【1920s】Garden of Eden 後日談
最終更新：ID:gehcsRJthA 2014年08月07日(木) 16:33:48履歴
あらすじ 
クリスマスの朝、貴方達の枕元に添えられていた手紙。一枚のチケット。
招かれた楽園で貴方達を出迎えたのはあどけない少年と、何処か余所余所しい青年。
薔薇、死体、ナゾナゾ、池、真実、
怪物、記憶、日記、鍵、秘密。
白い病室、孤独、父、少年、窓、男、
外、焦がれ、願望、悲劇、㐂劇、楽園。
遠く近く響く、かの神の高笑いと淋しげな少年の声。
閉ざされた楽園の中で罪過は塗り重ねられる。
けれども一つだけ確かなのは。
幾人もの人々が後ろ指を指そうとも、罪に罰をと糾弾しようとも。
あの少年は、もう孤独ではない。
思い出せたのだから、気がつけたのだから。
貴方達のお陰で、一番大切なことに。
青い薔薇が咲いたんだ。
青い、青い薔薇。奇跡の花が。
……ありがとう。
追憶の花 -紫苑-は小さく微笑んだ。
招かれた楽園で貴方達を出迎えたのはあどけない少年と、何処か余所余所しい青年。
薔薇、死体、ナゾナゾ、池、真実、
怪物、記憶、日記、鍵、秘密。
白い病室、孤独、父、少年、窓、男、
外、焦がれ、願望、悲劇、㐂劇、楽園。
遠く近く響く、かの神の高笑いと淋しげな少年の声。
閉ざされた楽園の中で罪過は塗り重ねられる。
けれども一つだけ確かなのは。
幾人もの人々が後ろ指を指そうとも、罪に罰をと糾弾しようとも。
あの少年は、もう孤独ではない。
思い出せたのだから、気がつけたのだから。
貴方達のお陰で、一番大切なことに。
青い薔薇が咲いたんだ。
青い、青い薔薇。奇跡の花が。
……ありがとう。
追憶の花 -紫苑-は小さく微笑んだ。
「神というものが存在しなかったら、まずは「彼」を創造する必要があるだろう？」
...TRUE END...
探索者たちの後日談
その後の彼ら、彼女らの軌跡――・・・・。
Hick Leyton / 狐麺様
PCより
PLより
どうも、おじさんPCに飽くなき執念を燃やすPL狐麺です。
まずは２日間お疲れ様でした！
今回はどう見ても刑事な立ち絵からの大学教授というなんだそれというPCでしたが、
個人的にあの立ち絵でRPするというのが目標だったので個人的には大満足でした。
一瞬SAN的に大ピンチでしたがKPの温情でどうにか継続できそうなので、
これからも現役として頑張っていきます。…RPに関しては追及しないでください（土下座）
これから下はKP・SKP・PLの方々へのメッセージです
しがない名無し/リディアさん
とある卓の見学や、１９２０卓のPL同士・１９２０卓のKPとPLなど
多くの卓で関わりがあるので、また同卓できてうれしかったです。
…が、せっかく同じ大学の設定にしたのに殆ど生かせず申し訳ないです。
凛としていて見ていてとても気持ちいいRPでした！
まほろ/ヴァレリーさん
卓の見学等で何回かお会いしたことはあったので、
初めて卓を囲めてとても楽しかったです！
謎解きでｇｄｇｄ考えているのを黙って見守っていただきありがとうございました。
もう少しリアルINT鍛えてきます…はい。
少しダウナ―なキャラで何故か貧乏くじを引かされそうになるなんとも不思議な
ヴァレリーは、見ていてとても飽きませんでした！
ナナツボシ/ロバートさん
初対面なのに開幕から絡みまくりました。理由は完璧になんとなくでした（殴
ですが、まさか二人揃って称号をいただけるとは思っていなかったので
積極的にからんでよかったなぁと思いました。
やや影のあるPCというのはRPするのは難しいのにすごいなぁと
一緒にRPしながら感じていました。
またヒックと同卓する機会があれば、相棒~1920~として頑張っていきましょう（え
追伸 ヒックは友人が出来て満足しています
くろつづみ/ヘンリーさん
お名前は何度か見たことがありましたが、こうやって卓を囲めて
とても楽しかったです！
ヘンリーの感想は…主人公の一言に尽きます。
ダイスの出目や的確なRP、探索に明け暮れている自分とはとても違ったので、
すごいなぁと思いました。
今回はほぼ絡みがなかったので、次同卓するときはもっと絡んでいきたいです！
その時までに私もRPの腕をあげてきます！
KP・古都子さん
やっと…やっと古都子さんの卓に参加できた…
それが一番の感想です。わがCoC歴に悔いなし！（ラオウのポーズ）
ってくらい参加できて楽しかったです。
初日はちょっと探索に意識を向けすぎたので２日目は積極的にNPCと
絡んでみましたが…もう少しまんべんなく絡めるように精進します。
色々ダイスで無茶ぶりをしてしまい申し訳ありません。
この長くて険しいRP道をこれからも登っていこうと思います。
それでは、また同卓できるときまで！
SKP・カート・アングルさん
カートさんとは…もう何度も色々なところでお会いしていますね。
あるときは見学席どうし、あるときはPLと見学席、
またKPしている時に見学席に来ていただく等々…。
今回はSKPとPLとしてでしたが、いやぁカリプソの胡散臭いこと（笑い）
やはりお前か、と思いながらもなんとか生還出来てよかったです。
やはり人は第一印象で決めつけるのは大事だと思いました（おい
それでは、またどこかでお会いしましょう！
最後に、皆様に幸多からんことを願って筆を置くことにします。
２日間本当にありがとうございました！
大学にて
今日はここまでだ。各自予習復習をしとくよーに…」
いつも通り生徒の大半は聞いていない講義を終わらせて俺は教室を出る。
まぁあいつらが聞いてなくても俺はちっとも困らないから注意をすることはない。
困って単位をくれと言われてもお前らが悪いと『懇切丁寧』に言えばそれで終わりだ。
それで逆恨みしてナイフだの拳銃だのつきつけられたことは何度かあるが…
まぁ『どうにか』してきたからこれからも大丈夫だろう。
「…にしてもまだ治らないか」
あの一件からしばらくするが、難聴はまだおさまっていない。
確かに見た時は気がおかしくなりそうだったのは確かだが、一か月経った今でもまだ続くとなると辟易する。
普段の生活にはそこまで支障がないとはいえ、やや億劫だ。
定期的に自分で自分の精神を分析しているが、中々ショックから脱せない日々に
少々ストレスが募る。葉巻の量もやや増えているので気をつけたい。
そういえば最近リディアが研究室を訪れる。
同じ事件に遭遇したから共感を覚えたのかと思ったらそうでもなく、
ただ世間話をしに来ているようだ。まぁ無碍におい払う必要もないので
暇な時は世間話に付き合うことにしている。
「さて、今日はこれからミスカトニック大学か…」
ミスカトニック大学の大図書館には何度か訪れたことはあったが、そこにはなかなか興味深い本が多数あるという噂を聞いて今日館長と会う手筈になっている。
まぁ正直言ってこんな不可思議な出来事に遭遇した人間が、
そこいらにわんさかにいたとしたら問題だろうから、多分空振りだろう。
それでも様々な出来事と経験を持っている人物なのは間違いないだろう。
無駄足になるとは思わない。
「よし、行くか…」
大学を出て葉巻をくゆらしていると、時間通りにロバートが来る。
口では色々言いながらも仕事はきちんとこなすところは評価するべきところだ。
元が生真面目だからか、それとも仕事という義務感からかは分からないが
こちらとしては大助かりだ。
まぁ、たまに飯を食ったりするときはバカ話に花を咲かせたりもしたりするので
雇って損はなかったと言える。…友人としても申し分ない。
「今日はミスカトニック大学までだ。いつも通り頼んだぞ」
そう言うと「了解」の一言で車を発進させる。
さて、ヘンリー・アーミテッジはどんな人物なのか今から楽しみにしておこう…。
いつも通り生徒の大半は聞いていない講義を終わらせて俺は教室を出る。
まぁあいつらが聞いてなくても俺はちっとも困らないから注意をすることはない。
困って単位をくれと言われてもお前らが悪いと『懇切丁寧』に言えばそれで終わりだ。
それで逆恨みしてナイフだの拳銃だのつきつけられたことは何度かあるが…
まぁ『どうにか』してきたからこれからも大丈夫だろう。
「…にしてもまだ治らないか」
あの一件からしばらくするが、難聴はまだおさまっていない。
確かに見た時は気がおかしくなりそうだったのは確かだが、一か月経った今でもまだ続くとなると辟易する。
普段の生活にはそこまで支障がないとはいえ、やや億劫だ。
定期的に自分で自分の精神を分析しているが、中々ショックから脱せない日々に
少々ストレスが募る。葉巻の量もやや増えているので気をつけたい。
そういえば最近リディアが研究室を訪れる。
同じ事件に遭遇したから共感を覚えたのかと思ったらそうでもなく、
ただ世間話をしに来ているようだ。まぁ無碍におい払う必要もないので
暇な時は世間話に付き合うことにしている。
「さて、今日はこれからミスカトニック大学か…」
ミスカトニック大学の大図書館には何度か訪れたことはあったが、そこにはなかなか興味深い本が多数あるという噂を聞いて今日館長と会う手筈になっている。
まぁ正直言ってこんな不可思議な出来事に遭遇した人間が、
そこいらにわんさかにいたとしたら問題だろうから、多分空振りだろう。
それでも様々な出来事と経験を持っている人物なのは間違いないだろう。
無駄足になるとは思わない。
「よし、行くか…」
大学を出て葉巻をくゆらしていると、時間通りにロバートが来る。
口では色々言いながらも仕事はきちんとこなすところは評価するべきところだ。
元が生真面目だからか、それとも仕事という義務感からかは分からないが
こちらとしては大助かりだ。
まぁ、たまに飯を食ったりするときはバカ話に花を咲かせたりもしたりするので
雇って損はなかったと言える。…友人としても申し分ない。
「今日はミスカトニック大学までだ。いつも通り頼んだぞ」
そう言うと「了解」の一言で車を発進させる。
さて、ヘンリー・アーミテッジはどんな人物なのか今から楽しみにしておこう…。
挨拶諸々
どうも、おじさんPCに飽くなき執念を燃やすPL狐麺です。
まずは２日間お疲れ様でした！
今回はどう見ても刑事な立ち絵からの大学教授というなんだそれというPCでしたが、
個人的にあの立ち絵でRPするというのが目標だったので個人的には大満足でした。
一瞬SAN的に大ピンチでしたがKPの温情でどうにか継続できそうなので、
これからも現役として頑張っていきます。…RPに関しては追及しないでください（土下座）
これから下はKP・SKP・PLの方々へのメッセージです
しがない名無し/リディアさん
とある卓の見学や、１９２０卓のPL同士・１９２０卓のKPとPLなど
多くの卓で関わりがあるので、また同卓できてうれしかったです。
…が、せっかく同じ大学の設定にしたのに殆ど生かせず申し訳ないです。
凛としていて見ていてとても気持ちいいRPでした！
まほろ/ヴァレリーさん
卓の見学等で何回かお会いしたことはあったので、
初めて卓を囲めてとても楽しかったです！
謎解きでｇｄｇｄ考えているのを黙って見守っていただきありがとうございました。
もう少しリアルINT鍛えてきます…はい。
少しダウナ―なキャラで何故か貧乏くじを引かされそうになるなんとも不思議な
ヴァレリーは、見ていてとても飽きませんでした！
ナナツボシ/ロバートさん
初対面なのに開幕から絡みまくりました。理由は完璧になんとなくでした（殴
ですが、まさか二人揃って称号をいただけるとは思っていなかったので
積極的にからんでよかったなぁと思いました。
やや影のあるPCというのはRPするのは難しいのにすごいなぁと
一緒にRPしながら感じていました。
またヒックと同卓する機会があれば、相棒~1920~として頑張っていきましょう（え
追伸 ヒックは友人が出来て満足しています
くろつづみ/ヘンリーさん
お名前は何度か見たことがありましたが、こうやって卓を囲めて
とても楽しかったです！
ヘンリーの感想は…主人公の一言に尽きます。
ダイスの出目や的確なRP、探索に明け暮れている自分とはとても違ったので、
すごいなぁと思いました。
今回はほぼ絡みがなかったので、次同卓するときはもっと絡んでいきたいです！
その時までに私もRPの腕をあげてきます！
KP・古都子さん
やっと…やっと古都子さんの卓に参加できた…
それが一番の感想です。わがCoC歴に悔いなし！（ラオウのポーズ）
ってくらい参加できて楽しかったです。
初日はちょっと探索に意識を向けすぎたので２日目は積極的にNPCと
絡んでみましたが…もう少しまんべんなく絡めるように精進します。
色々ダイスで無茶ぶりをしてしまい申し訳ありません。
この長くて険しいRP道をこれからも登っていこうと思います。
それでは、また同卓できるときまで！
SKP・カート・アングルさん
カートさんとは…もう何度も色々なところでお会いしていますね。
あるときは見学席どうし、あるときはPLと見学席、
またKPしている時に見学席に来ていただく等々…。
今回はSKPとPLとしてでしたが、いやぁカリプソの胡散臭いこと（笑い）
やはりお前か、と思いながらもなんとか生還出来てよかったです。
やはり人は第一印象で決めつけるのは大事だと思いました（おい
それでは、またどこかでお会いしましょう！
最後に、皆様に幸多からんことを願って筆を置くことにします。
２日間本当にありがとうございました！
Lydia Radford / しがない名無し様
PCより
PLより
Dedicated to...
