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2015年、千早誕生日に寄せたSS



何かが足りない、そんな気がする。

最初はほんの些細なひっかかりみたいなものだった。
考えても答えのわからないそれは、喉に引っかかった魚の小骨みたいで
いつの間にか私の中に居座る厄介な居候のようになっていた。



「千早ちゃんに足りないもの? そんなの決まってるって。ずばり“人妻の色気”だよ」
「……春香、あなた大学で一体何を学んでいるのかしら」
「わっ、ちょ、やだな、冗談だよ冗談。そんな目で睨むのやめよ、ね?」
「真面目に相談したつもりだけれど、相手を間違えたみたいね」
「だってさ、千早ちゃんの質問が哲学的すぎるんだよ。だいたいだよ、トップアイドルで
日本を代表する歌姫とも呼ばれてさ、私生活では愛する男性と熱愛の末に結婚して
幸せな日々を過ごしている千早ちゃんに足りないものなんてあるのかって話だよ。
……もしかして新しいのろけ?」
「違うわよ! そういうのじゃなくて……自分でもよく分っていないの。
ふとした拍子に何かが足りない、そんな感じが漠然とするだけで」
「千早ちゃんってさ、夢を色々と叶えてきたじゃない? だから今自分がどうしたいのか
分らなくなっているだけなんじゃないかな」
「夢……叶えたから?」
「そのうち新しい夢が浮かんでくるからそんなに悩まないほうがいいよ。それより今度
学校に遊びにおいでよ。気分転換になると思うし旦那さん出張中で暇でしょ?」


その誘いに乗ったのは、大学の話をする時の春香の目が仕事の時と同じくらい
輝いているからというのが理由であり、主人が不在で暇だからではない。
トップアイドルで、ミュージカルやドラマでは演技力を高く評価され、バラエティ番組からも
引っ張りだこの彼女は周囲の反対を押し切って四年制の大学に進学した。
仕事との両立に苦労しながら自ら“アイドル研究会”なる同好会を立ち上げて精力的に
活動しているらしい。そんな私の知らない世界をのぞいてみるのは、春香のいうとおり
気分転換になるだろうし、もしかしたら新しい刺激があるかもしれない。



「ふーん、でどうだった、大学というところは面白かった?」
「はい、思ったよりも刺激があって……ん、あん、待ってください、まだ話が」
「いいから続けてよ。俺も春香の“アイドル研究会のことは知りたいし」
「あっ、だったら胸、そんなに撫でないで、んっ、は、話ができません」
「あれって実は真面目な活動なんだってな」
「んっ……そうですけど……あぁ、いきなりそんな……あんっ」
「俺もゆっくり話をするつもりだったけど、こんな刺激的な格好で挑発されるとな」
「挑発なんて……違う、あっ、乳首はダメですって……」
「じゃあジーンズなんて履いてるのはどうしてだ、千早にしては珍しい」
「こ、これは真と買い物にいって勧められたから……んっ、やぁ……噛まないで」
「流石ベストジーニストが選んだだけあるよな。それで上半身が裸なのは?」
「着替えしようと……もう、乳首ばっかり……ばかぁ」
「ふーん、着替えねぇ」

彼の指がバストの周囲をなぞり、そこにあるべきブラの跡がないのを暗に指摘している。
友人Rに教わった大胸筋マッサージをしていて、一人の気楽さと開放感から半裸姿のまま
過ごしていた……と正直に言えばしばらくはこの事で責められるのは目に見えている。
昼間から全裸でいけない遊びをしてしまった昨日でないのは幸いだけど。

……あなたの帰りが待ちきれなかった、なんていってみようかしら。
それとも春香と一緒にお話した大学生たちに感化されたとか?
だけど私が口実を考えだす前、1週間ぶりの再会に焦れた彼が本格的に行為を
求めてきたので内心安堵しながら彼の愛撫に身を任せていく。
強く抱きしめあい見詰め合うと言葉が途切れ、せわしなくキスを交わして舌を絡め、
お互いの唾液を交換しあってべたべたになった口の周りが舐められる。
そうやって彼の体温と体臭に包まれると、愛される悦びを知った体はあっさり理性を
手放して熱を帯びじんわりと潤み始める。

