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「大丈夫ですか? やっぱりスタッフの人にお医者さんの手配をしてもらうほうが……」
 一人の少年――いや、青年と言うべきか――がそんなことを言いながら、女性を抱えるようにして歩く。柔らかな印象の、
ともすれば可愛らしいと思えてしまう彼の肩に体をあずけている女性は、銀に輝く髪を振った。
「いえ、休めばなんとか……。あまりことを大きくしたくありませんので」
「そうですか?……ともかく、控え室に」
 言いながら、彼――秋月涼はテレビ局の廊下を急ぐ。彼に抱えられるようにして歩く四条貴音の身を案じて。
「律子姉ちゃんを呼んできますね」
 貴音の楽屋に入り、彼女を椅子に座らせたところで、彼はそう声をかけた。
 秋月律子――彼の従姉でもあるが、世間的には元トップアイドルとして有名であり、業界ではアイドルから765プロのプ
ロデューサーに転身した女性として知られている。現在、貴音を担当しているのも彼女なのだ。
「いえ、律子嬢は時間になれば、戻って参りましょう。それより、出来ましたら、傍にいていただけないかと……」
「あ、そ、そうですね。わかりました」
 体調が芳しくないのだろう。白い膚をさらに白くして、彼女は細い声で頼んでくる。その様子に頬を赤らめながら、涼は
声を張った。年上の女性に頼られている状況が嬉しくもあり、気恥ずかしくもあり、また、同時に緊張もするのだろう。彼
は落ち着かなげに辺りを見回した。
 部屋の奥、畳み張りになっている部分を見つめ、彼女をそちらに移したほうが楽になるのではないか、などと考えていた
のかもしれない。涼は、貴音がなにか物欲しげな表情で彼のほうを見上げているのに気づくことが出来なかった。
「秋月、涼」
「は、はい!?」
 目を落とすと、小豆色の瞳と視線が交わる。涼はどぎまぎする自分を内心で叱咤して、彼女にまっすぐ向かった。
「実はわたくし」
 言いながら、貴音は照れくさそうに目を伏せる。
「お恥ずかしながら、飢えているのです」
「え?……お、お腹すいてるんですか? それなら、えっと、チョコレートがたしか……」
 慌ててポケットを探り、スティック状のチョコレート菓子を取り出す涼。だが、貴音はそれを受け取ろうとはしなかった。
「それでは、だめなのです。この餓(かつ)えと渇きには」
 大仰な物言いに彼女の顔を見つめた涼の視線が、赤い瞳と絡み合う。
 赤……?
 彼は疑問に思う。
 たしかに貴音の瞳は褐色で、見ようによっては赤みがかってもいる。しかし、こんなに近距離で、しかも灰の中に埋まる
燠火のように暗く赤い色に見間違えるはずがない。


 秋月涼の頬を、冷たい汗が流れ落ちる。我知らず体を離しかけ、彼ははっと気を取り直す。
「と、ともかく喉も渇いているっていうなら、スポーツドリンクでも飲みましょう。ね? 僕、買ってきますから」
 なぜだかなだめすかすように言う彼の脚は、しかし、そこから動こうとしない。
「必要ありません」
 貴音のほうは調子を変えるでもなく続けている。気のせいか、瞳の赤はさらに明るさを増し、まるでそれ自体が光を放っ
ているかのように輝きだしていた。
「この渇きを癒やせるものはすでにここにあるのですから」
「え?」
「そう、ここに」
 絡みつく腕の感触を受けて、声にならぬ声が彼の喉から漏れた。疑問に思う事はいくつもあったろうが、どれも言葉にな
らなかった。
「秋月涼、あなたの生命こそが、わたくしの永遠の渇きを、一時なれど癒やしてくれるのです」
「いの……ち?」
 けく、と奇妙な音が、彼の喉の奥で鳴る。それでも動けなかったのは、けして、彼女の手が彼の腕にかかっているからだ
けではなかった。
「ああ、誤解させてしまいましたでしょうか? 生命と言っても、全てをいただこうというわけではありませんよ。そう、
なにも殺そうなどとは思ってもおりません」
 貴音の唇が笑みの形を刻む。しかし、それは笑顔であったろうか。もしそうだとしたら、笑顔とはなんとまがまがしいも
