[115] 燃え上がる炎の魔法使い 13-01/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:06:40 ID:LN2UDihO
[116] 燃え上がる炎の魔法使い 13-02/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:07:27 ID:LN2UDihO
[117] 燃え上がる炎の魔法使い 13-03/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:08:27 ID:LN2UDihO
[118] 燃え上がる炎の魔法使い 13-04/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:09:07 ID:LN2UDihO
[119] 燃え上がる炎の魔法使い 13-05/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:09:39 ID:LN2UDihO
[120] 燃え上がる炎の魔法使い 13-06/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:10:00 ID:LN2UDihO
[121] 燃え上がる炎の魔法使い 13-07/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:10:28 ID:LN2UDihO
[122] 燃え上がる炎の魔法使い 13-08/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:10:53 ID:LN2UDihO
[123] 燃え上がる炎の魔法使い 13-09/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:11:23 ID:LN2UDihO
[124] 燃え上がる炎の魔法使い 13-10/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:11:44 ID:LN2UDihO
[125] 燃え上がる炎の魔法使い 13-11/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:12:14 ID:LN2UDihO
[126] 燃え上がる炎の魔法使い 13-12/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:12:47 ID:LN2UDihO
[127] 燃え上がる炎の魔法使い 13-13/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:13:12 ID:LN2UDihO
[128] 燃え上がる炎の魔法使い 13-14/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:13:49 ID:LN2UDihO
[129] 燃え上がる炎の魔法使い 13-15/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:14:14 ID:LN2UDihO
[130] 燃え上がる炎の魔法使い 13-16/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:14:48 ID:LN2UDihO
[131] 燃え上がる炎の魔法使い 13-17/17 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/14(木) 01:15:37 ID:LN2UDihO

「…………ここは……?」
 気がつけば、見覚えのない場所で、眠りに落ちていた。
 状況を確認する。
「ああ、なんだ」
 アリサは軽くため息をつき、“変わらない日常”に、胸を撫で下ろす。
 ねぐらにしている、いつもの廃ビル。そして今は夕刻。
 これからが、彼女の活動時間だった。
 名前、うん、覚えてる。あたしは、アリサ────

 ────────アリサ・ローウェル。


燃え上がる炎の魔法使い〜Lyrical Violence + A’s〜
 PHASE-13:Treffen wir uns, wenn eine Blume bluht.


