670 熱き彗星の魔導師たち 17-01/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/30(水) 05:18:26 ID:hZaNUnO8
671 熱き彗星の魔導師たち 17-02/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/30(水) 05:18:51 ID:hZaNUnO8
672 熱き彗星の魔導師たち 17-03/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/30(水) 05:19:39 ID:hZaNUnO8
673 熱き彗星の魔導師たち 17-04/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/30(水) 05:20:04 ID:hZaNUnO8
674 熱き彗星の魔導師たち 17-05/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/30(水) 05:20:28 ID:hZaNUnO8
675 熱き彗星の魔導師たち 17-06/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/30(水) 05:20:53 ID:hZaNUnO8
676 熱き彗星の魔導師たち 17-07/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/30(水) 05:21:19 ID:hZaNUnO8
677 熱き彗星の魔導師たち 17-08/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/30(水) 05:22:36 ID:iim93QBj
678 熱き彗星の魔導師たち 17-09/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/30(水) 05:23:00 ID:iim93QBj
679 熱き彗星の魔導師たち 17-10/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/30(水) 05:23:23 ID:iim93QBj
680 熱き彗星の魔導師たち 17-11/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/30(水) 05:24:27 ID:iim93QBj

 ビーッ!!
 赤いランプが点灯し、けたたましい音が鳴る。
「なによー、まだ夜じゃない……」
 音に反応して、目を覚ましたアリサだったが、窓の外がまだ真っ暗の闇夜であることを
視認すると、枕元の目覚まし時計に手を伸ばし、そのアラームを止める仕種をした。
 しかし。
 ガバッ
 1分もしないうちに、バッ、とベッドの上で布団を跳ね除けて、飛び起きた。
『ロングアーチ、状況!』
 下着姿で、2段ベッドの下段から転がるように飛び出しつつ、本部小隊に向かって呼び
かける。
『南東部第7ブロックで輸送車強盗です』
 非実体の大型モニターが部屋の壁面に沿って出現し、その画面に現れたシャーリーが、
そう言った。
『…………、機動6課に振られた理由は?』
 手早く制服を身に着けつつ、訊き返す。
『襲撃者が、ガジェット・トルーパー、と、思われます』
『思われます?』
 既に制服姿のユーノが、アリサの傍らに立ちつつ、そう聞き返した。
『特徴がガジェット・トルーパーI型やII型に似ていますが、未確認のシルエットなんで
す』
『…………、なるほど、で、現状は?』
 ジャケットに袖を通しつつ、アリサが再度訊ねる。
『第3小隊が先発しています』
『第3小隊に新型、か……』
 アリサは一瞬だけ動きを止め、表情を険しくする。
 フェイトとなのはの実力は折り紙付だ。だが、ホテル・アグスタで出現した量産型戦闘
