子育ての失敗を広く浅く、ゆるやかに追跡。

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解説 小林みき



 この物語の作者ハーバート・ジョージ・ウェルズは1866年、イギリスのケント州で生まれました。父親は、せとものなどを売る店を開いていましたが、商売はうまくいかず、一家は貧しい生活を送っていました。
 ウェルズは子どものころから読書が大好きで、科学の本やスウィフトの『ガリバー旅行記』などを愛読していました。そして、これらの本は、ウェルズの将来に大きな影響を与えることになります。
 学校をでると、ウェルズは13歳で服地屋や薬屋に働きにだされました。しかし、勉強への思いが強く、1884年、奨学金のテストに合格し、ロンドンの理科師範学校(のちのロンドン大学)に入りました。卒業して、理科の先生になりましたが、体をこわしてつとめをやめ、作家としてやっていくことにしました。
 その後、ウェルズは、150もの、いろいろな内容の小説を書きました。その中でも、特に、SF(空想科学)小説にすぐれていて、百年以上たったいまもなお、世界中で親しまれているものがたくさんあります。
 たとえば、火星人が地球にせめてくる『宇宙戦争』や、ある薬の発明によって、体を見えなくすることのできる『透明人間』のことは、みなさんも聞いたことがあると思います。じつはこの二つのテーマとも、ウェルズがはじめて考え出したものなのです。ほかにも、『モロー博士の島』のように、現代の遺伝子組み換えの問題を予言したような小説も書きました。
 では、ウェルズが、このようなSF小説をたくさん書き、またそれらが、多くの人々に受け入れられたのは、なぜでしょうか?それは、ウェルズの生きた時代が、どのような時代だったのか、ということと大きな関係があります。
 ウェルズの生きた十九世紀末は、科学の進歩がめざましい時代でした。人々は、いろいろな新しいものにふれ、将来に対して、明るい希望を持っていました。それと同時に、科学が、このような速さで進んでいったら、将来はどうなるのだろうか、という不安もありました。
 ですから、同じような不安を持っていたウェルズも、科学の知識をいかして、将来を予告するような物語を多く書いたのです。
 それからもウェルズは、科学の進歩と人々の理想の生き方をテーマにした小説を書き続け、1946年、ロンドンでなくなりました。
 『タイム・マシン』は、この「タイム・マシン」という、夢のような機械を発明したトラベラーが、80万年後の世界にいく、というウェルズが空想した物語です。とはいっても、でたらめな夢物語ではありません。
 ウェルズがするどい目で時代を見て、自分の知識を働かせて、人間の未来が、どのようになるかを予言したSF小説なのです。
 いま、私たちが生きているこの時代も、「めざましい進歩の時代」です。乗り物、コンピュータの発達などで、なにもかもが、どんどん便利になってきています。また、新製品も次々に作られ、売られています。
 もちろん、これらを使うと時間と手間がはぶける、という良い点はあります。でも、ちょっと立ち止まって、考えてみてください。「早く、便利に」することで、見失っているもの、なくしているものはありませんか?
 この物語に登場するトラベラーは、80万年後の世界から、未来人ウィーナのくれた白い花を持ってもどってきました。この花は、知恵も力強さもなくしてしまった未来人にも、心のやさしさは、まだ残っていたことを、私たちに教えてくれます。
 わたしたち人間が持っている心のやさしさを、いまも、いつまでも、たいせつにしていきたいですね。

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