当wikiは年齢制限のあるページです。未成年の方は閲覧をご遠慮下さい。

「やーりぃ♪勝ちましたよっ、プロデューサー!」

二組の合格枠を勝ち取り、真は担当プロデューサーと拳を合わせ、喜びを分かち合う。
いつも二人でやっている、勝利の決めポーズのようなものだ。
「ああ、おめでとう…じゃ、本番の収録だな。【歌ウンジャTOWN】は生放送なんだから、気をつけろよ」
「分かってますってば!今、最高に調子良いんです。任せてくださいって」
実際、本当に彼女の調子は良く、飛ぶ鳥落とす勢いと言っても過言では無い。
まだデビューからそんなに経っていないが……ちょうど先月の大型オーディション【ルーキーズ】を
制した真は、期待の新人アイドルとして、芸能界で注目を集めはじめていた。
すでにファンの数はどう少なく見積もっても5桁を超え、765プロでも将来を嘱望される身となった。
おそらく、今回の出演をもってマイナーアイドルは卒業。
今後は、ゴールデンタイムへの進出を図る立場となるであろう。
しかし……彼女の担当プロデューサーは、現在の真にわずかな違和感を覚えていた。

(勢いはあるんだけどなぁ……まだ、ランクと風格が一致しないと言うべきか…)
闘いに例えて言うなら、攻撃力はずば抜けているが、防御は普通以下。
ゆえに、勢いに乗った時なら、彼女のアピールは一気にファンを惹きつける。

だが、流行の変動が起きたら?審査員が一人、または複数帰ってしまったら?
その時は、きっと目も当てられない負け方をする。
そして、調子の良かった時の自分とのギャップに大いに苦しむ事になる。
そんな危険があるからこそ、彼はあえて真を乗せすぎないように話をしていた。

「ねえねえ、プロデューサー!この衣装も、次は思い切ってスカートにしません?」
「おいおい……それだと、この衣装の意味がないだろう?せっかく今週の流行にも合わせてあるのに」
「そうなんですけど……やっぱり、ボクも春香みたいにスカートのダンス衣装が良かったなー。
可愛らしいし、【女の子!!】って感じするし」
「真……」
「それにほら、男性ファンも増やせるかもしれませんよ♪ちょっとだけならサービスしてもいいし。
春香もしょっちゅう転んで見せちゃってるんだから、ボクだってそのくらい……」

「真!黙れ!!」


突然の大声に、収録前のスタジオが一瞬で静かになる。
収録現場のスタッフを驚かせたのは申し訳ないが、こんな時にははっきり注意しておかないと、
真のためにも番組のためにもならない。彼はそう判断し、話を続けた。
「……いいか、真……今後、冗談でもそう言う事は口に出すんじゃない。
春香がどれだけ苦労してダンスレッスンに励んでいるのか知っているか?
転びやすくておっちょこちょいな性質を、どれだけ気にしているか分かっているのか?
ほぼ同時期にデビューして、まだ自分は5桁のファンも付いていないのに、
【ルーキーズ】勝利記念のクッキーを焼いてくれた春香を知っていながら、今の発言はなんだ!!」

一瞬のうちに、真の頭に冷静さが戻る。
いくら勢いがあるとはいえ、調子の良い自分を尻目に、春香を蔑ろにするような発言をしてしまった…
社長からも教えられていたのに……慢心したアイドルがどんな目に逢うか。
ずっと気をつけていようと思っていたのに、こんなに早く忘れているなんて。
いくらデビューから3連勝したからといって……期待の新人と取材を受けたって、これでは意味が無い。
いや、芸能界全体に悪いイメージが付いてしまうから、むしろマイナスと言っていい。