機人という要素がある。もしセットであれば、2人でも苦戦は免れない。
 まして、飛行魔法もろくに使えないエリオとキャロには荷が重過ぎる。
『ロングアーチ、飛行許可申請して。第2小隊4名分』
『直接飛んでいくんですか!? ヴァイス君も叩き起しちゃいましたけど……』
 シャーリーは、目を真ん円くして驚いたように言う。
『シグナム、構わないわね?』
『私は、異存はない』
 映像は出ないが、シグナムの答えが念話越しに返ってくる。
『イグニスコメット各局へ、小隊員は中庭に集合よ』
『了解』
『了解っス』
 ティアナとウェンディからも、答えが返ってきた。
「行くわよ、レイジングハート!!」
『O.K. Master』
「アンブロークンイージス」
 アリサに続いて、ユーノも手首に嵌められたリストバンドを、掲げるようにし、アンブ
ロークンイージスに声をかける。
『Yes, Master』
 待機状態の、レイジングハートとアンブロークンイージスから、魔力光が溢れ出す。
『Set up』

熱い彗星の魔導師たち〜Lyrical Violence + StrikerS〜
 PHASE-17:Children’s(前編)

「行くわよ!」
「オーケー」
「はいっ」
「了解っス」
 機動6課隊舎、移動用の中庭状になっている、オフィスメインの北棟と居住スペースメ
インの南棟の間のスペース。そこに集合した第2小隊のメンバーが、次々に夜空へと飛び
上がっていく。
 オレンジ、赤紫、バーミリオン、エメラルドグリーンの、4条の光の軌跡が、空へと上
っていくのが、オフィス棟の屋上からも見えた。
「ティア……」
 その姿を、スバルは屋上のヘリポートから、見上げ、そして見送っていた。
 一方。
 先発したディエチのJFM165型に続き、JF705型ヘリが発進準備態勢に入っていた。
「ヴァイス、スマンな、もうしばらく待機していてくれ」
「ええ、こういうのは、なれてますから」
 険しくも、どこか申し訳なさそうに、シグナムは言う。すると、ヴァイスは苦笑混じり
にヘラヘラと笑いながら、そう答えた。
「頼んだぞ」
「りょーかい、です」
 ヴァイスとそう交わしてから、シグナムはコクピットドアから離れ、屋上の床に降り立
った。
 そして、屋内に戻ろうとして、スバルがフェンスにつかまって空を見上げているのを、
シグナムは発見した。
「何をしている」
 問い質すというより、ただ、スバルの行動を促すように、シグナムは声をかけた。
「第1小隊は、後詰、待機だ。ブリーフィングホールに戻るぞ」
 他にレリックが発見される可能性もゼロではないし、あるいはスカリエッティが他の場
所で行動しないとも言い切れない。
「は、はいっ」
 スバルは、慌ててフェンスから離れて踵を返し、シグナムを追って、屋内に降りていっ
た。

「行くよ、なのは」
「うん」
 クラナガン南東部第7ブロック────バクタレ街(ストリート)・上空。
「ディエチ、エリオとキャロのこと、よろしくね」
「了解」
 カーゴルームからのフェイトの声に、操縦席のディエチは表情をほとんど動かさず、た
だ頷いた。
「ランプ開けます」
「うん」
 今度は、ディエチの言葉に、既にバリアジャケット姿のフェイトが返事をした。
 JFM165の、胴体尾部のランプゲートが開く。
「頼むよ、バルディッシュ」
『Yes, Sir』
 JFM165から相対的に下がるように、後ろへ飛び出す。
「行くよ、L4U」
『Yes, Ma’am』
 同様にして、白いバリアジャケット姿のなのはも、L4U’を左手に握り、フェイトに続い
てJFM165から降りる。
「フェイトさん、なのはさん!」
「気をつけて!」
 エリオとキャロが、そう言いつつ、2人を見送った。
 JFM165の下側を回り込むようにして前に出ると、フェイトとなのはは一旦横に並んで、
お互いの顔を見合わせる。そして、頷いた。
 フェイトが増速し、先行する。
『Scythe form』
 バルディッシュの刀具が開き、金色の魔力刀が出現し、大鎌のスタイルになった。