 Dec.24.2005、17:20(JST)────時空管理局本局、次元巡航警備部本部。
「私のミスだった……暴走した闇の書が、艦船のシステムを、破壊するのではなく、乗っ
取ってしまうほどのものだとは、思いもしなかった……」
 小会議室に、ギルバート・グレアム顧問・予備役提督と、その使い魔、リーゼアリア、
リーゼロッテ姉妹が、“軟禁”されていた。
 グレアムの過去の名声がなければ、直ちに投獄されていてもおかしくない状況である。
 そのグレアムは、しかし、一気に、年相応に老いてしまったかのように、椅子に力なく
腰掛けている。背後に、リーゼ姉妹が、立っていた。
「だから私は、もう一度機会があるのなら、例えどんなことをしても、闇の書を永遠に葬
り去ると、決意していた……」
「それで、あの11年前の事件の後も、あなたは独自に闇の書の転生先を追跡していたので
すね?」
 正面のクロノは、自分の魔導師、執務官としての師であるグレアムに、しかし、毅然と
した態度で、そう問い質した。
 グレアムは無言で、しかし、ゆっくりと深く頷き、クロノの言葉を肯定した。
「そして、見つけた。第97管理外世界、恒星『太陽』系第3惑星『地球』、日本国。主は、
東京都海鳴市在住の八神はやて」
「ああ、彼女が天涯孤独の身と知って、なおさら、これはチャンスだと思った。周囲に悲
しむ者が少ないに越したことはないからね。彼女自身の境遇に対しては、同情する点もあ
ったが……」
 グレアムは認め、そして、自分の心情まで語る。
「…………」
 クロノは、厳しい表情で、眼を一度閉じて、わずかに間をおく。
「提督、自分は、ある人たちに教えられました。人の絆は、強いものだと」
 眼を開き、師を見据え、クロノは、言う。
 脳裏に、目の前で起こされた、あの奇跡の光景がよみがえった。
「例え親がいなくても、兄弟姉妹がいなくても、誰かが、家族の変わりに悲しみます。苦
しみます。悲しむものが少ない人間なんて、いない」
「…………」
 グレアムは、即答しない。
「でも、クロノ」
 リーゼアリアが、変わりに、反論の声を上げた。
「闇の書のせいで、何人の人が亡くなったと思ってる?」
「そうだよ」
 リーゼロッテも、それに追い討ちをかけるように、言う。
「父さまは、そんな不幸が繰り返されないように、しようとしたんだ」
「確かに、99を護るために、1を捨てることは、時に正しい選択でしょう」
 クロノは、グレアム本人に言うように、そう言った。
「だが、その方法にも問題がある。暴走を開始する臨界点ギリギリ、この時だけ、闇の書
は自律再生ができない。この隙に強烈な氷結魔法で主ごと凍結、後は氷結世界か、無限空
間に封印しておく。そうですね?」
「ああ」
 グレアムはそう言って、頷いた。
「1つ目の問題は、今言った通り。彼女は暴走が始まる前の段階では、永久封印や消失刑
に相当する程の犯罪者じゃない。まして、今回の主は、蒐集活動すら、指示していなかっ
たフシがある」
「けど、そんなの、持ち主の意思でどうにもならないじゃんか」
 リーゼロッテが、反論する。
「これまでの主だって、アルカンシェルやら何やらで吹き飛ばしてきたんだ。それと変わ
らないよ」
「クロノ、悪いことは言わないから、私達を解放して」
 リーゼアリアも言う
「まだ、暴走開始まで時間がある、間に合うから」
 だが、クロノは、決意の表情を緩めはしない。
「第2の問題として、氷結の解除はそれほど難しくないという点だ。誰かがその力を欲し
て、封印を解かないとは限らない」
 大魔導師と言われたプレシアでさえ、自分の娘の復活という願望のために、ジュエルシ
ードという破滅に手を出そうとした。
「…………恒久的解決とは、言いがたい」
「2人とも、クロノの言う通りだよ」
 グレアムは、2人の使い魔に、言い聞かせるように、そう言った。
「申し訳ありませんが、事件解決まで、提督方には不自由な思いをしてもらいます」
 クロノは、椅子から立ち上がり、深く頭を下げて、そう言った。
「それでは、自分は現場に戻ります」
「クロノ君」
 踵を返そうとするクロノに、グレアムは声をかけた。
「君は、闇の書を憎んではいないのかね?」
 クロノの動きが、ぴたり、と、止まる。
「そうだよ、クライド君だって、アレに……」
「ロッテ、黙っていてくれないか」
 尻馬に乗ってクロノを攻めようとしたロッテを、グレアムがたしなめた。ロッテは、し
ゅん、と俯いてしまう。
「正直に言えば……」
 クロノは、振り返り、グレアムを正面で見据えて、言う。
「憎んでいないといえば、嘘になるんでしょう」
 ほぅ、と、グレアムは、眼を少し、円くした。
「けれど、『こんなはずじゃなかった“過去”』は取り戻せない。だから、それにこだわ
って、前に進むことをやめるわけには、いかないんです」
「『こんなはずじゃなかった“過去”』か……」
「ええ、“過去”です」
 クロノが、力強く答えると、グレアムは、椅子から、立ち上がった。
「アリア、“エクスカリバー”を」
 グレアムは、リーゼ姉妹達を振り返り、そう言った。
「でも、父さま」
 なお抗議するように、リーゼアリアは声を出すが、グレアムはそれを制して、言う。
「私達はどこかで間違ってしまった。目の前の目標に慌てて縋ろうとして、根本を見失っ
てしまっていたんだ。その私達に、その聖剣はふさわしくないよ」
 グレアムがそういうと、リーゼアリアはおずおずとした態度で、胸に下げていたミニチ
ュアの青い剣を、グレアムに手渡した。
 グレアムはそれを受け取ると、さらに、クロノに差し出す。
「提督、それは?」
「湖の主(あるじ)、氷結の聖剣『エクスカリバー』だ。あの彼女達の物ほど高性能ではな
いがね、氷結魔法に関しては、近代の製品に劣りはしない」
 クロノは、その深い青に視線を奪われかけて、いったん、グレアムの顔にそれを戻す。
「ですが、これは……」
「今から約2000年前、ミッドチルダが古代ベルカと覇を争っていた時代に作られた、古参
のインテリジェントデバイスだよ。もっとも、記録上はすぐに失われたことになっている
がね。第97管理外世界……そう、私やアリサ君の故郷に、飛ばされていたのだよ。もっと
も、あの世界の魔法事情は、君も知ってのとおりだから、ほとんど使われた記録はない。
最後に使った人物は、今から1300年前のことだ。だが、その時の使い手は、正に、国の運
命を左右して、伝説に残っている」
 その後の経緯は定かではないが、第二次世界大戦後はグレアムの実家に保存されていた
ものだった。はるかな過去より錆びず朽ちず形をとどめている、その作り物の剣のことを、
管理局入りしたグレアムが思い返し、管理局に持ち込んで調べたところ、インテリジェン
トデバイスだと判明したのである。
「解りました。確かに、お預かりいたします」
 クロノはそういうと、差し出されたエクスカリバーを受け取り、ネックレスを首にかけ
た。

