183 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/02/01(日) 16:44:37 ID:JoyxBijd
184 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/02/01(日) 16:46:12 ID:JoyxBijd
185 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/02/01(日) 16:47:21 ID:JoyxBijd
186 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/02/01(日) 16:48:54 ID:JoyxBijd
187 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/02/01(日) 16:49:52 ID:JoyxBijd

第6章 

  ティアナの去った56階のフロアでは、なのはたちとゲーベルの戦いが激しさを増していた。

「アクセルクラスター シュゥゥーート」

 桃色の光弾が十数本の光の槍と化し、逃げる影を追って、古代ブンドゥ文明展の展示物の
間を駆け抜ける。
 魔力を込めた鉄球をアクセルシュートに乗せて撃つという対AMF用に開発した荒技が、
逃げる影の放つニードルショットを叩き落とし、影を貫く。

「やったの?」
「なのは、下!」

 倒れた影に目をこらしたなのはの足下から、数百の闇色の針がなのはに打ち込まれるが、
緑色のラウンドシールドが弾き飛ばす。

 桃色の光弾と闇色の針が、交錯するたびに、56階のフロアは崩壊の度を深めていく。

 ニードルショットが抉った壁は構造材がむき出しになり、アクセルクラスターが着弾した柱は、
内部にめり込んだ鉄球がフルバーストする際の衝撃によりコンクリートが爆ぜ、鉄骨が融け崩れた姿を曝す。

(アクセルクラスターで戦うなんて・・・リンカーコアバーストの影響がひどくなっているのか?)

「ディバインバスター シュゥゥーート」
「なのは、やめるんだ!」

 ユーノの制止も空しく、敵の影を貫いたディバインバスターが、フロアを支える柱の一つをへし折り、天井が
大規模な範囲で崩落した。

「絶対、逃がさないの!」

 建物の被害など歯牙にもかけず、戦闘に集中するなのはの横顔に目をやったユーノは、ため息をついた。

「なのは、このままじゃフロアが崩れる。ゲーベルをビルの外に追い出すんだ」
「無理だよ。相手が見えないんだよ。ここじゃ、もうディバインバスターは使えないよ。アクセルは効かないし」

 時折、姿を現す影に惑わされてディバインバスターを放ったせいで、建物そのものを崩壊させかねない事態を
招いたなのはは、使える武器がアクセルシューターしかないことに苛立っていた。

「エースオブエースモ、コノテイドカ? フォッフォッフォッ」

 不意になのはたちの前に現れた影が、嘲り声を残して闇に帰る。

「卑怯者! 出てこい、出てきなさい」
 レイジングハートを振りかざして、叫ぶなのはを、闇の奥から笑い声が嬲る

「フフフフフ、デテキテ ウタレルバカガ ドコニイル」
 声と逆の方向から、ニードルショットが襲うが、ユーノのラウンドシールドが弾き飛ばす。

「ユーノくん 大丈夫!?」
「大丈夫だ。なのは、影を見ようと思うな。感じるんだよ」

「で、でも・・・」
「なのはならできるよ」

 背中を強く押す一言でなのはは覚悟を決めた。

「うん、やってみる」 
 
ユーノの言葉に従い、闇に潜み、ニードルショットを放つ敵を目で追うのをなのははやめた。
 目をつぶり、息を整えたなのはの姿が闇に溶け込む。
 
同化した闇の中で、なのはの意識が、蠢く違和感の位置を探り続ける。

(右? 左斜め上から来る? 下!?・・・ 違う。 後ろ!)

 背後に迫る気配を感じると同時に、躊躇なくアクセルシューターを放ち、背後を振り返った
なのはの目に全身を朱に染めたユーノが映る。

「なのは・・・何故、何故なんだ。君が・・・僕を撃つな・・・んて」

 バリアジャケットを繋いでいたスカーフが千切れていることに気づいたなのはの顔が蒼白になる。

「いやぁぁぁ いやぁぁぁぁーーーー」

 レイジングハートを投げ捨て、倒れかけた血まみれのユーノを抱き留めたなのはの絶叫がフロアの闇を裂いた

「ティア、しっかりするんだよ。もうすぐ救急車が来るからね」

 なのはのアクセルクラスターにより、全身打撲と内臓破裂、肋骨骨折という重傷を負い、意識不明に陥った
ティアナを救命ポッドに収容し、生命維持装置を作動させたスバルは、コンラッドを振り返った。

