復讐鬼・フェイト編��
最終更新：
nano69_264 2009年04月19日(日) 13:26:30履歴
130 名前：復讐鬼・フェイト編��[sage] 投稿日：2009/03/04(水) 02:16:47 ID:5K3hjJNQ
131 名前：復讐鬼・フェイト編��[sage] 投稿日：2009/03/04(水) 02:17:35 ID:5K3hjJNQ
132 名前：復讐鬼・フェイト編��[sage] 投稿日：2009/03/04(水) 02:18:32 ID:5K3hjJNQ
アルカンシェルの砲撃が魔物とその本拠地の島を焼いてからおよそ一ヶ月の時が過ぎた。
望まない多くの犠牲に己の無力さを噛み締めていた少女、高町なのはもその傷から徐々に立ち直りつつあった。
もちろん、その傷の回復に親友である２人の少女、フェイトとはやての尽力があったことは言うまでもない。
クロノとの間には未だに距離があるものの、管理局からの仕事にも復帰。
そして、親友と共に通う中学校では変わらぬ笑顔を振りまくまでになっていた。
「しかし、最近暇やなぁ。なんかこう大きな事件でもぱーっと起こらんもんか？」
アルカンシェルの発射。
それは、結果として他の時空犯罪者にもその威力を再認識させることになり、犯罪数を激減させる効果となった。
少なくとも、この３人の少女たちが全力で当たらなければならない事件は、あの日以来発生していない。
「はやてちゃん。わたし達が暇なことはいいことだよ」
「わかっとるんやけどね」
巨大すぎる夜天の王の力を持つがゆえに、その発散場所がない状況ははやての中にストレスとなって蓄積していた。
「そんなにストレス解消がしたいなら、今度模擬戦しよ？」
無邪気に微笑むなのはに、はやては僅かに後ずさる。
「い、いや。なのはちゃんはいつでも全力全開やからな……」
ストレスを解消するのは一方的になのはになることをはやては度重なる彼女との模擬戦で理解していた。
非殺傷設定の魔法とはいえ、周囲の施設は容赦なく破壊する。
なのはとの模擬戦の後の悲惨な状況、そして、後片付け。
その手間を考えると、はやてのストレス解消の手段としてなのはとの模擬戦は適当なものではないといえた。
「もう少し健康的にストレス解消できるイベントがあるわけやしな」
「うんうん。今日が体育祭でよかったよね。思いっきり暴れていいよ、はやてちゃん」
「任せとき！ そういえば、なのはちゃん達は赤組やったな。遠慮はせえへんで？」
「望むところだよ。ね、フェイトちゃん？」
なのはは、少し遅れてついてきている金髪の少女に微笑みかける。
「う、うん。そうだね」
少し遅れて返事を返すフェイト。
その返事さえもどこか上の空に思えた。
「どうしたの？ 具合悪いの？」
「ううん、そんなことないよ。ほら、こんなに元気」
親友の気遣いに応えるように、フェイトは微笑を浮かべ走り出す真似をする。
「よかったわー。フェイトちゃんが全力で来てくれないと色々と面白くないところやった」
「あははは。お手柔らかに」
２人の親友の勢いに、少し困った表情を浮かべて歩くフェイト。
それはいつもの登校風景。
だが、フェイトの困った表情の理由は、今日に限っては別にあった。
フェイトの頭の中には昨日の夜の出来事が離れないでいた。
「テスタロッサ。気がついたか？」
「シグナム……」
深夜、家の外に飛び出し管理局へ向かおうとしたフェイトを、烈火の将シグナムが待ち受けていた。
「うん。この気配は、ひょっとして……」
「さすがだな。我が主は気がついていというのに」
「なのはも気がついていないと思う。ほんの小さな気配だから……」
アースラがもしもこの世界にいたのなら、クロノが気がついただろう。
リンディが短い里帰りをしていなければ、彼女も気がついただろう。
だが、彼らが不在のこの世界において異変に気づけたのは本当にわずかな人数だった。