 誰も、自分を解ろうとはしてくれなかった。
 誰も、自分を受け入れてくれようとはしなかった。
 だから────
 自分も、誰も受け入れないことにした。

 ひとりぼっちの女の子を、運命のほつれが襲ったのは、今から数年前のことだった。
 アリサは、塾の帰り道に、数人のグループに拉致された。
 彼らの目的は、最初は、身代金だった。ローウェル家は、英国で、古くから企業を営む
資産家だった。
 だが、アリサの父、デビット・ローウェルは、身代金支払いに頑として応じなかった。
 日本人的な安直な計画が破綻した。そもそも、デビットの世代のイギリス人は、IRA(ア
イルランド解放戦線)のテロ活動にいやと言うほど慣れさせられている。日本のにわか誘
拐グループなどに、屈するはずがない。
 犯行グループは、追い詰められ、徐々に、殺気立って来た。
 人間には三大欲求がある。食欲、睡眠欲、そして、性欲だ。
 このうち、食欲に関しては、彼らの素顔がまだ知れ渡っていなかったことから、若干、
余裕があった。だが、睡眠欲は、緊張状態に置かれ、じりじりと削られていく。
 この状態に陥ると、人間、特に男性は、残された最後の欲求が増大する。
 犯人グループは、全員ではないが、ほとんどが男性だった。
 それが行動を制限された、禁欲状態。
 目の前には、まぁ、少し幼いが、とりあえず、顔立ちのきれいな、女。

 アリサは、犯行グループに組み敷かれ、暴行された。

 そして、欲求の満たされた彼らの眼に、映る、穢れた人形。
 ────ああ、もう良いじゃん。金なんか。
 ────そうだな、幸い顔もバレてねぇみたいだし。
 ────そんじゃ、コイツは厄介なんで……
 いやだ、いや、やめて、離して、お願い! 殺さないで! 何でもする、なんでもするか
ら……殺さないで! いやだ! 死にたくない!

「いやぁぁぁぁぁっ!!」
 飛び起きる。
 と、言っても、空中に浮かんだ自分は、体位が横から縦に入れ替わるだけで、軋みを上
げるベッドも、跳ね除ける布団も、ない。
 幽霊。俗にそう呼ばれる存在。
「……はぁ……そう……なのよね…………」
 状況を確認すると、アリサは、深々とため息をつく。
 もう何日、いや、何年、こんな時間を過ごしただろう。
 二度と着替えることのない、鮮やかなオレンジ色のドレスを見つめ、もう一度、ため息
をつく。
 俗説では、幽霊がこの世にとどまるのは、この世に何がしかの未練を持っているからだ
とされている。
 だが、アリサにはそれが、なんなのか、解らない。
 ギシリ……
「ははは……変じゃない。もう、ホントの身体があるわけじゃないのに、胸が苦しい、な
んて」
 軋みをあげる胸を、手で押さえ、アリサは泣いた。乾いた笑いを上げながら、泣いた。
 それが何かわからないものを、探し出すことはできない。
 アリサはこの世に、永遠にとらわれ続ける。
 時が移り、人が移ろい、世界が永遠の時を刻んで行こうとも、アリサはこの世界から、
逃れることはできない。
 永遠の、絶望。
「っ……こんな……はずじゃっ……っ」
 もう少し、あの想いを生きている内に持てたのなら……違ったのか、な。

