[301] 燃え上がる炎の魔法使い 8-01/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/08(金) 20:13:14 ID:XFMl4d1a
[302] 燃え上がる炎の魔法使い 8-02/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/08(金) 20:13:38 ID:XFMl4d1a
[303] 燃え上がる炎の魔法使い 8-03/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/08(金) 20:14:16 ID:XFMl4d1a
[304] 燃え上がる炎の魔法使い 8-04/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/08(金) 20:14:41 ID:XFMl4d1a
[305] 燃え上がる炎の魔法使い 8-05/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/08(金) 20:15:22 ID:XFMl4d1a
[306] 燃え上がる炎の魔法使い 8-06/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/08(金) 20:15:52 ID:XFMl4d1a
[307] 燃え上がる炎の魔法使い 8-07/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/08(金) 20:16:21 ID:XFMl4d1a
[308] 燃え上がる炎の魔法使い 8-08/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/08(金) 20:16:46 ID:XFMl4d1a
[309] 燃え上がる炎の魔法使い 8-09/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/08(金) 20:17:11 ID:XFMl4d1a
[310] 燃え上がる炎の魔法使い 8-10/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/08(金) 20:17:39 ID:XFMl4d1a
[311] 燃え上がる炎の魔法使い 8-11/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/08(金) 20:18:03 ID:XFMl4d1a
[312] 燃え上がる炎の魔法使い 8-12/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/02/08(金) 20:18:26 ID:XFMl4d1a

 Dec.21.2005────日本国 東京都 海鳴市
 聖祥大学附属小学校 3年1組。
「ユーノ君、大丈夫!?」
 朝のHR前のひと時。
 すずかは心配そうな顔で、ユーノに訊ねる。
「身体の方はなんとも。無理しなければ大丈夫だよ」
 ユーノは、優しげに微笑みながら、すずかに答えた。
「ごめんね、私がもっとはやてちゃんにちゃんとお話聞いておけば良かった」
 すずかはしょんぼりと落ち込み、ユーノとアリサに、そう言った。
「しょーがないでしょ。そのはやてって奴が人の良いすずかに嘘ついてたんだから」
「アリサ、それ、フォローになってないよ」
 アリサは、両手に頬杖をついて、不機嫌そうに言う。その言葉に、ユーノは、苦笑して、
ツッコんだ。
「そんな、悪い子じゃないと思ったんだけどな……」
「まぁ確かに」
 さらに落ち込みかけるすずかを見て、さすがにアリサも気まずくなったのか、言う。
