[142] 燃え上がる炎の魔法使い 4-01/10 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/02(土) 07:14:14 ID:hPPz7VPh
[143] 燃え上がる炎の魔法使い 4-02/10 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/02(土) 07:14:47 ID:hPPz7VPh
[144] 燃え上がる炎の魔法使い 4-03/10 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/02(土) 07:15:33 ID:hPPz7VPh
[145] 燃え上がる炎の魔法使い 4-04/10 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/02(土) 07:16:18 ID:hPPz7VPh
[146] 燃え上がる炎の魔法使い 4-05/10 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/02(土) 07:16:48 ID:hPPz7VPh
[147] 燃え上がる炎の魔法使い 4-06/10 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/02(土) 07:17:16 ID:hPPz7VPh
[148] 燃え上がる炎の魔法使い 4-07/10 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/02(土) 07:18:05 ID:hPPz7VPh
[149] 燃え上がる炎の魔法使い 4-08/10 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/02(土) 07:19:14 ID:Lfuxvi4U
[150] 燃え上がる炎の魔法使い 4-09/10 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/02(土) 07:19:38 ID:Lfuxvi4U
[151] 燃え上がる炎の魔法使い 4-10/10 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/02(土) 07:20:05 ID:Lfuxvi4U

 揺らぐ次元空間。

 炎に包まれる船。
 その船を蝕んでいく、生身のような、しかしグロテスクな、────混沌。
「制御系を乗っ取られました、離脱不可能……このまま本艦ごと、撃ってください!」
「しかし……」
「奴は、本艦のアルカンシェルを起動しようとしています! 手遅れにならないうちに、
早く!」

 ────閃光。

燃え上がる炎の魔法使い〜Lyrical Violence + A’s〜
 PHASE-04:Glut

「最終面接、と言っても、儀礼的なものだからね、もう、手続きは進んでしまっているし」
 Dec.15.2005(JST)────時空管理局本局、次元巡航警備部本部
 廊下を歩きながら、クロノはフェイトに言う。
 こくん、と、緊張した面持ちで、フェイトは頷いた。
「それは解るけど、なんであたし達まで一緒なのよ?」
 2人の後ろに、アリサ、ユーノ、なのはが、ぞろぞろと続いている。アリサが、少し納
得いかなさげに、クロノの背後から訊ねた。
「是非、君達にも同席して欲しいって言う、要望なんだ。それに、君達はフェイトの件、
PT事件の、当事者でもあるんだぞ」
 クロノは、アリサを振り返って、そう答えた。
「かなり、高名な方なんでしょう?」
「若い頃は、勇士として鳴らしたらしいけどね。でも、良い人だよ」
 フェイトの問いに、クロノはそう答える。
 クロノがそう言うのだから、よほどなのだろう。
 やがて、小会議室と書かれた部屋の前で、クロノが歩みを止める。他の4人も、それに
倣った。
 クロノは、軽くノックをしてから、
「失礼します」
 と、言いながら、圧縮空気式の自動ドアを、開いた。
「おお、クロノ君か。久しぶりだな」
 表情を崩して言う、長身の男性。その顔に刻まれる皺は重ねた年齢を感じさせるが、し
かし、肉体は衰えているようには見えず、矍鑠と、直立の姿勢で、クロノを迎えた。
「嘱託魔導師希望者1名、それと、提督が面会を希望されていた3名、お連れしました」
「おお、入ってもらってくれ」
 どこか歓んだような声を上げつつ、老提督は言う。
 クロノが身振りで促し、フェイトを先頭に、アリサ、ユーノ、なのはが入ってきた。
「フェイト・テスタロッサ、です。よろしくお願いします」
 フェイトは老提督と正対し、名乗り、ぎこちなく頭を下げた。
「ギルバート・グレアムだ。宜しく」
 そのいかつい顔を、しかし優しげに綻ばせて、老提督は挨拶を返した。
「それと……」
 グレアムの視線が、横に並ぶ3人に向いた。
「アリサ・バニングスと……」
「ユーノ・スクライアです!」
 アリサの言葉を途中で遮り、ユーノは高く声を上げた。
 アリサが、横目でユーノを睨む。
 そんな光景を見て、「にゃはは……」と、困ったように苦笑してから、
「高町なのはです」
