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誕生日記念で冬のはるたかですよ!微妙に2のネタバレ有り
貴音っぽい話にトライした結果、古典的悲恋ネタなんで注意おながいします。



月明りが照らす、冬の森林公園。
リボンの少女が水筒をふたつ傾けた。
夜気を吹き飛ばす、白い湯気と香り。

「じゃーん!わた、春香さん風ロシアンティー!」
「寒もわぁる?ろし餡てぃ?これは面妖な」
「お口にあいませんか」
「いえ、大変結構なお味で」
「好かった」
貴音の整った眉から、静かな喜びの気配を感じて春香も微笑む。
お茶から立ち上る熱と、二人の吐く息とが混ざって白く昇る。

「寒の内の夜は、不思議と心寂しくなりますね」
貴音なりの世間話は、少しだけ冷たかった。
言葉と冬の寒さに抗う為に、そっと春香は銀髪の少女へ寄り添う。同じ椅子に座る。
「……これでは、折角のろし餡てぃが頂けません」
「はい、どうぞ」
膝の上からカップを差し出すと、しばし硬直してから貴音は口をつけた。
「その、少し恥ずかしいのですが」
「あったかいでしょ?」

追加のお茶を注いでから、意味なく手袋で銀の髪を梳いた。貴音が目を細める。
二人分の疲労と満足感が混ざって出来た、心地よい沈黙。
機材を運び撤収して行くスタッフを、漠然と眺めて時間が過ぎる。

「そろそろ春香も」
「あと10分だけ」
「また終電に遅れますよ」
「ハッ、遂に禁断の……隠された貴音さんのお家に泊まる理由が!」
「明日の仕事はどうするのです」
春香は口を尖らせて不服げに唸る。

「次、いつ会えるのかな」
「感謝祭に向けて、早春から練習があったと」
淀みなく返事が漏れた。
貴音も幾度も予定表を見て、会える日取りを指折り数えていたから。

「うー、労働基準とか何かそういうのがおかしいですよコレ」
二人分の感情を宥める様に貴音が微笑む。
「仕事をいただける、それは得がたく有難いことです。でしょう?」
ファン。人気。仕事。
当然それらは、二人がずっと欲しがっていたものだった。
「それはそうですけど」
逸れて揺れる想い人の視線があまりに哀しそうで、つい。

「会えぬ時間に想いを育む、そのような関係もありましょう」

貴音の胸から、秘めていた気持ちが僅かに覗いた。
言った側と言われた側が、二人して頬を赤く染める。

「つまりその、今日のように。仕事の要訣、つまりのうはうなど、互いに語らうことも多くなると言う訳で……」
ほつれた建前を取り繕うように、貴音が慌てて言葉を続けた。
二度目に訪れた静寂は、互いの心音でずっと緊張したものだった。
「さ、そろそろ10分です。急ぎますよ」
沈黙に耐え切れず、貴音が無理やり席を立つ。

「貴音、さん!」
「はい!」
去ろうとする彼女に春香が呼びかける。
そして二度、三度、何かを確認するように頷いた。
「……その、あと2ヶ月頑張る為の、ちょっとした元気を、今くれ、ませんか」
上気した頬のまま、春香が途切れ途切れに呟いた。
349 名無しさん@秘密の花園 2013/01/21(月) 20:28:31.90 ID:0Sstepjn
顔が近づいきて、貴音にも彼女が何を求めているのか直ぐに伝わった。
「あ」
胸から搾り出すように息が漏れた。このまま衝動に任せる事が出来たら、どれほど幸せだろう。
しかし、それでも四条貴音は。
「むぐっ」
寄せられた春香の唇に、そっと水筒のカップを差し込んだ。
彼女は戸惑いの瞬きをしてから、カップを両手で受け取り、それから甘いお茶を苦そうに飲んだ。

「今度は、私が何か元気が出るものを作って参ります。今は、それでどうか」
貴音は背を向けて、彼女の顔を見ないようにした。
今くちづけして、愛を囁いて。それから、夜が明けて、少し冷静になって。
実は婚約が決まっていると告げて。それでどうする?
それからずっと、二人を四条の立場と秘密が苛み続ける。
間違いなく、春香の未来をも奪い去る。だから。

「……楽しみにしてますね!あ、じゃあ私もお茶請けに何か作ろうかな……」
後ろから春香の明るい声が聞こえた。
乾いた空気の所為で、声の震えが分かってしまった。
振り向けない。春香はきっと、笑顔を作ってくれているだろう。貴音にはとてもできそうにない。
この距離なら、月明りでも互いの表情が見えてしまう。
「―寒月を、恨めしいと思う日がくるとは」
春は遠く、今宵の月は酷く明るかった。


おしまい。長くてスマソ

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