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 目を覚ます。時計を見る。時刻は午前7時半。早すぎもせず遅すぎもしない、俺のいつもの起床時間の
はずなんだが……

「何でいつもどおり起きちまうんだろう?」

 今日は約3ヶ月ぶりの、久々の完全オフ。本当は午後から出勤しするつもりだったのだが、社長の

『デキる人間ほど、うまく休みを取るものだよ』

 というお言葉で、全休となったのだ。せっかくの休みだしのんびり朝寝坊をしようと昨日の晩は考えて
いた。しかし習慣というのは恐ろしいもの。目が覚めたのは普段出社しているのとまったく同じ時間。
オマケに珍しく眠気もすっきりで二度寝する気もおこらない。

「しょうがないから掃除でもするか」

 結局そのまま起き、着替えをし、朝飯を食い、でもまだ8時半。正直手持ち無沙汰ということもあって、
普段滅多にしない部屋の掃除に取り掛かることにした。世間一般的な男の一人暮らしのイメージと、さほど
乖離しない俺の生活によってぐちゃぐちゃになってしまった部屋を片付けてゆく。

 ピンポーン

 珍しくドアベルが鳴った。ぶっちゃけ寝るためだけの場所と化している我が家に何のようだろうか。勧誘か何かか?

「はーい、いま出ますよ」

 とはいっても宅配便とかの可能性もあるから出ないわけにもいかず、オレは玄関の扉を開けた。するとそこには、

「「兄ちゃん、おっはよー!!」」

 うちの事務所の双子アイドル、双海亜美と真美が立っていた。別にこの家の場所を知っていることに
不思議はない。前に何度か遊びに来たことがあるし、雨宿りをさせたりしたこともある。問題はその格好だった。

「おはよう二人とも。って言うかその格好は何だ?」

 亜美は真っ黒、真美は真っ白のお揃いの衣装。フリフリが付いたドレスのようなそれは、どこからどう
見てもプリティーでキュアキュア。

「兄ちゃん、今日はあの日だよ、あの日」
「あの日?」
「えーっ、兄ちゃん知らないの!?」

 知らないも何もまったく身に覚えが無いぞ。もしそれがキュアっキュアなやつの記念日か何かだとしたら、
余計に知らない。

「駄目だ、分からない……」
「もう、しょうがないなぁ、兄ちゃんは。ねぇ真美」
「そうだよ。じゃあしょうがないからあたしたちが教えてあげるよ」
「「せーのっ……」」
「「トリック・オア・トリート!!」」

 その言葉でようやく思い出した。そういえば今日は10月31日。

「あぁ、ハロウィンか」
「やっと思い出したの? 忘れっぽいなぁ」
「ということはその衣装は魔女のつもりか?」
「魔女じゃなくて魔法少女! ホントはリリカルでマジカルな格好が良かったんだけどね」

 それよりも別のことが気になった。

「まさかその服でここまで来たのか?」
「ううん、今日イベントがあるからそこまでママに送ってもらう途中に寄ったんだよ。ママは車の中で待ってる」
「それよりも兄ちゃん、肝心なことを忘れてない?」
「ああ、お菓子だろ。すぐ持ってくるよ」
「「やったー!!」」

 喜ぶ二人を後に、家の中へと戻る。

「“お菓子をくれなきゃイタズラするぞ”か。まったく、亜美真美にピッタリなイベントだな」

 一人呟きながらお菓子を用意する。あの二人ならこれで十分だろう。

「はい、飴玉二つずつ。これでイタズラは勘弁な」

 玄関で待っていた彼女たちの手にのせたのは、イチゴ味とメロン味の飴。赤と緑でこの子たちにも
丁度いいだろう。だが、

「兄ちゃん、亜美たちを馬鹿にしてるの?」
「ホントだよ、こんなもんじゃ満足しないね。というわけで、」
「「イタズラけって〜い!!」」
「ぬわ!」

 そう叫ぶと二人は俺を押しのけて勝手に家の中にあがっていった。

「ああっ、やっぱり兄ちゃんいっぱいお菓子持ってる、これぜ〜んぶ没収!」
「ちょっと待て、それは大事な夜のお供……」
「このゲーム、前欲しかったやつだ。借りてくよー」
「それは、もうちょっとでクリアするところ……」
「この写真集、ハダカばっかりだよ。兄ちゃんってやっぱりムッツリスケベだ」
「違う、それは千早の写真集の参考にしようと……」
「でもこの人オッパイ大きいよ?」
「関係ない。それよりもあんまり問題発言しないでくれ」