「胸ばかりではなくて……もっと他のところも、その……」
「ジーンズ姿って格好はいいけど脱がせにくいんだよな」
それが焦らしだとわかっていながら、欲しくてたまらなくなっていた私は唇を重ねたまま
ジーンズを脱ごうとして、当然のようにバランスを崩して無様に尻餅をついてしまう。
だけど我慢できないのは彼も同じで、私を抱え上げると膝につっかえたジーンズは
そのままに、ベッドにうつ伏せにされショーツに手がかかる。
こんな風に後からされるのは、彼がいつもより猛っている証拠。
乱暴にショーツが下ろされるとすぐに彼のがあてがわれる。
もう充分に濡れているとは思うけれど、荒々しい吐息を首筋にうけていると
無理矢理犯されているみたいな錯角で頭がクラクラしはじめる。
熱くて固い先端があそここすっては滑り、中々入ってこようとしない。

焦らさないで、早く入れて! そう心の中で叫んでみても、彼のペニスはからかうように
お尻の穴をつついたり入れかけてするりと外れてみたり。
本当に我慢できなくて腰を後に突き出してみたり、手を伸ばして催促したところで
ようやく彼が入ってくる。
久しぶりだからなのか、中からぐいぐいと押し広げられるような圧迫感があって
少し乱暴な彼の動きもあって征服されていくような感覚が私の心を昂ぶらせていく。

「千早、凄い締め付けだな……そんなにこれが欲しかったか?」
「んっ、欲しかった……ずっと、こうして欲しかったから」
「俺もだぞ、ほら、いっぱいしてやるからな」

求めていたものが体の奥まで貫かれると、私の中の空白が愛する彼の体で
満たされたという満足感でのぼせてしまいそうになる。
だけどそれだけで足りず、後から激しく犯されながら霞んだ視線で姿見を探せば
鏡の中にはジーンズを足に絡みつかせたまま、獣のように犯されている女の姿。
その瞬間、最初の絶頂に押し上げられ、そこから先のことはよく覚えていない。
目が覚めたらベッドの中で彼の腕に包まれていた。

肌に残った汗がまだ冷えていないから終わって間もないと思うのだけれど
彼はそのまま眠り込んだらしく安らかな吐息がかすかに聞えるだけ。
いつの間にかジーンズは脱がされていたから、私も少し眠ろうかと思って
彼に足を絡めようとしたところで感触に気付く。

まだ少しばかり疼きが残るあそこの奥から、とろりと流れ出てくる彼のもの。
久しぶりだから量も多いことだろう、起き上がるのは億劫だけどシーツに零せば
洗濯物が増えて面倒になる。
セックスの直後に家事の心配をする自分が少しおかしくて、彼を起こさないよう
忍び笑いをしながらそっとベッドから抜け出した。
ティッシュを探しあてる前に逆流してきた精液が零れそうになったのを手で押さえ
そのままバスルームに駆け込んでぬるま湯で洗い流す。
それからぬるぬるの股間と汗にまみれた全身を綺麗さっぱり洗い流して
寝巻き代わりのワイシャツを羽織って今度はおトイレに。
本当は早くベッドに戻って彼と一緒に眠りたいけれど、まだ中に残っているものも
始末しておかなければいつかの二の舞になってしまう。

そう、あれはいつの事だったろうか。
夜明け前に目覚めた私は、眠っている彼が勃起しているのが面白くて悪戯しているうち
目を覚ました彼に襲われ、明け方までかなり本格的に交わったのはよかったのだけれど
余韻に浸りすぎて仕事に遅れそうになり、後始末もろくにできないまま家を飛び出した。
用心のためのナプキンは役に立ったけれど、それを始末する前に春香に感づかれたようで
遠まわしのお小言に随分恥ずかしい思いをしたことがある。

以前からピルを服用している私にとって、彼のものを中で受け止めるのはごく当たり前の
ことだけど、春香の言うとおり零したり臭いが漏れると大変なことになるからそのあたりは
きちんと気を遣わなければいけないけれど、丸一日経って忘れた頃にやってくるのだけは
本当に困ってしまう。