「コンラッド曹長、救急車は、何時、来ます? 」
「あと20分だな。・・・し、師匠、何故、ここに?」

 狼狽するコンラッドの視線の先を追ったスバルが驚きの声をあげる。

「マテウスおじさん!」
「監察だよ、コンラッド君。スバル、久しぶりだな。空港火災以来だから・・・4年ぶりかな?」

「5年ぶりです。おじさんも変わりませんね」

 なのはとの運命的な出会いとなった空港火災の時、見送った父の親友マテウスの相変わらずの服装への
構い付けなさにスバルの表情が思わず緩む。

 すり切れた灰色のスーツによれよれの薄茶色のレインコートを羽織ったマテウスは、一瞬、照れくさそうな表情を
浮かべたが、あわてて表情を引き締めると背後に控えていた白のスーツに白いワイシャツ、白いネクタイ、白い靴
という全身白尽くめ姿の、浅黒い顔の青年に命じた。

「仕事だからな。クラウス、ティアナ・ランスターを連行しろ」
「はっ!」

 クラウスと呼ばれた青年は、ティアナの収容されている救命ポッドに近寄ると生命維持装置のモニターが映す数値を
h確認していたが、マテウスを振り向くと首を振った。

「駄目です。意識不明の上、絶対安静の状態です」
「ふむ。事情聴取は当面無理か。」   

「おじさん、やめてください。ティアナは重傷なんです」

「スバル、君の親友のティアナ・ランスター執務官補は、テスタロッサ執務官殺人未遂、上官命令無視、敵前逃
 亡罪等の容疑が掛かているんだ。特に、テスタロッサ執務官がティアナに撃たれるところを、共同捜査してい
 たクラウスが目撃しているんだ。本来なら、重大容疑者として、地上本部の軍病院に収容するところだが・・・
 コンラッド君、彼女の入院先はどこだ?」

「クラナガン大学病院です。あれだけの重傷者を治療するのは、地上本部病院では無理です」
 コンラッドの真剣な口調に驚いたのか、マテウスは額を手で押さえ、しばらく考えていたが

「やむを得ないな。容疑者を死なしては、元も子もない。大学病院には武装隊を配置させよう」

 法務局には、こちらから話を通しておこうとマテウスがつぶやくのを聞いたスバルの顔が、
ぱあっと明るくなった。
管理局管轄の病院で犯罪容疑者が、過酷な扱いを受けるという事実を知っているだけに、
ティアナに武装隊の監視下とはいえ、大学病院での治療を認めてくれたマテウスの配慮が嬉しかったのだ。

「ありがとうございます。これでティアナも」
 助かりますと言いかけたスバルは、虹色の魔力光に気づき愕然とした。

「聖王の虹・・・ヴィヴィオちゃん!?」

「ん、これは・・・ヴィヴィオ様、如何なされました?」

 スバルたちがティアナを収容したビルの屋上の一角に虹色の魔力光と共に出現したヴィヴィオは、聖王の鎧
を身にまとい、髪をサイドポニーにまとめた15歳くらいの少女の姿を取っていた。

「ヴィヴィオちゃん!」

 スバルの問いかけを無視したヴィヴィオは、ふらつく身体を気合いで立て直すとクラナガン301を見上げ、
空へ飛ぼうとした。

「お待ちください。ヴィヴィオ様、今のあなたでは無理です。墜ちてしまいます」

「バウアー、止めるな。なのはママとユーノパパが危ないのだ。そこをどけ!」

「どけませんな。あなた様が死ねば、高・・なのはさんとユーノ博士が悲しみますぞ」

 マテウスの制止を振り切って、空に飛ぼうとするヴィヴィオを背後から飛びついたスバルが羽交い締めにする。

「離せ、スバルお姉ちゃん離して、離してよぉぉぉぉ」

 スバルから逃れようと絶叫し、もがくヴィヴィオの聖王の鎧が、突然、光を発したかと思うと消滅し、ヴィヴィオ
の姿は、5歳の幼女の姿に戻っていた。

「な、なんで、なんでぇぇぇ!? 」

「今のヴィヴィオ様では、聖王の鎧を維持することすらできません。まして空を飛ぶなど不可能です。ご自分の
 力の限界を自覚してください」

 さえない中年男とは思えない激しい言葉で遮るバウアーの姿に、さすがのヴィヴィオも黙り込んだ。

「お二人は、私が助けます。ヴィヴィオ様は、ここでお待ちください」

 聖王陵伯爵の素顔を、露わにしたマテウスの迫力に押し負けたヴィヴィオは、思わず頷いた。

「・・・わかった。なのはママとユーノパパを助けて」

「命に代えましても、お助けします」

 なのはに匹敵する魔法資質の持ち主といえ、まだ5歳の少女にすぎないヴィヴィオが、外部からの
エネルギー供給なしには維持しがたい聖王の鎧をまとって、ここまで転移してきただけでも限界を超えて
いたのだろう。

