[4] 燃え上がる炎の魔法使い 3-01/14 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/31(木) 18:14:17 ID:2BA5d9Pp
[5] 燃え上がる炎の魔法使い 3-02/14 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/31(木) 18:14:38 ID:2BA5d9Pp
[6] 燃え上がる炎の魔法使い 3-02/14 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/31(木) 18:14:59 ID:2BA5d9Pp
[7] 燃え上がる炎の魔法使い 3-04/14 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/31(木) 18:15:36 ID:2BA5d9Pp
[8] 燃え上がる炎の魔法使い 3-05/14 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/31(木) 18:15:56 ID:2BA5d9Pp
[9] 燃え上がる炎の魔法使い 3-06/14 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/31(木) 18:16:25 ID:2BA5d9Pp
[10] 燃え上がる炎の魔法使い 3-07/14 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/31(木) 18:16:48 ID:2BA5d9Pp
[11] 燃え上がる炎の魔法使い 3-08/14 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/31(木) 18:17:16 ID:2BA5d9Pp
[12] 燃え上がる炎の魔法使い 3-09/14 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/31(木) 18:18:20 ID:XMTiYUTP
[13] 燃え上がる炎の魔法使い 3-10/14 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/31(木) 18:18:48 ID:XMTiYUTP
[14] 燃え上がる炎の魔法使い 3-11/14 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/31(木) 18:19:16 ID:XMTiYUTP
[15] 燃え上がる炎の魔法使い 3-12/14 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/31(木) 18:19:37 ID:XMTiYUTP
[16] 燃え上がる炎の魔法使い 3-13/14 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/31(木) 18:20:04 ID:XMTiYUTP
[17] 燃え上がる炎の魔法使い 3-14/14 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/31(木) 18:20:42 ID:XMTiYUTP

「すみません、遅くなってしまいまして……」
 Dec.12.2005────19:56。
 日本国 東京都 海鳴市。八神はやて宅。
「気にせんでええよー、ただ御飯温め直さなあかんな」
 申し訳なさそうに言うシャマルに向かって、電動車椅子に乗ったはやては、スティック
を操作してキッチンに向かい、鍋のかけてあるガスレンジに向かい、ビルトインタイプの
ガステーブルの操作キーを押した。青い炎が、鍋をあぶる。
「あー、腹減ったー」
「ヴィータ、少しは自重しろ」
 少年のように声を上げるヴィータに、シグナムが叱咤のような声をかける。
「まーまー、そんな事いう手もおなか減ったら誰でも我慢できへんて」
 後ろに続くレンが、そう言いながら、ザフィーラと共に玄関に上がった。
 全員、甲冑のような衣装の姿ではなく、それぞれ私服を着ている。
「どら、はやてちゃん、あたしも手伝おか」
 レンはそう言って、キッチンを覗き込もうとする。
「ありがと。でも、ホント温め直すだけやねん。あ、それやったら、みんなお風呂入って
