[609] サイヒ sage 2007/10/30(火) 17:14:51 ID:iDw0YT6E
[610] 別離の前に sage 2007/10/30(火) 17:16:34 ID:iDw0YT6E
[611] 別離の前に sage 2007/10/30(火) 17:18:17 ID:iDw0YT6E
[612] 別離の前に sage 2007/10/30(火) 17:19:56 ID:iDw0YT6E
[613] 別離の前に sage 2007/10/30(火) 17:21:09 ID:iDw0YT6E
[614] 別離の前に sage 2007/10/30(火) 17:22:55 ID:iDw0YT6E
[615] 別離の前に sage 2007/10/30(火) 17:24:26 ID:iDw0YT6E
[616] 別離の前に sage 2007/10/30(火) 17:25:51 ID:iDw0YT6E

「はあ…………」
 戦艦クラウディアの一室。執務官の自分の為に与えられた仕事部屋で、フェイトはため息をついた。
 目の前のディスプレイには、しなければならない膨大な仕事の一覧。九割方は終了を示すチェック
マークがついているが、それでも残っている分を終わらせるには全力でも一時間はかかる。
 たかが一時間と言いたいところだが、朝からずっと書類と首っ引きだった頭脳は鈍りに鈍っており、
もう今日は働きたくないと愚痴をこぼすだけの器官に成り下がっている。こんな頭で仕事をすれば、
一時間のところが数倍はかかる。
 のろのろと首を動かして時計を見れば、時刻は夜の十一時前。
 仕事終了予定時刻と明日の起床時刻から睡眠時間を計算したところで、体力も気力も力尽きた。
「…………やめた」
 ディスプレイを消しもせず、ばったりとデスクに倒れ伏す。
 今日の仕事は今日中に、がモットーのフェイトだが、今日ばかりは精根尽き果てた。あとは全部明
日回しだ。明日は明日で別の仕事があるが、そんなことはもうどうでもいい。
 過負荷でのぼせた額に、木材のひんやりした感触が気持ちいい。普段の凛とした執務官姿勢を完全
に放棄し、すりすりと机に頬ずりをする。
 だがすぐに飽きて、動きが止まる。
「このまま寝ちゃってもいいよね……」
 誰もいないと分かっているのに、疑問系で訊くフェイト。
 本当に今日の自分は、らしくない。仕事を放棄したのも、こんな風に仕事場でだらけるのも。
 いや、今日だけではない。ここ数日、明らかに気力が落ちている。そして、その原因も分かってい
る。
「はぁ……」
 もう一度ため息をつきながら、フェイトは眼を閉じ意識を手放した。



 夢を見ている。
 そこでは大好きな人が、自分に優しく口づけしてくれている。
 こころなしか、自分の唇より固い気がする彼の唇。それを割って、フェイトの口に侵入する舌。
 歯茎から歯の裏側まで丁寧になぞってから、頬の内側を這い進んでくる。
 フェイトも応えて舌を絡めると、何故か驚いたように舌は引っ込んでしまった。
 もっと、とねだり舌を舌で追いかけるが、その時には彼はどこにもいなかった。
 残念だったが、心と身体が少し温まった。

 目が覚めた。
 時計を見たら、一時間と少ししか経っていなかった。朝まで熟睡するつもりで眠ったのだが。
 枕代わりにしていた腕が痺れており、横向きだった首は痛んでいる。それが眠りの浅かった原因か
もしれない。
 ひどく幸せな夢を見ていたのは覚えている。その分だけ、現実に戻った時の辛さが身に染みる。
 辛さを少しでも和らげるべく、フェイトはのろのろと起き上がり三番目の引き出しを開けた。
 仕事道具ではなく、プライベートな小物の入っている引き出し。その奥には、三枚の写真が入って
いる。
 一枚は、今は亡き母と姉の写真。
 自分には向けてくれなかった柔らかい笑みを浮かべる母と、無邪気に笑っている姉の肖像。
 次の一枚は、今の家族の写真。
 一年前に撮影したそれは、義母を中心に義兄と自分が左右に並び、中央に子供サイズの使い魔がい
る。全員が幸せそうな笑顔の写真。
 そして、最後の一枚。
 そこに写っている人物は二人。撮ったのはついこの間。
 鮮やかな金髪を黒いリボンでまとめた少女と、同じぐらいの背丈で黒髪黒眼の男性。
 二人とも顔を赤くして、照れくさそうにうつむき加減の微笑を浮かべている。
 男性の顔を、フェイトの指がなぞる。彼の名を口にする。
「クロノ……」

