カメラ、写真に関連した漫画を紹介するWikiです。

著者新谷かおる
掲載紙・掲載時期マンガ少年'80.2〜8、'80.11〜'81.4
単行本MF文庫 新谷かおるマグナムロマンシリーズ4

 男たる者男に生まれたからには、一生に一度くらいは「格好いい」と人様から言われるほどの活躍はしてみたいものです。テレビのアニメ、特撮、ドラマを見て、登場人物の台詞、挙動、生き様に憧れた事が誰しもあるのではないですか。いや、悪と戦う正義の味方や刑事に止まらず、番組の中で視聴者に「格好いい」生き様を見せつけるヒーローもいました。スポーツ選手然り、イケメン歌手然りです。そしてカメラマンもまた、時代を記録する人々として「格好いいプロフェッショナルの世界に生きる人々」の一員たりえた時代もありました。今回取り上げさせていただく「シリーズ1/1000sec.」を何回も読んでみるうちに思った事はまさしくそれでしたね。全編に渡って「職業写真家」、いやそうある前にプロフェッショナルとしての生き様が実に格好良く描かれているのですから。新谷氏の漫画では登場人物の哲学的な台詞は定番中の定番とはいうものの、大御所の先生の作品はこういうところからして違う。つくづくそれを改めて思い知らされました。'80年代の日本製一眼レフ、そしてその使い手が輝いていた時代に今尚憧憬を抱いているそこの貴方、一読の価値はありですよ。

 物語は全十二話構成で前半六話は牧恭一という男子高校生が主人公の、小さな写真プロダクションが舞台の話で、後半六話はそれぞれフィールドの違う写真家の話を一話ずつオムニバス形式で描いていく、という構成になっております。画風は現在主流の萌え絵とは違う、一昔前の少女漫画風味で、それで新谷氏の他の作品を知らずに入ってこられた方は好き嫌いが分かれるかもしれませんが、主人公やヒロイン、そして彼らを取り巻く人達はどうして魅力的に描かれてます。先にも触れた通り皆さんの台詞に一々重みがあって、読者にズシッと伝わってくるんですな。たとえそれがモブキャラにも等しい扱い(さながら「日出処の天子」の脇の皆さんのような)のサブであったとしても。姫アート(前半の舞台になる写真プロダクション)のカメラマンの皆さんにしても、後半のオムニバスストーリーの主役のカメラマンにしても仕事に対して妥協は一切せず、それが周囲と軋轢を生む事も一度や二度ではありません。だけどそれが故に彼らの「プロ根性」が輝くんですねw。正に「プロ」のあるべき姿として。
 私が殊の外印象に残ったのは9話の「シャッター・ソルジャー」。海外特派員、本間猛(通称モーさん)の戦争中のアフリカ取材におけるエピソードなのですが、最初に猛がここの取材をやめて祖国へ帰ると言った同僚に、持ってた標準レンズが壊れたからお前のを譲ってくれと言う件があります。それで戦場のど真ん中に飛び込むのかと訝る同僚に猛はこう言いました。
「遠くから200や300使って撮ってたら商売にゃならんよ。それにライフル弾の前じゃ…200・300の焦点距離なんて安全範囲とは言えんしな。同じ…弾に当たるなら近よって撮ったほうが思いっ切りがつくってもんさ」
 こうまで度胸のある記者も今時そうはいますまい。標準で迫力を出そうと思えば、戦場ならいつ流れ弾に当たって死ぬか知れたものではありません。ファインダーを覗いている間に足が地雷に触って死ぬかもしれません。それを思うとこの話のオチに用意されている件の重みが一層感じられようというものですが……それは読んでのお楽しみということで。

 カメラそのものの方でも、元より飛行機、車、バイク、PC、そして勿論カメラと「男の子の好きな物」を描くのは得意な方ですからそこら辺のツボもしっかり押さえてくださってます。ライツミノルタCL、オリンパスOM-2、ニコンF、ニコンF2、キヤノンF-1、キヤノンAE-1、コニカFP、ミノルタXE、コンタックスRTS、ブロニカS2、ハッセルブラッド500C、マミヤ6……あとこれは扉絵だけですがペンタックスMX+SMC85mmF1.8+モータードライブ+バッテリーグリップにニコンEM+GNニッコール45mmF2.8+MD-E…… これまたそれなりのキャリアを持つペンタ党やニコン党の方が見たら
「お主、半可通ではないな?」
 と言いたくなるような組み合わせじゃないですか?w事実両方とも中古市場での人気は高く、値段も高めで安定してます。それだけでなくて撮影に使われてるスタジオの描写もこれでもかってくらい丁寧ですし、カメラメーカーによる写りの違いについての解説も他の漫画ではないくらい深いです。

 こちらのニコンのインタビューでも語られている通り新谷氏は飛行機以外でもカメラ趣味もお持ちなのは有名で、本作以外でもカメラが登場する機会は多いです。そしてそれに関して登場人物が語る時もただならぬ思い入れが感じられて、カメラ好きには大層嬉しいポイントです。そして繰り返しになりますが、登場人物の一々重みのある台詞と、それが決して嫌味にならない格好良さ、強かさが氏の漫画の神髄と言えましょう。'80年代の金属の塊のようなカメラに惚れ込んだならぜひ読んでいただきたいです。そして新谷氏の漫画の神髄を感じてください。

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

児ポ法改正反対


↑署名にご協力お願いします。

Menu

メニュー

【メニュー編集】

作品リンク

Twitter

メールフォーム

管理人/副管理人のみ編集できます