「ふーん、昨夜はお楽しみのようですね、へへへっ」
「もう春香、その笑い方いやらしいわよ」
「だって千早ちゃん、朝から色気をむんむん発散しすぎだもん」
「この前は色気がないっていったくせに」

朝から励んできたことが春香には分ってしまうのか、それともカマをかけただけか。
どうせい否定したところで最後にはばれるのが常だから、いっそのこと自分から
あけすけに打ち明けてみてもいいかしら。

「ひ、久しぶりだったから……昨夜はいつもより濃厚だったのよ」
「お、おおっ、千早ちゃんてば大胆だね」
「いいじゃない、夫婦なのだからそうするのは当然でしょ」
「ふふーん、いうようになったね。そんなテカテカと満ち足りた顔で言われたら
流石の春香さん、返す言葉もないよ」
「ま、まあね……」

本当をいうと、濃厚だったのは昨夜だけのことではない。
夜の営みで体力を酷使した彼はそのまま熟睡し、夜明け前に充電が完了して目を覚ますと
まだ行為は終わってないとばかり寝ている私に襲い掛かり、昨夜以上の濃厚な交わりを
済ませてきたばかりである。
終わった後にはシャワーをあびたし念入りにビデを使って洗浄もしているけれど
体にはまだまだ余韻が残ったままだし、当然中にもきっと残っているはず。
というか……でてきそう。
気持ちよすぎて、頭も体もふわふわしたまま出かける準備をしたせいで
ナプキンを忘れたことに気付いたのは事務所についてから。

「そ、それより春香……ちょっと貸して欲しいものが」
「うんうん、わかっているよ。アレでしょ」

お手洗いに駆け込んで個室の中で借りたポーチを開いてみれば
ナプキンとシートに挟まれて銀色に光る小さなパッケージ。
ああ、もう春香……
誤解があってはいけないと思って春香には打ち明けていないけど
そろそろピルのことを話してみようかと思ったりもする。

服用を始めたのは結婚する前のことだけど、その目的は避妊ではなく
重くて不順気味だった生理のコントロールのためだ。
かかりつけの先生に勧められ、半信半疑で試したら思った以上の効果が有り
仕事のコンディション調整のため、結婚した今も服用は続けている。
当然プロデューサーである彼もそのことを知っていて、だからこそセックスをするとき
避妊具とかに気を配る必要もなく、例のゴム製品が少し苦手な私にとっては
それはそれでありがたいことでもある。

二十歳で結婚したことが時期尚早とは思わないけれど、今の私が子供を授かるのは
仕事抜きに考えても早すぎると思っている。
もちろんこんな私でもいつかは子供を産みたいと思えるようになるかもしれないけれど
今は仕事が楽しくて充実しているし、彼だって同じ考えでいるはずだ。

だけどどうしてだろう……
時間をかけてビデで中を綺麗にしてしまうと満たされたはずの体の中に
空洞が戻ってきた感じがするのは。
それともこれは、セックスの、彼の余韻から醒めてしまっただけなのかしら。

だめ、こんなことでは。
今からは仕事の時間。歌に集中しなければ。
私に足りないものはまだまだたくさんあって、もっと貪欲にそれを探して
満たしていかなければならないのだから。


「千早ちゃん……色気が消えるの早かったね」
「春香、今はお仕事の時間なのよ……いつまでも寝ぼけていてはだめよ」
「あー、つまんないなぁ……もっと色っぽくて可愛いちーちゃんを見ていたかったのに」
「はいはい、それはまた今度ね」


実のところ、今までに妊娠の可能性が無かったわけではない。
例えば初体験のときがそう。
基本的な性知識はもっていたけれど、彼とそういう流れになった時に
そんなところに気が回るような理性などひとかけらも残っていなかった。
全てが終わり、彼が眠った後にベッドを抜け出してふらつく体で浴室に向った私は
そこで始めて事実に気付いて愕然としたものである。
冷静に考えればその二日後に月のものが訪れたのだから、一番妊娠の可能性が
低い時期だったのだけど、それに懲りずにその後にも同じことを繰り返したのだから
もちろん彼も悪いけれど、それを許した私だって同じようなものだ。