「アリサぁぁっ!」
 ユーノの、悲痛な叫びが、響く。
「アリサ!」
「アリサちゃん!!」
 フェイトとなのはも、声を上げる。
「このっ」
 ユーノはなりふり構わず、“闇の書”に、飛び掛る。
「レイ・ランス!」
 左手で放ったそれは、しかし、“闇の書”は、難なくよける。
「ラウンドガーダー、シールドスマッシュ!」
 ユーノは右手に、ボウル型のシールドを発生させると、飛行魔力の推力を乗せ、それを
“闇の書”に、ぶつける。
「ブレイク!」
 ズドンッ!
 ユーノのシールドが爆発し、衝撃と爆煙をばら撒く。
 その煙と、魔力の残滓の霧が晴れる。しかし、“闇の書”は、その空中に立ち続けたま
ま、黒い光のシールドで、ユーノの攻撃を凌いでいた。
「ブレイクスラッシュ!」
 右手の手刀に、緑の魔力刀を帯び、ユーノは“闇の書”に、斬りかかった。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
 だが、“闇の書”は、シールドも使わず、涙混じりの咆哮をともなって無闇に繰り出さ
れるユーノの斬撃を、易々とかわして行く。
「絶望の淵で……誰もが、永遠を望んだ」
 “闇の書”が言う。
 その右手に黒い魔力刀が発生し、ユーノに向かって斬撃を繰り出す。
 ガキィンッ、バチバチバチバチッ!!
 金色の魔力刀が、繰り出された黒い斬撃とぶつかり火花を散らす。
「諦めちゃだめだ」
「フェイト……」
 ユーノを庇い、フェイトはバルディッシュを構える。
『Thunder slash』
 バルディッシュの、黄金の輝きが増す。
「私と母さんは、心の底で諦めてた。だから、何もうまくいかなかった。アリサとユーノ
が、私と母さんに諦めない事を、終わりのないことを教えてくれた。だから、私はここに
いる、アリシアが、そばにいる」
 フェイトがバルディッシュを振るう。再び、2つの魔力刀が交錯し、激しい火花を散ら
す。
「我は闇の書、主の為に、永遠の闇をつむぎ続ける」
「だから……なのは」
 フェイトは、静かに、しかし、はっきりとした口調で、背後のなのはに、問いかける」
「これ、間違ってたら、訂正してほしいんだけど……」
 そして、フェイトは“闇の書”をにらみつけ、声を荒げた。
「人を不幸にするための永遠なら、そんな永遠、私がブチ壊してやる……!」
「フェイト……」
 ユーノが、一瞬、その顔に見とれる。
「間違ってないよ……」
 なのははL4Uを握りなおし、静かに、しかし、やはりはっきりと、答えた。
「アリサちゃんならそう言うよ!」

「…………ここば、どこや?」
 はやては、ぼんやりと眼を覚ます。
 確かに、自分は愛用の電動車椅子に乗っている。すずかがいじってバッテリーの容量と
電動機最大回転速度を3倍にした代物だ。これで赤い彗星もメじゃあらへん……
 だが、感覚に上下間がしっかりしない。まるで宙に浮いているような、不安定な感覚。
「今しばらく、お休みを、我が主」
 誰かが、はやての目の前で、優しげに、そう言った。
「誰…………やったっけ?」
 呟いておいてから、記憶の片隅に浮かんだ、存在のことを思い出す。
 長身の女性。透き通るような銀髪。鮮やかに紅く、澄み切った、しかし、決して光を外
に反射しない、昏い瞳。
「せや……闇の書、管制人格……」
「はい」
 守護騎士たちと同じように、闇の書は、その場に跪いて頭をたれる。
「もうしばらく、この時間の中にいてください、主……すべてが、終わるまで」
「終わる……?」
 言葉の意味が理解できず、はやては、聞き返した。
「はい、主を拒んだ、この忌まわしい世界が終焉を迎えるまで……」
「世界が、終焉……そか……」
 頭は、言葉の意味を理解できなかったが、はやてには、それは、とても心地の良いもの
に聞こえた。
 ────…ちゃん……
 まどろみの心地良さの中に、耳鳴りのように、ひとつの声が、響き始める。
「なんや……煩いなぁ……」
「主?」
 はやての言葉に、闇の書はわずかに顔色を変え、首をかしげた。
 ────てちゃん!
「せやから、今度は誰やねん……」
「誰とは? 主、ここには私と、主の2人きりですが」
 鬱陶しそうに訊ねるはやてに、闇の書は怪訝そうに、再度聞き返す。
「え…………?」
『はやてちゃん!』
 一瞬、はやての脳裏に、自分の影を自称する守護騎士が、自分の名前を叫び続ける姿が、
走る。
「!!」
 はやては眼を見開き、完全に覚醒すると、慌てて身体を上げた。
「闇の書!? 今なんて言うた!? 外、どないなってるんや!?」

