口数が少なく、物事にそこまで関心を持たない。基本的に生きられる最低限の食料と画材を買うお金があれば良いと思っており、そんな様子を見た面倒見のいいお得意さんなどが支援をしてくれたりもしながら生活している。
過去
家は裕福な方だった。
父は貿易業、母は料理人。何人ものお手伝いを雇って何不自由無い生活。
両親は白が好きで、絨毯やインテリアも白を基調としたものが多かった。
引っ越しは多かったが、色々な場所で友達が出来るのが嬉しかったし、
引っ越した後もエアメールなどでやり取りする友達も沢山いたので寂しいとは思うことはあまり無かった。
母に料理を教えてもらうことが多かったのもあり、将来は料理人になりたいと思っていた。
遺伝なのかわかりませんが、僕は筋が良いようで、自信もあった。
父も優しすぎるほどで、今ではもっと周りに厳しい目をしておくべきだったんじゃ、とか思ってしまう。
その他にも、メイドさんの中でも特に良くしてくれるお世話係のような方がいた。
とても仲は良かった。言ってしまえば、初恋というものだったかもしれない。
優しい人たちに囲まれて、将来の不安や焦りとは無縁の毎日だった。
絵を描くのも好きだった。これは何故だか恥ずかしくて誰にも言えなかったけれど。
このまま当たり前な毎日が続いていくと思っていた。
しかし、現実は非情。
中学一年の時。
料理研究部に入っていた。その頃は料理を披露するイベントが近く、毎日クタクタだった。
深い眠り。しかし、廊下が何か騒がしいとぼんやり思っていた。
そんな中、火災報知器が鳴る。
さすがに飛び起きました。パチパチと炎の上がる音が聞こえる。
幸い、部屋からは遠いようだ。
それにしても、人の声が全く聞こえない。避難したのだろうか。
いや、避難するにしても何か声はかかるはずだ。
少しパニックになりながらも、どうにか落ち着かせ、ドアを開ける。
広がっていたものは、赤。
遠くから迫ってくる赤は、炎。
足元に広がる赤は、血。
赤に染まった見知った人たちが、亡骸となって転がっている。
全く脳が追い付いていなかった。
何かが起きている。逃げないといけない。なのに、動けない。
父さんは。母さんは。
涙を流す余裕すら無い中、渇望していた人の声がした。
「香坊ちゃん、起こしてしまいましたか。」
そこに立っていたのは、お世話係をしてくれていたメイド。
いつも眩しいような笑顔を向けてくれていた。
同じ表情、同じ笑顔。同じ雰囲気。
いつもと違う場所は、大量の返り血と、片手に持った大きな銃。
そして、母さんの首から上を持っていることだった。
自分の今までの全てが崩れていく音がする。
あぁ、きっと僕は死ぬんだ。
そう思った。
何か話しているようだが、全く入ってこない。
彼女が僕に銃口を向ける。
この人にだったら、いいのかもしれない。そんなことを思ってしまった。
その時、
彼女の身が背後まで迫っていた炎へと投げ出される。
血だらけではあったがわかった。父さんだった。
二人が炎の中で争っているのがわかる。
父さんの逃げろという叫び。
やっと足が動いた。涙が流れた。脳が追い付いてしまった。
僕は走るしかなかった。嫌な考え全てを振り払うように。理解しないように。
幸い煙で動けなくなる前、炎で道がふさがれる前に屋敷から出ることができた。
それでも走る。何も考えたくなかったから。何を信じたら良いかわからないから。
夢であれと願った。
走って走って、気付いたら朝になっていた。
そこからはあまり覚えていない。
警察に保護され、親戚を回ったような気がする。
思考を巡らせたくなかったのだろう。
父が一代で築いたこともあって、親戚には疎まれていたことが何となくわかった。父の遺産目当てなのも透けて見えた。
最低限の生活はあった。高校を卒業してすぐに親戚全てと縁を切る。
料理は好きだが、母が料理人はチームという話をしていたのを思い出し、必要以上に人と関わりたくなかったのでやめた。
僕の将来は、一人で描いていた絵しか残されていなかった。
あの件以来、何故だかキャンバスの前では自分でいられた。
感情を吐き出すように、ストレスのはけ口にするかのように、絵を描いた。
あの頃のような絵を描くことは出来なかった。
まず絵と呼べるものだったかも怪しいくらいだ。
それでも何故だか価値はついた。生活は出来るだろう。
このまま、多くは望まない。何かを信じたら、きっと傷付くだけだから。
ただ生きて、何も成さぬまま、何も得ぬまま。
僕はあの時のまま死んでいく。それでいいんだ。
それでいいと、思っていたんだ。
好きな食べ物:サンドイッチ 嫌いな食べ物:しいたけ
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