[580] 燃え上がる炎の魔法使い 2-01/13 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/26(土) 01:10:33 ID:OZ9wMXyJ
[581] 燃え上がる炎の魔法使い 2-02/13 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/26(土) 01:10:56 ID:OZ9wMXyJ
[582] 燃え上がる炎の魔法使い 2-03/13 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/26(土) 01:11:21 ID:OZ9wMXyJ
[583] 燃え上がる炎の魔法使い 2-04/13 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/26(土) 01:11:54 ID:OZ9wMXyJ
[584] 燃え上がる炎の魔法使い 2-05/13 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/26(土) 01:12:21 ID:OZ9wMXyJ
[585] 燃え上がる炎の魔法使い 2-06/13 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/26(土) 01:12:45 ID:OZ9wMXyJ
[586] 燃え上がる炎の魔法使い 2-07/13 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/26(土) 01:13:13 ID:OZ9wMXyJ
[587] 燃え上がる炎の魔法使い 2-08/13 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/01/26(土) 01:13:40 ID:OZ9wMXyJ
[588] 燃え上がる炎の魔法使い 2-09/13 ◆kd.2f.1cKc 2008/01/26(土) 01:14:23 ID:OZ9wMXyJ
[589] 燃え上がる炎の魔法使い 2-10/13 ◆kd.2f.1cKc 2008/01/26(土) 01:15:25 ID:OZ9wMXyJ
[590] 燃え上がる炎の魔法使い 2-11/13 ◆kd.2f.1cKc 2008/01/26(土) 01:15:46 ID:OZ9wMXyJ
[591] 燃え上がる炎の魔法使い 2-12/13 ◆kd.2f.1cKc 2008/01/26(土) 01:16:13 ID:OZ9wMXyJ
[592] 燃え上がる炎の魔法使い 2-13/13 ◆kd.2f.1cKc 2008/01/26(土) 01:16:40 ID:OZ9wMXyJ

「どうして、なのかな……」
 困ったような、どこか悲しげな表情で、なのはが言う。
「わかんないわよ、そんなの」
 アリサは、なのはに背を向けたまま、不機嫌そうにそう言った。
「でも、あんまり良い理由じゃなさそうなのは、確かだね」
「そうじゃなきゃ、いきなり襲ってきたりしないわよ」
 ユーノの険しい言葉に、アリサも同意した。
「とにかく、なのははブッ放しまくって連中を近付けるな」
「で、でも!」
 アリサの物騒な物言いに、なのはは慌てて反論しようとした。すると、アリサはちらり
となのはを振り返る。
「話なら、あたしがつけてくるから」
「う、うん……解った」
 アリサの言葉に、なのははまだ少し納得いかないような表情をしながらも、頷いた。
 ユーノの声が上がる。
「来るよ!」

燃え上がる炎の魔法使い〜Lyrical Violence + A’s〜
 PHASE-02:Der erste entscheidende Kampf

 赤紫の女性剣士──シグナムをその頂点とする様に、鏃(やじり)を3次元的に構成する
様な陣形で、彼ら“シュッツリッター”は、なのはをめがけるように飛び出してきた。
「なのは、適当で良いからブラスターブッ放してっ」
『Axel fin』
 そう言い残しつつ、アリサはユーノと共に、テナントビルの屋上から飛び上がる。
「う、うん解った。L4U、お願い!」
『Axel Stinger』
 巨大な魔力弾が、L4Uのコアの前に集束する。
『Break Shot』
 ドン!
