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SS投下のため、少しレス借ります。あいゆきです。
以下注意点、苦手な人はスルー。

・はるちは前提
・キス止まり




「愛ちゃん、ごめん……」
一日全てを使い切ったデートを終えて家に帰る途中の事だった。
萩原雪歩はとある公園で後輩アイドルであり、恋人でもある日高愛に向かって言った。
「何ですか、雪歩先輩?」
彼女は無垢を帯びた表情で雪歩を見つめた。
その瞳を見る度に、雪歩はずっと罪悪感を抱いていたのだ。
「私ね、……春香ちゃんが好きなの」

   #  #  #

「雪歩先輩!」
愛は甘いフルーツを多く包んだクレープを手に携え、
椅子に腰を下ろして本を読んでいる雪歩の所に戻って来た。
今日は愛が雪歩に告白をしてからちょうど一年目となる。
それを記念して彼女たちは、初めて一緒に遊んだアミューズメントパークに行く事にした。
絶叫系のアトラクションを避けている所に、愛の彼女に対する気遣いが垣間見える。
二人はメリーゴーランドの傍にあるテラスで軽食をつまんだ。
「次はどこに行きましょうか!」
「そうね……愛ちゃんは何に乗りたい? 前半私に合わせてくれたから
 今度は愛ちゃんの好きなものに乗っていいよ」
「いいですか!? じゃ、じゃあ、ジェットコースターとか!?」
「いいよ。愛ちゃん、乗りたそうにしていたもんね。じゃあ、それに乗ろう」
食事を終えて、二人はコースターの入り口でフリーパスを見せる。
長々とした人列に並んでいる最中、愛はいつになく雪歩にべったりと寄り添っていた。
「雪歩先輩、怖くなったら私に抱きついて下さいっ!」
「ありがとう、愛ちゃん」
彼女にしばしば先輩風を吹かしている雪歩だったが、愛の積極的なアプローチにはタジタジとせざるを得ない。
しかし告白して来た時の愛だけはいつになくしおらしく、印象に残っていた。
テレビやラジオで共演していたから、愛の人となりは良く分かっている。今時珍しい、まっすぐで元気な娘だ。

(だけど……)

雪歩が今一つこの関係に馴染めない原因――それは春香の事だった。
彼女とは同じプロダクション仲間で、尻込みしがちな彼女に声をかけた最初の人間だった。
その好印象がきっかけで親しくなるにつれて彼女は春香に惹かれていった。
想いは日増しに強まっていき、ある時とうとう我慢出来ないまでに募らせていった。
春香に告白しようと思い立ったある日、彼女はR局の渡り廊下で
意中の人物が抱き合っている光景を目にしてしまった。
思わず物陰に隠れて覗き見ると、深く熱いキスを交わしているのが分かる。
「駄目よ、春香。こんな所で……見つかっちゃうわ」
「いいじゃない、千早ちゃん。向こうへ行ってしまったら、なかなか会えなくなるんだし」
「……そうね。でも、もう一回だけよ」
春香の相手は、同事務所の如月千早だった。
「何で駄目なの?」
「ロスに行く決心が……鈍ってしまうといけないから……」
「千早ちゃん!」
二人は再び深い情愛の証を交し合った。
彼女たちの仲を雪歩は薄々察していた。
しかしまさか、ここまで進展しているとは正直、思っていなかった。
千早は以前から春香と親しい。
彼女と話す時の春香の表情は例外なく嬉しそうだった記憶が首をもたげてくる。

(春香ちゃん……)

春香の心が別の人物に向けられていると知った瞬間、雪歩の初恋は実る事なく終わった。
彼女は春香を忘れようとしたが、なかなか忘れられなかった。
「あのっ、先輩……」
愛が告白して来たのは、そんな時だった。
雪歩はこれを契機として、失恋の痛手を新たな恋によって埋めようとした。
いや、愛とのそれは恋と呼べる代物ではなかった。
失恋の後、彼女は耐え難い空虚に苦しんでいた。何をやっても満たされず、空しい時間だけが過ぎていく。
その間隙を埋めるものであれば何でも良かったのだ。
だから雪歩は、春香ほど愛していない愛と付き合い、その虚しさから逃れようとした。

彼女との関係はそれだけに終わらなかった。
雪歩は自分を慕う可愛い後輩を、無意識のうちに春香の代わりにしようと考えた。
得られなかった春香というものの代替品として、愛を扱い、見る事で満たされようとした。
春香の好きな服を着せたり、春香の好きだったお菓子を与え
そして後輩の喜ぶその様を想い人のそれと重ねて満足していたのだ。
春香の好きな小物をプレゼントし、愛がそれを部屋に飾っていなかった時には遠回しに不満を顕わにした。
この一年間、彼女はそうした欺瞞の中で日々を送っていた。
しかしそんな代替品扱いを受けていてもなお、雪歩を深く慕い
与えられた物に喜んでいる純真な愛の姿を見るにつれ、雪歩の心に罪悪感が芽生え始めてきたのだ。

   #  #  #

「先輩……」
告白に耳を傾けながら、愛はじっと雪歩を見つめている。
「でもね……春香ちゃんは千早ちゃんが大好きで……私、失恋しちゃったの。
 でも、心のどこかで彼女の事が諦め切れなくて……。
 愛ちゃんが素直で優しい事につけ込んで私、春香ちゃんの代わりにしていたの。
 私は愛ちゃんじゃなくて、春香ちゃんの代わりになる人なら誰でも良かった……。
 最低だよね……。愛ちゃんの私を好きな気持ちとか知っていて、それを利用して……」
それ以降は言葉にならなかった。嗚咽が喉奥を制圧し、滂沱の涙が溢れてくる。
今になって自分は何て事を可愛い後輩にしていたのだろうかと思い
同時にそんな自分の浅ましさに怒り、そんな自分を止められなかった事に対して悔しがった。
「雪歩先輩」
泣いている雪歩の涙を、愛はそっとハンカチで拭った。
彼女が顔を上げると、愛はいつもの笑顔を浮かべていた。
「知ってました」彼女は続けた。「あたしが春香さんの代わり扱いされているのは」
それは雪歩を巡る時を止めるのに充分な言葉だった。
「でも、それでもいいと思ってました。
 雪歩先輩の傍に居られて、雪歩先輩が楽しそうに笑っていてくれれば、それであたしは満足です!
 そしていつか……少しでもいいから、あたしの事を見てもらえたらそれで充分かな、って」
「愛ちゃん……」
「雪歩先輩が笑顔でいてくれるなら、いくらでもあたしは
 春香さんの代わりになりますよ。だから、泣かないで下さい」
それを聞いた後も、雪歩は泣いた。
恋人が自分以外の人に想いを寄せていると知りながら
不平一つ言わないで付き合ってくれた愛の想いの深さに感謝した。

(こんな身勝手な私を、全て受け入れて付き合ってくれた……)

「愛ちゃん、ごめんね」
「いいですよ、雪歩先輩」
その時、桜の花弁に似た雪歩の口唇が愛のものと重なる。
「んっ……」
体の力が温かなものと共に抜けていくのを愛は感じた。
付き合って一年目にして、初めて味わう恋人のベーゼだった。
「……これから私、愛ちゃんを愛ちゃんとして見るよ」
雪歩は一度口を離した後、再び愛を深く抱き締めて囁いた。
「そして……ずっと、愛し続けるから……
 私、愛ちゃんを私なしではいられないようにするから……ね」
街灯によって照らされた二つのシルエットが、また重なった。
肌寒い今夜の夜風も、二人の火照った身体と情念を冷ます事は出来なかった。
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