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 白、白、白。銀世界と形容されるにふさわしい一面の雪の絨毯が辺りには広がっている。まるで、ドラマの
撮影に来ている出演者やスタッフ全員が、まっさらな紙の上に点在する落書きか何かのようだ。俺達のような
プロデューサーやタレントのマネージャーといった連中は撮影中にすることも無くこうしてストーブでぬくぬ
くと暖を取りながら、撮影風景を眺めつつ談笑もしていられるが、数メートル離れた先に見える、ビデオカメ
ラやレフ板といった撮影用の機材達に囲まれて何度かのリテイクをしているらしい出演者達と監督を始めとし
た撮影スタッフ達は、さぞかし寒い思いをしながら収録に臨んでいるのだろう。ここからでも、雪歩が手を擦
り合わせているのが見える。
「萩原さんってどうも弱気で大人しいイメージばっかりが頭にこびりついてたけど、やる時はやる娘なんです
ねぇ」
「酷い時は本当に酷いですけどね。ムラッ気があるんですよ。今日は絶好調みたいです」
「それに引き換え、ウチのと来たら……女の子からのファンレターがいっぱい来てるからってちょっと気が抜
けてますね。あいつのせいで撮り直しが二、三回増えてるし、後で分からせてやらなくっちゃ」
 雪歩の共演者である男性アイドル、そのマネージャーの女性が、白い溜息を吐いた。縁の無い眼鏡が曇る。


 活動開始から二年目。プロデューサーである俺は勿論、雪歩にとっても、タレントとして活動することが当
たり前の日常になって久しい。ここ二、三日は、月9の時間帯に放映されるドラマの収録で、雪の積もる真冬
の北海道に滞在している。札幌にでも観光に行きたい所だが、果たして日程がそれを許してくれるかどうか。
 やがて太陽が傾き始め、空が微かに茜色の様相を呈してきた所で、「お疲れ様でした」の大合唱と共に本日
の収録は無事終了となった。スタッフにぺこぺこと頭を下げながら、雪歩が駆け足でこちらに寄ってくる。
「お疲れ、雪歩。ほら、こいつ羽織ってろ」
 俺が畳んで持っていたダウンジャケットを細い肩にかけると、
「あ、あああ、ありっ、ありがとうございますっ」
 涙目になって歯をカチカチ鳴らしながら、雪歩は前のめりに肩を縮こまらせた。水晶のように透き通った瞳
が俺を見上げる所へ、黒いニット帽を被せた。
「寒かったろ」
「は、はい。あまり着膨れできなかったのもありますけど、指先がとにかく冷たくって……」
 か細い声と共に差し出された手は赤くなってしまっていて、触れてみるとさながら氷の冷たさだ。足の先ま
で伝わってくるような冬の空気に囚われたそれを軽く掌で包むと、雪歩の手がしがみついてきた。
「うう〜……温かいです」
「つっ、冷たいな、こりゃ」
 手袋をつけて撮影に臨めれば良かったのにな、と声をかけていると、さっきまでスタッフの集まっていた場
所にはもう人もまばらで、一刻も早く宿泊先に帰ろうと誰もが急ぎ足で撮影現場を後にしている所だった。
「俺達も行こうか。こんな寒い所に留まってる理由も無い」
 俺が踵を返そうとすると、くいくいと右手を引っ張られる感覚があった。
「あ……あの……」
 俺のよりもずっと細いしなやかな指が、絡みついてくる。下がっていく眉尻に、何かを請う目つき。
「……後でな。ここじゃ人目もあるから」
「はっ……はい。すみません……」
 申し訳無さそうに深々と頭を下げる雪歩の頭を軽く撫でて、俺はポケットに忍ばせていたホッカイロを、可
愛らしく指を曲げた掌に握らせてあげた。

 スケジュールの都合などから、俺と雪歩は他のスタッフが宿泊する旅館とは別のホテルに滞在している。氷
点下が当たり前の北海道とはいえ、建物の中に入ってしまえば快適なのは変わらない。むしろ、隙間風の一切
を許さない防寒の行き届いた造りの建築物は、東京の下手なビルよりもよっぽど過ごし易いかもしれない。
「疲れたか?」
 一旦互いの部屋に戻ってから合流し、ホテルのレストランでいつもよりやや豪勢な食事を済ませ、体の芯ま
