6-899 姉弟

『トントン、ガチャ』

「姉ちゃん、夜食作って来たぜ」
「おーありがとー」

私は大学受験に向けて勉強中の高校三年生。
今日も夜更かしして受験勉強してた所に弟が夜食を持って来てくれた。
弟はパティシエを目指しているらしく
こうして私にお手製のお菓子を作ってきてくれるのだ。

「はい、今日は大学イモだぜ」
「わーおいしそう、って、パティシエって大学イモも作るの?」
「固い事言うなよ。お菓子には違いないんだから」

パティシエとか言ってるけど、こいつは甘いものが作れればなんでもいいのだ。

「まったくしょうがないわねー、それに大学イモって、もっとオシャレなもの作れないの?」
「スイートポテトにしようかとも思ったけど、ガツッと腹に貯まる方がいいと思ってね」
「…当たってるだけに悔しい」

無神経に見えて、しっかり気を使っている。
ホントに優しい子だ。

「姉ちゃん」
「ん?」
「ほれ、あーん」
「ハァッ!?」

満面の笑みで串に刺さったイモを差し出す弟。
そんな弟を見て思わず素っ頓狂な声を上げてしまう私。
って、夜中なのに近所迷惑だったかな。

「いっ、いいわよ恥ずかしい!」
「遠慮するなって、ほれ、あーん」



引き下がらずに串を持って弟は言う。

「…あーん、ん」

結局私の方が折れて、差し出されたイモを口にする。

「どうですか?お味の方は?」

「…甘くておいしい」
「気に入ってくれたなら良かった」

弟はさらに笑顔を明るくする。
そんな弟の顔を、私は直視出来ない。
きっと顔は真っ赤になってるんだろうな。
無言のまま二人で大学イモを食べ続け、すぐにお皿は空になってしまった。

「…姉ちゃん」
「ん?ッ!?」

食べ終わって口を拭いていた私の頭をいきなり弟は抱きかかえた。
私は何も出来ずに、ただドキドキするばかりだ。

「勉強が大事なのは分かってるけど、あまり根を詰めすぎるなよ。
俺にはお菓子を作るくらいしか出来ないけど、姉ちゃんのこと応援してるんだからさ」

どこでこんな事を覚えてくるんだか。
お菓子作りなんて女の子みたいな趣味のくせに、
いつの間にか男らしくなって。
それとも、ただマセてるだけ?
でも、これだけは言えるかな。



「…他にもアンタに出来ることがあるわ」
「え?」
「そこで私に膝枕をしなさい」
「ハァッ!?」
「応援するんでしょ?ならそれ位してもいいでしょ?」
「別にいいけどよ、食ってすぐ寝ると太るぜ」

…デリカシーのない奴ね。

「だったら食べても太らないお菓子を考えなさい。
あと、受験が終わったらダイエットを始めるから、
アンタも付き合ってよ」
「げっ、マジかよ」「まあ、それはまだ先の話だから、そこに座って」

ベッドを指差し弟に言う。

「ハイハイ分かりました。
どうぞ、お姫さま」

ベッドに腰を下ろして膝を叩く弟。
私も椅子から立ち上がりベッドに横になって弟の膝に頭を乗せる。

「10分休憩したら、また勉強始めるから」
「分かった。それまでこうしてるから、頑張れよ」

生意気でマセた、でも、とても優しい私の弟。
たまにはこんな風に甘えてみるのもいいかな。
でも、こういう事は、彼女にしてあげられるようになりなさいよ。

 おわり
2009年10月28日(水) 21:36:40 Modified by amae_girl




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