魔法少女リリカルなのは Step

第2話 笑顔は願いのカタチなの


[360]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/05/28(日) 11:40:20 ID:usU4Bdv8
[361]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/05/28(日) 11:45:10 ID:usU4Bdv8
[362]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/05/28(日) 11:46:23 ID:usU4Bdv8
[363]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/05/28(日) 11:47:13 ID:usU4Bdv8
[364]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/05/28(日) 11:48:07 ID:usU4Bdv8
[365]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/05/28(日) 11:49:04 ID:usU4Bdv8

第2話 Cpart

 封時結界が展開されたその中で三度目の轟音が怪物を射抜く。
 爆風から垣間見える風穴はどう見たって致命傷としか言い切れないはずなのに。
「なんて生命力なんだ……」
 渦を巻くように周囲の組織が穴を塞ぎなのはの攻撃はまたも徒労に終わった。
 大樹の化身にこんなものはなんにもならないということか。
「せめて動きだけでも!」
 放つ鎖は七つ。どれもが相手の四肢に当たるであろう無数の根に絡みつき動きを奪い去る。
 だが敵もさることながら使えなくなった手足の代わりに新たな根を大地から僕らに向けて解き放つ。
『Divine shooter』
『Photon lancer』
 なのはとフェイトはそれぞれに射撃で迎撃。僕は障壁や拘束魔法で攻撃を弾き、反らす。
「でぇぇい!!」
 ただ一人アルフだけは向かい繰る猛攻に怯むこと無く、拳一つで次から次へと叩き落していた。
 調子がすごぶるいい感じだ。
「っ! たく、なんだいこのお化け木は!!」
「きっとジュエルシードがこの木に取り付いて」
「そんなことはわかってるよ! あたしが言いたいのはさ!!」
 太くうねる根をアルフは怒声と共に受け止める。だが相手の勢いが強い。見る間に砂煙を上げ押し戻されていく。
 それでも
「だぁぁぁぁぁ!!」
 踏ん張り力任せに引きちぎる。だけど傷口からまた新たな根が再生されこれじゃキリが無い。
「っ! なんでこんなに強いんだってことさ!」
 降り注ぐ閃光も、戒めの鎖も、唸る鉄拳も活路を開けない。
「こうなったらあたしが隙を作る! フェイト、フォローお願い!」」
 張り上げる声と共に狼が砂塵を巻き上げ飛び出していく。アルフは真正面から突っ込んでいくつもりか。
「うん、バルディッシュ!」
『Thunder smasher』
 魔法陣から解き放たれる稲妻が大気を裂き木の根は一瞬で灰へと変えた。
 光を背景に従えアルフは構う事無く只中を敵の目掛け突っ切っていく。
「ユーノくん! わたしたちも!」
「うん!」
 突破口を広げるために僕となのはもアルフの行く先へ魔法を浴びせる。破壊と再生のいたちごっこを繰り返しながら執拗にアルフを狙う根。ついには体中から枝のような腕を無数に浴びせかける。
 だけどアルフは屈しない。
 四本の足で大地を捕えながらアルフは身を捻り一撃をかわし、続けて跳躍。さらには腕の上を走り敵の眼前へ。
「いい加減にしな! この――」
 獣を光が包み再び人としてのアルフが現れる。
 既に右手には臨海まで高められた魔力の光。
「木偶の坊!!」
 爆ぜる緋色。振り下ろされた豪腕が大樹の実を引き裂き、粉々に打ち砕いた。
 舞い散る木片。グラリと傾く巨体は地に背をつける前に根を支えに踏み止まる。既にその体には再生の兆し。
 ――でも
「ディバインバスターーーッ!!」
 なのはの砲撃が相手の再生も踏み止まる事も、何もかも許しはしない。
 地響きが足の裏を駆け抜け、大樹は地面に貼り付けにされながらどんどん身を削り取られていく。
「よし! 今ならいける! ハァ!!」
 さしもの生命力もなのはの魔力を受け続けては満足に体を直せない。訪れたチャンスに僕は迷うことなく巨木から伸びる根と枝をバインドで拘束する。
 僕に続いてアルフもバインドを展開。これで完全に相手の攻撃力奪い取った。
「フェイト!! なのはに合わせるんだ! 二人同時ならきっとやれる!」
「フェイトちゃん! やろう、あの時みたいに!」
「うん、まかせて! なのは!」
 砲撃を続けるなのはの隣にフェイトが降り立つ。二人は軽く目配せするだけで必要以上の言葉は交わさない。
 それだけ二人の間の信頼は固い証だ。
「いくよっ!!」
『Divine buster full power』
「せーの!!」
『Thunder rage』
 重なる声に連なる光。ディバインバスターはより太く激しく、サンダーレイジは雷神の怒りの如く。
「いっけーーーーー!!!」
 二条の光は絡み合わさり一条の閃きへ。
 強大な魔力の激流はいとも容易く大樹を飲み込み爆発。
 太陽みたいな眩さは腕で目を覆っても意味を成さず、あまりの衝撃に暴風吹き荒れ小石や砂が体を打ちつける。しばらく耳には風の叫びだけが聞こえていた。
 こんな規格外の魔力を浴びせてようやく、形となった幻想は再びあるべき場所へと送り返された。