「記録見る限りでは、はやてはシグナム達止めてたわよね」
 アリサは、不機嫌そうにむすっとした表情で言う。
「そっ、そうだよね」
 すずかは、その言葉に縋るかのように、そう言って、顔を上げて眼を大きく見開いた。
「それに、本の中から人が出てきましたなんて、普通は正直に言えないわよね」
「うん、うん」
「アリサちゃんの場合は、魔法少女ですって言って信じてもらえなかったら、ディバイン
クラッシャーで1発証明、だけどね」
 不機嫌そうなままのアリサ、苦笑しながらうなずくすずか、そして無自覚にも余計な一
言を付け加えるなのは。
「あらなのは。それどういう意味かしら……」
 アリサの視線が、きらっと光り、なのはを見る。
「にゃっ? べ、別にそのままの意味だけど……」
 なのははキョトン、として、少し困惑したように言う。
 アリサの口元が、一瞬、ニヤッと歪んだかと思うと、すずかに向かって顔を上げた。
「そうそう、なのはってば、あたしが知らないうちにクロノとね……」
「わーっ、わーっ、わーっ! アリサちゃん、わーっ!!」

燃え上がる炎の魔法使い〜Lyrical Violence + A’s〜
 PHASE-08:Spiralformiger Korridor(前編)

「ふあぁぁぁぁぁ……」
 4人からは少し離れて、窓際の席。
「アリシア、大丈夫?」
 盛大に欠伸を上げるアリシアに、フェイトが心配そうに訊ねる。
 アリシアの姿は、傍目から見れば、どう見ても3年生の教室に紛れ込んだ1年生である。
「んー、結局、昨日寝たの22時過ぎだったからなぁ」
 言いながら、アリシアは右手で、自分の左肩を揉む仕種をする。見た目に反して、動作
はクラスで一番、年寄りじみていた。
「学校通いながらで、大丈夫なの?」
 フェイトは心配げな表情のまま、アリシアに再度訊ねる。
「ん、昼間はリニスが資料の再確認とかしといてくれるから」
「そう、無理しないでね」
 フェイトがそう言うと、アリシアはぱち、と、眼を円く見開いた。
「それは、こっちの台詞」
「え?」
 困惑気に、フェイトは聞き返す。
「あの連中に遭っても、無理してまで自分が戦おうだなんて、思わないでよ。バルディッ
シュの試験動作やってある?」
「え、あ、う、うん……」
 アリシアに問い詰められ、フェイトは、戸惑い、どもりがちになりながら、頷いた。
「ならよし」
 アリシア軽く頷き、顔を前に戻す。
 キーンコーンカーンコーン。
「あ」
 予鈴が鳴る。
 結局どういう流れになったのか、なのはに関節技を極めていたアリサが、短く声を発し
た。

『にょろ〜ん、クロノくーん』
 その声に、端末の前にいたクロノは、苦々しく頭を抱えた。
 『アースラ』スタッフ地上本部、兼ハラオウン家住居。
 LDKをパーティションで区切って、置かれた、通信端末の前に、クロノはいる。
「あのな、君はもうすこしTPOと言うものを考えろ。仕事中だぞ」
 苦々しい表情で、モニターを挟んで端末の向こう側にいる、エイミィにそう言った。
『別に良いじゃん、通信機のテストだよ通信機のテスト』
「…………」
 クロノは、ジト目でエイミィを睨む。
「それで、状況は?」
『「アースラ」全機構、現在のところ異常なし。現地到着は予定通りだと思うよ。それか
ら、レティ提督から回して貰った武装隊3個中隊、同乗中』
 エイミィは口元で笑いつつも、真面目な目つきに戻って、そう言った。
「それじゃあ、こっちも予定通りだ。『アースラ』は到着次第、第97管理外世界空間内、
太陽系第3惑星・地球・日本国、静止衛星軌道上で待機」
 クロノは目つきを鋭いものに戻し、そう言った。
『りょうかーい』
「観測では、連中、夜動いてる。蒐集から戻ってきたところを、捕まえるぞ」
『武装隊にも、そう伝えておくね』
「ああ」
 そう言って、エイミィとの通信は切れた。