ですっかり温まったという様子の雪歩に言うと、やはり首が横に振れた。ボブカットの髪がそれに合わせてさ
らさらと踊る。
「いえ、ステージがありませんでしたから、体力的にはそれほどでも。でも……いいんでしょうか」
「配役のことか?」
「はい。だ、だって、主役じゃないですか、私。セリフも一番多いし、今日もNG出しちゃわないかどうかばっ
かりが気になっちゃって……」
「いや、でも上手くやってたよ。なんだかんだ言ってNGは出してないし。監督も言ってたけど、あの脚本には
雪歩みたいな女の子がヒロインにはぴったりだろう」
「……そうでしょうか。でも、私なんかが……」
 目を縁取る睫毛が伏せられた。あくまでも雪歩の言葉は控えめ、むしろ弱気だ。
 エレベーターのドアがゆっくりと開く。
「大丈夫だよ。もう雪歩は弱虫なんかじゃないんだ。ファンの数、イベントでの動員数、回ってくる仕事、業
界での扱い……昔とは随分違うだろ。そういうのは、雪歩の持っている力がもたらしたものなんだよ」
 百万人以上のファンを抱え、ドラマの主役という大きな仕事が回ってくるようになっても「私なんか」の口
癖が一向に抜けない。そんな雪歩の腰をポンポンと叩いてエレベーターの外へと促すと、小さく息を漏らしな
がら彼女は先に出てくれた。
 ホテルの廊下の前なんてものは、基本的に部屋を利用する人しか通行することが無い。人が二人向かい合っ
て立っていても、口を開かなければ、横方向に広いこの空間にあるのは耳鳴りがしそうな静寂のみだ。目の前
に立っている雪歩の呼吸、それどころか、鼓動の音まで聞こえるんじゃないか……そんな気がした。
「プロデューサー」
 先に口を開いたのは雪歩だった。胸元できゅっと拳を握り締め、保護欲をかきたてるような頼り無い上目遣
いで、じっと俺の顔を見上げる。
「私……本当に今日はよくやれてましたか?」
「勿論だ。今日だけと言わず、昨日もな。本番に強い雪歩のいい所が出てた」
「だ、だったら……」
 瑞々しさにはちきれそうな唇を内側へ巻き込み、雪歩が一瞬だけ目を閉じた。
「……ごほうび……」
 ただでさえ細い声は静寂の中へと掻き消えてしまいそうで、「ください」と紡ぐ唇の動きを見ていなければ
きっと俺は尋ね返していただろうと思う。ただ、視線だけは決して俺の顔から離すことなく、なけなしの勇気
を振り絞った瞳は意志力の輝きに煌いていた。ファンの嵐のような声援に乗って、普段の弱気もどこへやらと
吹き飛ばして力強さに満ち溢れたステージを見せるようになっても、これが雪歩の精一杯のアピールなのだ。
 そう思うと、気の小ささに呆れつつも、その頑張りを褒めてあげたい気持ちが勝つ。
 同時に、胸の奥底で獣が舌なめずりをした。
「昨日は打ち合わせで時間が取れなかったからな……おいで、雪歩」
 胸元で形作られていた拳をほぐし、指先を差し入れて、花を優しく摘むように雪歩の手を掴んで、顎で進行
方向を指しながら足を踏み出す。雪歩は遅れること無く、歩幅を合わせてついてきてくれた。
 俺の泊まっている部屋の前まで来てもう一度雪歩の方を見てみると、視線の先はここでは無いどこかへと彷
徨っていた。俯かせた表情を覆い隠す栗色の髪の隙間から、赤くなった耳がひっそりと顔を出していた。


 このホテルの電灯は、廊下やホールを始めとして、雪を連想させる白さの蛍光灯では無く、どこか温かみを
感じさせる橙色の灯りが多く使われている。空調の行き届いて暖かい客室の灯りも、ほんのりと黄色を含んで
いる。後ろ手に鍵を閉めながら、男の部屋に少女を連れ込むことの意味が今一度頭の中を駆け抜ける。
 何度か素肌を重ねて逢瀬の時を過ごしてきた今では、二人との間に流れる空気の微妙な変化を雪歩もある程
度は察するようになった。二人きりの空間でパーソナルスペースの内側へ踏み込み、数秒も見詰め合えば自然
と閉じられていく目蓋が、それを物語る。
「……ん」
 唇同士が触れ合うと、華奢な体が硬直した。息継ぎをしながら何度か口づけを交わすと、ゆっくりともたれ
