700 名前: 396 ◆SIKU8mZxms [sage] 投稿日: 2007/09/21(金) 14:51:08 ID:BQL0MQKR
701 名前: 396 ◆SIKU8mZxms [sage] 投稿日: 2007/09/21(金) 14:52:17 ID:BQL0MQKR
702 名前: 396 ◆SIKU8mZxms [sage] 投稿日: 2007/09/21(金) 14:53:58 ID:BQL0MQKR
703 名前: 396 ◆SIKU8mZxms [sage] 投稿日: 2007/09/21(金) 14:55:10 ID:BQL0MQKR
704 名前: 396 ◆SIKU8mZxms [sage] 投稿日: 2007/09/21(金) 14:56:24 ID:BQL0MQKR
705 名前: 396 ◆SIKU8mZxms [sage] 投稿日: 2007/09/21(金) 14:57:26 ID:BQL0MQKR
706 名前: 396 ◆SIKU8mZxms [sage] 投稿日: 2007/09/21(金) 14:58:16 ID:BQL0MQKR
707 名前: 396 ◆SIKU8mZxms [sage] 投稿日: 2007/09/21(金) 14:59:21 ID:BQL0MQKR
708 名前: 396 ◆SIKU8mZxms [sage] 投稿日: 2007/09/21(金) 15:00:00 ID:BQL0MQKR


『はやては人質を守りつつ指揮を取れ!フェイトは僕と一緒にサイオンをやるぞ!』
『了解!!』
『わかった!』
クロノの指示に局員達が一斉に動いた。
戦いが本格的に始まり衝撃音が響き渡る中、フェイトとクロノはサイオンと向かい合った。
クロノ達が杖を構えるとサイオンの真下に紫色の魔法陣が出現した。
『Ejection floating remote mines.』(機雷射出)
右目に埋め込まれたデバイスの声が念話のようにサイオンの頭に響いた。
腰布から10個の赤い球が浮かび上がりサイオンを囲む。
「ロック」
『Object was recognized.』(対象認識)
サイオンが瞳を向けると、瞳の中でクロノの全身の輪郭が淡く光った。

クロノはサイオンの周囲に浮かんでいる赤い球を観察した。
浮かんでいる数は10。デバイス自体にほとんど魔力を貯めておけないことから考えるにおそらくローテーションを組んで
10機ごとに遠隔操作するつもりなのだろう。一つ一つが人を吹き飛ばすほどの爆弾だ。気を抜いて防御魔法を怠ればたちまち肉片と化す。
まずはそれらを無効化するのが先決だ。つまり撃ち落とさなければならない。が、当然向こうもそれを警戒し高速機動で玉を操作してくるだろう。
そうなれば必ず本体であるサイオンに隙が生じる。作戦はおのずと導かれた。
『僕が球を撃ち落とす。その隙に近距離から攻撃するんだ。捕縛は考えずに気を失わせることに集中してくれ』
クロノの言葉にフェイトが頷いた。遠隔操作の爆弾がある以上身体の拘束は意味を持たない。
相手の戦力を奪うには魔力攻撃により気絶させるのが一番だ。質量兵器では難しい作戦行動こそ、魔法戦の一番の利点なのだ。
敵に目を向けながらもフェイトは周囲に視線を走らせた。彼がいない。ユーノの友人であり裏切りの張本人が。
混乱に乗じて飛び交う魔導師にまぎれたのか、気が付いたらその姿を消していた。
サイオン以外の魔導師ははやてが指揮する武装局員が対処する手はずになっている。多少は特殊な魔法を使うとはいえ彼はそれ程強くない。
恐らく局員の誰かが相手をすることになるだろう。いくつかの借りがあるフェイトは少し苛立ちを覚えたが、今はクロノの命令に従うのが
最優先だ。フェイトは軽く唇を噛みサイオンに杖を向けた。

