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「寄り道すんじゃねえぞー」

 その日のレッスンを終えて帰路につくアイドル候補生達を見送る。
 黄色い笑い声を口々に響かせながら、此方に手を振ってくれる様子には俺も、手を振って応じる。
 彼女たちはまだ俺が受け持って日が浅い、中々輝く物を持っていそうだが…判断は難しい。

「さ、残りの仕事を片付けますか」

 今日も恒例となった残業に取り掛かる。
 候補生たちが居る間はまず付きっ切りで指導しているので、どうしても事務関連は後回しになってしまう。
 確かに残業ばかりの日々は滅入るがこれが俺のやり方だから、こんなのは今更だった。
 デスクに向かい山積みになった書類にざっと目を通していると、ふと、俺のではないのが混ざっているのに気付く。

「…これは、小鳥さんのか?」

 数多の書類に紛れて見つかった書類、サインを見れば小鳥さんので、恐らく何かの手違いで紛れ込んだのだろう。
 思えば俺の所属する765プロも大きくなったもので、それだけ仕事も増える。
 だから昔では考えられなかったこういう些細やミスも出てくるものだろう、目くじらを立てる事ではない。
 俺のデスクから小鳥さんのデスクは近くは無いが見える位置にある、が、肝心の小鳥さんは居なかった。
 いい加減よい時間なのでもう帰ったのかと思うのだが、よくよく見れば小鳥さんの荷物らしいのが見える。
 …どうやら、小鳥さんも残業らしいと踏めば、書類を届けるべく俺は立ち上がる。

「…机に置けばいいんだろうけどな」

 自分だってまだ仕事は残っているのだから、正直…こんな事をしている暇ではない。
 けれど、直接小鳥さんに届けたかったんだ、俺は。

都心の一等地に立てられた高層ビル、その全てが765プロの事務所ではないものの、規模は相当な物だ。
 昔のように安物賃貸のビルとは違うが、探すと決めた以上、一つ一つ回って探すしかない。
 そして会議室の明かりが点いている事に気付いた時、俺は思わず脚を止めた。

「…これは」

 会議室から何かが聞こえた。
 一瞬空耳かと思ったが直ぐに違うと判る。
 聞き間違う筈が無い、俺の耳に届くのは―…歌だった。
 ちゃんとした歌ではなく、ハミングのような…軽い調子で口ずさむ歌だが、俺にはそれが何かはっきりと判る。
 そして同時に、会議室に居るのが小鳥さんであると直感した。

「小鳥さん、居るんですか?」

 軽くドアをノックすると、向こうから声が聞こえる。
 矢張り小鳥さんだった。

「今夜も残業ですか?」
「小鳥さんもね」

 会議室のドアを開けて出迎えてくれた小鳥さんと交わす他愛の無い遣り取り、直後にクスリと響く二人分の笑い声。
 俺は会議室に入りながら小鳥さんに紛れていた書類を手渡す。
 小鳥さんも書類が足りないのは気付いていたらしく、俺の所にあったことに驚きながらも御礼を言ってくれた。

「あの娘ね、まったくしっかりして欲しいわ」

 最近事務の雑用を始めた社員の娘の愚痴を零す小鳥さんだが、怒っているというより、仕方ないという感じだった。
 俺もそれに同意しながら笑い、暫く笑った後…小鳥さんに言った。

「さっきの歌、小鳥さんの歌ですよね」

 俺の言葉に小鳥さんが驚き、目を丸くして俺を見詰める。
 なんで?と、凄く意外そうな顔だった。

小鳥さんが元アイドルだという事を、今765プロに居る人がどれだけ知っているだろうか。
 驚いたまま固まった小鳥さんに笑いかけながら、俺は先程小鳥さんが口ずさんでいた歌を歌う。
 本格的なアイドルの歌なので、男の俺が歌うのは凄く変だが…それでも、ちゃんと歌える自信はあった。
 そしてそれは何より、余計に驚き、呆然とした小鳥さんの顔を見れば実証されたと言える。

「…な、なんで?そりゃ、知ってても…」

 小鳥さんは未だに驚いたまま、頭が巧く回らないのか…混乱したような面持ちだった。
 俺は小鳥さんを会議室の手頃な椅子に座らせながら口を開く。

「確かに俺と小鳥さんは付き合い長いですね、まだ765プロが弱小プロだった頃からですし」
「え、は、はい…」
「でも、それで知ったんじゃないんです。俺は最初から知ってました」

 小鳥さんは俺が765プロに入る前、まだ765プロが立ち上げられた時…最初にデビューしたアイドルだった。
 当時は765プロは文字通り“ヒヨコ”同然で、そんなプロダクションからデビューした新人アイドルが日の目を見る事は無かった。
 小鳥さんがアイドルだったのは、ほんの数ヶ月…ランクで言えばFかEそこらで、他の星の数ほどいるアイドル同様―
 マイナーアイドルのままその活動に幕を下ろした。

