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「さんたくろーすの仕事、ですか?」

四条さんが「はて」と首を傾ける。
どうやら四条さんは「サンタクロース」というものを知らないようだった。
それで私は、「イブの日に子供たちにプレゼントを届けるんですぅ!」と言い換えた。

「なるほど……」
「あの、それで、約束していた24日、行けなくなっちゃって……」

自分でもだんだんと声が小さくなっていくのがわかった。目頭が熱くなって、泣きそうにもなる。
ずっと楽しみにしていた日だった。四条さんと二人、一緒に過ごせる、大切な日。
けれど、アイドルとしての仕事なのだ。しかも相手は純真無垢な子供たち。断れる立場でもないし、なにより私自身が断れるはずなんてなくて。

「雪歩、顔をあげなさい」
「四条さん……」
「仕事ならば、仕様がないですよ。雪歩が気に病む必要はありません」
「で、でも、わたし……っ、あの」

私はますます泣きそうになって、冷静じゃ、いられなくなる。
いつもそうだ。誰の前だってそれは変わらないけど、四条さんの前じゃ特に、目もあてられないくらいひどい姿を、していると思う。
けれどそれくらいに必死になってしまうくらい、私は四条さんのこと。

「……なら、雪歩。その日仕事に行く代わりに、私にもそのさんたくろーすとして贈り物をください」

どうしても顔を上げられない私に、四条さんの優しい声。
これも、いつも。
四条さんはただ「大丈夫」「気にしてないよ」と言うだけじゃなくって、私が顔を上げやすいように、言葉を掛けてくれる。

「……は、はいっ!絶対、絶対に届けに来ます!約束します!」
「ふふっ、約束です」

私と四条さんの、新しい約束。
それだけで沈んでいた心は大きく舞った。



「萩原さん、これから次の現場直行!いける?」
「は、はいぃ!」

サンタクロースの仕事は、思ったよりも重労働だった。
12月24日。『萩原雪歩、サンタクロースで頑張りますぅ!』という特別番組の収録で、世間はクリスマスイブで浮き足立ったその日、私は幼稚園や保育園、施設にいれられている子供たちにプレゼントを渡すサンタとして街中を駆け巡っていた。
思ったよりも重いプレゼントの入った白い袋を肩にかついで配り、それが空になるとまた新しいものと取り替えて車に乗り込み次のところへと向かう。
それでも子供たちの笑顔を見れることが嬉しくって、「もう無理ですぅ」という弱音は不思議と出てこなかった。
なにより、この後四条さんに会えることを、そして子供たちと同じように、プレゼントを渡したときこんな顔をしてくれるだろうかと想像して、わくわくした。

お昼の休憩時に、一度だけ携帯を見てみた。
四条さんからの着信も、一度もはいっていなかった。

――――― ――

「お、お疲れ様でしたぁ!」

一日中重いものを持っていたせいで、軋む身体を無視して私は夜の街を駆け出した。
寒いとか、苦しいとか、そんなものよりもまず、私はまた四条さんとの約束を破ってしまったことに関する罪悪感や悲しみでいっぱいになっていた。

仕事が終わったのは、もう日付がかわる直前だったのだ。
まさかそんな時間までかかるとは思ってもみなかった。
途中、子供たちが飛び掛ってきたり欲しいおもちゃではなかったのか泣いてしまう子もいたけれど、ハプニングというハプニングもなかったのに、きっと私がのろまなせいで――

「四条さんっ」

途中タクシーを拾い、急いで駆け込んだ765プロ事務所。
扉を開けたそこにはただ暗闇があるだけで、私はへなへなと座り込んでしまった。

四条さん、もう遅いから帰っちゃったのかな。私が、約束守らなかったから……。

「……雪歩?」

突然、声がした。
ハッと顔をあげると、闇に慣れた目がもぞもぞと奥のほうで動く影を捉えた。それが四条さんとわかるまで、ものの数秒もかからなかった。

「し、四条さん……」
「ああ、雪歩……帰ったのですね。お疲れ様です」

「申し訳ありません、私、眠ってしまっていたようで……」と滅多に聞くことの出来ない寝起きの声で付け足し、四条さんは私に近付いてくる。
そして、入口のあたりで座り込む私を見て「雪歩、どうしたのです?」と少し驚いたようにそう言った。

「四条さん、あの、私……私っ、また約束守れなくって……!」

プレゼントは、ちゃんと用意した。
散々迷った挙句、私と四条さんでお揃いのペアリング。けど。もう、約束の24日は過ぎてしまった。

「雪歩」

項垂れる私に、四条さんはそっと近付いて、そして肩膝をつきその手で私の頬を包んだ。
びっくりするくらい冷たい手だった。
この誰も居ない、ひんやりした事務所で、四条さんはずっと待っていてくれたのだ。なのに私は。

「四条さんっ、四条さん……!ごめんなさい、私、プレゼント……っ、四条さんに届けられなくて……ごめんなさいっ……」
「……雪歩」

名前を、呼ばれる。
外から入る月の光が、四条さんの瞳を綺麗に、照らす。

「さんたくろーすは、ちゃんとぷれぜんとを届けてくれましたよ」
「……え?」
「あなたが無事に帰ってきてくれたこと」

――なにより、聖夜という日に生を受けた雪歩自身です。

「少し遅れてしまいましたが、雪歩。生まれてきてくれてありがとう」

抱き締められる。
冷たい手をもつ、四条さんの、ぬくもり。
四条さんの言葉は、今までもらった

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