魔法少女リリカルなのは Step

第2話 笑顔は願いのカタチなの


[166]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/05/14(日) 01:54:22 ID:ziMe0R8r
[167]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/05/14(日) 01:55:28 ID:ziMe0R8r
[168]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/05/14(日) 01:56:15 ID:ziMe0R8r
[169]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/05/14(日) 01:57:08 ID:ziMe0R8r
[170]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/05/14(日) 01:57:44 ID:ziMe0R8r
[171]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/05/14(日) 01:58:39 ID:ziMe0R8r
[172]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/05/14(日) 02:00:35 ID:ziMe0R8r

第2話 Bpart

「それで考古学の専門家から見てこのジュエルシードはどんな感じ?」
「はい、管理局に保管してあるものの魔力と比べて純粋なものを定期的に発生させていますね」
「純粋か……というと他者の魔力に対してより強い反応を示すってことになりそうね」
「多分この場合は願い……願望でしょうね」
 なのはを送った後、僕はこうしてエイミィさんとアリシアが撒いた例のジュエルシードについて分析を続けていた。
 次々に映し出される映像や比較図、さらには管理局で調査したジュエルシードについての情報も引っ張り出して僕らはこれからの対策に頭を悩ませていた。
「でも管理局の情報を勝手に使っていいんですか? どう見てもハッキングじゃ……」
「ストーップ! 緊急なんだから細かいことは気にしないの。コレクションしてるわけじゃないんだから使えそうなときには使わないと埃被っちゃうよ」
「ま、まぁそうかもしれませんが……」
 大胆だなぁ……エイミィさん。
「艦長にも言ったけどそれでもここが限界……って所だよね。後は本物を手に入れるまで憶測の世界」
「その憶測でどこまで真相に近づけるか」
「ん〜いいねぇ、なんか私たち調査してます! って感じで」
 軽快な手さばきでコンピューターを操作していくエイミィさんの横で既に僕は想像の世界。
 純粋に願いと反応し激しい変化をもたらす。だとするなら誰かの願いを吸って形に成したら何が起こるか。
 明確な願望や意思を持たない原生生物が取り込まれれば以前よりも凶暴化するのだろうか。それとも暴走せず完全な形として……いや明確じゃないものを具現化したらそれこそどうなるか。
 いろいろと考えてみるが最後はどん詰まり。本物を調べてみないとわからない。
「以前のジュエルシードはどれも完全な形で願いの成就はされなかった」
「うまく形にしようと一種のリミッターが中の魔力サーキットにかけられていたってのが研究部じゃ総論だけど」
「無駄なものを極力省いて……でも省きすぎたからあんな中途半端な発現をした」
「強ちユーノ君の言うことはあってるかもね」
 枷を外してより強く、それこそ掃除機のように手当たり次第願いを吸収し発現させる。だったら純粋と言うより混沌だ。
「もっとも相手はロストロギア……この研究部の見解だって憶測だし」
「はは……」
 お手上げ……か。
 肝心のジュエルシードの行方もわからないし。