聖夜は過ぎ去り、その活気も落ち着き始めた冬の日。
しかし新たな年も目前まで迫り、聖夜を終えてなお多くの人々が浮足立っているそんな日のこと。
一人の少女がバスを降り、人気も、世間との繋がりも感じさせない森の奥の小さなバス停を訪れていた。
本来なら男性が着ている服を身に纏い、弦楽器のケースを持った少女の視線の先の施設。
少し離れたその場所からも、薔薇の青が眼に映っていた。
彼女、リディア・ラドフォードがこの施設を訪れた理由、それは…………。
「やっぱり、いつ見ても綺麗な薔薇……。」
数日前。クリスマスの日に半ば強制的に連れて行かれて訪れた、そして、
名状しがたき怪異に巻き込まれることとなったこの施設に、私は再び足を踏み入れていた。
そこかしこに青薔薇が咲いている神秘的で美しい風景に、思わず感嘆の言葉をこぼしてしまう。
だけど、今日ここを訪れた目的は、青薔薇ではなく、別のこと。
それを果たすため、この幻想のような景色に目を奪われつつも、私は温室へ足を向けた。
温室に入ると、炬燵の中でこの震えるような寒さを凌いでいたこの施設の主が声をかけてきた。
元より来客は少ないらしく、こんな時期に現れた、それもつい先日一度訪れたばかりの唐突な来客に少々ばかり驚きつつも、嬉しそうに歓迎してくれた。
そして少しの世間話の後、如何なる用かと尋ねてきた彼に、私はヴァイオリンのケースを抱え直してこう答えた。
「まだ、果たせていない約束があったから、です。……少しの間、失礼しますね。」
私の返事を聞いて、何処か得心したような表情で了承してくれた彼に軽く一礼して、温室の奥へ向かう。
そこもやはり青薔薇が咲いていたが、それ以外にも沢山の植物が命を芽吹かせていた。
すぅ、と息を吸い、ゆっくりと吐く。そして、この何処かにいるかもしれない彼女に声をかける。
「また来たよ、ヴィクトーリヤ。」
曰く、彼女は温室の薔薇の一種、だそうだ。その意味を、私はきちんと計れていない。
あの、ここと良く似た、それでいて本当は全く別物の世界で出会った可愛らしい少女。
彼女が結局どうなったのかはよく分からないけど。
『またいつか、ちゃんと演奏を聞かせてあげるから。』
―――その約束を果たすことのできる場所は、ここ以外に思いつかなかった。
ケースから、切れてしまった弦を張りなおしたヴァイオリンを取り出して、一言。
「あの時のやり直し。楽しんでいってね。」
あの時は常軌を逸したモノを見て精神状態が不安定になっていた。でも、今は違う。
何時ものように、いや、今なら何時も以上にいい演奏ができるかもしれない。
そんな感覚を覚えるとともにゆっくりと弓を運び始める。
―――さあ、この音色を。
温室の薔薇（ヴィクトーリヤ）に捧げよう。
しかし新たな年も目前まで迫り、聖夜を終えてなお多くの人々が浮足立っているそんな日のこと。
一人の少女がバスを降り、人気も、世間との繋がりも感じさせない森の奥の小さなバス停を訪れていた。
本来なら男性が着ている服を身に纏い、弦楽器のケースを持った少女の視線の先の施設。
少し離れたその場所からも、薔薇の青が眼に映っていた。
彼女、リディア・ラドフォードがこの施設を訪れた理由、それは…………。
「やっぱり、いつ見ても綺麗な薔薇……。」
数日前。クリスマスの日に半ば強制的に連れて行かれて訪れた、そして、
名状しがたき怪異に巻き込まれることとなったこの施設に、私は再び足を踏み入れていた。
そこかしこに青薔薇が咲いている神秘的で美しい風景に、思わず感嘆の言葉をこぼしてしまう。
だけど、今日ここを訪れた目的は、青薔薇ではなく、別のこと。
それを果たすため、この幻想のような景色に目を奪われつつも、私は温室へ足を向けた。
温室に入ると、炬燵の中でこの震えるような寒さを凌いでいたこの施設の主が声をかけてきた。
元より来客は少ないらしく、こんな時期に現れた、それもつい先日一度訪れたばかりの唐突な来客に少々ばかり驚きつつも、嬉しそうに歓迎してくれた。
そして少しの世間話の後、如何なる用かと尋ねてきた彼に、私はヴァイオリンのケースを抱え直してこう答えた。
「まだ、果たせていない約束があったから、です。……少しの間、失礼しますね。」
私の返事を聞いて、何処か得心したような表情で了承してくれた彼に軽く一礼して、温室の奥へ向かう。
そこもやはり青薔薇が咲いていたが、それ以外にも沢山の植物が命を芽吹かせていた。
すぅ、と息を吸い、ゆっくりと吐く。そして、この何処かにいるかもしれない彼女に声をかける。
「また来たよ、ヴィクトーリヤ。」
曰く、彼女は温室の薔薇の一種、だそうだ。その意味を、私はきちんと計れていない。
あの、ここと良く似た、それでいて本当は全く別物の世界で出会った可愛らしい少女。
彼女が結局どうなったのかはよく分からないけど。
『またいつか、ちゃんと演奏を聞かせてあげるから。』
―――その約束を果たすことのできる場所は、ここ以外に思いつかなかった。
ケースから、切れてしまった弦を張りなおしたヴァイオリンを取り出して、一言。
「あの時のやり直し。楽しんでいってね。」
あの時は常軌を逸したモノを見て精神状態が不安定になっていた。でも、今は違う。
何時ものように、いや、今なら何時も以上にいい演奏ができるかもしれない。
そんな感覚を覚えるとともにゆっくりと弓を運び始める。
―――さあ、この音色を。
温室の薔薇（ヴィクトーリヤ）に捧げよう。
実績のロックが解除されました
温室の薔薇に捧ぐ ： リディア・ラドフォードが小さな約束を果たしました。
Monologue -Alicia Radford-
クリスマス。私はそれをとても楽しみにしていました。
何か具体的な理由があったわけでもありませんが、特別な日、というものはいつだって楽しみになるものです。
みんなでその日をお祝いします。パーティもします。もしかしたらクリスマスプレゼントが枕元に置いてあるかもしれません。
でも、今年のクリスマス、目を覚ました私に最初に届いたのは、素敵なプレゼントではなく。
大切な、かけがえのないお姉ちゃんが居なくなったという信じたくない知らせでした。
起きたばかりの私に届いた、信じ難いその言葉の意味を理解するのに、そう、たっぷり10秒くらいでしょうか。
とにかく長い時間が必要でした。
それを理解してしまった私は、一瞬、意識がどこか遠くに行ってしまったかのような、立ち眩みのような感覚を覚えました。
そして最初にしたことは、現実からの逃避。
嘘だぁ、と笑いながら（きっと乾いた笑いだったことでしょう）お姉ちゃんの部屋へふらふらと向かい。
そして、本当にお姉ちゃんと、お姉ちゃんが普段使っていたヴァイオリンが忽然と姿を消していた以外に
何の痕跡も残していない部屋を見て、それが嘘でもなんでもないと悟りました。
秘密で外出していた、と言うことなら、それはそれで心配ですが、少しは安心できたことでしょう。
でも、何もない。着替えの跡も、荷物を用意したような跡も。何もなかったんです。
誘拐という言葉が頭をよぎりました。しかし、それにしたって全くそのような痕跡も残っていない。
そう、その時の私にとって、お姉ちゃんは、まさしく�狆辰┐討靴泙辰�"んです。
そこからもまた、大変でした。
お父さんとお母さんは警察の人に連絡をして、近所の人たちに姿を見なかったかと聞いて回って。
……そんな中、私は何もできませんでした。
ショックのせいか、寒空の下を少し歩いただけでいとも簡単に体調を崩してしまったのです。
私もお姉ちゃんを探したかった。でも、体は言うことを聞いてくれません。
結局、私はずっと家で泣きながら待っていることしかできませんでした。
お父さん、お母さん、警察の皆さん、近所の方々、たくさんの人が探してくれていました。
それでも、お姉ちゃんが見つかるどころか、姿を見た人も、ほんの小さな手がかりすら全く見つかりませんでした。
そして、日も傾き始めたような時間。皆さんが家から遠く、隣町の方まで探しに出て行ったころ。
もう泣くこともできず、ただただ無事を祈るしかできなくなっていた時。
唐突に家のドアが開き、そして閉じる音がしました。
お父さんもお母さんも戻ってくるには早い時間。少しの時間頭の中を埋めた疑問は、一瞬のうちに吹き飛んでしまいました。
お姉ちゃんが帰ってきてくれたのかもしれない、その考えに至った瞬間に。
うまく動かない体を引きずるようにして、どうにか玄関先にたどり着いて、言葉をかけました。
「お姉ちゃん……！よかった、すごく、心配だったんだよ……？」
最初の感情は、安心。
お姉ちゃんは、どこか幸せそうな、でも、確かな疲れを感じさせるような表情をしてたよね。
詳しいことはわからないけど、きっといいことがあったんだろうな、って感じるような。
できればずっと見ていたい、って思うような。そんな表情。
次の感情は、後悔
でも、それはその時の私の姿を視界に捉えた瞬間に、姿を変えてしまったんだ。
驚きや自責を内包した、私の体調が特に悪かったときによく見せる表情に。
その時、あ、しまった、って。そう感じた。でも気づくのが遅すぎたんだ。
その次は、焦燥。
……当然、だよね。お姉ちゃんは、私をとっても大切にしてくれてるから。
私に注いでくれてる優しさ、しっかり、感じてるよ。
そんな目に入れても痛くない程大事な妹が、体調を崩しているのに自分のことを心配してるんだから。
さて、そんなお姉ちゃんは何をしようとするのか……私、わかるよ？
……やめて、大丈夫。そう言いたかったけど、もう、遅いよね。
「アリシアっ……！ごめん、心配かけて。私は大丈夫だから、すぐに布団に戻って……！」
そして、諦めと、自責と、深い悲しみ。
……お姉ちゃん、優しいから。
自分のことなんて二の次にして、看病を始めちゃうんでしょ？
きっと、お姉ちゃんはこのまま看病を続けた後、帰ってきたお父さんとお母さんにひどく叱られるんだろうなぁ。
そして、夜になって私が寝付いたことを確認して、やっと今更のように自分の疲れを自覚するの。
ねえ、苦しくない？辛くない？……苦しくないんだよね。辛くないんだよね。
お姉ちゃんにとってそれが喜びなんだって、私は知っちゃってる。
でもね？私のことを大事にしてくれてるお姉ちゃんの姿を見ると、嬉しくて、有難くて、でもなんだか申し訳なくて……。
……こういうことが起きると、いつだって自分の体を恨めしく思う。
私が所謂普通の子なら、お姉ちゃんはこんなに苦労しなくてよかったのに。
私にお姉ちゃんの優しさが注いでもらえるように、私もお姉ちゃんに沢山尽くしてあげられたはずなのに。
献身を、ただ受け取り続けることに対する罪悪感。
そんな感情を最初に浮かべたのは、もう、10年近くも前です。
その日もまた、私が体調を崩してしまっていました。
ちょっと拗らせてしまったので、かかりつけの病院に行くことになっていたのです。
私たちの家は共働きなので、その付添いはお姉ちゃんが一人でしてくれていました。
お姉ちゃんだってまだ大人だなんて言えない年だったのに、その役割をしっかりと成し遂げていました。
……そんな日。この後起きる事は、私の人生の中で最も巡り合わせが悪かった出来事だと断言できます。
病院で起きた狂人の無差別殺人事件、その出来事はそう人々に伝えられています。
運悪く、私たちはその場に居合わせてしまったのです。
血、悲鳴、怒号、血、銃声、虚ろな獣の如き目、血、血―――。
おぼろげなはずなのに、何処か鮮烈に私の記憶に残っている映像は、凄惨なものでした。
しかし私に残っている記憶はその映像だけ。その後や、直前に何があったかは全く覚えていません。
ただ、間違いなくこれが引き金になった出来事が一つ。
お姉ちゃんが、身を守るために武道を学びたいと言い出したのです。
お父さんもお母さんも、反対しませんでした。こんな出来事に巻き込まれたのですから、当然です。
今ならわかることですが、お姉ちゃんが欲しかったのは自分を守る術ではなく、私を守る術でした。
私のため、という事実は、嬉しいのに、嬉しくないんです。
私よりもずっと永く此処に居られるお姉ちゃんに、私のために傷ついてほしくないんです。
きっと私のそんな言葉を聞いたら、お姉ちゃんは怒るんでしょうけど。
お姉ちゃんは、すごく優しくて、とても繊細です。
そして本当は、私なんかよりもずっと寂しがり屋です。
だからこそ、ただ一人の妹の私にこんなに良くしてくれていた、という所もあったかもしれません。
それでも私は、きっとそんなに永くない。
だから、私が居なくても寂しくないように。
願うなら、人と人の、素敵な繋がりをお姉ちゃんに。
……さて、随分と長話になってしまいました。
ここまでお聞きになって下さった方、いらっしゃったならありがとうございました。
お姉ちゃんに、これから先も沢山の素敵な未来が待っていることを、私はずっと祈り続けています。
もしも、にどとあえなくなったとしても。
わたしは、おねえちゃんのすぐそばで、ずっと。
おねえちゃんが、わたしのそばにいてくれたように。
何か具体的な理由があったわけでもありませんが、特別な日、というものはいつだって楽しみになるものです。
みんなでその日をお祝いします。パーティもします。もしかしたらクリスマスプレゼントが枕元に置いてあるかもしれません。
でも、今年のクリスマス、目を覚ました私に最初に届いたのは、素敵なプレゼントではなく。
大切な、かけがえのないお姉ちゃんが居なくなったという信じたくない知らせでした。
起きたばかりの私に届いた、信じ難いその言葉の意味を理解するのに、そう、たっぷり10秒くらいでしょうか。
とにかく長い時間が必要でした。
それを理解してしまった私は、一瞬、意識がどこか遠くに行ってしまったかのような、立ち眩みのような感覚を覚えました。
そして最初にしたことは、現実からの逃避。
嘘だぁ、と笑いながら（きっと乾いた笑いだったことでしょう）お姉ちゃんの部屋へふらふらと向かい。
そして、本当にお姉ちゃんと、お姉ちゃんが普段使っていたヴァイオリンが忽然と姿を消していた以外に
何の痕跡も残していない部屋を見て、それが嘘でもなんでもないと悟りました。
