[106] 母情妻情 sage 2008/02/23(土) 21:42:10 ID:yQlg+zUL
[107] 母情妻情 sage 2008/02/23(土) 21:43:49 ID:yQlg+zUL
[108] 母情妻情 sage 2008/02/23(土) 21:44:50 ID:yQlg+zUL
[109] 母情妻情 sage 2008/02/23(土) 21:46:14 ID:yQlg+zUL
[110] 母情妻情 sage 2008/02/23(土) 21:47:24 ID:yQlg+zUL
[111] 母情妻情 sage 2008/02/23(土) 21:48:55 ID:yQlg+zUL
[112] 母情妻情 sage 2008/02/23(土) 21:50:00 ID:yQlg+zUL
[113] 母情妻情 sage 2008/02/23(土) 21:51:25 ID:yQlg+zUL

 海鳴市の一角にあるハラオウン家。
 数年前までは家長と二人の子供にその使い魔と四人が寝起きしていたマンションの一室も、まず養子の
娘が一人暮らしを始め、続いてその娘と恋仲になった息子と、忙しい二人に代わって家事を担当する使い
魔が去り、今では住んでいるのはリンディだけである。
 子供達はなにかと顔を見せてくれるし、こちらで出来た友人の桃子や元アースラの部下達も来ることは
あるが、基本的には一人だけ。とっぷりと日が暮れてから話し相手のいないテーブルで食事を取っている
と、無性に寂しくなることがままある。
 しかしその日の夕刻、台所からは賑やかな声がしていた。
「野菜に火は通ったかしら?」
「うん、芯がちょっと残ってるくらい」
「じゃあ次はこれ」
 リンディが手に取ったのは、小鉢に入れた肌色のペースト。その正体は、湯でたばかりの魚の肝を擂り
潰した物である。
「これを入れていくの。ダマにならないよう、小匙一杯分ずつゆっくり溶かして……こんな感じ」
 鍋の中で匙を回すリンディの手元を、隣のフェイトは魚を卸す手を止め真剣に注目している。
「ああ、言い忘れてたわ。魚はそういう風にきちんと切らなくて、ぶつ切りで」
「骨から出汁が出るから?」
「そういう料理だからよ」
 鍋を一すくいして味見。もうちょっと香辛料を入れた方がいい。
「数百年前の初代ハラオウンは海賊から将軍になった人らしくてね。この料理もその人が考えたもの。だ
から海の男の料理ね。豪快でいいのよ」
「へぇ……。昔から船乗りの家系だったんだ」
「あくまで伝説の範疇は出ない話だけど」
 切り終えた魚を鍋に入れ、表面に火が通ったら後は弱火でじっくり煮る。ここまで来たら、調理者のす
ることは吹きこぼれの注意だけだ。
「はい、これで終わり。あとは出来上がったのを食べるだけ。汁は美味しいけどあんまり他の食材と合わ
ないから、やるなら雑炊ぐらいにしときなさい。何か質問ある?」
 本日リンディがフェイトの伝授しているのは、ハラオウン家に代々伝わる鍋料理である。
 フェイトが養子入りしてから十年。管理局の仕事のやり方だけでなく家事も一通り仕込んだが、この料
理は嫁入り先が決まってから教えてやろうと思って取っておいたのだ。その嫁入り先が自分の家になった
のは大いに予想外だったが。
「……質問っていうか疑問なんだけど」
 副菜に使う海老の皮を剥きながら、フェイトが口を開く。
「これって、リンディ母さんもお祖母ちゃんから習ったの?」
「いいえ、これはクライド父さんからよ」
「父さん料理出来る人だったんだ?」
「言ってなかったかしら? 出会った頃なんか私よりもずっと上手だったわよ。士官学校の食堂より美味
しいからって、食費渡して作ってもらってた同級生もいるぐらい」
 かくいうリンディもその一人であった。もっとも恋人になる前のことで、クライドと少しでも近づきた
いという下心が多分に混ざっていたが。
 懐かしい日々を思い出しつつ、クライドのことをフェイトに話すのはほとんど初めてなことにリンディ
は気づいた。
 娘の方からクライドについて訊ねてきたことは皆無に近い。クライドの死亡理由が理由なだけに、他人
に気を遣いがちなフェイトは訊くのを遠慮していたのだろう。
 けれどもうすぐ二重の意味で家族になるのだから、義父のことをなにも知らないというのは変だろう。
いい機会なので、もう少し語ることにした。
「写真見た人はクロノと似てるって言うけど、性格はだいぶ違ったわね。よく笑う人だったし、なにより
優しかったわ」
 いろいろ私のためにしてくれてね、とフェイトが剥いた海老を炒めながらリンディは続けた。
「例えば、緑茶は私のオリジナルだけど、コーヒーのブレンドは父さんが考えたのよ」
「ブレンドって、豆の配合の仕方を?」
「いいえ、入れる砂糖の量まで全部。父さんが全部自分で味見してからね」
「父さんあれ飲んだの!?」
 なぜかフェイトが素っ頓狂な声を上げた。
「ミルクと砂糖にガムシロップとか蜂蜜入れたあれを!?」
「ええ、もちろん。あなただって創作料理やる時は、自分で味見するでしょ?」
「それはそうだけど…………父さんすごいなぁ」
 やたら感慨深そうに呟くフェイト。なんか変なこと言っただろうか、とリンディは首を傾げる。
「フェイトもやってみる? クロノのコーヒーのブレンド」
「…………やめておく」
 娘は首をふるふると振った。
 クロノはコーヒーはブラックでないと本当の味が分からないと公言しており、対するフェイトはリンディ
ほどではないにせよ、ミルクと砂糖をたっぷり入れてカフェオレ状態にしないとコーヒーが飲めない。
「とにかく私のことをいつでも一番に考えてくれる人だったわ」
「ふぅん。父さんってそういう人だったんだ。…………でもね母さん」
「うん?」
 横を向けば、微妙に頬を膨らませたフェイトの顔。
「クロノだって、ちゃんと優しいんだから。この間、私が寝過ごした時なんかご飯だけじゃなくてお弁当
も作ってくれたんだよ。それだけじゃなくてね……」
 そのままクロノがしてくれたことをあれこれ話しだす。どうもリンディが最初に「クロノは優しくない」
ともとれる言い方をしたのが不服だったらしい。
 娘の子供っぽさに、内心苦笑するリンディ。
(それにしても、クロノがお弁当ねぇ……)
 リンディの頭の中の息子は、料理は出来れど携帯食料かじって済ましているイメージである。いったい
どんな弁当を作ったのか想像できない。
 どうも「クロノ・ハラオウンを一番知っている人物」の座は、リンディからフェイトに移りつつあるら
しい。
 少し感傷を覚えながらフェイトの話に耳を傾けていると、テレポーターの作動する音がした。
「ただいま」
 帰宅を告げるクロノの声。リンディより数瞬早く、フェイトがぱっと顔を明るくして反応した。
「おかえりなさーい。……母さん、鍋の火加減お願い」
 ぱたぱたと足早に向かう娘の後ろ姿は新婚夫婦そのもので、リンディは相好を崩す。だがすぐに、はた
と気づいた。
(ひょっとして今の私達、思いっきり惚気合ってなかった……?)