「ところで考古学の専門家から見てなのはちゃんのことはどんな感じ?」
「そうですね、優しくて可愛くて責任感が強くて、でもそれが仇にならなきゃいいんでってエイミィさんっ!!」
「ふむふむ、ユーノ君はなのはちゃんに相変わらずぞっこんラブと……」
「め、メモになんて書かないでください! ぼ、僕はなのはのことなんて」
「結構知ってるから。だから支えてあげて」
「えっ……」
 うっかり口車に乗せられる――ほとんど乗せられたのだろうけど――所だった。
 いきなり何言うかと思えば今度は急に大人しくなり、エイミィさんは表情を固くした。
「私だって管制官。なのはちゃんのことはそれなりに知ってるからね。……誰かのためにあそこまで行動できる子なんてそんなにいない」
「それで……なんですか」
「事件のきっかけを作っちゃったことに関して結構思いつめてるんじゃないかなって。それで無茶しちゃって」
 ふっ、と息を吐いて一区切り。首だけこちらに向けてエイミィさんはまた喋り始める。
「私だって一日中傍にいられるわけじゃない。でもユーノ君なら傍にいてあげられる。もしもの時は首根っこ掴んでも止めて欲しいな……なんてね」
「僕だってなのはが思いつめてることはわかります」
 あの時フェイトを励ましに部屋に行こうとしてた時の顔はすごく沈んでいた。それが瞬き一つしたら忘れたように笑顔。
 それでも僕には一瞬だけ、顔にぎこちなさが見えた気がした。
 誰かのために、その言葉通りになのはは自分のことなんて押し込めてフェイトのために笑顔になった。明日にはジュエルシードを探しにまた街に繰り出すだろうし。
 なのはは自分では気づいていない。そうやって自分を殺して、言い方は悪いかもしれないけどいい子であろうとする。僕から見てそう思っただけだけど。
 無理はいつか自分に帰ってくる。体にも心にも、何倍にもなって。
「最初は一人でジュエルシードを封印しようと僕も無理してましたから」
 ああやって無理が祟って傷つき倒れてなのはに拾われて。
 一人でやろうとする僕を叱って一緒に手伝ってくれたなのは。逆の立場だったら僕もそうしていたと思う。
「なんていうか……根っこは同じかもね」
 そう、似たもの同士。
 でもなのはと違うのは妥協する場所だ。僕が十とするならなのははゼロはおろかマイナスまで行っている。だから自分の責任は自分で全部片付ける。止める場所が分からないから。
「うん、やっぱりいいコンビじゃない。むしろお似合いの二人だね、お姉さん羨ましい〜」
「か、かか、からかうのは止めてください!」
「それだけユーノ君のこと頼りにしているの」
 肩に手を置かれ、次いで背中を強く叩かれた。パンパンと艦橋に響く小気味よい音。
 ちょっと痛い……。
「あ〜あ、なんていうかもう少し手が欲しいって感じ」
「ない物ねだりしてもしょうがないですよ」
「そうなんだけね〜、どっかにいい人材転がってないかとついつい考えちゃうわけ。なのはちゃんがいるのよ。もしかしたら他にもって」
「それでも民間人は巻き込めませんよ」
 民間協力者の言えたことかもしれないけど。
「とらぬ魔導師の皮算用……かぁ」
「狸でしょ」
「いいのいいの、私の今の素直〜な気持ちだから」
 はぁぁ、っと親父みたいなため息をついてからエイミィさんはモニターの電源を落とした。流石にあれから二時間近く座っていたのだ。休息も必要だろう。
 僕も僕でぎゅっと目を閉じたり開いたり、目頭を揉んだりして、しょぼしょぼした疲れ目にため息だった。
「さてと……私たちも休もっか」
「ですね」
 とっくのとうに更けた夜。真夜中もいい所だ。
 明日のこともある。今日も寝るのはなのはの部屋か。
「じゃあ僕はお先に」
「おやすみ〜」
 トランスポーターの準備を始めながら同時に変身。エイミィさんの目線が思いっきり下がった。
 もうこの姿で行動しても誰も気に留めないんだろうな……。
 なんだかんだで今日の終わりもフェレット姿で迎える僕であった。

