[445] 燃え上がる炎の魔法使い 9-01/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/09(土) 10:23:32 ID:zrusJaXa
[446] 燃え上がる炎の魔法使い 9-02/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/09(土) 10:23:52 ID:zrusJaXa
[447] 燃え上がる炎の魔法使い 9-03/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/09(土) 10:24:18 ID:zrusJaXa
[448] 燃え上がる炎の魔法使い 9-03/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/09(土) 10:24:40 ID:zrusJaXa
[449] 燃え上がる炎の魔法使い 9-04/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/09(土) 10:25:07 ID:zrusJaXa
[450] 燃え上がる炎の魔法使い 9-06/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/09(土) 10:25:44 ID:zrusJaXa
[451] 燃え上がる炎の魔法使い 9-07/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/09(土) 10:26:04 ID:zrusJaXa
[452] 燃え上がる炎の魔法使い 9-08/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/09(土) 10:27:20 ID:6cSL8cE9
[453] 燃え上がる炎の魔法使い 9-09/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/09(土) 10:27:43 ID:6cSL8cE9
[454] 燃え上がる炎の魔法使い 9-10/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/09(土) 10:28:08 ID:6cSL8cE9
[455] 燃え上がる炎の魔法使い 9-11/11 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/09(土) 10:28:32 ID:6cSL8cE9

『Load Cartridge』
 ズドンッ
 CVK-695Dの尾栓部分がブローバックし、2発の空カートリッジが排莢される。コアの周
りを、余剰の魔力が魔力素の霧となって漂い、飛行に伴って後ろへと流れていく。
『Ray Lance, multi shot』
 6発の、小さなオレンジ色の光の弾丸が集束し、上方にいる赤紫の騎士めがけて放たれ
る。
 その後を追うように、一気に急上昇をかけつつ、両手でレイジングハートを握る。
『Fire slash』
 レイジングハートのコアが瞬き、刀身が鮮やかなオレンジ色の輝きを帯びる。
「くぉのぉぉぉっ!!」
 構える相手より頭ひとつ上方に突き抜け、重力による加速を伴って、振り上げたレイジ
ングハートを、上段から叩きつける。デバイスが展開したシールドに魔力斬撃がぶつかり、
激しく火花を散らす。
 相手の騎士は、片刃の剣の峰を支えて、凌ぎあいながら、睨むように見据える。
「やはり来たか……バニングス!」

燃え上がる炎の魔法使い〜Lyrical Violence + A’s〜
 PHASE-09:Spiralformiger Korridor(後編)