 散弾状に発射された無数の魔力弾は、半誘導で弧を描きつつ、シュッツリッターめがけ
て迸る。
「何ィ!?」
「なんやこれ!?」
 ヴィータとレンは、驚愕に飛行の軌道を乱し、陣形を崩してしまう。
「この程度!!」
「突っ切るぞ、レヴァンティン!」
 しかし、ザフィーラとシグナムは、構わないと言った感じで、無数に迫る魔力弾の群れ
の中へ飛び込んでいった。
『Panzergeist!』
 シグナムの剣型デバイスが、シグナムの呼びかけに答え、光を発する。そして、その光
が、シグナムの全身を包み込んだ。
 シグナムの真正面から、なのはの強力な魔力弾が迫る。散弾と言っても、1発1発がアリ
サのディバインクラッシャーを凌ぐような出力だ。命中し爆発を起こし、残滓が煙状にな
る。
 だが、魔力弾の残滓が霧散した中から、シグナムは悠然とした格好で出てきた。
『Sprite slash』
「!」
「でぇぇぇぃっ!!」
 上段からアリサが一気に迫り、青白い光を纏ったレイジングハートを振り下ろす。両手
で柄を握り、乏しい体重を思い切り乗せる。
 ガキィンッ
 レヴァンティン、と呼ばれたシグナムの剣型デバイスが、間一髪それを受け止め、交錯
した。
 お互いの魔力が反発し、接触点でバチバチと火花を散らしている。
「こぉのぉっ!!」
「貴様……本当にミッドチルダの魔導師か!?」
 シグナムはそう、問い質すように言うと、全身に力を入れてアリサの斬撃を押し返す。
「ぐっ」
『Ray Lance, Multi Shot』
 弾き飛ばされるアリサ。だが、その瞬間に、6発の魔力弾をシグナムめがけて放つ。
「何!?」
『Panzerschild』
 シグナムは咄嗟にシールドを張り、その魔力弾を受け止める。6発とも弾き飛ばされ、
霧散する。
『Axel fin』
 アリサは、その間に、オレンジ色の光の翼を羽ばたかせ、体勢を整えた。
「ミッドチルダ式の使い手ながら、クロースレンジに特化した使い手か。面白いな……」
「あたしは全然、面白くないけどね」
 アリサを見据えつつ、呟くように言うシグナム。その言葉に、アリサは不愉快そうに顔
をしかめたまま、言う。
「私は“シュッツリッター”が将、烈火の騎士シグナム。悪いが、我らが大義の為、全力
でかからせてもらうぞ」
 そう言って、シグナムはレヴァンティンの切っ先をアリサに向け、構える。
「あたしはこの世界の魔導師、アリサ・バニングス」
 アリサは言って、レイジングハートを自分の正面に垂直に立てる、英国騎士の構えを取
った。
「相手になってやろうじゃない」
 ────激突。
 レイ・ランスの青白い閃光の後、オレンジと赤紫の光が、ぶつかり合い、お互いその端
を千切らせながら夜空に舞った。

「ぬぅおぉぉぉぉっ!!」
「ラウンドシールド!」
 ガントレッドに覆われたザフィーラの拳を、緑の光の盾が圧しとどめる。
 ザフィーラの拳の先端で、お互いの魔力が反発し、バチバチと雷光のような火花を散ら
す。
「あたしのこと、忘れてもらっちゃ困るでぇ! ジルベルンメタリッシュ!」
 ザフィーラと反対側から、レンがユーノを挟み撃ちにするように迫ってくる。
『Zweiquartflaschen fingerknochel』
 レンの右手にはまる、白銀色に輝く、ガントレッド一体型のナックルダスターが、呼び
かけに答え、魔方陣を展開しながら、ユーノに向かって繰り出される。
「ラウンドシールド、デュアルエクサイズ……トライ!」
 ユーノは左手にも、光の盾を発生させ、レンの打撃を凌ぐ。
 バリバリ……ッ
 強力な魔力同士が周囲で相互干渉し、稲妻が迸る。
「ぐぅぅぅっ」
 ユーノは顔をしかめつつ、2人の拳を受け止め続ける。
『Stinger snipe, multi shoot』
 ユーノの背後から放たれた、桜色の魔力弾が、ザフィーラとレンめがけて迸る。
「ぬぉっ!」
「なっ!?」
『Panzerschild』
 ナックルダスター型デバイス、ジルベルンメタリッシュが、純白の魔力光の盾を形成する。
同様に、ザフィーラも群青の光の盾を生み出した。両者が、なのはの魔力弾を受け止める。
 高出力の魔力弾はバチバチとシールドを削りながら、ようやく霧散した。
「もらったーっ!!」
 さらに上空、なのはのほぼ真上から、赤い閃光となって、グラーフアイゼンを上段に構
えたヴィータが、逆落としの急降下でなのはに迫る!