 * *

 
 封印したジュエルシードの数は全部で三つ。どれも番号は無い。
 今の攻撃で無残に抉られた大地。ここまでやらなければ封印できないなんて流石に理不尽すぎると思った。
「三つも一度に封印するなんて初めてだ……」
 まだ信じられないといった感じでユーノは気を抜くようにため息をついた。
 ユーノだけじゃない、アルフも私だって疲れていた。
「でも封印は出来たんだからよかったんじゃないかな」
「うん……そうだけど」
 ただ一人、なのはだけはまだ元気そうで。
 あんな魔法を撃った後だというのに、ほんと何処にそんな力があるんだろう。少し羨ましい。
「もうあたしお腹空いたよ〜。早くアースラ戻ってエイミィのご飯食べたいよ」
「そうだね……」
 だけど今日の功労賞は間違いなくアルフだ。だってあんなに頑張ってくれたんだからこれは当然。
「はぁ、お肉食べたいなぁ……」
「肉ばっかりじゃ体に悪いよ」
「狼だからいいの」
「もう……」
  あれからアルフはいつでも笑ってくれて私に元気をくれる。
 心の中で今も揺れるアリシアやリニス、母さんのこと。そのことでふさぎ込んでしまう時、いつも黙って傍にいてくれる。
 静かな部屋の中で背中合わせ。言葉なんていらなかった、心が通じているから。
 背中から伝わるアルフの想い、それに元気も一緒に流れ込んでくるみたいで私も「こんなことばっかしてても始まらない」って思えて。
「ジュエルシードは一つだけじゃないんだから。封印するたび肉食べてたら太るよ」
「ちゃんと運動してるさ、今だって」
 力こぶを見せるように腕を振り上げてみせる。
 使い魔だって栄養のバランスはちゃんとしないと体に悪いのに。でも、今日ぐらいは多めに見てあげようと思う。
「ほんとアルフはしょうがないんだから」
 そういうわけで私が折れる。
「あっはは、流石フェイトだよ〜」
 大きな口空け子供みたいに笑って、そんな笑顔を見て微笑ましくなって。
 でもやっぱり偏食は体に悪いかな、なんて思ってみたり。
「それにしてもなんでジュエルシードがこんなにあったんだろう」
 首をかしげるなのはに私も相槌を打った。
 最初に反応があったのは一つ。現場についた時には草のお化けみたいなものが暴れていてすぐに封印。これは大したことが無かった。
 問題はここからだ。封印する時の魔力に共鳴したのか立て続けに二個のジュエルシードが発動。
「草と虫と、あの木……」
 エイミィが貸してくれた映画に出てくるみたいな全身トゲトゲの虫みたいな相手。私は大丈夫だったけどなのはは少し面食らっていた。
 それに以前封印したような木の怪物。一番強力な力を持っていたのはこの子だ。
「なんでこんなことになったんだろう……」
「何かこの子たちも願いがあったのかな」
 私とユーノで考え込む。でも相手が物言わぬ草木じゃ簡単に答えなんか出ることも無くて。
 そんな時、急になのはが思い出したように口を開いた。
「……そうだ、この空き地ってなくなっちゃうんだ」
「なくなる? なんで」
「うん、家を建てるとか……この前通り過ぎた時看板にそんなこと書いてあったから」