「どうして、僕の周りはああいう女性ばっかりなんだ……リーゼ達と言い、アリサと言い
……」
 はぁ、と深く溜息をつく。さすがに実母の名前はそこに出さなかった、クロノだった。
 ふと時計を見る。
 現地調達のアナログ時計は、まだ9時10分近くを指していた。もちろん、午前の、だ。
「こんな短い時間でも、なのはが恋しいよ」
 るー、と、苦笑しながら、眼の下に涙の滝を作る、クロノだった。

「くしゅっ」
 授業中だというのに、突然にくしゃみが出てしまった。
「あらあら、バニングスさん、大丈夫ですか?」
 教師がわざわざ、苦笑しながらそう言ったので、アリサはクラス中の注目を集めてしま
う。気がつけば、アリシアまでこっちを見て笑っている──背丈の関係で一番前の席にさ
れているから、すぐ目に入る。
『後で覚えてなさいよ』
『ふーんだ』
 ティッシュで鼻を拭いつつ、念話越しにアリシアに言うが、アリシアは動じない。
「この時期、風邪が流行りだす頃ですから、みなさんも気をつけてくださいね」
 教師がそう言い、授業は少し脱線モードに入った。

 ────おかしい。
 シグナムは、荒くなった息を整えつつ、そう逡巡し、立ち尽くした。
 Dec.21.2005、21:05(JST)頃────第87管理外世界。
 目の前で、蒐集を終えた闇の書が、閉じられる。
 それは、午後の、はやての検診の時だった。
「状況は、芳しくないかもしれません」
 はやてをヴィータと共に、先に診察室から出した石田医師は、シグナムに向かってそう
伝えた。
「と、言いますと?」
「はやてちゃんが、治療に前向きになってくれたのはいいんですが……」
 石田医師は苦笑する。これまで──闇の書が発現し、守護騎士達が現われてからは特に
──自覚症状を隠しがちだったはやてを、あの手この手で宥めすかして、事実を言わせて
いたが、その苦労が、突然になくなった。医学知識があるのか──石田医師の感想。実際、
シャマルは医学知識を持っている──予診のようなものまでしている。
「これまで、症状は脚の末端部から、徐々に上半身へ向かって進行していくものでした。
治療内容も、それに合わせた投薬を中心に行ってきたのですが……今日の診察では、どう
も、胸部、それも呼吸器や循環器系にも症状が出始めているようなんです」
「!?」
 専門的に説明されなくても、シグナムにもわかる。それは、人間を含む哺乳類の動物に
とって、生命をの根幹を司る器官である。
 そして、魔法的には、リンカーコアに近く、影響を受けやすい場所でもあった。
「一度、検査をかねた短期入院も視野に入れて、今後の治療に臨まなければならないかも
知れません────」
 深刻そうな石田医師の言葉に、シグナムは、一瞬、己の意識が凍りついたような感触を
覚えた。
 ────闇の書による、主はやてへの侵食が、加速している?
 不可解だった。
 闇の書はまだ完成していないとは言え、既に500ページ台も後半に差し掛かる。莫大な
力を、溜め込んでいるはずだ。
 なのに、なぜ主の力を欲する? 力を主から吸い上げる?
「機能不全を起こしているのか?」
 シグナムは、闇の書を手に取り、カバーを見た。
 まず最初に頭をよぎったのは、レンの顔だった。記憶にない5騎目。あれが、今回の闇
の書の不全の理由か?
 だが、それを即座に否定する。
 守護騎士システムで再現される、個々の守護騎士自身は、あくまで闇の書に“付帯”す
る魔法術式だ。闇の書本体の機能不全で守護騎士が正常起動できないことはあっても、逆
はあり得ない。
 レンの存在によって魔力の消費が早まっているとしても、この症状の説明にはならない。
 ドクン、ドクン……
 シグナム自信の鼓動が、やたら大きく聞こえた。
 ────何か忘れている、何か大きなことを……もっと、ずっと以前から……何だ?