かかってくる。腕の中にすっぽりと収まってくるそれを受け止めながら、柔らかい髪を手で梳かす。
「満足したか?」
 わざと俺はそう尋ねた。俺は勿論のこと、雪歩もキスだけで満足しないことを知っていて、だ。
「え……」
「雪歩の欲しかったご褒美って、これのことだよな」
 指先でぷにっとした唇に触れながら、なるべく高圧的な言い方にならないように、慎重に言葉を選ぶ。
「あ、あの…………そのぅ」
 コーラを飲めばゲップが出る、雪歩が起こすだろう反応はそのぐらい確実に予想できた。俺の腕に捕まえら
れて籠の鳥になった雪歩が、かぶりを振った。頬がぽっと桜色に咲き、大きな瞳が潤む。
「じゃあ、何だい」
「あ、うぅ……」
「どうせ今は俺しかいないよ。思い切って言ってごらん」
「で、でもぉ……っ」
 恥ずかしさに言い澱む雪歩に、こっちがじれったくなってきてしまう。俺としては、ご褒美だの何だのとい
う口実も無しに今すぐにでも雪歩を抱きたい。縮こまって怯える雪歩をいたわりたい。長方形のステージで快
楽に翻弄される様を、早く見たい。俺以外に誰も手をつけていない雪歩の『おんな』を、もっと手垢で汚して
しまいたい、そんなことすらも思う。
 ここで俺から求めれば、雪歩は受け入れてくれるだろう。しかし、俺は雪歩の口から始めの合図を聞きたい
のだ。欲を言えば雪歩の方から求められてみたいものだが、さすがにそれは難しいだろう。
「……キスだけじゃなくて……その……し……」
「し?」
 視線をあちらこちらへと泳がせながら時々俺の目を見て「言わなきゃ駄目ですか?」と口には出さず訴えか
けてくる。スタートを告げるピストルが引っ込み思案な雪歩の口から出てくる瞬間を、俺は新鮮な生肉を前に
した猛獣の心境で待つ。
「……したい……です──ひゃう!」
 何がしたいんだ、と、うなじを指先でくすぐりながら、耳元に囁く。
「な、何が、って……うぅ……言えないですよぉ」
 YesかNoかで答えるだけでは、まだ物足りない。男にまるで免疫の無かった雪歩の口から具体的な回答を貰い
たくて、「言ってもらわなきゃ分からないよ」と、うなじから耳へと指を上らせながら言った。
「……え、えっちなこと……したいです……」
 やっとのことで雪歩が口から弱弱しく搾り出すと、目尻に雫が浮かび上がった。清楚でウブなイメージで通
っている雪歩にこんなことを口にさせたという満足感と、こんなことを口にさせてしまったという罪悪感とが
混ざり合って、興奮が高まる。
「仕方ないな。雪歩が『エッチしたい』って言うんなら、俺もお相手しなくっちゃ」
 少々ズルいと思いながらも雪歩にそう言って、細い腰を抱き締めた。大人というにはまだあどけない彼女を
ベッドに押し倒し、その肌にむしゃぶり付きたい──そんな思いの塊を、なだらかなお腹に押し付ける。
「やっ……あ、当たってますぅ……」
「雪歩があんなこと言うから、すぐ元気になっちまった」
「そ、そんなぁ……」
 本当は部屋に入った直後からむくむくと逸物を膨らませていたことは、当然のことながら内緒だ。すっかり
俺の言葉を信じて「自分の言葉が相手を興奮させてしまった」と恥じらう姿がなんとも可愛い。
「やっぱりおかしいんだ、女の子がこんなこと言ったら……うぅ、どうしよう、私……あ──」
 一挙に視野が狭まるのが見て取れるようだった。きっと、穴掘って埋まって、などと後に続くのだろう。そ
うはさせまいと、唇を塞いで、有無を言わさずに舌を差し入れる。雪歩からもリアクションが返ってくるのに
そう時間はかからなかった。
「おかしくなんてないさ」
 唾液で橋を架けながら雪歩に言い聞かせる。
 寄りかかってきたのを合図にして、軽い体をひょいと持ち上げて、雪原のように広がるシーツの海へ寝かせ
た。上から覆い被さると、雪歩は微かに身を縮めた。カーディガンのボタンを外しながら、ブラウスの襟から
覗く鎖骨へ尖らせた舌を這わせる。濃い石鹸の匂いが、衣服の内側から立ち上ってきた。
