当wikiは年齢制限のあるページです。未成年の方は閲覧をご遠慮下さい。

「ふぅ・・」
ディスプレイから目を離し、首を捻る。
メガネを外し目をつぶる。
(うーん、疲れたかな?)
急に背後から肩に手をかけられる。
「ひゃっ!?・・・プロデューサー・・驚かせないでください」
「お疲れさん、デスクワークは必要な仕事だが無理したらダメだぞ?」
「プロデューサーこそ大丈夫ですか?最近ハードスケジュールじゃないですか」
「律子に比べたら楽なもんだよ、金勘定は苦手だからね」
プロデューサーはそう言うと肩を揉み始めた。
「あぁ・・上手いですね・・・気持ちいい・・」
「結構こってるな・・」
「ん〜・・生き返るわぁー・・ちょっ!プロデューサぁ?」
肩を揉んでいた手がいつの間にか胸を揉んでいた
「ここも大きいから大変だろう?」
「それはそうですけどっ・・んっ・・ダメっ・・」
「ダメなの?」
「みんな戻ってくるから・・!? コラっ お尻も触っちゃダメっ」
「他の子達は戻ってくるには、まだ時間がかかると思うよ?」
「もー・・・」
メガネをかけ直しYシャツのボタンを外した。



 ……私が題材、か。秋月律子はつぶやく。

 有名な無記名掲示板サイト「3ちゃんねる」といえば音無小鳥の暇潰し&サボり先
として765プロではもちろん有名だが、律子はもうちょっとつっこんだところまで知っ
ている。「3ちゃんねる」は基本的に全年齢サイトであり、成人限定ネタはそこに酷
似した別サイトにまとめて存在していることを。そして音無小鳥嬢もそっちのほうを
実はしばしば閲覧しているということを。

 秋月律子が覗いているのはその裏サイトのほうの「765プロアイドル専用スレ」。7
65プロのアイドルたちを題材にしたアダルトSS投稿スレッドだ。いうまでもなく発見
者は音無小鳥嬢。事務員(役)二人だけで事務所仕事をしていたときに、満面のニヤ
ニヤ顔で教えてくれたものだ。
 ぶっちゃけた話、律子も小鳥も(年齢が一回り違うとはいえ)性的問題に興味ない
わけがないお年頃。異性の目がなければ、周囲の目がなければ、それなりに下ネタ話
で盛り上がることもないわけじゃない。 

 こんなの見てるのバレたら、イメージ失墜もいいとこよね……

 それでも律子はそうつぶやく。むろん、彼女に抜かりは無い。PC上のローカルログ
は毎回完全削除。サーバー管理者は律子自身でこの手の休憩タイムのログはもちろん
削除。周囲に誰もいないことも確認済み。ロッカー内、トイレ内、壁の中や床下の雪
歩穴、すべて探査済みだ。
 それでも彼女は呟かざるを得ない。765プロ内で「最後の理性」と噂されるカタブツ
で通っている自身のイメージが危ないから? もちろん、そういう部分もある。亜美
真美にバレたりしたら、それこそ75日間は何言われるか判ったもんじゃない。

 それでも律子がこのスレッドを見ている理由……それを率直に言えば、無責任ゆえ
の面白さだ、と律子は思う。
 ファンとは面白いものだ。自分達がトークや舞台やインタビューで漏らした一言を
材料にして組み合わせたり妄想したりして一生懸命自分たちの「実像」を推測しよう
としてくれる。
 もちろんその像が、本人の実際の姿と近いとは限らない。千早なんか、これ見たら
本気で顔真っ赤にして怒るんじゃないかな、とも思うのだが、まぁ彼女はそもそもP
との仲をからかわれた時点で真っ赤になって怒るので、どのみち怒る以外の反応が想
像つかないといえば想像つかない。
 というか、小鳥さんは自分がこういう描きかたをされてるスレッドを自分に満面の
笑みで教えるなんて、いったい何を考えているのだろう……? そういうわけのわか
らないところを、案外この住人たちは見抜いているのかもしれない。

 そう、これはファン心理の調査。欲求がストレートに現れるアダルトな世界におい
てこそ、ファンのみんながアイドルたちに抱いているイメージが露骨に現れてくると
いうもの。これは調査の一環。

 ……また、嘘ついた。

 心の中でもう一人の自分、「りつこ」が呟く。

 ……調査の一環なら、スクロールを止める必要、ないじゃない?
 ……自分の名前が出てくると手が止まるの、なぜ?

 「律子」が答える。
 自分の名前が出てきてるってことは、自分への反応なんだから。
 自分の演じるアイドル「秋月律子」への反応なんだから、私が注視しなきゃ誰が見
るっていうのよ。

 「りつこ」が嘲笑(わら)う。

 ……じゃ、あなたはどうして左手にマウスを持ち替えたの?
 ……器用に動く右手をわざわざ空けたのは、何故?