『Ray Lance, Clash mode』
 凌ぎあう中、オレンジ色の魔力弾が、アリサの胸元で一気に集束し、シグナムめがけて
直接、射撃される。
 ズドンッ、メキッ
「何!?」
 貫通こそしなかったが、シグナムのシールドはヒビが入り、不気味な軋みを上げた。
 ガシャンッ
 シグナムのシールドが砕かれ、レイジングハートが振り下ろされる。
 ガキィンッ
 シグナムは、それをレヴァンティンで受けた。
 キィイィィィン……
 不気味な振動が、レヴァンティンからシグナムの手首に伝えられる。
「なんだと……レヴァンティン!」
『Patronenlast!』
 レヴァンティンもカートリッジを撃発。レイジングハートとは対照的に、目に見えて炎
を纏う。
「レイジングハート!」
『Flash move』
 シュッ
 アリサの姿が、シグナムの目前から消える。
「何!?」
 シュッ
 背後に気配、だが、向きを変えていたのでは間に合わない。
『Panzerhindernis』
 赤紫のクリスタルガラスのようなシールドを、全周に張り巡らせる。
 ガッキィィンッ!
 シールドに当たり、レイジングハートがそこからバチバチと激しく火花を散らす。
「くっ、なんて硬さなのよ!?」
 シールドの出力に押し負けかけている状況に、アリサは歯を食いしばりつつ、呆れたよ
うな口調で言った。
「ふっ、近接戦闘に特化したベルカの騎士、防御も、鉄壁だっ」
「なら……」
 アリサは、右手でレイジングハートを圧しつつ、左手で器用にカートリッジを装填する。
「何!?」
「鉄だろーがダイヤだろーが切り裂くまでよ! レイジングハート!!」
『Load Cartridge』
 ズドンッ
 シグナムが狼狽するのが早いか、レイジングハートはさらに2発のカートリッジを撃発
させる。
「もう1段!」
『Fire slash, Dual excise』
 レイジングハートの刀身を、もう1段、オレンジ色の魔力光が覆う。
 ミシッ
「まずい、レヴァンティン!」
『Panzerschild』
 内側に、さらにシールドを展開する。クリスタル状のシールドが砕かれ、ガラスのよう
に粉々になり、霧散していく。内側のシールドとレイジングハートがぶつかり、そこでま
た、激しい火花が散る。
『Ray Lance……』
「同じ手を食うか! レヴァンティン!」
『Panzerexplosion!!』
 ドンッ
「うわっ!?」
 シグナムのシールドが、一瞬、輝いて瞬き、次の瞬間、アリサに向かって爆発を起こし
た。
 これは以前、アリサがバリアジャケットで、レヴァンティンのシュランゲフォルムから
逃れるのに使ったものと、同種の技だ。
『Protection』
 オレンジ色の光の盾が、魔力による爆砕を遮る。
「くっ」
 アリサは険しい表情で、爆発の煙と魔力の残滓の霧が晴れた視界に、目を凝らす。
 シグナムは、僅かに距離をとって、アリサに向かってレヴァンティンを構えている。
 アリサも、構えなおす。
「やはり、こうなると手強いな、お前は」
 シグナムは、しかし口元で微笑し、そう言った。
「ニヤつかれながら言われても面白くないわね」
 アリサは不機嫌そうに言ってから、
「アンタこそ、騎士の誇りだの騎士としてだの、石頭かと思ってたけど、あたしの技をす
ぐに真似して返すなんて、面白いことするじゃない」
 と、言って、不敵に笑う。
「騎士の誇りあればこそ、より己が強くありたいと思うのは、当然の事」
 シグナムは不敵な笑みを崩さず、そう言った。
「そりゃ、そーだわ」
『Ray Lance, multi shot』
『Sturmwellen』
 6発の魔力の銃弾と、魔力を伴った刃のような破砕の衝撃波が、各々の中間点ですれ違
う。
 だが、その先に、既に、2人はいない。
 ガキィンッ
 レイジングハートと、レヴァンティンが、火花を散らしながら、交錯する。
「はっ」
 だが、シグナムは凌ぎあわず、すれ違うように急軌道すると、再び間合いを取った。
「悪いが、決着を付けさせてもらうぞ……レヴァンティン!」
『Patronenlast!』
 ガキンッ、レヴァンティンがカートリッジを撃発させる。
『Schlangeform』
 シグナムがレヴァンティンを下段に構え、そして、振り上げる。
『Drachen leichter Schlag』
「飛龍・一閃!」
 魔力で生み出された衝撃波の刃を伴いつつ、刃の蛇龍がアリサめがけて伸びる。
「くっ」
『Protection, Dual excise』
 二重のシールドを眼前に生み出し、アリサは放たれる衝撃波を凌ぐ。
 だが、伸びた蛇龍の剣は、アリサを締め上げんと、周囲を取り巻く。
『Chain Bind』
「何っ!?」
 突然、シグナムの足元にオレンジ色の光の魔法陣が展開し、同じ色の光の鎖が、シグナ
ムの四肢を絡めとる。
「ミッドチルダ式にとって、目に見える範囲は攻撃レンジの中だってこと、忘れないでよ
ね!」
 刃の蛇龍は力を失い、しなしなと垂れ下がりかけた。
「レヴァンティン!」
『Schwertform』
 レヴァンティンは元の長さに引き戻され、片刃の西洋剣に戻る。
「はっ」
 アリサはその時、既にシグナムめがけて、放物線を描くように上段から斬りかかってい
る。
「ふんっ」
 シグナムは魔力放出でバインドを砕くと、レヴァンティンでそれを受け止めた。
 その時。
 カッ。
 黒い閃光────おかしな表現だが、言うとすればこう表現するしかないそれが、アリ
サの背後から、照らし出す。
「な……に?」
『シャマルか?』
 驚きの言葉さえ詰まらせるアリサ。シグナムは念話で問いかけるが、シャマルの返答は
ない。

