446 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/19(月) 20:24:45 ID:dqZ11bUg
447 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/19(月) 20:28:10 ID:dqZ11bUg
448 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/19(月) 20:32:05 ID:dqZ11bUg
449 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/19(月) 20:35:59 ID:dqZ11bUg
450 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/19(月) 20:37:24 ID:dqZ11bUg

第3章

 週末の海鳴市行きを約束して、なのはを返したユーノは、目の前に展開した5つのモニターに、無限書庫で発見したリンカーコアバーストに関する資料を表示すると速読魔法で内容を確認し始めた。

 死の軛”リンカーコアバーストの恐怖(リンカーコアバースト人格変異による大量殺人の記録か・・・)
 プロジェクトR(リンカーコアバーストを殲滅戦専用兵器として運用するための計画、結局は失敗したのか)
 リンカーコアバースト症例集(軌道ホスピス収容者への人体実験の記録か・・・おぞましいな)
 白き聖光と緑陰の騎士(聖王陵の歌碑か、なのはの見た幻視、そっくりじゃないか!)

「軌道ホスピスの設立に関する議事録か・・・ミッドチルダ人にとってリンカーコアバーストは死の代名詞と言
 われるのも無理はないな」

 ミッドチルダ人と違って、魔力量が相対的に乏しかった古代ベルカ人では、リンカーコアバーストを発症する
者が希だった為か、文献自体が少ないうえに古代ミッドチルダvs古代ベルカ戦争の惨禍により大半が消失し、ミッドチルダ側の文書に引用文献として記載されているだけである。

 あらゆる文献、資料を収蔵すると言われている無限書庫でも、消滅したものは収蔵できない。

「頼みの綱は、聖王陵の提供してくれたデータだけか・・・だが、なのはは97管理外世界人だ」
 おもわず独り言をもらしたユーノにマテウスの相づちが重なる。

「そうですな。高町一尉は、確かにミッドチルダ人でも古代ベルカ人でもない」
「マテウスさん。失礼じゃないですか、ノックもなしに・・・」

<ユーノ館長、先ほどバウアー卿の入室をお知らせしたはずですが?>
 館長室管理システムが、無情にもユーノの不注意を告げる。

「失礼しました。僕の不注意でした」
「いや構いませんよ。ここに座っていいですか?」

 なのはが座っていたソファーの向かいに座ったマテウスは、咥えていたちびた葉巻を次元の狭間に捨てると、
新しい葉巻を取り出して火をつけた。

「ご用件は、何ですか?」
「ちょっとした情報提供が二つありましてね。ところで高町一尉が来ていたようですな」

 テーブルの上に置きっぱなしのランチボックスに目をやったマテウスは、うらやましいですなと笑った。

「フィッシャーマンに聞きましたが、スライの連中は、よく働いてるようです。推薦した甲斐がありました」

 ある時空犯罪者の自白から、スクライア一族が遺跡盗掘に関わっていたとの疑惑が浮上している現在、レナードたちをスライ族だと保証してくれるマテウスの配慮に、ユーノは素直に頭を下げた。

「スライ・・レナードの件、ご尽力いただいたこと感謝しています」

 経緯や思惑はともかくスクライア一族を救ってくれた恩人に感謝するユーノの態度に照れたのか、マテウスは
葉巻を持ってない方の手で髪の毛を引っかき回しはじめた。

「いつまでも只飯食わせるわけにもいかなかったですからね。聖王陵のモットーは”能ある者は働くべし”
 そしてスライ一族は、遺跡発掘のプロで、発掘物の搬送や保存、分類に関しては第一級の能力者です。無限書 庫が採用してくれて助かりましたよ。発掘禁止遺跡だらけの聖王陵じゃ、使い道が無い連中ですから」