 と、なのはは、頭を下げた。
「アリサ君となのは君は、日本出身だと聞いていたが、アリサ君は……」
 小首を傾げるように捻って、グレアムはアリサを見る。
「イギリス人です。と、言っても、あたし自身は、ずっと、日本で暮らしてきましたが」
「イギリス? イングランドかね?」
 アリサの答えに、グレアムがそう、聞き返してきたので、アリサは軽く驚き、目を円く
した。
「あ、はい、そうです」
「そうか、アリサ君と私は同郷か」
 グレアムの言葉に、アリサはさらに目を円くする。
「私の故郷は、ノーサンバーランドの片田舎でね。そう、魔法との出会いも、君と良く似
ている。もっとも、私が助けたのは、管理局の局員だったんだがね」
 アリサは、ユーノと顔を見合わせた。
「アリサ、解るの?」
「行った事はないけど、だいたいならね」
 ユーノとアリサのやりとりを、グレアムはその容姿に似合わず、好々爺然とした穏やか
な笑顔で、見ていた。
「もう、50年前の話だがね」
 どこか遠い目をしつつ、グレアムは楽しい思い出を思い出すように、笑顔で言った。
「まぁ、とりあえず、みんなかけたまえ」
 グレアムに促され、4人は彼と対面に、腰かける。1人、クロノだけが、いつもの彼らし
くなく、キョロキョロとあたりを見回し、落ち着かない態度を見せていた。
「どうしたの、クロノ君?」
 なのはがそれに気付き、振り返って、クロノに問いかける。
「いや、なんでもないんだ」
 クロノは、そう言うが、やはり、どこか挙動不審である。
「すみません、提督。今日は、リーゼ達は……」
 クロノは、グレアムに向かって、そう問いかけた。
「あの子達なら、教導隊の仕事があってな、来ておらんよ。君に会えなくて、残念がって
いたがね」
 2人に共通する知り合いなのか、クロノの問いに、グレアムは答えた。
「そ、そうですか……」
 クロノは、誤魔化すように苦笑する。まったく、彼らしくない。
「?」
 アリサとユーノは、揃ってクロノを見て、首をかしげた。
「おかしなクロノ君」
 少し、不満そうな口調で、なのははそう言った。
「さて、フェイト君」
 グレアムが言い、フェイト達もグレアムに向き直った。
「君は、先の事件で、得たものがあるはずだ。それは、他人に説明されるまでもなく、解
っているね?」
「はい、大切な人────」
 フェイトの脳裏に、絆をつないだ人達の顔がよぎる。
「家族────」
 アリシア、アルフ、リニス……
「友達────」
 アリサ、なのは、ユーノ……
「大切な人達との、絆、信頼」
 クロノ、リンディ、エイミィ…………。
「信じる心」
 フェイトの言葉に、グレアムは頷く。
「君がそれを大切に出来ると、決して捨てたりしないと約束できるのなら、私からは、こ
れ以上、何も言う事はないよ」
 グレアムは優しく微笑み、そう言った。
「ありがとう、ございます」
 フェイトは顔を僅かに紅潮させつつ、笑顔でそう言った。
 それからさらに、グレアムは4人といくらか言葉を交わしてから、解散となった。
 4人は出入り口で頭を下げてから、小会議室を出て行った。
 それに続きかけて、クロノは退室ぎわに、グレアムを振り返った。
「もうお聞き及びかと思いますが、第1級指定ロストロギア、闇の書が、発現しました」
「うむ」
 グレアムの表情が、それまでの緩んだものから、一気に険しいものへと締まる。
「先ほど、我々『アースラ』スタッフが、正式にその捜索・回収任務に任命されました」
「そうか、君が……君と、リンディ君が、か……」
 グレアムの口調は、重々しい物になっていた。
「こんなことを言えた義理ではないが、無理だけは、しないようにな」
「窮地においてこそ、冷静であれ。…………提督の教えの通りです」
 グレアムの重々しい言葉に、クロノは、いつもの落ち着き払った口調と表情で答えた。
「そう、か」
 頷きながら、グレアムは、詰まりがちに言った。
「それでは、失礼します」
 そう言って、クロノが出て行った後も、グレアムは、しばらくの間、それを見送ってい
た。

「うっわー、こんなとこに住むの!?」
 Dec.17.2005────日本国 東京都 海鳴市。
 小田急電鉄海鳴駅から徒歩3分、商店街にも程近い中層マンション。
 そこを、本部兼、ハラオウン家住居とすることになったと知り、アリサとなのはは、興
奮したように声を上げた。
「ここ、2人の家から近いって、リンディ提督は言ってたけど……」
 最上階。一室の玄関の前で、アリサ、なのはと、フェイト、アリシアが話し合っている。
その間にも、『アースラ』スタッフの手によって、調度品や家電製品が、3LDKの室内に運
ばれていく。
「なのはの家はすぐ近くかな、うちからはちょっと離れてるけど、そんなでもないわよ」
「それより、ほら、翠屋が、ここから見えるよ」
 ベランダ状になっている通路の手すり越しに、なのはが指差す。
「あ、ホントだ」
 駐車場を挟んで道路の反対側に、翠屋が見えた。
「みどりや?」
 アリシアが、不思議そうに振り返って、フェイトの顔を見た。
「なのはのお父さんとお母さんがやってる、喫茶店。ケーキがとっても美味しいんだ」
 フェイトも、薄く微笑みながら、アリシアにそう説明する。
「へぇー」
 説明されると、アリシアは手すりに両手でしがみついて、翠屋を凝視した。
 プァァァァァァッ!