「今の衣装だってそうだ。春香と違って真は身体能力が高いだろう?
なら、ダンスの分野でもっと凄いアピールが出来るように、としっかり計算されているんだぞ。
可愛くアピールしたいというお前の気持ちは、ミーティングでちゃんと知っているさ。
だから、ボーカル系とビジュアル系は無理を言ってスカート仕様でデザインしてもらったんだ。
ダンス衣装で、お前の最大の武器を殺してしまって、これより上のオーディションでどう戦う気だ!?」
「う……ぁ…あ、あの…ご、ごめんなさい…ボク……」
「今の言動ではっきり分かった。今のお前は明らかに調子に乗っている。
本番収録までに頭を冷やしておけ……俺が無理と判断したら、番組はキャンセルさせる」
「え……えぇっ!?そんな…せっかく合格を勝ち取ったのに」
「だからこそだ!!生放送で、気の抜けた曲を歌われてみろ?
編集もカットも出来ないんだぞ。悪い印象を持たれたらこの先どうなると思う?
会社も、番組も、作曲家の先生も……全員に大きな迷惑をかけるんだぞ!」
「うぅ…そ、それは……」
「分かったな。ま、1時間近くあるからやればできるさ。出来るようには育てて来たつもりだ。
俺は今から最終打ち合わせ行って来るから、休むなり身体をほぐすなりしておけよ」
「………はい…」


プロデューサーが楽屋を出て行って、真は一人部屋に残される。
「うーっ……何やってたんだろう。ボクって、最低だよね……」
日常生活では、ふとした油断から誰でもこんな事は起こりうる。
だが、彼女はれっきとしたアイドルであり、わずかな油断も慢心も許されない立場にあった。
年端も行かぬ少女に対して、無茶な要求と言えなくも無いのだが……
多少調子に乗りやすい性格とはいえ、根は真面目な女の子。
プロデューサーから言われた事をしっかりと受け止め、直ちに反省する。

「……よし、切り替えようっと!少し振り付け練習して…うん、ちゃんと動く」
手足の指先まで神経を尖らせ、鞭のように動かしてみる。
さっき合格したオーディション時の感覚は、まだ残っているようだった。
(そうだよね……合格したからって気を抜いちゃ駄目だ。
生の本番では、もっと凄いダンスを疲労しなくちゃいけないんだから!)

一通り確認を終えて、汗を拭く。
ダンスの感覚は、問題無い……あとはやっぱり、心構えの問題だ。
「そうだ…アクセサリーとか用意しておかないとね。今までプロデューサーに任せっきりだったし」
765プロでは、衣装と共に、アクセサリーなども担当プロデューサーが選ぶ事になっている。
「えっと……確かオーディションで付けたのは、これだったよね……」
ダンスに比べると若干弱い真のボーカル能力。それを補うためにと用意されたのは、
【西遊記セット】と呼ばれる複数のアクセサリー。
「たしか……ダッコぶたとダッコかっぱ。あとは……何だっけ?」
ごそごそとプロデューサーのアクセサリー入れを漁ってみる。
「こういう細かいことも、自分で出来ないといけないよね……一人前のアイドルを目指すなら。
えっと……あ、多分これだ♪ダッコさる…かな?」
そう言って彼女が袋取り出したのは……小さなサルのぬいぐるみだった。
ぶたやかっぱに比べると多少小さい感じがするが、
西遊記なのだからきっとこれで間違いない……そう彼女は思っていた。
「…良し、装着終了ー!プロデューサー……ボク、頑張りますよっ!?」
軽快なステップを踏み、真は自分を鼓舞するためにくるりと回る。
同時に、背中に装着したサルの人形が、ぴくりと動いたが……
彼女がそれに気がつくはずも無かった。



「……良し。気持ちの切り替え、出来たみたいだな、合格だ!」
プロデューサーからのGOサインが出て、真の表情がぱあっと輝く。
「はい、さっきのボク、どうかしてました……本当にごめんなさい、プロデューサー!」
「いや、俺に謝る必要は無いって……本番に集中な。多くのファンのためにも」
「はい!それじゃ……行ってきます!」

そろそろ真の出番がやってくる。生放送というものは、やはり現場の緊張感が違う。
不慮の事故や時間配分に対してのスタッフ達の気配りはいつもの倍以上であり、
出演するアイドルたちも、さっきから何度も鏡を見たり、スカートの裾を直したりして、
本番に向けてモチベーションを上げている。
そんな中で、真の精神集中は少しばかり異色なものだった。
何時からか、空手道場で身につけた【瞑想】
勿論、見よう見まねなので本格的なものではないのだが…
それでも真にとって、一番馴染んでいる精神集中のやり方だった。

