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「うちのおトイレ、ドアに隙間があってその、見え、ちゃうんですよね、見よう
って思うと。わたし長介が心配で、だからそのっ」
 相談がある、とやよいが俺に告げたのは営業から帰った夕方の事務所だった。もう
みんな出払っていて社内は無人なのに、やたらと人目を気にするやよいのために、
仮眠室に入って鍵をかけた。
「毎晩夜中にトイレに行くってのもおかしいか。やよいとしては、なにか
悩んでるとか、怪我や病気を隠してるとかだと思ったのか」
「そうなんです。それで、よく見てみたら、長介が、あうぅ、その」
 敷きっぱなしの布団の上に座りこみ、話を聞いた。
 相談の内容は上の弟、長介くんのことだった。皆が寝静まってから毎晩の
ように起き出しているらしいので心配で、と彼女は言ったが……俺には夜中に
トイレの時点で察しがついていた。
「長介くんが、……んー……股間を、いじってた、と?」
「ふみゅううう。そ、そうなんですぅ」
 やよいの言葉を引き取ると、ますます顔を赤くしてうなずく。
 その数日前、風呂場で裸でいるところを彼に見られたのだと言う。親御さんの
勧めもあり、中学生のやよいと小学校高学年の長介くんは今はもう別々に風呂を
使っているが、その日はタイミングが狂ったそうだ。で、それ以来。
「えっとな、やよい。小学校の時、保健の授業受けただろ?男子と女子と別々に
やるやつ」
「あ、あの、あれですね」
「先に結論を言うと、アレだよ。長介くんは、ちょっと大人になったんだ」
「……っ」
 彼女の頭の中でどう解釈されているかはわからない。ただ俺の言っていることは
理解できたようで、口をつぐんだまま真剣な表情で俺の話を聞いている。
「少々恥ずかしい話だが、大事なことだからちゃんと説明するぞ。やよいだって、
その授業のころから体の形が変わってきたり、いろいろと変化があったろう?」
「う、は、はい」
「今度は長介くんの番なんだ。男の子の場合は俺がよく知ってる。なんせ経験者
だからな、はは」
 胸を親指で指し、わざとらしい笑顔を作ると、やよいも赤い顔のままおずおずと
微笑んでくれた。
「男の子の場合はな、エッチなことを考えたりするとおチンチンが固くなるんだ。
女の子も似たようなことがあるけど、男の場合はそりゃもう……見たよな?」
「見……ましたっ」
「やよいは他にも弟がいるし、もっと小さな頃から見てるからわかるだろ。いつもは
やわらかくて小さいのに、本気になると上を向き、木の枝みたいに固くなる」
「そ、そんなに……?」
「将来出会う大切な人の中に、自分の赤ちゃんの種を植え込むためだからな。ちゃんと
相手のお腹の中に届くよう、なるべく伸び上がって、なるべく途中でへこたれない
ように頑張るんだ」
「あれが……女の人の、お腹の中に……」
「ちょっと端折ってるが、そういうことだ」
 弟のいるお姉さんであれば、いずれは直面することだろう。秘密にしておくより
いいきっかけだったのではないか、と話を締めようとしたら、やよいがきっと
顔を俺に向けた。
「……でも、そうしたら、あの、長介は」
「うん?」
「わ、わたしに赤ちゃん、作って欲しいっていうことなんでしょうかっ?」
「……へ?」
「それはこまるんです!わたしまだ中学生だし、アイドルはじめたばっかりだし、
家のこともあるからまた家族が増えたら大変なんです!それにそれに長介は
弟だし、そんなのおかしいですっ!」
「ま、まてまてやよい、なんでそうなるんだよ」
 いきなりパニックになられてこちらがたじろいでしまう。彼女の肩に手を
置き、落ち着かせながら訊ねる。
「だ……だって長介……、そ、その時、ずっと『姉ちゃん、姉ちゃん』って
言ってて」
「お前のこと、呼んでたのか」
