215 名前:7の1[] 投稿日:2009/02/10(火) 00:04:51 ID:OMHIZjzY
216 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/02/10(火) 00:06:46 ID:OMHIZjzY
217 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/02/10(火) 00:08:52 ID:OMHIZjzY
218 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/02/10(火) 00:10:28 ID:OMHIZjzY
219 名前:7の1[sage] 投稿日:2009/02/10(火) 00:13:19 ID:OMHIZjzY

第7章 

 ぐちゅぐちゅとなのはの唇をねぶる音が、56階のフロアの闇の中で響き続ける。

「コノツメタサガイイノダ。ヤハリ、ビショウジョハ、ナマクビニカギル」
 ねぶり尽くしたなのはの首を、再び眺めようと目の前にかざしたゲーベルは、呆気にとられた。

「笑いすぎだね。少し、あ・た・ま冷やそうかぁぁぁ!」

 血の気を失ったなのはの首が、笑い顔で自分を見据えながら冷たい声を放った瞬間、ゲーベル
の身体に緑色のストラグルバインドが巻き付き、動きを封じた。  

「ク、クソッ、ハナセ、ハナセェェェェ」

「放さないもん。絶対、放さないもん。悪魔の住処の地獄まで連れてくもん」

 目の前に浮かぶ、なのはの首が笑いながら宣告した瞬間、閃光がストラグルバインドで簀巻きに
されたゲーベルを56階のフロアから、空に叩き出した。

 いきなり青い空に放り出されたゲーベルの身体が重力の法則に従って地上に向かって落ち始める。

「おっと危ない・・・」

 窓をぶち破って飛び出してきた黒い影を避けたマテウスは、地上56階からの自由落下の恐怖に負けた
ゲーベルが、屍体愛玩者らしからぬ情けない声を上げながら墜ちていくのをニヤニヤ笑いながら見送った。

「タスケテクレーーー」

 屍体愛玩趣味の時空犯罪者があげる悲鳴ほど、情けなくも笑いを誘うものがこの世にあるだろうか?
 笑いを堪えきれなくなったマテウスが、哄笑しようとした瞬間

「どいてぇぇぇーーー!」
 すさまじい怒声と共に破壊された窓から飛び出してきたなのはがマテウスを冷たい目で一瞥すると落下してい
くゲーベルを追って急降下していった。

「ユーノ博士でも抑えきれないか・・・」
 ゲーベルを追って飛び出してきたなのはの背中に寄り添って飛ぶユーノが必死の形相でなのはを止めようと
しているのを見たマテウスは、ため息をつく。

「こりゃ真剣にやらないとヴィヴィオ様の逆鱗に触れるな」
 コートのポケットから葉巻を取り出して火を付けたマテウスは一瞬で、墜ちてくるゲーベルを見上げる位置で
滞空したなのはの後ろに付くとユーノに気軽に声をかけた。

「お手伝いしましょうか?」
「「いりません」「手出し無用なの!」」 

 きれいにユニゾンした声がマテウスの手助けをあっさりと拒否すると、地獄の開幕を告げる砲撃が始まった。

「ディバインバスター ファランクス ファイアーーー!」

 なのはの冷たい声に応じて、すさまじい速射で撃ち出された数十発のディバインバスターが墜ちてくるゲーベルを
撃ち抜きながら、上へ上へと玉突きの要領で上空に打ち上げていく。

「ギャァァァァーーー!」

桃色の魔弾に撃ち抜かれる痛みに耐えきれず絶叫するゲーベルの姿が、小さくなっていくのを
見据えるなのはの目が、ぎらりと光った。

「アクセルクラスター フルバーーースト!」

 次の瞬間、舞い踊りながら上方で待機していた桃色の光弾がゲーベルを撃ち抜く。

 骨の折れる嫌な音こそ聞こえなかったが、あり得ない角度にひん曲がった手足を見れば、クラスターが
ゲーベルの四肢を打ち砕いたのは明確だった。

 クラスターに撃ち抜かれたゲーベルの身体は、再び地面に向かって堕ちはじめる。

「まだ、終わらないの!今のはティアナの分だよ」
 ぺろりと唇をなめたなのはは、ゲーベルを見据えると再びディバインバスター ファランクスを撃った。
「これは、フェイトちゃんの分!」
 最初に撃ち出した数を遙かに上回る光弾が、再びゲーベルを空へ打ち上げる。

