これでとりあえず邪魔者はいなくなったか…)
逆光と煙ではっきり見えないが砲身の直線状は跡形もなく消し飛んだ。フェイトとその間に入ったユーノは直撃し共に消え去ったはずだ。
フェイトがユーノをつけていたということはおそらくこの艦の場所はクロノに知られているに違いない。
しばらくすればアースラが直接来るだろう。こちらの計画は止められないにしても時間を稼ぐ必要がある。
そのために執務官という脅威は取り除いたのだ。
ふと、これからのことに思考を巡らせようとしたサイオンの目の端に何かが映った。
丸く開いた壁、青空と雲が広がるその場所には、たたずむ影が存在した。
「なにっ!?」
サイオンは思わず声を上げた。砲台の前には、全身から黒い煙を上げているユーノと呆然としているフェイトがいた。

ボロボロの姿でも、不思議なことにユーノはかすかに微笑んでいた。
家族を守るために友人達に嘘をつき、刃を向けたことに深い自己嫌悪に陥っていたユーノ。
ユーノには、自分は簡単に友人を切り捨てるような非情な人間ではないだろうか、という疑心も生まれていた。
そんな中咄嗟に取った捨て身の行動。駆け引きも何も無い、純粋な行動。目の前の大切な人を守りたいという強い想い。
それが確かに自分の中にあることに、ユーノは安心したのだった。
しばらくしてユーノはどさっと膝から倒れこんだ。
「ユーノッ!?」
それを見たフェイトがユーノに駆け寄る。フェイトはユーノを見て思わず口に手を当てた。
「酷い……」
それは医療に詳しくない素人目で見ても明らかに重傷とわかる状態だった。皮膚は火傷で赤くはれ、右腕はすでに原型を留めていない。
かろうじて肩から繋がっているのは不幸中の幸いだろうか。フェイトは急いで治癒魔法をユーノに施した。
(ありえん…。あれを防ぎきるなど……)
その様子を呆然と見ながらサイオンは思った。
フェイトに向けて撃ったもの。それは対艦用の荷電粒子砲だった。
通常の艦に搭載されるものを小型に改造し、なおかつ威力とエネルギー収束効率を大幅に上げた独自の最新鋭兵器だ。
対軍艦用にディストーションシールドをも貫けるよう改良を重ねていた代物だ。
(整備不良で威力が落ちたか。それとも…)
そこまで考えてサイオンは思考をやめた。都合よく実力以上の力が出る。
そんな夢物語を信じるほどサイオンは浅薄ではなかった。
しかし、フェイトを排除しそびれたのは事実だ。今この艦の動向に気付かれてはまずい。
『今がチャンスだ。…やれ』
サイオンは念話で手下に指示を出した。ユーノの治療に専念している今ならフェイトをやれる。
指示通りにすぐに2人の魔導師が飛びかかった。
剣状に伸びた杖が突き刺さる。しかし、すでにその場にはフェイトとユーノはいなかった。
(!?)
サイオンが気付いた時にはすでにフェイトは目の前にいた。フェイトはユーノを治療するという隙をあえて作っていたのだ。
フェイトのスピードを実際に見たことがなかったサイオンはその射程を甘く見すぎていた。
数十メートルの間合いを一瞬で詰め、フェイトのバルディッシュがサイオンの赤い瞳目掛けてその金色の鎌を振り下ろす。

ガキンッ


魔力同士の衝突に倉庫はひと時の静寂に包まれた。
バルディッシュのサイズはピタリと藍色のシールドで止められていた。
「やっぱり…あなたは!!」
フェイトが鋭い眼つきで目の前の人物を睨んだ。サイオンの前に立つ少年、エリオ・スクライアを。
「あなたも殺されそうになったのに!なんで!?」
フェイトはギリギリと力を込めながら叫んだ。フェイトの方が魔力は上だが魔力資質の特性上魔法は拮抗している。
「わかってる。それでも、この人を殺させるわけにはいかない」
あのままフェイトがバルディッシュを振りぬいていたらサイオンは重傷、下手をすれば死んでいたかもしれない。
もちろんフェイトは殺さずに目だけを破壊する自信はあったが。
「…残念だが、お前は千歳一隅のチャンスを逃した。武装を解除しろ。さもなければ人質を一人吹き飛ばすぞ」
赤々と光る瞳にフェイトはびくりとし、バルディッシュへの魔力を抜いていく。
そしてサイオンに向けられた刃はその形を消した。
「そうだ…それでいい」
猫なで声でサイオンが言った時、フェイトの後ろにはすでに魔導師が杖を振りあげていた。
エリオはそれを見て魔導師にバインドをかけるかどうか悩んだ。自分はそこまでは望んでいない。
しかし魔法を発動しようとした瞬間、あることに気付いた。その魔導師はぴくりとも動かないのだ。
『…どうした。はやくやれ』
サイオンも不思議に思い念話を送ったが、魔導師から返事は返ってこない。
「!?」
フェイトも気配に気付き振り返る。真後ろには杖を振りかざしたまま微動だにしない魔導師が立っていた。
(…凍ってる?)
次の瞬間、倉庫内が冷気に包まれた。
(この冷気は……)
サイオンに嫌な汗が流れた。
「まさか…こんなにも早く来るとはな……」
魔導師の後ろ、壁からのぞく青空を背に佇む人物に向かってサイオンは言った。

「サイオン・ウイングロード。お前を拉致・監禁及び人質強要の容疑で逮捕する」

氷結の杖デュランダルを向けたクロノはサイオンに言い放った。

次回へ続く

次回 第二十二話 「繁栄の闇」

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目次:魔法少女リリカルなのはA's++
著者:396 ◆SIKU8mZxms

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