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 ベッドサイドの明かりが、シティホテルの一室を燈色の光で彩る。
 ダブルベッドの上で寝転ぶのは俺。火照った喉の奥によく冷えたミネラルウォーターを流しこむ。
 その隣、シーツに半身を包みつつ腹ばいになって寝転ぶのは貴音。俺の担当アイドル。
 上体を起こした俺を、頬杖をついて貴音は眺める。
 お互いシーツの中は何もまとわぬ姿だということは、先程しっかり確認した。
 頬杖の合間に覗く豊かな膨らみは敷シーツに支えられて優美な曲線を描いている。
 柔らかな頬に埋まるようなその細い指は、ほんの十数分前に俺の武骨な指と絡み合ったあのなめらかな指。

 京のとある名家の庇護下にある、とある滅びた国の姫君。
 彼女の言葉を真に受けて聞けばそういった氏素性になる彼女だが、その言葉の真偽はもはや今となってはどうでもよい話だ。

 初対面のあの日。

「ぷろでゅうさあ殿、と申されましたか」
「ええ、そうですが」

 俺よりいくつも年下。プロデューサーと担当アイドル。
 本来なら真逆の力関係になるはずだった二人の会話は、何故か姫君と従者のようなやりとりではじまって。

「そなたは、私に何をもたらせる者ですか? 私は高木殿の言葉を信じて、そなたに一年(ひととせ)
この身を委ねます。その一年と引き換えに、そなたは私に何をもたらすつもりですか?」

 そう真顔で問うた貴音に。

 俺はあのとき、なんと答えたのだったか?

 現実的にはさほどでもない、しかし体感している身としては遠い昔の出来事のようにも思える記憶を 手繰っているうちに。
 絹のシーツが、しゅるりと鳴いた。
 貴音が身を寄せてきたのだと気づいたときには、ぺとりと俺の腰の左側に、吸い付くような彼女の肌の感触が。
 
「あなた様。急がれよ、とは申しませぬが……その」
「……そうだな」

 笑みを浮かべて、俺は再びシーツに潜り込む。
 貴音の豊かな肉付きの身体を両腕で抱きしめるために。

 初対面のときから、彼女のちから…
 …そう、アイドル活動の道具として用いることのできる、彼女が生まれ持ったものは他を圧していた。
 街を歩けば通り過ぎる男たちの目を、心を奪うに足る整った美貌。
 その中に併せ持ったあどけなさ。やや時代がかった口調ながら、穏やかでときに気品すら漂わせる物腰。
 可愛らしい曲から情熱的なラブソングまでを歌い上げる、秀でた声の力…
 …そして、その美しいボディライン。
 俺のレッスンでその溢れんばかりの魅力の魅せ方を覚えた彼女は、次々とオーディションを勝ち抜いていく。
 気がつけば日本の芸能界には彼女の前に立ちふさがる現役アイドルはもはや無く、
 街角では毎日のように彼女の唄が流れ、TV各局は争うように彼女の姿を電波に乗せる。
 一公演で数万の人を動員する巨大ステージは瞬く間に彼女のファンで埋まる。
 今や、彼女は日本の歴史に名を刻むに足る域の偶像としてその名を讃えられていて。

 そんな彼女と、自分がこうしている。
 月に一度もあるかないかの休みの時間を、こうして肌を重ねあわせて過ごす。

 誓って言う。俺は彼女にこういう関係を要求したことなど、一度もない。
 本来なら、担当アイドルに一夜の夜伽を命じたとしても、それが拒絶されることなどありえぬ立場。
 プロデューサーとはそれだけの強大な権限を持つ立場のはずだった。
 しかし。

 汗ばまぬ程度に程良く暖められた部屋の中、絹のシーツを透かした燈色の光に彩られた世界の中で。
 貴音が俺に微笑む。俺が貴音を抱きしめる。
 聖母のような微笑み。淫魔の所業としか言い表せない熱を帯びた瞳。
 その両方の魅力が、先程精を放ったばかりの俺自身を再び目覚めさせる。

 解っている。彼女は俺を支配しているのだと。
 日本中の男の心を釘付けにするその魅力を一番そばで浴び続けていた俺が、無事でいられるわけがないのだと。
 解っている。
 その彼女が、俺に望むのなら。
 いや、望むのでなければ。
 彼女の柔肌を俺の存在で穢(けが)すなどという罪深きことを、どうして行えよう?

 ちゅぷ、ちゅぷっ。
 吐息ひとつで幾千のファンの魂をとろかすその舌が、唇が、俺の俺自身に愛おしげにまとわりつく。
 もう、大丈夫だ。そう目線で訴える俺に、上目遣いで頷く貴音。
 シーツの海から身を起こし、部屋を満たす明かりにその身を晒す貴音。
 いまだシーツの海の中の俺から見上げる彼女の裸身はまるで美しい彫像のようでもあり。
 その動きはあくまでもたおやかに。そして動きひとつできらきらと部屋に舞い散る白銀の輝き。
 彼女の美しい銀髪の輝きが、まるで部屋を白銀に染めなおすかのように俺の瞳に映る。

 俺の分身の上に、貴音が自身の秘所をあてがって。
 そして、彼女は言うのだ。

「あなた様、参ります」と。

 誰が、誰を抱いているのか?
 俺は、いったい何をしているのか?
 そもそも、この目前の世界は、夢か現か幻か。
 彼女に引き合わされたその日から、ずっと俺は夢を見ているのではないのか。
 彼女の胎内が俺に与えてくれる、痺れるような快楽に身を委ねつつ。
 俺の意識は薄れていく。夢も、幻も、何もかも区別のつかぬ桃源郷へ。

 そんな俺の頬に、添えられた2つのなめらかな手のひら。
 そして……熱く甘くかぐわしい姫君のキス。
 しろがね色の光の中で、俺が覚えていた最後の感覚だった。

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