「はい。最後にトイレットペーパー切ったときも『やよい姉ちゃん』って、
けっこうおっきな声で呼んだんです」
「あー」
 フィニッシュの瞬間までつぶさに観察された長介くんには同情を禁じえない。が、
当面の問題はこの、目の前で勝手にエキサイトしているその姉だ。
「長介はわたしのこと、好きなんでしょうか。あの、もちろんわたし、長介の
こと好きですよ、でもでもそれってその好きとは違う好きで、えっと、あうぅ」
「いいから落ち着け。お前がなに言ってるか、ちゃんとわかってるから」
「だって長介がぁ」
「いいから!」
「ふぁ」
 やよいに顔を近づけ、注意深く語気を強めた。
「やよい、よく聞け。たぶん長介くんは、まだ誰か女の子を好きになったことが
ないんだろう。だから一番近しい女の子であるやよいに、『好きに似た気持ち』
を持ってるんだ」
「す……好きに、似た、気持ち、ですか?」
「やよいも覚えがないか?小さなころ、一番好きな人はお父さんだったりしたん
じゃないか?」
「そう、いえば」
「それは家族愛であって、恋愛ではない。だけど、子供のうちはその区別がない
から長介くんも、『お姉ちゃんが好き』っていう感情をそんなふうに表現して
しまったんじゃないかな」
 噛んで含めるように説明すると、やよいも落ち着きを取り戻した。俺の話に
小さくうなずきながら、頭の中で一生懸命整理していると見える。
「長介くんだって、いつかお母さんやお姉ちゃんじゃなく、社会に出て知り合う
誰かを好きになるだろう。それまではお姉ちゃんを好きな気持ちも、大人が
言う『好き』と一緒にしか思えないんだよ」
「そうなんですか……いまの長介の『好き』は、わたしとその、あの……そういう
こと、したいわけじゃ」
「今はよくわからないだけだよ。いつか大人になれば、本当に好きな人と結ばれる
日が……おっと、飛躍しすぎたかな、あはは」
 まだ真剣な表情で考えているやよいを見つめながら、明るく笑い飛ばしてやった。
「大人になれば、本当に好きな人と」
「ああ、そうだとも。だからやよいも――」
「……あの、プロデューサー」
――弟をそっとしておいてやってくれ、そう話をまとめようとしたとき。
やよいが、顔を上げた。
「それって……家族とかじゃない本当に好きな人ができたら、もうおとな、って
いうこと、なんですか?」
「ん?」
「社会に出て知り合う誰かを好きになったら、それはおとなになったっていうこと
なんですか?」
 一瞬、やよいの意図を測りかねた。長介くんが自分ではない誰かに取られる
ように感じているのだろうか。だが、人にはいつか巣立つ日がやってくる。
「んー、まあ、そうだな。世の中は親や兄弟だけと関わって生きてゆける世界
じゃない。寂しいかもしれないけど、人はそうやって」
「プロデューサー」
「どうした?」
「それならわたし……」
 やよいが、動いた。
 肩に置いていた手は、少し身じろいだだけで簡単に外れてしまった。やよいは
俺から自由になり、そうして……。
「それならわたしも、もう、おとななんですね」
 意を決したように俺に近づいて、俺の口に自分の唇を重ねたのだ。
「んっ」
「うむ……!?」

 予想外の行動だった。
 キスされていると気づいたときにはやよいの両腕が俺の顔を抱きしめて、
逃げられなくなっていた。
 もちろん無理に振りほどくことはできたろう。しかしそれは彼女の体や、
ひょっとしたら心をも傷つけることになるかもしれない。
「ん……ん、うんっ」
「ん、く、っ」
 以前本人と雑談したことがある。やよいの知っているキスは唇と唇を合わせる
かわいらしいものだけで、互いをむさぼるような激しいものや相手の口内に舌を
差し入れるような深いやりとりは彼女の知識に備わっていなかった。だから
やよいは俺の頭を掻きいだき、ぎゅっとつむった口を俺の顔に押し付けることしか
