445 名前:良い子の二月[sage] 投稿日:2009/02/17(火) 01:57:41 ID:JOoAI01J
446 名前:良い子の二月[sage] 投稿日:2009/02/17(火) 01:58:55 ID:JOoAI01J
447 名前:良い子の二月[sage] 投稿日:2009/02/17(火) 01:59:48 ID:JOoAI01J
448 名前:良い子の二月[sage] 投稿日:2009/02/17(火) 02:01:04 ID:JOoAI01J

「鬼はー外!」

無邪気に、しかし力一杯ヴィヴィオが投げる豆を蒼い狼が避けるふりをする。
ふりだけだ。
そのほとんどを、逃げるふりをするザフィーラに命中する。

「福はー内!」

またヴィヴィオが楽しそうに豆を投げる。ザフィーラも逃げようと動くには動くが、結局ほとんどの豆が当たった。

「よし、ヴィヴィオ、もう悪い鬼さんは十分やっつけたよ。さ、豆を食べようか」

微笑ましい気持ちのまま、その様子を見ていたなのはが声をかける。
はーい、と元気のよい返事をひとつすると、ヴィヴィオはすぐになのはの所へ駆けていかずに、

「ごめんね、痛かった?」

とザフィーラの蒼い毛を撫でるのだ。
ヴィヴィオの優しい心を愛しく思いながらザフィーラはゆるく首を振る。そして、鼻先をなのはへ向けてヴィヴィオへ行くように示すのだ。

「有難うね、ザフィーラ」
「構わん」

ヴィヴィオと同じく、優しく毛をなぜながらフェイトが苦笑した。
無骨にザフィーラも返事をするが、彼もフェイトもなのはの膝の上で豆を口にするヴィヴィオを眺めている。

「私たちも食べよっか。えっと…ザフィーラの年の数、何百ぐらい?」
「25でいい」



「エリオ」

呼びとめられたエリオが振り返れば、そこにいたのはシグナムだった。
その手にはラッピングされた小さな包み。

「副隊長、こんにちは」
「あぁ、お前にプレゼントだ」

手渡された包みをエリオは不思議そうに上下左右から覗きこむ。
リボンを結ばれているが可愛らしいと言うよりも綺麗な装飾だ。そこは、シグナムらしい。

「なんです、これ?」
「チョコレートだ」
「お菓子のですか?」
「あぁ」
「……えっと、とりあえず、有難う御座います。でも、僕なにかプレゼントされる事しましたっけ?」
「いや、主の世界の風習でな、今日はバレンタインデーと言う日なんだ」
「バレンタインデー…?」
「端的に言えば、意中の男性に女性がチョコレートをプレゼントする日だ。それとはまた別に、身内にチョコを贈る程度の者もいるが」

自分は後者だ、と言わんばかりのシグナムの態度だが実際そうなのだろう。
六課と言わず管理局の一部ではやて、フェイト、なのはが発信源となった乙女の素敵な日である。

ちなみにこのシグナムというサムライガール、贈る数よりもむしろ貰う数の方が多い。狼としか認識されてないザフィーラよりもようさん貰う。
か弱い女性局員をさりげないフォローで助けたり、冷たい外見に熱い魂を持つシグナムはハンサムすぎるのである。
今宵もまたガチレズからほんのりシグナムに憧れ抱く女性まで幅広い層からラッピングされたチョコレートが贈られる事だろう。

「わぁ、じゃあ僕もお返しにチョコレート作りますよ」
「そのお返しなんだがな、丁度一ヶ月後のホワイトデーという日にする事になっている」
「へぇ、決まってるんですか」
「そういう俗習だ。ふふ、楽しみにしてるぞ」
「はい、チョコレート、有難う御座いました」



「あれ、ルキノ、なにしてるん?」
「あ、部隊長、今日ってバレンタインデーっていう日なんですよ」
「知っとるよ。わたしたちの住んでた所のイベントやもんね。でもバレンタインデーにお内裏様とお雛様は必要なかったと思うよ」
「え? チョコレートで作った三人官女や五人囃子を 「ストップ」



「あら、アギト、なにをやってるの?」
「あ、ギンガ、今日ってバレンタインデーって日なんだ」
「知ってるわ。私たちの祖先の世界のイベントね。でもバレンタインデーに嘘は必要なかったと思うわ」
「え? チョコレートさえ渡せばどんな嘘も 「ストップ」



「あれ、シスターシャッハ、なにをしてるんです?」
「あ、ユーノ先生、今日ってバレンタインデーっていう日なんですよ」
「知ってます。以前僕が住んでいた世界のイベントですよね。でもバレンタインデーに鯉幟は必要なかったと思います」
「え? チョコレートで作った鯉幟を 「ストップ」



「あら、シャーリー、なにやってるの?」
「あ、シャマルさん、今日ってバレンタインデーっていう日なんですよ」
「知ってるわ。私たちの住んでた所のイベントですもの。でもバレンタインデーに人型のチョコレートを窓際に吊るす必要はなかったと思うわ」
「え? チョコレートで作った坊主を窓際に吊るして 「ストップ」