 ──少し、時系列は前後する。
「あの、あなたは一体何者ですか!?」
 シャマルが、仮面の男に詰め寄る。
 だが、仮面の男は、シャマルの方を向くと、それには答えず、
「今のうちだ。結界を破れ」
 と、淡々とした口調で、そう言った。
「え……?」
 シャマルは、困惑した表情で、小さく声を上げた。
「ですが、この強固な結界を破るには、私の力では……」
「闇の書の力を使え。それだけに足る力は、既に蒐集できているはずだ」
 シャマルの困惑の言葉に、男はそう返した。
「!?」
 しかし、シャマルは、その言葉を聞いて、逆に軽く驚いたように、目を円くする。
「そんな事をしたら、完成したページが……」
「失われたページは、また後で蒐集すれば良い。それとも、このまま管理局の手に落ちる
気か?」
 当惑するシャマルに、男はそう、言いきった。
「…………解り、ました」
 シャマルは、覚悟を極めたかのように、息を呑みこんで頷くと、抱えていた闇の書を、
手に取り、開く。
「闇の書よ、守護騎士シャマルが命じます。眼下の敵を打ち砕く力を、今、ここに。撃っ
て、破壊の雷(いかずち)!」
『Zerstorungsdonner』
 闇の書が鈍く輝いたかと思うと、天空、ドーム型の結界の天頂に、黒い稲妻が迸る。
 一撃だけではない。天空にどす黒い雲が渦巻き、黒い稲光を暴れさせる。
「うくっ!?」
 ──ドクン。
 アルフと拳を叩きつけあっていたレンに、突如、異変が起きた。
 胸に手をあて、バランスを崩す。
「なっ!?」
 その変貌に、アルフは、魔力光を伴った、やや下段からの右ストレートを繰り出しつつ
も、思わず、慌てる。
『Schutzfeld』
 ジルベルンメタリッシュが、シールドを張り、アルフの打撃を凌ぐ。だが、レン自身は、
胸を押さえるようにしながら、飛行魔法の高度を急激に落としていく。
「どうしたんだい!?」
 アルフは、相手が敵であるということも忘れ、思わず、心配げに困惑した表情で、レン
に問い質す。
「何でもあらへん、くるなぁっ!」
 レンはそう叫ぶと、急機動でアルフから離れ、そのまま離脱した。
「くぅ……あかん、未完成のまま暴走が始まったら……抑えられへん……っ、はやてちゃ
んっ……!!」
 レンは呻くように呟きつつ、シャマルの方へと飛んでいく。
「なっ!?」
 バルディッシュとグラーフアイゼンが、何度目かの激しいぶつかり合いをしたとき、自
分たちの頭上めがけて、黒い閃光──そうとしか表現できないそれが、降り注いだ。
 突然の出来事に、一瞬、フェイトとヴィータはどちらも呆然としてしまい、鎌の斬撃と
ウォーハンマーの打撃で凌ぎ合う姿勢のまま、動きを止めた。
「ぬぅ」
 防戦一方、オフィスビルの屋上に追い詰められながらも、激しく抵抗するなのはと対峙
していたザフィーラは、その光景に、軽く驚いたように、声を上げた。
「どうやら此処までのようだな」
「えっ!?」
 なのはが問い返すが早いか、ザフィーラは天頂方向へ向けて、高速で飛び出した。
「このぉっ」
『Load Cartridge』
 ガシャッ、最後に1発だけ残しておいたカートリッジを、撃発させる。
『Axel Stinger, Shoot』
 桜色の魔力光の、ひときわ巨大な槍が、ザフィーラめがけて撃ち上げられる。
 だが、ザフィーラはそれを、悠々とかわす。
 避けられた光の槍は、黒い稲妻とぶつかり、相互に干渉しあって、結界の破壊を加速す
る。
「バカなのは! なにやってんのよ!」
 桜色の光の槍が、味方の結界の破壊を加速したのを見て、思わず、アリサは空中で地団
駄を踏む。
『シャマル、闇の書の力を使ったのか?』
『ごめんなさい、他に、方法が……』
 ようやく、シグナムの呼びかけに、シャマルが答えた。
「すまん、バニングス、この勝負、ひとまず預けるぞ」
「えっ!?」
 アリサが振り返ったときには、すでに、シグナムは急機動で、結界の中心とは反対側に
離脱を図っていた。
「逃げんの!? 卑怯者!」
「引き際を見極める事も、将の役目だ」
 アリサの怒声に、シグナムは、既に遠方から叫び返す。
「それより、結界の中の仲間を助けてやれ」
「ぐっ……」
 言われ、アリサはシグナム追撃を中止した。悔しそうに、結界の中心部と、シグナムと
を、交互に見つつ、CVK-695Dに、次の2発のカートリッジを装填する。
「レイジングハート、行くわよ!」
『O.K. Master. Axel fin』
 バリアジャケットの一部であるスニーカーから生えた、鮮やかなオレンジ色に輝く光の
翼を大きく羽ばたかせ、アリサはシグナムが去った方向とは反対に、高速で飛行し、向か
う。
「ふん、この場はこれ以上はまずいみたいだな」
「そうだね」
 ヴィータが不機嫌そうに言い、フェイトは同意した。お互い、得物を引く。
「鉄槌の騎士ヴィータと、鉄の伯爵グラーフアイゼン。この勝負、預けた」
 漆黒の雷(いかずち)の荒れ狂う中、ヴィータは、そう言って、フェイトを、びしっ、と、
指差した。
「フェイト・テスタロッサ。この子はバルディッシュ・エクセレント」
 フェイトは、それに返礼するかのように、口上を言う。
「フェイト・てすしゃろっ…………」
 フェイトのフルネームを言おうとして、ヴィータは、“噛んだ”。
「でぇい、言いにくーいっ!!」
「ぎゃ、逆ギレ!?」
 ヴィータが不愉快そうに声を上げると、フェイトはおろおろとして、そう言い返した。