 フェイトが目標に向かって接近すると、その直線上から、ぽつぽつと黒いシルエットが、
地上の町の灯りに照らされて、出現した。
『Defenser』
 フェイトの前方を、金色の光のシールドが覆う。
 バチバチバチバチッ
 シールドによって弾丸が弾かれ、弾道を逸らされていく。だが、一部の弾丸はシールド
に触れるなり、その場で小さく炸裂した。
 フェイトが更に増速し、その脇をすり抜ける。ガジェット・トルーパー、飛行型I型。
『Defenser, Dual excise』
 フェイトは後方にシールドを張る。バチバチと、機関砲弾が命中してきた。
「お願い、L4U!」
 なのはがL4Uを両手で握り、フェイトとガジェット・トルーパーが戦闘を続けている空
間に向かって、L4Uの先端を突き出した。
『Field destruction』
 レーザー光線のような桜色の奔流が、空間を薙ぎ払った。
 ピーッ、ピーッ
 ガジェット・トルーパーの機種から、警告音のような電子音が鳴り響く。
『Arc saber』
「はぁっ」
 一瞬間合いを広げてから、フェイトは、バルディッシュの金色の魔力刀を、ブーメラン
として撃ち出した。
『Device form』
 そのまま、刀具を閉じるバルディッシュ。しかしそのまま、次の術式の展開に入る。
『Photon lancer, Execution shift』
「行けっ」
 飛行する進行方向に背を向けつつ、その背後に無数の魔力スフィアを発生させると、そ
れらは放電を伴った魔力弾へと変換され、ガジェット・トルーパーの群れへ向けて、発射
された。
 ド・ド・ド・ド・ド
 フォトンランサーの魔力弾に貫かれたガジェット・トルーパーは、次々と機能を停止し
て、落下していく。
 後続の一部はその軌道から回避へと移る。が、そのうちの1機を、アークセイバーの刃
が切り裂き、更にブーメラン状の飛行を続けるアークセイバーが、もう1体も両断した。
『Axel stinger, Phalanx shift』
 L4Uの同軸円周上に、無数の魔力スフィアが発生する。
「そーれっ」
『Burst shot』
 ドドドドドド……
 一部では『フライング・フォートレス(空飛ぶ要塞)』の異名をとるなのはのフルバース
トが、桜色の魔力光を矢じりに変え、ガジェットの編隊めがけて降り注ぐ。
 ────ガジェット程度なら、リミッター付のままでも……
 フェイトが、次々に墜落していくガジェットを見て、そう思った瞬間。
『Caution!!』
「!!」
 バルディッシュの警告に、瞬時に宙で身を翻す。
『Defenser』
 バチバチバチバチッ
 フェイトの前面に出現した金色の光の盾が、斬撃とぶつかり合い、激しく火花を吹き上
げた。
「スカリエッティ製戦闘機人──」
 件の量産型ではない。
「──No.7!!」
「セッテだ」
 ミシッ
 フェイトが思考に集中を奪われた瞬間、フェイトの盾に亀裂が入った。
「! しまっ……」
 戦闘機人の出力を甘く見ていた。加えて、この所デスクワークが長すぎた。
 もちろん、ランクリミッターが無ければ、このような事態にはならなかっただろう。逆
に公式S+、噂ではSSとの評もあるこれまでの経験が、油断につながった。
『Photon lancer』
 フェイトのものではない。
 セッテのほぼ直上、フェイトのやや前方から、斜めに、淡い黄緑色の魔力弾が一直線に
弾道を引いて、撃ちおろされる。
「だぁぁぁっ!!」
『Buster form』
 夜空の深い藍に、魔力弾と同じ色の鮮やかな刃が出現する。
「くっ」
 セッテは反射的に、フェイトを斬り付けていたブーメランブレードを、その正面に受け
止める。
 バチバチバチバチッ
 黄緑色の魔力刀とセッテのブーメランブレードが凌ぎ合い、激しく火花を散らす。
「シュトラゥゼぇぇっ」
『Yes, Load cartridge』
 ドンッ
 内蔵されたCVK-891Rカートリッジシステムが、カートリッジを1発、撃発させる。
 本来は槍型の近代ベルカ式アームドデバイス『シュトラゥゼ』は、その実体の刀身から、