「しまった! フラッシュ……」
「行かせへんて!」
 ユーノが急機動でなのはに寄ろうとするが、バッ、と、両手両足を大の字に広げたレン
に、その行く手を阻まれる。
「ぬぁっ!」
「くっ、ラウンドシールド!」
 背後からは、ザフィーラの拳。咄嗟にシールドを展開し、防ぐ。
『Stinger Ray, Break shoot』
 なのはがヴィータめがけて散弾を打ち出すが、ヴィータは構わず突っ込んでくる。
「アイゼン!」
『Patronenlast!』
 グラーフアイゼンが、再び、銃砲の撃発のようなスライド工程を行った。
『Schutzfeld!!』
 ひときわ強く輝くシールドが、ヴィータの目前に張られ、それを立てて、強引に突き進
んでいく。
「L4U、やるよっ!」
『Yes, Ma’am. Break Slash』
 L4Uのコアが輝き、その周辺に桜色に輝く、魔力光の刃が生み出された。
 クイント・ナカジマのデバイス、GBF-T3からコピーされたクロースレンジ用魔力刀だ。
 しかし────
 ガキィィンッ!!
 グラーフアイゼンと、L4Uが交錯する。
 魔力を帯びて発光するグラーフアイゼンの槌と、L4Uの魔力光が、文字通り削りあい、
バチバチと激しく光を散らす。
「うぅぅぅぅっ」
 悲鳴のような呻きを上げながらも、なのははヴィータの打撃を圧しとどめる。
「野郎、砕け、アイゼン!」
『Ja, wohl!』
 ヴィータの激しい声に応え、グラーフアイゼンの光が増す。
 ビシッ、メリッ……!
「えっ」
 なのはの顔が驚愕に染まる。L4Uの魔力刀が軋みを上げた。
 否、軋みを上げたのは魔力刀だけではない────
 パリーンッ
「きゃあぁぁぁっ」
 魔力光の刃と共に、L4Uのコアの表面を僅かに剥がし、散らして煌かせながら、なのは
は背後に吹っ飛ばされた。
「なのは!?」
 アリサは一瞬、それに気を取られる。
「レヴァンティン!」
 僅かの隙を、シグナムは見逃さず、間合いを取ると、己のデバイスに声をかけた。
『Patronenlast!』
 片刃の西洋剣を模るレヴァンティンの、峰の部分についた、装飾かと思われた部分がス
ライドし、グラーフアイゼン同様、銃砲の撃発のような肯定を行い、排莢した。
『Scharfer leichter Schlag』
「紫電・一閃!」
 一瞬、レヴァンティンが炎を纏ったかと思うと、その炎が鋭い残撃となって、アリサに
襲い掛かる。
「っ、うわ!」
 アリサは、反射的にレイジングハートでそれを受け止める。
『Protection, Dual excise』
 レイジングハートがシールドを張る。だが、2枚のシールドは、易々とレヴァンティン
に引き裂かれた。
『Sprite Slash』
 ギリィッ
 対抗するべく、レイジングハートは魔力光を帯びる。
 だが……
 メキ、メキ……っ
「え、ぇぇっ!?」
 レヴァンティンとの交錯部分から、レイジングハートは不気味な軋みを上げる。それと
同時に、レイジングハートのコアに亀裂が入った。
『Sprite Slash, tri』
 レイジングハートは己の死力を振り絞るかのように、オレンジ色の魔力光を放つ。
「ぐっ!?」
 バチバチと激しい火花を散らしつつ、レヴァンティンも不気味な振動を、シグナムの手
首に与えた。
 その、一瞬後。
 バチン!
