108 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/30(金) 19:16:50 ID:1Pv27hn5
109 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/30(金) 19:18:16 ID:1Pv27hn5
110 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/30(金) 19:19:33 ID:1Pv27hn5
111 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/30(金) 19:20:56 ID:1Pv27hn5
112 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/30(金) 19:22:07 ID:1Pv27hn5
113 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/01/30(金) 19:23:03 ID:1Pv27hn5

第5章  

「なのは、なのは 気がついたかい」
「ユ、ユーノくん」

 戦技教導隊所属だけに鍛え上げられたなのはの肉体にダメージはなかったが、床に叩きつけられた衝撃で、
一瞬とはいえ意識を失っていたらしい。

「ヴィヴィオは?」
「なのはママ、ヴィヴィオは平気だよ」

 テーブルの下に身を潜めていたヴィヴィオが声をあげる。

 爆発と衝撃はやんだようだが、個室の外では、レストランの客の怒号と叫び声が続いている。

「今、外に出るとパニックに巻き込まれる。ちょっと待って」
「教導隊本部に繋いでください。・・・高町なのは一等空尉です。IDは、声紋照合完了ですか、現在クラナガン301の最上階レストラン、
階下で爆発発生, はっ、民間人の避難優先ですね。ただちに出動します。」

 地上本部に事態を告げ、転送魔法の使用許可を得たユーノが、振り向くとバリアジャケットを装着したなのはがレイジングハート
を構えて立っていた。
 ヴィヴィオは、まだテーブルの下で身を固くしている。

「なのは、転送魔法の使用許可を取った。いったんヴィヴィオを連れて下のイベント広場に移動するよ」
「私はここに残るよ」
「駄目だ。状況の把握が最優先だ。下にいるスバルくんたちの力が今こそ必要なんだ。ヴィヴィオの安全も確保 しなきゃいけない。
母親の君がここに残ってどうするんだ!」

「ヴィヴィオは平気だよ。なのはママ残っていいよ」
「ヴィヴィオ!」

 予想を上回るヴィヴィオの答えに狼狽するユーノと対照的に、力強く頷いたなのはは

「ユーノくんは、ヴィヴィオを転送して、私は外のパニックを鎮めるよ」
「わかった。ヴィヴィオを転送したら、また会おう。ヴィヴィおいで」
 テーブルの下から這い出てきたヴィヴィオを抱き寄せたユーノは転送魔法の魔法陣を展開した。

「なのは、慎重にね」
「なのはママ、がんばって」
 その声を最後に二人の姿は部屋から消えた。

 扉を開け、怒号が渦巻く客席に出たなのはは、10数発のアクセルシューターを発射すると共に大声を放った
「静かにしなさい!!!」

 パニックを起こす人々の頭上すれすれを複雑な機動を描きながら飛ぶアクセルシューターと白い魔王のオーラに度肝を抜かれ
レストランの騒擾はしだいに収まっていった。

「レストランの店長は誰、すぐ来なさい!!」

 教導隊で武装隊の新人たちを鍛え上げる時に使う底響きのする声で店長を呼び出したなのはは、てきぱきと指示を与え始めた。

「緊急転送装置は無事? 無事なのね。すぐに起動させるの! 店員は12,13? 13人ね。1人は転送装
 置の担当して、残りの12人は2人一組で6班にしてお客さんの整列と誘導をする。さあすぐにかかるの」

 白い魔王の迫力に押された店員が、指示通りに動き出すとレストランに来ていた人々がスムーズに転送装置の
前に並び始めた。

「店長、装置動かして! 皆さん、これから転送装置を起動します。1回の転送人数は12人まで、下のイベン
ト広場に特別救助隊が待機しているので大丈夫。さあ始めるよ!」

 なのはの指示に従ってレストランの客は、次々と転送されていく。

 転送が無事に進行していくのを確認したなのはは、店長に後を託すと階下に向かった。

 67階から58階まで調査したが、有名宝飾店やブティック、スポーツ用品、シネコン等の施設は、レストラン
と違って、パニック時の訓練が行き届いているため、なのはが到着したときには、既に、最後の店員も転送装置
で脱出していて無人だった。

(どうやら、騒動の原因は、この下の57階のようね。・・・って古代ブンドゥ文明展の会場じゃない!)

 下の階の様子をうかがうなのはの耳を、聞き慣れたデバイスの発する射撃音と重なるように響く獣じみた咆吼
が貫いた。さらに数発の射撃音が発せられたのを最後に57階は無音の世界に変じた。

(今のはクロスミラージュ! ティアナが下に!?)