できなかった。懸命に鼻で呼吸しながら、唇同士をぐりぐりとこすり合わせる
ことしかできなかった。
 ひょっとしたら遅い時間帯のドラマでも見たのかもしれない。クラスの友達が
背伸びした雑誌でも持ってきたのかもしれない。いずれにせよそういった外見的な
知識で、このかたちが大人のキスだと理解したのだろう。
 やよいのキスはそれほど稚拙で……けれど、それ以上に激しく、情熱的だった。
 数瞬後、俺はようやく我に返り、そっとやよいの両腕を取った。
「や……やよい……?」
「ぷぁ……はあ……っ」
 驚かせないようにゆっくり力を込め、顔を遠ざける。唇が離れても俺の口や頬
には、やよいの温もりが残っていた。
「やよい、いったい……」
「わ……わたし……っ」
 口で大きく息をして、涙のにじんだ真剣な瞳で俺を見つめ返して。
「長介はまだ小学生だから、そんなこと考えないって思ってて、だからびっくり
して。そんなエッチなこと考えるの、うちではわたしだけだって!」
 視線を外さぬままそう言い放ったとき、その目から涙がこぼれた。
「でも……プロデューサーに言われて、わかりました。わたしは、もう、おとな
なんですよね」
 性に目覚めていたのは、長介くんだけではなかった。
 当たり前ではないか。やよいは彼より年上だ。芸能人として大人の社会で活動
している。周囲の人々はやよいをとても気づかってくれるが、そんなものとは
関係なく伝わってしまうものだってたくさんある。
「わたし、そんなヘンなこと考えちゃうようになって、なんだかやだなーって
思ってたんです。プロデューサーや社長や、ファンのみんなだって、そんなこと
考えるわたしのことキライになっちゃうんじゃって思って、とってもやだなーって
思ってたんです」
 夜中に悶々として眠れなくなっていたのは、長介くんだけではなかったのでは
ないか。やよいの家は大家族だ、一人になれる場所はトイレしかない。
「夜、寝ようって思ってもプロデューサーの顔が頭の中から消えなくて、目を
つぶったらもっともっとはっきり見えてきて、そのうちなんだかヘンな気持ちに
なってきて、はじめは我慢してたんだけどだんだん我慢できなくなって、ちょっと
さわったらぬるぬるってしてて」
 ぽろぽろと涙をこぼしながら、それでもやよいは告白をやめない。おそらく
像さえ結んでいない潤んだ視線を俺に向け続け、しゃくりあげながら自らの行為を
打ち明け続ける。
「でもさわってるとお腹の中があったかくなってきて、は、初めは押さえるだけ
だったんだけど、動かしたらもっと気持ちよくって、そのたびに頭の中で
プロデューサーが優しく笑ってくれて……っ」
「……」
「最後に自分で自分のことぎゅってすると、ぷ、プロデューサーがわたしを
ぎゅってしてくれてるみたいで、すっごく嬉しくて、でもほんとはプロデューサーが
いないんだって思うと、こんどはとってもさみしくなって。長介がわたしみたいに
さみしくなってたらやだなって、かわいそうだなって、わたし、わたしそれで」
「やよいっ!」
 もう、耐えられなかった。俺はやよいを、両手でぎゅっと抱きしめた。

「……ぐすっ」
「もういいよ、やよい。もう言わなくていいよ」
「ぷろ……」
「寂しい思いをさせてすまない。俺はお前が、そんなに悩んでるなんて思わな
かったんだ。俺さえ我慢していれば大丈夫だって、俺は思っていたんだ」
 俺は大きな間違いをしていた。やよいは俺が思うよりよほど大人だった。俺が
思うよりずっと成長していた。
 俺が理性的に接していればやよいは大人にならない……と、半ば本気で信じて
いたのだ。
「俺が耐えていればお前はいずれ自然に成長していく、そう思っていた。そうして
いつか釣り合いが取れるようになれば、そのときに正々堂々と話せばいいと考えていた」
「我慢……って」