 なのはの言葉に私の中で何かが形になった。なんとなくだけどきっとそれが答えだと思う。
「ねぇ、なのは。それってもうすぐなの?」
「えっと……多分」
「何かわかったのかい、フェイト」
「うん、私なりだけど」
 この子達みたいな立場に私もなったらきっと怒る。あくまで私なりの考えだから違うかもしれないけど。
「この子達は守りたかったんだと思う、この場所を」
「ここを?」
 なのはに頷き、続ける。
「もうすぐ家が建って、人がここに住んで、そしたらこの子達の居場所がなくなっちゃう」
「それでジュエルシードが反応して」
「だってここにはたくさんの草や木や虫がいるんだよ。いきなり出てけとか言われたってどうしようもできない」
「それはあたしもわかるよ。いきなりアースラから出てけ、なんて言われたって困るだけだしさ」
 自分の居場所を守りたいのは誰だって同じだ。既になくなった居場所を取り戻そうとする人だっているのだから。
「この子達……どうなるんだろう」
 見上げた先には夕日を浴びたオレンジ色の大樹。
 すごく悲しく見えて、泣いてるみたいで。どうしようもないのは分かってるけど、こうやって気持ちを知るとやっぱり辛い。
 ――心が痛い。
「切り倒されちゃうのかな」
「嫌だな……全部なくなっちゃうなんて」
 ざぁっ、と少し冷えた風が吹いて夕闇が近いことを知らせた。草がなびき、枝が擦れて切なげな音を立てる。
「あっ、フェイトちゃん!」
 突然叫ぶなのはに何事かと振り向く。
 思わず息が詰まった。
「綺麗……」
 目の前を覆うように風に乗り空へと舞い上がっていく妖精。自然と差し伸べた手にそれが舞い降りた。
「タンポポの綿毛だ……」
「綿毛?」
「こうやって種を遠くに飛ばすんだよ」
 そうなのか。そういえばミッドにもそんな植物があったことをおぼろげながら思い出した。確か黄色い小さな花で、私もよくその種を飛ばして遊んだっけ。
 風に舞い上がり空へと消えていく綿毛。広い世界へ旅立つ旅人。
「ねぇ、なのは」
「なに?」
「全部なくなるなんて……ないんだね」
 種を結んで旅立つのはこの子たちだけじゃない。きっとこの空き地に生きるみんなに旅立つ用意は出来てるんだ。
 草木は花を付け、実を結びそれぞれに考えた方法で新天地を目指す。ここに住んでいた動物や虫たちは自分の足や羽で旅立てる。
 きっと楽な旅じゃないけど、でも必ずいつかは辿り着ける。
「……うん、そうだよフェイトちゃん」
 微笑むなのはに心が温かくなるのを感じて、何だか気恥ずかしくなって。
「この子の背中……押してあげないとね」
 右手にちょこんと座る綿毛に微笑んだ。まるで旅立つ決心がつかなくて立ち往生しているように見えてちょっと面白い。
 少しだけ息を吸って、吹きかける。
 ふわりと舞い上がって儚げに空へと旅立つ開拓者。私たちを見つめるように少しだけその場で浮いて、次の瞬間にはもう風に乗って旅立ちをした。
 どこまでも高く、誰よりも高く――。
『Take a good journey』
「バルディッシュ? ……うん、そうだね」
 見上げた先にもう彼らはいないけど
「良い旅を……」
 藍に染まり始めた空に私の言葉が溶けていく。