「貴様、は……」
 クロノはS2Uを構え、仮面の男と対峙する。
 その背後で、シャマルが飛び上がった。純白の光、レンと、ピンクがかった赤紫の光、
シグナムが、それに合流する。
「今は退け。直に、それが正しいと解る」
 男は、淡々とした口調ながら、傲慢さを感じさせてそう言うと、
「さらばだ」
 と、テナントビルの屋上をクロノに背を向けて駆け出した。
「待てッ!」
 クロノは、反射的に追おうとするが、ダメージを受けた身体が、よろける。転びかけ、
姿勢を立て直したときには、既に、その姿は、どこにも見えなかった。
「どうなっているんだ……?」
 クロノは口惜しそうに言い、破壊される結界を見上げた。

「ごめんなさい、シグナム」
 寄り添って飛行しながら、シャマルは泣きそうな声で、シグナムに向かって言う。
「いや、済んでしまった事は仕方がない。だが、これから先は、例えどんな窮地に陥ろう
とも、闇の書の力は使うな」
 シグナムは、淡々とした口調で、そう言った。
「主の様子が気になる」
「防御とカムフラージュの結界を張ってきたから、大丈夫だとは思うけど……」
 ────そうではない。
 シグナムは、そう出かかった言葉を、無理に飲み込んだ。
「ヴィータとザフィーラを回収して、すぐに戻るぞ!」