 やよいは全て話してくれた。自分の立場や境遇を省みず、やよいは自分の本当の
想いを教えてくれた。
 ならば俺も、本当のことを伝えねばならない。
「俺は、やよいのことを、いつの間にか好きになっていた。俺はプロデューサー
なのに。お前はアイドルなのに」
「プロデューサー……?」
「俺はプロデューサーだから、そんなこと考えるのは絶対ダメだ。だから今まで
隠していたし、本当はずっと隠し通すつもりだった」
 やよいが息を呑んだのが、わかった。俺はやよいの胴を抱き締めたまま、顔を
上げることもできずに搾り出すような告白を続ける。
「ごめんな、やよい。お前がそんなに苦しんだのも、全部俺のせいだ。お前の悩みも
全部、俺が抱えてしまえばよかったのに」
「プロデューサーが……わたしの、ことを」
「やよいは全部教えてくれた。悩みも、恥ずかしいこともみんな打ち明けて
くれた。だから俺も言うよ……やよい、俺はお前のことを愛してる」
 俺は駄目な人間だ。
 芸能事務所に所属して、親御さんから大事な娘を預かり、ファンに夢を与える
仕事をしているその一方で、己の欲望を抑えることさえできない。それでいながら
人目には清廉潔白を装い、あげく当のアイドルに先に恋の告白をさせる。
 俺は人を導くことなどできない、ただのだらしない男でしかないのだ。
「社会に出るまで恋愛のひとつもできなかった俺が初めて好きになった相手が、
自分よりうんと年下の、しかも事務所の担当アイドルときた。はは、俺は
とことんダメな奴だな……」
 最後の自嘲をため息と共に押し出したとき、頭に温かな重みがかかった。
「……やよい?」
 髪をすべるその動きは。
 やよいが、俺の頭を、撫でている。
「……いです」
「え……」
「プロデューサーは、だめなやつなんかじゃ、ないです」
 呼吸を整えながら、やよいは言う。鼻声を注意深く抑えて、俺の頭を撫でながら、
やよいが言った。
「プロデューサーは、だめなんかじゃないです。だって、わたしが大好きになった
人なんですから。わたしのことを、大好きでいてくれる人なんですから」
「やよい……?」
 思わず顔を上げる。
 至近距離を駆け上がってゆく視界に、やがて顔が。
 頬に涙の跡を残しながらも、まだ唇を軽く震わせながらも、にっこりとあざやかな
笑顔が花開いた。
「プロデューサーは、とってもとっても素敵な、わたしの大好きな、世界一の
プロデューサーですっ!」
「やよいっ!」
 俺はやよいに……俺からやよいに、これまでの全ての想いをこめてキスをした。
 大人のキス、を。

****

 俺は、童貞ではない。しかしその相手は金で買った女だった。
 前職の悪い先輩に社会通過儀礼として奢られた、うろんな店の顔も憶えていない
女だ。女にまったく縁のなかった俺の筆下ろしの相手となったその女の店には、
その後も誘われて何度か通ったが、ついに顔を憶えることはなかった。その店で
俺が記憶できたのはキスの仕方とセックスの手順と、妊娠と感染を防止する
いくつかの手段だけだ。
「ん、んんっ、んむ、っ」
「んは……はぁっ、はぷ、んっ」
 そんなものが役に立つ日がくるとは、俺は夢にも思わなかった。
 無人の事務所の一角の、薄暗い仮眠室。
 厳重に鍵をかけたその密室で、俺は自分の担当アイドルと抱き合っている。
 俺の腕の中でやよいは小さく身じろぎ、俺の欲望まみれの接吻を受け入れて
くれている。小さな細い手を俺の背に回し、口を大きく開けて、その口の中を
蹂躙する俺の舌に精一杯追いすがっている。
「はあ、はあっ……やよい、大好きだ、やよい」
「プロデューサー、わ、わたしもですっ、わたしも、プロデューサーのこと、
大好きですっ」
 二人で力比べでもしているかのように、舌を絡ませあい、口中をまさぐりあい、
ろれつの回らない言葉で互いの愛をささやき合う。ディープキスなど数瞬前まで