「…私は…」

 そして小鳥さんがアイドルだったという事実は埋もれ、忘れ去れて…今に至る。
 小鳥さんは765プロの事務員で、きっと周囲の認識もそれ以上も無くそれ以下でもない。
 でも、俺にとっては違った。

「俺はね、小鳥さん。
 最初に高木社長にプロデューサーにならないかってスカウトされた時、
 765プロだって聞いて、真っ先に小鳥さんの事を思い浮かべました。
 俺、小鳥さんのファンだったんです。
 小さなライブハウスだったけど、ライブにだって何度も行ったんです。
 CDだって持ってますし、だから、さっきみたいに歌えたんです」

 小鳥さんがアイドルだった当事はまだ俺はちょろ甘の学生だった。
 ファンだったアイドルが急に姿を見せなくなったのは、ショックだったのを覚えている。
 でもそれが何の縁か、高木社長に見出された。
 765プロなら…引退した小鳥さんに会えるかと思った。
 俺にとってはデビューを待つアイドル候補生達なんか、二の次だったんだ。

「…そう、だったんですか」

 小鳥さんは俺の言葉を聞いて、少しだけ納得したようだった。
 でも、小鳥さんの表情は暗くて…それが俺には少し辛かった。

「ええ、俺…小鳥さんの歌が大好きでした。
 小鳥さんのライブ見て、何度も元気を貰いました」

 俺は当事の情熱を思い出すように、言葉にも熱っぽくなってしまう。
 そんな俺の言葉に、小鳥さんが零した笑みは何処か自嘲的で、痛々しかった。

「…でも、そんな私が事務員で…さぞガッカリしたでしょう?」
「とんでもない!」
「え…?」

 小鳥さんの気持ちも判らなくは無い…。
 マイナーとはいってもアイドルデビューした女性が、花咲かせず…事務員に落ちぶれていたと。
 だが、そんな小鳥さんの言葉を、俺は全力で否定した。

「小鳥さん、俺がまだ…前も後ろも判らない新米プロデューサーとして入社した時、
 最初に事務所で俺と会ったとき…小鳥さん、何て言ったか覚えてますか?」
「…ええと…」
「俺は覚えてます。忘れるわけありません。
 小鳥さんは溢れんばかりの笑顔で、一緒に頑張りましょうって、俺にエールをくれたんです。
 …忘れてしまいましたか?
 小鳥さんライブの時にも、言ってましたよね」
「…!」

 俺は相当熱が入っていた。
 正直…アイドル候補生達を指導するときですら、見せないほどの熱意で。
 俺の言葉に小鳥さんは両手を口にあて、はっとなったような顔を見せる。
 ―思い出してくれたようだ。

「狭いライブハウスでしたけど、小鳥さんは元気一杯で…。
 ライブを始めるときに何時も言ってたじゃないですか」
「……“私もまだ、デビューしたてだけど…一緒に、頑張ろう…”…」
「そうです。ファンと一緒に、歌って、盛り上がって…俺、凄く大好きでした」
「ああ…」

小鳥さんは両手で顔を覆って、小さな声を零して、涙ぐんでしまった。
 俺も心なしか、目が…熱い。
 今まで小鳥さんと一緒に仕事してきたけど…この事を今まで話したことは一切無かった。
 小鳥さんは自分がアイドルだったことを、忘れてしまったような気がしていて…。
 話が出来る雰囲気じゃなかった。
 でも、さっき…自分の歌を口ずさんでいる小鳥さんを見て、黙ってる事は出来なかった。

「さっき小鳥さんが口ずさんでるの聞いて…俺、嬉しかったです。
 何年ぶりか、小鳥さんの歌が…聞けて」
「…私は、その…。
 アイドルだった事は、忘れたんです。
 でも不意に、口ずさんでしまうんです…。
 意識しなくても、出てしまう。
 …安心してたのかもしれません。
 今時の子なんか、私の歌なんか知りませんし…。
 私がアイドルだったなんて、思いも寄らないでしょう。
 私が口ずさんでる歌だって、それ昔の歌ですか?って…。
 そう聞かれた事も何度もあります」

 嗚咽を押し殺したような小鳥さんの言葉に、俺は胸が苦しくなる。
 きっとアイドル時代から、色々苦労していたんだろうが…これもその欠片でしかないのだろう。
 忘れてしまいたいほど、忘れられてしまう程昔の事だ言い聞かせていたんだ。
 自分は忘れ去られた存在だって言い聞かせながらも、口ずさんでしまう程に。