「雪歩、さっきシャワー浴びた?」
「あっ、は、はい……。ご飯、食べに行く前に」
 さぞ丁寧に体を洗ったのだろうと思って俺が訊くと、雪歩は眉尻を下げながら小声で答えた。
「抱かれる用意はできてる、ってことか」
「……っ」
 雪歩が荒い息を詰まらせた。大方図星だろう。
 言葉を交わす間に、柔らかな体を包む衣服を少しずつ剥がしていき、ブラウスの第二ボタンに指がかかった
所で、雪歩の表情に緊張が走った。
「脱がしても、いいよな?」
「い、いいですけど……」
「雪歩のハダカが見たいんだ。いいだろ」
 それ以上の答えは待たずに、ボタンを外した。ブラウスの薄い布地から透けてはいたが、こうして見てみる
と、レースをあしらった下着に漂うさりげない高級感が目を引く。
「手触りいいな、これ。結構値が張るんじゃないのか?」
 肩紐をずらし、剥き出しになっていく丸い肩から視線を外さずに尋ねる。
「な、中身が貧しいですから、せめてブラぐらいは……」
「中身って、これのことか? これで貧しいなんて、雪歩は欲張りだな」
 本人の言葉の割には手ごたえのあるサイズの乳房をブラ越しに掴み、中心部目掛けて指を沈める。ぐりぐり
と人差し指に捻る動きを加えると、雪歩の体が震えた。
「ひ……やんっ、そこ……」
 薄い壁の向こうで、みるみる内に、指先を押し返してくる弾力が姿を現し始めた。
「俺は、これぐらいの程良いサイズが好みなんだけどな」
 ブラの内へ手を滑り込ませ、掌に収めきれる柔肌を堪能しながら、背中のホックを外して上半身を曝け出さ
せると、首から上がぱっと羞恥の赤に染まった。
 言葉を発していた口を、薄い桜色の頂へ近づけて、ぱくりと頂く。「いや」だの「ダメ」だの口では言って
いても、その体は俺の愛撫を拒むことは無い。緊張した乳首を指先でこりこりやっていると、か細い声に甘さ
が混じってきた。
 少しずつ、雪歩の体が温まってきている。そう考えると、ズボンの中がより一層狭くなった。プリーツスカ
ートを外してレギンスの上から弾力豊かな太腿を撫でながら、その奥の心地よさが頭の中に思い浮かぶ。腰か
ら薄手の布地を引き下ろしていく俺の動作にも、雪歩が目立って抵抗する様子は無かった。
「雪歩」
 うっすらと色の変わったショーツに指先でちょんと触れながら呼びかけると、潤んだ瞳が俺の目を見た。
「ここ、触ってほしい?」
「え……?」
「それとも、舐めてほしい?」
 我ながら少々意地の悪い質問かもしれないと思いながらも、淫らな二択を雪歩に迫ってみた。
「う……っ、そ、そんなこと言えないですぅ……」
「どうしてだ? どっちがいいか訊いてるだけじゃないか。二者択一の簡単な質問だよ。雪歩の意思表示をし
てくれれば、それでいい」
 雪歩の頬が赤みを増した。俺の手は、丸いお尻に添えたままだ。
「……言えません……うぅ、そんなこと言ったら、嫌われちゃいます……」
「ははっ、その台詞は、雪歩が裸になった回数と同じぐらい聞いたよ」
 何度も何度も聞いた言葉に、「嫌うわけ無いだろ」と返すことも忘れ、意識せず笑いが漏れた。
「さあ、言ってみな。ちゃんと言えたらご褒美をあげよう」
 雪歩の好きなキーワードを交えてみると、もじもじさせていた指がぴたりと止まった。
 押し黙って、暖かな灯りを吸い込む二つの目が俺をじっと見つめる。
 ぴたり。俺と雪歩の間でだけ、時間が静止した。
「…………さ……触ってください」
 数秒の沈黙の後、結ばれていた唇が微かに動いた。達成感のような喜びが胸中に弾け、俺は唇を吊り上げな
がら「いいだろう」と告げた。
 起こした体の背後に回り、前のめりの背中を寄りかからせて、髪の甘い匂いを胸に吸い込む。
 舌先で耳の裏をくすぐりながら、滑らかな手触りのショーツを下ろす。
 ふわふわした薄めの若草の茂みへ指を潜り込ませ、内腿をなぞっていると、
「や……じ、じらしちゃ嫌ですぅ……」
 と、雪歩は太腿を擦り合わせた。
「ふふ、分かったよ」
 故意にポイントをずらして触っていた手を、体内へ繋がる裂け目へと割り込ませた。