のであることだろう。
 見よ、その唇を割り飛び出してきたのは、真白き牙ではないか。
「秋月涼という個を構成する生命のひとかけら。そう、わずかなひとかけをいただければ、この渇きは収まるのです」
 かちゃん、という金属音がやけに大きく響いた。それは、楽屋の鍵が閉まる音。部屋の中にいるのはたった二人。そのど
ちらもドアには近づいていないというのに、内側からしか閉まらない鍵は、いま、たしかに閉まった。
「たか、ね……さん」
 苦しげに掠れた声が、涼の唇から漏れる。言いしれぬ恐怖と貴音の発する圧力に、彼は立ちすくむしかなかった。
「そう怯えずともよいのですよ」
 貴音の瞳がさらに力を増し、赫々たる光を放つ。もはや涼の視界は血の霞のようなもので覆われてしまっていた。
「吸血の徒などと言われることもありますが、牙を突き立て赤い血潮を飲み干すは子をなすため。渇きを癒やすだけならば、
もっと楽な……そう、お互いに楽しめるやり方というものがあるのですから」
 意識が赤い闇の中に落ち込んでいく中、三日月のような形を作る貴音の口元と、その唇をなめる長く真っ赤な舌だけが、
彼の意識に焼き付いた。


「はあ、はあ、はあっ……!」
 貴音の言葉に抗えぬまま、秋月涼はその膚を全て晒し、畳の上へ体を横たえていた。
 男とは思えぬほどなめらかできめ細かい膚。女と見まがうほどに可愛らしい顔立ち。一種倒錯的な美がそこに生じている。
 しかし、その股間では全体の印象を塗りつぶすほど巨大なものが屹立していた。
 赤黒く怒張し、小刻みに震えるそれは、しかし、彼自身からしても異常な事態であった。彼も立派な男であるから興奮し
て大きくなるのは当たり前に経験している。だが、これほど張り詰めたことが過去にあったろうか。
 まるで射精寸前のようにふくれあがっているそれは、さらに勢いを増し、子供の腕ほどもあるようにも見える。
 体中の血液がそこに集まってしまっているのではないかと心配になるほどの勃起は、彼に紛れもない苦痛を与えていた。
 それでも、止まらない。
 彼の脳は、自らの体の発する危険信号を受けても、さらなる血流の集中を求めている。
 目の前に立つ女性によって引き起こされる興奮によって。
「おや、なにもしていないというのに、そのように猛って」
 彼を傲然と見下ろす貴音もまた一糸まとわぬ姿であった。
 ビスクドールの如き白い膚。そこに流れる銀の糸。ゆたかな体躯を惜しげもなく見せつける彼女は、その赤い瞳と牙も相
まって、この世ならざる美しさを体現していた。
 彼女が動く度、銀の髪が膚の上を滑り、乳房を隠し、あるいはちらりと見せてひきたてる。彼女が言葉を発する度、赤い
赤い唇が蠢き、つややかな吐息が空間を満たす。
 なんでもない楽屋でさえ、彼女が居れば王城と化す。彼女こそ銀の女王であった。
 苦しげに顔を歪め、荒い息を吐きながら、涼の視線は彼女から離れることがない。
 きゅっと引き締まった足首。豊かな胸と、その頂点に揺れる鴇色の突起。しっかりとは見えずともその存在感を主張する
臀部。銀の糸が揺れる股間。
 彼の視線は忙しなく動き、彼女の美しさを存分に味わおうとするかのように凝視し続けている。しかし、最後に引き寄せ
られるのは、常にその瞳であった。あるいは、彼は、その赤く燃える眼から逃れるため、彼女の肢体を見つめていたのかも
しれない。
 だが、人にあらざる赤光を放つその瞳に、彼の意識はがっちりと掴まれている。優しく、そして、冷酷な光をたたえるそ
の瞳。
 悠然と彼を睥睨していた貴音が不意に膝をつき、隆々と立ち上がる怒張に顔を近づけた。そして、思い切り鼻から息を吸
う。
「ああ……」
 感極まったように彼女は身をのけぞらせる。形いい乳房がぶるんと揺れた。
「鼻が曲がりそうなほどに臭い……よい香りです」
 けなしているのかほめているのかよくわからない言葉を彼女は告げる。しかし、その声はたしかに嬉しげであった。
「牡の香り」