その僅かな人数には当然、はやての忠実なる僕のヴォルケンリッターの面々は含まれていた。
「だろうな。３人の中で気がつくとしたらお前だと思っていた」
魔法使いとしての能力は一線級の、なのはやはやてに足りていないの経験。
その一点においては、フェイトは２人を大きく凌駕していたため、気がつくことができた異変だった。
「なら、さっそく連絡をとって……」
「いや。この件は我らヴォルケンリッターで処理したいと思っている」
「……！！ どうして？ みんなで行った方が……」
気配の質に気がついたフェイトは、シグナムの言葉に異を唱える。
全員で一気に勝負をかけたほうがいい。フェイトの実戦での勘は告げていた。
それが、フェイトよりはるかに場数を踏んでいるシグナムならなおさら全員で向かうべきだと判断をくだすはずだった。
「確かにな。だが、主は明日の体育祭を楽しみにしている」
「あ……」
「車椅子での生活が長く、ようやくそういった行事に参加できるようになって日が浅い。できれば不安なく参加してもらいたい」
戦士としての眼光から、一瞬だけシグナムの目に母親のような光が宿る。
「だったら、せめてわたしだけでも……」
「ダメだ」
すぐにシグナムの瞳は戦士としての光を取り戻す。
思わずフェイトが後ずさりするほどの迫力をこめた拒絶だった。
「テスタロッサ。お前がいない状態で主が体育祭を楽しめると思うか？」
「あ……」
自分がいないだけで、なのはやはやては事態を察するだろう。
そんな状況で彼女たちが、体育祭に参加することさえも考えられなかった。
「でも、でも……」
「フェイトちゃん。大丈夫。シグナムだけじゃないんですから」
「まったくだ。アタシ達だけじゃ不安なのか？」
「うむ」
いつの間にか、フェイトの周りには戦闘準備を整えたヴォルケンリッターが勢ぞろいしていた。
確かに、全員が揃ったヴォルケンリッターが不覚を取る相手は考えにくかった。
「そういうことだ。それに万が一に備えてお前にだけは告げてある」
シグナムが大きな手でフェイトの小さな頭を包み込むように触ってくる。
「何かあったらお前を呼ぶ。その時は……主やなのはと共に駆けつけてくれ」
「何もねーに決まってるけどな」
自信満々のヴィータの態度が、今は頼もしかった。
「うん、分かった」
はやてのために……そう思って動いてくれているヴォルケンリッターをフェイトがこれ以上止められるはずはなかった。
「でも、約束して。ピンチになったら必ずわたしを呼んで？」
「無論だ。お前は頼りになる仲間だ」
シグナムの言葉に、全員が頷く。
「じゃあ、行ってきます。留守はお願いしますね」
「分かった。気をつけて」
「心配するな。主に心配をかけるような真似はしない」
次の瞬間に、ヴォルケンリッターの姿はフェイトの前から消えていた。
主のために戦う騎士は、その任務の遂行のために旅立ったのだった。
「頑張って、みんな……」
彼女たちが消えていった夜空にフェイトはつぶやいた。
「フェイトちゃん？ 大丈夫？」
「どうしたん？ ぼーっとして」
昨日の夜のことを思い出して、歩みを止めてしまっていたフェイトの顔を親友２人が覗き込んでいた。
（ダメだ。わたしがボーっとしてたら、シグナムたちの願いも叶わないじゃない）
今自分ができることは、なのはやはやてと一緒に、変わらない学園生活を送ること。
「なんでもないよ。よーし！ ウオーミングアップしちゃおうかな」
いつも２人の後をついて歩いているフェイトが、珍しく追い抜いて走り出す。
「お、やる気満々やね？」
「負けないよー、フェイトちゃん！」
追いかけて走り出す二人。
この瞬間までは……ヴォルケンリッターが望んだ世界が三人の前には広がっていた。
だが、このときのフェイトは知らなかった。
主を思うヴォルケンリッターの優しい想いが、防ぎきれない悲劇を招いてしまうことを。