「ひゃう! んぁっ……ふぅ、んんっ……!」
 悩ましい声があがる。既に湿り気を十分に帯びていたそこは、数度指を往復させただけで、たちまちねばね
ばとした蜜を吐き出し始めた。ほぐれていた洞穴に中指を差し込むと、根元までずぶずぶと飲み込まれていく。
「濡れてるな」
「は、ん……プロデューサーの、声……」
「声?」
「そんな風に耳元で囁かれると、わ、私……えっちな気分に……ふぁ、あぁん……!」
「へぇ、そうなのか」
 男があまりベラベラ喋るのも興醒めかもしれないと思う一方で、照れ臭い。雪歩からは見えない俺の顔は、
赤くなっているかもしれない。頬に感じる火照りを誤魔化すようにして、俺はもう一本の指を中指に沿わせて
挿入していった。
「あ、くぅぅ……ふ、太いですぅ……プロデューサーの、指……」
「一人でするよりもイイか?」
「はい……あっ」
 してやったり。テンポ良く返した俺の返事に乗って雪歩が口を滑らせた。
「つまり雪歩は、一人でする時はこんな風にしてるわけだな」
「あっ、あ、あ……! や、言わないで、くださいぃ」
 指を往復させる速度を上げると、内壁の締め付けが強くなった。ちゅくちゅくと水っぽい音が響く。
「一人でするのと、俺にしてもらうのと、どっちが気持ちいい?」
「はぁ、あぁん……し、してもらう、方が……」
 悩ましげに体をくねらせながら、雪歩が酒にでも酔ったような声を漏らす。湯上りみたいに、その肌は胸元
まで赤みを帯びてきていた。
 襞の起伏を擦る右手だけでなく、空いた左手で俺が雪歩の体のどこかに触れるたびに、緩く握られた手がぴ
くぴくと蠢いていた。
「あ……い……イキそう……です……」
 きゅうきゅうと締め付けてくる内壁が収縮を始めた頃、雪歩が自発的にそう口にした。
「イキたい?」
「はい……イキたい、です……」
 迷いのない答え。内気な少女の中で、箍(たが)が外れたのかもしれない。
 左手で乳首を捏ねながら、右手の動きを小刻みなものにしていく。
 雪歩が俺の腕を掴んだ。
「あぁっ、い……いく……んんっ、ふああぁぁぁぁっ!」
 雪歩が一際大きな声をあげた。
 俺の右腕を押し潰す勢いで、両脚が閉じられる。
 弓のようにぐいと反らした背中はじっとりと汗ばみ、洞穴に差し入れていた二本の指が、食い千切られるの
では無いかと思うような力で
締め付けられた。
「ふぅ……ふぅ……」
 指を引き抜くと、抱きしめたら折れてしまいそうな体が弛緩して寄りかかってきた。
 まだ呼吸の整わない雪歩が俺の腕を愛おしげに擦った。
 腕から肩へ、肩から下がって胸、腹、そして下腹部へとそれはやってきた。
 ズボンの布地をこんもりと押し上げる股間へと辿り着いた時、細い指が起伏の輪郭をなぞった。
 ゆらりと体を反転させ、雪歩が俺を見上げた。すっかり上気した頬を従え、蕩けた視線は妖しく艶めいてい
て、たじろいでしまうほどの色気が肌の匂いに乗って嗅覚を満たす。
「私も……します、プロデューサーの……」
 俺が何も言わない内に雪歩は自ら積極的にベルトのバックルを外し、ファスナーを下ろした。トランクスの
裂け目に手が割り込んできて、湯気の立ちそうなぐらい熱を持った男のシンボルが、ぶるんと外気に晒された。
「熱い……こんなに、硬くなって」
 うっとりした声で、雪歩が屹立したシャフトを握った。
 ちらりと俺を見てから、雪歩の頭が下がっていく。蕾のように慎ましくしていた唇が上下に開いた。
「ん……ん、う……」
 ぬるり。躊躇せず、舌で表面をなぞることすらせず、可愛らしい唇が牡をくわえこんだ。
 ねっとりした口内の温かさに包まれたかと思いきや、すぐさま奥へ向かって粘膜が吸い上げてくる。
 頭の奥底までじんと疼いた。
「う、だ……大胆、だな」
 言葉が途切れてしまうような快感が下半身を猛スピードで駆け回る。行為そのものがもたらす気持ちよさは
勿論あるが、今でもチワワにも怯える、引っ込み思案な面をまだ色濃く残す少女が、こうも大胆に男に奉仕を