 なのははレイジングハートを構え直すと気配を消し、慎重な足取りで階段を下り始めた。
 イベント広場の裏に設けられた楽屋にユーノがヴィヴィオと一緒に展開した魔法陣から出現すると、楽屋裏は
先ほどとは打って変わって、張りつめた緊張感に包まれていた。

「消火部隊到着まで、あと10分だそうです」
「レストランからの転送者の名前を控えた後、順次、クラナガン301手配のバスで、地上本部の設けた仮設テ
 ント場へ移動させろ」

「現時点での負傷者 重傷23人、軽傷114人 いずれもクラナガン市立病院に搬送済みです。以後の負傷者
 は、収容次第クラナガン大学病院、聖王教会病院へ搬送できるよう救急車の手配をお願いします」
「特別救助隊第一班8名36階の水族館に取り残された職員5名および観客1名の救助に向かいます。転送魔法
 の許可を願います」

「スバル、ウィングロードを展開して31階まで避難した人を収容できるか?」
 サイガインジャーのコスチュームを脱ぎ捨て、右が赤と左が青のツートンカラーのバリアジャケットに身を包
んだコンラッドがスバルにウィングロードを展開できるか尋ねると力強い返事が返ってきた。
「やります。やって見せます」

「スバルくん、コンラッドさん」

「ユーノ先生、ヴィヴィオちゃん」
「ユーノさん、ご無事だったんですか」
 いきなり現れたユーノとヴィヴィオに驚いた二人は次の瞬間、なのはがいないのに気づいた。

「「なのはさんは?」」
「レストランで救助作業中です。・・・なのは!」
 なのはの魔力光をトレースしていたユーノが血相を変えたのを見てヴィヴィオと二人の顔色が変わった。

「ユーノパパ!」「「ユーノさん」」
「コンラッドさん、ヴィヴィオを頼みます」
「は、はい!」

「スバルくん、僕が転送魔法で31階まで君を運ぶから、ウィングロードで避難した人を隣のビルの屋上に運べ
 るよね?」
「は、はい、隣のビルまでなら・・・よ、余裕です」

「ユーノパパ、なのはママを連れて帰ってきて」
 ヴィヴィオの顔を振り返ったユーノは、いつもの笑顔を浮かべると軽く頷いた・   

「それまでヴィヴィオはお留守番しっかりするんだよ」
「うん、ヴィヴィオ待ってる」

 31階にユーノの転送魔法で転送されたスバルを迎えたのは、イベント会場で白い鬼神に声援を送っていた親
子たちの一団だった。話を聞くと36階の水族館から逃げてきたらしい。

「わあぁぁスバルさんだ。スバルさんだ」
「ディバインバスター、ディバインバスター、ディバインバスター」
「ありがとうございます。助かりましたスバルさん」 

「ちょ、ちょっと静かに、静かに、静かにしなさーい! 静かにしろーー!!!」
 なのは譲りの白い鬼神モードで、興奮する一団を黙らせたスバルはさらなる大声で宣言した。

「下がってください。これから壁をぶち抜いて、隣のビルの屋上への道を通します!」

 イベント会場でのディバインバスターの威力を見せつけられている一団は、あわてて物陰に隠れた。

「ディィバァァイィンバスタァァーー!」

 白い鬼神モードのスバルが全力全開で放ったディバインバスターが、三層構造の強化ガラスを粉々に破砕したのと
同時に強風が吹き込んできたが、気にする風もなくスバルはマッハキャリバーを駆ってウィングロードを隣のビルの屋上に通した。

「コンラッド曹長、ウィングロード展開しました。要救助者8名、特別救助隊、派遣願います」
「こちら、コンラッド。了解、ただちに救助隊とライディングポッドをビルの屋上に転送する。救助者の保護を 継続せよ」
「了解」

 スバルが物陰から出ないように人々に指示をしているのを確認したユーノは魔法陣を足下に展開した。

「スバルくん、僕は上に行く。ここは任せるよ」
「ユーノ先生! なのはさんを頼みます」

 右手を挙げて答えたユーノの姿が消えるのを見たスバルは、隣の屋上に到着したライディングポッドがこちらに走ってこれるよう
ウィングロードの強度を最強にした。

 照明が落ち、煙が充満する56階のフロアでの続いていた戦いは、終わりを迎えつつあった。、

 フェイトに重傷を負わせた時空犯罪者ゲーベル・レインにシュートバレット バレットFを発射したティアナは、
思うように動かない左足を引きずりながら、物陰に走り込んだ。

「っ・・・ちくしょう。どこ、どこにいるの?」 

 熱源追尾型の誘導弾を軽々とかわし、照明の消えた57階の闇に姿を溶け込ませ気配を絶った相手の技量は、
本来のランクBを遙かに凌駕していた。

 ユーノから渡された資料に記されていたデーターによれば、ランクBクラスの魔導師が、リンカーコアバーストを発症した場合、
S−ランクに匹敵する攻撃力を発揮するとあったのを心の何処かで軽視していた自分をティアナは呪いたくなった。

(フェイトさんが、かばってくれなかったら確実に殺されていたわ。それをあたしは・・・)