「お前らに劣等感に苛(さいな)まれ、数え切れぬ挫折に絶望していく人間の気持ちはわかるまい…」
サイオンはクロノ達を睨みつけながら小さく呟く。
眉を吊り上げるとデバイスのおさまった右目が疼いた。この憎しみは自分一人のものではない。
今も闘っている部下達、果ては排斥された者達全ての無念が、ここまで自分を邁進させてきた。
人は生まれついて平等ではない。生まれ持った資質や能力に差があり、それぞれ成長し、評価されていくべきだ。
だが、あまりに理不尽なこの世界。輝かしい栄光を手に入れる人間の陰で、もがき、苦しみ、散っていく人間が大勢いる。
努力が足りないとか、やり方が下手だとか、そういう次元ではないほどの二極化がそこにあった。最初から決まっているが如き運命。
そのバランスが、許せない。許してはおけない。でなければ、何故我々が生まれてきたというのか。自分の生が意味あるものだと知らしめたい。
だから抗う。目の前の才能に。そしてこの世界に。
サイオンは振り上げた腕を勢いよくと下ろした。
「拡散!!」
『Explosion Rampage.』
10機の赤い球が一斉にクロノに向かって飛んだ。
クロノは距離をとりつつスティンガースナイプを放ち、フェイトは高速移動でサイオンとの距離を縮めた。
警戒しながら回り込んでの高速飛行をしたフェイトは眼の端に映った光景に違和感を覚えた。全ての爆弾がクロノに向かったからだ。
絶好のチャンスと思うより、警戒すべきか。しかしもうこのスピードでは止めることはできない。
どのみちサイオンを倒せば全てが終わるのだ。
サイオンの真横に詰め、バルディッシュを振りかぶる。
次の瞬間、フェイトの目に複数の黒い何か飛び込んできた。気づけばキーキーと鳴くまるで蝙蝠のような黒い生き物達に一瞬にして囲まれていた。
「くっ!!」
それでもフェイトは光の鎌を振り下ろした。しかし、一瞬の躊躇が産んだ隙によりその攻撃はむなしく空を切った。
巻き込むように斬った数匹の黒い生き物は溶けるように宙に消えていった。
「これは…フェイク・シルエット!?」
複数の幻影を発生させる高位幻術魔法。その中の一匹の黒い生き物が囁いた。
「君の相手は、僕だ」
声と同時にフェイトの直下に紺色の魔法陣が出現した。
「しまっ…」
フェイトは目を見開いた。これはかつてユーノがアルフに用いた魔法、強制転移。淡い光に包まれフェイトと黒い生き物達は姿を消した。
「フェイト!!」
クロノが叫んだが、その叫びも終わらぬ内に次々に球が襲いかかってくる。
「くそっ!」
顔をしかめながらクロノはアクロバットな飛翔で避け続けた。
(予想以上に……速い!!!)
ぐっとデュランダルを握りしめる。球の速さは加速させたスティンガースナイプより劣るもののその数は10。
集中的に狙われると避けるのが精一杯で魔力弾を操作している暇がなかった。
ならば、と思いクロノは身をひるがえして旋回した。狙いは球を操っているサイオン本人。
クロノが近付けばサイオンも操作を一時的に解かなければならない。接近戦ならばおいそれと球を爆発させるわけにもいかないだろう。
「おおおおっ!!!」
クロノが球を避けながらサイオンに向かって飛んだ。それを見るやいなやサイオンもすぐさまクロノに向かって高速飛行した。
計算通りと思った瞬間、クロノはかすかな飛行音のような気配を感じ咄嗟に回避の動作を取った。
「何っ!!?」
すんでの所でかわしたのはまぎれもなく爆弾である赤い球。しかも、まるで速度を落とすことなく次々と向かってくる。
操作している本人が高速移動しながらの複数の物体の遠隔操作。ありえない事象。想像の外。
今までサイオンが動かなかったのは操作の主をサイオンと思わせるためのブラフ。
クロノが目を見開いたのも束の間、すでに目の前に迫ったサイオンが魔力を帯びた拳を振り下ろした。
「オオラァァア!!!」
「くっ!!!」
クロノは咄嗟にシールドを展開しその攻撃を防ぐ。ビリビリとした衝撃がクロノの腕に伝わった。
イレギュラーな危機において誰しも反射的に決まった行動を取ってしまう。防御魔法の展開。
これこそがクロノにとって一番取ってはならない愚行だった。
「こんなものか!クロノ・ハラオウン!!」
ハッとして振り返ったクロノの目の前には2つの球があった。サイオンは後ろですでに防御魔法を展開している。