 ちろり、と舌が伸びて唇を舐める。その途端、涼の体に電撃が走った。張り詰めすぎた苦痛はそのままに、それに勝る快
楽が彼の腰から頭までずんと突き抜けたのだ。
 貴音の指が彼の肉棒にかかった、それだけで。
「口で吸うだけに留めようと思っておりましたが、これは身体全体で味わってみてもよい素材やも。さて、いかがいたしま
しょうか?」


 やわやわと玉袋をなでる感触が、加わる。やさしく皺を広げるようになでられ、もう一方の手で亀頭の先を包むように触
れられる。それだけで、とてつもない快感が彼を襲っていた。
 美女にいじられているというそれだけでは、けしてない。想像も出来なかったほどの喜悦に、涼の体はかえって悲鳴をあ
げていた。普通ならば、射精によって解放されるはずの愉悦が、体の中で暴れ回る。
「かっ……はっ!」
 涼の体がのけぞり、跳ね上がる。異常な程の快感に、脳が精液を放出するべく筋肉に指令を与えたというのに、それが成
されず、彼はのたうちまわる。
「ああ、そうそう」
 ふと思い出した、とでも言いたげに、貴音は泰然とした声を出す。
「言い忘れておりました。わたくしの許しなく精を放つことは出来ませんので、そのように心にお留めを」
 言いながらも、彼女の指はしっかりと涼のペニスに絡みついている。先走りの液を彼自身に塗りたくり、竿をこすりあげ
る動作は、さらなる快感を送り込んでいる。許容限度を超えた喜びにばたばたと男の体がはねる。
「さて、どちらになさいます? 口で嬲るか、それとも我が内奥を味わうか」
 にちゅにちゅと音をたてながらしごきあげられても、射精は許されない。放出寸前の、脳が焼き切れそうな感覚の中で、涼は回らぬ舌に力を込めた。
「りょ……両方……で」
「おや」
 驚いたように眼を丸くする貴音。妙に幼くも見えるその表情は、完全に意表を突かれたことをよく示していた。
「これはこれは。さすがのお答え。男子たるもの、そうでなくては」
 彼女はにんまりと笑みを浮かべる。それまでの清楚な美しさとはかけ離れた、淫蕩な、しかし、惹きつけられる笑みであ
った。そして、彼女の指が、彼の肉棒から離れる。
「え?」
「ご褒美です」
 ぴんと優しく亀頭を弾く指。その強烈な刺激に、涼の視界が真っ赤に染まった。意識を失うほどの快感の中、腰から下が
無くなったかのような喪失感が彼を襲う。残った上半身がやけに重く感じる程、それは蠱惑的な感覚であった。そのまま、
消え去ってしまいたくなるような。
 そして、現実には彼のペニスからは、まるで噴水のように白濁した汁が噴き出し、凄まじい勢いで貴音へ降り注ぎ、彼女
の白い膚をどろどろに穢しているのであった。


「ふふ、では、参りますよ」
 精液まみれの顔で、彼女は微笑する。
 異常な状況に置かれながらも、涼は、美しい貴音の顔を自分の出した汁が覆っているその光景に背徳的な興奮を感じずに
はいられなかった。
 それまでの一種強制的な激情とは異なる薄暗い欲望が彼の背筋を震わせる。
 もっと、もっと、穢したい。
 言葉にはならずとも、そんな指向を持った感情が彼の中で熱く燃え上がり、胸を圧する。それは、さらなる力となって彼
の怒張に注ぎ込まれた。
 まるで萎えもしないペニスを喜ぶように、貴音は笑みを強くし、彼の脚をまたぐような格好になった。太腿が涼の脚に触
れ、股間の茂みがさわさわと彼の膚を弄う。
 脚にかかる膚とその奥にある肉の圧倒的な存在感に、涼の意識は乱れに乱れた。
 膚の柔らかさ、そして、冷たさ。自分の発する熱が全て吸い取られてしまうのではないかという感覚に、彼は一瞬だけ恐
怖を覚え、そして、その心地好さにそれを忘れた。
 自らの内にある熱を全てぬぐい去ってくれるかのようなその膚の冷たさを、彼は歓迎した。寒い冬に暖房をきかせ、こた
つのぬくもりの中でアイスを味わう時のような、奇妙な愉悦を感じながら。
 一方で、熱情は高まり続ける。彼女の体の感触、そして、なによりも、自らの肉棒に近づく彼女の顔貌が、彼を刺激し続
けていた。