「え…………?」
 わざわざバスに乗って現れた、小さな友人達と、談笑していたアリサは、しかし、その
言葉を聴いたとき、驚いて、瞳を開けた。
「なのはのお父さん、いないって……死んじゃってるって、どういうことよ!?」
 アリサは思わず、実体のない身体を乗り出し、小学2年生の少女『高町なのは』に、そ
のことを問い質していた。
「にゃ……どういうことって、言われても……」
「なのはのお父さんって、士郎さんでしょ? 高町士郎さん!」
 アリサが問い質すと、今度はなのはが、目を円くした。
「にゃ!? アリサちゃん……どーして、うちのおとーさんのこと、知ってるの?」
 なのはは、首をかくん、とかしげて、アリサに訊ね返してきた。
「知ってるに決まってるじゃない、喫茶『翠屋』のマスターで、翠屋JFCのオーナーで……」
「じぇいえふしぃ?」
 なのはは、再度、首をかしげる。
「小学生の、サッカーチームのことよ、それで、あたしの同年代にも、そこに加入してる
男の子がいたりして!」
 アリサは、解説し、されに、まくし立てる。
「にゃ……それは無理だと思うよ……なのはのおとーさん、なのはが生まれてすぐに死ん
じゃってるから」
「えっ!?」
 その事実を告げられ、アリサは顔を硬直させる。
「ちょ、ちょっと待って……」
 アリサは、空中で器用に胡坐を書くと、右手の人差し指を自分の額に当てて、首を捻る。
 ────まて、まて、落ち着け、あたし。O.K.?
 形だけの深呼吸をして、気分を落ち着かせる。
 ────そもそも、なんであたしはなのはの家の事まで知ってる? この前、久遠に連れ
られてきたばかりの女の子なのに……あたしと他に、直接つながりがあるとすれば、小学
校の先輩後輩だって言うことぐらい。
「アリサちゃん……顔怖い……」
「きゅーん……」
「え!?」
 声に、はっと視線を上げれば、そこに、怯えた様な姿の、なのはと、久遠がいた。
「あ、い、いや別に、どうしもしてないのよ、うん」
 年下を怖がらせてどうするっ、と、アリサは自分の頭を軽く小突き、無理に笑って、そ
う言った。
 ────あれ?
 アリサはしかし、そうやってあやしたなのはの姿にも、急に違和感を覚えた。
 ────、待って、おかしい。何かがおかしい。あたしは……アリサ……?
 何かもどかしくなり、アリサは、衣服のあちこちをごそごそと探る。なぜそうしたのか
は、解らない。本当に、無意識の行動だった。
「!」
 首元に、なにかが下がっている。ペンダントのついたネックレス。
「これは……あれ? あたしこんなのつけてたっけ?」
 見覚えのない、紅い宝石のようなものがついた、ペンダント。ネックレスをつまんで、
持ち上げる。
「きれーだね。アリサちゃんのじゃないの?」
 なのはも、その宝石を見つめて、言うと、アリサに、視線を移した。
「良く覚えてないのよね……」
 アリサは記憶をたどる。何かもやもやが、今まで壁にさえぎられていた何かが、こちら
側に来ようとしている、そんなもどかしさを覚える。
『Good morning. Master』
「!」
 アリサは、息を飲み込み、眼を真ん円くして、その宝石を、見た。
「すっごい! この宝石、しゃべるんだ! ねぇ、アリサちゃん!」
 なのはは無邪気そうに、アリサを見上げる。
「アリサちゃん?」
 だが、アリサは茫然自失したように、その赤い宝石を、ただただ、見つめていた。