ドンッという爆発音とともに爆煙がクロノを覆った。

                 *

コンテナの陰ではシャマルによるユーノへの懸命な治癒魔法が続いていた。
まるで折りたたまれたようにひしゃげた右腕は粉砕骨折にまで至っていたし、バリアジャケットごと服が溶けた個所は火傷している。
全体的に見れば比較的軽い火傷だが、部分によっては知覚麻痺に至る程の重症だ。
クロノの機転で全員でこの艦に直接乗り込んだことですぐに治療にあたれ、とりあえず表面的な火傷は数分で治癒できそうだ。
感染症の心配もなく、シャマルは少なくとも危険な状態を脱すことができたことに胸を撫で下ろした。
そして遠くの溶解したコンテナから覗く砲台に目を向けた。武装局員によって早々に破壊され、砲身からは煙が上がっていた。
破壊により露出した兵器内部に目を向ける。兵器には詳しくないが、あれは魔力を撃ち出すものではない。
まぎれもない質量兵器。魔力は熱エネルギーが発生しにくい。それゆえ魔力兵器は冷却をあまり考慮する必要がなかった。
しかしあの砲台には冷却装置、エンジンで言うラジエータのようなものが存在した。
ミッドチルダでは厳しく禁止され、製造することすら困難と言われる質量兵器。
それを砲台レベルで製造できたことでこの組織の技術力の高さが伺えた。そして同時にユーノが気を失った理由の検討がついた。
あれほどの兵器の砲撃を室内という至近距離で受けたとなれば、防御魔法だけでくいとめることはまず不可能だ。
ではどうやってその危機を乗り越えたのか。予想の域を出ないが、ユーノが使ったのは恐らく結界だ。
補助魔法を得意とするシャマルにはなんとなくユーノが使いそうな魔法がわかった。
封時結界で自分達の周囲だけの空間を切り取り時間をずらすことで、砲撃のエネルギーを空間通過後へと移動させたのだ。
もちろん本来大雑把に行使する広域結界を部分的に、さらには短時間でリアルタイムに行うことは上級魔導師が複数いても困難だ。
それを一人で行えば時間の判定ミスが必ず生じる。
消しきれなかった衝撃をユーノは自身の防御魔法で補ったのだろう。
その結果がこの重症だ。高度な魔法の同時使用によりユーノの精神負荷が臨界を超え意識が飛んだのだと思われる。

魔力と魔法の関係は水槽から器で水を汲むことに似ている。リンカーコアという魔力の許容量が水槽で表わされ、
魔力という水が魔法という器に注がれる。なのはやフェイトは人よりもその水槽が大きい。
持てる器の大きさは水槽に比例すると言われ、一つの魔法に注げる魔力の量や使用できる魔法の大きさは人によって異なる。
今回ユーノは普段持つ器に持ち切れない程の大量の魔力を注ぎ、それを制御しようとした。
瞬間的に持ち上げることができたものの、結局ユーノはその器に押しつぶされた。
気絶という防衛本能によりユーノは強制的に器を手放したが、数分続けていたら脳に異常が生じていたかもしれない。
先ほどそのことも考え魔法で簡易な検査を行ったが異常は見られなかった。
そもそもこんなことは本来できないのだ。どんな器でも許容量以上の水を注げば自然と溢れる。水を詰め込むことは出来ない。
しかしユーノはその方法を知っている。その特異な例がスターライトブレイカーという魔法だ。
周囲の魔力を収束し注ぎ込むことは魔法と魔力のバランスを崩した過剰な魔力行使であり、術者に負担がかかる。
それでもユーノはなのはに教えた。守りたいものを守るために。
自己犠牲をいとわない他者への愛。それがユーノとなのはの信念なのだ。
「ほんと、自分のことを考えないんだから、私の身にもなってほしいわ」
シャマルはため息をついた。周りでは戦闘が激化しているようで魔力の衝突がビリビリと肌に伝わってくる。
皆で楽しくおしゃべりする風景を思い起こす。早く終わらせたい。心の底からそう思った。
シャマルは瞳を閉じ治癒魔法に意識を集中した。
淡い光の中、ユーノの眉がぴくりと動いた。