知らなかったはずのやよいはそれでも懸命に、俺の舌の動きに自分の舌を、歯を、
唇を合わせて応えてくれた。
 顔を傾げ、やよいの柔らかな唇ごとを全てくわえ込み、覆いかぶさるように
舌を送り込むと、やよいもまた大きく口を開いて受け入れてくれる。無我夢中で
絡ませ、こすり、吸ううちに互いの唾液が混ざり、熱く濃厚なエキスとなって
口内を行き交う。ひときわ強く吸い、一気に飲み下した。
 俺の喉を鳴らす音で行為に気づいたやよいは瞳を恥ずかしげに微笑ませ、しかし、
次の瞬間には今度はやよいの頬が収縮し、こくんと小さな音が聞こえた。
「やよい……」
「……えへ、プロデューサーの味って、こんななんですね」
「旨くはないだろ」
「ううん、すっごくおいしかったですよ。プロデューサー、もっと、くれますか」
 またしばらく、キスの応酬。そして、次に。
「ん……ん、んっ?」
 抱き合い、強く優しく背中を撫でていた手を、やよいの体の前面に回した。やよいは
Tシャツしか身につけておらず、華奢な体の柔らかさや温かさが俺の掌に直接
伝わってくる。
 片手はまだ背中だ。俺は慎重に体重を相手にかけ、口づけも愛撫も離さぬまま、
やよいを布団の上に押し倒した。やよい本人が毎日干してたたんでくれている布団は、
新しくはないが手入れの行き届いたぬくもりと太陽の匂いがする。
「う、んっ……プロデューサーっ」
「怖いか?」
 そう訊ねたのは自分を正当化するためだったかもしれない。あるいは、怖かったのは
俺のほうなのかもしれない。法律、社会常識、ビジネスルール、生物学的な不安、
なにかきっかけを見つけてこの先の行為をストップしたかったのが本心だった
のかもしれない。
 そんな俺に、やよいはこう答えた。
「プロデューサー」
「うん」
 その言葉は俺の理性を、一瞬で剥ぎ取ってしまった。
「わたし……もう、おとなですよ、プロデューサー」
「やよいっ!」
 布団に横たわる愛しい人の身体を、俺は全力で抱き締めた。
 俺がけだものに堕さずに済んだことは奇跡に近い。それほどまで、俺はやよいに
飢えていた。
 再びみたびの強いキスの合間に、シャツを脱がせ、パッチワーク柄のスカートを
足から抜く。自分も服を脱ぎながら、やよいが不安がらないように、快感を得られる
ように愛撫を続けた。

 背中や腹を撫でさすり、腿に掌を這わせ、唇で口を、頬を、首筋を吸ってゆく。
ちゅ、ちゅ、という小さな音が響くたび、あ、あ、とかわいらしい吐息が耳に届く。
「やよいの肌、すべすべだな」
「わたし、お手入れとかなんにもしてないから恥ずかしいです、プロデューサー」
「恥ずかしいものか。そのままで最高に美しいじゃないか」
 背中に手を回し、ブラのホックに指をかけると、顔を赤らめて胸を隠した。
「あの、あのプロデューサー、あの、っ」
「なんだ?やっぱり、やめるか」
「違うんです、あの、その、わたし、……あの……ちっちゃい、から」
「なに言ってんだ」
 目を合わせて微笑んでやり、指をひねった。ぷちん、という音と共に、
かわいらしいブラが弾け飛んだ。
「あんっ」
「大きさなんか関係ないだろ?ぺったんこだろうがぼよんぼよんだろうが……」
 すかさず片方を口に含む。桜色の突起はすでに固く膨らんでいた。
「ひぁ!」
「俺の大事な、やよいなんだから」
 もう片方は指でつまんだ。ゆっくりと力を込めると、やよいの身体がびくんと
跳ねる。
 手のひらで乳房を包み、指先に振動を与え、口では舌を使いながら強く
吸いつつ、訊ねた。
「気持ち、いいか?」
「ふああっ!は……はいぃっ、プロデューサー、それ、きもち、いい、ですうっ」
「こんなのは?」
「っあ!……あ、あああっ!あんっ」
 そのまま腹のほうへ舌をなぞり下げて行くと、臍に近づくにつれ声が大きく
なってゆく。小さく浅いくぼみに舌先をこじ入れた瞬間には、俺の頭を両手で
