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「プロデューサーさん、良かったらこちらに……来てもらえませんか?」
「…………」
まだ視線すら合わせられない俺に、答えようがあるわけがない。
そんな俺の背中に向けられた小さな溜息に呆れのニュアンスがないだけましか。

「それなら私がそっちに行きますよ? それともさっきのこと、まだ気にしています?」
彼女の声がいつも通り、いやそれ以上に穏やかで優しいのがかえって辛い。
どうせなら厳しく責められるとか、辛辣に冷やかされるほうがよかったが
彼女の性格ではそのどちらも望めないこともわかっている。

ベッドのスプリングが軋む軽い音。それからややあって俺の背中に密着する体温。
「そんなに自分を責めないでください。私が全然気にしていないのに……」
「でも、あずささん……」
「むしろ嬉しかったのですよ。あなたのお役に立つことができて」
後ろから回された腕が俺の前で組み合わせられ、密着が強まる。
背中に押し付けられている柔らかい感触が、懸命に抗う俺の理性をそぎ落としていく。

「だ、駄目です……俺にそんな資格ありませんから」
今すぐ体の向きを変え、そこに顔を埋めてしまいたい。
先ほど夢中でそうしていたように。そして今抱いている己の欲望がままに。
だが俺はそうすることで、明らかに変わってしまうはずの何かが怖かった。
窓の外では、今は霧のような雨がまだしつこく降り続けている。
そして俺はあずささんの腕の中で、その体温と吐息をしっかり受け止めている。



話は3時間ほど前に遡る。
早朝から始まる番組のロケがあり、前泊することで過密なスケジュールで働くあずささんの負担を
少しでも減らそうと考えた、といえば聞こえがいいが、単に移動の道中を二人きりのドライブと
洒落込みたかった下心なのである。
そのため俺は睡眠不足を懸命に堪えてハンドルを握ったわけだが、車が高速を走り出してすぐに
崩れ始めた天候は山間部に入った辺りで猛烈な豪雨となった。
さすがにいまの体調での運転は危険すぎる、そう判断して手近なパーキングに逃げ込んだのである。
広い駐車場には、俺たちと同じく雨をやり過ごそうという車が何台かいたが、
雨の帳が窓の外を塗りつぶしているため薄暗い車内で身を寄せ合っていると
まるで世界から切り離されたような、そんな不思議な錯覚に陥る。

「通り雨かと思ったけど、なかなか止みませんね」
「いいじゃないですか。こうしてのんびりするのも」
そういって、いつもと変わらない落ち着いた笑顔を俺にむける。
彼女はいつだって慌てることなく、のんびり状況を楽しんでいる。
本来なら俺が支えるべき役割なのに、どれだけ彼女の笑顔に助けられてきたことか。

「時間はたっぷりあるのですから、ここで眠気をとってくださいな」
「休憩は宿についたらたっぷり取れます」
「だめですよ、無理するのは。欠伸ばかりしていたではないですか」
どうやら寝不足と戦いながらの運転はばれていたらしい。
彼女はやんちゃな弟を叱る姉のような仕草で、俺の鼻の頭を指先でつつくと
体を擦り付けるように俺に体を預けてくる。


触れ合う肩先から伝わってくる体温。
目の端には、小さく上下している白い胸元。
俺は無理やり目をそらし、彼女の穏やかな息遣いに意識を集中させる。

「こうしていると本当に寝てしまいそうです」
「眠りなさいな、私が子守唄歌ってあげますから。ふふふっ」
彼女が俺の頭をそろりと撫でてくれるのが少々こそばゆい。
「おやすみなさい、プロデューサーさん……」
頬に下りてきた温かい手のひらに誘われるよう、俺は眠りの中に落ちていく。

疲労と眠気は大きかったが、車内の仮眠ではどうしても中途半端な眠りになりがちで、
こういう時には決まってみてしまう、現実との境界が定かではない夢。
今見ているのも恐らくその類であろう。
眠りに落ちる前に見つめていたあずささんの白い胸元。露出はわずかなのに、
十分深い谷間を形作る、豊かなバストが俺の目の前にある。
目が覚めたと錯覚するほどリアルなディテールだが、俺がそれを夢だと断定したのは
金縛りにあったように、体が意思通り動こうとしないからである。
浅ましくその胸に顔を埋めようとあがくのを諦めまどろみに落ちていく。

バチバチと激しく車の屋根を叩く雨の音。
不意に意識が目覚めた。
車内はほぼ真っ暗で、隣にいるはずのあずささんの姿もはっきり見えないが
腕に伝わる体温と微かな寝息はしっかりと感じ取れた。
まだ夢うつつの俺は半ば無意識のままに彼女の胸に覆いかぶさっていた。
柔らかい乳房の感触と甘い体臭に包まれると、泣きたくなるような焦燥感に苛まれ
必死でしがみつく俺の頭を、彼女の腕が優しく抱き寄せてくれた。

どこか懐かしい安堵感。
それがぼんやりと記憶の底から浮かび上がってくるような気がした。
ハミング。
子守唄。
ぽんぽんと背中を叩く柔らかい手。
たとえようのない安心感が沸き起こる。
遠い昔、優しい腕の中に包まれていた記憶。
目が覚めて真っ先に思い浮かんだのは、とっくに消え去ったと思っていた
幼い頃の母親の記憶だった。
重く蓄積していた疲れも眠気も綺麗に消え去り、すっきりした気持ちで目を明けた俺は
自分があずささんの胸に顔を押し付けているのに気づいたわけで。