                 *

戦艦グランディア甲板。星空の中、雲に巨大な影が落としながらその船は重低音とともに飛行していた。
船底部に位置する巨大倉庫では今もなお戦闘が繰り広げられている。
「これで3度目だ。君の邪魔をするのは」
甲板で、吹き荒れる風に逆らって飛ぶ一匹の黒い生き物が言った。パタパタと羽ばたかせている翼は飛膜であり、鳥類とは異なったものだ。
ミッドチルダに生息する超音波を発して飛行する生物に似ていた。
フェイトは無言でその場に佇んでいた。
「今度はきっと僕は勝てない。けど、この勝負には負けない」
光に包まれながら黒い生き物が人の姿へと形を変えた。トランスフォームを解き現れたのはエリオ・スクライアだった。
その表情は薄ら笑いとも言える顔つきだった。
エリオの言う勝てないとは、今から起こるであろうフェイトとエリオの戦闘のことだ。ランクの差が開いた二人。
結果は火を見るより明らかだ。しかしエリオは勝負には負けないと言う。勝負とはつまり、この事件そのもの。
エリオの課せられた時間稼ぎという仕事を果たし、サイオンを勝利に導くということだ。
1対1ならばサイオンは必ずクロノに勝つという確信があるのだろう。
風がフェイトの美しい金髪を流す。夜空に浮かぶ衛星の光が前髪に影を作り、その表情は見えない。
「あなた、ユーノのことが心配じゃないの……?」
フェイトが呟くように言った。ユーノはフェイトを庇って重傷を負った。
心停止はしていなかったが危険な状態には変わりない。今頃シャマルが精一杯治療に励んでいることだろう。
「ああ、死んでないみたいだから安心したよ。僕も殺すのまではやりすぎだと思うから」
それを聞いたフェイトはカッと目を見開いた。
バルディッシュを思い切り振り下ろす。
「バルディッシュ……ザンバーフォーム」
『Yes, sir.Zamber form.』
カートリッジがロードされ勢いよく噴出した。フェイトは思った。この状況は自分の望んだものだと。
強制転移に気づいた時、おそらく自分は脱出できた。バリアジャケットをパージすれば瞬間的に転移魔法に衝撃を加え発動を鈍らせ、
その隙に陣外に出ることができた。その余裕もわずかにだが存在した。
しかしフェイトはしなかった。もちろんクロノを意識的に裏切ったのではない。無意識での無抵抗。
あの一瞬でフェイトは漠然と理解していた。魔法の発動者がエリオであることが。
エリオが姿を見せなかったことに気づいた時から、このことは予期していたのかもしれない。
エリオはユーノを、一族を裏切った。自分との初戦闘で逃げおおせ、尾行を見破り、強制的にここに連れてきた。
彼自身もサイオンに半ば裏切られているはずだ。それなのに今もなお忠実に従っている真意は理解できない。
しかしそんなことはフェイトには関係なかった。借りはいくつもある。なのはとユーノを戦わせたこの事件そのものが憎い。
そして何より先ほどの態度。死ななければ当然の仕打ちだと言いたげなあの言動。
怒り、悔しさ、憎しみ、憐み。複雑な感情がフェイトの中で激流のように渦巻いた。
「ふふ……」
その声を聞いてエリオはぎょっとした。フェイトは笑った。確かに笑ったのだ。
フェイトの表情を見てエリオは背筋に寒気を感じた。今まで一度も感じたことのない空気。これが殺気というものなのだろうか。
「あなたの望み通り、勝負しましょう。……一瞬で終わらせてあげる」
フェイトが大剣を構えた。薄暗い中、金色の剣がぼんやりと光を放つ。
その顔には既に笑みはない。怒りもない。かと言って無表情でもない。
目の前の人物は本当にフェイト・T・ハラオウンなのか、エリオは目を疑った。
それと同時に妙な既視感も覚えていた。今のフェイトはどこかで見たような顔つきだと思った。
そう、あれは確か資料で見たフェイトの生みの親。いや、創造主というべきか。
エリオはおぼろげにだがプレシア・テスタロッサの雰囲気をフェイトから感じ取っていた。
わずかに生まれた狂気が血の宿命を呼び起こしたのかもしれない。
フェイトは生まれて初めて“キレ”ていた。