「小鳥さん、俺…」
「…凄いですよね」
「…え?」

 そんな時、不意に顔を上げた小鳥さんが俺を見た。
 薄っすらと涙を浮かべた瞳、紅潮した頬に、切なく歪んだ顔…ドキリと、心臓を鷲づかみにされた気がした。

「あんな小さかったこのプロダクションを、こんなに大きくしたんですから。
 高木社長も絶賛していましたよ?
 何人もトップアイドルを育て上げて…彼方に任せれば、大丈夫だって」
「…。」

俺は何も言えなかった。
 確かに、俺はそれだけの実績を上げたけど…小鳥さんに言われると、凄くちっぽけな感じがする。
 小鳥さんの顔は、晴れ晴れとしていた。
 社長が喜んでいる顔が目に浮び、きっと小鳥さんも…嬉しく思ってくれているのだろう。
 でも、なんだろう、俺の心に圧し掛かる…重石は。

「そんな顔しないで下さい。
 私、嬉しかったです。
 今も私の事を覚えてくれる人が居て。
 私…ずっと、後悔してたんです。
 勢いに任せて、デビューしたはいいけど…結局、何も出来ずに終わっちゃいました」
「それは…」
「いいんです。
 それが私の実力だったんです。
 それに、今…私は満足してるんです。
 前途ある大勢のアイドル候補生達が、一生懸命になっている風景を見れて。
 …そりゃあ、羨ましいって思いますよ?
 でも、私は…この仕事が好きなんです。
 アイドルが好きなんです
 みんなが、大好きなんです」

 小鳥さんは俺にそう語りながら、満面の笑みを浮かべていた。
 痛々しさなんか欠片も無く、本当に…今の仕事が、アイドルが好きなんだって、俺にも判る。

「小鳥さん…俺もですよ。
 俺だって、この仕事が好きです。
 頑張ってる皆を見てると、応援したくなるし…手伝いたいって、思いたくなるんです」
「判ります。
 彼方の仕事振りを、皆に対する熱心さを見ていると、見えてきます」
「…でも、俺はそれだけじゃ駄目なんです」
「…え?」

 俺は真っ直ぐ前を見据えたまま、小鳥さんを見詰めて…思わず、小鳥さんの手を握っていた。
 驚く小鳥さんに構わず、俺は言葉を続けた。

「小鳥さんはどうなんですか?
 俺は…小鳥さんの、ファンなんです。
 さっき小鳥さんの歌を聞いたとき、そうなんだって…実感しました」
「…でも…」
「アイドルが好きなんですよね?
 その好きなアイドルの中に…自分は、小鳥さんはいないんですか?」
「…私…?」
「もう引退したとか、昔だからとか…それじゃ悲しすぎます。
 それに小鳥さん…口ずさむんでしょう?
 自分の歌を…」
小鳥さんの顔が徐々に変わってゆくのが見えた。
 驚いて、唖然として、考えて…。
 それが少しずつ、顔が赤くなってゆくのが、可愛かった。

「…私の、好きな…アイドル。
 …私は…」
「…好きになってください。
 辛い事も沢山あった筈ですけど…。
 …俺、ずっと小鳥さんのファンだったんです。
 小鳥さんは今でも、アイドルですよね?」
「…私、アイドルで…。
 いいんでしょうか?」
「決まってますよ、アイドルでいいんですよ。
 誰が何と言おうと、…小鳥さんはアイドルなんです」

 俺だけのアイドルでいい…。
 とんでもない独占欲だと判りきっていたけど…。
 小鳥さんの手を握って、小鳥さんの顔を見詰めていると…。
 自然に、そんな想いが俺の中に沸き上がってきていた。

「…有難う御座います。
 …なんか、悔しいです…。
 みんな、こんな良いプロデューサーに恵まれて。
 私も、彼方がプロデューサーが良かった」
「…それは、出来ませんよ。
 だって俺は小鳥さんのファンなんですから。
 小鳥さんのファンだったから…俺はプロデューサーになったんです」

 屁理屈だなあって思うけど、きっと、そうなんだと思う。
 小鳥さんが居なかったら、今の俺はきっと居ない。

「…それって、なんかズルイです。
 でも、やっぱり…嬉しいです。
 私にはこんな、素晴らしいファンが居てくれたんですね…」

私の手を握ってくれる手が熱くて、私を見つめてくれる瞳が熱い。
 本当に凄い人だなって思う。
 私が何年も悩んでいた、アイドルだった過去を…
 本当に一瞬で、解き解してしまった。