「なのはー！ はやてー！ 頑張って！」
本来参加するはずだった騎馬戦。
フェイトは観客席から２人の親友に声援を送っていた。
「うー、フェイトちゃん。白組なんだからわたしを応援してよ」
「ふふふふ。フェイトちゃんと言う巨大戦力を欠いた白組など怖くないで！」
フェイトの騎馬になる予定だった生徒が、徒競走で２人も負傷。
補充は間に合わず、フェイトは見学となってしまったのだった。
「よーし、赤組のみんな！ 一気に勝負をつけるで！」
はやての宣言に、赤組の騎馬が歓声をあげる。
いつの間にか数多くの騎馬の戦闘に立ち、赤組のリーダーのような位置にはやては収まっていた。
そのカリスマ性は、後に起動六課を率いるはずだった器をすでに髣髴させていた。
「ま、負けないもん！」
赤組の勢いに呑まれそうになりながらも、なのはは強がりの言葉で自らを鼓舞する。
ぱーん！
やがて、乾いた号砲が鳴り響き、騎馬戦の幕が切って落とされた。
「なのはちゃん！ 覚悟───！！」
「い、いきなり向かってくるのぉおおお！」
開幕と同時にはやての騎馬はなのはの騎馬に向かって一直線に進んで来る。
「いくで───！！」
「は、速い！」
あっという間になのはの目の前まで来ると、はやては変幻自在の動きでなのはを惑わす。
「く！ まるで騎馬を手足のように……」
「ふふふふ。伊達に長いこと車椅子で生活しとらんで！」
「うー、まさかそういう特技が生まれるなんて……」
とはいえ、組み手に関してはなのはに若干分がある。
騎馬の力と乗り手の力を総合すると、互角の勝負を繰り広げることになる。
「どっちも頑張れ……」
そして、それを見送るフェイトも握り締めた拳に力をこめていた。
「でも、どっちも怪我だけはダメだよ……」
もちろん、フェイトらしい心配もしっかりと忘れてはいなかったが。
フェイトもフェイトらしく、体育祭を十分に楽しんでいた。
『テスタロッサ……』
だが、その楽しみは突然届いた念話で中断する。
「シグナム？」
フェイトは思わず空を見上げて、念話と共に肉声で呼びかけてしまう。
『すまん！ 不覚を……ぐあああああ！』
「シグナム！ シグナム！」
途切れた念話に懸命に言葉を返すが、もう二度とシグナムの声がフェイトに届くことはなかった。
「シグナム……」
滅多なことで、シグナムが自分に念話を送るとは考えられなかった。
事態は切迫していると言えた。
「なのは、はやて……」
２人に念話を送りかけて、フェイトはその念を自分の中に引き戻す。
『主は明日の体育祭を楽しみにしている』
『車椅子での生活が長く、ようやくそういった行事に参加できるようになって日が浅い。できれば不安なく参加してもらいたい』
昨夜のシグナムの言葉が脳裏に蘇る。
その想いを中断することに、フェイトは大きな躊躇いを覚えてしまう。
「なのはちゃん！ いい加減に観念しいや！」
「まだだよ！ 諦めたらそこでゲームセットだよ！」
体育祭を存分に楽しんでいる二人の姿。
できるのなら……何事もなかったようにヴォルケンリッターははやての前に現れて欲しい。
（ごめん。すぐに戻るから）
次の瞬間、フェイトは観客席の人混みから姿を消していた。
魔力による高速移動。
スピードを最大の誇りとするフェイトのその姿は、すぐに常人の目には捉えられない領域へと加速していく。
「バルディッシュ。いくよ」
「yes.sir」
金色の輝きと共に、バリアジャケットを装着するフェイト。
少しでも早く。その想いが選択させたのは通常のフォームではなく、ソニックフォーム。
「待ってて！ シグナム。シャマルさん、ヴィータ、ザフィーラ！」
文字通り一筋の光の矢となり……。
フェイトは念話が途切れた場所に向かって、空を駆けていった。
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目次：復讐鬼
