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分からない。
甘え方が分からない。
春香に甘えたい。

「千早ちゃん、どうしたの? 難しい顔してるけど…。」
「え? あ、いえ、何でもないわ。」

春香は私と2人きりになると「ちーはーやちゃん♪」と、甘い声で擦り寄って来て、ベタベタくっ付く。
もちろん嫌ではない。むしろ大歓迎。しかし、私からそう言うコミュニケーションを取った事はない。
私はそれが気に掛かる。いつも春香が一方的に私に甘えるばかりで、私が春香に甘えない事を、春香は気にしていないだろうか。私に迷惑掛けてるとか思ってないだろうか。
ちらり、横目で春香を見る。今は来る途中で衝動買いした雑誌を読んでいる。読み終わったらまたいつものように私に甘えて来るのだろうか。なら、チャンスは今。
しかし…甘えると言っても、具体的にはどうすれば良いのかしら。春香みたいに猫撫で声で擦り寄って…って言うのは、ちょっと、恥ずかしい。それに、雑誌を読んでるのにいきなり抱き付いたりしたら迷惑じゃないだろうか。なら、まずは手を繋ぐとか、軽いスキンシップから始めましょう。その上で私の気持ちをちゃんと春香に伝えて…よし、これで良いわね。誤解やすれ違いのないように、言動には気を付けなければ。

「春香。」

緊張で体が固くなる。思わず正座してしまったが、これはちょっと不自然だったかもしれない。

「千早ちゃん?」

春香が首を傾げる。目が合うと更に緊張する。目を閉じて呼吸を整える。私が緊張し過ぎているせいで春香まで緊張させてしまっているようだ。落ち着きなさい私。これからするのはただの軽いスキンシップなのだから。自分から手も繋げないなんて、まるで私がヘタレみたいじゃないか。

「春香の体に、触っても良いかしら。」

しん、と静まり返る。部屋に流れるブラームスの旋律、スピーカーの僅かなノイズ。表を通る車のエンジン音、野良猫の声。普段は気にしないような小さな音が、今この瞬間だけは、うるさく頭に響く。
静寂を切ったのは、雑誌が落ちる音。一瞬そちらに目を奪われたが、すぐに顔を上げる。私が見たのは、真赤になって口をパクパクさせる春香。

「はっ!?」

一気に顔に熱が集まり、全身から汗が吹き出すのを感じた。私、今、春香に何を聞いた? 体に触っても良いか、なんて、これは、もしかして、誤解されてる!?

「ち、違う! 違うの!」

思わず立ち上がろうとしてしまった。そして、それは最悪な事に、バランスを崩し、春香を押し倒す格好になってしまった。春香が自分の身を守るように踞る。

「ち、ちはや、ちゃん? …だ、ダメだよ! 私達、まだ、そんな…!」
「違う、違う! 違うの! お願い、聞いて春香! 違うの!」

違うって何が? 自分でも何が何だか分からなくなってきた。春香の体に触れば良いの? …って、違う! 落ち着いて私!

「とにかく、違うから。」

はぁ、と息を吐き、体を起こす。少し距離を置いて座り直した。春香が落ち着いたのを見計らって、声を掛ける。

「春香に、甘えたかっただけなの。…でも、私、どうして良いか分からなくて…取り敢えず、手を握ろうと思っただけなの
。」
「あ…な、何だ、そう言う事だったんだ。」
「ごめんなさい。春香はいつも甘えてくれてるのに、私は、全然…。」

情けなくて涙が出そう。これではヘタレと言われても何も言い返せない。

「千早ちゃん。」

春香がすっと顔を覗き込んで来る。

「千早ちゃんがそう思ってくれるだけで、甘えてくれてるって感じるよ。」

春香は、そっと私を抱き締めてくれた。



「ねえ、春香。」

春香の温もりを十分に堪能した後、私はさっきのやり取で気になった事を聞いた。

「『まだ』って、どう言う事?」
「え? まだ…?」
「さっき、私が間違って春香に倒れ込んじゃった時。」
「…あっ。」

真赤になって違う違うと連呼する春香を見て、釣られてまた顔が熱くなったが、ヘタレ返上のチャンスはあると思った。

このページへのコメント

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Posted by 名無し 2013年06月15日(土) 04:00:51 返信

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