2-263 別パターンエロ無し小ネタ

 今日も今日とて、俺は弁護士として法廷に立っているわけだが……。
「以上のように、被告人の自白が存在している限り、この件について
 被告の関与があったという事は明白――」
 ……対面にいるちんまい検事殿の詰めの甘さは相変わらずだ。
 俺はすっくと立ち上がり、声を張り上げた。 
「異議有り!」
「ふえ?」
「その自白は被告の意志に基づいたものではない可能性がある為、
 証拠能力は不十分であり、弁護側は被告の再度の証言、及び自白の
 裏づけとなる物的証拠の提出を検察側に要求する!」
「ふ、ふえ〜?」
 ……なんちゅう声をあげるか、法廷で。
「で、でも、自白してるんだから……」
「久坂検事。弁護側の主張ももっともです。検察側からは、自白以外の
 物的証拠の提出が全く無い。今の所、判決を下せるだけの要素は
 無いと言っても過言ではありません」
「う、うぅ……」
「検察側に、明日の再公判までに、確たる物的証拠、ないしはそれに劣らぬ
 新証言の提出を命じます。では、本日の審理はこれにて閉廷」
 カンカンと木槌が鳴り響く。
 ……ふぅ、とりあえず時間は稼げたか。こちらも、明日までに何か
状況を打開する何かを用意しておかなきゃな。


「た、助かりました、久坂弁護士っ!」
「……まだ楽観はできませんよ。明日、検察が何か証拠を持ち出してきたら、
 それで俺達はアウトです」
「で、でも……俺はやってないんですからっ!」
「それは信じていますよ。ですが、検察という奴は手段を選ばない
 所がありますからね……無理やりにでも、貴方の自白を裏付ける
 証拠を持ち出してくる可能性はあります。その時、貴方に証言を
 お願いする場合もあると思いますので……」
「はい! 俺の証言でどうにかなるなら、俺はいくらでも証言しますよ!」
「その意気です。……今日はゆっくり休んでください。明日、よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそよろしくお願いしますっ!」
 ……依頼人は、笑顔で帰っていった。まったく、信頼してくれるのは
ありがたいが、そもそも逮捕された時に自白強要された段階で俺を呼んでくれりゃ、
こんな面倒も無かったんだがなぁ。
「……うー」
 依頼人と入れ替わりで、今日の相手の検事殿が姿を現す。
 その頬は膨れていて、明らかに不機嫌なのが見てとれる。
 ……ま、その原因が主に俺にあるのは言うまでも無いけどな。
「どうしたんですか、久坂美穂検事。ご機嫌斜めのようですが」
「……久坂弁護士のいじわる」
 いじわる、ておい。
「自白だけじゃ追い込めないってわかってるなら、昨日の内に
 言っておいてよ!」
「検察側に法廷戦術明かす馬鹿な弁護士がいると思いますか?
 というか、自白だけじゃ立件できないなんて基本中の基本でしょう」
「……やっぱりいじわるだ。わたしの方はどうするか言ったのに……」
「だから言わないでくださいよ、毎度毎度。捜査情報の漏洩ですよ、それ?」
「うぅ……やっぱりいじわる」
 ……涙目で俺を見上げられても困るんだが。
「……いじわるなばつ」
「はい?」
「久坂正弘弁護士は、今日の夜、ずっとわたしと一緒にいること」
「……」
「返事は!?」
「あー……はいはい」
 やれやれ……どうやら、明日の法廷は寝不足で挑まなきゃいけないみたいだな。

「んふー♪ マサ君の匂いだー」
 まあ、苗字が同じという事で気づいているかもしれないが、俺と美穂は
夫婦だ。……何が悲しくて夫婦で、別れ話がもつれたわけでもないのに
向かい合って法廷に立たなきゃならんのだと思わないでもないが、
結婚する前からの職をそのまま続けている以上、仕方が無いと割り切るしかない。
 美穂は、俺の胸にすりすりと頬ずりをしながら、くんかくんかと匂いを嗅いでいた。
……微妙に変態っぽいが、まあかわいいからセーフという事にしておこう。
 法廷で俺と戦うと、その反動か、夜凄い甘えん坊になるんだよな、こいつは。
「ところで」
「なーにー?」
「……寝てもいいか?」
「今夜はっ、寝させないからっ♪」
「昼の間に色々証拠集めしてて疲れてるんだが……」
「寝不足と疲労で正常な判断力を失わせて、明日の裁判を有利に
 運ぶという作戦なのですー」
 そんな事を言いながら、俺の腕にすりすりと頬をすりつける。
 マーキングかい。
「……お前も寝不足になるぞ」
「え……はっ!?」
「気づいてなかったんかい」
「うぅ……マサ君やっぱりいじわるだぁ」
「美穂」
「なにぃ?」
「今回の被告、本当に犯人だと思うか?」
「マサ君はどう思ってるの?」
「……そりゃ、俺はそう思って無いから弁護してるわけで」
「じゃあ、大丈夫だよ」
「何がだよ」
「もしかしたら、真犯人じゃないかも……そんな風に思う事はあるよ。
 だけど、その時マサ君が向こう側にいてくれたら……安心できるの」
「……」
「全力で被告さんを有罪にしようとしても、その被告さんが犯人じゃない時、
 マサ君は絶対に無実を晴らしてくれるでしょ?」
「……何か、信頼されてるんだか何だかよくわからん理屈だな」
「頼りにしてるんだよ……ダ・ン・ナ・さ・ま♪」
 そう言って、美穂は俺の頬にキスをした。
 ……いかん、顔が赤くなっている。今更何を照れてんだ俺は。
「あはは、赤くなったー。可愛いっ♪」
「……うるせー」
「とにかく、そんな頼れる旦那様に今日も頼っちゃうから、よろしくね♪」
「……焦らしまくっちゃる」
「えぇー? マサ君やっぱりいじわるだぁ」
 言葉とは裏腹に、美穂の顔は笑顔のままだ。
 ……愛らしい、俺の大好きな、笑顔。
 好きになっちゃったもんは仕方が無いよな、まったくもう。
 俺の顔にも、つられて笑みが浮かんでいた。
「いっぱい……気持ちよく、してね?」
「……おおせのままに」
 俺の首に手をまわし、抱きついてきた美穂の唇に唇を合わせ、
そうして俺達はもつれるようにベッドに倒れこんだ――


 ちなみに、翌日の法廷はお互いに寝不足でグダグダになり、サイバンチョーに
きついお叱りを受けたりもしたが……まあこれは余談である。
2008年10月04日(土) 20:32:40 Modified by bureizuraz




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