著者：マルチマックス
131 名前：復讐鬼・フェイト編��[sage] 投稿日：2009/03/04(水) 02:17:35 ID:5K3hjJNQ
132 名前：復讐鬼・フェイト編��[sage] 投稿日：2009/03/04(水) 02:18:32 ID:5K3hjJNQ
アルカンシェルの砲撃が魔物とその本拠地の島を焼いてからおよそ一ヶ月の時が過ぎた。
望まない多くの犠牲に己の無力さを噛み締めていた少女、高町なのはもその傷から徐々に立ち直りつつあった。
もちろん、その傷の回復に親友である２人の少女、フェイトとはやての尽力があったことは言うまでもない。
クロノとの間には未だに距離があるものの、管理局からの仕事にも復帰。
そして、親友と共に通う中学校では変わらぬ笑顔を振りまくまでになっていた。
「しかし、最近暇やなぁ。なんかこう大きな事件でもぱーっと起こらんもんか？」
アルカンシェルの発射。
それは、結果として他の時空犯罪者にもその威力を再認識させることになり、犯罪数を激減させる効果となった。
少なくとも、この３人の少女たちが全力で当たらなければならない事件は、あの日以来発生していない。
「はやてちゃん。わたし達が暇なことはいいことだよ」
「わかっとるんやけどね」
巨大すぎる夜天の王の力を持つがゆえに、その発散場所がない状況ははやての中にストレスとなって蓄積していた。
「そんなにストレス解消がしたいなら、今度模擬戦しよ？」
無邪気に微笑むなのはに、はやては僅かに後ずさる。
「い、いや。なのはちゃんはいつでも全力全開やからな……」
ストレスを解消するのは一方的になのはになることをはやては度重なる彼女との模擬戦で理解していた。
非殺傷設定の魔法とはいえ、周囲の施設は容赦なく破壊する。
なのはとの模擬戦の後の悲惨な状況、そして、後片付け。
その手間を考えると、はやてのストレス解消の手段としてなのはとの模擬戦は適当なものではないといえた。
「もう少し健康的にストレス解消できるイベントがあるわけやしな」
「うんうん。今日が体育祭でよかったよね。思いっきり暴れていいよ、はやてちゃん」
「任せとき！ そういえば、なのはちゃん達は赤組やったな。遠慮はせえへんで？」
「望むところだよ。ね、フェイトちゃん？」
なのはは、少し遅れてついてきている金髪の少女に微笑みかける。
「う、うん。そうだね」
少し遅れて返事を返すフェイト。
その返事さえもどこか上の空に思えた。
「どうしたの？ 具合悪いの？」
「ううん、そんなことないよ。ほら、こんなに元気」
親友の気遣いに応えるように、フェイトは微笑を浮かべ走り出す真似をする。
「よかったわー。フェイトちゃんが全力で来てくれないと色々と面白くないところやった」
「あははは。お手柔らかに」
２人の親友の勢いに、少し困った表情を浮かべて歩くフェイト。
それはいつもの登校風景。
だが、フェイトの困った表情の理由は、今日に限っては別にあった。
フェイトの頭の中には昨日の夜の出来事が離れないでいた。
「テスタロッサ。気がついたか？」
「シグナム……」
深夜、家の外に飛び出し管理局へ向かおうとしたフェイトを、烈火の将シグナムが待ち受けていた。
「うん。この気配は、ひょっとして……」
「さすがだな。我が主は気がついていというのに」
「なのはも気がついていないと思う。ほんの小さな気配だから……」
アースラがもしもこの世界にいたのなら、クロノが気がついただろう。
リンディが短い里帰りをしていなければ、彼女も気がついただろう。
だが、彼らが不在のこの世界において異変に気づけたのは本当にわずかな人数だった。
その僅かな人数には当然、はやての忠実なる僕のヴォルケンリッターの面々は含まれていた。
「だろうな。３人の中で気がつくとしたらお前だと思っていた」
魔法使いとしての能力は一線級の、なのはやはやてに足りていないの経験。