 ズドォォォンッ
 どこかで、爆発音がした。
 驚いて、ユーノやフェイト達が振り返ると、市街地のどこかで、火の手が上がっていた。
「な、何を」
 したんだ、と、ユーノが問い質そうとしたとき。
 ズドォォォンッ
 別の方角から、やはり、爆発音。
 紅蓮の炎が、漆黒の闇に侵された空を、今一度、煌々と赤に照らし出す。
「早いな、もう暴走が始まったか」
 “闇の書”は、自らの両手の手のひらを見る仕種をしながら、淡々と、そう言った。
「しかし、これこそ我が主の望みをかなえる手段……ゆえに、誰にも妨げはさせぬ……」
 呟くと、新たに、魔力弾を生み出そうと、印をくくり、術式を起動させる。
『3人とも、聞こえてる!?』
 エイミィからの念話が、ユーノやフェイト達に、飛び込んできた。
『たった今、すっごい不思議なことなんだけど、アリサちゃんのバイタルが復活したの!』
『どういうこと!?』
 ユーノは、思わず、弾むような声で、エイミィに聞き返していた。
『良くわからないけど、アリサちゃん、もしかしたら自分で復活した?』
『アリサならやりかねない』
 エイミィが、冗談交じりに言うと、フェイトは、大真面目に、その内容を肯定する言葉
を発した。
「あ、はは……」
 一番付き合いの長いなのはは、乾いた笑いを上げるしかできなかった。
『今は闇の書に吸収されて、捉われている状態だけど、とにかく生きてる』
「でも、そうしたら、どうすれば……」
 エイミィの声に、明るさを少し、取り戻すも、すぐにフェイトは、そう言って、唇を噛
むんだ。

「これはどういうことやねん!」
 仮想的に表示された、非実体ディスプレイ越しに、炎上する海鳴市を見て、はやては素
っ頓狂な声を上げた。
「はい……主の望みのままに、すべてを終わらせているところかと」
「なんやて────」
 闇の書の答えに、はやては絶句する。
「ちがう、あたし、こんなん望んでへん! 世界の終わりなんて、望んでへん! あたしが
望んだのは、ただ、普通の人らしく、家族に囲まれて、平穏に生きることや。こんなん、
あたしの望み違う。望んでへん!」
 はやては闇の書に食いつき、立ち上がって掴みかからんばかりの勢いで、迫る。
「しかし……自動防衛システムが、その命令を実行に移してしまっているのです。止める
ことは……できません。もう、できないのです」
 闇の書は、ただ、悲しげに、はやてに、そう言った。
「止める」
 しかし、はやては、そう、言い切った。
「主? それは、無理です!」
「何言うてるんや。マスターはあたしやで? 無理もグリコもあらへん。止める言うたら、
止めるんや!」
 悲壮な叫びを上げる闇の書に、しかし、はやては、断固たる姿勢を見せて、そう言った。
「無理です、防衛システムは……私自身にも止められない。私を、『闇の書』たらしめてい
る部分なのです。主を食いつぶすか、世界を破滅させて自壊するまで、止まらないのです」
「…………」
 はやては、険しい表情をいったん緩め、闇の書を、振り返る。
「それがあかん……」
「え?」
 ぽつり、と言ったはやての言葉に、闇の書は、思わず、といった感じで、聞き返す。
「闇の書なんて呼んどるから、こうなってしまうねん。あたしが、新しい名前を与えたる。
だから、もう、『闇の書』の、歴史を閉じよ」
「主…………」
 はやてはやさしく微笑み、闇の書の、管制人格に向かって、そう、語りかけた。
 ────強く支えるもの
 ────幸運の追い風
 ────祝福のエール
 ────汝、その名を……
「リインフォース、セットアップ」