押さえつけ、腰をびくびくと痙攣させた。
「ふぁあ、プロデューサー、プロデューサー、ぷろ……はあ、っ」
「やよい……いいか」
 臍からさらに舌を下ろしながら、身に付けた最後の布切れに手をかけ、
訊ねる。やよいは一瞬息を飲み、それからおずおずとうなずいた。
 白い三角形をゆっくりと、腿を滑らせながら引き下ろす。逆さまになった三角の
頂点とやよいの股間を、細い銀の橋が渡った。
「もう、こんなに」
「だ、だって、プロデューサーが、いっぱいさわってくれるから」
 至近距離で見つめるやよいのその部分は、宝石箱を開いたようにきらきらと
光っていた。薄いヘアはそこを覆い隠すには至らず、これまでの快感でか中心の
突起も露になって、とろりとした液溜りができたスリットはさながら湯気を
立てるハニーポットだ。
「そんなに近くで見られたら、恥ずかしいです」
「そう言うな、とってもきれいだよ。それに」
 たまらず、かぶりつく。
「っはぅ!」
「それに、すごく、旨い」
 やよいの股間に顔をうずめ、強くそれでいて丁寧に刺激を与え続ける。
「は、あんっ、ふぁ、ああ、あ……あ、っく、やぁ……っ」
 舌を動かすたび、唇でまさぐるたび、やよいの声は大きくなってゆく。脚を
閉じようとしても俺の頭が邪魔をして、しかもその動きはかえって性感を刺激
してしまう。膝を閉じかけ、また開き、所在無げな両手は布団をぎゅっと握り締め、
必死で声を殺そうとするが、動きに合わせて高まる快感を封じる手立てはない。
「んくっ、ふ、く、ふぁ、ふ、ああ、あああっ」
 喘ぐ声にも余裕がなくなってきた。度々脚を突っ張るようにし、時おりいやいやと
顔を振るのが見えた。
「やよい?我慢してるのか?」
「プロ、デューサー……なんだか、いつもと違うんです」
 顔を上げて訊ねると、夢の中にいるような声で打ち明ける。

「いっ……いつもは、こんな、に、ならないのにっ、き、きもちいいのが、
とま……っ、止まら、ないん、です、っ」
「いいんだよ、やよい。思う存分気持ちよくなればいいんだ」
「でも……ふぁ!でっ、もっ、こんな、の、……っふうっ」
 俺の愛撫にいちいち反応しながら、懸命に快感を制御しようとしている
ようだ。時にきゅっと目をつぶり、唇を噛みしめ、体の中で膨らんでゆく絶頂を
抑え込もうとしている。
「それじゃあ、やよい」
「……う、はい……っ」
 口を離し、体をずり上げてやよいと目線を合わせた。浅く息をつきながら
やよいは、焦点の定まらない視線をとにかく俺に向けてくれる。
「俺が、いっしょにいるよ」
「……いっしょ、に」
 もとよりそのつもりだった。やよいをたっぷり愉しませてからと考えていたが
どうやらもう満腹のようだし、俺のほうもいつまでも我慢していられない。
「お前がどんなになったって、俺はやよいを離さない。だからやよい、お前も
俺を絶対離さないでくれ」
「……はいっ!」
 噛んで含めるように説明すると、やよいは嬉しそうに目を細めてくれた。俺は
愛しい笑顔にキスをし、右手をゆっくり彼女の股間に差し入れてゆく。
「やよいは体が小さいから、怖いなら無理にしなくてもいいんだぞ?」
「ん、……ぅん、だいじょぶ、です。わたし、嬉しいんです、から……っ」
 慎重に指先を沈めてみると、存外すんなりと受け入れてくれる。やよいの体も
準備が進んでいるということか。
「そうか」
「あの……この、これ」
 もぞりと片手を動かし、やよいが俺の逸物を掴んだ。この逢瀬のいちばん
初めからいつも以上にいきり立っていた肉の棹に、ぎごちない動きの指が
まとわりついてそれだけでもうたまらなくなる。
「さっき、ちらって見たら、長介のよりすっごくすっごくおっきくて、びっくり
しちゃいました」
「はは、そんなに立派なもんじゃないぞ」
「プロデューサーさっき、好きな人のために大きく固くなるんだって言って