秘密で外出していた、と言うことなら、それはそれで心配ですが、少しは安心できたことでしょう。
でも、何もない。着替えの跡も、荷物を用意したような跡も。何もなかったんです。
誘拐という言葉が頭をよぎりました。しかし、それにしたって全くそのような痕跡も残っていない。
そう、その時の私にとって、お姉ちゃんは、まさしく�狆辰┐討靴泙辰�"んです。
そこからもまた、大変でした。
お父さんとお母さんは警察の人に連絡をして、近所の人たちに姿を見なかったかと聞いて回って。
……そんな中、私は何もできませんでした。
ショックのせいか、寒空の下を少し歩いただけでいとも簡単に体調を崩してしまったのです。
私もお姉ちゃんを探したかった。でも、体は言うことを聞いてくれません。
結局、私はずっと家で泣きながら待っていることしかできませんでした。
お父さん、お母さん、警察の皆さん、近所の方々、たくさんの人が探してくれていました。
それでも、お姉ちゃんが見つかるどころか、姿を見た人も、ほんの小さな手がかりすら全く見つかりませんでした。
そして、日も傾き始めたような時間。皆さんが家から遠く、隣町の方まで探しに出て行ったころ。
もう泣くこともできず、ただただ無事を祈るしかできなくなっていた時。
唐突に家のドアが開き、そして閉じる音がしました。
お父さんもお母さんも戻ってくるには早い時間。少しの時間頭の中を埋めた疑問は、一瞬のうちに吹き飛んでしまいました。
お姉ちゃんが帰ってきてくれたのかもしれない、その考えに至った瞬間に。
うまく動かない体を引きずるようにして、どうにか玄関先にたどり着いて、言葉をかけました。
「お姉ちゃん……！よかった、すごく、心配だったんだよ……？」
最初の感情は、安心。
お姉ちゃんは、どこか幸せそうな、でも、確かな疲れを感じさせるような表情をしてたよね。
詳しいことはわからないけど、きっといいことがあったんだろうな、って感じるような。
できればずっと見ていたい、って思うような。そんな表情。
次の感情は、後悔
でも、それはその時の私の姿を視界に捉えた瞬間に、姿を変えてしまったんだ。
驚きや自責を内包した、私の体調が特に悪かったときによく見せる表情に。
その時、あ、しまった、って。そう感じた。でも気づくのが遅すぎたんだ。
その次は、焦燥。
……当然、だよね。お姉ちゃんは、私をとっても大切にしてくれてるから。
私に注いでくれてる優しさ、しっかり、感じてるよ。
そんな目に入れても痛くない程大事な妹が、体調を崩しているのに自分のことを心配してるんだから。
さて、そんなお姉ちゃんは何をしようとするのか……私、わかるよ？
……やめて、大丈夫。そう言いたかったけど、もう、遅いよね。
「アリシアっ……！ごめん、心配かけて。私は大丈夫だから、すぐに布団に戻って……！」
そして、諦めと、自責と、深い悲しみ。
……お姉ちゃん、優しいから。
自分のことなんて二の次にして、看病を始めちゃうんでしょ？
きっと、お姉ちゃんはこのまま看病を続けた後、帰ってきたお父さんとお母さんにひどく叱られるんだろうなぁ。
そして、夜になって私が寝付いたことを確認して、やっと今更のように自分の疲れを自覚するの。
ねえ、苦しくない？辛くない？……苦しくないんだよね。辛くないんだよね。
お姉ちゃんにとってそれが喜びなんだって、私は知っちゃってる。
でもね？私のことを大事にしてくれてるお姉ちゃんの姿を見ると、嬉しくて、有難くて、でもなんだか申し訳なくて……。
……こういうことが起きると、いつだって自分の体を恨めしく思う。
私が所謂普通の子なら、お姉ちゃんはこんなに苦労しなくてよかったのに。
私にお姉ちゃんの優しさが注いでもらえるように、私もお姉ちゃんに沢山尽くしてあげられたはずなのに。
献身を、ただ受け取り続けることに対する罪悪感。
そんな感情を最初に浮かべたのは、もう、10年近くも前です。
その日もまた、私が体調を崩してしまっていました。
ちょっと拗らせてしまったので、かかりつけの病院に行くことになっていたのです。
私たちの家は共働きなので、その付添いはお姉ちゃんが一人でしてくれていました。
お姉ちゃんだってまだ大人だなんて言えない年だったのに、その役割をしっかりと成し遂げていました。
……そんな日。この後起きる事は、私の人生の中で最も巡り合わせが悪かった出来事だと断言できます。
病院で起きた狂人の無差別殺人事件、その出来事はそう人々に伝えられています。
運悪く、私たちはその場に居合わせてしまったのです。
血、悲鳴、怒号、血、銃声、虚ろな獣の如き目、血、血―――。
おぼろげなはずなのに、何処か鮮烈に私の記憶に残っている映像は、凄惨なものでした。
しかし私に残っている記憶はその映像だけ。その後や、直前に何があったかは全く覚えていません。
ただ、間違いなくこれが引き金になった出来事が一つ。
お姉ちゃんが、身を守るために武道を学びたいと言い出したのです。
お父さんもお母さんも、反対しませんでした。こんな出来事に巻き込まれたのですから、当然です。
今ならわかることですが、お姉ちゃんが欲しかったのは自分を守る術ではなく、私を守る術でした。
私のため、という事実は、嬉しいのに、嬉しくないんです。
私よりもずっと永く此処に居られるお姉ちゃんに、私のために傷ついてほしくないんです。
きっと私のそんな言葉を聞いたら、お姉ちゃんは怒るんでしょうけど。
お姉ちゃんは、すごく優しくて、とても繊細です。
そして本当は、私なんかよりもずっと寂しがり屋です。
だからこそ、ただ一人の妹の私にこんなに良くしてくれていた、という所もあったかもしれません。
それでも私は、きっとそんなに永くない。
だから、私が居なくても寂しくないように。
願うなら、人と人の、素敵な繋がりをお姉ちゃんに。
……さて、随分と長話になってしまいました。
ここまでお聞きになって下さった方、いらっしゃったならありがとうございました。
お姉ちゃんに、これから先も沢山の素敵な未来が待っていることを、私はずっと祈り続けています。
もしも、にどとあえなくなったとしても。
わたしは、おねえちゃんのすぐそばで、ずっと。
おねえちゃんが、わたしのそばにいてくれたように。
実績のロックが解除されました
アリシアの独白 ： とある姉妹の妹が、姉への想いを綴りました。
お疲れ様でした！
PTの(一応)紅一点だったリディアを動かしていた、しがない名無しです。
まず最初に、古都子さん、カートさん、狐麺さん、まほろさん、ナナツボシさん、くろつづみさん、
皆様、二日間お疲れ様でした！そしてありがとうございました！
今回は探索よりの立ち位置だったのかなぁ、と思いつつ。
二日目は色んな所に動き回ってちょこちょこと色々な人と話しに行ったつもりだったり。
後日談はファンブルによって結局ちゃんとヴァイオリンを演奏できなかったという心残り故に書き上げました。
これとは別にもう一つ、この子の設定的な部分にちらりと触れるお話を書こうとしてたりもします。
そちらも書きあがったらぜひ読んでいただけたらなぁ、と思いつつ。
ではでは、再びどこかで会うことがあればその時はまたよろしくお願い致します！
まず最初に、古都子さん、カートさん、狐麺さん、まほろさん、ナナツボシさん、くろつづみさん、
皆様、二日間お疲れ様でした！そしてありがとうございました！
今回は探索よりの立ち位置だったのかなぁ、と思いつつ。
二日目は色んな所に動き回ってちょこちょこと色々な人と話しに行ったつもりだったり。
後日談はファンブルによって結局ちゃんとヴァイオリンを演奏できなかったという心残り故に書き上げました。
これとは別にもう一つ、この子の設定的な部分にちらりと触れるお話を書こうとしてたりもします。
そちらも書きあがったらぜひ読んでいただけたらなぁ、と思いつつ。
ではでは、再びどこかで会うことがあればその時はまたよろしくお願い致します！
Valeie Zindell / まほろ様
PCより
誰かの腕に抱かれて夢を見た。
身体を叩く雨、広がる朱が黒に変わり
それは腕の中で少しずつ冷たくなっていく
まさかそんなはずない
死ぬはずがない
だって、ほら……
手にはちゃんと握っている。
二人を結ぶ紅い絆 二人を分つ境界
けれど自分はこれを何のために拾ったのだろう。
付け直す為? 届ける為?
今あるこの躰はどちらのもの。
【自分は一体誰?】
目の前の躯はどちらでもない。
【じゃあ、両方?】
今の状況が分からない
自分がどちらなのか判らない
ひどく気分が悪い
全身の感覚が無い
身体が、何もかもがなくなったような
「どうした? こんな所で、風邪をひくぞ」
ふとかけられた声に、上を見上げる。
見上げる……というよりは、その声に、顎を掴んで上を向かされたような……そんな感覚をどこか遠くに覚えながら、声の主を視界に捉える。
大きな傷の走った顔に、真っ赤な目。
引きずり込まれて溺れてしまいそうな深い黒を湛えた赤が意識を飲み込んで――
身体をねとりと包むのは揺らめく影。
禍々しくて、名状しがたくて、この世にあってはいけないような、そんな異形の影。
嗚呼、自分は、これを何処かで――
これが最初で最後の誰かの記憶。
真の実像の最後の――
―――――――――――――――--------------------
「……――? ……おはよう」
薄く開いた目蓋。差し込む薄暗い光と、彼の朧気な輪郭
霞む意識の中、右手を伸ばす
彼も左手を伸ばして、そっと触れた
そこにあるのは、冷たい鏡面じゃない
紅い血の通った温かな手
Who are you?
I'm...
「どうしたの? 悪い夢でも見たの?」
「……夢……? よく分からない……けれど……遠い昔のことのような、そんな気がする」
「……、そっか……おはよう、ヴェスパー」
「……あ、うん、おはよう、ヴァルくん!」
PLより
実像、或いは鏡像の夢
誰かの腕に抱かれて夢を見た。
身体を叩く雨、広がる朱が黒に変わり
それは腕の中で少しずつ冷たくなっていく
まさかそんなはずない
死ぬはずがない
だって、ほら……
手にはちゃんと握っている。
二人を結ぶ紅い絆 二人を分つ境界
けれど自分はこれを何のために拾ったのだろう。
付け直す為? 届ける為?
今あるこの躰はどちらのもの。
【自分は一体誰?】
目の前の躯はどちらでもない。
【じゃあ、両方?】
今の状況が分からない
自分がどちらなのか判らない
ひどく気分が悪い
全身の感覚が無い
身体が、何もかもがなくなったような
「どうした? こんな所で、風邪をひくぞ」
ふとかけられた声に、上を見上げる。
見上げる……というよりは、その声に、顎を掴んで上を向かされたような……そんな感覚をどこか遠くに覚えながら、声の主を視界に捉える。
大きな傷の走った顔に、真っ赤な目。
引きずり込まれて溺れてしまいそうな深い黒を湛えた赤が意識を飲み込んで――
身体をねとりと包むのは揺らめく影。
禍々しくて、名状しがたくて、この世にあってはいけないような、そんな異形の影。
嗚呼、自分は、これを何処かで――
これが最初で最後の誰かの記憶。
真の実像の最後の――
―――――――――――――――--------------------
「……――? ……おはよう」
薄く開いた目蓋。差し込む薄暗い光と、彼の朧気な輪郭
霞む意識の中、右手を伸ばす
彼も左手を伸ばして、そっと触れた
そこにあるのは、冷たい鏡面じゃない
紅い血の通った温かな手
Who are you?
I'm...
「どうしたの? 悪い夢でも見たの?」
「……夢……? よく分からない……けれど……遠い昔のことのような、そんな気がする」
「……、そっか……おはよう、ヴェスパー」
「……あ、うん、おはよう、ヴァルくん!」
実績のロックが解除されました
記憶の断片 ： 混沌の影によって、実像/鏡像の記憶が朧気に呼び覚まされました。
二日間ありがとうございました!
KP様、SKP様、PLの皆様方、2日間お疲れ様でした!
ツンケンしてたお陰で皆様にあまり絡みに行けなかったこと(あと発狂できなかったこと)が若干の心残りですが、楽しい二日間をありがとうございました!
二日目は指先スライスによって思いようにタイピングが出来なかったりでしたが、皆様のRPを見てるだけで楽しかったです。
やはり彼は弄られるかリアクション芸をしていないと輝かない気がします（今度見かけたら熱湯風呂か熱々のおでんでも用意しておいてください（
久々に真面目に探索担当をさせていただいたような気が…します…そっちの方で、少しでも、皆様に…貢献できてたら…いいな…（吐血
後日談……一応後日談のはず……誰のものかもぼんやりとした裏設定を。
では最後に
何で!ニャル様本体を見て!4しか減らないんですか!一時発狂すらワンチャンないって!（床を殴りつける
冗談です(真顔)
では、最後に改めまして、KP、SKP、PLの皆様、お疲れ様でした。本当にありがとうございました!
またご一緒する機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします!
ツンケンしてたお陰で皆様にあまり絡みに行けなかったこと(あと発狂できなかったこと)が若干の心残りですが、楽しい二日間をありがとうございました!
二日目は指先スライスによって思いようにタイピングが出来なかったりでしたが、皆様のRPを見てるだけで楽しかったです。
やはり彼は弄られるかリアクション芸をしていないと輝かない気がします（今度見かけたら熱湯風呂か熱々のおでんでも用意しておいてください（
久々に真面目に探索担当をさせていただいたような気が…します…そっちの方で、少しでも、皆様に…貢献できてたら…いいな…（吐血
後日談……一応後日談のはず……誰のものかもぼんやりとした裏設定を。
では最後に
何で!ニャル様本体を見て!4しか減らないんですか!一時発狂すらワンチャンないって!（床を殴りつける
冗談です(真顔)
では、最後に改めまして、KP、SKP、PLの皆様、お疲れ様でした。本当にありがとうございました!
またご一緒する機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします!