 ────夜。
「レイジングハート、セットアップ」
『O.K. Master』
 赤い宝石が言葉に答え、大きく膨らむと、その周囲に、片刃の西洋剣を模って、展開さ
れる。その柄を、アリサは握った。
 穢れをはらうように、一瞬、アリサのつま先から頭まで、オレンジの炎が走る。ドレス
に代わり、水色のレオタード状のスーツに、白い短ジャンバーにミニスカートというバリ
アジャケットが、装着される。
「…………見つけられたんだ、自分で」
 この夜、訊ねてくるのは、『高町なのは』の筈だ。だが、かけられたのは、それとは別。
もっと、ずっと、当然のように毎日聞いている、声。
 アリサは振り返る。
 そこに、自らの鏡像がいた。
「アンタが、アリサ・ローウェル?」
「そうよ、アリサ・バニングス」
 先ほどまで、アリサが纏っていたのと同じ、オレンジ色のドレスを着た少女は、苦笑交
じりに、そう答えた。
「この世界はどうだった?」
「わかんないわよ。こんな短い時間じゃ」
 アリサ・ローウェルの問いかけに、アリサ・バニングスは、少し唇を尖らせて、不満そ
うに、言う。
「そっか」
「そういうアンタこそどうなのよ。この世界は、不幸だ、不公平だ、なんて顔は……して
ないわよね?」
 からかうような笑顔で、アリサ・バニングスは、アリサ・ローウェルに訊ねる。
「そうよ、あたしはとっても幸せだもん」
 アリサ・ローウェルは、悪戯っぽく笑い、そう言った。
「ん、それなら別に、良いんじゃない?」
 アリサ・バニングスは、苦笑交じりに、もう1人の自分を見る。
「この世界の正体、解ったんでしょ?」
 アリサ・ローウェルは、穏やかに笑いながら、そう訊ねた。
「なんとなくはね」
「多分、それで正しいわ」
 アリサ・バニングスが答えると、アリサ・ローウェルはさらっ、とそう答えてから、さ
らに言葉を続ける。
「この世界はね、あなたの住んでいる時間軸とはまったく別の……本来なら決して交わる
ことのない、並行世界の記憶。あなたの住んでいる世界とは、ほんの少しだけ違う不幸が
あって、その分、同じだけの少し違う幸せがある、別の可能性を進んだ世界……それを、
闇の書が、写し取ったものなのよ。今あなたが過ごしているこの時間は、単に、闇の書の
中に記録されているビデオの映像のようなもの」
「どーりで、あちゃこっちゃにリアリティがないはずだわ」
 アリサ・バニングスは、肩をすくめて、苦笑した。
「イデアシードっていう、魔法の宝石が記録したもの。それを、闇の書が、取り込んでい
ただけ。ただ、あなたに都合が悪い世界ということで、選ばれて、再生された」
「んん〜? その割には、結構ニコニコ楽しく祟りライフやってたんじゃないの?」
 アリサ・ローウェルの説明に、アリサ・バニングスは意地悪そうに笑い、そう言った。
「アンタ底意地悪いわね」
 アリサ・ローウェルはむっとして、アリサ・バニングスに向かって不愉快そうに言う。
「そりゃ、相手があたしだもん」
「それもそっか」
 あはははは、と、笑い声を交わす。
 そして、アリサ・バニングスは、レイジングハートを構えなおす。
「もう、行っちゃうの?」
「外で、待ってんのよ」
 アリサ・ローウェルが訊ねると、アリサ・バニングスは、短く答えた。
「友達?」
「それと、婚約者」
 ブッ
 アリサ・バニングスの答えに、アリサ・ローウェルは、反射的に吹いた。
「こ、こ、こ、婚約者ぁ? アンタ、ホントは私よりひとつ下でしょ!?」
「いーじゃない。別に。アンタが結婚するわけじゃないんだから」
 眼を白黒させるアリサ・ローウェルに、アリサ・バニングスは、その態度が少し気に入
らない、と、不愉快そうに言う。
「待て、年上か? まさか同い歳……なんてことはないわよね?」
「残念、そのまさか」
「ちょっと待て。やめろ。考え直せ。この先出会いはいくらでもある」
「でも、あいつの代わりはいないのよ」
 アリサ・ローウェルが握ってくる手を、アリサ・バニングスは、軽くあしらうように払
う。
「ま、アンタが選んだんなら、それなりの男なんでしょうね」
「もちろん、アンタが見たら、嫉妬しそうな程のいい男よ」
 やれやれといった感じで、ため息をついて苦笑するアリサ・ローウェルに、アリサ・バ
ニングスは、にっと笑って、ウィンクした。
「さて、それじゃあ、レイジングハート」
『O.K. Master』
 アリサ・バニングスの言葉に、レイジングハートが答える。
「……ねぇ」
 その背後から、アリサ・ローウェルが、声をかけた。
「あによ、まだなんかあんの?」
 アリサ・バニングスは振り返り、きょとん、と、相手を見た。
「これ……もって行ってくれる?」
 アリサ・ローウェルは、そう言って、宝石のようなものを、差し出した。それは、待機
時のレイジングハートよりもやや大きく、涙滴の形をしている。色は、鮮やかなオレンジ
色────今、アリサ・ローウェルが着ている、ドレスのような色だった。
「何、これ?」
「ロイスって言うの。イデアシードの残滓。思念の結晶体。これに記録されているのは……
あたし」
 アリサ・バニングスが問いかけると、アリサ・ローウェルは、そう、答えた。
「と言っても、コピーみたいなものだけどね。そもそも、本物のアリサ・ローウェルは、
とっくに成仏しちゃってるし」
「我ながら日本人に染まってるって思うわぁ……」
 アリサ・バニングスは、眼を細めて呆れるように言ってから、
「でも、そうしたら、これは……」
 と、アリサ・ローウェルに視線を向け、そう訊ねる。
「連れて行って。アンタはあたしであってあたしじゃないけど、見てみたい。別の可能性
の世界で、あたしがどんな世界を見て、どんなことをするのか」
 アリサ・ローウェルの言葉に、アリサ・バニングスは一瞬、呆ける様にしてから、しっ
かりと、頷く。
「うん、それぐらい、お安い御用よ」
 そう言って、ウィンクした。
 そして、受け取ったRoiSを、レイジングハートのコアに、近づけた。
「良いわね、無くさないでよ」
『No problem, Master』
 そう言って、レイジングハートは、RoiSを、コアの中に取り込んだ。