 目を閉じ、逡巡する。だが、思い浮かばない。
「くっ」
 表情を険しくし、口元を歪ませる。
『シグナム!』
 念話越しに、ヴィータの声が飛び込んできた。

 ──海鳴市街上空。
「囲まれたか」
 ザフィーラはしかし、落ち着き払った声で、言う。
「でも、ちゃらいよ、こいつら」
 背中を合わせ、グラーフアイゼンを手に、自分たちを囲んだ相手を睨みつけながら、
ヴィータは言う。
 その周囲を取り囲んでいるのは、画一的な補助装甲を取り付けたバリアジャケットに身
を包む、時空管理局・次元巡航警備部武装隊の隊員達。
「!?」
 ヴィータとザフィーラが、同時に顔色を変える。
 武装隊員は直接、ヴィータ達を攻撃してくるのではなく、遠巻きにすると、そこで、結
界魔法の術式を展開し始めた。
「ヴィータ、上だ!」
 ザフィーラはそう言ってから、ヴィータを庇うように、そこに自らの上半身をねじ込ん
だ。
『Stinger blade』
 夜空に溶け込んでいた漆黒の衣装が、青い魔力光に照らし出される。S2Uの術式展開に、
クロノの周りに、無数の魔力スフィアが生み出された。
『Execution Shift』
「シュート!」
 クロノの声に応え、魔力スフィアが、剣を形作る。その無数の切っ先が、ヴィータとザ
フィーラめがけて、撃ち出される。
 ズドドドドドッ
 ザフィーラが生み出したシールドめがけて、それが降り注いだ。お互いに消滅しあい、
残滓が霧状になって視界を遮る。
「やった!」
 武装隊の誰かが言った。
「まだだ! 結界を維持し続けろ!」
 クロノは、即、声を上げて、指示した。
 果たして、そこに、ヴィータとザフィーラは、まだ、浮かんでいた。
 ザフィーラは、ヴィータに対して、己の身体を盾にしていた。その腕、肩口に、シール
ドを突破したスティンガーブレイドが、見た目では刺さっているように、残っている。
「ザフィーラ、大丈夫か!?」
「この程度、ふんっ……!」
 殆ど無傷のヴィータがそう訊ねると、ザフィーラは静かに言ってから、力を込め、肉体
を隆起させた。
 パリィンッ、薄いガラスが割れるかのような音を立てて、スティンガーブレイドは砕け
散る。
「上等」
 そう言って、ヴィータは薄く笑った。それから、すっ、と、視線を上げる。
「行くぞ、アイゼン!」
『Ja!』
 グラーフアイゼンを構え、抉り上げるように、クロノに迫る。
『Protection』
 クロノは、S2Uに、シールドを展開させる。
『Todlichschlag』
 ガキィィィンッ
 紅い魔力光を纏ったグラーフアイゼンの槌が、青いクロノのシールドに打ち込まれる。
 バチバチバチバチッ
 激しい火花を散らしながらも、お互い一歩も退かずに、凌ぎ合う。
 ────シールドが持たないか、一度間合いを取って……
 クロノが、そう判断しようとした時。
『Load Cartridge』
 聞こえたのは、寡黙にも質実剛健をもって是とする、ガンメタリックを纏う、インテリ
ジェントデバイスの声。
 ガシャッ
 バルディッシュの刀具の付け根に仕込まれた、オートマチック拳銃のようなCVK-792A
ユニットが、撃発工程を行う。ブローバック機構から、1発の空カートリッジが排莢され
る。そのコアが、眩いまでの金色の魔力光を放つ。
「サンダースマッシャー」
『Burst Shot』
 バルディッシュの刀具の周囲に、その柄と同心の円周上に、魔力の槍が発生する。それ
は、放電の稲妻を伴いながら、ヴィータめがけて発射された。
「っととっ」
 1発、2発、ヴィータはクロノから離れつつ踊るように回避し、3発目を、シールドで受
けた。4発、5発目で、シールドにヒビが入る。
「んあっ」
 ヴィータは慌てて、さらに回避機動を取る。6発目が、シールドの外縁部に当たり、そ
の衝撃で、シールドは木端微塵に砕けた。
「くっ」
 ヴィータは、夜空を見上げる。
 結界の影響で、微妙に色相のズレた漆黒。
 自らの魔力光と同じ、眩い金髪をなびかせながら、急速に接近してくる。
「くそっ、アイゼン!」
 ヴィータは呼びかけつつ、グラーフアイゼンを両手で構える。
『Scythe Form』
 バルディッシュの刀具が開き、金色の魔力光を放つ、魔力の刃が、鮮やかに生み出され
る。
 ガキンッ
『Thunder slash』
 バルディッシュがカートリッジをさらにもう1発撃発させると、サイズフォームの魔力
刀のさらにその上から、厚みを持った発光体のような魔力光が、覆い被さった。
 ガキィィィンッ
 激しく火花を散らしながら、バルディッシュとグラーフアイゼンが激突する。
「なっ、こ、この出力……!?」
 受け止めながら、ヴィータは目を白黒させる。
「この」
 フェイトは、刀具の付け根に付く形になった、カートリッジのマガジンを握り、さらに
力を込める。
「くぅっ」
 バチンっ!
