4-14 無題

「ねぇねぇはーくん。今川焼食べたい!」
 一は突然そんなことを言い出した隣を歩く彼女を見下ろした。
「今川焼ってお祭りでもないし、屋台もな……」
「あるよ?」
 彼女が指差す先にはあまり規模は大きくなさそうだが、地元の人間に愛されていそうな神社があり、お祭りをしているようだ。
 こんなところに神社が? 見覚えがなくて一は首を捻る。名前を見れば思い出すかと探して読み上げた。
「甘子神社……?」
 聞いたことがない。しかも新すれ祭とはなんだろう。
「ねぇってば! 今川焼食べよーよぅ」
 十二月の寒空のしたで立ち止まっていて辛いのか彼女は急かすように一の腕を引く。
 よくわからないけれど、何だか雰囲気の良い神社だし、今川焼で暖まるのもいいか。なんだかんだ思いつつも彼女の言う通りにしてしまうのが常。
 左腕に彼女の重みとぬくもりを感じながら歩いていく。
 彼女はクリーム。一は餡子の今川焼を買うと、ところどころに置かれたベンチに並んで座った。
 さて食べようとすると、再び袖を引かれる。
「あのね、はいっ半分こ」

15 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/12/01(月) 20:53:03 ID:Dqqq+v0I
 彼女がにこにこと笑いながらカスタードクリームが湯気を上げるそれを差し出す。
 甘い物が大好きなくせに、うまく割れなかったためか大きなほうをこちらに向けていた。
 礼を言って受け取り、同じように半分を渡してやると一層笑みは深くなる。
「えへ、おいしーねぇ……あっ」
 あって何? と聞く間もなく、頬へ柔らかくて温かい感触。
「ついてたよ? 反対側にもついてるかも」
 そう言いながら彼女は再び唇を寄せてきた。触れやすいようにわずかに体をよせてみると、「きゃあ」と嬉しそうな声を上げて首に腕を回してくる。

 世の中案外幸せに溢れているものです。
2009年01月16日(金) 21:52:43 Modified by amae_girl




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