「あれ、キャロなにやってるですか?」
「あ、リィンさん、今日ってバレンタインデーっていう日なんですよ」
「知ってるですよ。わたしたちの住んでた所のイベントです。でも、バレンタインデーに笹は必要なかったと思うですよ」
「え? チョコレートに願い事を書いて笹の葉に 「ストップです」



「あら、レティ、なにをやってるの?」
「あら、リンディ、今日ってバレンタインデーっていう日なのよ」
「知ってるわ。私たちの住んでいる所のイベントですもの。でもバレンタインデーにポツダム宣言は必要ないと思うわ」
「え? チョコレートに刻んだポツダム宣言を 「シャボンスプレー!」



「あれ、騎士カリム、何をしてるんです?」
「あら、クロノ提督、今日ってバレンタインデーという日なんですよ」
「知っています。僕たちの住んでいた所のイベントですから。でもバレンタインデーにミゼット提督は必要ないんじゃないですか?」
「え? 多年にわたり社会につくしてきた老人をチョコレートで 「ストップ」



「おや、アリシア、何してるのです?」
「あ、リィンフォース、今日はバレンタインデーという日なのよ」
「知っています。私が住んでいた所のイベントですから。しかしバレンタインデーにカボチャは必要ありません」
「え? 仮装した子供がチョコレートを 「デアボリック・エミッション!」



「おや、イクスヴェリア、何をしているんだい?」
「あ、スカリエッティ、今日はバレンタインデーという日なんです」
「知っているよ。私が以前住んでいた所のイベントだからねぇ。しかしバレンタインデーに千歳飴は必要ないんじゃないかい?」
「え? 7歳、5歳、3歳の子供の成長をチョコレートで 「あ、これ飴じゃなくてチョコかい?」



「お、アルトじゃねぇか、なにやってんだ?」
「あ、ヴィータ副隊長、今日ってバレンタインデーっていう日なんですよ」
「知ってる。あたしたちが住んでた所のイベントだ。でもバレンタインデーにくつした型のチョコレートは必要ねーぞ」
「え? チョコレートで作ったくつしたの中に夜な夜な赤い服着た 「ストップ」



「おう、ノーヴェ、なにやってんだ?」
「お、おっさん、今日ってバレンタインデーって日なんだよ」
「知ってるよ。俺たちの先祖が住んでいた所のイベントだ。しかしバレンタインデーに芹、ぺんぺん草、母子草、繁縷、小鬼田平子、蕪、大根は必要なかったと思うんだが」
「え? 芹、ぺんぺん草、母子草、繁縷、小鬼田平子、蕪、大根と米とチョコレートを 「ストップ」



「オニハソト!」

怖気が走る速度でヴァイスの頬を薄く裂いたのは板チョコである。
高速で投擲された板チョコはまるでナイフのように壁に突き刺さる。

「な、なにしやがる!?」

一寸だけ自分が生を拾った事を自覚できず呆け、遅れて鳥肌を立たせながらヴァイスはスバルに怒鳴った。

「なのはさんの故郷の風習で、チョコレート配ってるんです」
「はぁ?」
「なんでもバレンタインデーと言って、好きな男の人や同僚の男の人に、女の人がチョコをプレゼントする日だそうです。
っで、プレゼントの仕方は『オニハソト フクハウチ』という呪文と共に、その男性の年齢の数だけチョコを投げつけるとか。ヴァイスさんって、24ですよね?」
「いや、ちょっと待て、あと23枚、俺は投げつけられにゃならんのか!?」
「え、嫌だなぁ、あたしだけじゃないですよ」

まるでスバルの言葉に乗って、新たな殺気が場に流れるのが分かる。
スナイパーである自分だから理解できる殺気のむけられ方だ。強い集中力で狙いを定める者だけが発する独特の殺気。
いや、違う。
これは殺気なんかじゃない!
これは……

「フクハー撃チ!」

咄嗟に身を投げたヴァイスを、カカオ色の火線がかすめた。
甲高い悲鳴が壁に突き刺さる。弾丸だ。チョコレートの。

「ティ、ティアナ!? お前もか!」

即座に狙撃ポイントを割り出したヴァイスが遠眼にクロスミラージュを構えたティアナを捉える。
実に真剣かつ熱い眼差しでヴァイスを見ていた。
しかし、ほんのりティアナの頬が染まっているのは見間違いだろうか?

そして、まるで「届けこの想い」と言わんばかりに今一度ティアナが引き金を引く。

「オニハソト!」
「うおおお!?」

降り注ぐチョコレートの弾丸からヴァイスは転がって逃げる。
その一粒一粒はティアナが一週間前から真心込めてこしらえた物だ。
口にすれば恋のような甘さを味わえるだろう。口にできれば。
さらに、スバルが投擲する板チョコが板とか言うレベルを超える斬撃を伴い飛んでくる。
ヴァイスはただ逃げた。とにかく逃げた。逃げに逃げた。

「「オニハソト!」」
「た、助けてくれぇ!!」



おしまい


著者:タピオカ

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