 * *


「ふぅ……」
 時の庭園へと戻り宛がわれた部屋でしばしの休息。凝り固まった肩を拳で軽くたたいて一息ついて。
(アリシア……起きていますか?)
(なーに、リニス?)
(いえ、特にこれといった用はありません。そうですね……話しませんか、今から)
 念話でアリシアが起きていることを確認して私は他愛もない誘いをした。
 特に重要な意味はない。ただ単に彼女と話したいだけ。
(うーん……いいけど。まさか勉強のこととかじゃないよね)
(ええ、そこまで私はスパルタではありませんから) 
(じゃ、いいよ。いつもの場所で待ってるから)
 そんなこと言われてしまうとこの前の課題のこととかいろいろと灸を据えねばならないことがあるのだが。
 まぁ、大仕事を終えた後だ。そこまで酷なことを強いるほど私の心は狭くない。
「いつもの場所……ですか」
 まだまだしっくりこない事務椅子から腰を上げ外出用の白いケープを肩からかける。この前ミッドで見つけて衝動買いをしてしまったものだが、気に入っているので良しとした。
 大体、外行き様の服などないに等しいのだ。あるのはいつものローブだけでお洒落など持っての外。
「主人の影響でしょうか……まったく」
 アリシアはかなり服には拘る。バリアジャケットから私服に至るまでお洒落をしたがる。
 そんな彼女の影響か、私まで自分の身なりに気を遣うようになっていた。
「……あれから何ヶ月……半年? ……それ以上ですか」
 一年は経ってはいないだろう。私にとって記憶というものは酷く不鮮明で不確定要素に満ちたものだ。
 大魔導師プレシア・テスタロッサによって生まれ、彼女の娘の教育を任され、契約を執行し……。
 それが私にとって、使い魔としての最初の記憶。
 再び目覚めた時、私の目の前には生前――語弊があるかもしれないが、他にいい言葉がない――のとは明らかな齟齬を生む景色がそこにあった。
「アリシア……プレシア……」
 正直、自分の境遇を疑ったものだ。真逆の世界の居心地は今でこそ慣れてはいるのだが。
「これは一種のパラレルワールド……というわけではないのでしょうね」
 SF小説の中の一コマなら気は休まるのだろう。アリシアが生きて、プレシアが良き母親で、私は彼女達に従える侍女。
「この目でフェイトを見ては流石にそうとしか言えません……」
 現世との再会はいつでも鮮明に蘇る。
 最初は契約を終えた所から。
 己の存在が世界から消え、暗く冷たい海に抱かれるような、落ちていくような感覚に捕らわれて。
 時間の概念は意味をなくし、長い短いなど忘却の彼方。安堵と不安が入り混じりその内これが「死」なのだと頭が認識しようとした矢先、誰かが私の腕を掴んで無理やり引き上げた。
 目を開ければ赤い眼が私を見下ろしていた。その人物が私のよく知る人間のオリジナルというべき存在であるアリシア・テスタロッサだと知ったのは彼女が私を母親の元へと連れて行ったときだ。
 驚いたのはあれほど冷淡、冷徹だったプレシアが微笑んでいたことだった。
 加えてラベンダーを思わせる薄紫色のセーターに藍色のロングスカートという出で立ちには最初誰だか分からなかったくらいだ。
 しかし、だ。紛れもないプレシアだというのは確信した。彼女が私を見たときにほんの刹那、眉を顰めたのだ。まるで厄介者に出会ってしまったような目で。
「久しぶりね……なんて本心じゃないんでしょうが」
 どうやら私はプレシアの本意でこの世界に呼び戻されたわけではないらしい。ならばなぜ私がここにいるのか、それは全てアリシアの話。
 つまり私を呼び戻し契約したのは他でもないアリシアというわけだ。
「問題はそこなんですけどね」
 普通に考えて死人が生き返るなどあり得ない。あの時、確かに見たのだ。カプセルの中で保存液にたゆたう彼女の亡骸を。
 一体どういうイカサマを使ったのか。答えはイカサマ並みに不可思議な魔法の類。
 知識としてアルハザードの存在は私の中にもある。どうやら彼女はその地にたどり着き眠っていた秘術によって成すべきこと全てを成したらしい。
 娘の蘇生然り、自分の病の治療然り。この時の庭園でさえ秘術によって再生されたものだそうだ。
「全くむちゃくちゃですね、おとぎ話というものは」
 私がここにいるのだってアリシアがプレシアに隠れて使った秘術の他ならない。
 なぜ、などと疑問は持たないことにする。私の存在はここで事について考える私がいるということで証明される。我思う、故に我あり。うむ、実に哲学的。