「菊地真さん、出番です!準備お願いします」
「はい!!」

司会者の前口上が終わり、前奏と共にTV画面のフレームに真のシルエットが浮かび上がる。
大量に焚かれたスモークを掻き分けるようにしてステップを踏み、マイクの前へ。
彼女のデビュー曲である【エージェント夜を往く】お気に入りでもあり、大好きなこの曲……
自分のためにも、765プロの皆のためにも……全力で歌いきろうと、真は改めて心に誓った。

集中力を高めた真は、脳内全てのセンサーを活かしながら、ダンスに重点を置いてステージを動き回る。
時には客席に目線をやり、曲のイメージにある活力と、色気を表現して、歓声を浴びる。
今日はいつもより、客席の目線が自分に注がれているような気がする。
ポーズレッスンの成果が出たのかもしれない……そんな風に考えるが、一つだけ、妙な違和感がある。

スタジオの空気が、冷たい。
それも、何だか下半身だけが寒いような感覚があるのだ。
丁度、息継ぎをするタイミングで…歌への集中を切らずに、ちらりと自分の下半身を見てみると……



(え……えぇぇっ!?な、何なのこれっ!!パ、パンツが……)
どう言う訳か、ステージ衣装のラメ入りロングパンツが正方形状に切り裂かれ、
はらり、はらりとステージ前に撒き散らされていく。
布の縫い目で破れたのでもなく、強い力で引き裂かれたわけでもない。
鋭利な刃物で均等に斬られたように、どんどん剥がれ落ちてゆく。
ベルトを覗いて、トゥインクルブラック仕様ののロングパンツは、完全に真の腰から剥がされ、
重力に従って、残った裾は靴下のようになって彼女の足元に落ちる。

(うあぁぁ……や、やだ…どうしようっ……
今日はロングパンツだからって、見せパンはいてないのにっ…!?)
生放送カメラの前に、完全に真のショーツが露出する。
活動的なイメージを持つ真にピッタリの、青と白のストライプ。
…そう、いわゆる【しましま模様】がくっきりと真のお尻部分の立体を強調し、
はっきりと【女の子】と分かるほどに美しいボディラインがカメラに晒された。
同時に、真の背中を伝って、何かが上着部分に張り付いていることが分かる。
(え……こ、これ……さっきのおサルのアクセサリー……う、動いてるっ!?)

何が何だか分からないが、さっきのアクシデントは、どうやらこのサルが原因らしい。
歌っている真をよそに、妙なサルは背中を這って、くるりとおへそから鳩尾辺りまでを周りきった。
するとどうしたことだろう?さっきまでどんなダンスにも耐える丈夫な衣装が、
あっという間に四角い無数の布切れとなり、ふたたびステージにはらりと舞った。

(あぁっ……こ、こんな恥ずかしい格好に…)
いっそ、このサルのマスコットを払い落としてやりたいが、この曲のダンスは全身をくまなく使うし、
動くサルを払い落とすのはそれなりに集中しなければならない。
つまりは、歌が終わるまでは自分で何とかする方法は、無い。
今や、真の上半身は辛うじて乳首が隠れているだけの状態……斬られた上着の裾からは、
乳房曲線の下部分が顔を覗かせ、わずかながらに揺れているのが分かってしまう。
一方、下半身は完全にショーツ一枚だけ。
動きやすさを重視して選んでいるため、余計なフリルやリボンは一切無いが、
その代わり身体にピッタリとフィットするデザインなので、容赦なくお尻や股間のラインを
目立たせてしまう。……しかも、少し食い込んでいるため、小陰唇の隆起さえも、
カメラをアップにして良く見れば、簡単にバレてしまう。



本来、生放送でもハプニングが起きた場合には【しばらくお待ち下さい】の画面と共に、
違う音楽が流れて…放送は中止になるのだが、何故か今回に限ってそんな気配は無い。
さっきの決心もあるし、歌い始めた以上は途中でやめるわけにはいかない。