「よく眠れました?」
「うわぁぁあっ!」
「あらあら、そんなに慌ててどうしたのですか」
「い、いやいや、あずささん、俺もしかして」
「随分甘えん坊さん、でしたよ? うふふふ、小さい子供みたいに」
そういって、俺の顔はまたしてもあずささんの胸に押し付けられる。
微かに谷間が覗くだけだった胸元は、俺がそうしたのは間違いなさそうなのだが
半分ほど服がずりおろされ、ラベンダーのブラが顔をのぞかせている。
もっと正確にいえばブラもずらした形跡があり、辛うじて隠れている乳首のあたりが
濡れて光っている。
もしかして、もしかすると、俺は寝ぼけてあすざさんのおっぱ……

「怖い夢でも見ていたのかしら。それとも辛い夢?」
彼女はまるで子供をあやすような口調で、抱きかかえたまま頭を撫でてくれる。
羞恥心をわすれそうになるほど、それは心地よかった。
ずっとこうしていたい。いや、またさっきのようにあの胸に……
だが俺は何とかその誘惑を打ち消して体を起こした。

「済みません、あずささん。俺、寝ぼけてとんでもないことを」
いいながら、濡れて光る谷間は見えないことにして乱れた胸元を直した。
「あらあら、寝ぼけていただなんて……」
「ほんと、すみません。忘れてください、謝りますから」
「謝るだなんて……プロデューサーさんは別に変なことしたわけではないのですよ」
「でも……いけません」
それ以上彼女の言葉を聴いていられなかった。
気まずい沈黙が支配する中、俺は運転席に移動してエンジンを始動させた。

それから目的地であるホテルに着くまで、俺とあずささんは殆ど無言だった。
彼女が助手席に戻らなかったのもあるが、ルームミラーごしに目が逢うたび彼女が浮かべる微笑。
それがいつもの優しさなのか、それとも俺のしでかした悪行を寛容するものなのか分からない。
俺はただ胸に顔を埋めただけなのか、それとも秘めた欲望に従ってしまったのか。


長い沈黙。
だけど密着したあずささんの体から伝わってくるのは、熱い体温だけではなかった。
やわらかい胸の感触の向こうから、トクトクと早い鼓動が俺に秘密の暴露を迫っている。

「私……本当にうれしかったのですよ。あなたが私を求めてくれたことが」
「すみません、寝ぼけていました」
「本当にそれでいいのですか? 本当に覚えていないのですか?」
「……あの、俺、ほんとに、何も……」
「ふっ……困った人。あんなに激しく求めておいて。人を本気にさせておいて、
期待させておいて、そうやってとぼけて逃げるつもりなのですか?」

よく覚えていないのは本当だった。
俺は夢の中で、すでに記憶も朧になっているはずの母親のおっぱいを求めていた。
だがそれが懐かしい記憶を追い求めていたのではないことも分かっていた。
俺が本当に欲しいものは。求めているものは。
すぐ目の前にあるのだから。


「あずささん、聞いてもらっていいですか、俺の話」
「ちゃんとこっちを見て話してくださるなら」

彼女の腕から力が抜け、抱擁が解かれる。
立ち上がり彼女を見下ろしたのは、単なる照れだった。
俺のほうが年上なのに、さっきの車内といい、今の経緯といい
ずっとずっと彼女の方が大人だった。
だからせめて今くらい、この重大な決意表明くらいは
男らしく、大人っぽく宣言しておきたかった。

俺を見上げる彼女の目は、もう結末がわかっているよう穏やかな光。
その彼女を見つめながら、しばらくの間俺が迷っていたのは
告白を言葉で伝えるか、それとも唇で伝えるか、そんなつまらないことが理由である。
ようやく心を決め、両手でそっと彼女の頬を包み込んで。

「あずささん、俺、あなたのことが好きです」

彼女がまぶたをとじたのは、きっとこういうことだろうと
俺は屈みこんで、初めてあずささんの唇の真実の柔らかさを知ったのである。



「いいですね、明日は大切な撮影ですから我慢してください」
「も、もちろんです。思春期真っ盛りのガキじゃあるまいし」
「あらあら、車のことは覚えていないのですか」
「いや、だから……あれは、その。いったい俺は何をしたのでしょう」
「やだ、恥ずかしい……そんなこと言えません」
「そ、そんなこと……やっちゃったのですか?」
「えっ、ええっ……何しろ突然のことでしたから、私も驚いてしまって。とても
寝ぼけているようには見えなかったから、てっきり迫られているのかと」
「あぁっ…………なんでそんな大事な記憶をなくすかな、俺」
「ふふふっ、では特別に思い出させてあげますね」
「えっ?」

そういうと彼女は手を伸ばして、照明のスイッチをパチパチと消していく。
フットランプだけが残されたけど、ベッドの上は真っ暗に近くなる。

「さ、こちらにどうぞ、大きな赤ちゃん♪」

やっぱりそうだったか。
この年になって母親のおっぱいにかじりつく夢を見るのも変だと思ったが
とりあえずそれは置いといて、俺はベッドに横たわるあずささんに覆いかぶさっていく。
暗くてよく見えない先端に、キスで再会の挨拶をしたのちゆっくりと唇で包み込む。
すでに固くとがり始めていたそれを、俺は時間も忘れて夢中でなめ続けている。
そんな俺の頭を、やはりあずささんが子供をいつくしむ様に撫でさすってくれる。



おしまい

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