 振り払うようにして、ヴィータは一度凌ぎあいから逃れ、間合いをとる。
「おもしれぇっ、アイゼン!」
『Patronenlast!』
 ガキンッ
 グラーフアイゼンもまた、カートリッジを撃発させると、紅く煌々と輝いた。
「おらーぁっ!!」
「はっ」
 バチバチバチバチッ
 グラーフアイゼンの槌とバルディッシュの魔力刀が交錯し、激しく火花を散らした。
「ヴィータ!」
 一瞬、ザフィーラは、ヴィータの助太刀に入ろうとしたが、────
 ガキン、ガキンッ
 輪の中に紅いコアの納まったその付け根で、リボルバー型弾倉を持つCVK-792Rユニッ
トが、2発立て続けに撃発する。
「!」
 ザフィーラが、その音源を振り向くが早いか。
『Stinger blade Power load Shift』
「いっけぇっ」
『shoot』
 剣を模った桜色の魔力弾が、無数に撃たれる、と言うより、“撒き散らされる”。
「ぬぉっ!」
 ザフィーラは、その巨体に似合わず、急機動でそれを交わしていく。
「パンツァーシュルト!」
 ザフィーラが、魔力の盾を発生させる。魔力弾はそれに弾かれ、消滅していく。だが、
立て続けの命中に、数秒と持たずに、ヒビが入る。
 だが、数秒稼げればいい。ザフィーラはもとより、そのつもりだった。
「鋼の頚木っ」
 シールドがはじけるのとほぼ同時に、相手の射点に向かって、青白い魔力光を撃ち出す。
「!」
 なのはに、鋼の牙のような、魔力光の重厚な板が、覆い被さる。
「なにっ!?」
 しかしザフィーラは、すぐに、それに気がついた。
 桜色の一閃が、“鋼の頚木”を、上下方向に両断する。それが消滅した後に、長巻のよう
に翼のレリーフに魔力刀を纏わせたL4Uを、なのはが構えていた。
「このまま、お話、聞かせてもらうわけには、行かないんですか?」
 構えたまま、なのはは、ザフィーラに向かって、訊ねる。
「残念だが」
 ザフィーラは言う。
「我ら守護騎士に、既に迷い無く! 止めたければ、実力で止めて見せるが良かろう!」

「闇の書、お前はシャマル達のもとに戻っていろ」
 シグナムがそう告げると、闇の書本体は、光を纏い、その場から消えた。
「さて、状況はあまり良くないな……あの2人もカートリッジシステムを付けたか……」
 状況を確認し、それを口に出して呟く。
「ザフィーラの方はともかく……ヴィータの相手のあの少女、あれは厄介か……シャマル
やレンが気付くまで、待つべきか?」
『Nein』
 シグナムの呟きに、レヴァンティンが声を発した。
「そうだな」
 シグナムは言い、レヴァンティンを構えた。
「シュッツリッターが将、烈火の騎士シグナム。怯むという言葉など、知らぬ!」
 そう、誰が聞くわけでもない口上を上げ、戦闘の展開されている空間に向かって、飛び
出していく。
 だが────
 最初は、シグナムの下方に並走する形で現われたそれは、一気にカーブを描き、シグナ
ムめがけて急上昇してくる。
 ドンッ
 炸裂のような火花が散ったかと思うと、接近してくるそれは、その輝きを膨らませた。
「何っ」
 6発の、オレンジ色の閃光が、シグナム目掛けて放たれる。その瞬間、シグナムは、そ
れが何か、理解した。
 シグナムは魔力弾を回避し、構えなおす。
『Panzerschild』
 レヴァンティンが、シールドを展開する。その、ほぼ一瞬後の刹那。
 ガキィィィィンッ
 オレンジ色に輝く魔力刀が、シールドに叩きつけられた。激しい火花が散る。
「くぉのぉぉぉっ!!」
 吼える相手を、シグナムはレヴァンティンの峰に手をあてて凌ぎつつ、睨むように見る。