 義兄妹の関係から恋人同士になったフェイト・T・ハラオウンとクロノ・ハラオウンのツーショッ
ト写真だった。



       別離の前に



 いつからクロノのことが兄としてではなく男として好きになったのか、明確には覚えていない。
 本当に、いつのまにか愛していたとしか言えない無自覚の愛。
 それに気づいてからは懊悩の日々だった。兄妹で愛し合えるわけがないと諦めようとし、できなく
て苦しみ、ついにはクロノの顔をまともに見れなくなるまでになった。
 もうどうにも抑えられなくなり、この想いが砕け散れば全て解決するだろうと捨て鉢な気持ちで彼
に告白した。
 その時場に流れたのは、永遠のように感じられる沈黙。耐えられなくなり走り去ろうとした時、義
兄はフェイトを強く抱きしめて囁いてくれた。
『僕も、ずっと君が好きだった』
 そう言って優しく彼は口づけてくれた。
 そのまま愛し合い、破瓜を迎えて身体の奥底に精を放たれた時には、これでもう死んでもいいと思っ
た。
 そうして結ばれた最愛の人。
 だがその彼と、ここ一ヶ月触れ合えてない。
 フェイトもクロノも職務には厳格であり、仕事場で人目を憚らずいちゃつくなどということをする
わけがなかった。
 そして現在クラウディアは長期航海中で、寝起きする全ての空間が仕事場である。
 当然、二人は一切恋人らしいことはしていない。せいぜいが廊下や食堂で会話する程度である。
 手の届く位置にいながら自重しなければならないというのは、かなり精神的にこたえる。
 それでも航海が終われば二人の時間が待っているなら、ここまでフェイトの気力がまいってしまう
ことはなかった。
 親友の八神はやてが立ち上げる機動六課。航海の終了と同時に、フェイトは六課への出向準備に追
いまくられることが決まっている。
 今度は職場までばらばらだ。一ヶ月どころか数ヶ月顔を見れないこともありえる。その前に少しで
も長く触れ合いたいというのに、満足に言葉を交わすことすらできてない。
「寂しいな」
 口に出すと、余計に寂寥感が増した。空調設備は万全のはずなのに、身体の中心を寒々としたもの
が吹き抜けていった。思わず身震いする。
 冷える体と裏腹に、心は焦燥に焼かれ熱くなる。
 今すぐ、クロノの顔が見たい。一分でもいいから話をしたい。
 朝食の時に食堂で会ったクロノは、今日は仕事で徹夜かもしれないと言っていた。
 点灯しっぱなしだったディスプレイを見やる。終了報告をクロノにしなければならないものが数点
あった。
「……うん」
 じっとディスプレイを見つめること五分。頷いて、フェイトは立ち上がった。
 報告に必要な書類をまとめ、部屋を出る。目指すは提督室。
 これらの報告は、別に明日でもかまわないものだ。いや、クロノが言葉どおり仕事に追われている
なら、今日報告するのは彼と自分の睡眠時間を削るだけの無益なものだと分かっている。
「これくらいのわがまま……許してくれるよね」
 無味乾燥な仕事のことでもいいから、彼の声が聞きたい。そこまで、フェイトはクロノとの触れ合
いに、飢えていた。