 お互いの魔力刀が反発し、アリサとシグナムは各々背後へ向けて弾き飛ばされた。

「手間、かけさせやがって……この」
 テナントビルの屋上に降り立ったヴィータは、グラーフアイゼンを片手で構えつつ、己
の脚でゆっくりとなのはに近付く。
「あ……う、L4U……っ」
 L4Uを突き出そうとするなのは。しかし、L4Uは、コア周りに亀裂が入り、ところどころ
外装が欠けている。その様子を見て、なのはの手が、躊躇うように、L4Uを僅かに引き戻
した。
「!」
 なのはに対峙しようと向かってきていたヴィータだったが、不意にその気配に気付いて
顔を上げると、グラーフアイゼンを構えなおし、そちらに向けた。
 ガキィンッ
 グラーフアイゼンが、青みを帯びた鋼の翼と交錯する。
「…………」
 なのはは一瞬、息を呑んで目を円くし、そして、表情を輝かせた。
「クロノ君!」
 質実剛健、自らの頭髪の色と同じ漆黒のバリアジャケットを着た少年は、そこに立って
いた。
「私もいるよーっ」
 レオタードのような、赤のアクセントモールの入った白いバリアジャケットを着ている
のは、なのはやアリサよりも少し幼い、輝くような柔らかな長い金髪を持った少女。
「ね、ブローバ?」
『Yes』
 アリシア・テスタロッサの声に、やや直線的な刀具部分を持つ、ガンメタリックのデバ
イスが応えた。
「畜生! まだ仲間がいたのかよ!」
 毒つくヴィータを、クロノは眼光鋭く睨み、そして烈しい口調で告げる。
「時空管理局、武装時空航行艦『アースラ』付執務官、クロノ・ハラオウンだ。統一時空
管理法附帯法第1則第1条ならびに同第2条同第3条において、管理外世界における魔法
による破壊活動、ならびに人身障害、殺人、窃盗は禁止されている。直ちに行為を停止し、
デバイスを停止させたまえ」
 S2Uを構え、凛とした声が響いた。
「くそっ」
 ヴィータは、クロノの言葉に従う事はなく、ピンポン玉大の鉄球を、6つ、浮かべると、
『Schwalbe fliegen』
 それを、グラーフアイゼンで撃ち出した。
「くっ」
『Defenser』
 S2Uが、そのシールドを発動させる。赤い閃光の弾丸と化したそれは、クロノのシール
ドに阻まれ、あさっての方向に逸れて消えていった。
『Braze canon』
 青の閃光が、ヴィータめがけて迸る。ヴィータはその避けて、テナントビルから飛び上
がり、距離をとった。
 クロノは、S2Uを構えつつ、仁王立ちの姿勢で、空中のヴィータを見据える。
「クロノ君!」
 なのはは立ち上がり、クロノに駆け寄った。
「ありがとう! 助けに来てくれたんだ!」
 なのははそう言って、クロノの左手を握った。
「しょ、職務として当然の事をしに来たまでだ」
 そう言いつつも、クロノは、僅かに顔を赤くする。
「それに、まだ終わってない」
 クロノはそう言い、S2Uを構えなおす。
「でも、クロノ君にアリシアちゃんってことは、ひょっとして!」
 なのはが、興奮したように言うと、クロノは、口元で笑って頷く。
 そして、念話で呼びかけた。
『その赤いのを頼んで良いか? 僕は、婿入りフェレットを助けに行く』
 クロノは、緑、群青、純白の閃光が交錯している空間に視線を移した。
「アリシアは、なのはを頼む」
 クロノは声に出して、アリシアのほうを向かずに、そう言った。
「うん、解ったよ。ブローバ!」
 アリシアは頷き、己のデバイスに向かって呼びかける。
『Yes, Sir. Round Guarder Extend』
 なのはの足元に金色の光の魔法陣が現われ、半球状のバリアがなのはを覆う。
「なのはは、そこから出ないでね」
 アリシアは、なのはを振り返ってそう言うと、両足を少し開いて腰を少し落とし、踏み
しめ、ブローバを両手で構えた。
『Scythe form』
 ブローバの刀具が開き、金色の魔力光の刃が、鎌のように展開した。
「ふざけんなぁっ!!」