Robert Mcbride / ナナツボシ様
PCより
PLより
北ギャリソン・ストリートのもぐり酒場にて
「…それでぇ、」
俺の隣に座っている精神病医がニヤニヤと笑いながら問いかけてくる。
「あなたはサンタクロースからそんな素敵なプレゼントを頂いていた…ということですかぁ？」
ここはアーカム、ノースサイドの北ギャリソン・ストリートにあるもぐり酒場。この精神病医が
ここの店主と友人という事で、たまに連れられてこうして飲みに来ることがある。
「…素敵なプレゼント、か…もう少しで死ぬところだったんだがな…？」
…戦場で死にかけた事は幾らでもあったが…"アレ"は今まで自分が経験したことのないものだった。
…正直な所、生きて帰れただけ、命があるだけマシだったと思えるぐらいだな。
「でも、こうしてあなたはワタクシと一緒に酒を飲んでいますよねぇ？」
「…結果だけ見れば…な。」
「IFの可能性なんて考えてもキリが無いですよぉ？いつだって前を見て生きていかないと、って
ワタクシは思いますがねぇ…？」
「…分かってはいる、さ…」
過ぎ去ってしまったことは今から考えてもどうしようもない。どうにも、できはしない。
…分かっていても、なかなか切り替えていけないものさ…
「…しかし、そうですかぁ、そうなるとぉ…」
というと、隣の精神病医…チャーリー・パートリッジは何かを考え始めた。
「…？どうした、チャーリー？喋りっぱなしかと思えば黙り込んで…」
いつもはこの後、１，２時間は喋り倒すはずなのだが…
「…いえね、ふと思ったのですがねぇ…？」
「…？」
珍しく、歯切れが悪い。いつもは自重とかそういうことを考えない奴のはずだが。
「いやまあ、類は友を呼ぶというかなんというか…ですねぇ？」
「…何時になく前置きが長いな。…何が言いたい？」
そう言うと、チャーリーは少し間を置いた後、
「…６月上旬に、知り合いの探偵の仕事を手伝った、という話はしましたよねぇ？」
「…ああ、聞いた。…小遣い稼ぎにしては大分手間のかかる仕事だった…という事だったな？」
「…その時、ワタクシも君と同じような体験した、と言ったら？」
「…！？」
突然の告白。だがしかし、言われてみればあの時のこいつはどこか変だった…？
「…なんだ、お前もあんな体験をしたことがあったのか…」
「…まあ、ワタクシは不思議な世界に飛ばされたりとかはしてないですがねぇ？」
そういうとチャーリーは肩をすくめて笑う。
「…そうか、…しかし、つくづくあんたとは妙な縁があるな…」
最初は医者と患者、その後に友人として、そして今度は妙な事に巻き込まれた同士として…か。
「…そうですねえ、全く不思議な事に…ねぇ？」
「…全くだな…」
そういって俺たちはクスクスと笑いあう。
…まあ、こんな関係も悪くはない。…きっと。
「…さて、俺はこの辺で帰るとするよ…」
そういってテーブルに金を置きつつ席を立つ。
「おやぁ？いつもはもう少し飲んでから帰っていたようなぁ？」
「…今は、大学教授様の専属運転手をしていてね…明日は早いんだ…」
そう言ってニヤリと笑いながら帰り支度を済ませる。
「…なるほどぉ、そういう事でしたかぁ…」
そういうとチャーリーはうんうんと頷きながら微笑む。…何だ、一体？
「…何かあるのか？」
「いえ、別にぃ？ほら、明日は早いんじゃないんですかぁ？」
そういってシッシと猫を追い払うかのような態度で手を払う。…よく分からない奴だ、本当に…
「…まあ、そうだな…」
…とりあえず、帰るか…
「ええ…ロバート君、一つだけいいですかぁ？」
「…何だ？」
そういうとチャーリーは珍しく真剣な表情で俺を見つめ、語りかける。
「…人との縁は大切にしたほうがいいですよ。…いつか、きっとその縁は君を助けてくれるはずですから…」
「…確かにあいつは悪い人間ではない、が…どうした、急に？」
「…さてねぇ？」
そういうと、あの真剣な表情は崩れ、いつものチャーリーに戻っていた。
「…？では、今日の所はこれで…」
「はいは〜い、ではまた機会があれば一緒に飲みましょうねぇ〜」
そういってヒラヒラと手を振りながら、チャーリーはこちらに背を向けて酒を飲み始める。
「…ああ、また何時か、な？」
そういうと、俺はもぐり酒場の出口を抜けて、地上の通りに出る。
…人との縁は大切にしろ、か…
「…まあ、とりあえずは家に急ぐか…」
…寝坊でもしようものなら、何されるか分かったものではないから、な…？
怒り心頭で俺に説教をするあいつの顔を想像して、苦笑いを浮かべながら
自宅へと急いだ…
俺の隣に座っている精神病医がニヤニヤと笑いながら問いかけてくる。
「あなたはサンタクロースからそんな素敵なプレゼントを頂いていた…ということですかぁ？」
ここはアーカム、ノースサイドの北ギャリソン・ストリートにあるもぐり酒場。この精神病医が
ここの店主と友人という事で、たまに連れられてこうして飲みに来ることがある。
「…素敵なプレゼント、か…もう少しで死ぬところだったんだがな…？」
…戦場で死にかけた事は幾らでもあったが…"アレ"は今まで自分が経験したことのないものだった。
…正直な所、生きて帰れただけ、命があるだけマシだったと思えるぐらいだな。
「でも、こうしてあなたはワタクシと一緒に酒を飲んでいますよねぇ？」
「…結果だけ見れば…な。」
「IFの可能性なんて考えてもキリが無いですよぉ？いつだって前を見て生きていかないと、って
ワタクシは思いますがねぇ…？」
「…分かってはいる、さ…」
過ぎ去ってしまったことは今から考えてもどうしようもない。どうにも、できはしない。
…分かっていても、なかなか切り替えていけないものさ…
「…しかし、そうですかぁ、そうなるとぉ…」
というと、隣の精神病医…チャーリー・パートリッジは何かを考え始めた。
「…？どうした、チャーリー？喋りっぱなしかと思えば黙り込んで…」
いつもはこの後、１，２時間は喋り倒すはずなのだが…
「…いえね、ふと思ったのですがねぇ…？」
「…？」
珍しく、歯切れが悪い。いつもは自重とかそういうことを考えない奴のはずだが。
「いやまあ、類は友を呼ぶというかなんというか…ですねぇ？」
「…何時になく前置きが長いな。…何が言いたい？」
そう言うと、チャーリーは少し間を置いた後、
「…６月上旬に、知り合いの探偵の仕事を手伝った、という話はしましたよねぇ？」
「…ああ、聞いた。…小遣い稼ぎにしては大分手間のかかる仕事だった…という事だったな？」
「…その時、ワタクシも君と同じような体験した、と言ったら？」
「…！？」
突然の告白。だがしかし、言われてみればあの時のこいつはどこか変だった…？
「…なんだ、お前もあんな体験をしたことがあったのか…」
「…まあ、ワタクシは不思議な世界に飛ばされたりとかはしてないですがねぇ？」
そういうとチャーリーは肩をすくめて笑う。
「…そうか、…しかし、つくづくあんたとは妙な縁があるな…」
最初は医者と患者、その後に友人として、そして今度は妙な事に巻き込まれた同士として…か。
「…そうですねえ、全く不思議な事に…ねぇ？」
「…全くだな…」
そういって俺たちはクスクスと笑いあう。
…まあ、こんな関係も悪くはない。…きっと。
「…さて、俺はこの辺で帰るとするよ…」
そういってテーブルに金を置きつつ席を立つ。
「おやぁ？いつもはもう少し飲んでから帰っていたようなぁ？」
「…今は、大学教授様の専属運転手をしていてね…明日は早いんだ…」
そう言ってニヤリと笑いながら帰り支度を済ませる。
「…なるほどぉ、そういう事でしたかぁ…」
そういうとチャーリーはうんうんと頷きながら微笑む。…何だ、一体？
「…何かあるのか？」
「いえ、別にぃ？ほら、明日は早いんじゃないんですかぁ？」
そういってシッシと猫を追い払うかのような態度で手を払う。…よく分からない奴だ、本当に…
「…まあ、そうだな…」
…とりあえず、帰るか…
「ええ…ロバート君、一つだけいいですかぁ？」
「…何だ？」
そういうとチャーリーは珍しく真剣な表情で俺を見つめ、語りかける。
「…人との縁は大切にしたほうがいいですよ。…いつか、きっとその縁は君を助けてくれるはずですから…」
「…確かにあいつは悪い人間ではない、が…どうした、急に？」
「…さてねぇ？」
そういうと、あの真剣な表情は崩れ、いつものチャーリーに戻っていた。
「…？では、今日の所はこれで…」
「はいは〜い、ではまた機会があれば一緒に飲みましょうねぇ〜」
そういってヒラヒラと手を振りながら、チャーリーはこちらに背を向けて酒を飲み始める。
「…ああ、また何時か、な？」
そういうと、俺はもぐり酒場の出口を抜けて、地上の通りに出る。
…人との縁は大切にしろ、か…
「…まあ、とりあえずは家に急ぐか…」
…寝坊でもしようものなら、何されるか分かったものではないから、な…？
怒り心頭で俺に説教をするあいつの顔を想像して、苦笑いを浮かべながら
自宅へと急いだ…
二日間お疲れ様でした
PL/KP&SKPの皆様、二日間お疲れ様でした！
1920年代シナリオに参加するのはこれで２回目だったので、最初はどうなるかな、
と少し緊張しながらでしたが、気が付いたらシナリオに引き込まれて行くような
気分でした。とても楽しかったです。…しかし、自分は一体何か貢献できたのだろうか
と考えてみると…ってなるのが少し、心残りですが。
狐麺/ヒックさん コロンボ風味な大学教授、RPも含めていいキャラしていたなあ、
って思いました。口下手なロバートに本編/茶番で絡んできていただいてとても嬉しかったです。
…茶番の設定を後日談に持ち込んでしまいましたが…まずければ修正しますので、お申し付け下さい。
しがない名無し/リディアさん 男装麗人の女学生さん、個人的には是非とも絡みに行きたかったですが
ロバートの性格上難しく…あまり交流できないまま終わってしまった事については申し訳ありません。
探索者たちの紅一点として、無妻男連中の清涼剤として、いい存在だったなあ、と勝手に思っていました。
まほろ/ヴァレリーさん 虚弱体質気味なお医者様、何もしていないのに蜜柑汁の洗礼を受けたりと少し
不憫ですなあ、という印象を。後、鋼メンタルですね、とっても。ニャル様の本体見て発狂もしないとか…
とっても、凄いなあ、と思いました(小並感
くろつづみ/ヘンリーさん 不思議系？の軍人さん？、何というか、とにかく凄いなあ、という印象でした。
RPに関しても、勝負どころのダイス目にしても、持っているモノの違いを見せつけられた感じでした。
お見事、という一言だけ。
古都子/KPさん ２日間、SKPのカートさんと合わせて素敵なキーパリングありがとうございました。
NPCたちの会話が楽しくて、どんどんシナリオにのめり込んでいく気分でした。シナリオの世界観も魅力的で
この卓に参加してよかったな、と思っています。
カート・アングル/SKPさん あからさまに胡散臭い男、カリプソさん。多分自分だけ正体を知らないまま
途中まで来ていましたが…正体が発覚した時は驚愕しました。が、同時にああ、ニャル様なら納得だわ、とも思いました。
カリプソさんの胡散臭さ、PCはともかく自分は見ていて凄く楽しかったです。そして、２日間お疲れ様でした。
後日談含め長々と失礼しました。また、PL/KPとしてお会いした時は宜しくお願いします！
1920年代シナリオに参加するのはこれで２回目だったので、最初はどうなるかな、
と少し緊張しながらでしたが、気が付いたらシナリオに引き込まれて行くような
気分でした。とても楽しかったです。…しかし、自分は一体何か貢献できたのだろうか
と考えてみると…ってなるのが少し、心残りですが。
狐麺/ヒックさん コロンボ風味な大学教授、RPも含めていいキャラしていたなあ、
って思いました。口下手なロバートに本編/茶番で絡んできていただいてとても嬉しかったです。
…茶番の設定を後日談に持ち込んでしまいましたが…まずければ修正しますので、お申し付け下さい。
しがない名無し/リディアさん 男装麗人の女学生さん、個人的には是非とも絡みに行きたかったですが
ロバートの性格上難しく…あまり交流できないまま終わってしまった事については申し訳ありません。
探索者たちの紅一点として、無妻男連中の清涼剤として、いい存在だったなあ、と勝手に思っていました。
まほろ/ヴァレリーさん 虚弱体質気味なお医者様、何もしていないのに蜜柑汁の洗礼を受けたりと少し
不憫ですなあ、という印象を。後、鋼メンタルですね、とっても。ニャル様の本体見て発狂もしないとか…
とっても、凄いなあ、と思いました(小並感
くろつづみ/ヘンリーさん 不思議系？の軍人さん？、何というか、とにかく凄いなあ、という印象でした。
RPに関しても、勝負どころのダイス目にしても、持っているモノの違いを見せつけられた感じでした。
お見事、という一言だけ。
古都子/KPさん ２日間、SKPのカートさんと合わせて素敵なキーパリングありがとうございました。
NPCたちの会話が楽しくて、どんどんシナリオにのめり込んでいく気分でした。シナリオの世界観も魅力的で
この卓に参加してよかったな、と思っています。
カート・アングル/SKPさん あからさまに胡散臭い男、カリプソさん。多分自分だけ正体を知らないまま
途中まで来ていましたが…正体が発覚した時は驚愕しました。が、同時にああ、ニャル様なら納得だわ、とも思いました。
カリプソさんの胡散臭さ、PCはともかく自分は見ていて凄く楽しかったです。そして、２日間お疲れ様でした。
後日談含め長々と失礼しました。また、PL/KPとしてお会いした時は宜しくお願いします！
Henry Blackwell / くろつづみ様
PCより
PLより
I、哀、愛
そっと目を開ければ、鏡に映った自分が見える。
寒い寒いクリスマスに知った真実。
あの時出逢った少年は長い長い時をかけて
『現在』へとたどり着く。
自分にとって、あの『楽園』で彼と離れ
夢から覚めるような一瞬であったとしても
彼が過ごした『時間』は変わらない。
「…だから、一緒にいたかったんだけどな…」
呟かれた言葉は誰にも聞かれず霧散する。
あの場に残ってもきっと死んでいただろう。
けれど、それでもこれから長い時間を『独りで』過ごす彼の傍にいてやりたかったのだ。
「神様って淋しいね」
目を閉じて、幼きあの日に言った言葉を再び口にする。
人である限り、神様とは一緒の位置にはいられないのだ。
終わりがある人間に、終わりのない神様の隣には、目線には立つことも許されない。
立とうとしても、いつかまた彼を孤独にするのだろう。
「そんなのは、ごめんだね」
再び目を開けた時、先ほどまでの自分はいない。
それで構わないのだ。それを望んで今、ここにいるのだから。
「さて…。お腹すいたな」
さあ、彼に美味しいご飯でも作ってもらおう。
その後はまた薔薇を眺めに行ってもいい。
息をついて鏡の前から離れる。
神様が永遠に孤独でないように
祈りでも願いでもなく、俺が存在をかけて真実にする
寒い寒いクリスマスに知った真実。
あの時出逢った少年は長い長い時をかけて
『現在』へとたどり着く。
自分にとって、あの『楽園』で彼と離れ
夢から覚めるような一瞬であったとしても
彼が過ごした『時間』は変わらない。
「…だから、一緒にいたかったんだけどな…」
呟かれた言葉は誰にも聞かれず霧散する。
あの場に残ってもきっと死んでいただろう。
けれど、それでもこれから長い時間を『独りで』過ごす彼の傍にいてやりたかったのだ。
「神様って淋しいね」
目を閉じて、幼きあの日に言った言葉を再び口にする。
人である限り、神様とは一緒の位置にはいられないのだ。
終わりがある人間に、終わりのない神様の隣には、目線には立つことも許されない。
立とうとしても、いつかまた彼を孤独にするのだろう。
「そんなのは、ごめんだね」
再び目を開けた時、先ほどまでの自分はいない。
それで構わないのだ。それを望んで今、ここにいるのだから。
「さて…。お腹すいたな」
さあ、彼に美味しいご飯でも作ってもらおう。
その後はまた薔薇を眺めに行ってもいい。
息をついて鏡の前から離れる。
神様が永遠に孤独でないように
祈りでも願いでもなく、俺が存在をかけて真実にする
フェンリル
目が覚めて
何も覚えていなかった。
ただ
君が好きなことは、覚えていた。
自分の名前も憶えていなかった。
けれど、君の声は覚えていた。
でも君の名前を、思い出せない。
撫でてくれた優しい手を、感覚を覚えているのに。
いつかその声も、優しい手も忘れてしまうんじゃないかと
毎日が、不安で怖くて
きっと忘れてしまえた方が、楽だったのだろう。
けれど、この胸が、魂が叫んでいる。
忘れてたまるかと、逢って、伝えたいことがあるのだと。
けれど、その伝えたい言葉すら思い出せない。
不安で怖くておびえる自分に
『私でよければ、ずっとそばにいますよ』
そう言って、優しく抱きしめてくれる彼女に泣きつきながら
それでも、忘れたくないと
傍にいてほしいのはアイツだと
ずっと叫んでいた。
彼女の手を取って、