 提督室の入り口のパネルには、中に人がいることを示す青色のランプが点いていた。
 クロノが、まだいる。
 心臓が一つ、どくりと跳ねた。
「ごほん…………あーあー」
 声の調子を整えてから、パネルに口を近づける。
「クロノ、私だけどちょっと報告したいことがあるの」
 待つこと十数秒。
 返事がない。
「クロノ?」
 もう一度呼んでみる。やはりうんともすんとも返ってこない。
 いないのかなと思うが、ランプは確かに青。これで中が無人だというなら、最後に部屋を出た人が
ロックを忘れたことになる。
 几帳面なクロノが、たとえ用足しであろうと鍵を開けっ放しで出るわけがない。
 どういうことだろうといぶかしむが、推理材料が少なすぎて想像すら出来ない。
「クロノ、開けるよ?」
 考えていても埒が明かないと、最後にもう一声だけかけてフェイトは開閉ボタンを押した。
 開かれるドア。謎の答えは、あっけないほど簡単に部屋の中にあった。
「あっ……」
 中心に置かれた提督のデスクと椅子。そこに腰掛ける部屋の主は、熟睡していた。
 眼はしっかりと閉じられ、頭は後ろに倒れて天井を見上げている。口はだらしなく半開き。
「なぁんだ」
 思わず苦笑してしまうフェイト。だがすぐに表情が暗くなり、肩を落としてしまう。
 クロノが寝ているということは、疲れきっている彼を叩き起こさない限り会話が出来ないというこ
とであり、無論フェイトにそんなことが出来るはずがなかった。
 これも、職権を乱用しようとした自分への神様の罰か。ならばそれに従い、回れ右して自室に帰っ
て眠りにつくべきだろう。
 そう頭では思いながらも、フェイトの身体は部屋に入り込み、ドアを閉めていた。
 ここまで来ておきながらすごすごと引き返すほど、今晩のフェイトの思考は物分りが良くなかった。
(……寝顔をちょっと見せてもらうだけだから)
 足音と気配を殺して、一歩一歩クロノに歩み寄る。手にした書類をデスクに置いて、そっと彼の様
子を窺った。
 あまり、幸せそうな寝顔ではない。
 眼の下には隈が色濃く出来ており、眉間には三本の皺が寄っている。寝言こそ言っていないが、も
し口にするとしたらやっかいな仕事絡みな気がする。
 苦しそうな恋人に、フェイトの心は痛む。
 だが同じ心の中に、クロノの辛さの中に自分とろくに触れ合えないからということが入っていたら
嬉しいと考えてしまうフェイトがいる。
 自分が想っている以上に、彼には自分に恋焦がれていてほしい。
(私って、欲深かったんだ)
 自分では控えめな性格だと思っていたが、クロノのことに関しては例外であるらしい。
 そんなことを考えながら、フェイトはクロノの寝顔を鑑賞していた。
 気がつけばほんの数分のつもりが、二十分以上も経っていた。ここらが、我慢のしどころだろう。
「おやすみ、クロノ」
 眠りの挨拶をし、きびすを返して部屋を出ようとしたその時だった。
 クロノの頭が、わずかに横を向いた。その拍子に口の中に溜まっていた唾液が、つつっと唇からこ
ぼれた。
 その光景を目にした瞬間、反射的にフェイトは涎を指ですくってしまっていた。
 顔や服が汚れるからという理由は、手を伸ばしてから思いついた。何を考えてそんなことをしたの
か、自分でも分からない。
 ただ結果として、フェイトの指にはきらめくクロノの唾液がまぶされてしまった。
「…………」
 それを凝視するフェイト。
 指の腹に乗った液体はふるふると震え、今にもこぼれ落ちそうである。
 唾が湧き上がり、飲み込んだ喉が上下した。
 いったいこれで何をしたいのか。そんなことは考えるまでもない。きっとそれはフェイトの自制心
という壁を壊す、徹底的な一撃になる。
 それが分かっていながら、フェイトは欲望に従った。
「…………ん」
 口に、含んだ。
 舌に、強烈な味が広がる。
 いつも口づけの時に、流し込まれたりすすったりしている味。クロノの味。一ヶ月ぶりに口にする