まい」
「はーい」
 ヴィータが、声を上げて返事をした。
「でしたら、私が鍋を見ています故、主も一緒に湯浴みをしてらしてください」
 シグナムが言い、ガスレンジの見える位置に腰を下ろした。
「あら、シグナムあなたは?」
 シャマルが、シグナムに訊ねる。
「食事の後で良い」
 シグナムは、きっぱりとそう言いきった。
「そか、それならお言葉に甘えるとしよ。吹きはじめたら、ガス止めたってや」
「承知」
 笑顔で言うはやてに、シグナムは短く答える。
「ほしたら、シャマルかレン、悪いけど手伝ってくれへんか?」
「あ、はい」
「おまかせやでー」
 シャマルとレンが、はやてに向かう。シャマルが、はやてを抱えあげた。
「お風呂好きが珍しいの」
 ヴィータは、肩をすくめる様にして言ってから、はやて達を追って浴室に向かった。

燃え上がる炎の魔法使い〜Lyrical Violence + A’s〜
 PHASE-03:Das Gefuhl, Macht zu wollen,

「…………」
「傷か?」
 狼形態のザフィーラが、シグナムに向かって、そう訊ねた。
「ああ」
 シグナムは肯定の返事を返すと、視線を一旦ザフィーラに向け、トレーナーの右袖をめ
くった。
 そこに、打撲のような痣の跡がある。
「お前の甲冑を貫(ぬ)くとは、たいしたものだな」
「重くはなかったが、鋭い一撃の持ち主だった。剣技も荒削りだが、悪くない。魔力で勝
っていなければ、危なかったかも知れん」
 感心したように言うザフィーラに、シグナム自身もそう言って頷いた。それから、シグ
ナムは鍋に視線を戻す。
「管理局が出てきたのは厄介だが……しかし、不謹慎だとは思うが、私はあの魔導師、ア
リサとやらに、少し……いやかなり、興味が湧いて来た」
「ほう?」
 険しい表情で語るシグナムに、ザフィーラが意外そうな声を出す。
「お前が個人的な感傷を持つとは、また、珍しい」
「何、ベルカの隆盛華やかなりし頃を、思い出させるということだ」
 シグナムが言うと、ザフィーラは狼の姿で、頷いた。
「確かにな」

 Dec.14.2005(JST)────時空管理局本局、中央医療センター。
「はっ」
 アリサが眼を覚ますと、そこは、見知らぬ白い天井が支配していた。単調な電子音が、
規則的に繰り返される。強烈な、蛍光灯の白い照明。
 次に目に入ったのは、逆さに吊られたビニールパック、そこから伸びる細いチューブ。
ぼんやりとした頭でははっきりとわからない、電子機器の類。ガラスの窓。ただしその先
は屋外ではなくて。その窓のすぐ向こうに見える、ハニーブロンドの見覚えのある頭。
「あ……」
 声を出そうとして、口が塞がれている事に気がついた。薄緑色の透明な、プラスチック
のマスク。ホースが繋がっている。
『ユーノ、ユーノ』
 念話で、彼に呼びかける。
『! アリサ、気がついたの!?』
 驚いたような声と共に、ガラスの向こうの姿が立ち上がり、こちらを振り返ってアリサ
を凝視した。
『あたし、どーしてこんなことになってるんだっけ?』
『覚えてないの? アリサ。結界破壊に魔法撃とうとして、リンカーコアを抜かれて』
 ユーノの説明に、おぼろげだった記憶が、徐々に蘇ってくる。
 ────そーいえば、そんな状態だったっけ……
 アリサはすこし、ボーっとしながら、思い出しつつ、そして、はっとあることに気がつ
いて、目を見開いた。
 ユーノは、顔を横に向けて、何か声を上げているが、はっきりとは聞こえない。
 アリサは、反射的に上半身を起こした。
『ユーノ、なのはは? なのはは無事なの?』
 白衣姿の初老の男性と、ナース服の女性看護師がやってきて、室内に入ってきた。
『なのはなら無事だよ。軽い怪我はしてるけどね』
 ユーノはガラス越しにアリサを見ながら、そう答えた。
「まだ、急に身体を動かさないで下さい!」
 看護師が、叱り付ける様に言う。
「どれ、少し診て見よう」
 初老の男性医師は、スキャンターミナル型の計測機器を握り、そう言ってアリサに近付
いてきた。

「あー、まだ頭が少しボーっとするわ」
 点滴の吊られているポールを自分で押しながら、白いパジャマ姿のアリサは言う。
「当たり前だ、普通なら回復に1ヶ月はかかるような状態だったんだぞ、君は」
 呆れたように、クロノが言う。
「そう? でもお医者さんはもう少し安静にしてれば元通りになるって言ってたけど」
 アリサはそう言ってから、はっと目を輝かせる。
「ひょっとして、あたしってば、魔法の回復力強め? 資質高いしょーこ?」