大きな魔力刀を作り出し、柄の長い大剣となっている。
 カートリッジを撃発させたシュトラゥゼの魔力刀が、ひときわ輝きを増す。そしてそれ
を握る担い手────
「エリオ!?」
 フェイトは、一瞬だが我を忘れて、白いコート状のバリアジャケットをなびかせた少年
の名を、声に出す。
「このっ」
「うわっ!?」
 凌ぎ合っていたかに見えたエリオとセッテだが、セッテが腕に力を入れて払うと、質量
の伴わないエリオは、たやすく振り払われてしまう。
「エリオ!」
 フェイトが叫ぶ。跳ね飛ばされたエリオは、まっさかさまに奈落の底に────落ちる
事は無く、その場で立ち、踏ん張るように空中で留まった。
 シャッ
『Wheel Protection』
 そのエリオに向かって、セッテのブーメランブレードが投擲される。空を斬る刃は、出
現した桜色の光の盾に、遮られた。
「エリオ君、大丈夫!?」
「え、あ、はい!」
 跳躍から着地するように割って入ったなのはが、エリオに声をかける。エリオは少し慌
てた様子で、頷いた。
『Spear form』
 シュトラゥゼの魔力刀が消え、エリオはそれを構えなおす。
「この」
 セッテがなのはとエリオの正面に迫る。それを、フェイトが追う。
『Caution!』
 バルディッシュの警告。
「Colpo aereo」
「!」
 フェイトとセッテを分断するかのように、上方から、茶色がかった赤い魔力光の弾丸が、
その弾道をよぎらせる。
 ────量産型。フェイトの視界に、少なくとも2体、視界に入った。
「邪魔、するなぁっ」
 フェイトは上方へ向かって、バルディッシュを構える。
『Arc saber』
 金色の魔力刀は、三日月形のブーメランとなって、上空を占める量産型戦闘機人を薙ぎ
払うコースを取る。
 当然、彼女らも回避コースを取る。一体が、フェイトに向かって、その前方に回り込ん
できた。
『Scythe form』
「どけぇぇぇっ!」
 バルディッシュが新たに発生させた魔力刀が、量産型戦闘機人の盾『ライディングボー
ド』とぶつかり、バチバチと激しく火花を散らす。
 一方。
 ガキィィィンッ
 バチバチバチバチッ
「くっ」
 ブーメランブレードを握りなおしたセッテは、速攻で再び、今度はそれを直に手を握り
ながら、なのはのシールドに叩きつける。
 シールドを維持するなのはの表情が、歪む。
「L4U、お願い!」
『Yes, Cartridge load』
 ドンッ
 L4Uが、カートリッジを1発、撃発させる。鈍くなり始めていたシールドの光が、再び輝
きを取り戻す。
「エリオ君、今のうちに」
「え……は、はいっ」
 エリオは一瞬戸惑い、それから、離脱にかかった。だが、その一瞬の隙が、セッテに利
する。
「えっ」
 ヒュッ
 セッテは、ブーメランブレードを瞬時に引き戻すと、それをエリオに向かって投擲した。
 投擲されたブーメランブレードは、バルディッシュのアークセイバーの同様、誘導され
てエリオの背後に迫る────
『Protection』
 ガキィィンッ
 エリオの背中を襲う、その一瞬手前で、赤紫のシールドが発生し、ブーメランブレード
を凌ぐ。
『Phantom Blazer』
「くっ」
 ブーメランブレードを凌いだ相手を見て、セッテは表情をしかめつつ、急機動で迫る魔
力弾をかわす。
 バーミリオンの強力な魔力弾が、セッテを掠めた。
『Load Cartridge』
「このぉぉぉぉっス!」
『Edge slash』
 アンダウンテッドアイアスがカートリッジを撃発させると、ウェンディはセッテに向か
って、一直線に飛び掛っていく。
 セッテはブーメランブレードを己の手に戻そうとする──間に合わない。
「くっ」
 渦巻模様のシールドを発生させる。
 バチバチバチバチッ
 アイアスの魔力斬撃とセッテのシールドが交錯し、激しく火花を散らす。
「また貴様か、ウェンディ」
「セッテ! 聞きたいことがあるっスよ!!」
 どこか侮蔑の混じった、不快そうな表情で言うセッテに、ウェンディもまた、睨みつけ
るような表情で怒鳴り返す。