 そんな、電子式のラッパのような音が聞こえてきたかと思うと、僅かに経って。
「きゃあぁぁぁっ!?」
 室内の方から、リンディの悲鳴が聞こえてきた。
「クロノ、どうしたの? エイミィさん!?」
 4人は驚いて、顔を見合わせる。
「何かあったのかも……っ」
「ああ、大丈夫だよ」
 アリサ達が室内に上がろうとすると、正面、奥からユーノが出てきて、緊張感のない口
調でそう言った。
「クロノとエイミィさんが、ちょっと驚いて、卒倒しただけだから」
「え?」
 ユーノにしては珍しく、少し意地悪そうな顔で言う。
 フェイトは、怪訝そうに眉をひそめた。
「くっ、クロノ君、クロノ君!?」
「ユーノ……アンタ……やったわね?」
 取り乱して奥に入っていくなのは。それを他所に、アリサがユーノを軽く睨みつつ、呆
れたように言った。
「たまにはね。エイミィさんには、悪いことしちゃったけど」
 ユーノは、そう言って苦笑した。
「えーっと、ここで良いのかな」
 今度は、玄関の外から、アリサにとっては忘れるはずもない、ユーノにとってもすっか
り馴染んだ、フェイトにとっても聞き覚えのある声が、聞こえてきた。
「こんにちわー、お邪魔しまーす」
 僅かにソバージュのかかった艶やかな髪の少女、月村すずかが、玄関のドアの外にいた。
「すずかー」
 アリサが声を上げる。
「あ、えっと……すずか、久しぶり」
 フェイトははにかみながら、すずかに向かって挨拶する。
「直に会うのは半年振りだね……元気だった?」
 すずかは、優しげに微笑みながら、そう言った。
「うん。すずかは?」
「私も、元気だよ」
 聞き返すフェイトに、すずかはそう答えて、にこっ、と、満面の笑顔になる。
「えっと……」
 アリシアが、すずかの顔を見上げて、腕を組んで、小首を傾げる。
「アリシア、ビデオメールで何度か見たよね、すずかだよ」
 フェイトが言うと、アリシアは、ぽん、と、手を叩いた。
「すずか! 始めましてだ!」
 アリシアはそう言って、嬉しそうに笑う。
「そっか、直接は、始めましてだね」
 すずかはそう言って、アリシアの頭を撫でた。
「むーっ、すずかまであたしの事子供扱いするっ」
 途端に、アリシアの表情が不機嫌そうになり、口を尖らせて、そっぽを向いてしまった。
「あ、えっと……?」
「だから、すずか、前にも言ったじゃない」
 突然豹変したアリシアの態度に、すずかが戸惑っていると、やれやれといった感じで、
アリサが肩をすくめながら、言った。
「アリシアはフェイトのお姉さんなのよ。うちらより年上」
「生まれた日から数えれば、多分、クロノよりも」
 アリサの言葉に、フェイトが付け加える。
「あ、そうなんだ……」
「っつかアンタあの時その場にいたでしょうが」
 のんびりとした口調で言うすずかに、アリサは思わず突っ込んだ。
「そういえばそうだね」
 のんびりとした口調のまま、すずかはそう言ってから、視線をアリシアの方に向け、
「ごめんね、アリシアちゃん」
 と、苦笑交じりに、言った。
「わかってくれれば良いのよ」
 アリシアは、即座に口元を綻ばせて、視線をすずかに戻した。
「うぅ……こんな密集地帯の細い隙間を、あんな速度で……この世界の住人は、狂気じみ
てるな……」
 フェイトとアリシアの背後、奥の方から、クロノの声が聞こえてくる。なのはとアルフ
に支えられつつ、クロノがまだ血色の悪い顔で、出てきた。
「何を大げさなこと言ってるんだか」
 アルフが苦笑しながらそう言った。
「君は、見ていなかったから、そんなことが言えるんだ。あれは、常識の範疇を超えてい
るぞ」
 クロノは、アルフを振り返り、言う。その言葉には、いつもの覇気がない。
「アルフさん、久しぶりです」
「おう、すずかじゃん、おひさー」
 すずかの姿に気付き、アルフも満面の笑顔で挨拶を返した。