 バウアーの力強い答えに、安心したのかヴィヴィオはスバルの腕の中で気を失った。

「ヴィヴィオちゃん!」

 自分の腕の中で意識を失ったヴィヴィオに狼狽するスバルの肩に手を置くとマテウスは静かに言った。

「お疲れになっただけだ。スバル、ヴィヴィオ様を頼む。クラウス、ランスター執務官補の入院と警護の為の人
 員配置を行え」

「既にクラナガン大学病院に陸士108部隊からの武装隊が到着しております。なお、救命ポッドの搬送のため
 のヘリがもうすぐ到着します。・・・パイロットは、ヴァイス・グランセニック陸曹です」

「ヴァイスさんが・・・良かった」」

 ほっと息をついたスバルを横目で見たマテウスは視線を転じてクラナガン301を見上げた。

(あのフロアで行われている戦いが火災を引き起こしているとしたら、56階から上の階が崩壊する可能性が高い。
消防隊が来るまでに戦いが終わればいいが・・・)

「クラウス、救命ポッドに同行してクラナガン大学病院に行け。スバル、ヴィヴィオ様を頼んだよ。コンラッド 曹長、
ビル周辺の住民の避難を特別災害救助隊に依頼できるか?」

「了解しました」

クラウスが救命ポッドをバインドで簀巻きにしながら答える。

「は、はい!」

「し、師匠・・・バウアー卿、トクサイのマクラーレン三佐が既に動いています」

「さすがエリックだな。では行くか」

 目の前のマテウスが、一瞬で消えたのに驚いたスバルは、クラナガン301の煙を吹き出している窓の外に見慣れた
レインコート姿が浮かんでいるのを認めて驚愕した。

「えぇぇぇーーー!?」

「さすが師匠だな。俺では、あそこまで届かない。ぼやぼやするなスバル、被災者の誘導作業に掛かれ」

 闇の中で、息絶えたユーノを床に横たえたなのはは、敵の存在も無視してユーノの命を蘇らせようと
治癒魔法を発動させた。
桃色の魔力光を掌から出してユーノの傷を治していくなのはの手つきはぎこちなかった。

「ユーノくんが悪いんだよ。治癒魔法をちゃんと教えてくれてたら、ユーノくんの傷をもっと早く治せるのに。
 もっと、もっと、もっと、もっと・・・治せるのにぃぃぃぃぃぃーー」

 パニック状態に陥り、泣き叫びながらも治癒魔法を必死に施すなのはのおかげで、ユーノのずたずたに
裂けた身体の傷はふさがったが、見開かれた瞳に光は戻ってこなかった。

「ユーノくん、返事してよ! 目開いてるよね。何時までもふざけてると怒るよ! いい加減に返事しないと
 頭冷やすよ。起きてよ!起きてよ!起きてよぉぉぉぉーーー!」

 ユーノの身体を揺すぶりながら、ぼろぼろと涙を流すなのはにレイジングハートが警告を発する。

「Master Approaching enemy!  Warning! Please evacuate!」

「ねえユーノくん、お願いだから返事して、目開いてるから聞こえるよね」

「Enemy in sight Please escape!」

 レイジングハートが必死に警告を発するが、ユーノを蘇生させようとするなのはの耳には届かない。

「ねえ、お話聞かせてよ。ユーノくん、ユーノくん、ユーノくーーん」

「Master!」

 どさっと言う音と共に、なのはの首の無い胴体が、鮮血をまき散らしながらユーノの死体の上に倒れ込んだ。

「クロイライゲキトハ、クラベモノニナラナイヨワサダナ。マア、カオハコッチガコノミダガナ」

 なのはの首が浮かんでいた闇の中から姿を現したゲーベルは、血を失い白磁色の顔となったなのはの首を
しげしげと見つめると唇を歪めて笑い出した。

「ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ・・・」

 ひとしきり笑うとゲーベルは、首だけになったなのはの唇をねぶりだした。


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目次:翼を折る日
著者:7の1

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