生放送でこんな姿を晒してしまって、母さんは泣いちゃうかな?
父さんは、怒ってアイドルを辞めさせるよね……あ、その前に無地の白いショーツ以外を
穿いた事に怒り出すかもしれない。
…それ以前に、秘密でアイドル活動してる事自体にひっくり返るのが先かな。
ボクは置いといて、社長とプロデューサーには迷惑掛けちゃう…それはイヤだな。

人間は、生命の危機になるとあらゆる記憶が走馬灯のように流れると言う。
今、真はステージに集中しながらも今後のシミュレーションが脳内に流れ、
さらに、多数のお客さんを前にしての自らの半裸姿に頬を真っ赤に染める。
彼女に容赦なく降り注ぐいくつもの目線。興味、欲望、驚き……
気風の良さと、度胸が売り物の彼女とはいえ……ホール一杯の人数と、
生中継のカメラを前にして冷静でいられるわけが無い。
必死で歌い続けながらも、心は悲鳴を上げている。

(うぅ……お願い、早く、終わって……でないと、残りの服も、ショーツも……)

下着くらい見せてもいいじゃない。
……などと安易に考えていた自分に、神様が罰を与えたのかもしれない。
そんな恥ずかしさと闘いながら、僅かにだが真の中にもう一つの感覚が芽生えはじめていた。
(うぁ……何、これ……身体が、ヘンに熱いよ……)
客席からの視線が痛い。そんなの文字での表現に過ぎないと思っていたのに……本当に痛い。
真夏の日差しのように、チリチリと自分の肌に刺さるようだ。
その刺激は、目線が集中するところに一層強く感じるのかも知れない。
(あぅっ……あぁ……ショーツが濡れてきちゃうっ…や、やだやだぁ……そんなの見られたら)
真の切実な願いを無視するように、男性客のほとんどは彼女のしましまショーツを凝視している。
もはや、見られないで済むなんて事は考えられない。

(やめて、見ないでぇ……お願い、ボク、もうこれ以上はッ……)
普段の強気な彼女を知っているものは、誰もがそのギャップに驚くだろう。
胸も、下着も、恥らう表情も……それは、紛れも無く清らかでありながらも淫靡な乙女の魅力だった。
真の恥じらいも、ステージ客や視聴者の期待も関係無しに、ただ一体……
小さなサルのマスコットが、いよいよ真の乳房周辺を回り、囲い始めていた。


鳩尾から背中へ周り、背骨を伝って頚椎へ……
小さなサルは真の身体を這い回り、確実にステージ衣装を小さな布切れへと変えてゆく。
曲もサビに入ろうかという時には、すでに上着の左半分が消えかけていた。
後一欠片剥がされたら……左の乳首は丸見えになってしまう。
(あぁ……ダ、ダメだよぉ……そんなにおっきくないから、恥ずかしいし……っつ!?)
真の願いも虚しく、左半分は直後に囲まれてしまい、乳首の上に乗っていた布が舞い落ちる。
同時に、タンクトップ状になっていた上着の戒めは解け、肩紐一本で右半分の上着が
真の上半身を隠すのみとなってしまった。
もはや、ダンスで激しく動くたびに右の乳首もちらちらと顔を覗かせる。

鍛えていながらも、いかつい筋肉は一切付いていない真の身体。
彼女を横から見た者は、その細さに誰もが驚き、真に対する誤ったイメージを訂正するであろう。
ステージ上を半裸で踊るエージェントは、思っていた以上に華奢で…
そして、思っていた以上に【女の子】だった。
スポットライトを浴びて汗と共に光るその肢体は、手を出すのを躊躇いそうなほどに美しい。
胸や尻がわずかに揺れるダンスを見ていると、本当にステージ上のエージェントに、
自らの目を盗まれてしまうのではないかと思えてしまう。

765プロ所属アイドルの中では比較的胸の薄い真だが、鍛えた細い体から比較すると、
【貧乳】と呼ぶには失礼なスタイルだと気付かされる。
しっかりと成長期相応の発育をしながらも、過剰な脂肪分を一切削ったその身体は、
Bカップ相当の乳房を、数値以上に大きく、立派に見せる。
さらに激しいダンスで揺れる様を見せつけられた時には…艶かしい色気を感じるなと言う方が無理な話だ。
無論、本人が望んでいるわけではなかったが…それでも、ホール内で菊地真を見ている客達は、
彼女の【女の子】としての色気に、問答無用で惹きつけられていた。