「なのは、やめるんだ。いくらリンカーコアバーストした犯罪者でも」
「ユーノくん、止めないでよ。す・こ・し頭を冷やしてやるだけだから! フルバァァァストーー!」

 二度目のアクセルクラスターは、手足ではなくゲーベルの下半身を撃ち抜いた。

「ひひゃいぃぃ ひひゃいぃぃ ひひゃいぃぃよぉぉぉ!」

 腰椎が折れたのか下半身が上半身と反対の方向にねじ曲がったゲーベルが悲鳴を上げてなのはたちの
眼前を墜ちていくのをマテウスは、冷たい目で見送った。

(なぶり殺しか。まあ、それにふさわしいだけの罪は犯しているが・・・ なまじリンカーコアバーストを発症して
いるだけに、なかなか死ねないのが哀れだな)

「アクセルクラスター フルバーーースト!」

 地面まで数十メートルの地点で待ち受けていたアクセルクラスターに撃ち抜かれたゲーベルは、内蔵が破裂し
体中の骨が骨折していたが、リンカーコアバーストのせいでかろうじて命だけは、取り留めていた。

「ヒュヒャイィィヨォォォ ヒュヒャイィィヨォォォ ヒュヒャイィィヨォォォ・・・」

 悲鳴を上げながら、上空に打ち上げられていくゲーベルを冷然と見送ったなのはは、急上昇してゲーベルを足下に
見下ろす位置で滞空すると再び、砲撃を行った。

「ディバインバスター ファランクス クインティットシフト ファイアーーー!」

 なのはを中心に展開された5個の魔法陣から、すさまじい数の光弾がゲーベルに撃ち込まれる。

「これはユーノくんとわたしの分なの!」

「ヒャイィィィ・・・」
 全身から血の雨を噴き出しながら、か細い悲鳴をあげるゲーベルが墜ち行く先に、桃色の魔弾が、牙を剥いて踊り狂っていた。

「フルバ・・・」
「なのは、やめろ、やめるんだ!」

「放してよユーノくん、放して、放せぇぇぇぇ」

 普段のなのはからは想像もつかない、残虐な振る舞いに堪りかねたユーノが、なのはを後方から
抱きすくめるとレイジングハートに声をかけた。

「レイジングハート 砲撃を止めろ、止めるんだ!」
「Yes Master Yuuno!」
 なのはの振る舞いに異常を感じていたのか、レイジングハートは、あっさりとユーノの命令に従い待機状態の
赤い宝玉に戻るとユーノの手に収まった。

「ユゥゥゥゥノォォォォォ・・・」

 いともあっさりとレイジングハートが、自分の命令を無視したことに怒り狂ったなのはは、底響きする声を発し、
ユーノを睨みつけた。

「返してよ。レイジングハートを返してよ。返せ、返せぇぇぇぇ」
 手をかぎ爪状に曲げてユーノを睨みつけるなのはの眼は、獲物を横取りされた飢えた獣を思わせるものだった。