ずっと一緒にいようと言えたら
それはそれで、幸福になれたのかもしれない。
思い出を、過去と割り切って
新しい自分で生きて行けたかもしれなかった。
けれど、俺が選んだのは
ずっとアイツの傍にいることなんだから。
たとえ、人でなくなったとしても
彼女がどこかに消えてしまった後も
ずっと探して、待ち続けて
逢える日を、ただ信じているから
どうか、どうか
お前も俺のこと、忘れずにいてほしい
―――
懐かしい夢の名残。
逢えるまでの空白の時間。
待ち続けた彼の結末は―――
何も覚えていなかった。
ただ
君が好きなことは、覚えていた。
自分の名前も憶えていなかった。
けれど、君の声は覚えていた。
でも君の名前を、思い出せない。
撫でてくれた優しい手を、感覚を覚えているのに。
いつかその声も、優しい手も忘れてしまうんじゃないかと
毎日が、不安で怖くて
きっと忘れてしまえた方が、楽だったのだろう。
けれど、この胸が、魂が叫んでいる。
忘れてたまるかと、逢って、伝えたいことがあるのだと。
けれど、その伝えたい言葉すら思い出せない。
不安で怖くておびえる自分に
『私でよければ、ずっとそばにいますよ』
そう言って、優しく抱きしめてくれる彼女に泣きつきながら
それでも、忘れたくないと
傍にいてほしいのはアイツだと
ずっと叫んでいた。
彼女の手を取って、
ずっと一緒にいようと言えたら
それはそれで、幸福になれたのかもしれない。
思い出を、過去と割り切って
新しい自分で生きて行けたかもしれなかった。
けれど、俺が選んだのは
ずっとアイツの傍にいることなんだから。
たとえ、人でなくなったとしても
彼女がどこかに消えてしまった後も
ずっと探して、待ち続けて
逢える日を、ただ信じているから
どうか、どうか
お前も俺のこと、忘れずにいてほしい
―――
懐かしい夢の名残。
逢えるまでの空白の時間。
待ち続けた彼の結末は―――
ありがとうございました！
ＫＰ・Ｐｌの皆様、二日間本当にありがとうございました。
ゲストとして呼ばれたにも関わらず、
好き勝手し放題で真に申し訳ありませんでした。
とっても楽しかったです(殴
狐麺/ヒックさん
渋いおじさん刑事のような大学教授さん、かっこよかったです。
ＲＰに哀愁が漂い、探索も謎解きも丁寧かつ真剣で頼りがいがあり、
情報収集を任せきりにしてしまいました。
私も今度はちゃんと探索します、ごめんなさい。
しがない名無し/リディアさん
再びＰｌとして同じ卓に参加できてとても嬉しかったです。
優しくて思いやりのあるお姉さんなリディアさんが可愛くて可愛くて
思わず撫でに行ってしましました。
今度ご一緒する機会がありましたらまた絡みにいきます。
まほろ/ヴァレリーさん
またヴァレリーさんとご一緒で来て嬉しかったです！
ヴァレリーさんの不憫体質と鋼メンタルを思い知りました。
そしてそのＲＰ力を私に分けてください(迫真
茶番では噛んだりしてすいませんでした。またいじらせてください(蹴
ナナツボシ / ロバートさん
戦場を経験したタクシードライバーという、陰にあるＰＣでしたが
ヒックさんとの大人でどこか茶目っ気のあるやり取りに思わず、にやりとさせられました。
探索任せきりにして申し訳ありませんでした。
カート・アングル/SKP
まさかカリプソさんと卓でお会いする時が来ようとは…
あからさまに胡散臭く、けれど楽しそうに動き回るカリプソさんを見て、
私も楽しくなりました。
あまりＲＰで絡めなくて申し訳なく、とっても残念です…！(次こそは…！)
古都子/KP
毎回毎回本当にすいません。
好き勝手一人で動き回り、ＲＰしかしてませんが
それでも楽しく参加できるのは魅力的なＰＣとＲＰの古都子さんの卓だからこそです。
これに懲りずによかったらまた参加させてください。
今度は自重します。ええ、しますとも。
それでは皆様、またお会いできる時を楽しみにしています。
ゲストとして呼ばれたにも関わらず、
好き勝手し放題で真に申し訳ありませんでした。
とっても楽しかったです(殴
狐麺/ヒックさん
渋いおじさん刑事のような大学教授さん、かっこよかったです。
ＲＰに哀愁が漂い、探索も謎解きも丁寧かつ真剣で頼りがいがあり、
情報収集を任せきりにしてしまいました。
私も今度はちゃんと探索します、ごめんなさい。
しがない名無し/リディアさん
再びＰｌとして同じ卓に参加できてとても嬉しかったです。
優しくて思いやりのあるお姉さんなリディアさんが可愛くて可愛くて
思わず撫でに行ってしましました。
今度ご一緒する機会がありましたらまた絡みにいきます。
まほろ/ヴァレリーさん
またヴァレリーさんとご一緒で来て嬉しかったです！
ヴァレリーさんの不憫体質と鋼メンタルを思い知りました。
そしてそのＲＰ力を私に分けてください(迫真
茶番では噛んだりしてすいませんでした。またいじらせてください(蹴
ナナツボシ / ロバートさん
戦場を経験したタクシードライバーという、陰にあるＰＣでしたが
ヒックさんとの大人でどこか茶目っ気のあるやり取りに思わず、にやりとさせられました。
探索任せきりにして申し訳ありませんでした。
カート・アングル/SKP
まさかカリプソさんと卓でお会いする時が来ようとは…
あからさまに胡散臭く、けれど楽しそうに動き回るカリプソさんを見て、
私も楽しくなりました。
あまりＲＰで絡めなくて申し訳なく、とっても残念です…！(次こそは…！)
古都子/KP
毎回毎回本当にすいません。
好き勝手一人で動き回り、ＲＰしかしてませんが
それでも楽しく参加できるのは魅力的なＰＣとＲＰの古都子さんの卓だからこそです。
これに懲りずによかったらまた参加させてください。
今度は自重します。ええ、しますとも。
それでは皆様、またお会いできる時を楽しみにしています。
Supplementary Biography
Episode 01~Last
Episode 01 / A white water tank.
白い水槽
シオンという少年の境遇を一言で表現するならば、不憫の一言に尽きた。不幸とは少し違う。彼は不憫な少年だった。
まず彼は外の世界というものを何一つ知りもしなかった。与えられたカレンダーと時計で日の廻りと時間の流れを知ることは出来ても、それ以外のことを知る術というものを彼は何一つ持っていなかった。
朝の空の色。昼の空の色。夕方の空の色。夜の空の色。雲の流れ。鳥のさえずり。草花がそよぐ音、彩り。何一つ彼は知らなかった。それは不幸でもあり、幸福なことでもあった。何一つ知らない彼は、外に広がる世界を自由に想像することが出来た。真実に対する無知の代償として、本が図鑑が与えてくれる知識を元に、自分だけの外の世界を想像する自由を彼は与えられていた。それは酷く不幸で、やはり繰り返しになるが幸福なことだった。
何もかもが終わった外の世界。全ての人類が死に絶えかけたこの世界の真実を何一つ知らなかったのだから。
空は本当は青くないことを。本当の意味での草花など当の昔に失われたことを。人間が殆どいないことを。知らずにただただ、外への純粋な焦がれのみを抱くことができたのだから。
「……シオン、具合はどうだ……？」
「だいじょうぶだよ、父さん」
薄く開かれた病室の扉。その隙間から滑り込むように入り込んできた男に、シオンは笑みを向ける。
大好きで大切な父親。シオンのたった一人の家族。他に兄弟がいるかどうかをシオンは知らないし、聞いたこともないが、少なくとも母親はシオンが生まれて間もなく亡くなったのだと聞かされている。だから、シオンにとって家族と呼べるのは彼だけだった。
上も下も右も左も白い、窓のないこの箱の中で、唯一、外とシオンを繋げてくれているのも彼だった。彼がいなければ、シオンは何も出来ないし、ただ死を待つだけの生きる肉の塊に過ぎなかっただろう。
「機械は……特に異常ないな」
「心配性だね、父さんは。だいじょうぶなのに……」
くすくすと笑えば途端に心臓が痛んだ。痛みに咽せるように咳き込めば、慌てて父が背をさすってくれる。
身体に障らない程度に優しいその手つきは、酷くもどかしくて、そして嬉しい。温かい。
反面、申し訳なくもあった。
シオンという存在は父にとって、確実に大きな枷でしかなかっただろうから。表に出したことはないけれど、何度と無くシオンがいなければ、と考えたことだってあるんじゃないかとシオンは冷静に父を見ている。そのことを哀しくも淋しくも思うが、決して父を酷い人だ等と自分勝手な糾弾をする気はなかった。
自分が父の立場だったら、きっと何処かで必ず疎ましく思うだろうから。
こいつさえ居なければ自由なのに、と。
例え、そう思われていたとしても。父の優しい手も、こうして忙しい仕事の合間を縫って会いに来てくれているのも全て事実なのだ。自分は父に愛されている。疎ましく思われていようとも、同時にそこに確かに父からの愛情を感じていた。だから、これでいいのだ。
せめて、父の迷惑にならないよう、良い子でいれば、いられればいい。
「包帯を変えようか」
「けほっ……うん」
身体に繋がる機械を外してしまわないよう気を付けながら起き上がる。
全身包帯まみれのシオンは、いつか本で読んだミイラのようだった。もっともアレは死体で、シオンは生きているわけなのだけれど。
ゆっくりと、それでいて丁寧に慎重に、身体に巻かれている包帯が解かれていく。そうすれば徐々に見えてくるのは気持ちの悪い自分の身体だ。ひび割れ爛れた皮膚。ガーゼにべっとりと染み付いた膿。据えた匂い。いつ見ても気持ち悪い。自分なのに。血のつながりがあるとは言え、他人である父からこの身体はどう見えているのだろうか……。
ちらりと父の顔色を伺うも、そこには何も浮かんではいない。ただ淡々と、いつも通り、それでいて優しくシオンの身体を濡れたタオルで拭って、新しい包帯とガーゼを巻き付けてくれている。
「父さん」
「……ん？」
「ごめんね」
何の気無しに放った言葉に、父は手を止めた。
父の目から零れた雫が爛れた皮膚に滴り落ちて、酷く染みて、痛かった。
I am a fish of the water tank.
（僕は水槽の魚。）
I die if thrown away.
（放って置かれたら死んでしまう。）
It was a perfect scream.
（まったくのお笑いぐさだ。）
実績のロックが解除されました
白い水槽 ： 「Episode 01」が開放されました。
無事、TRUE END到達。お疲れ様でした！
まずは無事に卓が終わったことに、再度、心より感謝を！
NPCとの接触や行動次第では難易度が上がってしまう今卓でしたが、
見事な役割分担と共に皆様が無事、TRUE ENDへ到達してくれて安堵しております。
どのエンディングであってもニャル様ことカリプソさんが勝利することには代わりないのですが、
今回、TRUE ENDこそがニャル様にとっても大勝利となる少々変わった流れでした。
（まあニャル様何でも楽しみそうなので何とも言えないイメージあるんですがｒｙ）
探索者にとってのTRUE ENDと神格にとってのTRUE ENDが一致することもある、
というパターンを楽しんで頂けたのならば幸いです。
勿論、一番はRPを、そして卓を楽しんで頂けたかどうか、ですが。
Episode 02 / The beginning of mistake.
過ちの始まり
生まれた時からそうだった。と言っても、それは医者から聞いた話で、後から知ったことだったから今さら事実の確認などしようもないのだが。
ただ、そう。あの子は生まれた時からその奇妙な病を患っていたようだった。出産直後、その場にいたであろう妻は産後直ぐに体調を崩し、帰らぬ人となった。出産に立ち会った僅かばかりに残された人も次々と殺され、我が子とたった二人、残された私は、かつては病院として機能していたのであろう施設に逃げ込んだ。
幸いにして電気の類は未だ生きていたし、食料も僅かながら残されているようだった。どれほど保たせられるかは分からないが、それでも生きながらえることができるのなら、私は何だって良かったのだ。
あれからどれほどの月日が流れただろうか。
首も据わらぬ小さな赤子だった我が子も、すっかり大きくなった。……ただ、窓もない病室の中、ベッドに横たわったままなのは、変わらない。年を追うごとにあの子の病状は悪化の一途を辿っていた。
何とかしなくては、という焦りと共に、このまま放って置けば勝手に死んでくれるのではないか、という暗い気持ちがふつふつとわき起こることがあるのも事実だった。首に手をかけようとしたことも、一度や二度ではない。その度に自分の中の何かが咎め、幸いにしてあの子は今日まで生きてきた、が………。
いつか、自分はどうしようもない過ちを犯してしまうのではないかと思うと、恐ろしくて仕方がなかった。
今日もあの子のいる病室へ足を向ける。
扉を薄く開いて、隙間から滑り込むように病室の中に入る。ベッドの上へ視線を向ければ、やや不規則な寝息が聞こえてきた。少し足音を立てて近づいても、起きる様子は無い。深く寝入っているようだった。
やや苦しそうな寝顔。寝汗のせいで額に張り付いている前髪をそっと左右に分けてやる。そのまま手の甲で頬を撫でれば、汗を掻いている割には低めの体温が伝わって来た。
小さく嘆息して顔を上げる。
サイドテーブルに載せられた卓上カレンダーが目に入った。年の部分が二重線で消され、その上に今の年が書かれている。日付の部分には赤い×印。外に出ることの出来ないシオンが、外の時間の流れを知る為に毎日していることだった。
窓のない病室内では外の変化など分かるはずもない。
昔ならばそんな病室、かえって体調を悪くするだけだとか、精神病棟の病室なのか、などと言われそうだが……今となっては逆だ。窓のある病室に病人を置くことの方が大層危険だった。外を彷徨く奴らに見つかってはいけない。見つかったらきっと、殺されてしまうだろうから。
「……ん……」
シオンが寝返りを打とうとしたのを、そっと手で止める。下手に動いては身体に繋いであるチューブや機械類が抜けてしまいそうだったからだ。
生まれながらの奇病に加えて、シオンは病弱で、心臓も悪くしていた。今、生きているのが奇跡と呼べるくらいだろう。まだ人類が圧倒的少数種族になる前の世界ならば、いくらでも治療が可能だったかもしれないが……今となっては……。
日課であるシオンの包帯替えを終え、病室を立ち去る。今日はあの子と一言も口を利かぬまま終わるようだ。
……本当は、あの子の病を、病弱な身体を、弱い心臓を。どうにかする術があることを、私は知っていた。
だが同時に、それこそが大きな過ちであることも、私は知っている。病は治るだろう。だがその結果として、シオンはやはり、死んでしまうことになる。それでは、意味が無かった。意味など無いのだ。
「本当にそうかね？」
「！」
背後で声が聞こえた。
条件反射で振り返れば、見慣れぬスーツの男がいつの間にか立っていた。赤い瞳を爛々と輝かせ、一歩、一歩。私に近づいて来る。男が一歩歩むごとに、私は一歩後ろに。だが背を向けて逃げ去る勇気は無い。
もしもこの男がアレであったならば、そんな行為は無意味だろう。何より、そんなことをして病室で寝たままのシオンに興味を向けられることにこそ、私は恐怖していた。
「そんなに警戒しないでくれたまえ。ただ私は君と話したいだけだよ」
「話、だと…」
「そう、話だ。君の子について、ね」
「………」
私に選択権など存在しなかった。
If I was able to go to the future.
（もしも私が未来へ行けたのならば。）
I who am past say to me of future.
（過去の私は今の私に、こう言うでしょう。）
"You do such stupid things!"
（「何て愚かなことをしたんだ！」と。）
実績のロックが解除されました
過ちの始まり ： 「Episode 02」が開放されました。
ナナツボシさん、お疲れ様でした！
RP好きが高じてTRPGにのめり込んでいるため、NPCの会話を楽しんでいただけていたのなら何よりです！
シナリオの世界観は原本である「冬薔薇に捧ぐ」に大きく助けられている部分もありましたが、
それでも2日間という短い間で、卓にのめり込んで頂けたのならば、これほど嬉しいことはありません。
KPをしていてタクシードライバーの探索者とは何気に初めて遭遇したのですが、
ロバートさんは寡黙であるからこそ、より個性が際立つという不思議な魅力を持った探索者でした。
RPをしていても探索者としての個性が埋没してしまうこともある中、
あえて、寡黙で少々暗い背景を持つ、というロバートさんの魅力をナナツボシさんが全力で引き出していたと思います。
卓中、なかなかロバートさんと絡みにいけなかったことが心残りではありますが、素敵なRPを魅せて頂き、本当にありがとうございました！
また何処か別の卓でお逢いすることがあった時は、よろしくお願いします！
Episode 03 / Memory of cocoa candy.