 満面の笑顔で調子に乗りながら、自画自賛した。
「逆だ。リンカーコアが小さいから身体にかかる負担が小さい、回復も早い。それだけの
事だ」
 クロノがきっぱりそう言うと、アリサは首をかくん、と横に倒しつつ、顔をしかめる。
「アンタ、相変わらず空気読まないわねー」
「君に言われる筋合いはないと思うが」
 アリサがヤブニラミでクロノに言うと、クロノはしれっと、そう言い返した。
「そもそも、君はそのリンカーコアの小ささを、逆手にとって有利にしてるんだぞ?」
「どういうことよ?」
 アリサは、不機嫌そうな表情のままで聞き返す。
「砲撃魔法は、魔力値が大きければ威力を増すが、その分、リンカーコアから魔力が供給
されて発動するまでには、少ないながらも時間を要する。だから、ミッドチルダ式だと、
元々出力の大きい魔導師にとって、小規模な射撃の連射は、かえって難しいんだ。もちろ
ん、日常的に、火をつけたりとか、物を浮かばせたりとかは、専用に術式があるから、苦
にはならないけどね」
 逆に言えば、点火や物体浮遊など、小規模な事をする術式は、意識せずとも小さな力が
取り出せるように、わざわざ開発されたものである。
「攻撃を目的とした魔法の場合、そうはいかない。デバイスにあらかじめリミッターを組
み込んでおくことも出来るが、レスポンスタイムの短縮には繋がらない」
「僕達の世界で言えば、自動車の、ガソリンやディーゼルのエンジンみたいなものだよ」
 クロノの言葉を補足するように、それまで苦笑していたユーノが言う。
「なのはやフェイトをスーパーカーのエンジンだとするなら、アリサは軽自動車のエンジ
ン」
「言ってくれるわね」
 口元を引きつらせながら、アリサはユーノを睨む。
「でも、小さい分、逆に一定量の燃料に対して取り出せる力の総量は大きいし、意識に対
する応答も速い」
 フリクションロスと言って、エンジンはそれそのものが回転に対する抵抗でもある。大
型化すれば安易に出力を上げられる分、運動量の増減に対する抵抗も増える為、アクセル
の踏み込み度合いに対する応答(スロットルレスポンス)は遅くなる。
「よく使うだろう、溜め無し射撃魔法」
「ああ、レイランス? でもあれ、威力弱いわよ」
 クロノの言葉に、アリサは僅かに眉をしかめながら、聞き返す。
「それでも、あの速射は、ミッドチルダの砲撃魔導師の平均からすれば、異様なほどの高
速なんだよ。クロースレンジでの打ち合い中にも、平気で撃つし」
「それぐらい、フェイトだってやってたわよ?」
 アリサは、きょとん、として、クロノに聞き返す。
「僕やフェイトは、そう言う訓練を受けてるし、場数も踏んでる。立場的にも、出来て当
然だよ。それにしたって、アリサのように、本来精密直射弾での、バラ撒き射撃は無理だ
しね。以前は一度に3発だったのに、いつの間に6発撃つ様になったんだ、君は」
 クロノは言いながら、だんだんと呆れたような表情になって行った。
「そりゃ、それなりに訓練はしてるから」
 アリサは、先ほどまでの不機嫌さはどこへやら、腰に手をあてて、ふふん、と、得意そ
うに鼻を鳴らす。そうしてから、
「それに、先生も良いしね」
 と、そう言って、ユーノの左腕を抱き寄せた。
「ちょ、あ、アリサ……」
 ユーノは困惑気に顔を赤くするが、無理にほどこうともしない。
「まったく、すっかり新婚夫婦だな、アリサと言い、それに、ユーノの方も、ずいぶん馴
染んでるようじゃないか?」
「…………どういう意味だよ」
 イヤミっぽい視線をユーノに向けるクロノに、ユーノは少しむっとして、聞き返した。
「さっき、内燃機関の説明をするとき、“僕達の世界”って言ったぞ。いつから、君は日
本出身になったんだ?」
「あっ……」
 クロノの言葉に、ユーノは息を呑んで、言葉を失い、顔を真っ赤にした。
「別にいーでしょ、いずれそうなるんだから」
 ユーノの代わりに、アリサはユーノの左腕を抱き締めたまま、クロノを睨むようにして
言い返した。

「アリサちゃん!」
 クロノとユーノ、アリサが、病棟の廊下に設けられた談話スペースで会話をしていると、
私服姿の、3人の少女と、2人の大人の女性が、その姿を見て、近付いてきた。声の主は、
なのはだ。他に、フェイトとアリシアもいる。
「なのは、大丈夫?」
 アリサは目を少し円く見開いて、訊ねた。
「うん、足首ちょっと捻っただけ。すぐに元に戻るって」
 そう言うなのはの左足には、包帯が巻かれていたが、それほど大げさでもない。どちら
かというと、傍目には、明らかにアリサの方が、深刻である。
