『やさしいよるに』のあとのお話です。

※    ※    ※


「…やっと寝たな」
ベッドに肘を突き、隣に横たわるスリスが寝息を立て始めたのを聞いて――アルが小さく溜息をついた。
「今日はちょっと、興奮してましたね、スリスちゃん」
その溜息を聞きながら、ピアニィも半身を起こして苦笑する。いつもなら、横になったらすぐに寝てしまうスリスが、今日ははしゃいでなかなか眠らなかった。
「昼間、雨降ってたからな。外で遊ばせねえと元気が有り余るんだろ…」
小さくいいながら、アルはスリスの紫の髪を撫でた。それを見ながら、ピアニィの口元には――苦笑でない、幸せな微笑が浮かぶ。
「……じゃあ、アル、あたしお風呂に入ってきますね」
そう言って、するりと動揺もなくベッドを降りる。――三人で寝る、というのも五日目ともなると、慣れたものだ。
アルの返事を聞いていないことに気付いたのは、浴室に入ったときだった。アルに確認しようと思いながら振り向いて、…ピアニィは悲鳴をあげかけた。
「…………あ、アルっ!? え、あの、今ベッドに――」
背後に無言で、何の気配もさせずに、アルが立っていた。驚きと混乱で立ち尽くすピアニィに、一歩近づき――
「――アルっ…!? ま、って……」
無言のままピアニィの腕を掴み、狭い浴室の壁に押し付けるようにして――強引なキスをする。
「―――ん、…っ、ふうっ、ん…や、ふぁ…!」
驚き慌てて、声をあげようとした唇を割って、アルの舌が滑り込む。ピアニィの舌に絡みつき、口内で暴れるそれに体の力が抜けかけ――
「―――――――だ、め…アル、やめてっ、ダ、メ……―――っ!」
飛んでいきそうな理性をかき集めて何とか唇を離し、アルを止めようとしたピアニィが――薄手の寝間着を捲し上げられ太腿を撫でられて息を呑む。
アルの手は、止まらない。内腿のあたりの一番敏感な部分を幾度も擦り上げられて、ピアニィの声が震えた。
「――――ぁあっ、や、あ……そんな、だめ、やめ…っ」
大きく声を上げかけて、隣――ドア一枚向こうにはスリスがいることを思い出し、ピアニィは必死に声を抑える。
その胸元に、もうひとつの手が伸びる。薄い寝間着の上からふくらみを探られ、既に硬くなっていた先端を薄布越しに擦られて、ピアニィは大きく仰け反った。
「やぁ…あっ、だめ…っ…あ、るぅっ…スリスちゃん、起きちゃ…う…ぅっ」
切なく溢れる声を精一杯に抑えて、ピアニィは何度も首を横に振った。
アルの指が、ピアニィの内の最も柔らかく潤んだ場所に滑り込んで、蠢く。その刺激に体が跳ね、上げかけた喘ぎを必死で抑えた。
「ふ…ぁぅっ、ん…っ!」
唇を噛みしめて声を押し殺し、ピアニィは眉をきつく寄せる。
壁に背を預けて目を閉じ、ぶるぶると震えて、ピアニィは自らの身を襲う快楽に耐える。…耐えなければならないと、そう思った時。
アルの手の動きが止まり、頬に優しい口付けが触れる。
「―――悪いと、思ってる。だけど、もうどうしようもないくらいに、お前が欲しいんだ。…ピアニィ」
優しい声が、切なく囁く。薄く目を開けたピアニィの前に、懇願するような、ひたむきな瞳で、アルが自分を見つめていた。
「――――あ、る………」
荒い呼吸の下から囁くと、アルは小さく頷いて――ピアニィの唇に、触れるだけの優しいキスを落とした。
―――胸が痛いほどに高鳴る。喉がからからに乾いて、触れられた部分がひどく――切ない。

「………一度だけ…ですよ?」

咎めるような響きをこめて、上目遣いに囁くと、アルは一瞬驚いたような顔をして――ピアニィを強く抱きしめた。
そのまま、室内のソファなりアルの部屋のベッドなりに運ばれるものと思っていたピアニィは、次の瞬間息が止まるほど驚いた。
―――腰に回ったアルの手が寝間着を再び捲し上げ、反対の手が下着を降ろす。
「―――え、や、まって、やあぁ…っ! あ、んっ!」
差し入れられた指が激しく動き、慌ててピアニィは大きく声を上げてしまう。だがアルはそんなことにも構わずピアニィの腰を抱えるように持ち上げた。
「―――しっかり捕まってろ」
囁いたアルが、ピアニィの両腕を自分の首に巻きつけるように導く。訳もわからずしがみつくピアニィの、敏感な箇所に熱いものが触れて――
……抱え上げられていた腰が、落ちて。ピアニィは未知の衝撃と快楽に、声なき悲鳴をあげた。
「――――――――――――………っ!!」
自分の状態が、分からない。下腹部から伝わる強すぎる悦びに、思考が千々に乱れる。必死でアルの首元にしがみつき、気付いた時には、ピアニィの口からはあられもない悲鳴か零れていた。
「―――ぁあああっ、ああ、だめぇっ…! イヤぁ、やああぁっ、ん、…ふ、ぅっ――――」
最後に残った理性のカケラで、必死に声を押さえ込む。揺れる体を支えようと、全身でアルにしがみついた時。
「…………っ、やあっ…!」
―――視界の端に、浴室の壁にかかった大きな姿見が映る。その中に映った自分達の姿から、ピアニィは慌てて目をそらしアルの肩に顔をうずめた。
「いやぁ……こんな、恥ずかしい……よぉっ」
立ったままのアルの腕に抱えられ、壁に背を預けただけの姿勢で貫かれる自分。行為の最中の姿を見てしまった事への背徳感と羞恥に顔を染め、アルの背中に爪を立てる。
「――――けど、きつくなったぞ…? もう、少し……っ!」
ピアニィの腰を抱えるアルの手がわずかに緩み、繋がった部分に重みが集中する。更に一段激しくなった突き上げに、ピアニィは歯を食いしばった。
「ひ、っ―――あ、く…ぅっ、やぁ――――……っ、あ、るぅっ………!」
「――――っ、ピアニィっ……!!」
押し殺した喘ぎと、叫び。内に受け容れた陽物が熱く弾け、絶頂感に震えるピアニィの身を灼いた。
…………数分後。床にふたりで座り込み、アルの首に回したまま硬直しかけていた腕を解いて、ピアニィは小さく囁いた。
「……………………あるの、ばかぁ……っ」

―――翌日。
朝食後、警備隊の鍛錬に参加しようと廊下を歩いていたアルを、スリスが呼び止めた。
「あのね、アル。あたし、きょうはひとりでお部屋でねるね」
「………大丈夫なのか?」
思わず問い返すと、スリスはにっこり笑って頷いた。
「うん。だってもう、5歳だもの。おねえさんだよ」
無邪気な笑顔につられて笑いながら、アルはスリスの頭をくしゃりと撫でた。
「そうか。………寂しくなったら、言えよ」
「へいき。ナヴァールに、いいこと教わったの」
―――ぴくリ、とアルの頬が引きつる。
「………旦那に?」
「うん。子どものいるねどこには、コウノトリが来ないんだって。アルとぴあにぃのところにコウノトリが来たら、あたしおねえさんだもんね」
「―――――――………」
もはやどこから突っ込めばいいのかわからない内容を明るく口に出されて、アルはその場に石と化した。

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