(…今、ボク……お客さんから見たら、どんな格好してるんだろう……いや、大体分かるんだけど、
自分で思ってる以上にスゴい事になってるんだろうな……)
客席は、多少のどよめきがあるものの、引いているようには見えない。
TVカメラの赤いランプも点灯している以上、自分から歌を中断する事はどうしても出来なかった。
(そうだ……恥ずかしいけど、悪い事してるわけじゃないんだし、堂々としていないとっ!
後で大変なことになっちゃうとは思うけど……でも、ここで弱気になっちゃダメなんだ!!)



小さなサルが、唯一残されたストライプのショーツに向かって歩いているのを肌で感じる。
最後の一枚を剥がされてしまうと思うと、もう、一秒たりとも早くここから逃げ出したい気持ちになる。
今なら誰かさんのように、高速穴掘りだって出来るかもしれない。
が、土壇場でその気持ちを封印させたのはさっきまで忘れかけていた自分のプロ意識と、
見られることを気持ち良いと感じる、新しい感覚だった。
(…気にしない……大丈夫っ………恥ずかしいけど…でも、アピールに集中…)
身体を這い回るサルを気にしている時点で、意識は散っていると思っていた。
しかし、何かが違う……一点のみの集中ではなく、自分の周囲全てを同時に見るような集中。

武術の達人は、相手の手足のみならず、身体全体…重ねて、その周りの空気すら見ていると言う。
アクシデントが原因ではあったが、今の真は不思議とそれが出来ていた。
客の雰囲気も、BGMも…カメラの数から這い回るサルまで、全ての情報が一瞬にして脳内を通る。
頭より、身体で…いや、感覚で、ダンスやジャストアピールが出せる。
(そうだよね……ここまで見られちゃったんだ。もう、きっと、事故では済まされない…
でも、胸を張っていよう。最後まで、アイドルとして一生懸命仕事しなきゃ)
恥ずかしさを内包しながらも、真の中で決意が固まった。
(ボクの歌も、ダンスも、あと…………ハダカも…見てください……
王子様でも、男の子でもない……ボクの、全てを………)

ステージの空気が変わり、客席がわずかにどよめく。
小さなサルが、ショーツの片側を囲み、大事なところが見えるか見えないか……
そんな状態になったことも関係している。
しかし、同時に真のアピールが進化した。
恥じらいながらも客に向けた目線はあくまで可愛らしく……
エロティシズムと美の融合したこの姿に、観客の視線は釘付けになる。
あまりの可愛らしさと、溢れんばかりの色気を同時に見せられて…どうして良いのか分からない。
目だけではなく、心まで盗まれてしまったようにも思えた。



そろそろ、曲の終わりは近い。
最後の一片が落ち、全てを見られるのはもう動かないだろう。
だが、真の中で一つだけ……フィニッシュに対して決めていたことがあった。
(もうすぐ終わり……せめて、最後は………)
一回転の振り付けでショーツの戒めが外れ、客席からは真のお尻が丸見えになる。
ぴったりと張り付いたボーダーラインから開放されたそこは、ほんの少しだけ、
たゆんと弛み……さらに彼女の女性らしさを強調した。
あと半回転もすれば……股間を僅かに覆う布は完全に落ちて、
やわらかそうな股間が晒されてしまう事が、誰の目からも想像できる。
(最後は……いや、最初にこの人にっ……!!)
真は、振り付けどおりにさらに半回転しながらも、上半身を少しだけ捻って、
フィニッシュのポーズを変えた。
目線を客席に向けつつ、身体は舞台袖側……つまりは、彼女を見守っているであろう、
プロデューサーの方向に。大事なところを晒す。
最初に見られるのがが彼ならば……きっと、この先何があっても…耐えられると思うから。
観客に失礼の無いように、顔は客席に向けながらも…彼女は、ほんの一瞬前に外気に晒された、
自らの一番恥ずかしいところを、彼に見せるようなポーズで締め括ったのだ。