 「律子」が答える。
 便利、だから、と。しばらくわずかな動きしかしなくていいから。

 「りつこ」はそんな言葉を無視するかのように。
 そして秋月律子はそのふたつの心の両方に従うように。
 その細い手は、上着のすその合わせ目から中にもぐりこむ。


 ちょっと、胸、張ってる感じかな。 
 身体の周期が「そういう時期」なんだから仕方ないじゃない、と「律子」が言い訳
するのを「りつこ」が鼻で笑う、そんな絵が律子の脳裏に浮かぶ。
 衣服の下、ソフトワイヤーのブラと素肌の間をするすると這い上がる手。
 指先に感じる乳首の感触、乳首に感じる指の感触。
 ゆっくり、ゆっくり、表面を撫ぜるように動き出す指。

 画面に映し出されているのはSS。数レス分の分量で描かれるショート・ショート。
その中で「おんな」をさらけ出しているのは、律子。彼女自身を題材にしたSSだ。
 そして作中での彼女のお相手役は……。

 「りつこ」が、「律子」が、同時にその名をつぶやく。
 ……「彼」よね。
 ……「彼」ね。

 P見習い兼事務員の自分の前にいきなりPとして現れた、どこの馬の骨ともわからな
い男。
 右も左もわからないダメ上司。
 頼りない奴。唯一の取り柄は自分の意見に耳を傾けてくれることくらいだから、彼
を従わせて自分の活動をやりたいようにやれれば、なんて思ったこともあった。
 けど、彼のひらめきを加えることによって、自分の人気はゲレンデを転がる雪球の
ように膨れ上がっていき。
 こんなことになるなんて、と笑っていられたのもつかの間、自分の一挙手一投足が
どれほど多くの人の夢を、生活を、運命を、左右してしまうのかに気づかされはじめ、
毎日をどう過ごしていいかすら判らなくなったときに。

「彼」は、言ってくれた。

「律子は、それでいいんだ」と。

 そんなこと出来ない、失敗したらとりかえしがつかない、と弱音を吐いた自分に。

「そのときのために、俺が居るんだ」と。

 律子は判っていた。「彼」が、右も左も判らなかった彼が、自分を支えるために裏
でどれほど努力を積み重ねていたか。それにしても、いつの間にかこんな台詞を、自
信を持って言えるくらいに逞しくなっていたなんて。
 
 彼が必死に私のために頑張っていたときに、私は何をしていただろう?
 芸能界の先達として、彼に胸を張れる何かを自分の中に作れていただろうか?

 負けたくない。後輩に負けたくはない。

 でも。

 自分を支えるために「強く」なってくれた「彼」を。
 嫌いたくない。憎めない。敵になんて出来ない。

「ううん、違う」

 りつこと律子が声を揃える。

 好きなんだ、彼のことが。

 クラスの女子でも、自慰行為を体験したことのある子はけっして珍しくはない。お
おっぴらに話さないだけで、誰もみな「そんなこと」はやってないわけじゃないだろ
うことは律子も判る。

 だけど。

 こんな風に、自分のすぐそばで自分を支えてくれている人を想いながらの行為が、
こんなに罪深く、こんなに激しく、こんなに心地良いものだったなんて。

 いつの間にか「りつこ」も「律子」ももう居ない。
 いるのはただ一人。モニタに映し出される物語を目で追いながら、シチュエーショ
ンを脳裏で再生しながら、……彼の手、肩、匂い、視線、肌の感触、それらを反芻し
ながら。
 自分の乳房の頂点を転がし続けるひとりの秋月律子だけだ。

 佳境にはいってきた文章のスクロールを止め、左手の触れる先がマウスから右の乳
房に変わる。
 しこりたった乳首を転がしながら優しく乳房のかたちを変えていく左手だが、その
左手からの感触はもう律子の脳裏にはない。あるのは「彼に自分の乳房を捧げる」妄
想の世界の感覚のみだ。
 わずかに残る現実世界の感覚の中で、右手はスラックスの前の留め金をはずす。そ
して、そのまま下着の中へ、恥丘の茂みの奥へと進んでいく。

 彼女の中で一番敏感な場所に利き手を送り込んで、秋月律子の意識は雲散する。
 いま、モニタの前に居るのは。
 いや、SSで描かれた世界とモニタの前の中間に居るのは。
 胸に秘めた想い人の姿を脳裏に描き、
 淫らな物語の中で一匹の雌に戻る自分の想像と、
 想い人に肌身を委ねて優しく昂りの頂点までいざなわれる自分の想像と、
 職場で、自分自身で自らを掻きたてる愚かではしたない現実の自分の、
 それらすべてが混じった「何か」で。

 花弁の中の陰核を転がす指がひときわ早まり、高まる快感に律子の背が弓と反る。
 服の中でぎゅっと握りつぶされる乳房。
 声帯を用いぬ叫び声が静かな事務所に響き、……ぎし、と事務椅子が鳴った。


 
 
 キーボードにつっぷしていた律子が、のろのろと起き上がる。

「また、ヤッちゃった……」

 理性がもたらす罪の意識。
 女の身体がもたらす頬の火照り。
 何もかもが気だるく、数分前までの、快楽に研ぎ澄まされた自分とは大違いだ。

 身支度を整えるためにか、律子は席を立って女子トイレへ向かう。



 昼下がりのむなしい情事、知っているのはPCのみ。

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます

メンバー募集!