「じゃあねー兄ちゃん」
「来年はちゃんとお菓子用意しといてよー、バイバーイ」

 亜美と真美が立ち去った後。それまではただ散らかっていただけの部屋のはずだったが、いまはまるで
台風と地震に襲われたかのような惨状で。その中にひとりポツンと残されて思う。

「あいつらは、悪魔だ……」





 亜美真美が去ってから3時間。ようやく片付いた部屋の中で、のんびりとお茶を飲みながらバラエティー
番組を見ていた。今日も司会のサングラスは元気そうだ。日本中の人が知っている長寿番組。いまは無理
かもしれないが、いつかあの人の隣にうちのアイドルを座らせたい。

 ピンポーン

 と思っていたらまたベルが鳴った。何だろう?

「はいはーい」

 鍵を開けるとそこにいたのは、

「おはようございます、プロデューサー」
「おはよう、千早」

 わが社のアイドル、如月千早だった。ちなみに、俺が担当しているアイドルの一人でもある。でもあるのだが、
まさかこれは……

「なぁ、千早。その格好はもしかして……」
「はい。えと、トリック・オア・トリート」

 照れがあるのかちょっと頬を染める千早。下を向きながらだが破壊力は抜群だ。ただな、千早。
お前にはキュアッキュアな格好は似合わないぞ。大体丈が短すぎだ。ちょっと屈むだけで丸見えになっちまう。
でもそんな傷つけるようなこと本人には言わない。珍しく千早が季節のイベント事に関心を持ってくれたんだ。
昔の千早からは考えられないし喜ぶべきだろ。

「うん、わかった。まぁ、上がれよ」
「はい、お邪魔します」

 部屋を綺麗にしておいてよかった、千早にあの状態を見せずにすんでホッとする。とりあえず彼女には椅子に
座ってもらい、お茶とお菓子の準備をしようとしてハッと気づいた。そうだ、朝あの二人に根こそぎやられてる。
しまったなぁ。

「プロデューサー、どうしたんですか?」
「すまん千早、今朝亜美と真美がハロウィンで家に来
「亜美と真美がですか!? それでどうしたんですか?」

 俺の言葉をさえぎって、エラい剣幕で問いつめる。どうしたんだよ?

「いや、それで家の中を荒らされちまってな、千早に出せるお菓子が無いんだ。ゴメンな」

 慌ててそう言うと、今度はホッとした表情に変わった。いや、むしろ少し嬉しそうな感じもする。こうまで
コロコロと表情を変える千早も珍しいな。

「ふふふっ、じゃあプロデューサーはお菓子を出してくれないんですね」
「ああ。まぁそういうことになるな」
「じゃあ、プロデューサーにはイタズラをしなければいけませんね」

 急に千早が立ちあがる。オイオイ、ドーベルマンのような影が後ろに見えているんだけど気のせいだよな。

「……待て、どうしてそういうことになるんだ」
「わたしは最初に言いましたよ。“トリック・オア・トリート”、“お菓子をくれなきゃイタズラするぞ”って」
「いや、それは分かるがお前までイタズラって」
「うふふ、うふふふふふふふ…… えいっ!」
「ぐあっ!」

 とうとう千早に押し倒されちまった。しかもベッドの上に。ってかいつのまに誘導されたんだよ、俺。

「これでもう逃げられませんね」
「逃げるも何も、って今から何する気だ」
「イタズラですよ」

 千早がゆっくりとズボンのチャックを下ろしにかかる。細い指が慣れた手付きでズボンをずらす。

「なぁ、お前本当に千早なのか?」
「何をふざけたこと言ってるんですか。わたしはわたし、如月千早です」
「でも普段はこんな感じじゃ……」
「何回も言わせないでください、今日はハロウィンです。だから、わたしがいつもされているように、プロ
デューサーにイタズラするんです」

 ようやく千早の本音が分かった。そうか、いつもの仕返しか、こいつめ。

「……いつものがそんなに嫌だったのか?」
「そんな、嫌なんかじゃありませんよ。大好きですよ。だけど、いつもプロデューサーはわたしにイタズラする
のが楽しいって言うので、それで、その、わたしもプロデューサーにイタズラしてみようかと……」