「ソコカ!」
 ゲーベル・レインの機械的な声と同時に頭上から、ニードルショットが降り注ぐ。

 間一髪、かわしたティアナはシュートパレットを発射するが、一発も当たらなかったらしく、含み笑いを残して敵の気配が再び消える。

 足を引きずりつつ、再び別の物陰に飛び込んだティアナの背後からゲーベルのささやき声が聞こえる。

「ニブイナ。ソノテイドデ、シツムカンガツトマルノカ?」

「うるさい!」
 振り返ると同時にヴァリアブルバレットを叩き込むが、相手の気配は既に消えている。

「オマエノヨウナアシデマトイガイテハ アノ、クロイライゲキガ、オチタノモムリハナイナ」

 床下から発せられた嘲りと共にティアナの身体は天井に叩きつけられ、そのままフロアに落ちた。
 意識が一瞬、飛んだティアナだったがクロスミラージュを離さなかったことが彼女の命を救った。

<マスター、オプティックハイド イグニッション>

 ティアナは、クロスミラージュに促されるままオプティックハイドを発動すると這いずりながら、その場から逃れた。  

「ドコダ ドコニイッタ?」  

 ティアナの姿を視認できないらしくゲーベルの苛立った声が闇に包まれたフロアに響く。
 声のする方を振り向くとひょろりとした長身の影が、きょろきょろと首を回しているのが見えた。

 最後のカートリッジをクロスミラージュに装填したティアナが影に照準を合わせ、引き金を引こうとした指をなのはの念話が止めた。

*1
(なのはさん!)
*2

(ゲーベル・レイン ランクBの第41管理世界指定のテロリストです。こいつのせいでフェイトさんが)
*3

(良かった。あたしが奴を追って転送した時には・・・危なかったんです)
((リンカーコアバーストだってね。ランクBならリミットブレイクした分だけ、身体のダメージも大きいから
 一発、当てれば終わるはず。私が気を引くから、その隙に打ち抜くの!))

(は、はい!)

 何故、なのはが自分の位置を把握できたのか、一瞬、不審に駆られたが、ゲーベルを倒せる機会は、残弾から
考えて、後一度しかない。

 今は、なのはの与えてくれるチャンスに賭けるしかないと腹を括ったティアナは、クロスミラージュの照準を
再び影に合わせた。

「ナ、ナンダ!?」
 狼狽する影に十数発のアクセルシューターが撃ち込まれた瞬間、なのはが叫ぶ。

*4 
「当たれぇぇぇ!」

 最大出力のシュートバレットが、アクセルシューターを避けて飛ぶ影を打ち抜く。

「やった!」

 次の瞬間、撃ち抜いた影が発した声を聞いたティアナの顔が凍り付いた。

「アクセルクラスター!!」

 影が発した桃色の光弾がティアナのバリアジャケットを爆散させた瞬間、周囲に着弾したアクセルクラスター
から発せられた光弾が、ティアナを蜂の巣にする。

「う・・・嘘、嘘よ、嘘だぁぁぁぁ」

 全身を貫く激痛の中、自分が撃ち抜いた影が駆け寄ってくる。

 その影が、なのはだったことを認識したティアナは、絶望の裡に意識を失った。

「ティアナ・・・何故!?」
 アクセルクラスターで撃ち抜いた敵が、ティアナだったことに愕然とするなのはの背中に、ニードルショットが放たれた。

「なのは、危ない!」
「きゃっ」

 突き飛ばされたなのはが振り返ると、ニードルショットを弾き飛ばした緑色のラウンドシールドを展開するバリアジャケット姿
のユーノが立っていた。

「ユーノくん」

「なのは、相手はリンカーコアバーストしたマインドイリュージョンの使い手だ。ランクはBだがSークラスの
 実力がある。惑わされないで」

「で、でも どうやって?」
「僕が背中を守る。これを繋いで」

 ユーノが首に巻いていたスカーフを差し出すと、なのはは、自分のバリアジャケットとユーノのバリアジャケット
をスカーフで結んだ。

 背中合わせになったなのはとユーノは、足下で意識を失っているティアナをオーバルプロテクションで保護すると
同時に、階下で救助活動を行っているスバルに念話を送った。

(スバル、聞こえるよね)(スバルくん、落ち着いて聞いてくれるかい)
 31階に避難した人々を隣のビルに避難させたスバルは、なのはの話を聞き愕然とした。

「ティアが・・・」 
「どうした?スバル」 
 避難者がいないのを確認し終えたコンラッドが、顔色を変えたスバルに声を掛けた。

「ティアが・・・六課時代の同僚が56階でケガをして」
「よし、すぐに助けに行くぞ」 

 瞬間転移の準備に入ったコンラッドをスバルが引き留めた。

「なのはさんとユーノ先生が転送してくれるそうです。ライフポッドを用意してください」

「かなりの重傷だな。ティムス、聞こえるか。ライフポッドをこっちに回してくれ。それとクラナガン大学病院
 への救急車の手配を頼む」

 コンラッドが部下との通信を終えるとスバルが頷いた。

「来ます」

 二人の前に、転送魔法の魔法陣が展開されると同時に、傷だらけのティアナが現れた

「ティア・・・酷い、酷すぎるよ」

「ティムス、ライフポッドじゃ駄目だ。救命ポッドを手配してくれ」

 親友の、あまりの惨状に呆然とするスバルの耳に、コンラッドの悲痛な指示が突き刺さった。


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目次:翼を折る日
著者:7の1

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