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私、困っているんです。
実は961プロの毒婦が、私のライバルになるかもしれないんです。
「ほほ、何を言い出すのかと思いきや。萩原雪歩。
あの御方は私に唇を許す事はおろか、指一本触れさせる事さえ許して下さいませぬのに」
そうは言われても四条さんみたいな素敵な方でしたら、微笑むだけでも充分なはずです。
私みたいな貧そーでちんちくりんな娘じゃ、相手になりません。
「萩原雪歩。あの御方を疑う等、有ってはならぬ事です。
常に御心へと副うように、御手を煩わせる事の無い様に、かように振舞う事こそが奥の勤めでは御座いませぬか」

そうですよね。御母さんもそうやって御父さんと一緒になったんですし、疑っちゃいけませんよね。
「すみません四条さん、変な事を言ってしまって。
実は四条さんがプロデューサーの事を、とても愛しむ様な表情で見ていたのが気になってしまって」
「萩原雪歩。それは貴女方がとても仲睦まじく歩いていたので、ほほえましく感じただけですのに。
私も女ですから、想い人に連れ添う貴女を羨ましく思っているのですよ」
そんな、まだ私はプロデューサーの恋人なんかじゃありませんよ。まあ、とても近い位置にいるのは確かですけれど。
やっぱり四条さんは素敵な人です。何だか私達、良い御友達になれる気がします。



この男は最低だ。私が気付いていないとでも思っているのだろうか?
時折彼女――961プロの雌狐――を見詰るあの瞳、抑えても抑えきれない憎悪に濡れた瞳。
それは……私がプロデューサーを見詰る瞳と同じものだ。
私にあれだけの事をしておきながら、この男は私を見てはいない。
プロデューサーの心は、四条貴音への憎悪に塗り潰されている。
私以外の女に心を奪われるだなんて――許せない――

「まあ、閨での秘め事を外へと洩らすとは……これではあの御方に捨てられるのも、無理はありませんね」
安い挑発、だが値を吊り上げる気は毛頭無い。せっかく相手が売付けてくれたのですし、言い値で買うとしましょうか。
「私の口から申す事は、何も御座いません。気になるのでしたら、あの御方に自ら聞いてみては如何ですか?
あの御方は聞けば必ず応えてくださいますよ、如月千早。嘘で塗り固めた言葉を」
そんな事は知っている、あの男の言葉を信じる事等出来はしない。だからこそ、貴女に聞いているというのに……

「重ねて述べますが、私の口から申すべき事は一切ありません。ああ、それともこう言えば良いのでしょうか?
『どうせ俺が何を言っても、御前は信じない。だから千早、俺は常に御前が望む事を口にしているだけだ』と――」
全力で右肘を振り切る。乾いた音がはげしく響き、手の平に痺れが走る。遅れて四条さんの体が崩れる。

「羨ましいのですか? 如月千早。私が貴女の知らないあの御方を知っている事が。
私が、誰よりもあの御方を理解している事が」
許せなかった。あの物言いは、間違い無くプロデューサーのものだった。
私に対してそんな口を利くことが許されるのは、ただ一人だけ。……しかし、興醒めだ。
あの男ならば、怒りに感けて手首のスナップを利かせえなかった事に対して、言葉を続けるであろうに。

「いえ、御心配無く。少々立ち眩みがしただけです」
物音を聞きつけたのだろうか、人がやって来てしまった。
水を注されたのは相手も同じ様で、私達はにこやかな挨拶を交わしてその場を離れた。

「あなた様、今宵もあなたの妾が御機嫌を伺います」
「誰がこんな所までと乞い願った」
夜の帳が天を覆う頃、私は何時もの様にプロデューサー殿の許を訪れる。
「本日は碌なもてなしも出来ず、大変失礼致しました。よもや、日の出ている内に御逢い出来るとは夢にも思いませぬもので」
「夢も現も変わらんさ。貴音、貴様が居るからな」
「その様に御優しい言葉を御掛け下さるとは、もしや私を身請けしてくださる気が、少しでも御有りなのですか?」
「今日はうちのアイドルを随分と可愛がってくれた様だからな、その返礼だ」


プロデューサー殿の右足首に鎖を付ける。
「まあ、そんなにも萩原雪歩を可愛がっておられるのですか?」
「ああ、その通りだ」

プロデューサー殿の左足首に鎖を付ける。
「何と力強い御言葉。
では無論、如月千早を愛しておられるのですね」
「ああ、その通りだ」

プロデューサー殿のネクタイを外し、自らの首に巻き付ける。
「そして、私の事が御嫌いなのですね?」
「ああ、その通りだ」

ベットに横たわるプロデューサー殿の腰へ、馬乗りになる。
「何とつれない御言葉、私の身は悲しみの余りに張り裂けてしまいそうです」
「ならば己の手で、その身を引き裂いて見せよ」

プロデューサー殿の手にネクタイを握らせる。
「貫かれ引き裂かれるは女の本懐、自らの手でその様なはしたない真似等致しませぬ。
私の股を引き裂くのは、あなた様のものでしか御座いませぬのに。
さ、どうぞゆっくりと御賞味下さいな。ざくろの様に美味ですから」
「賢しい女は好まぬ」
「まあ、何が好まれぬのでしょう? 失礼の無い様、あなた様の前ではきちんと衣服を身に着けておりますのに」
「白々しい歓待等いらん。何より薄布一枚を衣服とは呼ばない、覚えておけ」
「そう仰らずに、心よりのおもてなしをさせて頂きますので」