「心配してくれてありがとう、アリサちゃん」
 なのはは、苦笑交じりに言う。
「べっ、別に、お礼を言われるようなことじゃないでしょっ」
 アリサは、少し慌てたように、そう言って、なのはから視線を逸らした。
「にゃはは……」
 なのはが、声を上げて苦笑した。
「アルフさん、お久しぶりー」
「よっ、とんだ災難だったね」
 3人の少女と、連れ合って歩いていたの2人の女性に、アリサは視線を向ける。1人は、
紅い髪の、狼の使い魔、アルフだった。アルフは、苦笑しながら、アリサに返事をする。
 だが、もう1人は、見覚えがない。
「こっちの人は?」
 アリサは、その女性に視線を走らせてから、視線をアルフに戻し、訊ねる。
「ああ、こいつはリニスって言うんだ。あたしの先輩……かな」
「はじめまして、Miss.アリサ」
 リニス、と紹介された女性は、ぺこり、と頭を下げた。
 アルフと同系統の、ラフでカジュアルな装いだが、どちらかというと、本人の外観とま
とう雰囲気からは、フォーマルな装いの方が似合うように感じる。
「あ、はじめまして。アリサ・バニングスです。こっちはユーノ・バニングス」
 アリサはそう言って、思わず頭を下げる。
「あ、はい、はじめまして……って! アリサ! その冗談は止めてくれって言ってるだろ!」
 ユーノも頭を下げかけて、はっと気付いたように、アリサの方を向いて、声を上げる。
「いーじゃない、別に、いずれそうなるんだし」
 アリサは、少し非難めいた視線でユーノを見る。
「まだ違うじゃないか」
「些細な事でしょ」
 アリサは、唇を尖らせて言ってから、ふと気付いたように、
「あ、それとも、あたしがアリサ・スクライアになった方が良いの? 別に、構わないわよ?」
 と、くりっと目を輝かせ、ユーノに迫った。
「別に、そう言う問題じゃ、ないってば……」
 目の前で繰り広げられる夫婦漫才に、リニスはクスクスと微笑ましそうに、アルフやな
のは達はどこか苦笑気味に、笑っている。
「えー、おほん」
 と、咳払いの擬音をわざわざ口にしたのは、一番小柄な少女、アリシアだった。
「リニスは、今は、あたしの使い魔なの。ベースは、猫よ」
 アリシアの言葉に、アリサとユーノは、アリシア、リニス、の順に、視線を移していき、
最後に、フェイトを見た。
「以前は母さんの使い魔だったんだ。一度契約切れてたんだけど、アリシアが再契約して」
 フェイトが、微笑み混じりに説明する。
「そう言う事なのね、うん、これからよろしく」
「はい、よろしくお願いします」
 アリサが右手を差し出し、リニスは、その手を握り返した。それから、ユーノとも握手
を交わす。
「なるほど、それで、アルフの先輩ってわけなんだね」
「そう言う事」
 ユーノの言葉に、アルフは妙に楽しそうに笑った。
「それで、アリサ」
 アルフが、笑顔を真剣な表情に締めなおして、切り出した。
「レイジングハートの事なんだけど……」
「あーっ!!!?」
 アルフの言葉に、アリサは、いつもその首に下がっている、相棒がいない事に気付く。
「そうだ、シグナムの攻撃受け止めて、ボロボロにされたんだっけ……! 大丈夫なの!?」
「中枢部は完全に破壊されてはいませんから、修理は可能ですよ」
 そう、笑顔で言ったのは、リニスだった。
「ただ…………」

 ────時空管理局技術部、デバイス開発・研究室。
「ただでさえ精巧なインテリジェントデバイスを3つも一気に持ち込まれちゃあ、こっち
はたまったもんじゃないよ! 部品ひとつとったって、吟味が必要なんだから……」
 テレビ電話状の端末を前に、悲鳴をあげている部員がいた。
 メンテナンスホルダーに、赤い宝玉、金のレリーフ、白銀のメタルカードが、それぞれ
収められている。各々、亀裂のような、傷が刻み込まれていた。
「うわぁ、レイジングハート! 大丈夫!?」
 アリサはメンテナンスホルダーに駆け寄り、申し訳なさそうな顔で、レイジングハート
に声をかける。
『There is nothing to worry』
 レイジングハートは明滅し、心配ないと答えた。だが、どこか、なんとなく弱々しく感
じる。
「レイジングハートやバルディッシュでも、ここまで傷つきますと、自動修復だけでは間
に合いませんから、フレームの修正からやりませんと……」
 リニスが、各々のデバイスに向かう3人の背後で、少し困ったように言う。
「ごめんね、バルディッシュ」
 フェイトもまた、バルディッシュに、申し訳なさそうに答える。
『No problem』
 言葉少なくも忠実な漆黒は、そう答える。