 クロノに続いてアルフも帰宅し、久しぶりの一家勢揃いで食卓の会話は大いに弾んだ。
 鍋が汁の一滴まで綺麗に無くなっても話題は尽きず、全員が自室に戻ったのは十一時を回った時刻であっ
た。
 明日も仕事なので早々に布団に潜り込んだリンディだが、妙に眼が冴えている。瞳を閉じても頭の中で
はあれこれとたわいのないことが浮かんでは消えていき、数十分経っても眠りの気配は訪れない。
 もぞもぞと起き出したリンディは、リビングで独り寝酒を始めた。酒は親友にもらったウィスキー。肴
はあり合わせが無く新しく作るのも面倒だったので、電気を点けず窓の外の夜景で代用する。
 街の灯りを眺め、琥珀色の液体をちびちびと口に含みながら思うのは、昼間にフェイトに話したクライ
ドのこと。
 亡夫の話をするのは、ずいぶんと久しぶりだった。
 事故直後は管理局内で大きな話題となったものだが、あれから二十年以上経った今ではクライドの名前
を覚えている局員はほんの一握りだろう。
 みんな、夫のことを忘れてしまった。
 いや、一番彼に近かった人物であるリンディでさえ、忘却しつつある。命日の墓参りは欠かさないが、
今日のように他人からきっかけを与えてもらわなければ、日常の中で記憶の表層に出てくることはない。
(……それだけの時間が経ったってことね)
 亡くなった当初は、なにかある度にクライドのことを思い出しては涙ぐんでしまい、思い出さないよう
にひたすら仕事に打ち込んでいた。
 そのうち本当に忘れていることに気づき、愕然として心の中で自分を責め苛んだ。
 そして今、忘れつつあることを受け入れている自分がいる。
 これは果たして時の流れによる心の癒しなのか、ただの薄情なのか。
 答えの出しようが無い問いを考えつつ、リンディはグラスを呷った。
 まだ血管にアルコールが染み渡る気配は無い。二杯目を注ぎ終えた時、廊下の向こうでドアの開く音が
した。
 音のした場所は、浴室付近。誰か風呂を使っていたかと思いつつ、万が一泥棒であった時の可能性も考
慮したリンディは首だけそっと廊下に覗かせ、すぐさま神速で引っ込ませた。
 風呂から出てきたのは、クロノとフェイトだった。
 正確には、全裸のクロノとフェイトだった。
 もっと正確に言うなら、裸のフェイトをお姫様抱っこしているこれまた裸のクロノだった。
 予想外すぎることに驚いた心臓をリンディがなだめている間に足音は遠ざかっていき、クロノの部屋の
前で消えた。
 二人とも、夕食後に交代で風呂は使っていた。なのにこの時間わざわざ入り直したということは、身体
の汚れるようなことをやっていたからだろう。
 もっとも、そんな推理する必要も無いありのまますぎる光景だったが。
(…………あれは絶対にお風呂の中でもしたわね)
 フェイトは熱っぽい視線と上気した頬で微笑んでおり、クロノはクロノで愛おしさと猛々しさの混在し
た眼でフェイトを見つめていた。
 二人とも、リンディの知らない男と女の顔だった。
「……跡継ぎの心配はいらない、と喜ぶべきなのかしら」
 溜息混じりにひとりごちる。
 クロノは周囲に美女がたくさんいながらあの年になるまで誰にも見向きもしなかった男であり、本人は
知らないだろうが局員の間では同性愛者説や不能説がまことしやかに流れていたこともある。
 フェイトはフェイトで、ほっといたら死ぬまで生娘やっていそうな雰囲気があった。
 そんな二人だから男女の営みはほとんどやっていないのではないかと密かに懸念していたのだが、ちゃ
んとやることはやっているらしい。それはそれで微妙に複雑な気分だが。
(とりあえず、二人が帰ったら風呂掃除しておかないと)
 もうしんみりと酒を飲むという気分でもなくなり、グラスに残っていた分を飲み干すとリンディは寝室
に戻った。

