4-192 フリーハグ

192 名前:フリーハグ 〜下校編〜[sage] 投稿日:2008/12/12(金) 20:15:48 ID:vNr29Rm/

「寒いね〜♪」
「ああ…」
学校からの帰り道。
日も傾いて、肌をつんざくような北風が吹いてくる。
「冬の季節の信号待ちってありえないよね〜♪」
「ああ…」
「寒いし、眠いし、暇だし♪」
「ああ…」
その意見にまったくをもって同感である。
冬の寒さが大嫌いな俺はポケットに手を入れたまま、心の中でそう続けた。
口に出して言わなかったのは、発言者が本当にそうは思ってはいないだろうと踏んだからである。
「んで、明日香さん?」
「ん〜、な〜に? お兄ちゃん?」
「どうして俺に抱きついているんだ?」
赤いままの信号機を恨めしく見つめながら、質問する俺。
「え〜、だってやることないし、こうしてると暖かいじゃん」
胸から顔を外し、俺を見上げながら答える明日香。
何を当たり前のことを聞いているの? と顔に書いてあるように見える。
「お前はこんな人目の多い交差点でこんなことして恥ずかしくないのか?」
「全然」
「………」
「あ〜、もしかしてお兄ちゃんってば恥ずかしいの? まったく〜、ウブなんだから♪」
思わずため息がでた俺を気にせずに、明日香はなおもしゃべってくる。
「今はフリー・ハグの時代なんだよ、お兄ちゃん?」
「意味が違えだろ! つーかお前の頭がフリーダムでどうするんだよ!」
「わ、上手い…、さすがはお兄ちゃん」
「感心するな。ほら信号が青になったぞ」
明日香の「あうぅ〜…」という情けない声を無視して、俺の体から明日香をひっぺかす。
そして人目の多いここから早く立ち去りたい一心で、俺は早歩きで横断歩道を渡り始めた。
「置いてくぞ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ〜、お兄ちゃん!」
そんな俺を追いかけて、明日香は後ろから腕を絡ませてきた。
「えへへ〜♪」
満面の笑顔になる明日香。
恥ずかしくて俺はさらに歩くスピードを上げた。


193 名前:フリーハグ 〜宿題編〜[sage] 投稿日:2008/12/12(金) 20:17:06 ID:vNr29Rm/

「んで、明日香さん?」
自分の部屋の椅子に座っている俺が呼びかける。
「ん〜、な〜に、お兄ちゃん?」
俺に顔を近づけて呼びかけに応じる明日香。
「お前、何をしているんだ?」
「えっ、う〜ん…」
しばし考え込んでから、
「え〜と…、対面座位?」
「違う! 形はそうだけど意味は違う!」
「あ、やっぱり対面座位ってこういう格好なんだ♪」
「だ〜か〜ら〜!」
「ん? どうしたの、お兄ちゃん?」
「………」
純粋な瞳で見つめられ、フリーダムな天然ボケにツッこむ気をなくす俺。
それでも、言いたいことはきちんと言わねば…。
「あのさ、宿題をやりたいんだけど…」
「やれば?」
「だから、お前が邪魔で出来ないんだろうが」
「あ、そっか。これじゃ見えないよね。それじゃあもうちょっと頭を下げておくね」
「そうじゃなくて!」
俺の胸に頭をうずめようとする明日香を制し、なんとか説得しようと試みる。
「えーと、なんつーか、目の前に可愛い可愛い妹がいるとなると集中できないっていうか…」
俺の言葉に反応し、顔を赤くする明日香。
思いつきで言ってみたものの、これは効果アリか?
「う、うん。そうだよね。集中できないよね。ゴメンネ、お兄ちゃん」
俺と顔を合わせずに明日香は素直に下りる。
そして、すごすごと俺の後ろ側に立ち去る明日香。
よ〜し、これで集中して宿題に取り組め…、る…?
「明日香さん、何をしているんですか?」
「お兄ちゃんを後ろから抱きしめながら、応援してるの♪」
「はい?」
「これなら『目の前』じゃないから大丈夫だよね? 可愛い可愛い妹が応援してるから頑張ってね♪」
にっこりと微笑む明日香に、言葉を失う俺。
俺、頑張ろう…、いろんな意味で頑張ろう…。


194 名前:フリーハグ 〜夕食編〜[sage] 投稿日:2008/12/12(金) 20:17:57 ID:vNr29Rm/

「今日は父さんも母さんも仕事でいないからという理由で、こうやって『対面座位』をやりたいのはわかった」
「うん、さすがはお兄ちゃん♪」
「だけどな、明日香さん」
一拍おいてから、「なにがおかしいの?」という顔の明日香に疑問を投げかけてみる。
「この状態でどうやって夕飯を食べるんだ?」
「え…、あ、そうだね。ちっとも考えてなかったよ♪」
ちろっと舌を出して、おどける明日香。
なかなか可愛いしぐさをするじゃないか。でもソレとコレとは話が別だぞ。
「わかったら降りてくれ」
「ちょ、ちょっと待って! じゃ、じゃあこういうのはどお?」
「ん?」
「お兄ちゃん。その状態のまま、試しに何かおかずを取ってみて」
言われるがままに明日香の後ろまで手を伸ばし、から揚げを1個つまんでみる。
「それをこっちに持ってきて」
から揚げをつかんだ箸を、俺と明日香の顔の間に持ってくる。
すると明日香は「あ〜ん♪」と言って、ぱくりとから揚げを口に入れた。
「ほら、こうすれば私もお兄ちゃんも食べれるでしょ?」
「つまり俺が明日香の分のおかずも運べ、と?」
「うん♪」
「ダメ、却下」
「えぇ〜、なんでよ〜?」
「そんなことやってたら、時間食うし、面倒臭いだろ」
「そんなぁ〜、お兄ちゃんと『対面座位』で抱き合いながら食べたいよ〜!」
「…お前、それ間違ってもよそで言うなよ?」
俺の言葉を無視して「うぅ〜…」と唸る明日香。
「わかったな?」
「うぅ〜…、わかった、言わない」
「よし、それじゃ、ここから降りて…」
「その代わり、今日はこの格好で晩御飯を食べさせて?」
「は? だから…」
「何がいけないのかは全然わからないけど、この格好で食べさせてくれなきゃ学校で言っちゃうよ?」
「うっ…」
予想外の脅迫を受けて、たじろぐ俺。
明らかに本気の目で俺をにらむ明日香。
この勝負、完全に俺のほうが不利だった。
「くっ…、わかった。俺の負けだ。この状態で食べよう」
「やったぁ♪ それじゃあお兄ちゃん、から揚げをまた食べさせて?」
「ああ…」
俺は明日香のご要望どおり、から揚げをつまみあげた。
2009年01月16日(金) 22:31:09 Modified by amae_girl




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