「行きますか……言いだしっぺが遅刻なんてしたらお話になりませんし」
 部屋を出ればどこか古代の遺跡を思わせる石柱が整然と並ぶ廊下。その柱の隙間から満天の星空が私を迎える。
 これも魔法。擬似的にどこかの星空を模造して映しているに過ぎない。それでも初見でこれを偽者だと疑うものはいないだろう。朝に当たる時間になれば日だって昇るのだ。もはや虚像の域を抜けている。
 いや、実像か。私がいる時の庭園こそ今はアルハザード。プレシアが己の力で世界という形で固着させた姿。時の庭園はその中心、居住区としてアルハザードにどっかり腰を下ろしている。
「……アリシアは、まだ来ていませんね」
 やがて辿りつく小高い丘。庭園からそれほど離れていないここが私とアリシアが邂逅した場所。そして今は彼女に魔法の教育を施す青空教室。
 周囲に転がっている石塊は彼女が加減せず全開でぶっ放した魔法の被害者達だ。
「はぁ……なんの神殿だか知りませんがこうなったら元も子もないですね」
 あれほど荘厳な雰囲気を漂わせていたのに雷撃一発でこの有様。もう少しだけ魔力制御に重きを置くべきだった。
 横たわる柱はいい腰掛だ。これも根元からぽっきり折れて彼女の才能の証言人である。
 プレシアから教えられた真実が本当ならアリシアに魔法の資質は全くと言っていいほどなかったはずだ。だと言うのに、私の知るアリシアは恐ろしいほどに魔法の資質を内に秘めている。
「プレシアが付加したのか……いえ、それはないでしょう」
 彼女の悲願はあくまで娘の蘇生だ。実の娘に必要以上に手を加えるなどするわけがない。
 一応、元の主人なのだからそれくらいはわかるつもりだ。単に、彼女に母親が残っていて欲しいという独りよがりでもあるが。
 他に考え得る要因は今のところ二つ。
 蘇生させるために使われた魔術がアリシアに偶発的に資質を付加する結果となったか。
 「死」という常人では経験し得ない経験が眠っていた親譲りの非凡な資質へパスを通したのか。
 どちらにせよ今の私には関係ないことだ。
 内にあるのは最低限の事実だけ。私にはまだまだ知らないことが多すぎる。
「それにしても……なんだか頭がスースーするのは気のせいですか?」
 どうも夜風の通りがすごぶる良い。耳の感覚がやけに鋭敏になったようで何かがおかしい。
 手で触れてみるとしこしことした肉の感触。そこにあるはずものが
「ない……」
 肌身離さず、私の大事な所を守る守護者がいない――!
「えっ? えっ? ぼ、帽子……私の帽子!」
 手に触れるものは耳と髪と……それだけだ。
 そんなわけがない。あってたまるか。だって今の今まで頭の上にはあったのに!
「くふ……ふふ……あははは」
 そうして聞こえる犯人の歓喜の声。なまじ帽子がないから良く、それこそ普段の二倍以上に良く聞こえる。
「アリシア〜……あなたって人は!」
「だ、だってだって私が来ても全然気づかないんだもん」
 悪びれる様子もなく帽子をひらひらと見せる問題児。私はと言うと両手で耳を押さえて何とか見られまいと涙ぐましい努力。
「あっはは……それじゃ帽子取れないよリニス〜」
「こ、このおいたが過ぎますよ! 早く返してください!」
「じゃあ自分で取ってよ」
 それは両手が塞がってる私に対する挑発ですか、挑発ですね、挑発なんですね!
 ならば一時の恥を忍んで私は両手を解き放ち、狩りでもするようにアリシアに飛び掛る。
「わっ、と」
 空を切る両手。すかさず伸ばした右手は
「おっとっと」
 ならば左は
「全然は〜ずれ」
「ぐぬぬぬ……」
 すばしっこい……さすが私が鍛えただけありますね。
 って、自画自賛してる場合じゃないでしょう。
「いい加減にしてくださいっ!」
 右、左、右、左と疾風のごとく繰り出す全ては哀れ空振り。その度アリシアは無邪気に笑う。
 どんなにペースを速めても決して帽子に手は届かない。
「猫みたいだよ〜リニス」
「ね、猫なんかじゃありません!」
「だってこれじゃ猫じゃらしだもん」
 帽子の動きに首が追従し私はいいように操られていた。
 遊ばれている、猫として私は遊ばれている。
「たまには元の姿に戻らないと体に悪いよ」
「わ、私は元の姿がこれです!」
「じゃあ最初に会ったときなんで猫だったの?」
「そ、それは……き、気まぐれです! 気の迷いです!」
