20 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/25(日) 20:49:41 ID:VfjyJ9lB
21 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/25(日) 20:54:14 ID:VfjyJ9lB
22 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/25(日) 20:56:30 ID:VfjyJ9lB
24 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/25(日) 20:57:17 ID:VfjyJ9lB

第4章
 ティアナに資料を渡した翌日、なのはとヴィヴィオを乗せたセダンをクラナガン301に向けたユーノは、
後部座席で巨大フェレットのぬいぐるみに抱かれて眠っているヴィヴィオをバックミラー越しに見ると、おおげ
さにため息をついた。

「なに、ユーノくん?」
「ヴィヴィオは、あれをユーノパパって呼ぶんだよね。な・の・は」
「そ、そんなことないよ。あれは大きなフェレットさんっていう名で、ヴィヴィオもそう呼んでる・・はず」

 慌てふためいて否定するなのはの声がだんだん小さくなる。

「ふーん、そうなの。ヴィヴィオは、なのはママがお仕事で疲れて帰ってきた日は、フェレットさんを独り占め
 するって怒ってたよ」
「ふぇぇぇ、そ、そんなこと、す、少ししかないもん」

 頬を赤く染めたなのはは、必死に否定するが否定し切れていない。

「しかもフェレットさんをユーノきゅんって呼ぶんだよって『おかしいよね。フェレットさんにユーノパパの名
 前をつけるなんて、私の言ってることそんなに間違ってる?ユーノパパ、少しなのはママの頭冷やして』って」
「もうやめてぇぇぇ」
「うん、やめるよ。でもなのは、なんで僕の写真じゃなくてフェレットのぬいぐるみなの?」

「そ それは・・・・さすがに恥ずかしいよ。ユーノ君の写真は」
「僕としては、巨大フェレットのほうが恥ずかしいよ。娘にパパは、フェレットさんはフェレットさんでも巨大
 フェレットさんだよって言われてごらん。クロ助になんて言われるか?」
「ご、ごめん・・・」
 小声で謝るなのはの顔は、熟れたトマトを思わせるほど真っ赤だった。

 クラナガン301の1階のイベント広場は、戦場だった。
 空を覆う青い帯のウィングロード上を駆けめぐる白い影が、空中を必死に飛んで逃げる黒い怪人に迫る。

「うおりやゃゃゃ 食らえ、正義のディバインバスター!」
 白鉢巻きをたなびかせたスバル・ナカジマが、なのは譲りの必殺技を右手に竜巻の鞭、左手に炎の剣、
頭部が地震で崩れ落ちたビルの形をした怪人サイガインジャーの漆黒の闇を思わせる胴体に叩き込む。

「ぐわぁぁぁぁ!!!」

 数々の災害をミッドチルダにもたらしてきた怪人は、特別救助隊の”白い鬼神”の鋼の拳によって爆散し、観
客の大きなお友達や両親と一緒にいる本当の子供たちの目前から消滅した。

「わぁぁぁ スバル姉ちゃんかっこいぃぃぃ!」
「スバル姉ちゃん、すげぇぇぇ すげぇぇぇよぉ」
「やった、やったぞぉぉぉぉ、ついにサイガインジャーおぉぉぉぉ!!!」
「勝った!勝った!勝ったぁぁぁぁぁ」
「ディバインバスター キタァァァァァ」
「白い鬼神 やたぁぁぁぁぁ!!!」

 ウィングロードから舞い降り、舞台の中央で天に向かって拳を突き上げるスバルに賞賛の歓声と拍手の嵐が送
られる。やがて舞台を白い煙が包み、それが消えた時、スバルの姿も消えていた。

「午後の部は、午後二時からです。皆様、チャリティショーに御参加いただきありがとうございました。皆様の
 募金は、クラナガン母子福祉連合会、ミッドチルダ福祉協議会を通じて、災害によって家族を失った人々に、 
希望の光を持たらします。本当にありがとうございました」

 舞台に片隅に立つ司会が、午前のショーが終わったことを告げると大きなお友達と両親に手を引かれた子供
たちが、ぞろぞろとイベント広場から、昼の食事を求めて出てくる。

「終わったみたいだね。行こうか、なのは、ヴィヴィオ」

 チャリティーショーを見終わったユーノは立ち上がると、スバルに会いに行こうと二人に声を掛けた。

「スバルお姉ちゃん、かっこよかったよね。なのはママ」
「うん、かっこよかったね」

 とヴィヴィオに笑ったなのはが『白い鬼神って、二つ名まで私に似なくても良いのに』とつぶやいたのを
ユーノは聞き逃さなかった。

 三人が舞台裏に設けられた臨時の楽屋を訪れた時、楽屋裏は野戦病院と化していた。

 サイガインジャーの戦闘員を演じていた特別救助隊の新人たちが、スバルのリボルバーシュートによって
負ったダメージから、未だに立ち直れずマグロになっている。
 倒れた新人たちの前では、正座させられた白い鬼神が漆黒の怪人から叱責を浴びていた。