しているという事実。それが、粘膜の触れ合いから伝わる刺激を何倍にも増幅する。
 時々ちらりと見せる扇情的な上目遣いと、下腹部にかかる雪歩の息遣いが、先走りを止め処なく溢れさせた。
「プロデューサー……ど、どうですか?」
「……気持ちいいよ。ツボを抑えてて、たまらない」
 男の影なんてそれこそ形も見当たらないが、どこかで練習でもしているのか。初めてフェラチオを教えた時
のことを考えると、肌を重ねるごとに雪歩の奉仕はどんどん巧みさを増している。以前はもう少し時間がかか
ったはずの絶頂まで、今日はもう押しやられてしまいそうだった。
 絡み付いてくる舌が執拗に亀頭のくびれ目を責めてきて、滲み出た先走りが、ずるりずるりと卑猥な音を立
てて吸い上げられていく。
「雪歩、そろそろ……」
 頭を撫でると、雪歩が目で応答した。
「はい……プロデューサーの、お口にください……」
 ふっくらとした頬に窪みを作り、きゅっと口内の粘膜がしがみついてきた。そのまま、大きく上下に揺さぶ
られる。
 熱泥が、体の奥底から競り上がってくる。
 精液の塊が我先にと狭い尿道へ押し入り、性器がぐぐっと膨らみ、音を立てずに弾けた。
「う……っ、く」
 堪えきれずに声が漏れる。鼓動と共に、男の欲望を具現化したものが、雪歩の可愛らしい唇の奥へ容赦無く
叩き込まれていく。その表情は見えないが、こくこくと飲み下す音が聞こえてくる。時折、奥へ引き込まれる
力を感じた。
 きっと、吸い出しているんだ。悦びの間欠泉に意識を持ち上げられながら、罪悪感が頭をよぎった。
「ん……っ」
 桜色の綺麗な唇からグロテスクな性器を引きずり出すと、唇の端に一筋の白い雫がこぼれだした。雪歩はそ
れを指で掬い取ると、子供が指についた砂糖にするように、ぺろりと舐め取った。
 淫らな気配を滲ませた視線が俺を射抜き、たった今果てたはずの槍が元の鋭さをあっという間に取り戻した。
 頭がカッと熱くなる。
「雪歩……っ」
 堪らなくなって、肩を掴んで白い海へ雪歩を押し倒す。
「あ……大丈夫ですよ、今日はこのまま……」
 俺が広げた両足を閉じようとせず、雪歩は欲望を妖しく煌かせた「オンナ」の貌になって、俺を誘っていた。
 求められるままに先端を押し当て、ゆっくりと腰を沈めていくと、
「はっ……んん、あぁん……」
 甘い嬌声と共に、細い手が肩にしがみついてきた。
「動いて平気か?」
「は、はい……」
 迎え入れられるように奥まで突き入れた所でそう質問すると、雪歩は首を縦に振った。
「あ、あっ……はぁ、んんっ、あ……!」
 緩い速度で腰を揺する。粘膜がこすれるのを味わっているような雪歩の声に、耳がこそばゆくなる。熱くな
ったぬかるみは積極的に絡み付いてくる。入り込んだ異物を歓迎しているかのようだった。
「プ……プロデューサー……も、もっと動いても、大丈夫ですよ……痛く無い、ですから」
 懇願する瞳。雪歩の口から紡がれた言葉は、許可では無く、もっと激しくして欲しいと俺を促すサインだ。
 少なくともそう判断した。
「動いても大丈夫、なんじゃなくて、もっと動いて欲しいんじゃないか?」
 その旨を伝えてみると、
「……はい、も、もっと、私の中を……乱暴に掻き回して欲しいんです……」
 案外素直に雪歩がそう口にした。眉がぴくりと下がり、胎内が狭さを増した。自分で言った言葉に反応した
のだろうか。
 腰に再び力を込める。
 ストロークを大きく、テンポを早く。
 速く動けば、当然それだけ刺激も大きくなる。圧力が強まっていく一方の雪歩の内壁は襞が幾重にも重なっ
ていて、押し込んだり引き抜いたりする度に傘に引っかかるのだ。
 何枚もの舌に舐められているようで、手できつく扱かれるようでもある。
 思考力が麻痺してしまいそうな程の悦楽に、俺は夢中になって腰を振る。
「ん、んっ、んん、あぁっ、あ……い、いいです、もっと……はぁっ、気持ちいいっ……!」
 俺の下で快感に瞳を蕩けさせた雪歩が、悩ましい嬌声をあげながら口元に笑みを浮かべた。ただ突かれてい