                 *

『2番隊は下がって後方支援に切り替え!4番隊!コンテナの裏も気ぃつけえよ!!』
『マイスター!敵砲撃魔法、来ます!!』
「ちっ!」
はやてが防御魔法を展開すると魔力砲撃は分散し飛んでいった。
後ろではスクライア一族の子供達が寄り添うように固まり、時折悲鳴を上げている。
『6番隊!まだ兵器は残っとるんか!?』
『あと2つです!』
はやての念話に局員が答える。敵は質量兵器をいくつか所持していて、それがこの戦いでネックとなっていた。
局員の何人かは早々に撃たれて傷を負っていたが死者がいないだけまだ幸運と言える。
ユーノに使った対艦砲のような巨大なものはここが艦内である以上敵もおいそれと使うわけにはいかず、早々に守備を放棄していた。
それでも中型の、こちらの防御魔法など簡単に破れるほどのエネルギー収束型の兵器は守り切っていた。
総合的に見て戦況が不利であることにはやては唇を噛んだ。
時刻は深夜。倉庫内に電灯があるがそれでも薄暗いという状況。
倉庫内の配置を熟知している敵の魔導師達に地の利が多分にあるのは言うまでもない。
それでもアースラの武装局員を総動員し、人数的にも有利と思われていたが、相手の戦い方がうますぎた。
基本のスリーマンセルは絶妙なチームワークで、魔法と質量兵器を使い分ける緩急の付け方、なにより駆け引きが手慣れている。
今も補助魔導師を狙いながらも小出しに人質にも攻撃を加え、一番の戦力である指揮官のはやてを釘づけにしている。
学校の体育館の数倍の広さがありながらも、室内という限られた空間がはやてや局員達の行動に制限をかけていた。
兵器のエネルギーが溜まり次第、おそらく直接ここに攻撃を仕掛けてくるだろう。人質は10人以上。動くには多すぎる。
突入後に張られたグランディアを包むシールドは結界の役目もあり破るには時間がかかりそうだ。
『まだ通路は突破できへんのか!!』
『防壁が何枚も降りていて、時間がかかります!』
早く制御室を制圧し、この艦のコントロールをうばい艦のシールドを取り除く必要がある。
正直魔法による結界より物理的障害の方が厄介と言えた。
『は、はやてちゃん!10時の方向にエネルギー反応!!やばいです!』
「来た…!!」
はやては慌てて場にいる局員に念話を送った。
『全員一時後退!!人質を守るんや!!!』
局員が一斉にはやての前に集まった。次の瞬間、目にも留まらぬ速さで床を削りながら光が高速で向かってきた。
杖を構えた局員達の前に巨大な魔法陣が出現する。まるでハリケーンが一点を襲うかのような衝撃が局員達を包んだ。
「ぐぅぅっ!!!」
はやても魔力を放出しその衝撃に耐える。これが魔力を介さない純粋なエネルギー兵器の力。
「ここは乗り切るんや!何があっても!!!」
はやてが叫んだ。相手から感じる憎悪という気迫に局員達は気圧されているのは明らかだった。向こうは確実にこちらを殺しにきている。
殺意に対し冷静に対処する経験が、まだまだ若手の武装局員達には欠けていた。むろんはやて自身にも。
さらにこちらには普段ならあるものが欠けている。それは一騎当千の魔導師。エースだ。
戦いにおいて士気は重要なファクターで、相手がどんなに格下であっても士気のあるなしで戦況を大きく左右しうる。