 言って猫は気まぐれだと、私が一番嫌いなことを言ってしまったことに気づく。
「あんな気ままな猫とは私は違うんです!!」
 そうだ。私は曲がりなりにも大魔導師プレシアの使い魔として彼女の名に恥じないよう品行方正、常に理路生前を心がけなければいけないんです。
「ちゃっきりしっかりして主に恥を欠かせないようにですね」
「ふ〜ん……今の主が私でも? 私は別に気にしないけどな」
「そ、それでも……アリシアに恥はかかせられません」
 真面目と言われてもいい、これは私のポリシーだ。
「我慢は毒。空気上手く抜かないと母さんみたいな小難しい顔になるよ」
「小難しい顔って……それは嫌ですね」
 個人的にあのような顔になるのは正直ご勘弁願いたい。
「恥ずかしがる必要ないと思うけどなぁ……私は好きだよ、リニスの全部」 
 ニコッとアリシアが笑窪を浮かべた。迂闊ながら、それにちょっとドキリとさせられた。
「耳も尻尾も出しても誰も笑わないって、それにすごく可愛いしね」
 ほんと、なんでここまでズカズカ言えるのか。思ったことをすぐに口に出して、フェイトとは大違い。
 精神リンクも常に千客万来。だから彼女が心からそう言ってるのだとわかる。
「私にだって……いろいろあってですね」
「じゃあその内ってことでいいよね。私、命令はしないから」
 そう言って私の頭を覆う懐かしい感触。久しい再会を味わうこともしないで私はいささか適当に被らされた帽子のずれを直した。
「いいのですよ、アリシアがそう望むなら私は」
「いいの! 私が母さんに隠れてまでリニスを呼び戻したのは召使いにするわけじゃないよ」
 後ろに手を組んでその場でくるくると回るアリシア。流れるように髪が舞い、夜を彩る色となる。
「大事な家族なんだよ、私と母さん、リニスは。忘れたわけじゃないでしょ、私の言葉」
「忘れるわけがありません」
 胸に抱かれ囁かれた言葉は今でも鮮明に、一字一句思い出せる。
 私の二度目の始まりにアリシアはこう言った。
 ――お帰りなさい、と。
「うん!」
 本当にこの子は素直だ。これが偏屈なプレシアの娘と言われても俄かには信じられない。
「アリシア……あなたは」
 言って……止めた。こんなこと聞いてもなんにもならない。笑顔を曇らす権利は私にはない。
(そんな笑顔を見せられたら言えませんよ。あなたはフェイトではないんですかって)
 汝、使い魔リニス。その趣旨と心を持って自らが望む生き方を探しそれを行え。如何なる地にあろうと主と心は共に、その命尽きるまで制約を守り抜け。
 アリシアはそう私と契約を結んだ。偶然なのか必然なのかフェイトの言葉と相違ない。
 しかしそれが彼女の存在を否定する理由になどなりはしない。
 彼女はアリシアだ。それだけは私が証明する。誰でもない、彼女だと誰が言おうと声を大にして言ってやる。 
「なに?」
「……あなたは本当に手の掛かるおてんばですね」
「ふんだ。元気なのは良いことだもん」
 あまりに天真爛漫。歳相応以上に子供で我がままなんてお手の物。手を焼くばかりだけど今はそれが心地よい。
「ふふ、そうですね。元気すぎても問題ですが、あなたには元気しか似合う言葉がありませんし」
「……なんだか馬鹿にされてる気がするんだけど」
 こんな主だけどついて行くことに後悔はない。それは使い魔という自らに課せられた厳然たる事実から。
 初めはそう思っていた。その事でフェイトやアルフと刃を交えあうことになるだろうと心痛めたこともあった。
 今は……多分違う。手を血で染めようと私の望んでいたものがここには少なからずあるから。
 アリシアに情が移ったのならそれでもいい。私は彼女に必要とされている、それだけで理由になる。
「してませんよ。ただですね、人の嫌がることさえしなければ」
「……今度は帽子隠しちゃおうかな」
「寝込み襲ったって絶対させません」
 だからもう少しだけこのままでいたいと願う。
 この幸せに浸っていたいと願う。
 例え目に映る全てが虚像でも、行く先に破滅が待ち受けていても。
 
 我、使い魔リニス。山猫の血と気高さにかけて主に降りかかる全ての災厄をこの手で撃ち払わん。

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目次:魔法少女リリカルなのは Step
著者:176

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