「少し、頭冷やそ・・・んむぅぅぅんんん・・・」

 いきなりユーノに唇を塞がれたなのはは、口内に侵入してくるユーノの舌をかみ切ろうと顎に力を込めるが、
頬にかかるユーノの手が、なのはの抵抗を阻止する。

 やがてユーノの舌の動きになのはの舌が合わせ始めると共に、ぎらぎらと輝いていたなのはの眼が潤みはじめ
息づかいが荒くなってきた。

「ユーノくん、わたし・・・」
「な、なのは」

 潤みきった眼で自分を見つめるなのはの媚態に理性を失いかけたユーノを押しとどめたのは、眼下のクラナガン301
から轟く爆発音だった。

 56階の窓から黒煙と炎が、上の階をなめ尽くさんばかりの勢いで噴き出すのを見たユーノは、静かに言った。

「なのは、今は、火事を消すのが先決だ。このままじゃクラナガン301が崩れる。行くよ!」
「でもゲーベルは?」

(私がやりましょう。お二人は、火事をお願いします。消防隊が来るまで、あと十数分は掛かります)

 墜ちていくゲーベルの身体を空中で押し止めたマテウスが片手を上げて合図しているのを確認したなのはは、
ユーノを振り向くと力強く頷いた。

「うん、行くよ。ユーノくん、その前に・・・」

「レイジングハートは返すよ。さっきはごめん。なのは」

 額にキスをしたユーノを見たなのはは、クラナガン301に恨めしげな視線を向けるとつぶやいた。

「全力全開で、吹っ飛ばしてあげるの!」

 四肢の骨が完全に砕け散り、目玉と耳を潰され、脳と心臓を除く内臓器官が完全に破壊され機能不全に陥ったゲーベルを静かに地面に降ろしたマテウスは、ライフゲージプロテクションでゲーベルの残骸を覆うと念話を始めた。

(聞こえるはずだな。ゲーベル・レイン君、返事をしたまえ)

(・・・オ・・・マエ・・・ハ・・・ダレ・・・ダ・・・!)

(監察官マテウス・バウアーだ。選択肢は二つしか与えられん。どちらかを選びたまえ)

(オ・・・レハ、モウ・・・ダ・・・メダ。ドウ・・・トデモス・・・ルガ グギャァァァ・・・)

 美味そうに葉巻を吹かすバウアーが、脳内に送り込んでくるイメージの忌まわしさに、リンカーコアバーストによる
パワーアップの代償として得た、死体愛玩という変態趣味を満足させるために誘拐や殺人を繰り返してきたゲーベル
が、この世の者とも思えない悲鳴を上げる。

(コ・・・ンナコ・・・トガ・・・)

 生きたまま解体され、クローン培養される手や足から再生され、その身体にリンカーコアがあるかないか調査される
幼児が、自分自身だと気がついたゲーベルは悲鳴を上げるが、声帯を破壊されているため、ゴボッゴボッという音しか出ない。

(おいおい、まだ始まったばかりだぞ。喜ぶのは早いよゲーベルくん)

 皮肉な口調でゲーベルをからかうマテウスは、つまらん手間を掛けさせる奴だと吐き捨てるとイメージを再び送り始めた。

 リンカーコアのない幼児は、戦闘機人の実験体として様々な試作ISを埋め込まれ実験に供される。

 ここまでで死ねる幼児は、大変な幸運だと言うことをゲーベルは、次の瞬間、信じがたい苦痛と共に、改めて実感させられる。

 ぼろぼろになりながらも生き残った幼児は、能力こそAAクラスだが、幼児嗜虐趣味等の異常性癖の為、第41管理世界統合軍
で汚れ仕事を専門に引き受けさせらている通称”屍食鬼(グール)部隊”の猛者たちに尻を掘られ、鉛筆くらいの細さしかない性器
をショタ好きの女性隊員に、容赦なくしごかれる。

凄まじい性的虐待を受け続ける幼児の悲鳴と苦痛が、ゲーベルの脳に容赦なく叩き込まれていく・・・
 
いよいよ使い物にならないと判断された幼児のゲーベルたちが、次々とサンドバッグ用の袋に詰め込まれ、猟犬部隊のボクシング
の訓練用サンドバックにリサイクルされていく・・・

(ヤメテク・・・レ・・・ モウ・・・カ・・・ン・・・ベンシ・・・、ソチ・・・ラノイウ・・・トオ・・・リ)