「スバル!お前、少しは手加減ってものを覚えろ。俺はともかく、あいつらが立ち直れなきゃ、午後のショーは
 できないんだぞ。どうするつもりだ!」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 脇腹を冷却魔法で冷やしながら、小さくなっているスバルをどやしつけているのは、特別災害救助隊から今回
のイベントに参加している”疾風の纏持ち”の異名を持つコンラッド・コルベット曹長である。

 災害現場に救助隊の活動拠点を迅速に設け、初期の災害救助に当たる橋頭堡小隊を率いるコンラッドの得意技
は瞬間転移である。

 今回のイベントショーの影の主役サイガインジャーに、コンラッドの瞬間転移が必要だと言うことで参加した
のだが、主役の白い鬼神”スバル・ナカジマ”のディバインバスターの予想外の威力に、かなりのダメージを負
っているようだ。

「大丈夫ですか?コンラッドさん」
「こ、これぐらい。痛てぇぇ・・・だが断る。断じて傷など負っているものか!痛てぇぇ・・くない、ないぞ。
 何のこれしき、トクサイの俺が痛みなど・・・痛っ、痛ったー く、くねぇぞ」

 痛みのあまり、蒼白な顔で支離滅裂なことを口走り始めたコンラッドを見上げるスバルの両目がうるうるしたか
と思うと涙が滂沱のごとく流れ出す。

「うわぁぁぁぁん うわぁぁぁぁん うわぁぁぁぁん またやっちゃたよぉぉぉぉ ギン姉ぇぇー」

 あまりの惨状にスバルに挨拶するどころではないと判断したユーノとなのは、顔を見合わせると頷いた。

 治癒魔法で脇腹の痛みが完全に取れたコンラッドが、尊敬のまなざしでユーノを見つめている場所から、かな
り離れたところでスバルは、なのはのお話聞かせて級の説教を受けていた。

「スバル、全力全開って教えたのは確かにあたしだよ。でも、でもね、イベントショーで全力全開でディバイン
 バスター撃つのはどうかな? スバルにとってのディバインバスターって、そんなに軽いものなのかな?
 ちょっーとお話、聞かせてもらえない」

「ひぃぃぃぃ、な、なのはさん。すみません、すみません、すみません、ごめんなさい」

 模擬戦のティアナの末路を思い出したスバルは、白い魔王に頭を下げ、ひたすら許しを乞うていた。

 その姿を観客席でスバルの活躍を待ちわびている大きなお友達や本当の子供たちが見たら、絶句するのが半分
思わず納得するのが半分といったところだろう。

 みんなのヒーロー(?)白い鬼神も白い魔王の前では、赤子同然だということは、リアルなのはを知っている大きな
お友達や子供たちの親なら誰もが納得するからである。

「なのはママ、スバルお姉ちゃん泣かせちゃ駄目だよ」

 ヴィヴィオの声に振り向いたなのはの目に、ユーノと首から下がサイガインジャー姿のコンラッドが飛び込んできた。

「なのは、スバルのディバインバスターは、このイベントの最大の出し物だよ。彼女のディバインバスターを見
 に来るお客さんのおかげで救われる人々がいるんだ。彼女のディバインバスターは、けして軽いものじゃない」
「ユーノくん」

「なのはさん、お願いします。スバルがディバインバスター撃つの許してやってください。こいつは馬鹿正直な
 ぐらい真面目な奴なんです。この馬鹿は、今回のチャリティに命を賭けてるんです。頼みます」