「いつかは世話になったねー」
「いいえ。構わないですよ」
 笑顔で、アルフとすずかはやりとりをかわす。
 そうして、一言二言、皆で言葉を交わしていると、玄関のドアがコンコン、と、ノック
された。隙間から、緑に黄色のアクセントの入った制服を着た配達員が、見える。
 アリシアが率先してドアに近付き、ドアを大きく開けなおす。
「はい、何か御用でしょうか?」
「えっと、ここって、リンディ・ハラオウンさんのお家でいいのかな?」
 宅配業者の配達員は、アリシアにそう、優しげに問いかける。だが、いかにもその、小
さな子供を扱う態度に、アリシアは不機嫌そうに口を尖らせた。
「そうですけど」
 さすがに他所様に反論はせず、アリシアは態度を悪くしつつも、そう答えた。
「えっと、お家の人、いないかな? お母さんとか」
「母は半年前に死去しましたが、なにか?」
 さすがにムッと来たのか、アリシアは仏頂面でそう返した。
「え、ええ!? そ、それはごめん。いや、その、お届け物の荷物があってね」
 配達員はうろたえて、慌てて頭を下げる。
「こら、アリシア、事情を知らない人を困らせるんじゃない」
 クロノが出てきて、アリシアを諌める。
「すみません、何の御用でしょうか?」
 クロノは、視線を上げて配達員を見ると、そう訊ねた。
「お兄さんかな? えっと、他にはお家の人、今、いないのかな?」
 ガーンッ
 クロノの脳内に衝撃の鐘の音が響いた。目が白抜きの○になる。
「ぼ、僕はこれでも14歳ですよっ」
 灰の様に燃え尽きたクロノを他所に、アルフが代わりにサインをする。“テスタロッサ”
と書きかけて、「いけないいけない」と直したが、それは余禄。
「なんだい、これ? 衣類って書いてあるけど……」
 フォーマルな服が収まりそうな箱が、2つ、アルフに手渡されていた。
 それを見て、アリサとユーノ、なのは、すずかが、顔を見合わせる。
「ひょっとして……」
 4人は、にっと笑った。
「開けてみると良い。週明けから、君たちが使うことになる服だ」
 ようやく立ち直ったのか、アルフの背後から、クロノが、フェイトとアリシアに向かっ
て言う。
 手渡されたフェイトとアリシアが、不思議そうな顔をしながら、それを開けると、果た
して、中から出てきたのは、アリサやユーノ、なのは達が見慣れた、白い制服だった。
「わぁ……」
 2人より先に、なのはとすずかが声を上げた。
「えっと、これ……」
 フェイトは戸惑いがちに、クロノを見上げる。アリシアは、無邪気そうな笑顔で、それ
を見つめていた。
「週明けから、アリサやなのは達と同じクラスだ。2人ともって言うのは、本来ルール違
反らしいが、無理して、そうしてもらった」
 クロノが、そう答える。
「えーっ!?」
 その言葉に、アリシアが、驚いた声を出し、不満そうに、言う。
「私もフェイト達と、同じ学年ー!?」
「君は、本来なら、それより下の学年までしか、教育を受けていないんだぞ。まぁ、ミッ
ドと日本では、教育制度自体が違うから、単純には、すり合わせられないが」
「むー」
 クロノが説明するが、アリシアの表情は晴れない。
「それに、今、フェイトやなのは達が、あの連中に狙われているって事、考えてくれ。ア
リサも含めて、デバイスが、修理中なんだぞ」
「あ……そっか」
 アリシアは表情の緊張を解く。
「まぁ、昼間は襲ってこないと思うが、あくまで推測だからね。それとも、君は危険が迫
っている妹を放り出すような、姉だったのかい?」
「そんなことないっ」
 アリシアはクロノに向き直って、向きになった声を上げた。
「フェイトも他の友達も、あたしとブローバが護るっ」
「アリシア……」
 アリシアの言葉に、フェイトはどこか嬉しそうに、瞳を潤ませた。
「にしても、連中も結局、あたしよりなのはやフェイトの魔力狙いかー」