唾液は、痺れるほど甘美だった。
 一瞬で、理性が吹き飛んだ。代わりに、この一ヶ月抑圧され続けてきたクロノへの恋しさが暴走を
始める。
 濡れていたのは指先だけなのに、根元まで口に突っ込んでしまう。
 完全にクロノの唾液を舐め終わっても、フェイトの舌は止まらない。
「んむぅ……ちゅ……」
 唾液を舐め取る動きから、指全体をしゃぶる動きに変わる。
 口をすぼめながら、指先を舌で巻き取るようにする。歯は立てないよう慎重にしながら、同時に唇
の肉だけで噛む。
 眼を閉じて指を咥えるフェイトがイメージしているもの。それはクロノの男性器だった。
 まだ口淫は二回しかやったことはないが、記憶に焼きついているので思い出すのは容易い。あの時
にしたことされたことを思い出し、その通りに指と舌を動かす。
 喉の奥まで異物が入る感覚にえづきそうになるが、それすらも口淫を思い出す材料になる。
 唇を激しく出入りする指。調子に乗りすぎて、うっかり指頭が咽頭を突いてしまった。
「けふっ!」
 さすがに苦しくて、ようやく口から指を出す。その時には、フェイトは疾走直後のように息を荒げ
ていた。零れ放題に零れた唾で、襟元が濡れている。
 クロノの唾液は全て身体の中に収めた。でも、まだ足りない。一度制御を失った情欲は、完全に満
たされるまで好きなように肉体を操り続ける。
 獲物を見つけた猛禽類のような眼で、フェイトは眠り続けるクロノを見つめる。思考も、禽獣のそ
れに近いものになっている。
 なにも想像と自分の指だけに頼らなくても、目の前に本物がいるではないか。
 躊躇なく、フェイトはクロノの唇に吸いついた。
「ちゅ……ぷぁ……んっ……」
 クロノの頭が動かないようにしっかりと手で押さえ、舌で彼の口腔を犯す。
 力なく横たわる舌を自分の舌で強引に絡みつかせる。
 持ち上げられた舌の奥から湧き出るクロノの唾。指についた分だけでも、フェイトを狂わせるには
充分だった。それが今は、思う存分飲み干せる。
 全力で吸引し、渇いている喉に送り込む。彼の唾液が一滴通るたびに、思考がざくざく切り落とさ
れて目眩がする。
 肺がクロノの呼吸で満杯になり、仕方なく離れた。
「はあっ、はあっ……」
 大きく息をつく合間に、受けそこなって零れた彼の唾液を指で拭って口に運ぶ。
 唇もいいが、他の部位も味わいたい。今度は、頬から顎にかけても舐める。
 毎朝几帳面に剃られている髭も、深夜となればわずかに伸びている。舌にちくちくする初めての感
触を、堪能するまで舐め回す。
 クロノの頬をべたべたに汚したフェイトの次の標的は、男性にしては細めの白い首。
 唇で吸いつきながら、歯を立てて噛み破り血をすすりたいとフェイトは本気で思う。血でも唾液で
も汗でもなんでもいいから、彼で自分の中を満たしたい。
 鬱血痕を縦に並べながら下がっていくが、普段着代わりの着ているバリアジャケットに邪魔されて
進めなくなる。ボタンを外して胸板に進もうかとも思った時、別のアイデアが閃いた。
 どうせ脱がすなら、もっといい場所がある。
 淫卑に口の端を吊り上げ、フェイトは床に膝をつく。目の前には、クロノの腰。
 その衣服の下には、彼の分身と言うべき器官がある。交わりのたびにフェイトを啼かせ狂わせ、絶
頂の園に連れて行ってくれるものが。
 淫欲のままにジッパーに手をかけ股間を開放しようとした瞬間、ぐいっと肩が掴まれた。
 はっ、と驚き顔を上げた先には、クロノの黒い瞳があった。
「あ、ああっ……」
 全身の血の気が、音を立てて引いた。
 愚かなことに、今の今までフェイトはクロノが目覚めることを考えていなかった。キスをされ舌を
入れられ頬と首筋を舐められれば、どんな熟睡中でも起きるに決まっている。
「ち、違うの、これは……これは……」
 頭の中で必死に言い訳を考えるが、男性の足元に跪いてジッパーを開きかけていた合理的な理由な