(プロデューサー……見て……ボクの一番恥ずかしいところ、見てくだい……)
あまりの恥ずかしさと興奮に、つう……と、内腿を粘液が伝う。
(ボク、後悔してません……最初に見せるのが、プロデューサーならっ…)
全てが終わったと思える中で、真は目を閉じた。この後、自分や事務所に押し寄せるであろう
カメラや記者たちを想像すると、大変な事をしでかしてしまったかも…と思う。
(春香……ごめんね……事務所のイメージ下がっちゃうかも…それだけが、気掛かりかなぁ…)
スポットライトを浴びながらも、真の意識はどんどん闇に落ちていった……



(…ね……ごめんね…春香…プロデューサー……)
「……おい、真、まことっ……起きろ!」
気が付けば天井の照明がやけに眩しく、自分が何処にいるのかも良く把握できていない。
ただ、すぐそばにいるのが自分の担当プロデューサーだと言う事だけはっきりしていた。
「あ……プロデューサー…ごめんなさいっ!!番組、どうなりました!?」
「どうなったも…なぁ。これから出演するんだから、まずは真にしっかり目を覚ましてもらわないと」
「え……?えっと…あれ!?ボク…服、着てる…それに、サルのマスコットは?」
「まぁ、いいから落ちつけ……真、俺が帰ってきたら寝てたの、覚えてないのか?」
「え……そうなの?じゃあ、あれ、夢……でも、このおサルのアクセサリーが…って、何?この棒は」
「何を言ってるのか分からんが…西遊記セットのアクセサリーはそのきんこじと、背中の如意棒…
あとは腕のかっぱと足のぶたで全部だぞ?サルのアクセサリなんてものは無い」
「そ、そうなんですか……えっと…見覚えありません?これくらいの大きさで、
サルの形して、で…杭を持って線を引くような…うーん…あとはどうだったか……」

真の断片的な説明で、プロデューサーの脳裏にある話が浮かぶ。
「真……それは西遊記セットじゃない。きっと、10年前に社長が封印したアクセサリーだ」
「え…そんなの、あるんですか?」
「ああ。どういうわけか、あれを付けてコンサートに出ると、
必ずビジュアルアクシデントが起きるといってな…
危険すぎると判断した社長が、倉庫の奥に封印したというものだ。俺も詳しくは知らないけど、
どうして真がそんなものの存在を知っているんだ?」
「あぅ……」
まさか、さっきまで自分が見ていた夢の内容を説明するわけにもいかず、
彼女はその場でモジモジと身体をくねらせた。
「いえ……なんでも、ありません……あ、それより、ステージっ!?…あと何分ですか?」
「おっと…そうだった!?もうすぐだ。で、その前に……」

真面目に向き直るプロデューサーを見て、真も思わず姿勢を正す。
アレが夢だったとしたら…今はステージに立てるかどうかを、
プロデューサーに見てもらわないといけない状況だった。
「ん……何だか良くなったな。嫌な空気も気負った感じもしない。
あとは…寝ぼけてなけりゃ大丈夫だと思うけど…いけるか?」
「あ……」
そう言って、プロデューサーは心配そうに真の顔を覗き込む。
「は……はいっ!!いけますっ、頑張ります!!」
「よっしゃ!じゃ、ちょっと待ってて…アクセサリ、替えるからさ。ほら…これ」


プロデューサーが取り出したのは、妖精をイメージさせる幻想的な雰囲気を持った羽のアクセサリだった。
「わぁっ……これ、すっごく可愛い……って、まさか、打ち合わせってコレを!?」
「ん……まぁ、な。衣装を変えるわけには行かないけど、アクセサリならまだ何とかなると思ってさ。
これくらいならスタッフの人も問題ないって言うし、セットを崩す分、まとまりには欠けるけど…
可愛くドレスアップできる分、真がテンション上げて頑張ってくれればOKだ。
さっきは俺も言いすぎたし、少しでも真を可愛く見せる方法はまだ残ってる事に気付いてね。
だから……ごめんな。コレくらいしか出来ないけど、ファンのために、一緒に頑張ろう」
「プロデューサー……っ……ぐすっ……」
「お、おい!?本番前に泣くなって!!さっき、きつく言いすぎたのは謝るから」
「ち、違います…悪いのは全部ボクなのに、それなのに…プロデューサーは、
少しでも何とかしようと走り回ってくれたんですよね…そう思ったら、嬉しくて…」