 * *


 ジュエルシードを封印してすぐにアースラで分析を始めて
「分析結果は以下の通りです」
 エイミィさんたちが頑張ってくれたおかげですぐに結果は出て
「ほんとに……厄介ね」
 コーヒーを飲みながらため息を吐くリンディさんの隣でわたしは芽吹かせてしまった種の重大さに身を固くしていた。
「本命は一つだけで残りはダミー……というよりこれも本物かしら」
「そのことに関してはユーノ君から。お願いね」
「はい」
 ユーノくんが一歩踏み出ると同時に画面が切り替わった。
 ちょうどアリシアちゃんとリニスさんが映っていてジュエルシードもそこにある。
「アリシアが散布したジュエルシードは先のPT事件で消失した九つのジュエルシードと見て間違いないです」
「暫定的にロスト・ジュエルシード、略してL・ジュエル」
 エイミィさんが言いながら画面を切り替えていく。中央に映る二つのジュエルシード。
「このL・ジュエルは以前ジュエルシードに何らかの処置を施し、一種リミッターのようなものを外したと思われます。魔力反応のパターンが違うことから明らかです」
 なにか心電図みたいな図が出てきて重なった。赤と青の折れ線は似てるようで微妙にずれている。
 あまりこういうことはよく分からないけどとにかく違うということだけは私にも分かった。
「以前とは違い願いに対してより過敏に反応し発動時の具現の仕方もより顕著で過剰になることが前例から予想されます」
 さっき戦った木の怪物が画面を占拠した。比較のためか前に戦ったあの木も一緒に並んでいる。
「これはL・ジュエルが対象の願いを誇大解釈するためだと思われます。先ほどのリミッターを外したと言いましたがそれはおそらくこの部分だと僕は考えています」
 きびきびと噛むことなく説明を続けるユーノくんは何だか格好いい。私だったらすぐに舌を噛んでしまいそう。
 下手な早口言葉よりも難しそうだ。
「ですが一番の問題は新たに判明したこれです」
 今までの映像全てが一度消えて今度は封印したジュエルシード三つが現れた。 
「封印したL・ジュエルには……信じたくない事実ですが自己複製能力があると思われます」
 間を置いて出た、心なしか少し重い声にざわついていたブリッジが静まり返る。
 私は息を飲んだ。
「他の二つのジュエルシードは魔力反応から以前のジュエルシードと構造は同じようです。ただ出力にバラつきがあるし全てが発動することはないと思います」
「それがなんでL・ジュエルと関係があるのかしら」
「はい、このジュエルシードの魔力はL・ジュエルと共通する場所が多々見受けられます。加えて散布された数、同じ場所での複数発動からそう結論づけました」
「いわばL・ジュエルがプラント代わりというわけね」
 じゃあ放っておくほど大変なことになるんじゃ……。
 沸き立つ不安にわたしは自然とその場を離れユーノくんの元へ足を動かしていた。
「ねぇユーノくん……それってどのくらいなの?」
「これだけは僕にもわからない。……唯一つ言えることは複製にそれほど時間はかからないと思う」
「もしかしたら今も」
「うん、残りの八個がジュエルシードを生み出している」
 何かが砕けた感じがした。すごく押しつぶされそうな気がして、苦しくて、思わず胸を掴んだ。
「なのは……」
「こんなたくさんのジュエルシードが町に溢れたら大変なことになっちゃうよ……」
 搾り出して声ではそれが精一杯。
 不注意でジュエルシードを見逃してしまったあの時よりも酷い光景が想像もしていないのに沸いてくる。
 大惨事なんてものじゃない。自分がやってしまったことは不注意で済ませられない取り返しのつかないこと。
「大丈夫だって! なにも全部のジュエルシードが満足に動くわけじゃない。それに増えるのはこれだけかもしれない」
「でも……」
「今は考えるよりも動く。僕らに今出来るのはジュエルシードを封印することだよ。悔やんでるより絶対その方がいい」
「ユーノくん……」
 そう……なんだと思う。
 わたしが今出来る精一杯のことはジュエルシードの封印。発動する前に見つけられれば迷惑もかからない。
 切り替えなきゃいけないと思った。
「……うん、そうだよね」
 自分が芽吹かせた種なんだ。摘み取れるのもわたししかいない。
 胸に置いていた手をぎゅっと握りしめる。
 わたしのせいなら解決できるのもわたしだけ。
 出来るのはわたしだけ。
「ありがとう、もう大丈夫だよユーノくん」
「ほんとに?」
「うん、またあの時みたいに頑張らないとね」
 どんなちっぽけな願いもみんな守ってみせる。もうさっきのようなことは絶対させない。
 胸に密かな決意表明。……うん、大丈夫。
「うん……わたし、頑張る」

 民間協力魔導師高町なのは。またまたご町内のために頑張ります。

前へ 次へ
目次:魔法少女リリカルなのは Step
著者:176

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

メンバーのみ編集できます