 破られた結界の天頂部めがけて、ひときわ強烈な、黒い稲妻が、撃ち下ろされる。
「フェイトちゃん!」
「なのは! 早くこっちへ」
 フェイトが、なのはの元に寄る。だが、それを狙うかのように、稲妻の一部が、降り注
いでくる────
『Round guarder』
 2人が思わず、身をすくめた瞬間。その上を、オレンジ色の光のバリアが覆った。
 気付けば、2人の傍らに、オレンジ色に輝くレイジングハートを掲げて、アリサが立っ
ている。
 黒い稲妻はしばらく、アリサのバリアを圧しながら暴れまわっていたが、やがて、それ
は終息して行く。
「はっ!」
 バリアの表面を走っていた稲光が払われ、辺りには静けさが戻ってきた。
 レイジングハートの圧力逃し弁が開き、余剰の圧力を水蒸気と共に排出する。
「ああ、もう……」
 しばらく、軽く目を閉じ、直立不動の体勢でレイジングハートを掲げていたアリサだっ
たが、
「なにがどーなってんのよ、もう、ワケわっかんない、キーッ!」
 と、レイジングハートを手に持ったまま、空中のその場で地団駄を踏んで、不機嫌そう
に癇癪を上げた。
「おおい、フェイトー、みんなー、大丈夫かー?」
 アルフの声がする。アリサも一時的に落ち着きを取り戻し、3人はそろってそちらを振
り返る。
「アルフさん、クロノ君は?」
「え? クロノ?」
 なのはの問いに、アルフはきた方角を振り返ると、キョロキョロと、下の方を窺がった。
『僕なら大丈夫だ……が』
 クロノの念話が、その場に居る4人に届く。
『すまない、僕が不覚を取った』
『クロノ君だけのせいじゃないよ!』
 クロノの謝罪に、なのはが、慌てて言う。
 アリサがジト目で、フェイトは素の表情で、なのはを見る。
「え、いや、その……」
 なのはは、誤魔化すようにどもりつつ、顔を少し、赤らめた。
『それに、おかしなことになり始めているみたいだ』
『おかしなこと?』
 フェイトが聞き返す。
『守護騎士と闇の書の主以外にも、闇の書に関わりを持とうとしている勢力がある』