 舌が、伸びる。ちろちろと細かく動く舌先が、カリ首を捉える。それだけで、再び射精寸前まで彼は高められた。
 だが、貴音の舌の動きは、それだけにとどまらない。
 カリ首をねぶっていた舌が、全体を絡め取るように動かされる。通常ならば、いかに長い舌であっても絡まるような形を
とるだけであろう。しかし、彼女の舌は違う。ぬるり、と音のしそうな勢いで、それは伸びた。
 カリ首を一周し、さらに伸びつつある舌に、涼はめいっぱい目を見開いた。だが、そこに浮かんだ恐怖は、彼のものに蛇
のように絡みつく舌がもたらす法悦によって塗りつぶされていく。
 舌を伝う唾液と涼自身の精液と先走りの液。それらが混じり合ったものでぬらぬらとコーティングされたようなペニスを、
長い、とてつもなく長い舌が這う。絡みつき、締め付け、しごきあげ、ちろちろといじくる。
 粘膜の感触と指の締め付けの両者を兼ね備えたその舌がもたらす歓喜は、彼が、それまで知り得なかったものであった。
 否、人が、けして知り得ぬものであった。
「いかがですか、我が舌は」
 どのようなことになっているのか。長々と舌を伸ばしながら、彼女はくぐもることもなく言葉を発する。
 だが、それに対する応答は、ない。
 いや、あった。
「ああ、ああああぁっ!」
 言葉にならぬ、嬌声という形で。
「……あ、くぅ……はあぁっ」
 まるで少女のような喘ぎ声を、彼は漏らし続けた。
 苦鳴のような、喝采のような、泣き声のような、笑い声のような歓喜の歌を、彼の喉は歌い上げる。
「……くぁ……はあ、あぁあああ……ふひゅっ……」
 体の中に溢れるものを吐き出しすぎて、喘鳴のようになる声を、彼女は実に楽しげに聞いている。
「このまま狂わせるも一興……。いや、それには時間が足りませんか」
 惜しむように呟き、ぱくりと口が開く。その深紅の口腔を背景に、嫌でも目立つ牙の大きさよ。
 彼女はそのまま彼の逸物を一気にくわえ込んだ。
 今度こそ本当に、涼は意識を失った。


 精神そのものが四散するとしか思えぬ快楽と共に意識を失っていた涼は、痛みと共に目を醒ました。
 胸から走る痛みに顔をあげてみれば、拗ねたような顔で貴音が彼の乳首をつねりあげているのであった。
「まったく、わたくしを前に意識を飛ばすなど、失礼ではありませんか」
 彼女ならば、痛みを与えたければいくらでも別の手立てがあったろうに、指でつねって起こすとは。
 思わず涼は彼女のことをまじまじと見ていた。それまでの狂気に近い興奮とはまた別の感慨をもって。
 だが、そんな淡い感情は、彼女の淫靡な表情で覆される。
「こちらは猛り立ち続けているというのに」
 指さされるまでもなく、彼のものは彼女の顔と口にそれぞれ一度ずつ放ったあともまだその勢いを減じていない。彼自身
に痛みを与えるほどの力強さは健在であった。
 その立派なものの真上に腰を置くようにして、彼女は膝立ちになった。
 彼の視線は自然、彼女の股間に向く。ごくり、と唾を飲み込む彼の姿に、貴音はにぃと口角をつり上げた。
「ちなみに、こちらは人とそう変わりありません。牙が生えていたりはしませんのでご安心を」
 くすくすと笑いながら、彼女はそこを広げてみせる。角度のせいであまりよく見えない赤い媚肉を、それでも、秋月涼は
凝視した。
「ただし、味わった殿方全てに、人のそれではもはや満足できないとお褒めにあずかる程度には、よいもののようですよ」
 わずかに腰を揺らす貴音。自身の指で割り広げられた淫肉を突き出すようにする彼女に、涼は食い入るように視線を送る。
「そういえば、秋月涼。あなたは女を知っているのですか?」
 じりじりと腰を落としていきながら、貴音は訊ねる。
 彼女のその場所と、自分のひくひく震えるものの先端との間にある間隙が少しずつ小さくなっていくのを、彼はじっと見
つめていた。
 その顎がこっくりと一度落とされるのに、彼女は艶美に笑う。
「ふふ。やはり、おもてになるのですね」
「ち、ちが……」
 その時、彼は訂正する必要はなかったかもしれない。だが、それも彼女の力だったのか、あるいは、彼自身の心の中にあ