 自分と対峙しようとしているのが、年端も行かない子供──見た目だけなら、彼女も大
して変わりがないのだが──と知ったヴィータは、プライドを傷つけられたのか怒りの声
を発しつつ、なのはに向かって突っ込もうとする。
『Thunder Rage』
 そのヴィータの上空から、稲妻の嵐が襲い掛かった。
「うぉっ!?」
 ヴィータは慣性で移動しつつ、体勢を入れ替え、己を攻撃した者の姿を見る。
 アリシアと同じ意匠、ただそれは漆黒を纏い。
 澄んだ赤い瞳は、凛として相手を見据え。
 輝くような金髪を、風にたなびかせて。
 ──フェイト・テスタロッサは、そこに居た。

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……はぁぁ……」
 空中に浮かび、構えながら、ユーノは肩で息をしていた。
「防御しか能を持たぬ結界魔導師でありながら、この盾の守護獣ザフィーラと、白銀(し
ろがね)の拳闘騎士レンとここまで渡り合うとは……その技能、度胸、賞賛に値しよう」
 ザフィーラは、しかし余裕をも感じさせる静かな口調と表情で、そう言った。
「せやけど、それも、これまでや」
 レンが言い、ユーノの前後で、ザフィーラとレンが構える。
「ジルベルンメタリッシュ」
『Ja』
 レンの顔、右目のすぐ横に構えられたジルベルンメタリッシュが、声に応じる。術式を展
開しかけた、その時。
『Braze canon, Break Shot』
 ユーノを挟み込むかのように、青い魔力光の散弾が、ザフィーラとレンに向かって降り
注いできた。
「ぬぉっ……パンツァーシュルト!!」
『Schutzfeld』
 ザフィーラと、ジルベルンメタリッシュが、慌ててシールドを張る。青い魔力の散弾は、
それに防がれて、霧散した。
 しかし、それによって撒き散らされた閃光が、晴れた時。ユーノの元に、クロノが立っ
ていた。
「お前……クロノ……!」
「積もる話は後だ!」
 驚いて声を上げるユーノに、クロノはS2Uを構え、視線をザフィーラとレンに走らせつ
つ、ユーノを制するように声を上げた。
「長話をしている余裕はない、君はアリサのところへ行ってくれ」
「え? でも」
「早くしろ!」
 聞き返そうとするユーノを、クロノは烈しい口調で制した。
「なにをごちゃごちゃやっとんねーんっ! ジルベルンメタリッシュ!!」
『Patronenlast!』
 やはり、グラーフアイゼンやレヴァンティン同様、ガントレッド部に設けられたスライ
ド機構が、銃砲の撃発ような工程を行う。
『Fingerknochelbunker』
 一瞬、シールドのようにも見えた魔力の壁が、衝撃波となって、クロノのいた空間めが
けて、暴力的に打ち出される。
『Round Shield』
 S2Uの声。ラウンドシールドが展開されるが、あっけなく圧壊し、その後ろに存在した
ものもろとも吹き飛ばした。
「やった!」
 レンが言い、ザフィーラも少し感心したように目を見開く。
「さすがにたいした威力だが」
 だが、レンとザフィーラの上方から、クロノの声は降ってきた。
「当たらなければどうって事はないんだよ!」
『Stinger Blade, multi shot』
 クロノの周りに集束した、複数の魔力のスフィアは、剣を模った魔力弾と化して、レン
とザフィーラに降り注いだ。

「っ……」
 シグナムの剣撃に、レイジングハートを庇いながらのアリサは、防戦一方の苦闘を強い
られていた。
 シグナムは一度、剣を引き、構えなおしながら、アリサと対峙する。
「ムカつくわね、そっちはまだ余裕有りってワケ?」
 憎らしげに笑いながら、アリサはシグナムを見据える。
「そうでもない。ここまで長引かせられるとは、とても思わなかった」
「あら、そう?」
 シグナムの言葉に、アリサは、挑発気味に、どこかとぼけたような声を出す。
「ヴィータが失礼な事を言った様だな、シュッツリッターの将として、それは詫びてお