本当は解放後のスクライア一族の警護に向かったシグナムとザフィーラ、なのはの保護に向かったヴィータ、その内誰か一人でもほしかった。
しかし、はやてはそんな甘えはとっくに捨て去っていた。後ろで怯える人質達がその甘えを許さない。
守りたいという想いは憎悪に打ち勝つ、とはやては信じていた。
そんなはやての気持ちに応じるかのように防御魔法は強固なものへと変わる。しばらくすると嵐が過ぎ去ったかのように衝撃が消えた。
乗り切ったという安堵を反芻する間もなくはやてが指示を出した。
『今のうちに確実に兵器を破壊するんや!魔力の少ない者は後方支援!!』
そう言った矢先、リインフォースが叫んだ。
『だ…第二射、きます!!』
「なんやて!?」
はやては目を見開いた。いくらなんでも早すぎる。そう思った瞬間、はやてははっとした。
相手に残っているのは2つのエネルギー収束型兵器。充填、冷却、発射のローテーションを交互に行い連射するのが相手の狙いだったのだ。
2つの兵器を守りきることだけが敵の目的。しかし今さら気づいても手遅れというしかなかった。
先ほどの防御魔法でこちらの魔力が激減した者も多い。つまり相手はエネルギーという物量作戦で来たようだ。
「避けな…!!」
そう言った瞬間、自分たちの周りの魔法の壁に気がついた。敵の魔導師達ははやて達が防御に苦しんでる間ただ見ていたわけではない。
空間を封鎖し逃げ場をなくす。一か所に集め、一点集中突破する気だったのだ。
もう一度あれに耐えるしかない。はやては歯ぎしりした。
相手に強力な兵器がある以上、人質と共に回避行動をとるためにもっと人員も割くべきだった。これは明らかな自分の失策。
しかしはやてはすぐに気持ちを切り替えた。諦めるには早すぎる。守らなければならない人たちがいる。
ユーノが命がけで守った人たちをみすみす敵の手に渡すことは、絶対に阻止せねばならない。
「みんな、もうひとふんばりや!!」
威勢良く叫んだはやてに局員達が一斉に頷いた。
次の砲撃が来る。全員が覚悟したその時、
「おおおおおおりゃぁぁぁぁ!!!!!!」
艦の壁に空いた穴から勢いよく赤い何かが飛び込んできた。
「はああああぁぁぁぁ!!」
そして兵器に張られた結界ごと、兵器の積まれたコンテナを巨大な何かが押しつぶした。
防ぎきれないと判断した敵の魔導師達はまるでクモの子を散らすように逃げ出した。
ゴガンッという轟音とともに兵器は粉砕され、爆発した。
「なっ!?」
はやてはぽかんと口を開け、局員達も目を丸くしていた。

「なぁに苦戦してんだ。はやてらしくねーじゃん」
みるみる縮小したハンマー型のデバイスを肩に担ぎ、ゴスロリチックな赤い服を着た少女がぶっきらぼうに言った。
穴から吹いた一陣の風と共に、少女の赤い髪がなびいた。それを見た局員達が歓声を上げる。
「ヴィータッ!!」
胸を張って微笑み振り返る少女に、はやては目に涙を浮かべ名前を呼んだ。


次回へ続く


次回 第二十四話 「憎しみの炎」

前へ次へ
目次:魔法少女リリカルなのはA's++
著者:396 ◆SIKU8mZxms

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

メンバーのみ編集できます