「L4Uは、インテリジェントデバイスといっても、元々、量産型ストレージデバイスの部
品を流用したポン組みですから、修理自体は簡単ですが、自己拡張してる部分は、新しい
部品にあわせて調整してあげませんといけませんから、やはり、時間はかかります……」
「ごめん……ありがとう、L4U」
『Please be not worried. Ma’am』
 なのはが悲しそうな表情で言い、優しげなメタリックは慰めるように言う。
「それで、直るんですよね?」
 なのはが、リニスを振り返り、訊ねる。
「それはもちろん、安心してお任せ下さい」
「リニスはね、お母さんがその為に契約した、使い魔としては最高のデバイスマイスター
なんだよ。だから、泥舟に乗ったつもりでいてねっ」
 リニスが優しく微笑みながら言い、アリシアが、どこか得意そうに言った。
「泥舟じゃ、沈んじゃうんじゃないかな……」
「アリシア、それを言うなら『大船』……」
 なのはが苦笑しながら言い、フェイトが困ったような表情で、静かに突っ込む。
「う……ちょ、ちょっとした言い間違いだもん」
 そう言って、アリシアは、気まずそうに視線を逸らした」
「リニス、ごめんね、お願い」
「はい、お任せ下さい」
 フェイトの言葉に、リニスは、やはり微笑みで答える。
 ──ただ1人。
「直すだけじゃ、駄目だ……」
 レイジングハートと向かい合っていた、アリサは、呟くようにそう言った。
「えっ?」
 リニスや、フェイト達は、驚いたように、アリサに視線を向けた。
 アリサは、険しい表情で、振り返る。
「連中の、銃弾みたいなアレ! アレを使われたら、まともに打ち合いも出来ない! 何度
直してもまた壊される!」
 アリサが、声を上げる。
「カートリッジシステムですね」
 リニスが、ぽつり、と言った。
「カートリッジシステム?」
 リニスの傍らに立っていた、アルフが、どこか緊張感に欠けた口調で、そう言った。
「主にベルカ式で使われる、一時的な魔力増幅装置です」
 リニスは、真面目な口調でそう答えた。
「ベルカ式って……?」
 聞き返すアルフの言葉には、ユーノが答える。
「旧暦時代に、ミッドチルダ式と勢力を二分した、魔法技術ですよ。ミッドチルダ式が射
撃に重点を置いていたのに対して、クロースレンジに特化して、戦闘力を極大させたんで
す」
「その回答が、あの、カートリッジシステムでした。リーチの不利を、瞬発的な魔力の増
強、簡単に言えば力技で、覆したわけです」
 ユーノの説明に、リニスが付け加えた。
「ただ、扱いが難しくて、前線に数を送り込むのが、困難だったようですね。その後、聖
王大戦の後、ベルカの国家そのものとあわせてベルカ式魔法も衰退して、現在では、聖王
教会の上位の人間がそれを伝えているだけになっています」
 リニスの説明に、なのはとフェイト、アルフは感心したような顔をするが、アリサだけ
は、険しい表情をしたままだ。
「ただ、カートリッジシステムだけは、広範な用途に用いることが可能なので、ミッドチ
ルダ式に、取り込まれています」
「それよ!」
 リニスがそこまで言うと、その先を遮るように、アリサはビシッ、と指をさして、声を
上げた。
「そのカートリッジシステムを、レイジングハートに搭載するのよ! そうすれば、あんな
連中に負けたりしないわ」
「ええ!?」
 その場にいた全員が、困惑混じりの声を上げた。
「待って下さい、確かにカートリッジシステムは、安易に魔力の増強を行えますが、レイ
ジングハートのような上位インテリジェントデバイスには、圧力が強すぎて不向きなんで
す。第一、そんなに簡単に出来る事なら、最初から、バルディッシュに搭載しています!」
 リニスは、困惑気な表情で、アリサをたしなめる。
『But, It cannot but perform, if there are no other means』
 アリサの背後から、その声は聞こえてきた。アリサは目を円くする。
「レイジングハート、本気ですか!?」
『Yes』
 驚いたリニスの言葉に、レイジングハートは即答する。
『The master was defeated because my ability was insufficient』
「レイジングハート! そんなことはない、あたしが無茶させたから……」
 アリサは慌てて、レイジングハートを宥めるように言う。
『No. Since it becomes strong, the master knows having always tried hard.
