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…この壁の向こうにあの人が居る…

密かに想っていた我が社のプロデューサーさんが、先日隣の部屋に越してきた。
引越しの手伝いの時に見た状態のままなら、彼のベッドは私の部屋側の壁に接していた。
今日は私のオフ日。彼が出社している時間に、思い切って部屋の模様替えをしてみた。
私のベッドは、今、彼の部屋側の壁際に移っていた。

新人の頃は頼りない弟のような感じだった。可愛かったなぁ…
きっと不安だったんだろうなぁ。仕事の事、私生活の事。いろいろ頼られたっけ。
「それが今や業界でも超売れっ子のプロデューサー、かぁ…」
思わず溜息が出る。彼が成長する度に遠く離れていく感じがしていた。
けれど、今は隣に居る。手を伸ばせばすぐのところに彼は来てくれた。

シャワーを浴び、昼間の疲れを粗方落とした体をベッドに投げ出す。彼は数時間前に帰宅していた。
…もう寝ちゃってるかな…
何となく壁に寄りかかってみる。彼の背中もこんな風に硬いのだろうか。
彼の周りには可愛い女の子がたくさん居る。私が霞んでしまうくらいに。
千早ちゃん、表情柔らかくなったなぁ… あずささん、更に色気が増した気がするなぁ…
真ちゃん、恋する少女の顔になってきたなぁ… 伊織ちゃん、素直さが増してきたなぁ…
雪歩ちゃん、臆病さが消えてきたなぁ… 律子ちゃん、厳しい言葉の中に信頼がこもってるよ…
「私、ちっぽけだな…」
もう一度溜息。溜息の数だけ幸せが逃げて行くと言ったのは誰だったかな…

手がパジャマの下に潜る。脳は無意識に彼の姿を追っていた。ふと、彼の言葉がよぎる。
『カスミソウって良い花ですよね。控えめで、主役を立てて。自分も美しいにもかかわらず。
 俺、薔薇や百合のような豪華な花よりも、カスミソウの方が好きなんですよ。可笑しいですかね」
妄想の中の私はカスミソウ。765プロのアイドルという豪華な花々の美しさを引き出す脇役。
…貴方の言葉、信じても良いですか。カスミソウの私を見てくれますか…
口に出せない想い。切ない心と裏腹に、あの人代わりの指は動きを増して行く。
「んっ… はぁっ… ふっぅううん… んくっ…」
押し殺した声が静まりきった部屋に染み込む。くちゅくちゅと淫らな音も耳に届く。
切ない声を彼に聞かれたい。恥ずかしいから聞かれたくない。矛盾した感情がせめぎあう。
もどかしさから、パジャマのズボンとショーツをまとめて脱ぎ捨てる。自由を得た右手が彼の代わりに私を攻める。
左手でパジャマのボタンを引きちぎるように外す。ブラをしていない裸の膨らみは刺激を求め頂を際立たせていた。

…好きです。大好きです。私だけのプロデューサーさん…
けして口に出せない想い。心の中で大きく叫ぶ。それに合わせ指の動きが激しさを増す。
両手の狂艶の最中、親指がクリトリスを無造作に弾いた。
「うっ、はあぁっ、んんっ、くはぁあああっ、ぁああぁぁぁああぁぁっ…」
絶頂を迎え、全身から力が抜けてゆく。荒い息遣いだけが、今はこの部屋を支配していた。
気だるさと共に自己嫌悪がよぎる。切なさ、悲しみ、口惜しさ、情けなさ…いろいろ混じった涙が滲んできた。
ぱんっ、と自分の頬をひとつ叩き、気分を変える。そして、もう一度シャワーを浴びるためシャツを脱いだ。
一糸纏わぬ姿で壁を振り返り「おやすみなさい、プロデューサーさん」と呟く。
私の気持ち、貴方に届け。そう念じながら。

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