ココアキャンディの記憶
22X6年4月
お父さんの知り合いだっていう男の人が遊びに来た。
名前はカリプソさんって言うんだって。
カリプソさんはお外のこと、いっぱい教えてくれた。
僕くらいの年の子がする遊びとかも、色々。
とっても楽しい。
「やあ、こんにちは」
その男の人は突然、病室にやってきた。
父さんは今日来るのだろうか。なんて考えながら本を読んで、時折歌を歌って。そうやっていつものように過ごしていたところに、突然。
見たことのない人だった。そもそも僕は父さん以外の人なんて見たことがないのだから当然と言えば当然なのだけれど。
父さんはくたびれたスーツをいつも来て、白髪交じりの頭を困った顔して掻くような人だったけれど、その人は違った。ぱりっとした新品みたいなスーツを着込んでいた。髪も父さんみたいに白髪交じりなんかじゃなくて、頭のてっぺんから毛先まで黒。赤い目が僕をじぃっと見ていた。まとわりつくみたいな視線が、少し怖くてベッドの上で身を竦めた僕に、その人は困ったように笑う。
「驚かせてしまったかな？ すまないね、悪気はなかったんだよ」
「……あ、…えっと………」
こう言うときに何て言えばいいのか分からない。目の前にいるのが父さんだったら、すらすらと言葉が出て来るのに。知らない人との話し方を僕は知らなかった。
黙りこくったままの僕に、その人は困ったように笑った後、ぽんと手を叩く。そうして持っていたカバンをごそごそと漁ると、大きめの硝子瓶を取り出した。中には一口サイズのボールがたくさん入っている。色々な色が詰まったそれに、僕は思わず見入ってしまった。
きゅぽっ…と少しだけ乾いた音と詰められた空気が抜けるような音と共に、蓋が開かれる。たくさんある色の中から、紫と桃色が混じったマーブル模様のボールを取って、その人は僕に差し出してきた。
「食べてごらん」
手のひらの上にころん、と転がされたボールをまじまじと見ていた僕に、その人はそう言った。促されるまま、僕は恐る恐るそれを口に含んでみる。
「……！ なぁに、これ…？！」
今まで食べたことがないような不思議な味がした。多分、甘い、というものだと思う。貴重な砂糖を少し舐めさせて貰った時に似ていたから。でも、砂糖なんかよりも優しい甘さで……ほんの少しでけ混じっている苦みがより一層甘さを引き立てていた。
「ただのキャンディだよ。食べるのは初めてかな？」
「キャンディ……本で読んだことはあるけど…食べたのは初めて」
よく読む本の子供がとても美味しそうに、時にはつまらなそうに舐めているのを読んだことはあった。こうして実際の食べたのは初めてだったけれど……こんなに美味しいものだったんだ。
ころころと口の中で初めて食べるキャンディを転がしていると、見知らぬその人はベッドの直ぐ脇に寄せられていた椅子を引き寄せて座った。足下にカバンを置いてから、僕を見る。
「君の名前はシオンで良かったかな？」
「そう、ふぁけど……えっと…おふぃさんは？」
食べながら喋るのは行儀が悪いかもしれないが、かといって口に含んだキャンディを取り出すのもどうかと思ったので、そのまま喋る。ちゃんと通じているといいんだけど……。
「私かい？ 私はカリプソ。君のお父さんのお友達のようなものだよ」
「父さんの…？」
小首を傾げる僕に、カリプソと名乗ったその人は頷く。
父さんに友達がいたなんて、初めて知った事実だった。でも、そうか。父さんの友達なら、僕が知らなくても向こうは知っている人なのだから、問題無いか。一人で勝手に納得する。
「カリプソさんは…えっと、どうふぃてここに？」
「うん？ ああ、なに。君のお父さんが少しばかり忙しくなるようでね。その間、君が淋しくないように話し相手になってやってくれと頼まれたのさ」
「……ふぉっか」
父さん、ここ最近忙しくてなかなか来れないと言っていたけれど……もっと忙しくなるみたい。
俯く僕の頭を、カリプソさんが優しく撫でてくれた。
「大丈夫さ。少し忙しくなるだけだ、暇を見ては遊びに来てくれると言っていたよ」
「ほんと？」
「勿論だとも。だから彼が来れない日は、退屈かも知れないが私が話し相手になろう」
「……えっと、ありがとう、ございます」
「おや、ちゃんとお礼が言えるとは。偉いな」
優しく頭を撫でてくれる温度に目を細める。
そういえば、最後に父さんが僕を撫でてくれたのは、いつだったかな。
それからカリプソさんは、父さんが来れない日は毎日来てくれるようになった。
話の内容は好きな本の感想とか。それから僕が知らない外の話とか。どっちかっていうと、お外の話をせがんで聞かせてもらうことが多い。カリプソさんは僕が知らない外の世界のこと、たくさん知ってるし、凄く話が上手だからついつい引き込まれてもっともっとと強請ってしまう。
ああ、そういえば、あの後真っ先に教えてもらったのは、僕が舐めたキャンディの味。ココア味だってカリプソさんは教えてくれた。その内、気が向いたら本当のココアを飲ませてくれるって約束付きで。楽しみだな。
I was only a little child then.
（その時の僕は子供だったんだ。）
One way or the other.
（良くも悪くも。）
I was the child who knew nothing.
（何も知らない子供だったんだ。）
実績のロックが解除されました
ココアキャンディの記憶 ： 「Episode 03」が開放されました。
狐麺さん、お疲れ様でした！
PLとしてお逢いしてからそれなりに月日が経ちましたが、KP・PLとしてお逢いするのは初めてだった今卓。
まだまだ拙いキーパリングでしたが、少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
RPスタイルと銘打ちつつも、やはりある程度の探索は必要ですから、
狐麺さんが探索を引き受けて進めてくれていたことで、他の方もRPがしやすかった部分もあると思います。
ヒックさんは立ち絵のイメージと違い、大学教授という意表を突かれた設定でしたが、素敵なRPだったと思います。
こういうおっちゃん系RPが不得手な私としては、色々と参考にさせていただきたいRPでした。
ステータスも生かした設定が存分にRP内でも発揮されていて、凄く人となりも掴みやすかったです。
中盤からのロバートさんとの掛け合いRPは見ていて凄く楽しかったです（時間が許すのならもうちょっと見ていたかった）。
何分偏屈な青年とショタっ子というNPC構成だった為か、なかなかRPを一緒にする機会はありませんでしたが、素敵なRPありがとうございました！
また何処か別の卓でお逢いすることがあった時は、よろしくお願いします！
Episode 04 / Go up the stairs, and come to here.
階段上って此処までおいで
22X6年6月
カリプソさんが何か願い事はないかい？と聞いて来た。
僕にとっておきの魔法を教えてくれると言った。
欲しい物が何でも手に入る、素敵な魔法だって。
………僕は。
22X6年8月
果物、花、お友達、綺麗な人形。
欲しいと思えば、何でも手に入るステキな魔法。
カリプソさんが教えてくれた、ステキな魔法。
……お父さんも……望んだら来てくれるんだろうか？
その日、カリプソさんは少し真剣な顔をして病室に入ってきた。そうして開口一番、僕にこう聞いて来た。
「シオン、君には何か、願い事はないかい？」
「願い事……？」
突然のことに、僕は戸惑う。願い事。自分がこうしたい、ああしたいという気持ち、思い。こうなればいいと思う心。考え込めばたくさんあるだろうが、咄嗟に聞かれて思いつくかと言うと、そういうものでもない。
僕が欲しいものって、何だろう。願い事と言われると少し難しいから、少し噛み砕いて、欲しい物について考えてみる。
新しい本？ それはいつもカリプソさんがお土産で持って来てくれる。今では病室は本が山積みになっていて、備え付けてもらった簡素な本棚の中でぎゅうぎゅうと苦しそうにしているくらいだ。
キャンディ？ それもいつも貰ってる。ココア味が気に入ったことを話したら、ココア味がぎゅうぎゅうに詰まった硝子瓶をプレゼントしてくれた。味はココアなのに、色はどれもこれもカラフルで、見ているだけでも楽しい。
物で考えてみたけれど、なかなか良いのが思いつかない。
「ううん……」
「何でも良いんだよ。ただし、一つだけだ」
「一つ、だけ……」
何でも良いけれど、一つだけ……。
病気が治る薬？ 何でも良いと言って貰えたけれど、それはいくらなんでも難しいんじゃないだろうか。小さい頃から僕はベッドの上でじっとしている。少しずつ病気は僕の身体を蝕んでいっているようで、今では両脚はもう僕の言う事なんて聞かないし、両手の関節がじりじりと痛むくらいだ。
……ううん、まあ、でも、とりあえず何でもいいから考えてみよう。
健康な身体？ それなら薬で治るよりも、もっとずっと早い気がする。身体が健康になったら動けるようになるし、父さんにわざわざ世話をしてもらわなくても、自分で出来るようになる。外に行くことだって。
………そうだ、外。
思い出したのは、カリプソさんから聞いた話。
きらきら輝く太陽に、眩しい青空、柔らかそうな白い雲。風が草花をそよぐ景色、可愛らしい動物。そして、僕と同い年くらいの子供達がする遊び。鬼ごっこや隠れんぼ、歌を歌ったりピクニックしたり。僕くらいの子供は皆、そんな風にして外で楽しく過ごして、疲れたら家に帰って、お父さんとお母さんに抱きしめて貰って、その日何があったか楽しく話して……。
僕には無いものばかりだ。
外で遊ぶための健康な身体なんて無い。母さんは僕を生んで直ぐに死んでしまったと聞いた。父さんは此処のところずっと忙しいみたいで、顔すらみていない。それどころか、父さんが来る度に、僕の身体に繋がれる機械の数は増えていく。飲まなくちゃいけない薬の数だって。その度に僕は自分が悪くなっているのだと思い知らされる。
皆が、羨ましいな。
僕の持っている物を持っている、皆が。僕だって、欲しいのに。
そう思い始めると、そのことしか考えられなくなってしまった。他のことを考えようとしても、思考がそっちに引っ張られてしまう。羨ましい、欲しい。ああ、きっと、これが僕の願い事なのだ。
「カリプソさん……」
「なんだい？」
「僕ね、皆が羨ましいんだ」
「皆が？」
「うん、僕に、無い物持ってる皆が」
「ほう……それで、君はどうしたいんだい？」
どうしたいのか。
欲しい。僕は欲しい。欲しいんだ。皆が持っているものが欲しい。僕だけ持っていない、そのことが哀しい。分かち合えないことが哀しい。病気の身体のせいなのか、それともそういう運命なのか、何一つ分からないけれど。僕は、僕は、僕は。
「……欲しいんだ、僕。皆が持ってるものが、欲しいんだ、カリプソさん……！」
縋るように、血を吐くように、僕はそう言った。（言ってしまった。）
カリプソさんが笑みを深めて頷いた。（どうしてこの時、気付かなかったんだろう。）
そうしてカリプソさんは僕に言った。
「良いだろう。君のその願いを叶えてあげよう！」
僕の願いは叶った。（叶ってしまった。）
それからは夢のような日々だった。
欲しいと望めば、それは直ぐに僕の元に。
一番初めに望んだのは花だった。話に聞いたときから、どうしても見てみたかったのだ。カリプソさんが一度、持って来てくれるような話をしていたけれど、僕に世話をすることができないから断念した。だからどうしても見たかった。望めばそれは直ぐに僕の元に。色取り取りの綺麗な花。図鑑を見比べて、どんな花なのかを知って、香りを色を楽しんで。
次に望んだのは本の中だけでしか知らなかった食べ物。キャンディみたいに美味しい物。どれもこれも美味しかったけれど、初めて食べたキャンディの感動にはやっぱり及ばなかった。
その次に、友達を望んだ。
突然現れた彼女はノックスと名乗った。年は僕と同じ位。初めて、自分と同い年くらいの子と出逢った。後で知ったけれど、彼女はカリプソさんとも知り合いだったらしい。世間は狭い、という言葉を実感した。
とても楽しくて夢のような日々を、僕はただただ貪り続けた。
But a dream is a dream.
（でも、夢は所詮夢だ。）
I wake sometime.
（いつかは覚める時が来る。）
And I am in despair.
（そして僕は絶望する。）
実績のロックが解除されました
階段上って此処までおいで ： 「Episode 04」が開放されました。
まほろさん、お疲れ様でした！
ヴァル君とお会いするのは某ニャルバー以来でしたが……。
猫がいないせいか、はたまたダイスの女神のお導きか。
リアクション芸人並みの元気な彼が見られてとっても嬉しいです（ほろり）。
相変わらず拙いキーパリングでしたが、最後までお付き合い頂きありがとうございます！
卓中は弄られキャラとして定着していましたね。彼は何処へ行っても苦労人、ということなのでしょうか……。
でもパパや双子の弟に比べれば…まだ大丈夫だよね！（根拠無し）
後日談の方もなかなか気になるような内容ですね（混濁ネタとか大好きですmgmg）。
（あと発狂させられなくてごめんなさい（土下座）
何だかんだ、テオフィルスとのやりとりでは面倒臭がりつつもしっかり相手してくれる面倒見の良いお兄ちゃんって感じがして、NPC操作していたKPは嬉しかったです！
また何処か別の卓でお逢いすることがあった時は、よろしくお願いします！
Episode 05 / Fall down stairs, and come to here.