「やはり来たか……バニングス!」

 同じ頃────時空管理局本局、無限書庫。
「やっぱり無理してるんだろうなぁ」
 アリシアは、そう言って、溜息をついた。
『Since it’s your little sister, Sir』
「ぐっ」
 ブローバに「貴女の妹ですから」と言われ、アリシアは言葉に詰まる。
「はぁ、今日はこのくらいにしておこうか」
『Yes, sir』
 溜息混じりのアリシアの言葉に、ブローバが応える。展開していた検索魔法の術式を、
停止させる。
「よっ、お疲れさんだね」
 猫姉妹の片割れが、そう声をかける。
「えーと……」
 その姿を見て、アリシアは返事をしようとし、指をさして逡巡しかけた。
「アリアだよ。リーゼアリア。でも長いから、アリアで良いよ。リーゼロッテはロッテで」
 苦笑気味に、リーゼアリアはそう言った。
「そっか」
 苦笑気味に、アリシアは言ってから、
「それで、そのロッテは、今日もいないの?」
 と、辺りを見回して、そう訊ねた。
「ん? ああ、戦技教導隊の仕事がはずせなくてね……」
 リーゼアリアは、そう答える。
「ふーん……」
 アリシアは何気なく返事をした。
「リニスー、そろそろ帰るよー」
 アリシアは、そう、声を上げる。
「えっと、待ってくださいアリシア」
 一度検索された資料の精査を行っていたリニスは、そう返事をした。
「ん、なんか解ったの?」
 アリシアは、浮遊魔法で、リニスの背後に近付く。
「いえ。ただ気になることが……」
「気になること?」
 リニスの言葉に、聞き捨てならないといった感じで、リーゼアリアもその背後に近付い
てくる。
「今までにアリシアの検索した闇の書の資料を、原典の年代ごとに分布させたものです」
 リニスは言い、非実体ディスプレィに、グラフを表示させた。
「これがどうかしたの?」
 アリシアは、グラフを一瞥してから、リニスに視線を向けて、聞いた。
「闇の書の検索結果の殆どが、新暦以降に集中、逆に、旧暦の聖王大戦以前の物は皆無、
全くのゼロです」
「あ、ホントだ」
 リニスが言うと、アリシアは背伸びして、ディスプレィを覗き込みなおした。
「つまり……どういうこと、ですか?」
 リーゼアリアは、面倒くさそうに、リニスに問いかける。
「どういうことって、どう考えてもおかしいじゃありませんか! 闇の書の守護騎士達はベ
ルカの騎士なのに、当の古代ベルカでの記録が全く無いなんて!」
 リニスは、そう、声を荒げる。
「名前が、違ったんだ」
「え?」
 ぽつりと言ったアリシアの言葉に、リニスとリーゼアリアは、揃って反射的に聞き返す。
『だとするなら、最初から、あんな、闇の書とか、呪いの魔導書とか呼ばれる、破滅的な
ものじゃなかったと思うんだ』
「呼ばれる、ものじゃ、なかった────」
 アリシアはそう呟いてから、はっと何かを思いついたようにして、2人から距離をとる。
「ブローバ、検索。内容、待機状態が書物型の魔導器。原典の年代で絞込、聖王大戦5年
前から、新暦1年まで」
『Yes, sir』
 アリシアは、ブローバを構える。
「アルカス・クルタス・エイギアス……」
 金色の、光の魔法陣を描き、術式の駆動を開始した。

『ダメだわ……強固な結界が張られてる。ちょっとやそっとじゃ、入れそうに無い』
 念話越しに、シャマルの困惑した声が届いてくる。
「それなら、ちょっとやそっとじゃなきゃええっちゅうこってんな。ジルベルンメタリッ
シュ!」
『Ja, wohl』
 ジルベルンメタリッシュの答えを待ち、レンはそれを引き上げて構える。
「カートリッジロー……」
『Vorsicht!!』