夢といえど、やっぱりいい気になっていた自分に神様は罰を与えたんだと思う。
彼は…いや、765プロの面々は、いつだって優しく、時には厳しく所属アイドル達のために、
動いている。ならば自分も、最高の仕事をもって応える以外に無いんだ。
それに、事故が起こっても逃げずに立ち向か覚悟も出来た。
(今までは単なる【自信】だったが、もう疑いようは無い。これは【確信】だ。
真は、おぼろげながらに自分が背負っている【何か】を掴んだ気がした。

「プロデューサー……ありがとうございます!行ってきます」
「お、おう…いい目をしてるな。最高にエロかわいい真をひとつ、頼むよ」
「あぅ……」
そう言われて、さっきの夢を思い出し、真っ赤になる。
掴みかけたとはいえ、まだまだトップへの道は遠いと、改めて真は感じたのだった。



「お……美味しいっ♪」
765プロの応接室から、幸せ一杯の声で春香がリアクションを取る。
「うむ……見事だよ菊地君。焼き加減もムラなく中までふわりと焼けている。
先週のステージも絶好調だったし、調子良いではないか」
「けっこう練習したらしいですよ。次からは、料理番組の仕事もいけそうだな、真」

真が事務所のキッチンで焼いたホットケーキに、皆が舌鼓を打つ。
そんなお昼前の時間帯。
「おはようございます〜、あらら…いいにおい…ホットケーキですね〜♪」
「おはようございます。春香…相変わらずお菓子作り、好きなのね」

あずさと千早にそういわれて、思わず真は頬を膨らませる。
無理も無い。これまでのイメージで、ホットケーキを事務所で焼くなんて、
春香以外に考えられないと思うだろうから。
「酷いなぁ、二人とも……作ったのはボクですよ!」
「え……真が?嘘でしょう!?」
「あらあら〜、意外な人が意外な才能を発揮してますね〜美味しそうです〜」

「二人とも言いすぎですよっ!真が、わたしが次に【ルーキーズ】を取れるようにって、
クッキーのお返しに焼いてくれたんです!!しかも、凄く勉強して!
……ホットケーキだけなら、私より美味しいかも……わたしも頑張らなきゃっ!?」
「うーん…勉強って程でも無いけどさ…でも、お菓子作りって難しかったー。
ホットケーキって、誰でもそこそこ美味しく出来るとおもってたんだけど…
粉の分量とか、焼き方とかすっごく難しくて……この1週間、ずっと失敗ばっかりだったんだ。
だから、春香ってスゴイよ。クッキーとか、もっと難しいんでしょ?」
「う…そうでも無いかも。わたしはしょっちゅう転んでたまごをダメにするから難しいわけで…」


「……なるほど。苦手な分野に挑んで、春香の応援ってわけね、真」
「………良く分かりませんけど〜美味しそう♪……」
「う、うん……春香はダンスさえもうちょっと上手くなれば勝てると思うから…
ボクも苦手な料理を克服して見せれば、春香もテンション上がるかなと思って。
ね、春香……ボクもやれば出来るって分かったから、次は春香の番だよ。
トレーニングでもレッスンでも、苦手なところはボクが一緒に教えるから。
疲れたときは、一緒に甘いお菓子作り、しよう。その時はボクに色々教えてよね」
「真……うん、うん……ありがとう……うぅっ……」
「っと…春香。泣くのは勝った後だよ…ボクこそ、あの時は…ありがとう。
あのクッキーの味も、春香の気持ちも…忘れないよ」
(あと…ごめんね。プロデューサーがいなかったら、ボク、春香の気持ちも分からなかったかも)
ひとかけらの申し訳なさを胸に、真は、嬉しさに涙を流す春香を抱きとめる。

この子は、いつだって素直でまっすぐに歩いている。
本来なら、自分よりもスゴイ位置に上りつめるかもしれない……
本当に、どうしてこの事務所にいる面々は凄い人たちばかりなのだろう?
こんな人たちに囲まれているのだから、自分が手を抜くなんてとても出来ないだろう。
今、調子がいいとはいえ……全体的にはまだ自分は甘すぎる。
きっと、これから先、春香は着実にランクを上げ、ファンを増やすだろう。
今、慢心してヘンな優越感を持ったらそれこそおしまいなんだ。
真は、あの時プロデューサーが怒った理由が、今更ながら分かったような気がした。
(頑張って……春香。ボクも負けないから!)