る何かが言わせたのか。
「む? 違うと。ではいかなることで?」
 彼は彼女が促すまま、それを告げていた。
「……一度、だけ、あり……ます」
「ほう」
 貴音の動きがぴたりと止まる。あと二センチ、それだけ下がれば彼のペニスは彼女の下の唇に触れる。
 しかし、その二センチを彼が埋めることは出来ない。彼女が腰を落とさぬ限り、それは無限の空間に等しいのだ。
「貴音さん、もう……僕、もう……」
「話しなさい」
 懇願の声に応じるのは、冷たい命令。彼はもつれる舌を操り、先を続けた。途端、わずかながら彼女の体が動き始める。
先程よりさらにゆっくりと、彼女の腰は降下を始めている。
「ちゅ、中学生になったばかりの時に……り……」
 一拍だけ言いよどみ、涼はけして明かしてはならないその秘密を吐き出す。
「律子姉ちゃんと……っ! ああっ!」
 彼女の襞が、彼の一番敏感な部分に触れる。その感触が確かならば、それは間違いなく濡れていた。
「……律子嬢と。それは興味深い」
 入り口にも至らぬ部分だけで彼のものをこすり、奥に潜むものの感触を予期させるように、彼女は彼を嬲る。そして、彼
女はついにその尻を落ちるままに任せた。
「さあ、たっぷりと聞かせていただこうではありませんか」
 彼女自身も待ちかねていた肉の凶器が、凄まじい勢いで彼女の中に侵入してきていた。


「な、な、な、なんなんですか、これ。何なんですか、これは!?」
 元トップアイドルにして現765所属プロデューサーという現実通りの役回りを与えられた脚本から顔をあげ、秋月律子は
素っ頓狂な声を放った。
 四条貴音と秋月涼の濃厚かつ詳細な絡みの描かれたページが開かれたままの脚本を振り回し、彼女は声を荒らげる。
「遅れてたホンがあがったっていうから来てみたら、こ、こんなのにOK出せるわけないじゃないですか!」
「いや、そこは、その……ねえ?」
 羞恥か怒りか、茹で蛸のような顔になってまくしたてる律子に、テレビ局の番組ディレクターは、要領を得ない返事で濁
す。
「こんなの受けられませんよ! いくらうちの事務所のアイドル全員使ってくれるからって……。うちは、アイドル事務所
なんですよ!」
 四条貴音、如月千早、秋月涼を主軸とした伝奇ドラマ。そこに毎回765、876のアイドルをゲストとして出演させていく、
そんな企画だと聞いていた律子は眼鏡の奥の瞳に怒りをみなぎらせつつ抗議する。
「そうね。これじゃあ、うちの子たちも出せないわ」
 打ち合わせに同席していた876事務所社長、石川実が呆れたような声で律子に同意する。
「涼は男性アイドルだから多少の濡れ場は許容するし、伝奇やホラーに際どい要素が入るのも理解出来ます。しかし、これ
はその範囲を逸脱しているわね」
「いや、765さんも876さんもわかりますよ? わかるけど、でもさ……」
 場を和ませようという必死の努力か、軽い調子で声をかけてくるディレクターを無視して、石川社長は律子と目線を交わ
す。二人して頷き、同時に席を立った。
「ともあれ、シナリオをもっとまともなものにするか、他のキャストをあてるかどちらかを選ばれることですね。このまま
ではうちはお受け出来ません」
「うちの事務所も同様です」
 ぴしゃりと言い置いて、二人の女性は部屋を出る。後には頭を抱えるディレクターだけが残されていた。


「へえ、そんなことが」
 夕陽の照り返しで真っ赤に染まる部屋の中、そんな声がする。感心するような苦笑するような声。
「僕の役はどんな感じだったんだろう?」
 赤い闇の中で、秋月涼が訊ねる。少年から男に変わりかける頃特有の、透明な声。
「わたくしに魅了され、下僕となって二人で芸能界に魔手を広げていくものの、その活動の中で魔を狩る如月千早に出会い
……わたくしと如月千早、二人の間を揺れ動く……という主人公役だそうで」
 それに応じるのは、四条貴音。濡れたような甘やかな声が、彼に答えた。
「あははっ」
 涼の笑い声。同調してか、貴音もまたくすくすと小さな声を漏らした。