<コーヒーが届きました。入室を許可しますか?>

「ああ、頼むよ。ユーノ博士は、ブラックでしたよね?」
「これじゃ、僕がお客のようですね」

 本局の食堂から出前された ブラックコーヒーのカップを受け取りながら笑うユーノを気にする風もなくマテウスは切り出した。

「ところで、フィッシャーマンに人事異動の話が出てるのをご存じですかな?」
「人事異動だって!僕は聞いてないぞ」

 予想外の話題に思わず立ち上がるユーノを見上げた格好のマテウスは、皮肉な口調で続けた。

「それは、そうでしょうな。無限書庫館長といっても民間協力者のあなたに人事権はない。まあ、人事部へ採用
 候補の民間協力者を推薦することと人事異動への異議申し立てくらいはできますがね」

 なのはのリンカーコアバーストの件だけでも手一杯のユーノにとって、第一級ロストロギア関連以外の調査依
頼を独自に編成した文献調査チームを使って処理してくれるフィッシャーマンは、右腕と言うより、もはや半身といっていい存在である。
 それを自分に相談もなく一片の異動通知で動かそうとは・・・・・

「彼は無限書庫にとって必要不可欠の人材なのに・・・それをなんで、マテウスさん、一体、誰が糸を引いてい
 るんです?」
「コーヒーがこぼれてますよ」
「・・すみません」

 興奮するユーノの頭を一言で冷ましたマテウスは、床にこぼれたコーヒーを紙ナプキンで拭き終わると

「陸の連中と違って、海の連中の競争は熾烈ですからね。自分の功績評価に直結する情報のブランド価値に敏感
 なんですよ。そう言う連中にとって第一級ロストロギア関連の情報を提供するユーノ博士名義のレポートが欲
 しいってのが本音でしょう」

 コーヒーを飲まれたらいかがですと勧めるマテウスを一瞬、睨みつけたユーノは、一気にコーヒーを飲み干す
とソファーに腰を叩きつけるように下ろした。

「どういうことです? 無限書庫への依頼は、各次元世界の安否に関わる重大事項であるロストロギア関連が主 です。
まともな資料を提出しなければ調査隊が危険に陥るんですよ。我々の提供する情報が」

「いい加減だと言う連中に調査隊を名乗る資格はないでしょうね。しかし、調査隊も所詮は人の集まりです」

 ユーノの言葉を引き取ったマテウスは、葉巻を吸いながら続けた。

「連中に言わせれば、たかが武装隊上がりの副司書長が自分たちの依頼を処理するのに、ハラオウン系の依頼は、
 無限書庫館長のユーノ・スクライアが直々に処理するってのが許せないんですよ。俺の依頼は、ハラオウンの
 依頼より軽いのか?ふざけるんじゃないって憤懣がフィッシャーマンに向けられてるんですな」

「しかし情報の精度に差はありませんよ。むしろ僕が調べるより調査チームが調べた方が、精度の高いこともあ
 ります。情報にブランドはないんですよ」

「ご謙遜を、ユーノ博士のレポートのブランド価値は、フィッシャーマンブランドの10倍は価値があります。管
 理局の調査隊に対する評価も、それに準ずる訳です。彼らがフィッシャーマンを追っ払いたくもなるのも無理
 はないと思いますよ」

 2杯目のコーヒーを一気に飲み干したユーノはマテウスを振り向いた。

「やはり評議会入りするしかない訳ですか。それを勧めるために・・・」

 自分の問いかけを無視したマテウスが、展開されたままのモニターに映っているリンカーコアバーストに関す
るミッドチルダの文献に見入っているのに気づきユーノは沈黙した。

「ふむ、やはり古代ミッドチルダでは、リンカーコアの研究が進んでなかったんですな。まあ、魔力量が豊富な
 ミッドチルダ人にとっては、金持ち喧嘩せずでリンカーコアバーストの治療なんて面倒なことをしたくなかっ
 たんでしょう。古代ベルカ人が乏しい魔力量を有効利用するために、リンカーコアバーストを研究したのとは
 大違いですな」