「仲良き事は、美しき哉……だな。うむ、いい話だ」
「そうですよね…私たちも頑張らないと…ね、あずささん」
「……………じゅる……」
「ホットケーキに見とれないで下さいっ!!ああもうっ、大人の落ち着きゼロじゃないですかっ!?」
「あぁん…だって〜最近ダイエットしてるから、お昼前はついつい……
はぁ…ハチミツとバターのいいにおいが……わたしを天国に連れてって…
ねぇ、パトラッシュ……わたしもう、疲れました〜」
「帰ってきてー!あずささん!?今日はこれからオーディションなんですよっ!あーずーさーさーん!?」



結局、『帰ってきたら作ってあげます』という真の約束でその場は収まった。
真と春香は一緒にダンスレッスンに行き、千早とあずさはオーディションを受けるため、
今から事務所を立つ。そんな風に、今日も765プロの忙しい日々が始まろうとしていた。
「…じゃ、俺は車出してきますから。二人とも、倉庫からアクセサリ入れたカバン、取ってきて下さいね」

元から大幅にボーカル能力の高いこの二人は、
今日もボーカルとビジュアル中心にオーディションを受ける。
千早は見た目を着飾るの事をあまり好まないが、それでも女の子として、
可愛らしいアクセサリにはそれなりに興味がある。
「えーと……どこだったかしら〜アクセサリ入れ……」
「あ、ありましたよあずささん」
千早が、暗い倉庫から目的の袋を見つける。
「……あずささん?」
千早の声は聞こえたはずなのだが…彼女は、何か小さなものに見とれているようだった。
「あら〜♪こんなところに可愛らしいアクセサリが〜」
「なんですかコレ……サルのマスコット?しかも、茶色とピンクの2体いますね」
「きっと〜夫婦なんだと思います〜。寂しそうだからこれも入れましょう〜」
「ん……確かに可愛いと思いますけど…ちょっと古臭くありません?」
「そんなことは無いと思いますよ〜。
そうだ♪今日、オーディションに合格したら、着けてみましょうか〜」
「でも…勝手にそんな事したら、まずいですよ?」
「うーん……それじゃあ〜今、ちょっと着けてみましょう♪プロデューサーさんに見せて、
可愛さに驚いてくれるようならわたしから提案してみます〜」
「はぁ…かないませんね、あずささんには。では、わたしはこちらのピンクの方を」
「はーい♪わたしは〜茶色い方のおサルさんを〜」
二人は、サルに付いた埃を払い、ちょこんとアクセサリを乗っけてみせた。
そして、倉庫を閉め、プロデューサーの待つ765プロ入り口へと並んで歩く。

「あずささん…今日、少し寒くありません?」
「そうですね〜寒いと言うか、スースーすると言うか…」
「オーディション前に、体調を崩すなんてダメですからね、気をつけましょう」
「はぁ〜い♪、プロデューサーさーん、お待たせしました〜」
玄関のドアを開け、入り口で待つプロデューサーの下へ駆け寄るふたり。

「……」
呆気に取られた顔で煙草を口から落とすプロデューサーを見て、
あずさは計画の成功を確信し、プロデューサーに笑いかけた。
「どうですか〜プロデューサーさん。可愛いでしょう〜♪」
くるりと回ってアピールするも、次に見た時、彼は車に背を預けて倒れていた。………鼻血を出して。

その数秒後、二人のアイドルの悲鳴が765プロダクションの玄関……いや、
半径100メートルの近所にわたって響くのだった。


おしまい。



作者: 1スレ799
タグ

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます

メンバー募集!