 くそっ、真っ赤になってそんなこと言うなんて。あー、ちいちゃんはかわいいよと。

「……プロデューサー。ここ、大きくなってきましたよ。もしかして、いまわたしが言ったことに反応したんですか?」
「ち、違うぞ、断じてそんなことは……」
「ふふっ、そんなこと言ってもこっちはビンビンですよ」
「や、やめるんだ千早。そんなに激しくこするな」
「どうですか、気持ちいいでしょう。やっぱりプロデューサーは変態なんですね。じゃあこれなんかどうですか?」
「チハヤサン、ドウシテばいぶナンカモッテラッシャルノデスカ?」
「音無さんからもらいました」

 あの年中発情期事務員めええええっっ!!!

「じゃあ入れますね。大丈夫、すぐにプロデューサーも気持ちよくなりますから」
「イヤイヤイヤイヤ、そんなことなっ、アッー!」




「プロデューサー、それではまた明日」

 どこかすっきりとした爽やかな顔で去っていく千早を見送る。痛めてしまった自分の尻をさすりながら、
俺は、あいつ案外Sっ気もあるんじゃね、なら次はそんなプレイも試してみるか、なんてつまらないことを考えていた。




 暖かいのか寒いのかよく分からない空を窓から見上げる。時刻は午後3時。買出しから帰ってきて、ようやく
一息ついたところだ。あっちこっちに浮かんだ雲を肴に、ゆっくりと温かいお茶をすする。これぞ極上の時間、
これぞ至福の時。この俺の楽しみを邪魔するやつは、何人たりとも許さん。

 ピンポーン

 といってるそばからこれか。またかよ。まったく、今日は来客の多い日だ。

「はーい」

 と、出ようとして気が付いた。偉い人は言いました。二度あることは三度ある、と。一応買い物袋の中から
このために用意した物を準備する。供えあれば憂いなし。そして、扉を開けたらそこにはやっぱりの人物。

「こんにちは、プロデューサーさん」

 ああ、偉い人はやっぱり偉かった。本日のゲストアイドル3人目、天海春香さんの登場とは。

「……どうしたんだ春香、今日はオフじゃなかったのか?」

 いきなり地雷を踏むのも嫌なので、遠まわしに聞いてみる。でもなぁ、3時って時間に来ること自体、もう
100%疑いの余地の無い気もするんだよ。

「プロデューサーさん、ハロウィンですよっ、ハロウィン!!!」

 ああっ、春香よ、お前もかぁぁ。何でみんなうちに来るんだよ。でもそれより気になることが。

「春香、ハロウィンってどんなことするか知ってるか?」
「はい。トリック・オア・トリート、ですよねっ♪」
「うん、そうだな。じゃあそれをお化けだったり魔女の格好ですることも知ってるよな?」
「……ハイ?」
「お化けや魔女に仮装した子ども達が、いろんな家を回ってお菓子をもらうイベントだってことは知ってるよな?」
「あははははは。やだなーもう、プロデューサーさんったら、そんなこと当然知ってますよ」

 冷や汗かきながら笑っている春香の服装は、もちろんアナザーでもなんでもない普通のカジュアル。やっぱり
目的のためには手段を気にしない娘だなぁ。

「それよりも、プロデューサーさん!」

 お、いよいよ来るか、こちらも準備は万端だぞ。さっき用意した袋を手繰り寄せる。

「トリック・オア・トリート!」
「はい」
「……何ですかこれ?」
「何って、お菓子だよ。欲しかったんじゃないのか?」

 差し出したのは1本10円の例の棒状お菓子が30本入った巨大な袋。近所のスーパーで手に入れたやつだ。
ちなみにこの30本入り袋、実在している。

「な、なんでプロデューサーさんがお菓子を持ってるんですかー!!!?」
「何だ、足りないのか? じゃあもう一袋」
「じゃ、じゃなくて、こう、お菓子を出してくれないプロデューサーさんにわたしがイタズラする計画は……?」
「失敗だな」
「そんなぁ〜」
「分かった分かった、ならもう一袋つけてやるから。じゃあな春香。明日もちゃんと事務所に来いよ」