「ただし」
 だが、警告するように、その声はひそめられる。
「ストーリーの途中で力に目覚め、エメラルド色の魔眼を使うようになるとか。それにちなんで、シリーズタイトルが『碧
の魔眼』」
「エメラルド色……ね」
 何か気にかかるような調子で、涼が呟く。しばらくの間、部屋の中から会話は消えた。
 だが、静寂が落ちているわけではない。
 部屋の中には、なにか肉同士がぶつかるようなぱんぱんという音が響いていたし、その合間には少量の液体が攪拌されて
でもいるのかちゅぷちゅぷと鳴っていたし、押し殺したような吐息も、なにかが軋むような音もしていたから。
「でも、まあ、さすがにそんなのには出演できないよね。だって……」
 言いながら、彼は、見下ろす。貴音のまん丸で真っ白な尻と、それを赤く腫れ上がらせる彼の手形を。
「この関係を公にしちゃうのはさすがにまずいものね」
「は、はひっ」
 貴音の声がひっくり返った。それは、彼がひときわ強く彼女の中に突き入れたからだ。
 そう、あの脚本にあったように、彼ら二人はむつみ合っていた。ただし、脚本と違うところは、貴音ではなく、涼が彼女
を組み敷いているというところ。
 しかも、彼女の秘所は高々と頭の上に掲げられ、彼自身は中腰で逆を向いて彼女に挿入している。四十八手でいう砧の姿
勢。あるいはより下品な言い方をするならばまんぐり返しのまま、男が突き入れた格好だ。
 腰を持ち上げられ、腹と胸が潰れた格好になる女の側にしても、女性を支えつつ中腰の姿勢を保つ男の側にしてもなかな
かに大変で苦しい格好である。
 だが、それがもたらす苦痛にはるかに勝る羞恥がある。なにしろ、どうやっても貴音の視界には涼のものを突き立てられ
る自らの秘所が入ってくるし、そこでたてる音も聞こえるのだから。
 その羞恥は間違いなく、彼女の性感を高めている。事実、彼女の顔には時折、しとどに濡れた秘所から自らの愛液が垂れ
落ちていた。


 さらに、激しく突き立てられながら、彼女の尻は良いように嬲られている。腰を突き入れるのと同時に叩かれ、そこに彼
の唾を塗り込められ、もみしだかれて、さらに叩かれる。
 そんな扱いを受けながら、彼女は喜悦の涙とよだれを垂らしている。
 なんとあさましい姿であろうか。
 四条貴音は考える。
 たとえかの脚本を与えられたとしても、涼を翻弄するような演技などできなかったに違いない、と。
 彼の思うままに犯され、玩ばれ、それでも、そのことにどうしようもないうれしさと楽しさを感じている自分が、涼を快
楽に堕とすなど、どうやったら出来るだろう。
 それとも、脚本の中の魔物も、結局は肉の快楽に溺れるのだろうか。
 この、抗いようのない、雄々しいものに征服されてしまうのだろうか。
 自らの肉を、その形に変えていきそうな彼のたくましいものを感じながら、彼女はそんな風に考える。
 その彼の動きが止まった。
 そんな状態でも、快感は、ある。
 肉と肉が絡み合う快感。
 膚と膚が触れあう快感。
 愛しい男に触れられているという、その事実がもたらす快感。
 だが、それでは、やはり足りない。
「……どう、なさい、ました……」
 切れ切れの息で訊ねる。切なさと物欲しげな響きを押さえられたかどうか、貴音には自信が無かった。
「ん……いや」
 どこかあらぬ方を見やっていた男が顔を戻す。彼はがっしり彼女の尻を掴み、その奥に存在する菊門へと指を伸ばした。
「んぅっ」
 唐突な攻撃に、貴音が身を震わせる。ベッドの上で、銀の髪が広がり、流れた。
 それをきっかけに、さらに猛然と彼は彼女に挑みかかった。
 繰り出される複雑怪奇な動きに、貴音は翻弄されるしかない。
「何ごとも少し焦らしたほうが……楽しいね」
 無邪気な調子でそう言う彼を睨みつけるようにしながら、彼女はこう漏らすのだった。
「いけず」
 と。


「あら? 今日の涼は随分と少食ね」
 ゆったりとした黒のワンピースに着替えて寝室を出てきた貴音を見やり、次いで壁にかかった時計を指さして、律子はか