 発動させようとした瞬間、ジルベルンメタリッシュが、レンに警報を投げた。
「!」
 紅(くれない)の魔力光を纏った一撃が、レンめがけて撃ち出されて来る。
『Schutzfeld』
 バチバチバチバチッ
「来ると思ってたよ……簡単にゃ貫(ぬ)かせられないねぇ」
 レンのシールドと、魔力光を纏った拳で凌ぎあいながら、アルフは不敵に笑う。
「ええ根性や! ここでカタぁ付けたるで! ジルベルンメタリッシュ!」
『Patronenlast!』
 ガァンッ
 ガントレッド部から、空カートリッジが排莢され、ジルベルンメタリッシュが、純白の
輝きを放った。
「ちょ、ちょっとレンちゃん!?」
『ごめんシャマル。こっちも邪魔が入ってもた。なんとか時間稼ぎぃ』
 低めのテナントビルの屋上に立ち、結界の内側を伺っていたシャマルが、困惑の声を上
げる。
「時間稼げって言われても、どうすれば……」
 騎士とは言っても、シャマルは直接の打撃力より、治療と、探知やその妨害といった所
謂ソフトキルに特化している。デバイスのクラールヴィントも自衛用に射撃魔法を持って
いるだけで、結界を破壊するほどの攻撃手段は、持たない。
「!」
 困惑しつつ、結界を見上げようとしたその時。
 背後に、鋭い殺気を感じ、シャマルは、そのまま硬直した。
「そのままだ」
 シャマルの後頭部に、S2Uが突きつけられている。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。抵抗しなければ弁護の機会はある。そちら
の事情が複雑だという事も知っている。悪いようにはしない。闇の書を此方に渡して、武
装を解除するんだ」
 闇の書は、魔法技術に無知なはやてにかわって、シャマルが管理していた。このときも
脇に抱えていたが、クロノの言葉に、シャマルはむしろ、ぎゅっとそれを締めなおす。
「申し訳ありませんが、そう言うわけには行きません」
 シャマルは、逡巡する事も無く、姿勢はそのままで、クロノにそう、きっぱりと言い返
す。
「そうか…………残念だ」
 クロノは、思い口調で言う。S2Uに術式を起動させようとした、────その次の瞬間。
 ドガァッ!
 クロノは鋭い蹴りを受けて、吹っ飛ばされた。
「がぁっ!」
 ガシャン!
 隣接するビルの、屋上のフェンスに、叩きつけられる。
 衝撃に、軋みを上げる身体を何とか動かしつつ、クロノは、シャマルの方に視線を向け
る。
 そこに、目の部分だけに穴の開いた仮面で、顔を覆った、長身の男が、立っていた。ザ
フィーラとは対照的に、痩躯だったが、決して貧弱というわけではない。それは、今受け
た、蹴りからもわかる。
「ぐっ、仲間、か……っ」
 クロノは呻くように言う。しかし、頭の中では何かが告げている。何かがおかしい。
 シャマルは、おろおろと困惑気に、仮面の男に話しかけていた。
 そう、未確認の5騎目、レンとも、彼らは基本的に、一枚岩だったはずだ。なのに、シャ
マルはどうして、その男に困惑している?
 クロノが、薄れ掛けた意識を、死力を振り絞るように回復させ、無理矢理意識を覚醒さ
せたとき。
 黒い雷が、結界を叩き、砕くのが見えた────



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目次:燃え上がる炎の魔法使い
著者:( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc

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