Therefore, I also want to become strong』
 「私も強くなりたい」、レイジングハートはそう言った。
『I desire it, too』
「バルディッシュ!?」
 リニスが素っ頓狂な声を上げる。フェイトが驚いたように、バルディッシュを振り返っ
た。
『Also me. Since I am using mass-production parts abundantly, I must be strong
to an overload』
「L4Uまで!?」
 リニスは困惑気な表情で、L4Uに視線を向ける。
 なのはが少しおろおろしているのを他所に、その隣で、アリサとフェイトが顔を見合わ
せ、お互いの意思を確かめるように、頷きあった。
「リニス、どうしても無理かな」
 フェイトが、真剣な表情でリニスを見つめ、問いかける。
「うー…………」
 フェイトの真摯な瞳を見て、言葉を詰まらせかけたリニスだったが、やがて、決意した
ように、一度軽く目を閉じて、深く頷いた。
「解りました。デバイスもマスターも同意しているのなら、やらざるを得ないでしょう。
完璧にマッチングさせてみせます。大魔導師(グレート)と呼ばれたテスタロッサの使い魔、
バルディッシュのデバイスマイスター、リニスの名に賭けて」
 リニスの力強い言葉に、アリサの顔がぱっと明るくなり、フェイトがそれを見る。微笑
もフェイトに、アリサは悪戯っぽくウィンクして見せた。
 リニスは、手近にあった端末に触れると、情報を検索する。
 デバイス用量産部品リストが表示される。さらに、絞込検索。
「CVK-792シリーズ……現行ラインアップでは、性能、安定性、それなりに良いようです
ね。問題は、手に入るかですが……」
「クロノとリンディに相談してみようよ、3つぐらいならなんとか回してもらえるよ」
 手で顎を抱えるリニスの背後から、アルフが肩越しに覗き込みつつ、そう言った。
「そうですね、そうしましょう」

「第1級指定ロストロギア、闇の書、か」
 クロノの実母であり、時空管理局の巡航L型武装次元航行艦『アースラ』を預かるリン
ディ・ハラオウンは、溜息混じりにそう言った。
「クロノ君も言ってましたけど、なにか、あるんですか?」
 話の相手は『アースラ』CICメインオペレーター、エイミィ・リミエッタ。
「そう、ちょっと浅からぬ因縁があってね」
 2人はエレベーターの中で話していた。展望式になっていて、次元航行艦船の乾ドック
が一望できる。
「なんか、休暇は延期ですかね、流れ的に、うちの担当になっちゃいそうですし」
 エイミィは悪戯っぽく苦笑しつつ、首をすくめてそう言った。
「そうね……でも『アースラ』ももう要オーバーホールだし、それに相手が闇の書となる
と、先延ばしにしていた、あれの装備も必要でしょうし……」
「そうですね、代替艦も、L型と同クラスだと、2ヶ月先までめいっぱいって言われました
し」
 リンディとエイミィは、困ったように言う。
「こんな時に限って、巡航型の入渠が重なるなんてね」
「仕方ありませんよ、時所かまわずな仕事ですから……」
 リンディは溜息混じりに言い、エイミィは苦笑してそう返した。
「うーん」
 どうしたものか、と、考え込んでいたリンディだったが、はっと、何かをひらめいたよ
うに、顔を上げた。
「そうだわ!」

「…………と、言うわけで、今回、正式に第一級指定ロストロギア、『闇の書』への対処、
回収に、我々『アースラ』のスタッフが任命されました」
 時空管理局本局、大会議室。
 リンディはその壇上に立ち、脇にクロノが控える。正面には、『アースラ』の次元航行
艦としての運用に携わる純ハードウェア的技術スタッフを除き、そのクルーが集められて
いる。
 そして、その脇に、アリサ、ユーノ、なのはと、フェイト、アルフも立ち席でその場に
いた。
「ただ、皆さんご存知の通り、本艦は現在、オーバーホール期限切れと小改修のため、運
用できません。その為、我々は当該世界地上、日本国海鳴市に拠点を置いて、当面の間活
動する事となります」
 リンディは、そこまでは、艦長らしい、真面目な表情と口調で言った。
 しかし……
「ちなみに、本部はアリサさんとなのはさんの近所になりまーす」
 途端に、表情が崩れ、見た目からはまぁ許せるが実年齢とはもう少し相談しろと言いた
くなるような、おどけた態度になって、そう付け加えた。
 隣に立つクロノは、口元が引きつるのを、バリアジャケットの高い襟で隠していた。