く」
「アンタが気にしなくても良いと思うけど」
 シグナムは言い、本当に申し訳なさそうに軽く頭を下げた。
「だが、我らにも引けぬ大義がある。すまないが、ここで決着を付けさせてもらう」
 びゅん、と、レヴァンティンに、空を切らせた。
「レヴァンティン!」
『Patronenlast!』
 撃発の工程を行い、排莢する。
『Schlangefo……』
「チェーンバインド!」
 アリサが、身を竦めかけた瞬間。
 突然、空中に出現した、緑の光の魔方陣から、4本の光の鎖が伸び、シグナムを絡めとっ
た。
「なっ!?」
 うろたえるシグナムを他所に、ヒュッ、と、アリサの前に、人影が踊りこんでくる。
「ユーノ!?」
「アリサ、大丈夫?」
 ユーノは、僅かに振り返りながら、アリサに問いかける。
「当たり前でしょ、あたしは大丈夫よ!」
 アリサは、強気の口調を装って、そう言う。言ってから、
「あたしは、ね……」
 と、急に声のトーンを落として言い、視線を傷ついたレイジングハートに向けた。
『アリサ! 聞こえるか!?』
 アリサの脳内に、クロノの念話が響いてくる。
「おのれっ」
 シグナムは一瞬にしてバインドを断ち切ると、レヴァンティンを構えてユーノに斬りか
かった。
「ラウンドシールド、デュアルエクサイズ!」
 ユーノは、アリサをも護ってなお余裕のあるサイズの光の盾を出現させ、シグナムの斬
撃を凌ぐ。
『何!? ユーノにあたしとコイツの邪魔させたの、アンタなの!?』
『余計なお世話だったか?』
『その通りよ! この程度の奴なんか、あたしにかかればけちょんけちょんなんだから!』
 クロノに対して、強気に答えるアリサ。
『それはすまない。だが、なのはが狙われているって事を考えてくれ。彼女は負傷させら
れているんだぞ』
『ぐ……』
 諭すようなクロノの声に、アリサは言葉を詰まらせ、気まずそうな表情になる。
『とにかく、このままではこれ以上僕たちが介入しようにも、連中の結界が邪魔で出来な
いんだ』
『だから、どうしようって言うのよ』
『バリア貫(ぬ)きは、君の得意技だろ』
 クロノがこともなげに言ったのに、アリサは驚いて、目を円くした。
『ちょ、こんな広域結界、スケールが違いすぎるわよ』
『スターライトザッパーだ』
 クロノは即答する。
『あれを結界のドームの天頂方向に向けて、撃ちこむんだ。あれに耐えられる障壁なんか
ない』
『う……だけど……』
『自信ないのかい? 君にしては珍しいな』
『そうじゃなくて……』
 アリサは言い、傷ついたレイジングハートを見る。
 すると、レイジングハートのひび割れたコアが、明滅した。
『No problem, Master』
 レイジングハートは言う。
『There is nothing to worry about me. Let’s shoot it Star Light Zapper』
「本気で大丈夫なの!? レイジングハート」
 アリサが驚いたような声で聞き返すと、レイジングハートは、再度コアを明滅させて、
答える。
『Of course』
 至近で、緑と赤紫の閃光が交錯し、火花を散らしている。
 防戦しか出来ないユーノでは、シグナム相手に稼げる時間は少ない。これ以上、迷って
いる暇は無い。
「信用するからね! 嘘だったら、承知しないわよ!」
『It understands. Master』
 アリサは、天に向かってレイジングハートを掲げた。
 周囲に飛び散った魔力の残滓、まだベクトルを失っていない魔力素が集束し、オレンジ
色光を放つ、魔力のスフィアを無数に構成し始める────

『Photon Lancer, multi shot』
 バルディッシュの術式と共に、フェイトの周囲に浮かぶ魔力のスフィアが、無数の金色
の魔力弾となって迸る。
「うぉらぁーっ!」
 ヴィータはシールドを展開しつつ、フォトンランサーを縫うようにかわしながら、フェ
イトに迫る。
 ガキィィンッ!