 『アースラ』スタッフ地上本部、兼ハラオウン家住居。
「クロノ君、大丈夫?」
 なのはとアルフに支えられながら、クロノはよろよろとLDKの室内に入る。
「大丈夫、打撲だけだ。少し横になってれば直る」
「クロノ、駄目だよ、そんな無理しちゃ……」
 顔をしかめながら言うクロノに、フェイトが、小さい子に言い聞かせるように言う。
「大丈夫だよ」
 クロノは、やせ我慢で笑顔を作って、なのはとフェイトに見せる。
 ドン。
「ぐぅあっ!」
 アリサの手が、軽くクロノの背中を叩いた。
「フェイトは無理すんじゃないって言ってるでしょ! 怪我してるときぐらい、少しは心
配されなさい!」
 うめき声を上げるクロノに、アリサは高飛車にそう言った。
「きっ、君こそっ、他人にもっと思いやりを持ってくれっ!」
 アリサに向かって抗議の声を上げつつ、クロノは、ソファに身を沈めるように、座る。
 展開したままのS2Uを、軽く掲げると、正面に、大型の非実体ディスプレィが現われた。
『クロノ、大丈夫?』
 画面の中で、リンディが心配そうに、声をかけた。
「はい、大丈夫────」
 言いかけて、クロノは背後にイヤな気配を感じた。
 実際、そこには、どこから持ち出したのか巨大なハリセンを手に持ったアリサが、構え
て立っていた。
 クロノは、それを振り返りはせず、
「いえ、すみません、報告が終わり次第、横にならせてもらいます」
『そう。私も、一旦そっちへ行くわ。こうなってしまった以上、艦からできることはない
ものね』
 母親が息子を心配する表情のまま、リンディはそう言った。
「それで、至急、報告したかったのは……」
『解ってるわ、あの仮面の男ね』
 リンディは、クロノの言葉を先取りして、そう言った。
「はい」
 モニターがPnP表示にかわり、サブ画面に仮面の男の画像が表示された。
「こいつが、妨害したの?」
 アリサは、ハリセンを構えたまま、睨みつけるようにそれを見て、そう言った。
「そうだ」
 クロノは、短く答えた。
「はじめは守護騎士たちの仲間かと思ったが、どうも違うような気がする。少なくとも、
守護騎士の1人とは、面識がないようだった」
『そう、でもおかしいわね』
 クロノが説明する。すると、リンディが、困惑気にそう言った。
「なんで? 要はさ、そいつらも、闇の書の力ってのを、狙ってるんだろ?」
 アルフは、どうして疑問なのか、と、訊ねる。
「闇の書は、他のデバイスと同じ、基本的には、登録されたマスター、主人にしかその力
を発揮させる事はできない。守護騎士たちがその一部を行使することは可能だが、それは
守護騎士たちが闇の書本体に付帯する、主の忠実な代行者だからだ。外部の人間には、無
理なんだ」
「ああ、なるほどね」
 アルフは、腕を組んで、クロノに向けていた視線を、ディスプレィに戻した。
「そして、主の登録は、転生システムによって闇の書が発現したときに、既に決定されて
いて、外部から書き換える事は、まず不可能だ」
『あるいは、主自身に対して、脅迫か何か、その力を自分達の為に行使させる手段を持っ
ているか、だけど……』
 リンディは、可能性のひとつを口にして、指を口元に当てる。
「はやては、すくなくともあたしの見た感じとすずかの話じゃ、そんな感じじゃなかった
わよ」
 アリサが、言う。そもそもはやては、シグナム達を止めようとしていたと、彼女はまだ、
そう記憶している。
「それに、はやてを脅迫しようだなんて、シグナムが黙っちゃいないわ。今頃、頭から真
っ二つよ」
「かといって、彼女らより力を持つ魔導師が、あえて闇の書を欲しがるとは思えない」
 アリサの言葉に、クロノが付け加えるように、そう言った。
『なのよねぇ』
 困惑気な表情で、リンディは2人の言葉に同意する。
 ディスプレィよりこちら側でも、一同が唸って首を捻る。
「とにかく、事実は2つ。闇の書にちょっかいを出そうとしている第3勢力が存在すると
いうことと、蒐集が進み、闇の書の発動の時が近付いているという事だ」
 クロノが、纏める様に、そう言った。
「発動まで、あと、どれぐらいあるのかな」
 フェイトが、不安そうな表情で、そう言った。
『推測だけど』
 リンディに代わり、エイミィが、メインウィンドゥに表示された。リンディの映像は、
PnPのサブウィンドゥに移動する。
『過去のデータと、わかっている限りの蒐集の量を付き合わせると……』
 エイミィは、光学キーボードを叩き、言う。
『3日、乃至は4日……』
「くそ、今日の失敗は、痛いな!」
 クロノが珍しく、苛立った表情で、声を荒げる。
 一方、アリサとなのはは、目を円くして、顔を見合わせた。
 そして、2人揃って、壁に吊られていたカレンダーを見る。
「クリスマス…………」
 アリサは、そう、小さく、呟いた。

『あ、それと、私信で悪いんだけど、クロノ、フェイトさん』
「はい?」
「なんでしょう?」
 思い出したように言うリンディに、フェイトとクロノが、顔を上げる。
『いえ……見当たらないようだけど、アリシアさんはまだ帰っていないのかしら?』
「あ、そう言えば……」
 フェイトは口に出し、2人して思い出したように顔を上げる。
 時計の針は、すでに10時……22時30分を過ぎている。
 一同がキョロキョロと見渡すが、アリシアの姿はない。
 アルフが、フェイトとアリシアの2段ベッドの置かれた部屋を覗き込むが、そこにも、
姿はなかった。
 ヴン……
 唐突に、転送ポートの術式が駆動する。此方へと転送行おうとしている。
 そして、魔法陣の上に、身長差の極端な2人の人影が、現われる。
「見つけたーっ!!」
 到着するなり、展開したままのブローバを抱えたアリシアが、そう叫んだ。
「アリシア!?」
 思わず、フェイトが聞き返す。
 アリシアは、傍らのリニスを置き去りにして、ブローバとファイルホルダーを抱え、LDK
に飛び出してくる。
「闇の書の正体! 古代ベルカで作られた────」



前へ 次へ
目次:燃え上がる炎の魔法使い
著者:( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

メンバーのみ編集できます