その一点においては、フェイトは２人を大きく凌駕していたため、気がつくことができた異変だった。
「なら、さっそく連絡をとって……」
「いや。この件は我らヴォルケンリッターで処理したいと思っている」
「……！！ どうして？ みんなで行った方が……」
気配の質に気がついたフェイトは、シグナムの言葉に異を唱える。
全員で一気に勝負をかけたほうがいい。フェイトの実戦での勘は告げていた。
それが、フェイトよりはるかに場数を踏んでいるシグナムならなおさら全員で向かうべきだと判断をくだすはずだった。
「確かにな。だが、主は明日の体育祭を楽しみにしている」
「あ……」
「車椅子での生活が長く、ようやくそういった行事に参加できるようになって日が浅い。できれば不安なく参加してもらいたい」
戦士としての眼光から、一瞬だけシグナムの目に母親のような光が宿る。
「だったら、せめてわたしだけでも……」
「ダメだ」
すぐにシグナムの瞳は戦士としての光を取り戻す。
思わずフェイトが後ずさりするほどの迫力をこめた拒絶だった。
「テスタロッサ。お前がいない状態で主が体育祭を楽しめると思うか？」
「あ……」
自分がいないだけで、なのはやはやては事態を察するだろう。
そんな状況で彼女たちが、体育祭に参加することさえも考えられなかった。
「でも、でも……」
「フェイトちゃん。大丈夫。シグナムだけじゃないんですから」
「まったくだ。アタシ達だけじゃ不安なのか？」
「うむ」
いつの間にか、フェイトの周りには戦闘準備を整えたヴォルケンリッターが勢ぞろいしていた。
確かに、全員が揃ったヴォルケンリッターが不覚を取る相手は考えにくかった。
「そういうことだ。それに万が一に備えてお前にだけは告げてある」
シグナムが大きな手でフェイトの小さな頭を包み込むように触ってくる。
「何かあったらお前を呼ぶ。その時は……主やなのはと共に駆けつけてくれ」
「何もねーに決まってるけどな」
自信満々のヴィータの態度が、今は頼もしかった。
「うん、分かった」
はやてのために……そう思って動いてくれているヴォルケンリッターをフェイトがこれ以上止められるはずはなかった。
「でも、約束して。ピンチになったら必ずわたしを呼んで？」
「無論だ。お前は頼りになる仲間だ」
シグナムの言葉に、全員が頷く。
「じゃあ、行ってきます。留守はお願いしますね」
「分かった。気をつけて」
「心配するな。主に心配をかけるような真似はしない」
次の瞬間に、ヴォルケンリッターの姿はフェイトの前から消えていた。
主のために戦う騎士は、その任務の遂行のために旅立ったのだった。
「頑張って、みんな……」
彼女たちが消えていった夜空にフェイトはつぶやいた。
「フェイトちゃん？ 大丈夫？」
「どうしたん？ ぼーっとして」
昨日の夜のことを思い出して、歩みを止めてしまっていたフェイトの顔を親友２人が覗き込んでいた。
（ダメだ。わたしがボーっとしてたら、シグナムたちの願いも叶わないじゃない）
今自分ができることは、なのはやはやてと一緒に、変わらない学園生活を送ること。
「なんでもないよ。よーし！ ウオーミングアップしちゃおうかな」
いつも２人の後をついて歩いているフェイトが、珍しく追い抜いて走り出す。
「お、やる気満々やね？」
「負けないよー、フェイトちゃん！」
追いかけて走り出す二人。
この瞬間までは……ヴォルケンリッターが望んだ世界が三人の前には広がっていた。
だが、このときのフェイトは知らなかった。
主を思うヴォルケンリッターの優しい想いが、防ぎきれない悲劇を招いてしまうことを。
「なのはー！ はやてー！ 頑張って！」
本来参加するはずだった騎馬戦。
フェイトは観客席から２人の親友に声援を送っていた。
「うー、フェイトちゃん。白組なんだからわたしを応援してよ」
「ふふふふ。フェイトちゃんと言う巨大戦力を欠いた白組など怖くないで！」