 葉巻を口にくわえたまま、モニター上のデータを見続けていたマテウスは、こりゃ駄目だとつぶやくと続けた。

「フィッシャーマン程度の件で評議会入りを勧めるはずが無いでしょう。人事異動を阻止する手段はいくらでも
 ありますよ。例えばユーノ博士のように」

「民間協力者ですか?・・・・評議会の承認が必要でしょう」

「その点は、ご心配なく。それより高町一尉の件ですが、経過はどうですか?」

「情動衝動の暴発が起きました」
 子供が欲しいと迫ってきたなのはの顔を思い出したのかユーノは暗い顔になった。

「まさか、抱かなかったでしょうね?」
「マテウスさん!」

「これは失礼。この間、お渡ししたディスクに、セックスのもたらす高揚感がリンカーコアバースト発症の引き
 金になったという症例が載っていましたよね。」

「ええ、あれを知っていなかったら、僕もなのはも破滅していたでしょう」
 濡れた目で自分を上目使いで見るなのはの顔を思い出したユーノの背中を戦慄が走り抜けた。
(もしリンカーコアバーストのことを知らなかったら、僕はなのはを・・・)

<フィッシャーマンより通信が入っています。繋ぎますか?>

「緊急通信ですな」
 葉巻をもみ消し、部屋の隅に退いたマテウスを確認したユーノは、壁面にモニターを展開した。

「ジョン、何があったんです?」

「テスタロッサ執務官からの緊急依頼がありまして、第13調査班に該当文献の調査を命じたのですが、既に何者
 かによって持ち出された形跡があります。無限書庫の入り口を閉鎖し、武装司書隊で調査に当たります」
 緊張した面持ちで報告するフィッシャーマンが、持ち出された文献のリストをモニターに表示していく。

「ジョン、調査の必要はありません。文献を持ち出したのは僕です」
「ユーノ館長!」

「学会で発表する論文に必要なんでね。すぐに戻すつもりだったんですが・・・皆に迷惑をかけてしまったな。
 申し訳ない」
「いや、文献があればいいんです。依頼内容は”リンカーコアバースト症候群に関する基礎資料”報告期限は、
 48時間以内です。第25調査班と第38調査班をそちらに向かわせます。論文の提出期限は何時ですか?」

 ユーノの負担を少しでも減らそうとするフィッシャーマンの配慮はありがたかったが、第56管理世界の遺失
文明の戦史と第3級殲滅型ロストロギアの関係の文献調査に苦吟している二つの調査班に迷惑はかけられない。

(それに・・・これは僕の仕事だ!)
「2ヶ月後です。依頼の方は僕が処理します。25班と38班には、現在、依頼されている仕事に専念するよう
 伝えてください。どうしたんですジョン?」
「ジョン、繋いでください。無限書庫は、依頼者に扉を閉ざすことはないのがモットーです。館長が権威化した
 ら無限書庫はお終いです」

「わかりました。面会依頼者は、ティアナ・ランスター執務官補、テスタロッサ執務官の部下です」
「ティアか、旧六課時代のなのはの部下だった娘だ。繋いでください」

「了解。面会時間は30分に限ってください。40分後に、ヒルデガルド提督との第41管理世界から収集した
 資料の取り扱いに関する会談が入っています」

「わかりました。20・・15分で話を終えるようにします」
「それまでに提督の無限書庫搬入希望の文献リストを再度、確認しておきます。重複文献については、待機検討
 書庫に入れられるか担当のレナードと話しておきます」
 では、と手を挙げてフィッシャーマンは通信を打ち切った。

