3-347 無題

「風邪引きたい」
仕事から帰ってきたばかりの姉貴と一緒に夕飯を食べていると、姉貴がそんなことを言い出した。
「どうしたの?仕事でいやなことあった?」
少し心配になった俺は姉貴の顔を見ながら訊いてみる。
「ううん、仕事は楽しいよ。みんないい人だし」
「じゃあなんで?」
そう訊くと姉貴は箸を口にくわえたまま、恥ずかしそうにつぶやいた。
「……看病されたい」
「はぁ?」
「かー君に、一日中看病されたい」
「……はあぁぁ……」
心配した俺が馬鹿だった。溜息とともに一気に脱力する。
「朝起きたらふらーって倒れかけるところをかー君に抱きとめられて、
熱が酷いからってベッドまでお姫様抱っこで運んでもらって、
あとは口移しでおかゆ食べさせてもらったり、汗かいたからってタオルで体を隅々まで拭いてもらったり……」
「姉貴?姉貴ー。おーい」
どんどん妄想の世界に入っていく姉貴を必死で呼び戻すが、帰ってくる気配はない。
「それで夜は湯たんぽ代わりにかー君をぎゅってして……」
「いや、それ俺に風邪移るから」
箸でから揚げをつまみながら冷静に突っ込みを入れると、姉貴はさも当然のように
「だから次の日はあたしがかー君を看病するんだよ?」
と言ってのけた。
「ええ……俺今テスト期間中なんだけど……」
そう言うと姉貴はとても悲しそうな顔になり、顔を両手で覆って叫んだ。
「ひどいっ!変態シスコンのかー君ならあたしの風邪の菌もよろこんで貰ってくれると思ったのに!
かー君はあたしのカラダしかいらないんだっ!!」
「ちょ、おかしい!色々なものが間違ってるからそれ!」

その日、風呂場で。
小さなころからずっとそうしてきたように、姉貴と一緒に風呂に入っていたときのこと。
「姉貴、真剣な顔してどうしたの。早く湯船入らないと本当に風邪引くよ」
今俺は、頭と体を洗い終わったのに険しい顔をして一向に風呂椅子から立ち上がらない姉貴を、湯船に浸かりながら眺めていた。
先端から水滴を滴らせる髪や、濡れた肢体がとても色っぽい。
まぁ、大半は姉貴が動くたびにぷるぷると揺れる胸に目がいっているのだが。仕方ないじゃない、男の子だもの。
「むー、風邪を引くためにはここで行水を……でもかなり勇気が……」
「わざと風邪引くような子には看病してあげない」
また妙なことを考えている姉貴にきっぱりと言い放つと、それは大変だとばかりに急いで湯船に飛び込んできた。
「ぶわっ!」
ざぶんと水しぶきが上がり、俺の顔に直撃する。
「あはは。ごめんねえ」
けらけらと笑いながら、姉貴が首に腕を回して抱きついてくる。大きな二つの塊がふにゅっと潰れる感触があった。
「風邪なんて引いたって、得することそんなにないよ?」
姉貴を抱きしめ返しながらそう言うと、耳元でそうかなーと呟くのが聞こえた。
「だって……その、姉貴が行ってた看病の内容……」
「いつもしてる?」
「……うん」
お姫様だっこも、口移しも、体拭いてあげるのも、湯たんぽも。
全て姉貴が甘えてくるときにして上げているものばかりだ。何も体を弱らせてまでする必要はないだろう。
「して欲しいことがあるなら、姉貴が元気な時でもしてあげるよ?」
「かー君はシスコンだもんねー」
「姉貴だってブラコンじゃん……」
「んふふー♪」
なぜかブラコンといわれたことが嬉しいのか、さらに強めに抱きついてくる。体にかかる姉貴の重みが、とても心地よかった。
その後、姉貴の体に対して正直な反応を示している愚息のことをさんざんからかわれたのだが。


「……で」
「風邪引きました……ごめんなさい……」
翌日。目覚ましになったのは、姉貴のひどい咳だった。
抱きしめて寝ているから分かるが、体温がとんでもなく高い。眼も充血していて顔も真っ赤だった。
「はぁ……言霊ってのはこのことかな」
「うう〜、頭痛い〜……」
「はいはい、氷持ってくるから、大人しく寝ててね」
ベッドから起き上がると、手首をつかまれた。
振り返ると、姉貴がうるんだ目でこちらを見ている。目もトロンとしていて、風邪によるものとは言えなかなか反則的な表情だった。
「……できれば昨日言った通りの看病を……」
「姉貴が大人しくしてるかどうかによるかな」
「ぜ、善処します……」
俺は必死に理性を抑えながらそれだけ言うと、姉貴の手をベッドの中に戻し、俺は氷を取りに行った。

結局、この後俺は昨日姉貴が言った妄想の通りのこと+αをしてしまう。
別に理性が負けたわけじゃないぞ、姉貴が大人しくしてたからだぞ。
姉貴の「かーくぅん……」という甘い声に負けたわけじゃないからな!絶対違うからな!
それと、『姉貴の妄想の通り』とは俺が風邪をうつされることもちゃんと入っている。おかげでテストは後日補講。
+αの内容?さあね、ご想像にお任せするよ。
2008年12月07日(日) 00:26:57 Modified by amae_girl




スマートフォン版で見る