「システム名称変更完了。『リインフォース』全システム、リフレッシュ。ただし、自動
防衛システムは、これに含まれません」
「まぁ、それは何とかなるやろ」
 車椅子は消え、はやては空間の中を浮遊し、直立の姿勢になっていた。

「へーっくしょい!」
 緊張の中だと言うのに、ユーノは、盛大にくしゃみをしてしまった。
 なんだか、背筋が薄ら寒いような気もする。ここのところの無理が祟って、風邪でも引
いてしまったのだろうか?
「?」
「ユーノ君! フェイトちゃん! なんか、様子が変だよ」
 ユーノが首をかしげていると、なのはが、“闇の書”を見て、そう言った。
 “闇の書”は、ギシギシと軋む様な音を立てつつ、動きを止めている。
「何かが、動いた」
 フェイトが、言う。
『えーっと、あのー、すいませんー、管理局の方ですか?』
 “闇の書”の内側から、はやての声が、まるでスピーカー越しのように、聞こえてくる。
 フェイトとなのはは、一瞬、顔を見合わせる。
「管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ」
『あ、そうか、アンタがフェイトちゃんなんやねー。って、こんな事言うとる場合ちゃう
ねんな』
 関西弁のノリツッコミを軽く入れつつ、はやては言葉を続ける。
『この子の制御、取り戻したんはええねんけど、自動防衛システムだけは、いうこと聞い
てくれへんねん。けど、今外装制御しとるの防衛システムやから、あたしら、外に出られ
へんねん』
「そうか」
 はやての言葉に、ユーノは、はっと気がついたように、言う。
「シグナムさんも言ってた、今僕達に見えているのは、はやての表層を、自動防衛システ
ムが借りて使ってるだけだって。だとすれば、はやてやアリサの本質は、あの内側にある
んだよ」
「えっと、でも、どうすれば?」
 フェイトは戸惑い、ユーノを見る。
「簡単だけど、その、僕にはできないから、フェイトに頼むしかないかな」
「え、あ……うん」
 聞き返しかけて、フェイトは、ユーノの意図に気付き、頷く。
『Magazine Release』
 バリアジャケットにくくりつけたポシェットから、新しいカートリッジを取り出す。バ
ルディッシュが、空のカートリッジを切り離すと、そこに、新しいマガジンを、連結する。
「…………いけるね、バルディッシュ」
『Yes, Load Cartridge』
 ドンドンドンッ、立て続けに3発、バルディッシュはカートリッジを撃発させる。
『Phalanx shift』
 一度、ファランクスシフトを発動。魔力のスフィアを、周囲に集束させつつ、バルディ
ッシュの刀具の正面で、術式を展開する。
 それは、レイジングハートが持ち得ていながら、アリサの魔力資質が満たないために、
使うことのなかった術式。レイジングハートから、バルディッシュに託された魔法。
『Star light breaker』
 ファランクスシフトで展開した魔力スフィアを、一度バルディッシュのコアに集束させ、
指向性を持たせ、一気に、解放する。

『Load Cartridge』
 ズドンッ
 2発のカートリッジを、一気に撃発させたレイジングハートは、その身を、鮮やかなオ
レンジ色に染める。
 レイジングハートにも、バルディッシュから託された術式があった。クロースレンジに
特化し、なおかつハイパワーのカートリッジシステムを積む、アリサに贈られた魔法。
『Flame Zamber breaker』
「いっけぇぇぇぇぇぇっ!!」



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目次:燃え上がる炎の魔法使い
著者:( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc

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