「管理局の犬に、教えることなどなにも無い!」
「無理にでも聞き出してやるっス、アイアス!」
『Load Cartridge』
 ドンッ
 アイアスが、2発目のカートリッジを撃発させた。
「うぉらぁぁぁっス!!!!」
「ふんっ」
 輝きを増したアイアスの魔力斬撃に、セッテのシールドは霧散する。
 しかし、それはセッテが競り負けたわけではなかった。
「ウェンディ、後ろ!」
「っ!」
 アイアスの管制人格より速く、ティアナの声が響いた。
『Protection, Dual exercise』
 ウェンディが左の掌を背後に向けると、そこに二重盾を出現させた。
 バチバチバチバチッ
 セッテのブーメランブレードと、ウェンディの二重のシールドがぶつかり、激しく火花
を散らした。

 ────執務室にいたウーノの口元が、その映像を目に、ニヤリとつり上がる。

「Colpo aereo」
 ヒュンヒュンヒュンヒュンッ
「くっ」
 2体の量産型戦闘機人は、マシンガンのような速さで、フェイトに向かって、上方から
魔力弾を撃ち下ろしてくる。
 フェイトのシールドを貫くことこそ無いものの、防戦一方で手の出しようが無い。
 ────リミッターさえ無ければ、いや、こんなことじゃ駄目だ……
 フェイトがそう思いつつ、量産型戦闘機人の射撃を凌ぎながら、反攻の手を模索してい
ると、
『Devin Buster』
 緑の魔力弾が、横から彼女達を薙ぎ払うように、撃ちかけられた。
「!」
 量産型戦闘機人は回避したが、射撃が一旦止み、フェイトは瞬時に構えなおす。
『Fire slash』
「でやぁぁぁぁっ」
 戦闘機人達の更に上方から、オレンジ色の閃光が、彼女達の一方に襲い掛かる。
 バチバチバチバチッ
 レイジングハートの魔力斬撃と、ライディングボードが交錯し、激しく火花を散らした。
「Colpo ae……」
『Protection smash』
 ドンッ
 もう一方の戦闘機人が、ライディングボードの射撃端子をアリサに向けかけたとき、緑
の魔力光がボウル型を模って、その彼女を突き飛ばした。
「アリサ! ユーノ!」
 フェイトの表情が晴れ、新たに現れた2人に、声をかける。
「話しは後!」
 だが、現れたユーノは険しい表情で、そう怒鳴るように声を上げた。
「輸送車を追って!」
「うん」
「なのはも!」
「解った!」
 ユーノが声を上げると、フェイトとなのはが、地上に向かって、一気に高度を下げる。
 弾き飛ばしたもう一方の戦闘機人は……ユーノがそれを視界に捉えようとした、次の瞬
間。
「Sulla Detonazione」
「!?」
 聞き覚えのある声。発動ワード。
『Round Guarder』
 意識するよりも早く、緑の球形のシールドで、己を包んでいた。
 ドカドカドカドカドカドカドカ!!
 そのシールドを、更に無数の爆発が包み込む。
「ユーノ! ……このっ……レイジングハート、もう1段!」
『Yes, Fire slash, Dual exercise』
 キィン
 レイジングハートを、もう1枚層が被る様に、魔力斬撃の光が包み込む。
 ジュウ……
「!?」
 口元だけだが、量産型戦闘機人の顔色がかわった。ライディングボードの表面が、レイ
ジングハートの灼熱で熔け、その刀身が食い込む。
 ドンッ
 溜まらず、蹴り飛ばすようにして、アリサから間合いを取る。
「ぐぅっ……」
 腹部にその蹴りを受けてしまったアリサが、一瞬、表情をゆがめるが、
『Devine clasher』
 間髪入れず、オレンジの魔力弾を放つ。戦闘機人に、更に間合いを“取らせる”。
 そのオレンジ色の魔力弾が、一瞬、戦闘機人の表情を照らした。
 その姿は、以前ホテル戦で出現したものと、ほぼ相違ない。
 ただ、目元を完全に覆う金属のアイマスクの刻印は、『XI・E』となっていた。
 一方。
「…………以前は、飛べなかったよね。少なくとも4年前は」
 空中に仁王立ちになる少女──チンクを見据え、ユーノは表情をしかめながら、そう言
った。
「我々が、まったく進歩が無いと思うのは、愚考だと思うが?」