 バルディッシュの魔力刀と、グラーフアイゼンの魔力光を帯びた槌とが交錯する。
 バチバチバチバチッ
 両者の魔力が反発し合い、激しい火花を飛ばす。
『Photon Lancer』
 フェイトの左手に魔力弾が発生し、ゼロ距離でヴィータに向けて放とうとする。
「うわぁっ」
 ヴィータは声を上げつつ、その場で捻ってかわす。
『Arc Saber』
 バルディッシュの魔力刀が撃ち出され、ブーメランのように旋回しながら、ヴィータを
追尾する。
「くそったれぇっ」
 ヴィータは、アークセイバーから逃れる為に、急降下で高速飛行しつつ、片手で器用に、
グラーフアイゼンのチャンバーに、弾丸状のそれをセットした。
ヴィータは地上スレスレで反転し、急上昇しながら身体を反転させると、硬式野球ボール
程度の鉄球を取り出した。
『Schwalbe fliegen』
 鉄球を、グラーフアイゼンで撃ち出す。赤い閃光の砲弾となったそれは、飛来するアー
クセイバーに打ち込まれた。
 稲妻を伴って対消滅し、魔力の残滓を撒き散らしながら爆発する。
 ヴィータは空中で動きを止めて、フェイトの方に向き直ると、ピンポン玉大の鉄球を、
4つ、浮かべる。
『Schwalbe fliegen』
 グラーフアイゼンで、フェイトめがけて撃ち出した。
『Defenser』
 ヴィータを追尾していたフェイトは動きを止める。バルディッシュが、金色の光の盾を
生み出した。
 ドン、ドン、ドン、ドン……ッ
 ヴィータの放った弾丸は、フェイトのシールドに阻まれ、霧散して消える。
 だが、それを追いかけるようにして、ヴィータがフェイトめがけ、グラーフアイゼンを
振りかぶって、迫っていた。
 フェイトは落ち着き、デバイスフォームのままのバルディッシュの刀具で、グラーフア
イゼンを受け止める。
 射撃で相手を牽制しながらクロースレンジへなだれ込み、自分のペースに誘い込む。
 アリサの常套手段だ。しかもアリサの射撃はもっと速い。
 だが、そこにフェイトの油断があった。
「アイゼン!」
『Patronenlast!』
 ガキン!