階段落ちて此処までおいで
神さまの声が聞こえたんだ。ある日の午後。おじさんと二人で紅茶を飲んでるときに。神さまがぼくを呼んだんだ。ウソじゃないよ、ホントだよ？ 神さまの声が聞こえたんだ。ぼくは呼ばれたんだ。選んでもらえたんだ。だからぼくは、よろこんで神さまのところへ行くことにしたんだ。
真っ白な水槽の中に、神さまはいたんだ。水槽ってちょっとちがうかもしれないけれど、でもぼくにはそう見えたんだ。箱庭というにはお粗末な白い水槽の中、神さまは息をしていたんだ。あの子は息をしていたんだ。
あの子は、ぼくよりもちょっぴりお兄さんだった。身体じゃなくて、心が。ぼくの心は壊れて止まってしまっているんだって。おじさんが言ってた。よくわからないけど、おじさんがそう言うならそうなんだろう。
「はじめまして、神さま！」
ぼくがそうアイサツしたら、神さまは不思議そうに首をかしげた。
「神様？」
「うん。神さま。ぼくを呼んだでしょう、神さま」
心当たりが無いって神さまは首を横にふったけど、ウソ。だってぼくは呼ばれたんだ。神さまの声、聞こえたもん。目の前にいる男の子と同じ声だった。だからこの子は神さま。ぼくを呼んだ神さま。
神さまは友達がほしかったんだと言ったから、ぼくは神さまとお友達になることにした。毎日お話したり、本を読んでもらったり、時々お外の話をしたり。
ぼくがお外の話をする度に、神さまは痛ましそうな顔でぼくを見てなでてくれた。そして決まってこういうの。
「君は凄く大変な思いをして生きてきたんだね」
よく分からないけれど、神さまは、ぼくが言うお外の話をあんまり信じていないようにも見えた。こんなせまい水槽の中じゃ、仕方無いのかもしれない。人は自分の目で見てみないと納得できないものだって、おじさんが教えてくれていたから。多分きっと、人を作った神さまも同じなんだろう。
だからぼくは、神さまに言ってみた。
「ねえ、お外に出ようよ神さま」
「外…？ でも、僕の身体は……」
「？ 神さまなんだから、治せるんじゃないの…？」
「……治す…。…うん、多分きっと、そう望んだら治せるんだろうけれど……よく、分からないけれど、僕は…治したくないんだ」
「……そっか。じゃあ、お話しよう、神さま！」
ぼくはまた神さまとお話することにした。お外はその内でいいや。
（可哀想な子ね。） どうしてそう思うの、お姉ちゃん？ （だって気付いてないのよ、あの子。自分が何をしているか。） 気付いてない？ あの子って、神さまのこと？ （ええ、そうよノックス。あの子は気付いてないの。自分が何をしてしまっているのか。） 何をって、何？ （そのうち貴方にも分かるわ、ノックス。） ふうん、じゃあ今は分からなくてもいいの？ （ええ、分からなくてもいいのよ。） そっかぁ……じゃあ、いいや。 （今日もあの子に会いに行くの、ノックス？） うん、だってぼくは神さまとお友達だから。 （そう……ところで、いつまでそうしているの？） え？ （貴方はもう大人なのよ、アウロラ。夢を見ちゃ駄目。） ……………。
「こんにちは、神様。今日も来たよ」
「あ、ノックス。いらっしゃい」
「うん」
今日も神様は嬉しそうに笑って僕を出迎える。からからと軽く引きずりながら椅子を引っ張って来て、僕はその上にちょこんと腰掛けた。リノリウムの床が剥き出しの椅子の脚で削られているけれど、今さら過ぎるので気にしない。
笑う僕に、神様は眉を顰めた。
「その腕」
「腕？」
ああ、これのこと？ と前に差し出して見せる。と言っても見せる腕なんで無いんだけど。腕の付け根、肩の辺りから先は無くなっていた。自分でやったことだけど、見ていて確かに気持ちのいいものじゃないんだろうな。どうでもいいね。
「……何か、あったの？」
「ううん、何にも無いよ。神様。僕はいつも通り」
「でも……」
何か言いたげな神様に、僕は笑ってみせる。
「そう言えば神様のお父さん、今日は来るって言ってたよ」
「え、本当？」
「うん。叔父さんが言ってたから、本当」
「カリプソさんが……じゃあ、本当なんだね」
嬉しそうに笑う神様。
家族って温かくて素敵だものね。嬉しいのも分かるよ。僕に家族はもういないんだけどさ。お姉ちゃん？ 何の事？
それから暫く神様と僕はお話をする。話題はやっぱり外のこと。僕が何を言っても神様はちっとも信じてくれないんだけれどね。本当に外に出たことがないんだな、とその度に思う。
楽しい愉しいお話をした後、僕はこう神様に切り出した。
「ねえ、神様」
「うん…？」
「神様は何でも出来るんだよね？」
「…何でも出来るってわけじゃ、多分無いだろうけど」
自信無さそうな顔で困った様な顔をする神様。でも僕知ってるよ。おじさんから聞いたもの。神様は欲しいものだったら何でも手に入れられるって。
例えば林檎が食べたいなと思ったら遠く近く或いは別の世界の林檎が。道ばたの子供が乗っている自転車が欲しいと思ったらその自転車が。何処かの神様の力が欲しいと思ったらその力が。とっても便利な力。僕よりも便利。羨ましいな、神様。でも全然羨ましくないよ、神様。
「僕の腕を治してよ、神様」
「え……」
神様は言葉を失ってしまったみたい。僕を見て何度も瞬きを繰り返す。何かを言おうとしているのか、唇が上下しているけれど言葉になっていない。空気の浪費。呼吸だけが零れる。
「ねえ、神様。直してよ」
もう一度、僕はそう強請った。
そして神様は僕の腕を治してくれた。
「あああぁああぁあぁあぁぁ………！？」
「父さんっ…父さん、どうして…どうしてっ……？ ぁああっ…！」
「ありがとう、神様」
「HAHAHAHA、良かったなノックス」
「うん」
僕のお礼の言葉は神様には聞こえていないみたいだった。仕方無いね。だって神様は知らなかったんだから。でも後でもう一度お礼言わなくちゃ。だってわざわざ神様、お父さんの腕をくれたんだからね。
神様、神様は僕と違って0から1なんて作れないんだよ。神様、神様、君が望んだものはね、世界中の、あるいは別の世界の誰かのものなんだよ。もしくは神様の。ねえ神様、そんなことも知らなかったの？ 滑稽だね。
「いらっしゃい、シオン」
両腕を広げて僕は落ちて来た君をしっかりと抱き留めてあげる。だって僕達同じだもん。友達も仲間も同義だよ。大切にしなくちゃ。
僕はなり損ないで出来損ないだけど。君は完成品で完全品だけど。でも同じでしょう？ ねえ、シオン。
The pureness turns into insanity before long.
（純粋さは、やがて狂気に。）
Did you notice that?
（ねえ、気が付いた？）
Come to here if you noticed.
（気が付いたのなら、此処へ来て。）
Very lonely.
（すごく、さみしいの。）
実績のロックが解除されました
階段落ちて此処までおいで ： 「Episode 05」が開放されました。
しがない名無しさん、お疲れ様でした！
再び卓を一緒に囲むことができて何よりです！
冬薔薇卓は以前、PL同士でご一緒しましたが、今回はどうでしたでしょう？
拙いキーパリングでしたが、楽しんでいただけたのならば幸いです。
名無しさんと言うと東方キャラの立ち絵、というイメージがすっかり定着していると共に、
優しくてしっかり者のお姉さんキャラ、というイメージもありますね。
今回もそれに違わず、しっかり者で、でも少し繊細なリディアさんはとても可愛らしかったです。
妹さんがどんな子なのかとか、秘められた裏設定が気になるところではありますが……まあそれは、それとして。
今回、あまりメインには来なかったヴィクトーリヤと会話して頂いてありがとうございます！ 温室育ちの彼女ですが、相手にしてもらえて凄く嬉しかったことでしょう。
また何処か別の卓でお逢いすることがあった時は、よろしくお願いします！
Last Episode / Life without beginning or end.
終わりも始まりも無い命
ここには×××が無いんだね。
×××？ 確かに無いが…どうかしたのか？
これだけたくさんの色とりどりな花があるのに、××薇だけないのがさみしいなって。
……×薔×は嫌いなんだ。
どうして？
だって青××の花言葉は―――・・・・
不可能って言うんだ。
―――『ある日のある場所でのある子供達の会話』
随分と長い夢を見ていた気がした。それは長い長い、とても長い夢だ。長い夢が終わった時、既に私という存在はそこにあった。
「おはよー、シオン」
夢の中と同じように無邪気に彼女が笑った。それで、ああ、此処が『現実』なのだとようやく頭が追いつく。ついで変わらぬ光景に深く溜息を吐いた。
外はしんしんと雪が降り積もっている。寒い寒い冬だ。雪を見たのは、何度目だろうか。外の花たちは今日も美しく咲き誇っている。季節など知らぬ存ぜぬとばかりに、まるで狂ったように咲く花々。その様は美し、そして、皮肉に充ち満ちている。
両手を握って開く。痛まない。自分の意志で動く。足を動かす。痛まない。自分の意志で動く。そっと心臓の真上を撫でる。痛まない。もう悪く無いから。ああ、でもそれはやはりまやかしなのだ。
「テオ、何処へ行ったの…」
不機嫌そうな青年の声が聞こえた。
こちらへ淀みない足取りで向かって来る青年は、私とノックスの直ぐ横を通り過ぎていく。歯牙にも掛けない、というよりは存在そのものが見えていないようだった。実際、彼に私達は見えていない。少なくとも、私は。
「見たくないものは見ないのが一番だもんねー」
しゃがんだまま器用に頬杖を突いていたノックスが痛いところを突く。ああ、その通りだとも。見たくないものは見ないことが一番だ。重要なことを見過ごす可能性はあれど、少なくとも自分が傷つく可能性は何処かへ追いやれるのだ。幸福の代償として不幸を帳消しにする、よくできた仕組みだ。
幼い少年の姿を求めて彷徨う青年にそっと手を伸ばしてみる。ばしり、と。手を払われたような感触と共に弾かれた。触れない。やはり駄目なのかと嘆息する。
「シオンじゃどうしようもできないよー」
けらけらと背後の少女が嗤った。
「……分かっているさ」
「分かってないよ」
即座にそう返される。
彼女との会話は酷く憂鬱な気持ちにさせられた。楽しいときが無いとは言わない。ただ彼女には遠慮というものが存在していないのだ。言いたい事を言いたいときにそのまま、素直に言葉にする。こちらにとって都合が良いことも、都合が悪いことも、平等に。こちらが痛いところを突かれて痛い顔をしようと、彼女はお構いなしだ。嘘というものと無縁の少女だった。
―――嘘吐きには罰が必要なんだよ。
いつだったか、ノックスはそう言った。彼女が生きてきた世界ではそれが当たり前だったのだろう。
嘘を吐けばその分、あるいはそれ以上の罰が。痛みによって矯正(おし)え込まれる物事。それも繰り返せば痛みは慢性的な物となり、さらなる強い痛みを、そしてまた痛みに慣れ……繰り返していく内に訪れるのは肉体的な死だろう。まるで生きることそのものが罪と矯正(おし)え込まれているようだ。なんて正しい。
「ノックス、」
「なあに？」
「私達が生きることは罪か？ 過ちか？」
「ううん、違うよ」
「じゃあ何だ？」
「生きる以前の問題。生まれた事、それ事態が間違い」
にこりと笑みに乗せて吐き出された言葉の、なんと残酷なことか。でも彼女はどこまでも正しいのだ。誰よりも、何よりも。純粋無垢であるが故に狂気的、汚濁を知りながら穢れぬが故に真理に近い。まるで神のようだ。
「流石�狄斥有瓠�
「神様は君だよ、シオン」
「そうだったな。けれども君も神様だ、ノックス」
「僕は良く言えば贋作、悪く言えば欠陥品だから違うよ」
「なら言い方を変えよう、先輩」
「やっぱり君も好きだな、僕」
ノックスは笑みを深めた。私も釣られて笑った。遠くで呆れたような青年の声と、楽しそうな少年の声が聞こえた。
I have never-ending life.
（私の命は終わらない。）
.efil gnidne-reven evah I
（。いならわ終は命の僕）
Life to never begin.
（始まりもしない。）
.nigeb reven ot efiL
（。いなしもりま始）
All finished by the far future.
（全ては遠い未来に終わったから。）
.tsap raf eht yb dehsinif llA
（。らかたっわ終に去過い遠はて全）
Therefore I wait on for you coming here.
（だから私は此処で君達を待とう。）
."yresrun a" ni lla tuhs lliw I eroferehT
（。のるめ込じ閉に�猗�具玩�瓩鬚徳瓦亘佑蕕�だ）
To begin the end.
（終わりを始める為に。）
.dlrow desolc eht ni maerd gnidne-reven evah oT
（。に為る見を夢いならわ終で界世たじ閉）
実績のロックが解除されました
終わりも始まりも無い命 ： 「Last Episode」が開放されました。
くろつづみさん、お疲れ様でした！
毎度毎度、参加して頂いて本当にありがとうございます！
相変わらずキーパリングやら何やら追いついていないKPです、もっと技術磨かねば……。
それでもRPを楽しんで頂けたならば、KPとしてこれほど嬉しいことはないです。
今回のヘンリーは凄く撫で回したかったですね……おっとりというか…可愛かったです。
ロキがツンケンじゃなかったら絶対構い倒していた自信しかありません、それくらい可愛かった。
きちんと言葉の端々や雰囲気を伝えてくれるつづみさんのRPには毎度圧倒されております。
ただでさえチャットって文字情報だけが頼りなのに……そのRP力をください（迫真）。
心残りがあるとしたらやはり、本編中はあまりヘンリーと絡めなかったことですね……次こそは、必ず（決意）。
では、また何処か別の卓でお逢いすることがあった時は、よろしくお願いします！
Calypso's twisted Metal / Case 1
Insignificant man
Their emptiness makes me whole.
彼らの渇きが私を満たし
Their weakness makes me strong.
彼らの弱さが私の糧となり
Their destruction is my creation.
彼らの破壊こそが私の創造なのだ
and
そして
Their wishes is my desire.
彼らの願いこそ、私の宿願なのである
but…
だが、
It is far from my ideal
私の理想には未だ辿り着かないのだ
カリプソ!?約束を違えたな！、俺は地上の王に…神になりたかったんだ!それなのに、こんな…
私は“普段通り”身の丈に決して合う事の無い“願い事”を持つ男に会い
その願いを聞き入れ、丁重にもてなしていた。どうやら、願い事を叶えて貰った彼は泣くほど嬉しかったようだ
「それなのに？……HAHAHAHAHAHA!君の願いは叶えられたのだよ？」
「約束通り、地上の王に、唯一神の座に就かせてあげたのだ」
「尤も、誰一人居ない。荒廃した地では君が王、いや神に成らざる終えないがね？」
あああああああああああああ!?止してくれ！取り消す！願い事は取り消す！頼むよカリプソ！！
「今この世界では、君が神だ。残念だが願いはもう叶える事は出来ないのだよ。HAHAHAHAHA!」
「それでは、神の御加護があらん事を…いや、今の状況だと神に御加護が、と言った方がいいかな？」
世界を欲し、地上の王に、神に成りたいと願った男。確か名前は……はて、何と言ったかな？
いやはや、彼と似たような男を何人も見てき為に、今一印象に残らないのでね
話を戻そう。文字通り神となった彼は、王の名に、神の名の元で略奪、圧政、非道の限りを尽くし
それこそ神の名に相応しい傍若無人振りを、私に見せつけてくれた
そして、その破壊が生み出してくれたのがこの美しく荒廃した世界だ
支配する者も民もいない、ましてやその男を信仰する者など持っての外だ
だが、かのジャン・ロスタンの言葉にもあるように
人間を一人殺せぱ殺人犯になり、何百万もの人間を殺せば征服者になり、すべての人間を殺せば神になるのだ
孤独な世界で神となった男は実に哀れで、今尚1人で玉座にしがみ付き、
命なき家臣に信者に、金切り声を上げて命令を下している。実に愉快じゃあないか、HAHAHAHAHAHA!
しかし、実に不思議な物だ。
幾人もの願いを叶えて見たものの“何故か”同じような結末を迎えるのだろうか？
It is unfortunate for the gods that, unlike us, they cannot commit suicide.