「それもそうだね」
『Load cartridge』
 ドンッ
 アンブロークンイージスの排莢窓から、空カートリッジが放り出される。
「行くぞ!」
 両手に、計6本のナイフを出現させたチンクは、両腕をクロスさせるように構えつつ、
ユーノに迫る。
『Edge slash』
 ユーノのもまた、イージスを構え、チンクへと向かう。
 ヒュッ
 交錯する一瞬手前で、チンクの姿が、ユーノの視界から掻き消えた。
「!?」
 一瞬遅れたユーノめがけて、チンクの手から爆薬と化したナイフが投擲される────

『Axel stinger, bust shot』
『Photon lancer, Execution shift』
 ドン、ドン、ドン、ドンッ…………
 ガジェット・トルーパーの群れを、なのはとフェイトの射撃が、次々に機能停止させて
いく。
「こんなもの……!? 上空の戦闘に比べて、力のない……」
 フェイトが不審に思いつつ、強奪されたトラックを視界内に捉え、道路に着地した。
『Caution!』
 突然、バルディッシュの警告。フェイトが身を翻すと、背後に迫ったガジェットが、大
形ファルシオンを大きく振り上げ、フェイトに向かって振り下ろそうとする。
 ガキィィィンッ
 デバイスフォームのバルディッシュの刀具で、それを咄嗟に受け止める。
 ────あの綿密な射撃を回避した?
 フェイトがそう思った“新型”ガジェット・トルーパーは、今までの人間型のなりそこ
ないのようなシルエットとは異なり、一気に二足歩行の人間型に近づき、しかもスマート
になっていた。
『Photon lancer』
 ヒュッ
「な!?」
 1発だけとは言え、至近距離からの一撃を、そのガジェットは、すばやく身を捻って、
回避した。
『Stinger snipe』
 ドンッ
 桜色の魔力光の誘導弾が、脚を踏みなおしたガジェットに命中する。
「フェイトちゃん! 大丈夫!?」
 なのはは、心配気に声をかけながら、フェイトのすぐ傍らに着地した。
「私は大丈夫……なのはも、気をつけて」
「う、うん」
 険しい表情のフェイトの言葉に、なのはが返事をする。そして、2人の視線は、停車し
ている、トラックに向けられた。
「行くよ」
「うん」
 お互い、デバイスを構え、周囲に気を張り巡らせながら、近づいていく。
 現在運転席にいるドライバーは、戦闘機人かもしれない……フェイトはそう考えつつ、
ゆっくりと近づく。
 しかし、奇妙なことに、戦闘機人の襲撃も、ガジェット・トルーパーによるそれも、無
かった。
 少し拍子抜けしつつも、フェイトは警戒を解かず、車体の右側に回りこむ。
 一旦、なのはを振り返る。真剣な表情でお互い視線を合わせ、深く頷きあう。
 それから、フェイトはトラックの運転席のドアノブに手をかけ、バン、と、乱暴にドア
を開放した。
「…………え?」
 居なかった。
 誰も、そこには居なかったのである。
 フェイトは、トラックのキャビンの中を調べようと、身を乗り出す。
 ふと、視線が助手席側の窓ガラスに走った。
 窓ガラスにはなのはの、そして、見慣れないもう1人の人影が映りこんでいる!!
「なのは!!」
 フェイトが、緊迫した声を上げつつ、すばやく振り返った、次の瞬間。
「え?」
 気の抜けた声を上げかけたなのはを、背後から、水色の髪を持った少女が、その口を塞
ぐようにして拘束した。
「なっ!?」
 フェイトがバルディッシュを構えた時、その少女はなのはを抱えたままなんと、アスフ
ァルトで舗装された道路に、まるでそれがゼラチンか何かのように、沈んでいった──
「な、なのは!!」



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目次:熱き彗星の魔導師たち
著者:( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc

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