 しかし、眠れない。
 瞼の裏にはさっきの光景がフラッシュバックし、頭の中でも今頃また息子と娘が寝台の上であれやこれ
やをやってるのかと思えば、酒の力を借りても眠気など来てくれるわけもない。
 また不幸なことに、年を取っても衰えないリンディの視力は、闇に慣れていたこともあり浴室から漏れ
る光だけで、クロノがフェイトの尻を撫で回していたのも、フェイトがクロノの股間に指を絡めていたの
もばっちり網膜に焼きつけていた。
「…………あそこの大きさまで似てたわね」
 ついつい自分の記憶と比べてしまう。
 母として家長として、もう少し周囲の眼を気にしなさいと注意しなければならないところだが、どうも
そういう気になれない。
 考えてみれば、リンディとクライドもあれぐらいの年齢の時は見境なしに抱き合ってばかりだった。
「私もよくお風呂場でしたものね……」


        ※


 蛇口を目一杯ひねられたシャワーの水音が、浴室に響く。
 しかしその下に人はおらず、水流は空しくタイルを叩くだけだった。
「んぅ…………はぁ……んんぅ……」
 シャワーを出した張本人、リンディはクライドの背を鏡に、自分の乳房を夫の胸板に押しつけ、ひたすら濃厚な口づけを交わしていた。
 重ねるのではなく、下唇に歯を立てそれこそ食べているようにキスをする。息苦しくなればほんの数秒
だけ口を離し、また飽きもせずクライドの唇を貪る。
「……あんなにしたのに、足りなかったかな」
 情熱的なリンディと対照に、クライドは苦笑気味である。
 その言葉どおり、リンディの蜜壷は未だ熱い精液で満ちていた。すでに寝室で三度、夫と交わっている。
飲んだ分や身体に浴びせられた分も入れれば実に五回。骨髄にまで染み込んだ精液は身体を重くし、指一
本動くのも億劫にさせていた。
「ええ、足りないわ」
 それでもリンディは、求めの言葉を口にする。
「もっともっと、あなたを頂戴……」
 結婚して姓が同じになり、溢れるぐらいの子種をもらっても、まだ足りない。一分一秒でも長く、夫と
一つになっていたい。
 またキスをすれば、クライドの手もリンディの腰に回り強く抱きしめてくる。それは、もう一度愛して
くれるという快諾の証。
「あなたぁ……」
 蕩けた声と顔で、リンディは悦びを表す。
 秘裂はほぐれたままであり、今すぐ挿入されても大丈夫だ。それでも、クライドは最初からするように
ゆっくりと、リンディの胸を柔らかく揉む。
 リンディも、クライドの陰茎を握った。天を向いてはいるが少しだけ硬さを失った肉棒を、労わるよう
に緩やかにしごく。敏感な亀頭には触れず幹を細い指で上下すれば、小さくひくりと震えた。
 クライドの指もリンディの胸を撫でる。張りが出たままの乳房は手の平を押しつけられただけで、大き
くたわんで零れ落ちそうになった。白い肉を五指でしっかりと捉えたクライドが、今度は唇を落としてく
る。
 まだシャワーを浴びていない乳肉の表面は、汗と精液がこびりついたままだった。それが一つずつ丹念
に吸われていく。
「あっ……ふぅ……」
 大して刺激にならないはずの行為も、火が点ききったリンディには立派な愛撫である。掠れ声が浴室の
壁に反響し、数倍になって耳に戻ってくる。
 胸の上面をきれいにした舌が、乳首に降りてきた。ぬるりと柔らかく舐められただけで、とろりと蜜が
腿を伝い落ちた。
 すぐに挿入れてほしい。けれど我慢する。リンディは充分に昂ぶっているが、クライドはまだなことを
手の中の感触が教えていた。硬さも太さも限界まで張り詰めているが、それでも余裕があることが長い性