「あらゆる神の属性中、最も神の為に同情するのは神には自殺の出来ないことである」
実績のロックが解除されました
ハルマゲドン！ ： 99822回以上、ハルマゲドンを発生させた
「Gallery Mode」が開放されました
Gallery mode ： 全てのEpisodeが開放されました。
KP陣より
KPより
皆様、2日間お疲れ様でした！ 此処までお付き合いして頂いたことに感謝を。ありがとうございます！
今回はどのエンディングへ落ち着いてもニャル様勝利、とりわけ「TRUE END」となると大勝利となる少々変わった流れになりましたが……如何でしたでしょうか？
謎解き部分や探索部分は原本「冬薔薇に捧ぐ」とそれほど変わっていないのですが、シナリオの背景が結構変わっております。
それだけでも大分、違った印象になったのではないかなぁ……とは自分で思っております。
シオン君に関しては今後も自卓のNPCとして（あるいは人間としての探索者としてか）ちょっと頑張ってもらおうかなぁ、とは画策していたり、いなかったり……（どっちだ）。
ではでは、長くなりましたが、KPからはこれにて。
また何処かでお逢いすることがありましたら、その時はよろしくお願いします！
今回はどのエンディングへ落ち着いてもニャル様勝利、とりわけ「TRUE END」となると大勝利となる少々変わった流れになりましたが……如何でしたでしょうか？
謎解き部分や探索部分は原本「冬薔薇に捧ぐ」とそれほど変わっていないのですが、シナリオの背景が結構変わっております。
それだけでも大分、違った印象になったのではないかなぁ……とは自分で思っております。
シオン君に関しては今後も自卓のNPCとして（あるいは人間としての探索者としてか）ちょっと頑張ってもらおうかなぁ、とは画策していたり、いなかったり……（どっちだ）。
ではでは、長くなりましたが、KPからはこれにて。
また何処かでお逢いすることがありましたら、その時はよろしくお願いします！
SKPより
今回、最後までお付き合いいただき皆様ありがとうございました！
ええ、最初から最後まで胡散臭いNPCを動かして、探索者の行動を見てほくそ笑んでいたニャル様(カリプソ)を動かしておりましたが、
基本的に人間(とその行動)が大好きなので、その考えにより、探索者の皆様を連れて解決させようという回りくどい手法を……
あと、“うっかり”池に落ちたのは申し訳ない(テヘペロ★)
それでは、また何処でお会いしましたらそのときは宜しくお願いいたします〜！
ええ、最初から最後まで胡散臭いNPCを動かして、探索者の行動を見てほくそ笑んでいたニャル様(カリプソ)を動かしておりましたが、
基本的に人間(とその行動)が大好きなので、その考えにより、探索者の皆様を連れて解決させようという回りくどい手法を……
あと、“うっかり”池に落ちたのは申し訳ない(テヘペロ★)
それでは、また何処でお会いしましたらそのときは宜しくお願いいたします〜！
Gallery Mode
NPCたちの後日談
Loki Farbauti / Sion
あの場所での再会は、予想通りというべきか有意義なものとなった。彼らにとっては一瞬前、シオンにとっては何千年と昔の出来事。それでも彼らとシオンは出遭うべくして引き合わされ、彼らはシオンの心を救ってくれたのだ。孤独に楽園を生きていたロキ・ファールバウティという青年を。
「テオフィルスを帰せてよかったよ」
「……本心なのかどうか、判りかねるんだが…」
困惑したような顔で肩をすくめるテオフィルスに、シオンは笑いかけた。そのまま腕を伸ばして撫でる。小さい頃から、こうやって頭を撫でてやると目を細めるその癖は変わらない。「猫みたいだ」と揶揄すれば「猫の方が可愛い」と返された。そう言いつつ何処となく嬉しそうな仕草をする辺りに、幼少期の面影が見え隠れする。とても懐かしい。
はらり、と咲き乱れる青薔薇の花弁が一枚舞い落ちた。ひらひらと、優雅な蝶の如く散る様はとても美しい。しかし同時に、嫌な記憶も引きずり出される。
どんなものでも、散る瞬間が一番、美しいのだと思い知らされるから。
「……どうかしたのか？」
苦い顔をしていたシオンに気が付いたらしいテオフィルスが、顔を上げて小首を傾げた。首を振って何でもないと伝えるが、流石、と言うべきか。何も言わずとも伝わってしまったらしく、同じようにテオフィルスは苦い顔をした。
「…………すまないな」
「今さら謝られても非常に反応に困るんだが」
「未だに上手く、感情を制御しきれないんだ」
「子供か？」
「子供だとも、永遠に」
頷いて見せれば苦笑したテオフィルスが腕を伸ばし、頭を撫で返してくる。「子供なら撫でてやらないとな」なんて言葉を添えて。ああ、もう、いつからそんな言葉を言えるようになったんだろうこの子は。と肩をすくめる。撫でられるのは嫌いじゃない。撫でられたことは数える程しかないけれど。
「怨んでいるか？ 私のことを」
撫でられたまま、ずっと気になっていたことを問うた。
怨まれているのも憎まれているのも嫌われているのも……そしてそれらと不釣り合いな程大きな愛を目の前の子から注がれている自覚はあった。愛されている自覚。ずっと愛に飢えていた自分からしてみれば、注がれる大きな愛情の前では怨嗟も憎悪も嫌悪も例えるならば薔薇の刺のように甘やかな痛みをもたらすものでしかなかった。
見た目はさておき、幼きあの日の自分はそれらに対して無自覚であったようだが……それでも愛に飢えていたのは同じ、だったのだろう。幼きテオフィルスに対して、目に見えてはっきりと判るほど�犲甲絖瓩靴討い燭里世�ら。彼を連れ帰ろうとするものへの容赦の無さ。彼と己を引き離そうとするカリプソへの嫌悪。それらは全てテオフィルスに対する執着から生まれたものであり、その執着の発端はテオフィルスが注いでくれる愛情であり満たされた心だった。
「ツマラナイのは嫌いだ」かつての自分の言葉。本当は「淋しいのは嫌いだ」と言いたかったのだろう。彼は淋しいという気持ちさえ捨て去ろうと忘れた�爐佞雖瓩鬚靴討い燭�ら、淋しいという言葉を言うことは出来なかったけれど。
テオフィルスは無言のまま、暫く答えなかった。
「……正直、わからないのが本音だ」
ややあって彼の口からぽつりと零れた言葉に、シオンは黙って耳を傾ける。
「怨んでる、嫌ってる、憎んでる。多分、全部本当。……けれど、……それでも、俺は……貴方の事を―――」
後の言葉は続かなかった。
長いこと父親代わりをしてくれたシオンの腕の中、テオフィルスは黙りこくった。そっと眼を閉じればテオフィルスの静かな心音と、冬の外気よりもずっと温かい、温室の暖かさとは違った確かな温もりを感じた。
「それで十分だよ。テオフィルス。私は、それで十分だ」
どうかこの幸せが続けば良いと願う。
本当は知っている。幸せなんて続かないことを。ましてや……自分に幸せなんて。
幸福になる権利は人ならば平等にあろうが、神に幸福になる権利など無いのだよ。
何故なら神には幸も不幸も存在しない。あらゆる意味で平等だからね。HAHAHAHAHA！
うん？ 私かい？ 一度でも私が幸せと言ったことがあったかな？
ああ、もちろん。
�牾擇靴鵑猫瓩呂い襪箸癲� だがそれと幸福とはまた別問題なのだよ。
Theophilus
聲が聞こえた。
はた、とテオフィルスは目を覚ます。
気のせいだ。今この部屋には自分以外、誰もいない筈なのだから。夜闇に満たされた自室をゆっくりと見渡しつつ、耳をそばだてる。何の気配も感じない。やはり勘違いだったのか、と安堵しながらベッドの隣へ視線を移す。そこには空白だけがあった。
今度は何処へ行ったのだろう、と息づきつつも、追いかけようという気は起きなかった。一人で勝手にふらりと何処かへ行くときは、自分一人で何かをしたいときなのだと知っている。そしてそう言うときは、テオフィルスに待っていて欲しい時なのだとも。
だから動かない。じっと待つ。待つのは得意だ。今も昔も、それだけは変わらず、唯一の自分の長所だとテオフィルスは思っている（もっとも、長所は同時に短所にもなり得るのだが……それを彼が自覚しているかどうかはわからない）。
「…………それに、しても…」
先程聞こえた、聲。
酷く、懐かしいもののように思えた。自分はあの聲を知っている気がしたのだ。無論、つい先程（あるいは数時間前か）まで隣で寝ていた彼のものでないことは明白。で、あるならば、誰の？
頭の中を今まで出逢い別れた人達が、思い起こせる範囲内で浮かんでは消えてく。
一途な想いを駒鳥に捧ぐ青年？ 違う。籠の中を望み心だけで帰って来た駒鳥？ 違う。かつて愛した赤い果実？ 違う。ではその果実を愛する無邪気な少年？ 違う。夢の中に堕とされた我が子？ 違う。夢から生まれ墜ちた時間の子？ 違う。孤独を嫌う夜の子ら？ 違う。温室育ちの可愛らしい薔薇の子？ 違う。
誰も、彼も。違う、違う。
そんな優しく愛おしささえ込み上げてくるような声ではなかった。もっとおぞましく、背筋が凍り付くかのような……それでいて酷く懐かしい、そんな聲だった。それは自分に呼びかけたのだ。けれど、なんと呼びかけられたのだろう？ それさえ思い出せない。
「……嫌な気分だなぁ」
起こした身体をベッドに逆戻りさせ、深く息を吐き出す。本当に嫌な気分だった。
「もう一回、寝るか」
隣にいた存在は、いつ頃戻るのだろうか、などと考えながら、テオフィルスはゆっくりと瞼を降ろした。まもなく意識が微睡みに沈み、そしてそのまま深く深い眠りに落ちていった。
「おともだちとケンカしたら、ぼくのところにおいで」
「どうして……？」
「助けてあげるから。ぜったいに。やくそくする」
「う〜ん…よく分かりませんけど…わかりました。ありがとうございます」
「………うん」
無知は幸福であると同時に、罪悪でもある。
君は本当に、何も覚えていないの？
Victoria
私という存在が果たしていつから存在していたのか。私はもう覚えてはおりませんの。だって気が付いたら私はこうして存在していて、主の下で働いていたのですから。
それでも一つだけ覚えていることがありますのよ。私が温室育ちの薔薇であったことと……ご主人様が、そしてテオフィルスが、私に優しく声を掛けてくださって、大事に育ててくれたこと。それはとても幸福な記憶ですわ。そして、とても大切な私の宝物の一つ。
もう、私はあの時のように自由には出歩けません。ただの薔薇に戻ってしまいましたから。いつか、読んで聞かせてもらったシンデレラのよう。十二時は過ぎ去って、一時の麗しき姫君はただの娘に。私は人間からただの薔薇に。それでも幸福だった記憶が無くなることはありませんでした。もうご主人やテオフィルスに自分から触れることも、抱きしめることも、声を掛けることもできなくなってしまったけれども……それでも、こうして幸福な記憶だけでも持ち続けることが出来ているだけでも私は十二分に幸せなのでしょう。きっと、恐らく。
今日も今日とて、私は温室でぼんやりと日々を過ごしています。時間の浪費かもしれませんが……けれども他にどう過ごせば良いのか、私には分からないのです。仮に分かったとしても、ただの薔薇である私に出来ることではないような気がしますし。
ともかく、そうやって過ごしていると、声が聞こえましたの。
「また来たよ、ヴィクトーリヤ」
それは奇しくも、随分と昔（彼女からすればつい最近の出来事なのかもしれませんね）、この温室を訪れた彼女の声。
「あの時のやり直し。楽しんでいってね」
そんな言葉と共に、美しいヴァイオリンの音色が温室いっぱいに拡がり始めたのです。
律儀な人ですわね。ただの薔薇との約束を守ってくれるだなんて。そんな風に偉ぶっても、私、この胸を満たす幸福感と喜びを隠しきれることはできませんでしたの。今、自分が薔薇で良かったと心底思っておりますわ。人の姿でしたらきっとはしたない姿を見せてしまうでしょうから。
私は風もないのに揺れながら、いつまでもいつまでも。彼女の演奏が終わるまで、ヴァイオリンの音色に耳を傾けていました。
薔薇にだって心はある。想いもある。
それが例え人と言う形をしていなくとも、それを忘れてはいけない。
Nox
「ただいまー！」
そう声を掛けて屋敷の重い扉を押し開ける。
「おかえりなさい」
屋敷へ一歩踏み入れた直後にそう帰って来た。顔を上げれば廊下の向こうから金色の髪を揺らした少女が歩いてくる。顔を縦横に走るツギハギ。それは顔に限ったことではなく、首や腕、服から覗く素肌の上を縦横無尽に駆けていた。それでいて、その少女の美貌が損なわれることはない。傷が無ければもっと美人だっただろう、と思うことはやはりあるけれども。
少女はギコチナイ動きでノックスの下まで歩いてくると、そっと手を差し出してくる。
「う？ あの子が呼んでるのー？」
「うん」
少女が頷く。呼ばれているのなら行かなくては、と少女に手を引かれるままノックスは歩き出した。
白い鳥の部屋を抜けて、魚の水槽を通り、実像と鏡像の部屋の前を。いくつかの部屋の前を、中を通り、そうして最後に現れた扉に手をかける。実に面倒ではあるが、あの子の部屋へ行くためにはきちんとした手順を踏まなくてはならないのだ（しかも手順はあの子の気分次第で如何様にも変わってしまう）。
ドアノブを回して扉を押せば、きぃ……という小さな音共に開いた。
「おかえりノックスー。たのしかった？」
真っ白いふわふわの絨毯が敷かれた床の上で寝そべりながらパズルを解いていた部屋の主は、開口一番そう訊ねてきた。
扉をしっかりと閉じてから、ノックスは主に向き直るとそのすぐ傍に座り込み、首を横に振った。
「楽しくなかった」
憮然とした表情で淡々と。言葉の端々に滲む嫌悪と苛立ちを感じ取り、小さな主は笑った。
「そっか、たのしくなかったか」
「うん、楽しくなかった。シオン、僕を見てくれなくなっちゃったんだもん」
すぐ傍に転がり落ちていた人形を乱暴に手繰り寄せて抱きしめながら、ノックスは主に倣って寝そべる。
人形だと思って拾いあげたそれは、壊れたロボットの玩具だった。冷たいブリキの感触をなぞっていくと、ぴりりとした痛みが指先に走る。顔を顰めて手を持ち上げれば、指先が切れていた。
「切っちゃった」
「うん？ あ、ほんとだー」
ぱくり、と主が指をくわえる。じぅ、と血が吸い上げられるくすぐったいような何とも言えない感触。ただ黙って見ていると、やがてぱっと唇が離された。
「鉄の味」
「血だもーん」
「そうだねー」
ぱちり、と最後のピースがはまった。真っ白なミルクパズルの中に、ノックスと小さな主が映り込んでいた。
小さな国の小さな女王さま。
「出てきてください、女王さま！」
「いやよ、いやよ。だってお外は、こわいもの！」
女王さまは、未だ国の中。
お外をこわがって、出てこようとはしませんでした。
このページへのコメント
最終日を見逃してしまった…m(_ _)m
皆さんTRUE ENDおめでとうございます！