ました。これ、わたしのためにこんなにしてくれたんですよね」
「……ああ、そうだよ。やよいの中に入りたくて、こんなに元気になってるんだ」
「わたし、それが、嬉しいです。プロデューサーは大人の人だから、わたしなんか
じゃ、あの、こーふんとか、しないかもって思ってたから」
「お前はとっても魅力的だよ。アイドルとしても、女性としても」
「えへへ、うれしいな。うれしいです」
 睦言の間にも俺の指は二本目を差し入れ、内部でゆっくりとマッサージを続けて
いた。やすやすと入り込むのに、中で絡みつき、締め付けてくる力は目を見張るようだ。
「きつくないか?」
「だいじょぶです。プロデューサーの、これ、お指ですよね。なかでこすられて、
ふわぁって、なっちゃうみたい、です」
「そろそろ……いいか?」
「……っ」
 ゆっくり指を抜き放つ。心地よい抵抗を残しながら脱出してきた指の代わりに、
ゴムを装着したペニスをやよいの入り口にあてがった。
「ぷろ、でゅーさー……?」
「どうした」
 汗ばんだ顔で俺を見上げる、潤んだ瞳。ずっと我慢しているのだろう、快感の
頂点の一歩手前で、俺になにか言おうとしている。
「わたしのこと……ずっと」
「ずっと?」
 両腕を広げ、俺の体を抱きしめた。互いの肉体はほぼ密着し、唯一空隙があると
いえば、これから突入を試みるもうその部分だけで。
 やよいの体温が、高まる鼓動が、俺の肌を通して直に感じられる。
 さっきよりもっと近づいた俺の耳に、やよいの唇が、ささやいた。

「ずっと……離さないでくださいね」
「……ああ。もちろんだ!」
 腰に力を込め、一気に押し込む。
「っく!」
「うぅ……うあ、っ!」
「んふ……うっ」
 思わず声が出た。入り口の抵抗は弱かったが、全体的に窮屈な穴蔵を這い進む
感触に震えが走る。まっすぐな道である筈なのに、その道そのものがうねり、
締め付け、吸い上げ、俺を内奥へといざなうのだ。
 やよいは意識していまい。俺を受け入れた彼女の肉体が、俺を抱きとめようと
うごめいているのだ。
「やよい、やよい、入ったぞ」
「は……はい、プロデューサー、わかり、ますっ」
「痛くないか?」
「へいきです。プロデューサーは、きもち、いいですか?」
「ああ。気持ちいいぞ。やよいはここも、元気いっぱいでかわいいな」
「は、恥ずかしいですよぅ」
 破瓜の痛みはあるに違いない。眉間の皺がその証だ。しかしやよいはそうは
言わず、俺を気遣ってこんなことを言う。
 いとおしさに興奮がますます高まり、今にも破裂しそうだ。
「ひぁ、中で、おっきく……っ」
「ごめんなやよい、お前がかわい過ぎて止められない」
「ふう、ふぅ、っ、い、いいんです、プロデューサーも、いっぱい気持ちよくなって
ください」
「やよい、好きだ。大好きだ。愛してる」
「あ……わたしもですっ。プロデューサーのこと、だいす、ぅく、ふぁ、ふあああ!」
 びくり、とやよいの体が跳ねた。
「あぅっ、プロデューサー、わたしっ、あのっ、はふぅっ」
「無理に喋らなくていい、ただ感じればいいんだ」
「あふ、ぷろ、ふぁあんっ!」
 俺も限界だった。もっと、もっと長くやよいとひとつでいたいと頭は思っても、
体が、腰がひたすらゴールに向かって激しく動き続ける。
「俺も、もう行くよ。やよい、やよい」
「ぷろっ……はな……わた、し、を……ぉっ」
「やよい、いっしょだ、最後まで、いっしょにいるよ」
「あはああっ!」
 両腕に強い力がこもる。抱き締め返すと同時に、小さな体が激しく痙攣した。
「わたしをっ!離さないでぇっ!」
「やよいいぃ……っ!」
 捻じ切られそうな快感の中、俺も猛りの全てをやよいの体に吐き出した。
一度、二度、三度、荒ぶる奔流はびくびくと音を立てて小さな体になだれ込んでゆく。