 うまい棒90本を抱いている春香に別れの言葉を告げて、俺は扉を閉めた。ふぅ、危ないところだった。




 時間はもう6時半を回った。久々の休日ももう終わり、明日からはまた社会人としての辛い日々が待っている。
別に仕事は楽しいから苦ではないんだが、どうも休みが終わるって響きに抵抗がある。やっぱりまだ学生気分が
抜けていないのだろうか。
 そんなことより晩飯だ。食材らしい食材がまったく無い我が家ではとても食事など出来ない。いつもどおり外食
だな、と思いつつ財布をポケットにねじ込んだところで、

 ピンポーン

 本日4回目のドアベルが鳴った。もういい加減勘弁して欲しいんだが…… と考えつつ、返事はしないものの
それでも応対する俺はやっぱり律儀なのか。

「今晩は、プロデューサー」

 立っていたのは高槻やよい。真打は、ってやつなのか? この娘も本日はオフのはず。それなのに家に来たのは
やっぱりそういうことだろうな。

「どうしたんだ、やよい。こんな夜に?」

 優しく声をかける。そう、もしかしたら違うかもしれないから。ほんのわずかな望みに願いを込めて。

「プロデューサー、えっと、とっくり・おーとりーとです!」

 願いを込めるどころか盛大にずっこけそうになった。やよいじゃしょうがない、とは思いたくないがやっぱりやよい
だもんなぁ……

「やよい、とっくりじゃなくて、トリック・オア・トリートだ」
「ううっ、そうでした。とりっく・おあ・とりーとです」
「うん。もしかしてその白い布はお化けの格好なのかな?」
「はい! おかーさんにいらないシーツを貰って真ん中に穴を開けました!」
「うんうん、よく似合ってるよ」
「うっうー♪ プロデューサーに褒められちゃいました、えへへっ♪」

 ああ、早くこの健気な娘をトップアイドルにしてやろう。やよいを見ていると、思わずそんな風に思ってしまう。

「それじゃあ、はい、お菓子」
「わぁっ、こんなにいっぱい。これすっごく高いんじゃないですか?」
「そんなことないさ、これぐらいまた買ってあげるよ」
「やったー♪」

 やよいを家の中に入れてあげてお茶を出す。ちなみにポンチョのようにまとっていたシーツは畳んで脇においている。
 例のお菓子の袋5つ150本を渡してやると、やよいはすごい喜んでくれた。こんなことならもっといいものを買って
おけばよかったかな。

「プロデューサー」

 ふいにやよいが椅子に座った俺の前に立つ。目線の高さではやよいのほうが上で、珍しく見下ろされる形になった。

「あの、えっと、わたしにいたずらしていいですよ」
「……え? どういうことだ?」

 間抜けな声を出すのを我慢してやよいに尋ねる。

「簡単なことです。お菓子が無ければイタズラする。お菓子をもらうとイタズラされる、です!」
「……それ誰から聞いた?」
「小鳥さんですよ?」

 あの23歳教信奉者、いつか口封じしなければ。

「それは違うんだよ、やよい。お菓子はもらうだけで、イタズラされなくてもいいんだよ」
「そうなんですか…… でも……」

 俺は気づかない。やよいの目が妖しく光ったことに。

「わたしにイタズラするチャンスなんて、そうありませんよ?」
「なっ……!?」
「いいんですか、プロデューサー? わたしにイタズラしなくて」

 トレーナーの裾を、小さな手が少しずつたくし上げていく。見下ろされる目線。怪しく笑うその雰囲気は、
普段のやよいからは絶対に感じられない大人の色気。もはや下乳が見えるぎりぎりまで上げられたトレーナー。
目の前にある白い肌、柔らかそうなお腹の誘惑に負けてしまいそうになる。それは胸でもお尻でもない、セックス
アピールのポイントではない場所。でも、俺はそこに魅了されてしまった。

「プロデューサー」

 やよいのささやきはまるで悪魔のいざないのようで

「さわっても、いいんですよ」

 その一言がとどめとなった。

 そして俺は、しっとりとして、それでいて吸い付くような肌を思う存分堪能した。




 深夜0時、一日の終わりにして始まりの瞬間。今日から11月、今年も残り2ヶ月しかない。
 最近はめっきり寒くなった。でも今晩は大丈夫。一日限定、俺専用の温かい抱き枕があるから。
 電気を消してベッドに潜り込み、ギュッと抱きしめる。お互いの肌が触れ合ってポカポカする。とっても安心できる
温かさだ。病み付きになってしまいそうで怖くなる。
 そして俺は一日の終わりの挨拶をする。また明日から始まる日々を楽しみに想いながら。

「おやすみ、やよい」

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