るだけでは物足りないのか、その腰はピストンに合わせてかくっかくっと動いている。
 いつもの雪歩とのギャップが、否応無く俺を興奮の高みへと押しやっていく。
「雪歩、そろそろなんだが……いいか?」
 込み上げる射精感を我慢する余裕も無く、荒い吐息に混ざって俺が確認を取ると、
「わっ、私も……あ、イ、イッちゃいそう、です……」
 雪歩からも似たような答えが返ってきた。
 余裕は無いが、タイミングを合わせられたらと思いながら、ラストスパートをかける。
 もう後戻りのできないラインを通り過ぎ、雪歩の膣内は「もう帰さない」とでも言わんばかりにぎゅうぎゅ
うと俺を締め上げ、奥へと引きずり込もうとする。
 いつの間にか、両脚も俺の腰に巻きついていた。
「あぁ……も、もう、ダメ……いっ、あぁあぁぁぁんっ!」
 雪歩がトーンを上げた。
 ギリギリの所で間に合ってくれたようだ。ワントーン高い声をあげて雪歩が体を硬直させるのとほぼ同時に、
睾丸から打ち出された白濁液が尿道を駆け上っていく。絶頂の快楽に全身を震わせながら俺と同じように昇り
詰めていると思われる雪歩の情熱的な締め付けに射精を更に促されて、神経を焼くような刺激は中々止むこと
が無かった。
 やがて、頭が冷静さを徐々に取り戻し、俺の性器の脈動が治まる頃になっても、雪歩のそれはひくひくと蠕
動を続けていた。いや、一度は静かになった内壁が、再び活動を始めたのだ。
 優しく包み込まれるような淫肉の動きから伝わってくる温かさ、それに、瞳を潤ませながら深い呼吸を繰り
返す雪歩の表情を見ていたら、柔らかくなりかけていた逸物が再び元の硬さを取り戻し始めた。
「プロデューサー……また、大きく……」
「……ああ。雪歩はどうだ?」
「……えっと」
 冷静さが戻ってきたのは雪歩も同じだったのか、すぐに返ってきた応答が途切れた。
「したいか?」
 念を押してみると、雪歩はゆっくりと、だが確かに頷いた。つやつやした唇の間から覗かせた舌が艶かしく
て、つい唇を重ねた。
「あ、ん……んっ、んぅ……」
 俺が差し出した舌に、雪歩は積極的に絡んできた。粘液の立てる水音に、耳が熱くなる。
「今度は、雪歩が上な」
「あっ……」
 雪歩の背中を抱えたまま、ごろんと仰向けになる。勢いが付きすぎて、結合が外れてしまった。
「私が……上……」
 とろんと緩んだ瞳で、雪歩が背を張った。バランス良く整った乳房が、ツンと天を向く。
「はぁっ……あぁ、んんっ……!」
 華奢な腰が動いた。前後にゆらりゆらりと往復する度に、肩の上で栗色の髪が同じテンポで揺れる。
 俺の上に跨って、熱い息を吐きながらくねくねと下半身を振るそのいやらしい姿は妖艶そのものだ。視線が
釘付けにされてしまい、意識せず俺の腰も動いていた。
「あぁ、い……いいです……ふぅ、うぅん……」
 陶酔した笑みを浮かべて、雪歩が目を閉じた。内に篭るような声が鼻先から漏れる。
 俺がするような振幅の大きいピストンの動きでは無く、雪歩は奥深くまで鉾を飲み込んでから、一箇所をぐ
りぐりと捻るように腰を回している。おそらく、そこが特に気持ちいいのだろう。襞の裏側に張り詰めた傘が
引っかかる度に雪歩は顎を仰け反らせて白い首を剥き出して、言葉にならない嬌声と同じテンポで内部がきゅ
っと引き締まる。
 グラインドが小さいから刺激も弱いのかと思いきやそんなことは全く無く、積極的に絡み付き、痛いぐらい
に締め付けてくる襞が四方八方から襲い掛かってくる。腰の根元がザワつき、緩やかに先端まで上ってくる。
「は……わ、わたし……んあ……」
 か細い声でそう言って、雪歩が腰の動きを緩め始めた。
 垂直にしていた体が段々と傾いてきて、へなへなと覆い被さってきた。
「どうした、腰が止まってるぞ」
「ああうっ!」
 がつんと腰を突き上げると、ぴくりと肩が震えた。
「ほら、頑張れ。俺ももうちょっとだから……」
 お尻の肉を掴んで、亀頭の先端を奥へ奥へと押しやりながら、雪歩を促す。
「んあぁ、あっ、あ……は、ふ、ん、んんっ……!」