生活の経験で分かる。
 リンディは身体の位置を少し変えた。反り返っているクライドの肉棒と、自分の淫らな場所を触れ合わ
せる。
 そのまま、腰をグラインドさせた。
「はああんっ!!」
「ぐ、うっ……!」
 風呂場に上がる二種類の快楽の声。
 崩れそうなほど柔らかい肉と、鉄のように硬い肉。本来包み込み貫く関係の器官が、表皮同士を擦り合
わせている。限りなく本番に近い前戯。
 腰を上げすぎると、挿入ってしまう。だから理性は残して紙一重で加減する。そのもどかしさが、また
性欲に燃料をくべた。
「くぅ、はぁっ……あなたの、どんどん硬くなってきてる……」
「リンディのも、熱くて、気持ちいい……!」
 リンディに引っ張られるように、クライドの手も強くなっていく。
 大きくても型崩れしない胸が、ぐにゃりと歪んで指の合間からはみ出る。乳肉に指が沈んでいく度に、
首筋をぶるぶると快感が這い登った。頭までほんの少しの距離。意思をちょっと緩めれば、あっけなく果
てることが可能だろう。
 それでも達する前に、リンディは自分から腰を離した。
 やりすぎれば、胎内ではなく外にクライドが出してしまう。それでもいいが、やはり熱い精液は一番燃
えている部分に浴びせられたい。
「……そろ…………うか?」
 優しいクライドの声も、シャワーの音がうるさくてよく聞こえない。それともシャワーのせいではなく、自分の意識が薄れているからか。
 とにかく、なんでもいいから頭を縦に振る。
「…………よ」
 また聞こえない。それでもなにが始まるかを本能で理解し、リンディはその瞬間を待ちわびた。
 体勢が入れ替えられる。クライドの胸板と鏡に挟まれて、豊かな乳房がまた違う形で潰れた。
「来て……」
 膨れた雁首が、ずるりと滑り込む。
 ぱんっと、肉の当たる音が残響の出るぐらい鳴った。音は連続して鳴り続ける。
 当然、リンディの中は肉の杭で穿たれ続ける。神経の集まった膣壁が突きまわされ、痛みすら感じた。
 愛の営みというよりは、ただの性交。いつもいつもリンディに優しい夫が、手荒になるたった一時。夫
婦から男と女に戻る時間。
「ああ、ああはぁん!」
 頭の中がふわふわと頼りない。床に足裏が着かないのも、浮遊感を増幅させている。子宮口を突かれた
一瞬だけ稲妻が光るような感覚があり、小さく達したことがわかった。
「クライ、ド……クライドぉ……」
 口から出る喘ぎはただ一つ。結婚してからあまり呼ばなくなった、夫の名前。
「リンディ……好きだよ」
 あれほど聞こえなかったクライドの声が、名前を呼んでくれる時だけははっきり耳に響く。
「私も、私もっ! もっと、クライドを感じさせてぇ!!」
 背中を抱きしめ、足も腰に絡みつかせる。少しでもクライドと引っついていたい。
 ほとんど腰を密着することで、リンディの淫核も強く圧迫される。
 そこに、亀頭と子宮口を強く擦り合わせられた。
「ふはぁ、ああああああんん!!」
 なにもかも考えられなくなる快楽が、股間から全身に一瞬で広がる。
 全く同時に、身体の奥に迸る熱い液体。一滴注がれる毎に、筋も骨も溶けていく。
「ぁ……はあ……」
 口から涎と桃色の吐息を流し、リンディは絶頂に浸った。
 さすがにこちらの体力も限界に来ていたのか、クライドがずるずるとへたりこむ。抱えられたままのリン
ディも、タイルの床に尻をついた。
 達した衝撃でぼやけた眼が晴れてこれば、疲労困憊しつつも満足そうなクライドの顔。
 かける言葉は、一つしかなかった。首にしがみつくように手を回し、キスする前に言っておく。
「愛してるわ、あなた。……ずっと、永遠に」


