279 名前:復讐鬼[sage] 投稿日:2008/10/30(木) 00:59:31 ID:8Q0tpOOe
280 名前:復讐鬼[sage] 投稿日:2008/10/30(木) 01:00:24 ID:8Q0tpOOe
281 名前:復讐鬼[sage] 投稿日:2008/10/30(木) 01:01:28 ID:8Q0tpOOe
282 名前:復讐鬼[sage] 投稿日:2008/10/30(木) 01:03:09 ID:8Q0tpOOe
283 名前:復讐鬼[sage] 投稿日:2008/10/30(木) 01:04:01 ID:8Q0tpOOe

「一体どれだけ数がいるんや? 倒しても倒してもキリがないで」

夜天の王と呼ばれる少女、八神はやてがが目の前に迫る魔物を数体、攻撃魔法で屠りながら呆れたようなため息をつく。

「うん。個々の力はそんなに強くないんだけど……これだけ数がいると厄介だね」

金髪を風になびかせながら、雷神と呼ばれることになる少女、フェイトが金色の戦斧をはためかせ魔物を切り伏せていく。

「こうなると、なのはちゃんが頼りなんやけど……準備はまだ?」
「もうちょっとだけ待って。はやてちゃん!」

強力な親友である魔道士2人に守られた純白の衣を身に纏った少女が、魔法に意識を集中させたまま答えを返す。
愛杖であるレイジングハートに、膨大な魔力が収束していく。

「うん、任せて。なのはは必ずわたしが守るから」
「ありがとう、フェイトちゃん」

強力な魔法を放つには、それなりの準備が必要だ。
高町なのはは頼れる友人を信じて、高威力の砲撃魔法の構成を行っていた。
空中に浮かぶ彼女の足元に、次から次へと魔力を注ぎ込み終えたカートリッジの残骸が落ちていく。

そのスピードを生かした近接戦闘を得意とするフェイトが先陣を切り、バランスに優れた八神はやてがフェイトをサポートしつつなのはを守る。
その隙になのはが砲撃魔法を完成させ、敵を一網打尽にする。

まだ中学生の魔道士の少女たちでありながら、3人のコンビネーションは、管理局でもNo・1との呼び声も高い。

「OK! いっくよ〜!!」

「ほい。さっさと退散するでぇ。くわばらくわばら」
「了解!」

魔法の充填終了を告げるなのはの声に、はやてとフェイトは同時に飛びのき、目標となのはの間をクリアにする。

「シュ────ト!!!」

威勢のいい掛け声と共に、レイジングハートから光の奔流が目標の魔物の群れに向かっていく。
光が過ぎ去った後に残るものは何もなく……そこに何かあったという存在の記憶さえも刈り取っていく。

数多の敵を一撃で葬り去ってきたなのはは、いつからか「管理局の白い悪魔」と呼ばれるようになっていた。

「目標、全て消滅……かな?」

悪魔と呼ばれるにはあまりに可憐であどけない笑顔でなのはは親友の少女たちに微笑む。

「うん。データにあった敵はこれで全滅や」
「お疲れ様、なのは、はやて」

健闘を称えあう3人の少女は戦闘さえ終われば、仲良しの中学生に過ぎない。
誰もがうらやむほどの可憐さを備えた3人は、管理局の中でアイドル的な存在になりつつあった。

「じゃあ、クロノ君に残った人たちに降伏勧告をしてもらおか」

海鳴町付近に突如出現した1つの島。
管理局の見解によると、次元を転移してこの世界に現れたものとのことだった。

多くの触手をはやしたおぞましい魔物と共に、それを使役していると思われる人間の存在も確認されている。

管理局が調査のため接近したところ、魔物を中心として攻撃を加えてきたことから危険な存在としてブラックリスト入り。
島の周囲を、結界で覆い外界から隔離。
近場にいる管理局付きの魔道士である、なのはたちに実力での排除が命令されたのだった。

「うん。話し合えばきっと分かってもらえるよ」

魔道士である前に、心優しい女の子である。
無駄な戦いを避けたいという思いは、三人とも同じだった。

「兄さん、聞こえる? 敵部隊壊滅です。交渉の準備を……」

義理の兄である、彼女たちの所属艦「アースラ」の館長のクロノにフェイトが連絡をとろうとする。
だが、その交信ははやての金切り声で遮られてしまう。

「待ちや! なんか、また来たで!」

「嘘……さっきより多い」

レイジングハートを構えることさえできず、なのはが声を震わす。
なのはが消滅させたよりも数を増した魔物の群れが……島を守るように彼女たちの前に立ちはだかっている。


「フェイト、なのは、はやて。聞こえるか?」

彼女たちの後方で待機していたアースラから非常回線でクロノからの対話が送られてくる。

「兄さん? 一体これは……」
「わからん。だが、敵は無限に等しくあの魔物を生み出し続けられる。それだけは間違いない」
「なんやて? だったら倒しても倒しても無駄やの?」
「ああ。残念だがキリがない」
「そんな……」