らかうように言った。
 貴音は彼女が着ると優雅なドレスにしか見えない服を翻しながら首を振った。
「いえ。お姉様からのお呼び出しの様で」
「ふうん。じゃあ、なにか掴んだってわけね、あの子」
「そこまで懸念すべきことでしょうか。時には偶然の一致というものもありましょう」
 律子に正対するようにテーブルに着きながら、小首を傾げる貴音に、律子は指を振る。
「念には念を入れておきたいの」
「では……待つとしましょう」
 そうして、しばしの時が経ち、ふっと部屋が翳った。
 時刻はもはや宵。落ちる陽はない。
 ならば、通常は照明の異常かと頭上を見上げるものであろう。だが、二人はまるで動じず、部屋にたゆたう闇を喜ぶよう
に微笑んでいた。
 闇は濃度を増し、ついに部屋の全てが暗闇に沈むほど深さと濃さを持ったところで、不意に霧散した。
 そして、光の戻った部屋には、さっきまでは確かにいなかったはずの少女が立つ。
 金髪の少女は、そばかすの散った顔に笑みをきらめかせていた。
「ただいま戻りマシタ」
「お帰りなさいませ、お姉様」
 突然に部屋に現れた……否、虚空より生じた少女――サイネリアあるいは彩音に、貴音は深々と頭を下げる。同じように、
律子もまた彼女の唐突な出現に不審を抱くのではなく、歓迎の意をその顔に浮かべていた。
「それで、いかなる仕儀に」
「監督、ディレクター、脚本家はシロ。ただし」
 にやりと笑み崩れるサイネリアに、貴音は警戒するように目を細める。律子は腕を組んだまま彼女たちをじっと見つめて
いた。
「シリーズ構成を担当しているプロデューサーの自宅に複雑な結界を発見。アタシにはとても突破できそうもないので、姫
若子に視てもらったところ……」
「お姉様、もったいぶらないでください」
「ハイハイ。姫若子曰く、トラップだそうで。このドラマそのものからして、アタシたちをおびきよせる小道具だったとい
うことでしょうネ」
「罠ということですか。こしゃくな」
 余裕の態度でにやにやと笑うサイネリアに対して、貴音の声には静かな怒りの色が乗る。一瞬、彼女の両眼が赤く燃え上
がったように見えるほどに。
「涼は?」
 それまで黙って二人の会話を聞いていた律子が立ち上がり、訊ねる。
「姫若子はそのまま結界を監視していらっしゃいマス。相手がどう出るか探るおつもりかと」
「手ぬるい」
 ばっさりと切り捨てる律子。その様子に、はっとした表情を浮かべ、彼女のほうを向く二人。
 律子の指が眼鏡にかかる。同時に、そのお下げが誰にも触れられていないというのに、ほどけ始めている。髪自体が意志
を持つようにうねくり、次々と戒めを脱していく。
 ほう、と律子が息を吐く。その口の中で、常人にはあり得ぬほど巨大な犬歯がきらめいた。まるで巨大な牙のように。
 彩音はその場で、貴音は席を立ってから、揃って跪く。長年の主人に礼を尽くすかのように自然な動作で。
 その間にも律子の髪はうねくり続け、自由となった髪はまるで手を伸ばすようにそれ自身を伸長した。ついには彼女の腰
の辺りまで覆うほどに。
 それに呼応でもしているのか。彩音の髪留めがはじけ飛び、金属のような光沢を持った黄金の髪が、これも腰まで伸びよ
うとしていた。貴音の髪もまた、長さは変わらぬまでも内から光るような色に変じている。
 眼鏡が外される。
 そこから現れるのは、碧の瞳。
 ペリドットの碧、翡翠の碧、エメラルドの碧、そのどれでもあり、どれでもない。あえて言うならば、それは誰も到達し
得ぬ深海にのみ存在する色彩。
 そして、その碧の瞳を輝かせるのは、人にはけして宿るはずのない、闇色の炎。
「彩、貴」
「はっ!」
 あげられた顔に輝く瞳は、血の赤。闇の世界に住まう魔性の者の証。そして、二人の唇を割る牙もまた。
「罠ならば踏み抜き、食い破ってみせるが我らが流儀。ついてらっしゃい」
「はい!」
 金と銀の従者を引き連れて、碧の女王が征く。

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