 こんどはアリサが、口元では苦笑しつつ、不貞腐れた様な声を出した。
「そうじゃなくて。君は既に一度、蒐集されてしまったからね。同じリンカーコアを2度
抜いても、意味が無いんだ」
「どういうことよ?」
 クロノの説明に、アリサはキョトンとして、聞き返す。
「ここではなんだ、奥で説明しよう」
 クロノが言い、一同を奥に案内する。
「アリサちゃんたち、なにかまた、事件に巻き込まれてるの?」
 すずかが、不安そうな表情で、アリサに訊ねた。
「んー、まぁ、ちょっとね」
 アリサは、たいした事はない、というように、そう軽く返事をした。
 LDKに移動すると、そこに、『アースラ』艦内のそれのような、非実体モニターが浮か
び上がる。
 アリサとなのは、フェイトとアリシアは、クロノの勧めるままに、ソファに座り、それ
と向かい合った。
「第一級指定ロストロギア、『闇の書』。これは一種のストレージシステムなんだが、そ
の扱いは剣呑なものでね」
 モニターに資料映像が映し出され、クロノが説明を始める。
「蒐集といって、魔導師のリンカーコアを抜き出し、食うんだ。そうして、魔力と情報を
蓄積していく。それは、闇の書の白紙のページに書き込まれる状態で、完成に近付く」
「完成?」
 一同がモニターに注視する中、ユーノがクロノに視線を向けて、聞き返した。
「そう、666ページ集まると、完成体になり、持ち主は、莫大な魔力を行使可能になる。
ただ、その結果は、あまりろくな事に、なっていない。そして、持ち主が死ぬと、“転生”
という形で、初期状態に戻り、また、次の持ち主の元に現われる」
「はー、こりゃまた、厄介なもんねぇ」
 アルフが、ぼやくように、そう言った。
「あの連中はなんなのよ、シグナムとか」
 アリサが、クロノを振り返り、問い質す。
「あいつらは、守護騎士システムといって、闇の書に付属する魔法のひとつだ。闇の書の
持ち主の手足となって、蒐集の手助けをする、一種の擬似生命体だ」
「擬似生命体……」
 そのフレーズに、反応したのは、フェイトだった。
「つまり、私のように作られた存在……と、言う事ですか?」
「ちっがーうっ!!」
 聞き返したフェイトの言葉に、しかし声を上げたのは、その隣に腰を下ろしていたアリ
シアだった。
「フェイトは、擬似生命じゃない、ちゃんとした人間なの! 遺伝子上は、あたしの一卵性
双生児と同じ! 完成された人間なの!」
 わがままを言う子供のような声で、アリシアはそう言った。
「その通り。連中は、あくまで魔法術式によって定義されている存在だ。全く、違う」
 クロノも、そう言った。
「…………ただ、彼らに関しては、気になることがあってね」
 僅かに間をおいてから、クロノは、俯きがちにそう言った。
「気になること?」
 傍らに立っていたユーノが、即座に聞き返した。
「過去の記録では、彼らは4人だった。烈火の将シグナム、鉄槌の騎士ヴィータ、湖の騎
士シャマル、盾の守護獣ザフィーラ……」
 そう言って、クロノは、ひとつの画像を映す。S2Uの記録からハードコピーしたそれは、
緑の髪をボブカットに近いショートにしつつ、白いバリアジャケット──彼らの中の定義
では──に身を包み、ガントレッド一体型のナックルダスター型デバイスを操る、少女の
姿だった。
「彼女は、過去の記録に無い。その原因も、今のところ、不明だ」
 重々しい口調で、クロノはそう言った。
「確か、白銀(しろがね)の拳闘騎士レン、とか名乗っていたよ」
 実際に対峙したユーノが、言った。
「確かに、古代ベルカには、この世界の東洋拳法に似た体術があったのは事実なんだが…
…それに、もうひとつ。彼らは、過去の記録では、“ヴォルケンリッター”と、されてい
る」
「そんな」
 クロノの言葉に、アリサが、思わず、振り返った。