<だって千早が欲しいっていうから>
<そ、そんなこと言った覚えはありません……>
<言ったさ、今日は大丈夫な日だから……中にくださいって>
<…………い、いってない……もん>

彼にはそう言い返したけれど行為の最中そのような言葉を口走った記憶は残っている。
なぜそんなことを言ったのか自分でもわからないけれど……

「やっぱりさ、心の奥底では欲しいと思っているんじゃないかな」
「欲しいって……別に私は中に出してもらうのが好きなわけじゃないのよ」
「いやいやいあ、欲しいのはソレじゃなくて、子供のことだよ」
「あ…………」



「あなたはどう思われます、春香の話」
「春香って時々鋭いからなぁ……単に千早の子供を早く見たいだけかもしれないけど」
「んっ……そうかもしれないけど……あの、もう少しゆっくり」
「悪い悪い、つい気持ちがよくて」

彼が腰の動きを止めたかわりに私の髪をそっとなでてくれる。
仕事が忙しくてゆっくり話ができない時でも、べッドの中では会話しようと決めたルール。
初めのうちは手を繋いだりそっと相手の体に触れる程度だったのが、会話の合間に
キスをするようになりいつの間にかゆるやかに交わりながらの話し合い。

「春香の意見はともかく、俺は正直……早くできてもいいと思っているよ」
「だから初めての時、あんな風にしたのですか?」
「あ、あれは……出来てもいいとは思ったけど、今思えば冷や汗ものだな」
「ふふっ、そうですね。まだ高校生でしたから」
「千早……もし今出来たとしたら……どうする?」
「どうも何も、産んで育てるだけです」
「本気で?」
「勿論です……あなたとの子供ですから」

あら、心なしかさっきよりも固くなった気がするけれど……
それに……ゆっくりするって約束はどこにいったのですか?

「俺は女の子が欲しい」
「あん、そんな……私は男の子のほうがいいのですが」
「じゃあ両方。最低でも二人。なんなら男女の双子はどうだ?」
「いきなり賑やかになりそうですね、でも育児が大変かもしれませんよ」
「かまわんさ、そうなったら俺もプロデューサー業は一時休止だな」
「ふふ、女の子が欲しいのはアイドルに仕立て上げたいからじゃないですか?」

彼は答える代わりにむっくりと上体を起こして私を見つめる。
どうやら話し合いの時間はおしまいのようだけど、私に異存はない。
持ち上げた足で彼の腰をしっかりと挟み、力を込める。

「では……どうぞ」
「千早がその気なら、今夜は寝かさないからな」
「ふふ、体力では負けませんから」

だけど彼はいきなり激しく動いたりはしない。
ゆるやかな動きはそのままに、やさしくて温かいキスが私を包む。
濃い目のが欲しくなっても私の舌はかわされて今度は首筋にキス。
その間にも動きは徐々に大きくなり、彼のキスが胸に届く頃には
もう私の息は荒くなって彼のくれる快感を求めるだけになる。

「千早、千早……本当に産んでくれるか、俺の子供を」
「はい、産みます。あなたの子供」

彼に与えられる快感に呼応するようにおなかの底が疼き始める。
いつしか激しくなった彼の動きがそこではっきり感じられる。
彼が、彼のものが、彼の子供が欲しい……それしか考えられなくなった私の代わりに
子宮が彼をしっかり捕まえ、彼の温かい液体を中に受け止めるまで、
ううん……私の中がそれでいっぱいに満たされるまで
こうやって抱き合ってつながって交わっていよう。
そうすれば私の中に新しい命が芽生えるだろう
それはきっと素晴らしいことに違いない。

そう、そうだった。
足りないと思っていたもの。
私が欲しかったものはこんなにも身近にあって
望めばきっと私にも手が届くものだったんだ
そう気付いたとき、彼の命が私の中に注ぎ込まれて
私は涙を零しながら満たされた悦びを噛みしめている。

この感じが気持ちいいのは、それが子供を授かるための行為だから。
だとしたら、この体の中で彼との子供を身篭ることこそ、私にとって
最高に気持ちのよいことなのかもしれない。


おしまい

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