「艦橋クルーはエイミィさんの指揮下で現地の捜査に、武装隊員は、有事に備えて待機。
他は逐次、追って命令いたします。よろしいですね」
 真剣な表情に戻って、リンディはそう部下たちに伝えた。
「フェイトー」
 行動開始、と、各員が立ち上がり、動きはじめたところで、会議室に、アリシアが声を
上げて入ってきた。
 フェイトと、アリサやなのは達も、アリシアの声の方に視線を向ける。
「アリサと、なのはも! リニスが、用事が終わったら一度技術部に来てだってー」
 何事か、と、3人は顔を見合わせた。

「申し訳ありませんっ」
 リニスはそう言って、深々と頭を下げた。
「リンディ提督の名前で交渉させていただいたのですが、今、CVK-792シリーズはサンプ
ル用の2個しか、ストックしていないそうで……」
「あらら」
 リニスの言葉に、アリサが脱力したような態度をとる。
「2つか……」
 フェイトは難しい顔をして、顎を手で抱えた。
 なのははどこか、おろおろしている。
「だったら、急いでミッドチルダから取り寄せれば」
「それなんですが……」
 ユーノの提案に、しかし、リニスの表情は晴れない。
「カートリッジシステム自体、メーカーも在庫を抱えない品物なので、システムキットで
の取り寄せだと、3ヶ月は先になってしまうそうなんです」
「それじゃ全然間に合わないじゃない」
 アリサが、呆れたような声を出した。
「ストックパーツも、1個素組みが出来るほど、私達で独占してしまうわけにも行きませ
んし……」
 リニスの言葉に、ふぅ、と、深く溜息をついたのは、アリサだった。
「しょうがない、バルディッシュと、L4Uに優先してよ」
 苦笑し眉を下げて、アリサは言い、横目で視線をフェイトとなのはに向けた。
「アリサちゃん!?」
 なのはが驚いて、身を乗り出すようにして聞き返した。
「アリサ、一番カートリッジシステム欲しがってたのに……」
 フェイトも、意外そうな、どこか申し訳なさそうな口調と表情で、言った。
「うん、でもあたしは、体術の方で何とかして見せるから。それに……」
 アリサは苦笑交じりにそう言って、そして、ユーノを引っ張り寄せた。
「うわ」
 ユーノは驚いて、短く声を上げる。
「いざって言うときは、護ってくれる人もいるし」
 途端に表情を緩ませて、ユーノの肩を抱き寄せながら、言った。
「ね?」
 アリサは、笑顔を、ユーノに向けた。
「うん、まぁ、当然だし、そう言う事なら、なおさらだけど」
 ユーノは言葉を濁しつつも、否定はしない。
「あ、それでなんですけど……CVK-792にこだわらなければ、もう1つだけ、余ってるそう
なんです」
「え?」
 リニスが言うと、アリサはユーノに抱きついたまま、リニスを見た。
「なんだぁ、それならそうと、早く言ってよ」
「それが……」
 アリサはあっけらかんと笑って言うが、リニスの表情は、あまり思わしくない。
「CVK-695D……なんですけど、番号が示す通り、CVK-792シリーズより以前のタイプで
して……」
「何か問題があるわけ?」
 アリサは小首を傾げ、聞き返す。
「えっと、CVK-790系の最大の特徴は、それまで単発装填だったカートリッジを、連続装
填が出来るようにした点なんです。つまり、旧型の690系は、1回のロードごとに、手で装
填してやらなければならないんです。それに、CVK-695Dは、シリーズの中でも、あまり生
産数が多くなかったものらしくて……資料が、充実していないんですよ。実物も、管理局
でテストに使って、それっきりになってたものみたいですし……」
「つまりは中古品ってことね」
「そうなります。使い勝手も、あまり良くないと思います」
 アリサの言葉に、リニスは頷いて、肯定の言葉を返した。
「上等! 使いこなしてみせようじゃない。Manual Loadは、連中のだって同じなんだし、
何とかなるわよ、なんたって、あたしと、レイジングハートが使うんだから」
 アリサはそう言って、腰に手をあて、胸を逸らせてみせた。



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目次:燃え上がる炎の魔法使い
著者:( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc

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