3-547 無題

屋上に来てみると、黒いマントに身を包んだ少女がいた。
「わっ!き、来てくれたんだ!?」
「呼んでおいて驚かないでよ。で、何の用?うちの生徒じゃないみたいだけど」
「あ、うん。実は…甘えさせてくれないかなって…」
「…え?」
「私ね、ずっと誰かに甘えたくて色んな人に手紙を出したの。
 だけど怖がって誰も来てくれなかった。私…何十年も独りぼっちだった」
この娘はいったい何者で何歳なんだろうという無粋な疑問は、彼女の悲しい顔に書き消された。
気付いたら僕は彼女を抱き締めていた。とても甘い匂いが僕の鼻を刺激する。
長い間独りだった為だろうか。その体は冷たく震えていた。
「きゃっ、あ、あの…?」
「辛かったよね。僕でよかったらいくらでも甘えていいよ」
「ほ、本当に?じゃあ、もっとギュッてして欲しいな…」
頬をピンクに染めながらの彼女からのリクエスト。もちろんしっかりと応えてあげた。
その後は頭を撫でてあげたり、頬を両手で包み込んであげたり、積極的に甘えさせてあげた。
気付けばもう夕日が沈みかけていた。そろそろ帰らないと。
「僕…もう帰らないと」
「お別れだね…暖かい想い出をありがとう」
潤む瞳に僕自身の顔が映り込むくらいに近付くと優しく彼女にキスをした。
さっき以上の甘い匂いが鼻だけでなく全身を刺激した気がする。
「え、ええ!?あ、あにょ、いや、あの〜」
「お別れじゃないよ。また明日も来ていいかな?僕、もっと甘えてもらいたいみたいなんだ」
「…う、うん!明日も来て欲しい!明日だけじゃなく明後日もその次の日も!」
何が起こったか分からず混乱する彼女が、ようやく僕の言葉を理解してくれたようだ。
涙を撒き散らしながら笑う彼女をまた優しく、そして強く抱き締めた。

早く明日にならないかな。
早く放課後にならないかな。
明日の放課後になれば…甘く香る屋上で彼女が僕を待っていてくれる。
2008年12月07日(日) 00:59:50 Modified by amae_girl




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