 俺たちは互いをきつく抱き締め合い、激しく長いキスを交わしたまま、
いつまでも絶頂を迎え続けた。

****

 コンドームは誇張抜きで水風船のように膨らんでいた。最中に破けたり外れたり
していたら大変なことになっていたろう。
 気を失ってしまったやよいからそっと離れ、後始末をする。ウエットティッシュで
額の汗を拭いてやっていると、薄く目を開けた。
「……ぷろでゅーさー」
「やよい、おはよう。大丈夫か?」
 瞳を巡らし、状況を確認したのだろう。俺の顔を見て嬉しそうに笑ったあと
いきなり、すさまじい渋面を作った。
「おマタがびりびりしますぅ」
「ごめん。調子に乗りすぎたかも」
「……でも」
 再び笑顔に戻り、横になったまま俺に向かって両手を広げる。俺もまたやよいに
覆いかぶさり、抱き締めてキスをした。

「ん、ん。でも、うれしかったです」
「俺もだ」
「気持ちよくなってくれましたか?」
「もちろんだよ。ほら」
「うえぇ。えへへ」
 根元を縛ったゴムを見せると、びっくりしたような顔をした。それからゆっくり
体を起こし、裸のままの俺の下半身に視線を移す。
「プロデューサーのおチンチン、元に戻っちゃいましたね」
「満足させていただきました」
 しげしげと眺めているので興味があるのかと見ていると、ふいに身をかがめて、
ちゅっ、と口づけた。
「おつかれさまでしたっ」
「なんだよそれ」
「えへへ、なんとなく」
 俺も起き上がって、やよいの頭を撫でる。
「取り扱いに注意してくれよ。うっかり刺激すると、また元気になっちまうぞ」
「ええっ?ほんとですかっ?」
「いいから服持って、シャワールーム行って来い。このまんまじゃ帰れないだろ」
「はあい」
 やよいが去った後のシーツには小さな赤い点々。これは後始末が厄介だ。やよいを
家へ送り、戻ったら現状回復と証拠隠滅にかからねばならない。
「……もうおとなです、か」
 たどたどしい言い訳に使った方便だったが、やよいに大きな決断をさせてしまう
ことになった。法律からも一般常識からも外れたことをしでかした俺には、
これからのやよいを正しく導いてゆく責務がある。
 身勝手とは思う。それでも、やよいを愛し、秘密を守り、彼女を健やかに育て
なければ、やよいの決心も実を結ばない。
 彼女を護ってゆくことが、大人としての俺の……。
「あれっ?」
 ふと、あることに思い至った。
――社会に出て知り合う誰かを好きになったら、それはおとなになったっていう……。
 俺は、今まで誰かを好きになったことがあったろうか?ただただ無邪気だった
子どもの頃、部活に明け暮れて周囲に男しかいなかった学生時代、社会人になって
知り合った女は商売女。
 どうやら、俺の初恋はやよいということになりはしないか。
 と、いうことは。
「……は、はは」
 ふいにおかしさがこみ上げてきた。素っ裸のまま、また小部屋に倒れこんで
笑い声を上げる。
「わはは、なんだよ。俺も今さっき、おとなになったばかりじゃないか。はは、
あははは」
 偉そうなことを言える立場ではなかった。やよいが俺を大人にしてくれた
のだ。今しがたのめくるめく行為が、その折々のやよいの愛しい表情が、俺の
脳裏を駆け巡った。
「あっはっはっは!ちっきしょうめ、あいつ、かわいいなあ」
 大して離れていないシャワー室にも笑い声が届いて、今ごろやよいは首を
かしげているかもしれない。かまうものか。
 青二才の俺を大人にしてくれた大事な女だ、人生かけて護ってやろうじゃないか。
その鬨の声が呵呵大笑でなにが悪い。
「あははは。やよい、愛してるぞお。わはははは!」
 俺の決意の爆笑は結局、心配になってシャワーを切り上げたやよいが戻って
くるまで続いたのであった。




おわり

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