 グラーフアイゼンが、撃発の工程を行った。
「砕け!」
「えっ!?」
 ミシ……メキ……ッ
 フェイトは、驚愕に目を円くした。バルディッシュの刀具が不気味な軋みを上げ、コア
に亀裂が入る。
『Photon Lancer』
「ぐぁっ!?」
 それが、ほんの僅かでも遅れていたなら、バルディッシュは砕かれ、再起不能にされて
いただろう。
 その射撃は、フェイトのものではない。
「フェイトを……私の妹を、それ以上、いじめるなーっ」
 テナントビルの上から、魔力のスフィアを無数に集束させつつ、アリシアがヴィータに
向かって叫ぶ。
「ちっくしょう、卑怯だぞ!」
 ヴィータは叫ぶ。だが、フェイトは砕けかけたバルディッシュを構えつつ、うろたえる
事も無く、ヴィータを睨み返した。
「先に、なのはやアリサを襲ったのは、君たちだ」
「ぐっ────」
 ヴィータが、凛とした、2対の赤い双眸に気圧されかけたとき────
 オレンジ色の輝きが、あたりを照らした。

『Charge was completed. Shoot Ready』
「行くわよ!」
 30は優に超えようかと言う、オレンジ色の魔力光の塊を周囲に浮かべ、アリサはそれを
撃ち出す為に、レイジングハートの切っ先を僅かに傾けた。
「!?」
 突然、アリサの身体を、未知の衝撃が襲った。胸の中身を、引きずり出されてしまった
かのような感覚。
「な……かは……っ」
 それを見た、ユーノ、そしてクロノは、驚愕に目を見開いた。
「そんな……ばかなっ……」
 アリサの胸から、別の人間の手が生えている。
 そう見えたのだ。
 アリサのバリアジャケットの、白いジャケットが消失する。
「いけない、ずれちゃった……」
 ──別のビルの屋上に、彼女はいた。
 ふわりとした淡い金髪、シグナムたちと同じ衣装は、緑を基調としている。
 シャマルは、己の指輪から伸びた糸が作り出す円の中に、手を差し込んでいる。
 シャマルがその手を動かすと、アリサの胸から生えている手も動いた。
 シャマルはハードカバーの本を開くと、その、真っ白いページを、自らが手を差し込ん
でいる円に向けた。
 本のハードカバーは、剣のような、十字架のような、金のレリーフで飾られている。
「リンカーコア、抽出、蒐集」
『Sammlung』
 アリサの胸から生えている手に握られている、アリサのリンカーコアが、何かに吸い取
られるように、その輝きを失っていく。
 それと同時に、シャマルの前に広げられた本の、白かったページに、文字が浮かびあが
った。
「あらら……やっぱりあの子じゃ、2ページにも満たないか……」
 シャマルは、埋まった本のページを見て、困惑気に、そう言った。
 一方────
「ぐ、く、ぐぐっ」
 苦しそうに呻いていたアリサだが、ぎっ、と歯を食いしばって目を見開くと、結界のド
ームに覆われた天を見上げる。
「レイジングハート、……Let’s Shoot!」
 振りかぶったレイジングハートを、天上の方向へ向けて、振った。
『Star Light Zapper』
 アリサの周囲に漂っていた、無数のスフィアは、燃え上がる炎の矢となって、ドームの
天頂部分に殺到した。
『まずい、結界が貫(ぬ)かれる』
 念話で、ザフィーラが、他の“シュッツリッター”たちに呼びかけた。
 シャマルも、その構成員の1人だった。
『止むを得ない、今夜はこれで良しとしよう。退くぞ』
『残念や……』
 リーダーであるシグナムが指示すると、レンが無念そうに弱々しく呟いた。
『みんな、散って、いつものところで』
『シャマルごめん、助かった』
 シャマルが言い、ヴィータは離れた場所から、シャマルを拝むように頭を下げた。
「アリサ、アリサーっ!!」
 スターライトザッパーを撃ち終えたアリサは、ほとんど自由落下の勢いで高度を下げて
いく。それを、重力加速度をさらに上回る急機動で、ユーノが追った。
 それとすれ違うように、赤紫、赤、緑、群青、そして純白の、5つの光が、崩壊するドー
ムの破口めがけて、飛び去っていく。
 そして、そのうちの緑の光を、クロノが、呆然と見上げていた。
『ごめんっ、クロノ君、ロック外された、逃がしちゃったよぉっ』
 念話越しに、エイミィの情けない声が聞こえてくる。
『エイミィさん、転送の準備、アリサが、アリサがーっ』
 ユーノが、取り乱した声で割り込んできた。
 だが、クロノは、そのどちらにも、動じもせず、シャマルの緑の光を、────正確に
は、その手に抱えられるハードカバーの本を、見送った。
「あれは……闇の書…………!!」



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目次:燃え上がる炎の魔法使い
著者:( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc

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