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 ある日の夜、私は自分の姿を鏡で見ていた。
 一年前とは見違えるほどの成長。
 髪も伸ばして大人っぽくなったと思うし、身長に至ってはあの人よりも高くなったほどだ。
 しかし、まだ中学生なのだ。大人っぽくはなっても大人ではないし、中身の方はまだまだ子供だとも思う。
 特に自分と妹は悪戯好きだったこともあってか、手のかかる妹あたりだと思われている感がある。
 外見だけ成長してもダメなのだ。中身も成長しなければ。
「うん、決めた。私は大人になる」
 大人になりつつアタックをしかけよう。
 そう決意しながら、私は眠りについた。


 明くる朝。
 事務所のドアを開け、皆に挨拶する。
「皆、おはよー」
「おはよー、真美」
「おはよう」
「真美ちゃん、おはよう」
 目的の人物はソファーに座りながら、静かにお茶を飲んでいた。
 この事務所において、ああいうたおやかな女性的しぐさで彼女の右に出るものはいないと思う。
 あずさお姉ちゃんも女性的だけど方向性が違うし、お姫ちんはちょっとズレている所があるし。
 そんなことを考えながら、彼女の隣に座る。
「おはよう、真美ちゃん」
 再び挨拶を繰り返す彼女に、私も挨拶を返さなければならない。
「うん、おはよう――雪歩さん」
「……ひうっ!?」
 雪歩さんが呼びかけに時間差で驚いたように固まり、その拍子に湯呑みを落としかけてしまう。
 湯呑みを、彼女の手ごと包むように握り、そのまま湯呑みを受け取る。
「貰うね?」
 断ってから(返事は無かったけど)、一口、二口ほど貰う。
 わざわざ同じ部分に口を付けることはしない。そこまで行くと露骨過ぎる気がした。
 湯呑みをテーブルに置き、改めて彼女を見ても、未だ固まったままだった。
 いや、全く同じではない。頬に少し赤みが差している。
「顔が赤いよ? どうしたの、雪歩さん?」
「だ、だって真美ちゃんが……」
「私がどうしたの?」
「呼び方がいつもと違うから……」
 手を伸ばして、彼女の頬を撫でる。さらに赤くなった。
「この呼び方は嫌? 雪歩さん」
「い、嫌じゃない、です」
 顔を限界まで赤くし、目も潤み始めた彼女を、私は――
「朝っぱらから事務所でいちゃいちゃしない!」
 バシッっと、律っちゃんに書類ではたかれた。
「いったー。何すんのさ律っちゃん」
「迎えに来たのよ。昨日、朝一で会議って言っといたでしょ」
 ぐぬぬ、そう言えばそうだった。
 仕方なく雪歩さんから手を離し、立ち上がった。
「じゃ、また後でねー」
「う、うん。もう、急にからかうからびっくりしちゃったよ」
「からかってなんかないよ。私は本気だからね、雪歩さん」
「え?」
 まだ呆け気味の雪歩さんにそれだけは言って、律っちゃんに付いて行く。
 果たして彼女は本気と受け取ってくれるだろうか。私を意識してくれるだろうか。
 私はこれからが楽しみだった。
 <終わり>

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