「ティア、久しぶり。ヴィヴィオを無限書庫に連れてきて以来だね」

「ユーノ館長、お久しぶりです。このたびは無理な依頼をして申し訳ありません」

 緊張した面持ちで自分に対するティアナに違和感を感じたユーノは、ティアナが右足に包帯を巻いていること
に気がついた。

「レポートは24時間以内に提出できる。ところで何があったの?」

「べ、別に何もありません」

「右足を怪我してて? かなり酷い怪我だったんだね。フェイトは、どうしたの? 怪我人に調査依頼をさせる
 なんて彼女らしくないな。ティアナ?」

 ユーノの問いかけに、ティアナは一瞬口ごもると肩を震して泣き出した。

「フェイトさんは・・・重傷です。私の・・・私のせいなんです。リンカーコアバーストの犯罪者から私を守ろ
 うとして、墜とされたんです」

 ティアナとの通信が終わった後、呆然としていたユーノを正気に戻したのはマテウスの一言だった。

「コーヒーをどうぞ」

「ありがとうございます」

 コーヒーを受け取りソファーに腰を下ろしたユーノは、ティアナの話した事実に衝撃を受けたのか押し黙った
ままだった。

「Bランクの犯罪者が、S+ランクの執務官をICU送りにするなんて、リンカーコアバーストを知らない人間
 が聞いたら、悪い冗談としか思わんでしょうな」

「S+ランクのなのはが発症したら、SSそれともSSSランクになるんですか?」

 リンカーコアバーストしたなのはがSSランク以上の力を発揮したら自分では止められない。ユーノの独白に
は絶望の響きが深かった。

「高町一尉ならSS+オーバーは確実ですな。狂戦士化されたならSSSに迫るかもしれませんね」

「狂戦士だって!?」

「高町一尉の家系を調べたのですが、武道の血筋で、叔母が傭兵、父親が元シークレットサービス、兄もリンカ
 ーコアがないのに剣技ではシグナムと互角に戦える。それにも関わらず高町一尉は運動音痴です。おかしいと
 思いませんか?」

「なのはは、桃子さんの血を引いたんでしょう。美由紀さんや京也さんと違って士郎さんの資質を遺伝しなかっ
 たと考えれば、運動音痴だっておかしくない」

 そう言い切って、ユーノはコーヒーを飲み干した。

「フェイト・テスタロッサとの戦闘を覚えていますよね」

「忘れるはずがないでしょう。フェイトは、僕となのはが初めて一緒に戦った魔導師ですよ」

「記録映像を見ましたが、魔法だけで、あれだけの反射性と機動性を出せるはずがない。基礎運動能力が高くな
 いと不可能なはずです。ところが、個人記録を調べると運動音痴となっている。初めは、記録ミスだと思いま
 したよ」

(・・・・確かに、フェイトの高速機動に対応したなのはの反応は、魔法だけでは不可能だ。運動能力が高くな
 いとできない。何故だ?何故、なのはは運動音痴なんだ? まさか・・・)

「リミッターだ! なんらかのリミッターが掛かってるんだ」

「ご名答。魔法を使用する時には、リミッターが解除されるんでしょう。そしてあなたと出会った時点で」

「なのはは、運動音痴でした。9歳以前のなのはにリミッターを掛けられるのは高町家の人しかいない」

 ソファーから立ち上がり、室内をぐるぐると回り始めたユーノを見ていたマテウスは、懐中時計を取り出すと
立ち上がった。

「そろそろ時間ですな。ヒルデガルド提督を待たせるのはまずいでしょう。なにせクロノ提督に次いで、無限書
 庫の必要性と功績を本局で主張されている女傑ですからね」
 
「リミッターが解除される確率は、何%ですか」

「99%以上。リミッターが解除された高町一尉は狂戦士になるでしょう。それでは失礼します」

 ユーノの返事も待たずにドアに向かったマテウスは、言い忘れたことに気づいたのか振り返ると言葉を継いだ。

「週末の海鳴市行き、幸運を祈りますよ。 それとリンカーコアコントロールについてわからないところがあっ
 たらメールしてください」

「二番目の話はそれだったんですね・・・」

 フィッシャーマンの異動の件やフェイトからの緊急依頼に紛れて、自分が最も必要とする情報を得る機会を逃
したことに気づいたユーノは、マテウスの出て行ったドアを呆然と見つめていた


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目次:翼を折る日
著者:7の1

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