フェイトの騎馬になる予定だった生徒が、徒競走で２人も負傷。
補充は間に合わず、フェイトは見学となってしまったのだった。
「よーし、赤組のみんな！ 一気に勝負をつけるで！」
はやての宣言に、赤組の騎馬が歓声をあげる。
いつの間にか数多くの騎馬の戦闘に立ち、赤組のリーダーのような位置にはやては収まっていた。
そのカリスマ性は、後に起動六課を率いるはずだった器をすでに髣髴させていた。
「ま、負けないもん！」
赤組の勢いに呑まれそうになりながらも、なのはは強がりの言葉で自らを鼓舞する。
ぱーん！
やがて、乾いた号砲が鳴り響き、騎馬戦の幕が切って落とされた。
「なのはちゃん！ 覚悟───！！」
「い、いきなり向かってくるのぉおおお！」
開幕と同時にはやての騎馬はなのはの騎馬に向かって一直線に進んで来る。
「いくで───！！」
「は、速い！」
あっという間になのはの目の前まで来ると、はやては変幻自在の動きでなのはを惑わす。
「く！ まるで騎馬を手足のように……」
「ふふふふ。伊達に長いこと車椅子で生活しとらんで！」
「うー、まさかそういう特技が生まれるなんて……」
とはいえ、組み手に関してはなのはに若干分がある。
騎馬の力と乗り手の力を総合すると、互角の勝負を繰り広げることになる。
「どっちも頑張れ……」
そして、それを見送るフェイトも握り締めた拳に力をこめていた。
「でも、どっちも怪我だけはダメだよ……」
もちろん、フェイトらしい心配もしっかりと忘れてはいなかったが。
フェイトもフェイトらしく、体育祭を十分に楽しんでいた。
『テスタロッサ……』
だが、その楽しみは突然届いた念話で中断する。
「シグナム？」
フェイトは思わず空を見上げて、念話と共に肉声で呼びかけてしまう。
『すまん！ 不覚を……ぐあああああ！』
「シグナム！ シグナム！」
途切れた念話に懸命に言葉を返すが、もう二度とシグナムの声がフェイトに届くことはなかった。
「シグナム……」
滅多なことで、シグナムが自分に念話を送るとは考えられなかった。
事態は切迫していると言えた。
「なのは、はやて……」
２人に念話を送りかけて、フェイトはその念を自分の中に引き戻す。
『主は明日の体育祭を楽しみにしている』
『車椅子での生活が長く、ようやくそういった行事に参加できるようになって日が浅い。できれば不安なく参加してもらいたい』
昨夜のシグナムの言葉が脳裏に蘇る。
その想いを中断することに、フェイトは大きな躊躇いを覚えてしまう。
「なのはちゃん！ いい加減に観念しいや！」
「まだだよ！ 諦めたらそこでゲームセットだよ！」
体育祭を存分に楽しんでいる二人の姿。
できるのなら……何事もなかったようにヴォルケンリッターははやての前に現れて欲しい。
（ごめん。すぐに戻るから）
次の瞬間、フェイトは観客席の人混みから姿を消していた。
魔力による高速移動。
スピードを最大の誇りとするフェイトのその姿は、すぐに常人の目には捉えられない領域へと加速していく。
「バルディッシュ。いくよ」
「yes.sir」
金色の輝きと共に、バリアジャケットを装着するフェイト。
少しでも早く。その想いが選択させたのは通常のフォームではなく、ソニックフォーム。
「待ってて！ シグナム。シャマルさん、ヴィータ、ザフィーラ！」
文字通り一筋の光の矢となり……。
フェイトは念話が途切れた場所に向かって、空を駆けていった。
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著者：マルチマックス
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- 漫画/アニメ
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