「ふむ、ようやくわかってくれたようだね。ゲーベル君、それでは尋問を始めようか」

 テロリスト組織の情報提供と引き替えにリンカーコアバーストの除去手術に同意したゲーベルの残骸を一瞥したマテウスは、吹き出る
煙と炎を制圧した桃色の魔力光と緑色の魔力光が満ちあふれている56階の窓を見上げると二本目の葉巻に火を付けた。

「鎮火したようだな。ふん、今更、来たのか、相変わらず地上本部は鈍いものだ」

 56階の火災が、ユーノとなのはの活躍により、ほぼ鎮火した段階で、ようやく到着した航空消防魔道隊の遅さを皮肉ったマテウスは、
ユーノに念話を行った。

(ユーノ博士、かねてお約束のオペをお見せします。準備してください)

「「アクセル シュゥゥゥーート!」「ディバインバスター ファランクス ファイアー!」」

 崩れ落ちた天井から垂れ下がる電線や構造材が、なのはの撃ち出すアクセルシュートで切り落とされ、室内で
燃えている可燃物と共にディバインバスターファランクスで窓外に掃き出されるや、ユーノの緑の結界に包まれ、
下の広場に移されていく。

 ゲーベルという邪魔者がいない56階の消火作業は、なのはとユーノという初代コンビの絶妙な連携で、迅速に進み
、窓外に航空消防魔道隊の小さい姿が見え始めた頃には、室内の火災はすっかり収まっていた。

「あらかた済んだみたいだね。ユーノくん」

(オペにゲーベルが同意しましたよ。ユーノ博士)

「う・・・そうだね」

 窓の外から吹き込む強風で翻るバリアジャケットの裾を押さえたなのはは、一瞬、言葉に詰まったユーノを怪訝そうに見やった。

「いや、誰かが状況を説明しないといけないと思ってね。ご苦労様です、みなさん」

 窓から入ってきた消防魔道師に挨拶したユーノに、隊長の制服を着た銀のヘルメット姿の男が敬礼した。

「航空消防隊のシュレジンガー一尉です。スクライア館長、高町一尉、消火作業へのご尽力感謝いたします。他の階に類焼等が
起きていないか、これより確認に掛かります。つきましては事件の発生経緯を知りたいのですが・・・」

「そ、それは・・・」
「僕が話そう。なのはは、スバルの所に行ってくれ。ヴィヴィオが疲れ切って眠ってる。僕たちを助けようとして無理をしすぎたって話だ。
なのは、先に行ってヴィヴィオを安心させてくれないかな?」

「うん、わかった。後でユーノくんも来てね」
「もちろんだよ。夕食は、翠雲堂で一緒に食べよう」

 さわやかな笑顔で夕食を取る約束をしたユーノを見つめたなのは、こくりとうなずいた。
 なのはの姿が、スバルたちがいるビルの屋上に降り立ったのを確認したユーノは、話を始めましょうとシュレンジンガーに言った。

「お話は、わかりました。事件の当事者の一人ティアナ・ランスター執務官補佐は、コンラッド曹長に照会したところ、クラナガン大学 病院
に入院中。時空犯罪者のゲイル・レインは、バウアー監察官の報告によると死亡したとのことです。詳細な事情は、ティアナ・ランスターが
回復した後、聞き取ることにします。スクライア 館長、ご苦労様でした」

「いやぁ、こちらこそ、何かありましたら無限書庫に連絡してください」  
 
古代ブンドゥ文明展の残骸の中に残された”王の玉座”と呼ばれる大理石の椅子に腰掛けたユーノは、”宰相の座”と呼ばれる大理石の
椅子に座っているシュレジンジャーに一通りの事情を説明すると立ち上がった。

(済んだようですな。こちらにおいでいただけますかな。いや、結界を張っておりますので高町一尉たちからは見えませんので、ご安心を)
 
苦笑したユーノは、さりげなく55階のフロアにかかる階段を下りると転送魔法を発動した。


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目次:翼を折る日
著者:7の1

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