プロデューサー殿の上着を脱がせる。
「それにあなた様は逃げられぬのですから、御ゆっくり――御寛ぎ下さいませ」
「こんな事が貴様の言うもてなしか。縛り付けねば何も出来ないのか? 悪趣味にも程がある」
「これは手厳しい御言葉――さすがはあなた様。
この様に囚われなすがままにされようと、その気高さには微塵の曇りもありませぬ。
この気高さが――剛直にも現れているのですね」
「戯言を」

腰の下の熱源を確かめる。
「私も肉体には少々自信が有ります。如何ですか、私の乳房は?
綺麗な形をしていませんか――色も鮮やかな桃色で申し分ないのでは。
あなた様を包む御尻も――大きくて柔らかで、御気に召しませんか?」
「低俗な話だ」
「低俗と言われるならば、俗世の事も御話致しましょうか」


プロデューサー殿にもたれかかり、覆いかぶさる。
「縛り付けねば何も出来ぬのは……あなた様の方では御座いませぬか?」
「――――」
「萩原雪歩は――何れ、如月千早を殺すでしょう。
本日は光を中て、彼女の心を押し止めて擱きました。
ですが――肉欲で女の心を縛り付ける事が出来る等とは思わぬ事です」
「……」
「如月千早は――何れ、あなた様を殺すでしょう。
憎悪の種は蒔かれました、他ならぬあなた様の手によって。
後は……ほんの少し水を撒いてやれば良いだけ。
本日は毒を中て、彼女の心を育てておきました。
あなた様――肉欲で女の心を縛り付ける事が出来る等とは思わぬ事です」
「……」
「あなた様を受け入れ、愛する事が出来るのは……私だけですのに」
「いらぬ世話だ」
「私は心の底から想い煩っているのですよ。
あなた様に肉の悦びを迎え入れて頂く為には、どうすれば好いのかと」


プロデューサー殿の顔を攫み、目を遭わせる。
「あなた様の仰るとおり、これは戯言かもしれませぬ」
「無駄な事はするな、所詮長くは続かぬ」
「殿方にとって長続きせぬ事は、恥ずべき事でしょう。ですが女にとっては、その一時は得がたいものなのです。
あなた様をどのように扱うかは全て、如月千早の自由――とても栄誉な事なのです」
「俺は貴様をものにする気は無い」
「私はあなた様に快楽を感じて頂きたいのです。
たっぷりと御奉仕させて頂きますから、私を貪り飽く事無く喰らって下さいませ」
「肉と心は違う」


プロデューサー殿が私を押し退ける。
「逃れられると御思いですか?」
「……」
「あなた様の心は――萩原雪歩の許にあります」
「――――」
「あなた様の肉は――如月千早の許へ向いつつあります。
彼女が孕めば、私はもう手の出しようがありません」
「――――」
「ですが――あなた様の魂は、最早私のものです」
「しかし貴様は俺のものではない」

男を押さえつけ両手に鎖を付ける。
「本当に気難しい御方ですね。憎たらしいくらい。
やはり、女を重い煩わせるのが御好きなのですね」
「覚えておけ――肉欲で男の心を縛り付ける事が出来る等とは思わぬ事だ」
「さあ、早く私を迎え入れなさい。肉を割り、子宮へ癒えぬ傷を憑けるのです。
孕みさえすれば――肉もまた私のもの。
かくあれば――それに引き摺られ、心もまた私のもの。さあ、共に永遠となるのです」

男の首に鎖を巻き付け引き起こす。
「難しく考えるな、俺はもう貴様のものだ。それは変わらぬのだから」
「私にも女としての意地があります! 殿方より求められぬ等、屈辱にも程があります。
肉も霊も星界体も瑣末な物です。あなた様が私を求めて下さらぬからこそ、証が欲しいのでは御座いませぬか。
抱いて下さいませ……一度だけで好いのですから。その思い出さえあれば……私は他に何も望みませぬ」
プロデューサー殿が立ち上がり私の許を離れる。
「そして貴音は全てを手に入れる……か」


「御早いのですね。女を満足させるのも、殿方の甲斐性では御座いませぬか?」
「あいにくと甲斐性は無くてね、だから未だに嫁さんも貰えない」
日の光が差し込み、繋いだ鎖が溶けて消える。
「暇を請う事さえも、許しては頂けぬのですか?」
「許さずとも、貴音は口上を述べるだろう?」
「愛しております、あなた様。また夢の中で御逢い致しましょう。
あなた様の命の灯火が費える事を、心より願っております。
あなた様の魂は私のもの、御忘れ無き様に」



そして穏やかな夢は覚め、血濡れの現実が悲鳴を上げる。
導火線はとっくに燃え尽き、至る所で産声を上げる。
「おはよう御座います、プロデューサー。お茶を入れましたけど、飲んでくれますか?」
「おはよう。雪歩は今日も可愛いな」
雪歩の左手に指輪が光る。
確かめるまでも無い。あれは俺が千早に渡したプラチナのリングと同形のものだ。
誰が入れ知恵したのかと――悩む暇も無く背中を刺される。
「おはよう御座います、あなた様。あなた様の書いて下さった紹介状により、事務の仕事につく事が適いました。
何とお礼を言って良いのやら。私は事務所に常駐しておりますので、末永くよろしく御願いいたしますね」
挨拶もそこそこに企画書に目を通す、次のライブの衣装はナイトメア・ブラッド。
氷の女王―如月千早―の新たな側面を描き出す小道具だ。
「おはよう御座います、プロデューサー。午後のレッスン御願いしますね」

「脱げ」
そして何時ものように千早を抱く。
「忘れるなよ、千早。御前はもう俺のものだ。逃げようとしたら殺してやる」
彼女は露骨なまでに媚を売る……まるで貴音の様に。
堕ちて行く――二人で――どこまでも。
相手は雪歩か……それとも千早か……あるいは……



「愛しております。あなた様」

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