「小鳥さん、俺…小鳥さんのファンでいいんですよね?」

 何度も繰り返し、問いかけてくれる言葉。
 私はその度に頷いて、その言葉に、気持ちに応え様とした。
 でも、どうやって応えたら良いのか判らなかった私を…彼方は―

「…きゃ…!」

 今まで私の手を握っていた手で、逞しい腕で、私は抱きしめられた。
 顔だけじゃなく、身体全体が熱くなるのを感じながら…私は彼を、拒まず、抱き返した。
 彼の熱っぽい口付けが私を火照らせる。
 彼の臭いに包まれて、私は甘い吐息を零して…惑ってゆく。

「…小鳥さん、可愛いです」
「やだ…」

 もうそんな風に言われる歳じゃないのは自分が良く判っているのに…。
 彼の言葉がそう私の耳元で囁くたびに、私は身体の内側から、自分が喜んでいるのを感じた。

「―小鳥さんの身体、凄く熱いです。
 甘くて、いい匂い…」

 事務職の制服、シャツの釦を肌蹴た先に零れる私の胸元。
 何時から愛用するようになった黒いレースのブラジャーに包まれた私の乳房に、彼が顔を寄せて…匂いを嗅いだ。
 全身が火照るような恥ずかしさを隠しきれない中で、やっぱり、悦んでる私が居る。

「…はぁ…っ…!」

 彼の指が私の胸をまさぐり、硬く尖りだした乳首を虐めると…私は我慢できずに声を上げる。
 熱い舌が吸い付く感触に身体が震えるのを押さえきれず、私は彼のなすがままにされて、乱れさせられる。

「…小鳥さんって、普段から判らないけど…。
 本当に凄いボディですよね」
「…ん、……そ、そう…?」

 上半身はほとんど裸で、タイトスカートも捲り上げられて…彼の視界に私のお尻が晒される。
 ブラジャーと同じ黒いレースのショーツも、彼の手によって今にも脱がされようとしていた。

「一時期…凄い露出度でライブしてませんでした?」
「あ…あ、あれは…!」

 彼の言葉に、恥ずかしい昔の記憶が蘇る。
 デビューしても全然人気が上がらなかった私を、当時のプロデューサーは…お色気路線を狙った。
 私は少し身体に自信があったから、狙いは間違ってなかったんだろうけど…。
 結果は散々で、所詮一瞬の事、お色気だけで人気が出るほど甘い世の中じゃない。
 そんな頃の私を、彼は今も覚えていてくれたのが、恥ずかしくて、嬉しかった。

「…俺、あの時の小鳥さん見て…自分を、慰めてました」

 そんな凄まじい告白を彼はすると、怒張した性器を…私の手に触れさせてきた。
 熱くて逞しくて、触っただけでその熱意が判って…私の身体は更に熱くなる。
 きっと彼の目には、準備万端な私の性器が丸見えなんだろう…。
 恥ずかしいのに、とても待ち遠しく、望んでいる私が居た。

「…い、今は…どうなんですか?」
「どうだと思います?」

 彼の意地の悪い問い掛けが耳朶を甘噛みされながら、鼓膜に甘く響いてゆく。
 昔の彼は当事の私をオカズにしてくれたけど、今も…そうなんだろうか?
 判らないけど、それを考えると切なくて、感じてしまう淫らな私…。

「あああっ…!」

 背後から貫かれて、私は目一杯大きな声を会議室に響かせていた。
 もう社内には殆ど人は残っていないだろう…その事に安堵しながらも、直ぐに吹き飛んでしまう。
 彼の荒々しい腰使いに翻弄されて、余計な事を考える余裕など無くなってしまう。
 彼が一杯で、彼に満たされて―…私は、幸せだった。

「小鳥さん…!」

 ―彼は私のプロデューサーはなれないと言ったけど…。
 やっぱり、彼は私にとってもプロデューサーだった。
 とても有能で、敏腕な、アイドルのプロデューサー。

「…私はアイドルです。
 彼方の前だけ、…彼方がプロデュースする…。
 彼方だけのアイドル…」

 彼方がプロデュースしてくれるから、私はアイドルでいられる。
 ずっとファンだと言ってくれた彼方だから出来る、私のプロデュース。
 私にとって、彼方は最高のプロデューサーです。

 それから暫くして、765プロに一つの衝撃が走った。
 事務員・音無小鳥結婚、お相手は765プロ一と名高いプロデューサー。
 寿退社するという大方の予想を裏切って、小鳥は事務員として765プロに残った。

 そして後世において数多のトップアイドルを生み出す事になる敏腕プロデューサーが居た。
 その敏腕振りからアイドルマスターと称されたプロデューサーの伝説は―…この時に幕を開けたと言える。
 小鳥は終生プロデューサーの傍らに並び、彼を公私に渡って支え続けたという――…

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