強大な魔力を持つ彼女たちとは言え、その魔力は有限だ。
無限に増殖する相手にしては、いつか魔力が尽き敗北する未来がやってくる。

「ど、どうしたらいいの? クロノ君」
「現在本部にアルカンシェルの使用許可を求めている」
「アルカンシェル! そんな! あんなの撃ったら島もろともなくなってしまうで?」

管理局最高の威力を持つ魔法砲台「アルカンシェル」。
闇の書事件以降、より強大な力を求めた結果、今となっては惑星1つを消し去れる、とまで言われていた。
無論、制御の術も向上しているので狭い範囲の目標のみを消滅させることも可能となってはいるが、危険な代物であることに変わりは無い。

「……やむを得ない。放置してはより甚大な被害が予測される」」

表情は見えないが、苦悩していることはクロノの声だけで十分に伝わってくる。
だが、それでもなのはは納得することはできない。

「そんな! だって、非戦闘員だって絶対にいるはずだよ!」
「だったらどうしろと言うんだ!!!」

なのはに向かってクロノの怒号が響く。

「代案があるなら言ってくれ。ないのなら、黙っていてくれ!」
「でも、でも!!」

食い下がろうとするなのはに、クロノの冷たい声が降りかかる。

「アルカンシェルの使用許可が下りた。カウントダウンの後、目標に向けて発射する」
「ダメだよ! そんなの!」
「射線上にいるものは、全て標的とみなす。総員退避せよ」
「クロノ君!!!!」


射線上から抗議を続けるなのはを威嚇するように、アルカンシェルがエネルギーの充填を開始する。
なのはは怯むことなく、両手を広げて立ちはだかる。

「あかん! フェイトちゃん!」
「うん」

こうなったらなのははテコでも動かないことを、親友の少女たちは知っている。
そして、クロノが決して砲撃を中止しない強い意思の持ち主であることを少女たちは知っている。

このままだと、本当にアルカンシェルに島もろとも焼き払われてしまう……それが高町なのはという少女だった。

「離して! クロノ君を止めないと!」

「ダメや! なのはちゃんの言うことも分かるけど、クロノ君の気持ちも察してやりや」
「ごめん! なのは! あなたをここで死なせるわけにはいかないの!」

必死の抵抗も、彼女と同等の力を持つ魔道士2人の前には無意味だった。
親友2人に両腕を抱えられ、射線上からなのはの姿が消える。

「3、2、1……発射!」

同時にアルカンシェルの砲撃が、島に向かって開始される。

「ダメ────!!!!!!」

なのはの叫びも虚しく……先ほどなのはが放った魔法とは比較にならない威力の光の奔流が標的へと向かっていく。

「……いつ見ても気分のいいもんやないな」
「うん……。もう二度と見たくないっていつも思ってるのに」

呆けたように、はやてとフェイトがなのはを抱えたままつぶやく。
やむを得ないことが分かっていても……やりきれない気持ちまでもがなくなるわけではない。

「目標消滅を確認。アルカンシェル、目標を殲滅しました」

押し殺したアースラオペレーターエイミィの声が響く。
アルカンシェルが通り過ぎた場所にあったはずの島は……その存在した証を何一つ残すことなく消滅していた。

「あぁ……」

目の前で繰り広げられた光景に空の上で、浮力を失い崩れ落ちる。
両脇を親友たちに支えられていなければ、自由に駆けた空から堕ちていたことだろう。

消滅した島を前に……三人の魔法少女たちは、ただ言葉もなく佇んでいた。


…………
……………………

「な、なんだと!!!!」

その光景をなのはたちとは別の少し離れた場所から眺めていた男がいた。
和平の交渉のために、島を離れたほんの数分後……。
自分が今までいた島が、跡形もなく消滅する様を男は何もできずに見送るしかなかった。

「無抵抗なものもいただろう! これが管理局とやらのやり方か!」

魔物を前に出したのも防衛のため。
攻撃の意思を見せる前の攻撃に、人道といえるものは感じられなかった。

「許さん! 絶対に許さんぞ!!!!!」

島には残っていた男の家族がいた。
愛する恋人がいた。

その全てを、男は一瞬で失ったのだった。

「見ていろ! お前らを死さえ生温い目に遭わせてやる!!!!」

男は戦艦アースラと……その前に佇む三人の少女の姿をその目に焼き付ける。
復讐のターゲットの姿は、憎悪と共に永遠に男の心に刻まれたのだった。


これは、男の復讐の物語。

雷神と呼ばれた少女がその金色の輝きを失った記憶。
夜天の王と呼ばれた少女が跪いた記憶。
エースオブエースと呼ばれるはずだった管理局の白い悪魔と呼ばれる少女が空から堕ちる記憶。

悪夢の陵辱劇の幕は今あがったのだった。


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目次:復讐鬼
著者:マルチマックス

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