ど思いつくわけがない。
 意味を成さないうわ言を口にするフェイトを、クロノはじっと見下ろしている。
 その視線が、フェイトを責めているように思う。当たり前だ。恋人とはいえ寝込みを襲って淫行に
走ろうとしているような女は、軽蔑されるに決まっている。
 彼に、嫌われた。
 一時の欲に任せて暴走した代償がそれ。
 クロノが椅子から立ち上がる。向う先は部屋の出口。
「待って……」
 力なく手を伸ばすが、クロノの歩く速度の方が早かった。服に触れることさえ出来ず、手は虚空に
取り残される。その態度が、彼の拒絶の返事としかフェイトには思えなかった。
 涙でにじむ視線の先で、クロノがドアに到達する。ドアが開いて彼が出て行けば、そこで全てが終
わる。
「まって……おねがいだからまって……」
 フェイトの願いもむなしく、クロノの指がドアのパネルを叩く。
 だが、ドアは開かなかった。代わりに、パネルのランプがドアをロックしたことを示す赤になる。
 クロノが戻ってくる。伸ばしたまま固まっていた手が引っ張られた。
「んっ!?」
 抱き寄せるというより衝突の勢いで、身体が密着し合う。
 間髪いれず、耳たぶが優しく噛まれる。耳朶に当たるクロノの吐息がくすぐったくて、思わず腕を
振りほどこうとするが、続いて耳の穴に舌が差し込まれ力が抜ける。
 クロノの舌は耳、頬、顎と辿っていき、最後にフェイトの目尻に溜まった涙を舐め取った。
 少し腕が弛んで、クロノの顔が見える。その表情は、フェイトを慈しむ時だけに見せてくれる優し
いものだった。
 予想外のことに呆然とするフェイト。ようやく言葉を出せたのは一分近く経ってからだった。
「どうして……怒らないの?」
「何について怒るんだ?」
「私、寝ているクロノにあんなことして……もっといやらしいことまでしようとしてたのに、どうし
て……」
「……僕も、君と一緒のことをしてたからだよ」
「えっ?」
「さっき君の部屋に行って、君の寝顔を見てたらつい唇を奪ってた」
 クロノの告白に、フェイトは寝ている時に見た夢を思い出す。
 あれは、現実のことだったらしい。
「フェイトが起きかけたから途中で止めたけど、寝たままだったら……絶対にもっと先までしていた。
……こんな風に」
「ひゃん!?」
 いきなり、胸を揉まれた。
 フェイトの悲鳴でクロノは指こそ離したが、手の平は胸に置かれたままである。
「胸を触って脱がせて舐め回して、きっと強姦みたいなことをしてた。だから、君を怒るなんて出来
るはずがない」
「私のこと……嫌ってない?」
「嫌えるものか」
「あんなにはしたないことしちゃう娘だよ?」
「そんなのどうだっていい。むしろ」
 背中に回された手に力が込められる。
「あんなことするぐらい僕を想ってくれていたんだから、嬉しい」
「……ありがとう」
 彼がこんな自分を愛してくれて、本当に良かった。
 感謝の気持ちを込めて、フェイトもクロノを抱き締める。
「フェイト……続きをしてもいいかい」
 クロノの言う続き。それはフェイトも望むこと。
 だが、戻ってきた理性が待ったをかける。
「ここ、提督室だよ。そんなところでエッチするなんて……」
「一回ぐらいは、提督権限で許してもらおう」
「だけど、クロノか私の部屋に行けば済むことだし」
「だったら、君はそこまで我慢出来るか?」
「…………無理かな」
 二人の部屋までのわずか数十メートルの距離。だがその短い距離を、絶対に待ちきれないという確
信がフェイトにはあった。
「僕も無理だ。だから……今晩はここで、君を抱く」
 クロノの宣言にフェイトは小さく、だがしっかりと頷いた。



 ようやく、二人の本当の夜が始まる。


     続く




次へ
目次:別離の前に
著者:サイヒ

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

メンバーのみ編集できます