 土下座せんばかりの勢いで、頭を下げるコンラッドの脇に立っているユーノと目があったなのはは、頷いた。

「スバル、ディバインバスターを撃つときのタイミングをコンラッドさんが瞬間転移に掛かる0.2秒前に合わ
 せない。そうすればけがをさせなくて済むよ。できるよね?」

 白い魔王モードに移行して念を押すなのはに戦慄したスバルは、かくかくと首を縦に振った。

 楽屋裏の惨状を納めた三人は、スバルとコンラッドに別れを告げるとクラナガン301が誇る透明エレベータ
ーに乗って、最上階のレストラン”301”に向かった。

「スバルくん大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。スバルは強い子だから」

 平然とした調子で答えるなのはの顔を横目で見たユーノは、内心の懸念を隠すべく平静を装った。

 なのはのお説教を聞かされた後、たっぷり30分間、ディバインバスターを撃つタイミングをなのはに叩き込ま
れたスバルは、白い鬼神から燃え尽きた鬼神モードに移行し、ぶっ倒れてしまった。

 スバルの有様に震え上がりつつも『大丈夫なんですか?』と尋ねるコンラッドになのははしれっと答えた。

「六課の時より軽いから、30分もすれば回復するよ」  
「そ、それなら、次のショーに間に合いますね。あははは 」

 空虚な笑いで、恐怖に凍り付いた楽屋の空気を紛らわしたコンラッドのひきつった笑顔を思い出したユーノは、
スバルに特訓を課すなのはの狂気を内包した表情が、脳裏に焼き付いて離れなかった。

<57階 第41管理世界 古代ブンドゥ文明展会場です。お降りの方に道をお譲りください>

 エレベーターの機械音声に従って、後ろの方から出てくる乗客に道を譲るためにエレベーターの外に出た
ユーノの目の端を、昨日モニター越しに会話した赤毛の少女が走り抜けた。

(ティアナか、彼女が何故、ここにいる?)
「ユーノくん、どうしたの?ボーッとしてるよ」

「いや、何でもないよ。ちょっと古代ブンドゥ文明の石版について、知り合いの学者に聞かれたことがあってね。
 少し気になったんだよ」
「食事を終えたら、後で見学する?」

 人混みに紛れたティアナが見えなくなったのを確かめたユーノは、
「今回の文明展は、11月4日まで開催されているから、今日じゃなくても良いよ。食事の後は、映画でも見に
 行こう。ほら97管理外世界から輸入された『○エモンの魔界大冒険』は、子供たちの間でも大評判だよ。
 魔法学院でも評判だってヴィヴィオも言ってるしね。そうだろヴィヴィオ」

「うん、大評判だよ。ユーノパパ、○エモンのぬいぐるみ買って。ヴィヴィオの巨大フェレットさんは、なのは
 ママにあげるからお願いだよ」
「ヴィ、ヴィヴィオ」

 娘の爆弾発言に狼狽するなのはにユーノは、念押しをした。

「じゃあ食事の後で映画館に行こう。良いね なのは」
「・・・う、うん」
(白い魔王モードを発動させないようにしないとまずいな。レベル3末期で進行を押さえ込まないと・・・)

<68階最上階”レストラン301”です。本レストランは、各管理世界の名物料理を集めたクラナガン随一の
レストランです。皆様、お楽しみください>

 アナウンスが終了すると同時に開いた扉から人々の流れに乗って出た三人は、レストランの3D表示される
各管理世界の自慢のメニューを見ながら、何にしようか話し合った。

「ヴィヴィオ、聖王陵の果物と翠屋のスイーツがいいな」
「な、何んで翠屋のスイーツがあるのかな?」

「まあいいじゃないか。それより久々に97管理世界の料理食べよう。なのは」
「そーだね。この”体に優しいイタリア料理コース”って良いかも。ヴィヴィオは?」
「なのはママと同じ〜 ユーノパパは?」
「僕もなのはママやヴィヴィオと同じで良いよ。あと翠屋のガトーショコラと聖王陵のモレスも食べようよ」

 ヴィヴィオの希望を入れたことにちょっと不満顔のなのはに気づいたユーノだったが、あえて無視し、予約し
ていた個室を確認するとウェイターに案内を頼んだ。

 景観条例の関係でクラナガン301の周囲10km以内には、30階建て以上の建物が無いため、最上階の個室から、
蒼い空と地平線の彼方に見えるチルダ山脈の連なりがはっきりと見えた。

「1年前は、あの空で戦ったんだね」

 食後のデザートの翠屋製ガトーショコラを食べ終えたなのはが窓の外を見ながら、感慨深げにつぶやいた。

「なのはママ、あの時は、ごめんね」

「ううん、ヴィヴィオは悪くないよ。悪いのは・・・ きゃぁぁ」

 ドーーンという音ととも発生した衝撃により、椅子から立ち上がりかけたなのは床に叩きつけられた。


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目次:翼を折る日
著者:7の1

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