        ※


「……本当に、あの子達のことをどうこう言えるような生活じゃなかったわね」
 追憶から戻ってきたリンディは苦笑いした。
 艦長職だった夫は、航海任務でとにかく家を離れていることが多かった。触れ合える時間が少ないのが
寂しくて、二人で夜を迎えればとにかくセックスばかりしていた。
 クロノとフェイトも似たような環境なのだから、したい気持ちはよく分かる。注意するのは、もう少し
様子を見てからでいいだろう。
(それにしても……案外こないものね)
 クライドとの情交を思い出したのも久しぶりだが、別に官能は疼かないし血も熱くならない。
 もうそういうことをするような年でもないというのもあるが、クライドへの情熱が薄れているのも原因
だろう。やはり、夫は遠くなった。
 それでも、絶対に変わらないことが一つある。
 短かったが彼の隣にいた季節。その間に、クライドという夫がリンディの人生に与えてくれた彩りだけ
は、この命が終わる時まで絶対に色褪せることはない。
 ベッドから起き上がったリンディは、机の奥から一冊のアルバムを出す。
 家族のアルバムとはまた別。中にあるのは、リンディとクライドが写っている写真だけである。
 そのうちの一枚。十代の自分が満面の笑顔でピースサインをしている。もう片方の手を強く絡められた
夫も、はにかむように笑っていた。
 初めてのデートで撮った写真。他のデートの記憶はあやふやだが、これだけはどこに行ったかも、どん
な会話をしたかも、何回キスしてくれたかも全部覚えている。
 現在のリンディも微笑みながら、写真のクライドに語りかける。
「次の命日は無理だろうけど、その次はきっと家族が増えているわ。……まだしばらくそっちには逝けそ
うにないけど、もう少しだけ待っていて。お土産話、いっぱいできそうだから」
 アルバムを閉じて、リンディはベッドに横たわった。
 きっと今夜は、懐かしい夢が見れる。そんな気がした。



        終わり



著者:サイヒ

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