「確かに、『シュッツリッターが将、烈火の騎士シグナム』って、あいつ名乗ったわよ!?」
「そうなんだ、どうして名前が違うのか、その理由も、もちろん分からない。今回の闇の
書は、以前までと、何かと違いすぎるんだ。何が起こるか解らない……だからこそ、一刻
も早く、持ち主を特定して回収、封印したい」
 クロノはそう言って、表情をより険しくした。
「それにしても、クロノ君、ずいぶん詳しいんだね」
 なのはがクロノを振り返り、そう言った。
「…………」
 クロノは僅かに逡巡した後、重く口を開く。
「個人的な事情を持ち出すつもりは無かったが、言わないでいるのも、不自然かもしれな
いな」
「?」
 アリサとなのはは、不思議そうに、顔を見合わせる。
「11年前、前回に闇の書が発動したとき、『アースラ』と同型の巡航L型、2番艦『エステ
ア』が、闇の書の力で暴走、味方によって処分された。その時、最後まで艦の制御を回復
しようとして、艦と運命を共にした艦長が────僕の父、クライド・ハラオウンだ」
「!!」
 クロノ本人を除く一同全員に、衝撃が走った。

 同日、22:30頃。────海鳴市、ビジネスビル街。
 駅前の商店街からは僅かに離れたところに建つ高層ビルの屋上に、彼らはいた。
「管理局の捜査の手も伸びてきた……これからは、すこし離れた世界で蒐集しなければな
らないな」
 シグナムが、どこを見つめるわけでもなく、ただ強い意志を感じさせる眼で、そう言っ
た。
「シャマル、いま何ページ?」
 ヴィータが訊ねる。
「えっと、362ページ……よ」
「半分は越えたんねんな」
 シャマルが答えると、レンがそう言った。
「あとちょっと……そうしたら、はやても」
 ヴィータの言葉に、シグナムが頷く。
「我らが主のため、闇の書を1日も早く完成させなければ」
「そうだ、そして……ずっと、はやてと一緒に過ごすんだ……静かに」
 決意を込めて言うヴィータ。それを、レンがじっと見ていた。
「…………」
「それでは、行くのか?」
 狼形態のザフィーラが、一同を見回して、そう言った。
「ああ」
 シグナムが答え、各々、首にネックレスでかけられているそれを、手に取った。
「行くぞ! レヴァンティン!」
『Ja, Whol』
 デフォルメされたミニチュアの剣を模っていたレヴァンティンは、巨大化してその刀身
を伸ばす。赤紫の騎士甲冑に身を包んだシグナムの右手が、その柄を握る。
「やるよ、グラーフアイゼン!」
『Verstandnis』
 玩具のようなハンマーは、その柄を伸ばして大きくする。鮮やかな赤を纏ったヴィータ
の手に収まる。
「導け、クラールヴィント!」
『Stiefel auf』
 3つの指輪はネックレスから切り離され、宙を舞う。優しげな緑の衣装に身を包んだシャ
マルの指に、それは嵌まって行く。
「気張るで、ジルベルンメタリッシュ!」
『Satz auf』
 ぶら下がっていた白銀色の小さな手袋は、光になってレンの手を纏い、純白に覆われた
レンの右手に、ガントレッドとして嵌る。
 騎士甲冑に身を包んだ4人が揃う。
「世界が離れる分、連携は難しくなる。総員、無理はするなよ」
「わぁってるよ」
 シグナムが言い、ヴィータは不機嫌そうに言った。
「ならば良い……シュッツリッター、出撃!」
 5つの光が、空に舞い、闇夜の天空へと消えていった。



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目次:燃え上がる炎の魔法使い
著者:( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc

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