 下から膣を掻き回す動きに合わせるように、雪歩が再び腰を振り始めた。
 頬はべったりと俺の胸板につけたままで、俺がいつも雪歩にしているように腰を打ち付けてくる。
「く、いくぞ、雪歩……」
「んんっ……わ、わたしも、イッちゃいますぅ……あうぅぅっ!」
 昇り詰める声を聞き終わる前に、鈴口から濁流が噴き上げた。脳髄を焼くような、圧倒的な快楽の波に意識
が押し流され、視界がホワイトアウトする。
 音まで聞こえてきそうな勢いで、雪歩の奥の奥へ叩きつけられて跳ね返ってくるのを感じる。生ぬるい精液
を幹へ塗りつけるように、あるいは内壁へ塗りこむかのように、洞穴全体がうねる。
 やがて、幹の脈動と膣の蠕動が治まった頃、肩で息をしながら、雪歩が体を伸ばして唇を重ねてきた。
「はぁ、はぁ……気持ち……良かった、です」
 そういうと、少女は目を細めて微笑んだ。


 裸の身に寒さを感じ始めて衣服を整えてからというもの、雪歩はベッドの端に縮こまったままだった。
 猛獣の目に見つからないよう隠れる小動物みたいなその姿を見ると、先程の妖艶な笑みや積極的な律動は幻
想のように思えてしまう。
「うぅ、私、あんなはしたないこと……あぁ、絶対プロデューサーに嫌われちゃってる」
 しかし、指でのの字を描きながらうじうじとしている様子を見ると、むしろ安堵が込み上げる。雪歩は、こ
れでいいのかもしれない。度を過ぎなければ、の話だが。
「やっぱり、こんな私は、穴掘って──」
「ちょっと待った。掘るなら柔らかい地面だけにしとけよ」
 今にもどこからかスコップを取り出しそうな雪歩を呼び止めると、丸い背中がビクッと揺れた。
「えーと、だな」
 目尻に涙を浮かべる雪歩の耳元へ口を近づける。
「俺は『イイ』と思うぞ、ああいう雪歩も。ただ──」
 見せるのは俺だけにしてくれよ。そう付け足すと、雪歩は何度も頷いてくれた。
 下へ下へと気持ちが落ち込んでいくのにはブレーキをかけられただろうか。もう一押しぐらいしておきたい。
「そうだ、雪歩。お茶煎れてくれないか?」
「お茶、ですか?」
「ああ、喉が渇いちまった。寝る前に体も温めておきたいし、雪歩の煎れるお茶が飲みたいな」
 振り向いた雪歩に表情を崩しながら軽い調子で言ってみると、曇っていた顔に花のような笑みが戻った。
「はい、じゃあ、お部屋から持ってきますね」
 ベッドからひょいと降りて、小走りで雪歩が部屋を後にしていった。励ましの言葉が中々効いてくれないこ
とも多い彼女が、こんな雑用みたいなことを頼んだだけで機嫌を直してしまうのが、なんだか可笑しい。
 雪歩を待つ間に少し荷物を整理しようと立ち上がり、二重の窓を覆うカーテンをめくると、外には雪が降っ
ていた。墨をぶちまけたように真っ暗な空から、雨よりもずっと情緒的にゆっくりと白い粒が目の前を通り過
ぎていく。眼下には、寒さに縮こまりながら歩いている人がまばらに見られる。道路脇に作られた雪だるまが
ここからでも見て取れた。
「プロデューサー、お待たせしました」
 外の景色を眺めていると、カチャリとドアの閉まる音と共に、雪歩がやってきた。御盆の上には、ほかほか
と湯気を立てる湯呑みが二つ。よく見れば、羽織った上着の下はちゃっかりパジャマに変わっていた。それを
見る俺の視線に気が付いたのか、雪歩の視線もチェック模様に落ちた。
「こっちで飲もうか。眺めがいいんだ」
「あ、はい」
 手招きすると、雪歩はちまちました歩幅で近寄ってきた。俺の体と触れ合うか触れ合わないかのギリギリの
所で立ち止まる。心の落ち着く緑茶の香りが、温かく香った。
「……明日も頑張れそうか?」
「はい、少し気分が楽になったので」
「そうか、そいつは良かった」
 お茶を啜った後に吐く、熱い溜め息。それが同時に出た。
 顔を見合わせて笑みを零したのも、同時だった。


 終わり





作者:◆yHhcvqAd4.

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